こんばんは、紫栞です。
今回は、映画『この子は邪悪』を観たので、感想を少し。
『この子は邪悪』は2022年9月に公開された映画。
オリジナル作品の企画コンテスト「TSUTAYA CREATORS’PROGRAM FILM 2017」での準グランプリ作品を映画化したもの。このコンテストでは今までに『嘘を愛する女』や『哀愁シンデレラ』などが輩出されているようです。
そして、世界三大ファンタスティック映画祭の一つである、第42回ポルト国際映画祭で「審査員スペシャルメンション」を獲得したとな。
浅学なもので、私はこのコンテストも映画祭もよく分らないのですが、小説や漫画を原作としているものが多い中、完全にオリジナルで頑張っている(?)作品だということですね。
CMの雰囲気や、タイトルの「この子は邪悪」に興味をそそられる人が多かったのではないでしょうか。仮面をかぶっている女の子がインパクト大。
私もそのうちの一人で、アマプラで見放題対象と知って観てみた次第です。
あらすじは、
5年前、心理療法室を営む窪司朗の一家は遊園地で交通事故に遭った。司朗は脚に障害を負い、妻の繭子は植物状態に、次女の月(るな)は顔に酷い火傷を負ったため仮面をかぶって家に引きこもっている。
長女の花は大きな怪我は負わなかったがショックでふさぎ込み、学校に通わず家で家事をしながら日々を過していた。
花は、自身の母親の心神喪失の原因を探っている少年・四井純と知り合い、次第に打ち解けていく。どうやら町では純の母と同じような状態になる人が多発しているらしい。
そんなある日、司朗が「奇跡が起きた」と言って植物状態から目覚めた繭子を連れて帰ってきた。
奇跡に感謝し、皆で五年ぶりの一家団らんを楽しむが、花は一人違和感を覚える。
繭子は5年前と顔が変わっていた。5年間寝たきりだったのと整形手術を受けたためだと司朗は言うが、花はどうしても“この人”がお母さんだとは思えない。
さらに、純から妹の月についてもある疑惑を突き付けられ――。
と、いったストーリー。
主人公は長女の花(南沙良)。花の視点で、「家族が別人にすり替わっているのではないか?」という疑惑から展開されていく、終始不気味さが漂う物語となっています。
ホラーテイストですが怖すぎず、長さは1時間40分で映画としては観やすい。PG12指定がついているので気まずいシーンやグロいシーンがあるのか気になる人もいるでしょうが、そういった直接的なシーンはありませんので御安心を。PG12がついているのはおそらく倫理観的な問題でしょうね。
「予想外のストーリー」「想定外のラスト」「世にも奇妙な謎解きサスペンス」「ありえない」などなど、露骨だが惹きつけられてしまう宣伝文句がポスターやCMで躍っている。
“謎解きサスペンス”は微妙なところですが、それ以外は宣伝文句に偽りなしです。予想できるはずのない、想定外の真相と結末で、世にも奇妙な“ありえない”事が起こる。
良くも悪くも、とにかく驚くのは確実の映画です。
以下ネタバレ~
高校生の四井純(大西流星)の母含め、明らかに気がふれているといいますか、様子のおかしい人たちが次々に映し出されていく導入部分は気味が悪くって興味をそそられます。「いったい、この町で何が起こっているの?」と、具体的な説明がなくとも伝わってくる。
そこまでお喋りが多くなく、淡々と進んでいきますが、ホラーミステリ的な得体の知れなさでどうなるのかが気になって退屈はしない。
高校生の少年が町での不可解な事象を調べていくうちに司朗(玉木宏)の心理療法室にたどり着き、その家の娘・花と打ち解け、一家の疑惑と町での謎を探っていくというのは都市伝説っぽさがあって良い。花の家族も奇妙さが絶妙。
この手の物語なら警察や学校が通常出て来るものですが、この映画では省かれています。花の一家と純くんの一家(※純くんの家は、おばあさんと心神喪失状態の母との三人暮らし)のみ。「家族」以外の“外の人達”はあえて登場させない、どこまでも“内側”、小さい共同体にだけ向いている物語ですね。
現実的には窪司朗は心理療法室を営んでいるのだから町の人と交流があるはずだし、事故以来娘をずっと学校に通わせていなければ学校側から定期的な様子見などあるだろうし、こんな事件が起これば警察が介入してくるのが当然なのですが、この映画では必要がないのであえてバッサリ切っているのかと。
違和感はありますが、ごく限られた登場人物だけで成立させているのは的が絞られていて観やすい。
こんな感じに、中盤まではホラーミステリとしていい感じの雰囲気で進行していく。
しかしながら、途中から父の司朗が催眠術を多用している描写が出てきて「あ、催眠術ですか・・・」ってなる。
催眠術ってなると、何でもありになってしまいますからね。本格推理ものでは基本的に催眠術はタブー視されていますし。宣伝文句にあった“謎解き要素”が一気に怪しくなってきたぞ・・・と、微かに不安に。
そんな私の微かな不安は終盤でより増大し、爆発させられます。ラストに明かされる真相はもっと予想の斜め上をいくものでした。
なんと、司朗は催眠術を突き詰めた結果、魂を交換することが出来るようになったというのです。
いや、なんでよ。
そんなのもはや催眠術じゃなくって魔法じゃん。
心理療法室ではウサギをいっぱい飼っているのですが、このウサギたちと虐待をしていた人とで魂を入れ替えていたと告白。え?じゃあ、あの心神喪失者たちの中身はウサギで、心理療法室にいるウサギたちの中身は人間ってことですか・・・。いっぱいいるんですけど、ウサギ。
交通事故で壊れてしまった家族の幸せを取り戻すべく、実は事故で死んでしまった次女・月の魂を、虐待を受けていたよその女児の身体に入れ(※娘に仮面をかぶらせていたのは花に気がつかせないため)、植物状態だった繭子(桜木梨奈)の魂と虐待癖がある女性(桜井ユキ)の魂を交換した。
別人だと思われていた二人ですが、中身は本物だったのですね。
でも、そんなの「ありえない」し、「おかしい」よ。歪な家族の再編のためという司朗の勝手な都合で、何人も犠牲になっていますからね。
タイトルの「この子は邪悪」は、最後の赤ちゃんのところでやっとわかります。個人的に、「邪悪」で片付けてしまうのは釈然としませんが。
とんでもない能力を持っている男が、家族愛を暴走させてしまった結果の物語って訳ですね。
ホラーミステリを装ったファンタジー。よくよく見ると、上記したポルト国際映画祭もファンタジー部門での獲得なんですよね。やられたわ。
「思っていたのと違う」ってなる人や、真相を聞いて笑っちゃう人もいるかと思います。まともに謎解きに挑んでいた人も怒るでしょうね。
このとんでもない設定で、中盤までのよさげな雰囲気は消し飛ぶなぁと。
私も驚きましたし、突拍子のなさに呆れもしたのですが、「世にも奇妙な物語」として捉えれば、こんな「家族」の描き方もありなのかなとは思います。
最初からずっとどう見ても父親が怪しくって、そのまま全ての元凶だよ~っていうのはもうちょっと捻りが欲しかったですが。まずキャストが怪しいんよ・・・。
登場人物たちの行動や心情に一貫性がないのも気になりますね。ストーリーに合わせて無理やりキャラクターを動かしているように見えてしまう。ノベライズだとそこら辺も書かれているのですかね。
純がひたすら気の毒だなっていうのと、純のおばあさん(稲川実代子)が殺されるところを棒立ちで見ている三人には「オイオイ・・・」でしたね。止めなさいよ。
「虐待」を物語に絡めているのも唐突な印象。人物の過去描写などで説得力を持たせて欲しかったですね。
真相を聞かされていた最中、父親に対してあんなに反発していたのにラストでは三人で優雅にお茶しているのが解せない。これから生活どうするのだろう・・・花は純のことどうでもやさげになっているし。酷くない?
いろいろツッコミどころはありますし、トンデモ設定を使うなら使うで細部をもっと上手く出来たのではとか思いますが、良いなと思うところも多くて私は“嫌いにはなりきれない”映画でした。
一味違う映画を楽しみたい人は是非。
ではではまた~