こんばんは、紫栞です。
今回は、映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』について少し。
こちら、2019年に公開されたクエンティン・タランティーノ監督作品。レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットの初共演作品です。
90年代の終わり頃を代表するハリウッドの二枚目俳優のお二人。日本でも「レオ様派」「ブラピ派」と大いに騒がれていた時代を知っている人間としては、このお二方が映画で共演しているだけで胸熱。最初に映画情報を知った時は「すごーい!!」ってなりましたね。
キャストもですが、題材にしているものに興味もあったのでずっと観たいと思いつつも観られていなかったのですが、この度やっとこさ観られたので感想と解説をしたいなと。
第77回ゴールデングローブ賞で、作品賞(ミュージカル・コメディ部門)、脚本賞、助演男優賞を獲得。第92回アカデミー賞でも助演男優賞と美術賞を獲得していて、非常に評価の高い作品なのですが、日本ではいまいち知名度が低め。
公開期間や本数も関係しているのでしょうが、私が思うに、一番の原因は今作が日本では馴染みのない事件を題材に扱っているからだと思います。アメリカやイギリスでは常識的に知られている超有名な事件なのですが、その事件を知らない人がこの映画を観るとチンプンカンプンで「よくわからない」ということになる。予備知識が必要な映画なのですね。
コメディなので知らなくても楽しめるは楽しめるのですが、題材になっている事件内容を知っておくと何倍も面白くなる映画です。
あらすじ
俳優のリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と、リックの専属スタントマンで親友のクリフ・ブース(ブラッド・ピット)。
かつてはテレビの西部劇で活躍し、ロサンゼルスの豪邸に住まうリックだったが、ピークを過ぎ、時代に取り残されて今や落ち目の俳優に。必然的にクリフもスタントの仕事が出来ず、嘆くリックを励ましながら世話係と雑用をこなす日々を送っていた。
そんな最中、隣に新進気鋭の映画監督ロマン・ポランスキー(ラファエル・ザビエルチャ)と妻で女優のシャロン・テート(マーゴット・ロビー)が引っ越してくる。自分とは対照的に華やかで将来有望な夫妻を目の当たりにし、リックは乗り気ではなかったイタリアでのマカロニ・ウエスタン映画出演を決意するが――。
物語の舞台は1969年のハリウッド。今作の背景にあるのは1969年に実際に起こった「シャロン・テート事件」です。
シャロン・テート事件とは
シャロン・テートは1969年8月9日にロサンゼルスの自宅で夫であるポランスキーの留守中、3人組の男女に襲撃されて友人達と共に惨殺されました。シャロンは当時26歳で妊娠8か月。仕事も私生活も順風満帆だった中での突然の悲劇でした。
犯人の3人組はチャールズ・マンソンの信奉者達である「マンソン・ファミリー」のメンバー。チャールズ・マンソンはヒッピー達を集めてコミューンを築き、カルト指導者として様々な犯罪行為をさせていました。
この家の襲撃もマンソンが命じたもので、ポランスキー夫婦の前にこの家に住んでいた人物への当てつけ、憂さ晴し的凶行であり、シャロンも友人達も全く接点がないにも関わらず殺されたというあまりに酷い犯行内容。
事件はセンセーションを巻き起こし、「チャールズ・マンソン」という名はシリアルキラーとして広く知られるように。
海外ドラマシリーズの『クリミナル・マインド』でよく出て来る名前の一つですね。私もそれで知っていたんですけど。
この映画ではマンソンと“ファミリー”であるヒッピー達、実行犯の3人組も実際の事件のままに登場しています。シャロンとポランスキー、その友人達も実名で登場。
ですが主の二人、リックとクリフは実在しない架空の人物。(※モデルにした人物はいたらしく、リックはバート・レイノルズ、クリフは彼のスタントマンだったハル・ニーダムとのこと)
事件を背景にはしていますが、この映画はあくまでリックとクリフを中心として展開されています。ポランスキー夫妻とは車ですれ違いざまに見かけるのみで、家が隣同士なものの、リックたちと夫妻とは直接的なやり取りはありません。
物語の大半はリックが俳優業に向きあっている姿が描かれる。合間合間にクリフがマンソン・ファミリーのヒッピー達が集まっている牧場に偶々訪れるシーンや、シャロンが自身の出演している映画を観に行くシーンなどが入っています。
情緒不安定で泣き虫で人間味溢れるリックは憎めないし、いつも飄々としていて戦闘能力バツグンのクリフはひたすらカッコイイ。正反対で立場の差もある二人の友情関係がまた面白いです。これをディカプリオとブラピでやっているってのが色々と強い。
シャロンは明るくてキュートで純真無垢に人生を謳歌している、光り輝く女性として描かれています。まるでお伽噺のお姫さま、ヒロインって感じですね。マーゴット・ロビーがイヤミなく、魅力的に演じています。
以下ネタバレ~
ハリウッドのお伽噺
コミカルに話が進みつつも、一方で不穏な空気も漂う今作。事件内容を知っている鑑賞者からしたら、シャロンの溌剌とした姿が描かれるほど、その後の展開を思って暗い気持ちになってしまう訳です。
ですがですが、この映画はラストの13分で予想外の展開をしてくれる。
ポランスキー邸への襲撃前に車で待機中、リックにどやされた犯人たちは予定を変更。ポランスキー邸への襲撃前に隣家のリックのところにも襲撃して殺害しようとするんですね。犯人たちはクスリでラリっているので、見境なしになっていると。
しかし、その時リック邸には戦争の帰還兵で戦い慣れしているクリフと、クリフのお利口で凶暴な飼い犬が。さらには家の中に火炎放射器まであるダメ押しっぷりで、武器を持ってカルト信仰を胸に意気揚々と襲撃してきた犯人たちは手酷い返り討ちにあう。
かくして、「シャロン・テート殺害事件」は起こることなくこの映画は幕を閉じる。実際の事件を背景にしながら、実話と違うラストが用意されているのです。
タイトルの「ワンス・アポン・ア・タイム」は、「むかしむかし・・・」と、お伽噺の冒頭で使うもので、お伽噺そのものを表す言葉として用いられるそうです。
つまりこの物語は、“ハリウッドのお伽噺”なんですね。
ハリウッド史上最も忌むべき事件を、架空の人物を登場させることで回避して、悪党を成敗させちゃう。
映画の中で犯人たちを嘲笑い、コテンパンにして恨みを晴らしている訳です。タランティーノ監督なりのハリウッドへの愛を叫んだ夢映画ってところでしょうか。映画の中でなら滅茶苦茶にやっちまっていいんだなぁと、なにやら感心してしまいますね。
なので、バイオレンスでド派手でエンターテインメントなラストの13分は予備知識がある人ほど痛快さを味わえます。暴力描写が苦手な人は顔をしかめるでしょうし、実際PG12指定なんですけど、それでもやっぱりスカッとする。もう本能的に。
私はグロいのが苦手なのですが、この映画は平気でしたよ。なので苦手な人もそこまで怖がる必要はないかと。
「す、スゲー」ってなった(^_^;)。最高なラストだなぁと。二人の友情も続きそうで安心した。ハッピーエンドですね。
事件関係者の他、スティーブ・マックイーン(ダミアン・ルイス)、ブルース・リー(マイク・モー)、など、実在の映画スターたちも登場していて、60~70年代を知る人にとっては美術や音楽などでもノスタルジーに浸れると思います。
ブルース・リーはシャロンに武術を教えていたらしく、その繋がりもあって登場させているのだと思いますが、作中のブルース・リーの滑稽な描き方については批判の声もあったようですね。確かにコメディとはいえ、他の人物同様にもうちょっと敬意を払うべきだったのではと思う。
どのキャストもハマっていますけど、子役の女の子(ジュリア・バターズ)が役柄含め凄くカワイイ。8歳の子役にたしなめられたり励まされたり褒められたりしているクリフがこれまた面白いです。
2時間40分と大分長く、全体的にとりとめのないストーリーなのですが、不思議と何回も観たくなる映画ですので少しでも気になった方は是非。
ではではまた~