夜ふかし閑談

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【御手洗潔シリーズ】スピンオフ三作品、まとめて紹介!

こんばんは、紫栞です。

今回は島田荘司さんの御手洗潔シリーズ】のスピンオフをまとめてご紹介。

 

御手洗潔シリーズ】御手洗潔を探偵役に、主に石岡和己がワトソン役として語り手を務めるシリーズ。

 

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スピンオフとはいうものの、【御手洗潔シリーズ】の場合は探偵役である御手洗がシリーズ途中で北欧に渡ってしまうため、物語りによっては御手洗の出番が電話のみだったりと極端に少ないものだらけだったりしますし、視点がほとんど事件関係者のもので構成されているものも多いので、御手洗が主役だとハッキリ言えるもの自体が実は少ないのですが、ここでは御手洗潔が事件解決に直接関与していない長編をスピンオフとして三つまとめたいと思います。

 

 

 ●「龍臥亭事件」

 

 あらすじ

作家の石岡和己は、突如訪ねてきた二宮佳世という女性の心霊じみた相談事にのって共に岡山まで悪霊払いに行くこととなる。二人は霊に導かれるように山中に深く分け入り、「龍臥亭」という旅館に辿り着くが、そこで次々と恐ろしい殺人事件が発生。村人は、これは「村の業」「因縁」「30人殺しの男の亡霊」の仕業だと言うのだが――。

 

こちらは平成7年(1995年)の出来事という設定で、御手洗が日本を去ってから1年半が経過した頃のお話。主役は御手洗の助手的存在で友人である石岡和己

この時の石岡君は御手洗との共同生活ですっかり劣等感の塊になっていたところに、とうの依存していた御手洗に去られたとあって、すっかり意気消沈して卑屈となり、鬱々とした毎日を過しておりました。つまり、石岡君の“一番ダメだった時期”ですね。

 

自分がそばにいると石岡君を駄目にしてしまうと悟って馬車道のアパートから去った御手洗。事件に遭遇し、「自分なんかの力ではどうしようもない」と御手洗に頼る石岡君に、御手洗は手紙で「君なら出来るはずだ。自身を持って頑張れ」と突き放しつつもエールを送る。戸惑いつつも石岡君は事件を止めるべく向き合い始め、事件の真相に迫る・・・と、いう訳で、「龍臥亭事件」は“石岡君のリハビリ話”と捉えられるものになっています。

 

文庫だと上下巻で、二冊合わせると1000ページ以上。お話は史実の「津山30人殺し」を大胆に取り入れたものになっていて、

 

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この史実を語るのにかなりのページ数を使い、詳細に描かれています。大量殺人の詳細とあって、読んでいると気分が悪くなるほどですね。

推理小説をというよりは、「津山30人殺し」を描きたいのだなという感じですね。作者としては犯人の都井睦雄に対し、世間で思われているようなただの好色殺人鬼ではないという風に示したいのでしょうが、島田さんの文章を読んでも結局都井の好色なところが目立ってしまって、個人的には同情するような気にはとてもなれない。大量殺人はどう考えてもやっぱり身勝手ですしね。

 

謎解き部分はいつもの島田節が炸裂していますので、御手洗が不在とはいえ島田作品ファンとしては満足できるお話だと思います。

 

御手洗が日本から去った後の石岡君にとっての心の清涼剤・犬坊里美はこの事件が初登場。

続編として、「龍臥亭事件」から8年後に起こった事件を描いた「龍臥亭幻想」があり、

 

 

こちらは島田さんの別シリーズ【吉敷竹史シリーズ】とのクロスオーバーになっていて、御手洗と吉敷さんで事件を解決させるというスペシャルな代物になっています。(御手洗は電話での登場ですけどね・・・)

私は【吉敷竹史シリーズ】は未読なのでよく分からなかったのですが、吉敷さんの奥さんについても重要なことが書かれていたようなのでファン必見な作品ですね。

 

 

 

 

 

 

 

 ●「ハリウッド・サーティフィケイト」

 

 あらすじ

ハリウッドの有名女優であるパトリシア・クローガーが惨殺され、その様子が映されたフィルムがロス市警に送られてくるという事件が発生。発見された彼女の死体からは子宮と背骨が奪われていた。

次の犯人の標的はパトリシアの親友で女優の松崎レオナではないかと噂されるなか、レオナは亡き親友の無念を晴らすため独自に犯人捜索を開始するが、そんなレオナのもとに女優志望のジョアンが訪れる。ジョアンの身体には手術痕があり、子宮を何者かによって摘出されたらしいのだが、記憶喪失のため自分が一体何をされたのかまったく分からないという。

パトリシア・クローガー事件との奇妙な符合を覚えたレオナは、女優志望のジョアンの面倒をみることを決めるが――。

 

 

こちらの主役は暗闇坂の人喰いの木」「水晶のピラミッド」「アトポス」(※この三作品はレオナ三部作などとも呼ばれる)などの作品に登場する女優の松崎レオナ

レオナは頭脳明晰・容姿端麗で身体能力も高い、と、設定が盛りに盛られた人物。レオナを前にすれば誰もがひれ伏すのが当たり前。しかし、レオナが想いを寄せる御手洗にはてんで相手にされない・・・てな、ヒロイン。

 

この事件は平成8年(1996年)に起こったという設定で、レオナはこの時およそ33歳。渡米して成功を収め、ハリウッドで五本の指に入る有名女優になってから少しの年月が経ったころですね。

盛りに盛られた設定と能力が高いが故の傲慢さが目立つせいか、作者も認める“嫌われヒロイン”のレオナ。(私は個人的に【御手洗潔シリーズ】に登場する女性のなかではまだ好きな方なのですが・・・)

今作では主役となって大活躍する訳ですが、「アクション映画でもそんな無謀な行動しないだろ」という無茶苦茶な捜索方法ばかりをとります。その結果、男に襲われて殺されそうになることの繰り返し。「いい加減にしろよ」って感じで、私生活も色々とこじらせまくってアブノーマルなことになっているので、やっぱり共感出来ないヒロインではある。

 

事件内容はエログロで差別的・冒瀆的な事柄や描写が多く出てくるので人によっては気分が悪くなるかもしれず注意が必要。

文庫で800ページ越えのなかなかのボリュームではありますが読ませる面白さがあり、明かされる真相も「な、なんだって!?」という島田ミステリならではの驚きがあるものです。ちょっと疑問な点や半端なところがあるのではってな気がしないでもないですが。

 

御手洗は電話で登場。レオナに請われて専門知識を教えてくれています。御手洗はこのとき学者としてスウェーデンの大学にいる時ですね。歳を経て、御手洗のレオナへの対応もマイルドになっているように感じる。ま、日本にいた時とは違い、北欧に渡って石岡くんと離れてからの御手洗はだいぶ真人間ぽいんですけど。

 

本の最後に「これは二年後の大事件への序章だった」と、続編を匂わせる文章があるのですが、2020年今日に至るまで続編は刊行されてはいません。この本が刊行されたのは2001年なのですけども・・・。読み終わった時、続編あるのかと思って探してしまった(^_^;)。島田先生はお忘れでいらっしゃるのであろうか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●「犬坊里美の冒険」

 あらすじ

祭りのさなか、総社神道宮の境内に突如現われ消失した腐乱死体。警察は現場に残された毛髪から、存在したと思われる死体の身元を特定。現場に居合わせたホームレスが逮捕・起訴される。

司法修習生として弁護士事務所で研修を始めた犬坊里美は、志願してこの死体消失事件を担当することとなるが――。

 

 

今作の主役はタイトルの通り犬坊里美。平成15年(2003年)頃の事件で里美ちゃんはこの時27歳。

上記した「龍臥亭事件」で初登場後、上京してきてからは石岡くんと度々会ったり助手的役割などをしたりと、御手洗が日本を去って以降のシリーズ主要人物でヒロイン。石岡君に好意を寄せていますが、その好意が“どの種のものか”は判然としない。石岡君も然り。ま、歳がだいぶ離れていますからね。

石岡君は電話で登場。落ち込んでいる里美ちゃんを励ましてくれます。このお話には御手洗はまったく出てきませんね。

 

御手洗が日本を去った後の、石岡君の唯一といっていいほどの貴重な交流者なので、シリーズに登場する女性のなかでは割と好感を持っていたのですが(基本的に、私は島田さんの描く女性が好きじゃない)、この本を読んだら里美ちゃんが大っ嫌いになってしまった。  

 

とにかく話し方が受け付けない。語尾に小文字を付けて伸ばす口調が徹底されていて、まるで酔った女性が適当に受け答えしている調子。

志願して事件を担当したくせに、被疑者への質問や弁護方針は他の人に任せっきり。法律の基本・常識的なことも分からず周りに質問。無知を恥じて猛省して勉強し直すこともせず、怒鳴られれば泣くばかり・・・。

 

とにかくイライラして読み進めるのが非常に苦痛でした。

 

ダメダメな女の子の成長を描きたくって極端に表現しているのでしょうが、いくらなんでもダメに設定しすぎで、これでは司法試験をパス出来るとは到底思えない。

 

司法試験もそうですが、日本の司法の世界もバカにしすぎだと感じました。色々突っ込みたいやり取りばかりなのですが、そもそも死体を見つけられてない状態で事件化させるのか?と、前提から疑問です。通常は「見間違えだろう」って言って終わりだと思う。

何か大きな出来事を隠蔽するために冤罪を無理やり作り出そうとしているとかならまだ分かりますがそんな事もなく、態々ホームレスを逮捕・起訴という面倒なことをする理由が解らない。しかも、検察側、無理やりストーリーを作って起訴状を作成するものの、結局死体消失については「見間違い」で押し通そうとするし・・・。もう訳がわからない。

これも司法の問題点や「冤罪」が生み出されるメカニズムなどを描きたいってことなのでしょうけど、大前提の部分で違和感があるからモヤモヤするばかりです。

 

 

メインの死体消失のトリックについては、ヒントとなるエピソードの挿入が雑すぎて「ああ、“それ”を使ったトリックなのね」とすぐに見当が付いてしまう。謎の解明も里美ちゃんのあの口調でまどろっこしくされるものだから爽快感がない。極めつけは「ようやった」「ようやった」と皆に拍手されるあの終わり方・・・。

「なにこれ?」と読後にポカンとしてしまいました。

 

本には“犬坊里美が活躍する新シリーズ第一弾”と銘打たれていて、続編として「痴漢をゆるさない!犬坊里美の冒険 検察修習編」という中編が雑誌に掲載されたようです。正直、個人的には書籍化されても読む気にはなれないですね。

 

 

 

 

 

 

 

以上、三冊紹介した訳ですが、スピンオフでもやっぱり執筆時期が前のものの方が良い感じが否めないですね。ライトで読みやすいのは近年のものの方ではあるのですが。

「犬坊里美の冒険」については感想をグチグチ書いてしまいましたが、美里ちゃんのような女性をかわいく思う人もいるのだろうと思いますので、そういう人にとっては存分に楽しめるスピンオフになっていると思います。

 

 

「御手洗がいないから」と、読むのをためらったりすることもあるでしょうが、シリーズファンはやっぱり読んでおくべき物語りですので是非。

 

 

 

 

 

 

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

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