夜ふかし閑談

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『カエルの小指』ネタバレ・感想 あの「カラスの親指」続編!

こんばんは、紫栞です。

今回は道尾秀介さんの『カエルの小指 a murder of crows』をご紹介。

 

カエルの小指 a murder of crows

 

あらすじ

詐欺師から足を洗って十数年。前職で培った口の上手さを使い、実演販売士としてなんとかまっとうに、嘘のない人生を生きることができるようになった武沢竹夫。

そんな武沢の前に、「実演販売を教えてください」と中学生のキョウが現われる。なんでも、天才キッズを発掘する番組に実演販売のパフォーマンスで応募し、賞金を勝ち取りたいのだという。どうしてもお金が必要だと。

キョウの過酷な事情や今現在おかれている状況、自分に依頼してきた理由を聞き、協力することにした武沢。だが、実演販売の特訓をする日々の中で、キョウにとってさらに残酷な事実が判明する。

 

詐欺師から足を洗ってから、もう妙なことには絶対に巻き込まれまいと決めていた武沢だったが、耐えがたい“仕打ち”と“不公平”を突き付けられたキョウのため、かつての仲間たちである、まひろ、やひろ、貫太郎らと再集結。皆でテレビ番組を巻き込んだ派手なペテンを仕掛けようと画策するが――。

 

 

 

 

 

 

 

 

カラスの親指、続編

『カエルの小指』は2019年に刊行された長編小説。2008年に刊行され、2012年に映画化された道尾秀介さんの代表作の一つ、カラスの親指の続編小説です。

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 前作から10年以上経ってから続編小説を出してくるとは思ってもいなかったので、まったくのノーマークでした。続編が出るようなお話とも思っていませんでしたしね。当ブログで『カラスの親指』を紹介するために調べている最中に知り、慌てて購入した次第です。

基本、作者の道尾秀介さんは続編を書かないのが常なのですが、「あいつら」に再び会いたくなったのと、『カラスの親指』での“ある人物”のペテンがその後どう作用したかを描かないと物語として真の意味で終われないという想いがあったからとインタビューで語られています。

こう聞くと「ああ、なるほどなぁ」と続編が出たことにも納得。

 

 

物語の舞台は、『カラスの親指』での出来事から十数年ほど経った設定で、リアルタイムとほぼ同じ。主役はそのまま、前作でも主役だった武沢竹夫で、前作で“ある人物”のおかげで完全に詐欺師から足を洗うことが出来た武沢は現在、「自分の長所は口の上手さしかねぇ」ってことで、実演販売士として大儲けとまではいかないまでも、そこそこ安定した生活を送っています。ちなみに独身独り暮らし。前作でペテン仲間だったまひろ、やひろ、貫太郎とは交流が続いていて、時折会ったりしているという日常。

 

堅気として、厄介事には首を突っ込まずに静かな生活を心掛けていた武沢ですが、謎の中学生・キョウが現われ、結局お人好しな武沢は困っている中学生をほっとけなくなって面倒事に首を突っ込むこととなる。

結果的に「もう一度だけ」と、派手なペテンを仕掛けることにした武沢は、まひろ、やひろ、貫太郎、そしてキョウとテツに協力してもらい、テレビ番組を利用した大仕掛けを開始するのでした。して、その結末は如何に。

 

前作の『カラスの親指』を読まなくても今作は支障がないように描かれてはいますが、プロローグの、皆で“ある人物”の墓前に立ち、お伺いを立てるところなど、前作を知っている人にとっては感慨深いシーンが目白押しなので、やはり前作を読むか映画を観るかしてから今作を読むのがオススメですね。

 

些細な疑問点が提示され、数ページ後に明かされるといったことが繰り返される構成になっていて、飽きずに一気読みさせられてしまう作りが巧い。もちろん、今回も最後には読者を驚かせる大仕掛けが待っており、また綺麗に騙されること間違いなしの作品になっています。

 

 

 

 

 

 

※以下、前作『カラスの親指』のネタバレを含みますので注意。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テツ

他、前作のメンバーが現在どうなっているのかというと、まひろは現在三十一歳。ファストフード本社勤務で独身独り暮らし。十代の頃に自分の容姿を利用して男性を油断させた隙に、財布をスってトンズラするということを繰り返していたため、自分の過去の行いの罪悪感から、男性に好意を寄せられても遠ざけてしまうようになってしまっているのですが・・・ま、今作ではまひろのそこら辺の恋愛事情にも触れられています。

猫のチョンマゲ(トサカ)もまだ健在で、まひろが飼っています。まだまだ元気なようで、猫としては結構な長生きですかね。

 

今作を読み始めるとまず、「テツ」という名前がチラホラしていることに「おや?」と、なる。テツに聞いてみようとか、テツが暮らしているとか、今現在も当たり前に交流があるように出てくるので、前作からの読者は「え?でもテツさんはもう・・・」って、なるのですけど、これは実は、やひろと貫太郎の子供である小学六年生の鉄平のことです。

 

やひろは現在三十八歳。前作で交際関係にあった貫太郎と結婚して、一児をもうけたという訳ですね。貫太郎はマジックグッズ製造メーカーで働いていて、やひろは専業主婦。夫婦になって十年以上経っても二人の妙ないちゃつき具合は相変わらず。

貫太郎は性機能障害だったのですが、前作での騒動の後、一夜だけ完全復活したとかで、その時出来た奇跡の子が鉄平なのだとか。(その後、貫太郎の性機能障害がどういうことになっているのかは不明)

 

このテツが小学六年生ながら動画投稿サイトで小遣いを稼いでいるという、インターネット全般に超絶詳しい少年でして。今の御時世、ペテンを仕掛けるにもサイバー関連知識や技術は必須。そっち方面に関してはまったく詳しくない大人たちは、テツにほぼおんぶにだっこ状態で頼りきりとなる。

ペテンを仕掛けるのに小学生を巻き込むのはどうかなとは思いますが、計画を進めていくなかでテツは何度も機転を利かせて窮地を救ってくれます。テツ自身も自分の何やらわからぬ才能の開花を自覚し、驚愕している。大カラスだった「テツさん」の才能が、隔世遺伝で孫に受け継がれたということなのか・・・。

テツさんが大カラスだったことや、ましろとやひろの父親だったことはいまだに武沢しか知らないので、他のメンバーはテツの活躍ぶりに訳も分からず唯々驚くばかりですね。自分が親だったら、息子のキレキレっぷりに怖くなるレベル(^_^;)。それこそ天才キッズ発掘番組に出てみれば?って感じ。

 

 

 

 

 

キョウ

テツだけでなく、依頼人・キョウも中学生ながら非常に頭の回転が速い子供です。今作は子供の活躍が目立つものとなっていますね。

 

十五年前、まだ詐欺師をしていて、テツさんやましろたちと会うよりも前に、武沢は成り行きで一人の女性の自殺を止めた。その女性がキョウの母親である寺田未知子で、死のうとしていたのは妊娠した直後に交際相手の男に絶縁を言い渡されたから。この時お腹の中にいたのがキョウで、武沢が自殺を思いとどまらせたからこそキョウはこの世に生を受けることが出来た。母から話を聞き、武沢に感謝していたキョウでしたが、母親の未知子がナガミネという男に欺され、大金を奪われて祖父母の店が倒産。口論の末に未知子はナガミネを刺し、キョウの目の前でショッピングセンターの三階から飛び降りた。しかも、その飛び降りた際の映像は動画サイトに投稿され、今もネットで出回り続けている・・・。

立て続けの不幸の連鎖に、キョウは「こんな世界に産まれたくなかった。責任をとってくれ」と、武沢の元を訪れた。

未知子は殺してしまったと思いこんだようだが、どうやら一命を取り留めたらしいナガミネは、自分の詐欺が露見しないように「通り魔に刺された」と警察には嘘を述べてトンズラをしたようだ。ついては、ナガミネを見つけだすために探偵社に依頼するお金が欲しいから、テレビ番組に出て賞金を稼ぎたいので協力してくれと。

 

 

武沢の立場からすれば、キョウにこんなことを言われてもとばっちり以外の何物でもないのですが、突っぱねることも出来ずに協力することに。

しかし特訓する最中、武沢が謎の男たちに襲われたり、格安の探偵社が「ナガミネは刺された傷が元で既に死んでいる」と嘘の報告をしてきたことや、武沢のアパートに盗聴器が仕掛けられていたことが発覚。

どうやらトンズラしたナガミネはグループで詐欺をしていて、自分をこれ以上捜させないようにキョウを見張って色々な小細工をしていたようだと知り、「馬鹿にしやがって」っと、ナガミネの詐欺グループ相手にペテンを仕掛け、諸々の金を取り返すことを計画する。

 

前作では各々の過去の清算のためのペテン計画でしたが、今作はすべてキョウのためのペテン計画。武沢の声かけで皆がキョウのために計画に参加する。

どうしてキョウのためにこんな危ない大仕掛けをしようと決めたのかと訊く貫太郎に武沢は、

 

「俺がこんなことやってんのはな・・・・・・昔、ある男に世話になったからだ。その男が死んじまって、恩返しができねえから、もらった気持ちを受け渡すしかねえと思って、それをいまやってる」

 

と、答える。

つまり、前作でテツさんが自分たちのためにしてくれたことを、今度は自分がキョウのためにしようという。テツさんがしてくれたことの受け渡しをしようという想いからこの度のことを計画したと。

はたして、大カラスだったテツさんのように鮮やかに出来るものかどうか。武沢たち六羽のカラスたちによる大仕掛けのペテンの顛末やいかに。

 

 

 

 

 

以下、今作の結末部分ネタバレを含みますので注意。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五羽と一羽

 

五羽はずっと、一羽を上手く欺しているつもりだった。ところが実際には、その一羽が五羽を欺しつづけていた。自分の目的を果たすために。

 

前作でのテツさんを真似て、大仕掛けの大胆な方法でキョウを欺していた武沢たち五人ですが、キョウはキョウで武沢たちに自分の本来の目的を意図的に伏せて欺していました。双方で欺し合っていたことに気づかず、そのせいであわや取り返しの付かぬ事となりそうだったが・・・・・・なんとか回避する。

 

言ってしまえば、仲間内で欺し合った末にすれ違ういう、なんともお粗末な結果。やはり、大カラスだったテツさんの鮮やかなペテンには遠く及ばないようです。

しかし、今回のことが無駄だったのかというとそんなことはなく。しっかりとキョウにとって前向きな方向に事態は進みます。

滑稽なことになった武沢たちのペテンですが、自分のためにここまで気を配って大がかりなことをしてくれる人がいるのだという事実は、キョウにとっても「この世界もそう悪くはない」と思えるきっかけとなったのではないかと。本物の父ガエルの背中に乗ることもできたしね。

 

しかし、二転三転してのダマシにはやはり驚かされました。まひろがナガミネに惹かれる場面など、妙にソワソワしてしまいましたが、真相を知って「な~んだ。良かった」と安心した。前作での劇団の人を出してくるとは意表を突かれた感じ。

キョウの父親は誰だという疑いに関しては、私は武沢を信じていたので、「まぁ、そうだよな」と。皆、武沢の人間性をもっと信頼してあげて(^_^;)。

タイトルの意味付けは前作ほどしっくりくるものではないかなぁ。やっぱり前作のタイトルからの当てはめ感は拭えない。

個人的に、テレビ番組の裏側とか詳細に関しての描写は物足りなさを感じますね。実演販売のノウハウ話は読んでいて面白かったですけど。

 

ナガミネの詐欺グループが野放しのままなのはちょっと気になるところ。かつてのことがあるから、武沢がどうこうしないというのは納得するところではありますが、警察が捜査しているとか、壊滅の兆しがありそうだぐらいのことはあって欲しかった。

ましろの恋愛のこととか、キョウの母親である未知子のことも結末はぼかしていますね。ま、ここら辺のことは読者の想像にお任せが良いのだろうなと思う。

 

何はともあれ、武沢たちの物語がまた読めたことは読者として思いも寄らぬ嬉しさでした。

『カエルの親指』でのテツさんの大仕掛けがあったからこそ、今の武沢たちがあり、キョウの人生の手助けが出来た。テツさんの仕掛けは十年以上経った今でもしっかりと作用し、後の者たちを生かしている。

 

「人間は、どこから来たのかじゃなくて、どこへ行くのかが大事」

 

この事実をもって、『カラスの親指』は本当の完結だということですね。月日が経ったからこそ知れる本当の“完結”。やはり感慨深いです。

 

これで前作のキャストのまま映画化してくれたらより一層感動するのですが・・・前作が込み入った話ですし、続編としてやるのはやはり難しいですかねぇ。期待したいところですけど。

 

 

カラスの親指』を読んだ人、映画を観た人は是非。

 

 

カエルの小指

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ではではまた~

 

 

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