夜ふかし閑談

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『連続殺人鬼カエル男』ネタバレ・あらすじ どんでん返しの有名作を解説

こんばんは、紫栞です。
今回は中山七里さんの『連続殺人鬼カエル男』をご紹介。

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)

あらすじ
埼玉県飯能市にあるマンションで女性の他殺体が発見される。遺体は全裸で、口にフックをかけられ、13階からぶら下げられているという凄惨極まるものであった。そして、その傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文が置かれていた。
「きょう、かえるをつかまえたよ。はこのなかにいれていろいろあそんだんだけど、だんだんあきてきた。おもいついた。みのむしのかっこうにしてみよう。くちからはりをつけてたかいたかいところにつるしてみよう。」

異常者の犯行とみて捜査を開始する警察だが、その捜査をあざ笑うかのように第二、第三の殺人事件が発生。無秩序に猟奇的な犯行を続け、その度に“かえる”に擬えた犯行声明文を残す--・・・犯人は「カエル男」と呼ばれ、誰もがその名に怯えるようになる。
やがて犯行の法則性が明らかにされると、街は恐怖と混乱でパニックに陥り、暴動が多発する事態に。
埼玉県警捜査一課の渡瀬と古手川は、暴徒と化した市民に捜査を阻まれつつも、必死に「カエル男」の正体に迫るが――。

 

 

 

 

 

 

 

 

“どんでん返し”の有名作
作者の中山七里さんは『さよならドビュッシーから始まる【岬洋介シリーズ】で一般に広く知られている作家さん。

 

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

 

 

『さよならドビュッシー』は「このミステリーがすごい!大賞」の受賞作で、中山さんのデビュー作でもあるのですが、この『連続殺人鬼カエル男』は改題前の『厄災の季節』というタイトルで『さよならドビュッシー』とともに「このミス大賞」初のダブルエントリーをされて話題になった作品。受賞したのは『さよならドビュッシー』の方であるものの、「こっちを読みたい!」という「このミス大賞」ファンからの声によって刊行されるに至ったんだそうな。

 

『連続殺人鬼カエル男』は、どんでん返し系ミステリ小説のオススメランキングなどで度々名前が挙がる、ミステリ界隈ではやたらとなんだか有名な作品。読んだことはなくっても“カエル男”というタイトルは聞いたことあるという人も多いのではないかと思います。私もその一人でして、おすすめサイトなどを見てタイトルだけは以前から知っていたものの、今まで読まずじまいでした。そんなに有名ならいっちょ読んでみるかと今回手にとってみた次第です。

 

分類としてはサイコサスペンスで、そっち系ではやり尽くされている感がある精神鑑定や少年法、刑法第三十九条などを扱った物語りになっていて(一時期はこの刑法第三十九条を扱うサスペンス、ホントにいっぱいありましたよね)

 

39 刑法第三十九条

39 刑法第三十九条

 

 

サイコサスペンスでお決まりの司法制度と人間感情との間で起こる問題点を指摘する社会派ミステリという“サイコものの定番”をド直球に描いている作品という雰囲気で、特に目新しさはないなと思わせつつ、終盤に怒濤のどんでん返しで読者を唖然とさせてくれます。

実はこの「社会派部分」がトリックの素材のために使われているのが今作での突出した点ですね。

 

私個人としては、読み終わった直後の感想は「満足したな」というものでした。
どんでん返し系ミステリなんだという前知識があったので、驚きはしたものの「想定内さ」という気構えだったのですが、期待通りのどんでん返しの後にまた意表を突く真相が最後の最後で判明する、「良い意味での期待の裏切り」があって、この系統のミステリの愉しさを最後の一行まで味わわせてくれた小説だったなぁと。空恐ろしい終わり方をするのですが、私には恐怖よりもミステリ的満足感が勝りましたね。
どんでん返し系ミステリのオススメランキングで上位にくるのも納得の作品です。

 

 


ドラマ
『連続殺人鬼カエル男』は、2020年1月10日から『このミス』大賞ドラマシリーズの第4弾として実写ドラマ化が決定しています。関西テレビでの放送とU-NEXTでの配信予定。全八回。キャストなどの詳細はまだ不明ですね。


こんなに有名作なのに、まだどこでも映像化されていなかったのは意外な気もしますね。一部トリックが映像でやるには困難だからでしょうか。あと、死体の状態とかも・・・。

「カエル男」と呼ばれる犯人が陰惨な殺人を繰り返すという点から、漫画で映画化もされたミュージアム

 

 

を連想する人や、この小説が『ミュージアム』の原作本なんだと勘違いする人などが結構いるようですが、作者も異なりますし、まったくの別作品で関連性もありません。影響を受けたとかそういうこともないと思います。ジャンルも扱っているテーマも違いますしね。
漫画も映画も私はちゃんと観たことはないのですが、『ミュージアム』はどっちもめっちゃ恐そうですよね・・・。漫画の紹介ページや映画予告だけでも恐かった(^^;)

 

ミュージアム

ミュージアム

 

 

 

 

 

古手川・渡瀬
今作での中心人物は刑事の古手川と渡瀬。
主役の古手川は一年前に捜査一課に配属された若手刑事。自尊心と功名心が高く、上司である渡瀬に対しても能力が高いことは認めつつも「いけ好かないオヤジだ」と反発心や嫌悪感を抱いている生意気な若造で、読者的にはそっちが「いけ好かないガキだよ」って感じ(^_^;)
当初はこの事件捜査も功名心からくる気持ちで挑んでいる部分が大きかったのですが、捜査の最中に、ピアノ教室をしながら保護司をしている有働さゆりやその息子と触れ合うことで事件への取り組み方が変わっていきます。渡瀬への態度もどんどんと素直になっていって、最終的にはきちんと尊敬できるように。古手川の成長は今作の見所の一つになっています。


古手川自身、刑事になった切っ掛けは学生時代の罪悪感からくるもので精神的に不安定で問題を抱えている人物なのですが、有働さゆりのピアノ演奏を聴いて感動。仕事に対する心構えや人との接し方に変化が生じていきます。
そういう訳で、ピアノが大きな役割を担っているため、演奏部分はだいぶページを割って丁寧に描かれています。中山七里さんは音楽描写を得意にしている作家さんらしいので、今作でもそれが発揮されているということでしょうか。音楽への思い入れの強さが伝わってきますね。

 

 

渡瀬は警部で捜査一課の班長。パソコンが駄目だったり勘を信じたりと“いかにも”な古株の刑事かと思いきや、やたらと博識で捜査能力に長けたキレ者。主役は古手川ですが、どちらかというと探偵役は渡瀬の方が担っています。後半はお話の展開上、登場シーンが少ないのでチト寂しいですが、最後の最後はビシッと謎解きをしていて古手川のお株を取ります。

この古手川と渡瀬のコンビは他作品でも脇役として度々登場するらしく、特に2011年刊行の『贖罪の奏鳴曲』では今作とリンクする部分が多数あります↓。

 

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以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気になる点
今作ではミステリ的な仕掛けや謎解き要素とは別に、得体の知れぬ猟奇殺人犯が出没したことのよる街の人々の動向が描かれていています。

最初は闇雲に不安がるだけの街の人々でしたが、犯人が被害者を名前の五十音順で選んでいるという犯行の法則が明らかにされると、恐怖と混乱が熾烈さを極めていきます。最終的に精神異常による犯罪者のリストを公開しろと武器を持って警察署を襲いにくるまでに。署は大混乱となり、ヤクザの抗争レベルの乱闘が繰り広げられます。死人が出なかったのが不思議なほどですね。


色々なレビューでも書かれていることですが、ここの乱闘場面が異様に長く読んでいて中だるみする・・・と、いうか、ミステリ小説なんだかバイオレンス小説なんだか、私は今、何を読んでいるんだ?と混乱してきます(^^;)


ここまでの騒動になるのかも少し疑問で、リアリティが感じられないというのもあるのですが、そこはまぁ追い詰められればあり得るかとも思いますし、そういう人間の恐ろしさを描くことで正常と異常の紙一重さを表すのが著者の意図なんでしょうが、それにしても長いですね。どう考えても、もっとこの描写は短くていいでしょうと。


しかも、この警察署襲撃で大怪我を負った古手川はさらにその後、傷も癒えないうちに二回も犯人と生死をかけた格闘をしています。常人ならばどう考えても死んでいる。古手川の不死身っぷりはある意味今作一番のミステリです。

 

あと気になった点としては、初期の作品だからかも知れませんが、なんだかワザワザ難しい単語を使って物事を説明していると感じました。単に私の語学力が低いだけということもあるでしょうけど・・・(^_^;)

 

 

 

 


仕掛け
物語りは
一・吊す
二・潰す
三・解剖する
四・焼く
五・告げる

の、五章での作り。

各章のタイトルは「カエル男」の行動をそのまま示しています。


主な語りは古手川ですが、合間合間に犯人と思われる人物の生い立ちを振り返る独白場面が挿入されています。名前は「ナツオ」
十歳の頃より父親から性的虐待を受け、代償行為として小動物の殺生にいそしむようになり、エスカレートして十二歳の時に近所の女の子を殺害。逮捕され、医療少年院おくりになるまでが描かれています。
医療少年院を出所する際、家庭裁判所に改名を申請出来るという情報が作中で提示されるため、言動の類似点などから有働さゆりが保護司として面倒をみている前科者・当真勝雄がこの独白の語り手で「カエル男」なのだと読者に思わせるように描かれています。
やがて当真勝雄の部屋から古手川が物的証拠を発見。勝雄は逮捕され「自分がやった」と犯行を自供しますが、実は「カエル男」の正体は勝雄の保護司である有働さゆり

 

犯罪被害給付金を目当てに実の息子である真人を殺害することにした有働さゆりは、目眩ましに五十音順に無関係な人間を殺す計画を立てて遂行。罪を当真になすりつけるべく勝雄の昔の日記を犯行声明文として利用して、勝雄にも意識操作をして自身が「カエル男」なんだと信じ込ませた・・・。

 

有働親子に一時癒やされ、真人の死によって「カエル男」を捕まえるべく執念を燃やしていた古手川にとってはこれ以上ないくらい非道な真相ですよね。まさに悪夢。

 

今作でのメインの仕掛けは男だと思っていた「ナツオ」が女だったという、性別誤認の叙述トリックです。
叙述モノで性別誤認は王道の(?)仕掛けですが、今作では父親から性的虐待を受けている描写、性行為部分が最大の引っかけになっています。女性相手には通常しない行為をしているので、男子なんだと誤認してしまうんですね。


虐待の酷さを伝えるための執拗な描写だと思いきや、実はこの描写が読者を騙すために作用している・・・。
うん、そうか、あえて女性相手にアブノーマルな方法をとりたい輩もいるんだものなぁ・・・・うん。ここの描写から安易に男性だと連想してしまった自分が何か恥ずかしいような、微妙な気分になる(^_^;)。


なんにせよ、「やられたな」と。王道ながら意表を突く仕掛けですね。
最初の犯行の、口にフックをかけて13階から吊すとうのも、力のある男性でないと困難だろうという先入観や(※コレには物理的なトリックがある)、犯人を表す名称に“男”とついているなどの部分も性別誤認のトリックに作用しています。作品タイトル自体が読者を騙す仕掛けとして使われているのは別の叙述モノの有名作にもありましたね↓

 

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御前崎

本命の標的とその関連を悟らない目隠しのために名前の五十音順に殺人を繰り返すというのはアガサクリスティーABC殺人事件での設定そのままですね。

 

ABC殺人事件 (クリスティー文庫)
 

 

しかし、今作では『ABC殺人事件』を踏襲していると見せかけて、さらなる仕掛けが最後に隠されています。


被害者たちは五十音順に、荒尾礼子(あらおれいこ)指宿仙吉(いぶすきせんきち)、そしてさゆりの息子である有働真人(うどうまさと)、弁護士で病院に入院中だった衛藤和義(えとうかずよし)と殺されていきます。

勝雄に続き、改めて犯人として有働さゆりが逮捕される訳ですが、第五章の「告げる」の後半で、さらに真相は一変します。勝雄とさゆり、両方の治療を受け持った精神科医御前崎宗孝こそが有働さゆりを操り、「カエル男」事件を引き起こさせた張本人なのだと渡瀬の追求により明らかになるのです。


御前崎教授は過去に娘と孫を未成年者に殺されたことがあり、その時の裁判で刑法第三十九条を持ち出して被告を無罪にした弁護士・衛藤和義を殺すことが狙いでした。
さゆりに実の息子を殺させることもまた、御前崎教授による目眩ましのための殺人だったのです。

何故こんな無関係な人間を殺すような無茶苦茶な殺人計画を立てたのかというと、三十九条への批判を込めてのものなんだとか。

 

「(略)世論も法曹界も刑事責任の追及よりは少年の健全育成が重要なのだという。良かろう。人を殺めた者も寛解状態を認められれば社会に復帰する。それも良かろう。だが、それは人を喰らった獣を再び野に放つことだ。野に放てと叫んだ者は、その獣と隣り合わせに暮らす恐怖を味わう義務がある」

 

娘と孫を殺した少年を、心神喪失者だからと赦そうとした世論への復讐。
しかし、こんなのは唯の八つ当たりですね。

 

「(略)あの爺さんがしたことは復讐なんかじゃない。いくら娘の無念を晴らすためでも、自分で手を汚さずに無関係な人間を巻き添えにするなんてただの腹いせじゃないか。あの爺さんは嘘を吐いている」
「その通りさ。ただな、嘘ってのは他人に吐くんじゃない。大抵は自分に吐いているんだ。そうやって嘘吐きは自分の首を絞めていく」

 

直接手を下した訳ではないため、古手川と渡瀬は真相を知りつつも御前崎教授を逮捕することが出来ません。古手川は弁護士の他にも鑑定医と収監中の少年のことも亡き者にしようと御前崎教授が企てるのではと危惧しますが、教授には皮肉な因果応報が待ち受けていました。
有働さゆりが逮捕されたことにより、当真勝雄は退院後元の生活に戻れることに。洗脳がとけていない勝雄はさゆりの意思を継いで「カエル男」として五人目の獲物を“オ”のつく人物から選びます。


――オマエザキムネタカ。

 

 

 


続編
と、ここで『連続殺人鬼カエル男』は終了しています。「ひぇ~」って感じの終わり方ですが、なんと2018年5月に続編として『連続殺人鬼カエル男ふたたび』が刊行されました。

 

連続殺人鬼カエル男ふたたび (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

連続殺人鬼カエル男ふたたび (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 

 

御前崎教授の末路についてそこで明らかにされているようなので、また読んで感想をまとめたいと思います!

 

※読みました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

 

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)

 

 

 

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