夜ふかし閑談

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『777 トリプルセブン』感想 【殺し屋シリーズ】4作目「マリアビートル」の七尾ふたたび!

こんばんは、紫栞です。

今回は、伊坂幸太郎さんの『777 トリプルセブン』をご紹介。

 

777 トリプルセブン (角川書店単行本)

 

あらすじ

ツキのない殺し屋・「天道虫」こと七尾は、仲介屋の真莉亜が引き受けてきた「ホテルの一室にいる男に娘からのプレゼントを渡す」という仕事を受けて、ウィントンパレスホテルの2010号室を訪れる。

同時刻、同ホテルの1914号室には、驚異的な記憶力を持っているが故に逃走を余儀なくされた紙野結花が身を潜めていた。そんな彼女を狙って、裏仕事の“業者”たちが居場所を突き止め集まってくる。

ホテルはたちまち物騒な奴らで溢れる事態に。「簡単で安全な仕事」だったはずが、ツキのない七尾はホテルから出られなくなり・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

七尾ふたたび

『777 トリプルセブン』は2023年9月に発売された長編小説。伊坂さんの【殺し屋シリーズ】の4作目です。

 

【殺し屋シリーズ】はシリーズといいつつも、本によって登場人物も趣向も作品雰囲気も異なる“予測不能の殺し屋狂騒曲”なので、関連はしていても作品は独立したものとなっているため、続編といえるような続き方をしている訳ではないのですが、

※【殺し屋シリーズ】について、詳しくはこちら↓

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今作の『777 トリプルセブン』は、シリーズ2作目『マリアビートル』

 

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で活躍した通称「天道虫」と呼ばれる殺し屋の七尾が、不運のせいでまたもや騒動に巻き込まれる物語。

七尾の活躍が再び存分に味わえる『マリアビートル』の続編となっています。

 

伊坂さんは巧妙に作品同士が繋がるような構成が特色の作家さんなのですが、同一主人公が活躍する通常の「続編」はあまり書かないのですよね。読者にいつも新鮮に驚いて欲しいという想いで作品作りをしているので必然的にそうなるらしい。続きものだとどうしてもパターン化されてしまいますからね。

 

【殺し屋シリーズ】も新作が発表されるにしても今までのように独立した作品だろうと思っていたので、まさか『マリアビートル』の続編を書いてくれるとは驚き。

 

『マリアビートル』は2022年にハリウッドで『ブレット・トレイン』というタイトルで映画化されたのですが、

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主演のブラッド・ピットに「是非続編を書いて欲しい」と言われて「それじゃあ」と、この度書き下ろしで刊行されたと。

 

個人的に、【殺し屋シリーズ】の中では『マリアビートル』が一番好きで、キャラクターも七尾と真莉亜が特にお気に入りだったものの、続編が出てくれるなんてまったく予想もしていなかったし、期待しちゃダメだとも思っていたので感激です。ありがとう、ブラピ。

 

 

『マリアビートル』は500ページほどの作品でしたが、今作は290ページほどで読みやすいボリューム。京極さんの『鵼の碑』を読んだばかりだったので、めちゃくちゃ薄く感じてしまった(^_^;)。

とにかくスピーディーで、これぞ“ノンストップエンタメ”といった物語。面白くって一気に読んでしまいました。『マリアビートル』に引き続き、七尾のツキのなさが今回も炸裂して殺し屋たちを翻弄しております。

 

 

 

 

 

今度はホテル

『マリアビートル』は同じ新幹線の中にそれぞれに依頼を受けた殺し屋たちが乗り合わせ、錯綜していくという物語でした。

七尾は荷物を受け取ったら次の駅ですぐに降りるつもりだったのが、ツキがないせいで停車駅の度にトラブルが発生して降りられず、水面下で起きている騒動に巻き込まれることとなる。

新幹線という走る密室の中、乗客たちの知らないところ(映画は一般客に気がつかれるのもなんのそのなド派手アクションでしたけどね・・・)で殺し屋たちによる駆け引きと命のやり取りが描かれる物語でした。

 

今作の舞台は東京にある高級ホテル。

『マリアビートル』から数年後の設定で、荷物を部屋に届けるだけの仕事のはずが、殺し屋たちに狙われている女性が同ホテルに居合わせたことによって、あれよあれよと騒動に巻き込まれる。

 

今度はホテルから出られなくなる物語。舞台は違えど、荷物の運搬仕事だけのはずがツキのないせいで“同業者”とヤリあうこととなり、ホテル側や一般客には悟られないまま死体がどんどん増えていく展開は『マリアビートル』を踏襲してのものですね。

 

 

七尾の他に、

驚異的な記憶力故に上司だった裏社会で生きる男・に狙われてしまうこととなった紙野

その乾が差し向けてきた、常に周りを見下している鼻持ちならない美男美女六人組の殺し屋、

シーツを使い、ベットメイキングの要領で仕事をする女性二人組の殺し屋・マクラモウフ

元人気政治家の情報局長官・に取材をする池尾

 

五つの視点、場面で物語は構成されています。

 

伊坂幸太郎作品では毎度のことではありますが、複数の視点と場面がかわるがわる描かれることでテンポ良く、あっという間に読まされてしまう仕上がり。

 

この他に、成金の殺し屋コンビ・高良(コーラ)奏田(ソーダ)、ハッキング能力に長けた中年女性の逃がし屋・ココなど、今回も魅力的でバラエティに富んだ面々が物語を彩っております。

 

このシリーズはとにかく死人がバカバカでるので、キャラクターに好感が持てるほどハラハラしてしまうのですけどね。

上記したように『マリアビートル』の続編が出るのは嬉しかったんですけど、続編ってなると七尾や真莉亜が死んでしまう可能性もあるので、不安も大きかったです。どんなに魅力的で主人公的なキャラクターでも、このシリーズだと容赦なく退場させられてしまうからね・・・・・・。

 

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幸運の天道虫

今まで【殺し屋シリーズ】は虫を意味するタイトルがつけられていましたが、今作のタイトルは「777トリプルセブン」で虫を意味するものではありません。このことからも、通常のシリーズ構成から逸脱した作品なんだとわかりますね。

 

トリプルセブンと言われれば、一般的にはラッキーセブン、“ツイている”のを表すものですが、不運が日常の人生を送っている七尾、生まれ持っての記憶力のために“忘れること”が出来ずに生涯苦しんできた紙野など、生まれながらにツイていない、“恵まれていない”人々を通して、この「777 トリプルセブン」という物語は描かれる。

 

 

「梅は梅になればいい。リンゴはリンゴになればいい。バラと比べてどうする」

 

これは作中で、「他人を羨んだりしないのか」と聞かれてある人物が答えているセリフ。

「幸福」というのは往々にして他者との比較から成り立つ心境ですが、他者を見て羨んだり自身を嘆いたりするのではなく、自分自身を受け入れて実らせれば良いと。

 

 

「マリアビートル」での事件の生き残りってことで、七尾は「幸運の天道虫」として業界で一目置かれる存在となりました。これは不運で苦労している七尾にとっては不本意で皮肉な事態でしょうが、見方を変えれば、七尾はとても運に恵まれている男となる。どんなに大変な目に遭っても、その度になんとか切り抜けられているのですからね。

 

七尾の腕が良いのもそのおかげなのですよ。常に信じられないような最悪の状況を想定しているから、戦闘時に相手よりも上手に行動出来る。ツキのない自身を受け入れているからこそ、生き延びてきたと。

 

そしてまた、前回同様にツキのない七尾の存在によって助けられる人がいる。ツキのない七尾は、周りに幸運をもたらす「天道虫」なのです。

 

 

 

 

 

またお願いしたい

これらの要素の他、伊坂幸太郎作品らしい軽快で洒落た掛け合いと驚きの真相で愉しませてくれます。『マリアビートル』よりボリュームが少ないぶん、シンプルで解りやすく、読みやすい作品になっているかと。

私はやっぱり、七尾と真莉亜の再登場が嬉しかったです。二人とも相変わらずですが、今作ではお互いにちゃんと心配し合っているのが描かれていて良かったですね。情けないことをいいつつ、“ヤるときはヤる”男である七尾の戦闘シーンはやはりカッコイイ。

 

映画化によって思わぬ幸福を得ることが出来ました。伊坂さんは苦手だと仰っていますが、またの続編をお願いしたい。またブラピがリクエストしてくれないだろうか・・・。

 

単体でも楽しめる作品ですので、シリーズファンはもちろん、映画で興味を持った方、今まで伊坂作品を読んだことがないという方にもオススメですので是非。

 

 

ではではまた~