夜ふかし閑談

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『鵼の碑』ネタバレ 登場人物、他シリーズとの繋がり、徹底解説!”化け物の幽霊”とは?

こんばんは、紫栞です。

今回は、京極夏彦さんの『鵼の碑』(ぬえのいしぶみ)について多少突っ込んだ内容紹介と解説をしたいと思います。

 

鵼の碑 【電子百鬼夜行】

 

あらすじ

昭和二十九年、二月。

劇の脚本を書くため日光榎木津ホテルに滞在している最中、メイドから殺人の記憶を打ち明けられて懊悩する作家・久住加壽夫。

失踪した勤め先の主人を捜して欲しいと薔薇十字探偵社に依頼した薬剤師・御厨富美。

二十年前に消えた三つの死体の行方を追うこととなった刑事・木場修太郎

発掘された古文書の鑑定と整理のため日光に滞在している学僧・築山公宣。

大叔父の遺品整理のために空き家となった診療所に訪れた病理学者・緑川佳乃。

 

二十年前の事故と遺体消失。十六年前の少女による殺人の記憶。示唆される幾つもの不審な出来事。そして何かを嗅ぎ回る公安・・・。

 

時を同じくしてそれぞれが日光に集い、縺れ合って“得体の知れない何か”が浮かび上がっていく。

果たしてこの日光で何が行なわれていたのか?皆に取り憑く“化け物の幽霊”。その正体とは――?

 

 

 

 

 

 

 

キメラ

『鵼の碑』は2023年9月に刊行された長編小説。百鬼夜行シリーズ】(京極堂シリーズ)、17年ぶりの新作です。

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2023年の私にとって最大の出来事はこの『鵼の碑』の発売でした。嬉しすぎて当ブログでも喜びを書き殴るだけの記事を何個かアップしましたが、

 

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今回はきちんと、『鵼の碑』の作品紹介とネタバレこみの感想や考察を書き上げて、この2023年を終えたいと思います。

 

 

『鵼の碑』は新書版(講談社ノベルス)と単行本版が同時発売でした。

 

 

 

京極夏彦さんは版が変わる度に文章がページをまたがないように加筆・修正するので有名な作家ですので、中身の違いが気になる人も多いかと思いますが、ノベルス版を大元として、単行本だと調節のため台詞や地の文が足されています。さりげなく、細かく、なんですけど。

ファン的には榎木津のトンキチな台詞が足されているのが注目ポイント。単行本はお値段の高い豪華版ですので、ちょっとした特典気分を味わえますよ。是非読み比べて欲しいですね。

 

 

タイトルにある「鵼」は、頭が猿、胴が狸、手脚は虎、尾は蛇だとかいう(※組み合わせは文献によって異なる)色々な動物が合わさった姿をしている怪鳥。キメラの如き化け物です。

 

物語も「鵼」に習ってといいますか、本全体で「鵼」を表現しているといいますか、、の五パートでそれぞれに展開していき、その五パートが段々縺れて合わさって、“キナ臭い話”が浮かび上がるという構成になっています。

 

「蛇」ではメイドの桜田登和子に打ち明け話をされて右往左往する劇作家・久住加壽夫と、何故か一緒に右往左往することになった関口巽が、

「虎」では行方不明となった勤め先の主人・寒川秀巳の捜索を依頼した御厨富美と、探偵の益田龍一が、

「貍」では二十年前に起こった遺体消失事件を追うハメになった刑事の木場修太郎が、

「猨」では助勢を頼んだ史学科教授の助手・仁礼将雄、古書肆・中禅寺秋彦とともに古文書鑑定をする学僧・築山公宣が、

「鵺」では医者だった大叔父の遺品整理のために日光の村外れにある元診療所を訪れた病理学者・緑川佳乃が、

 

各パート、それぞれの視点で物語が展開されていき、収斂していく。(※語り手は青字の人物)

 

日光には榎木津礼二郎の兄・榎木津総一郎が経営する「日光榎木津ホテル」があり、中禅寺の仕事にくっついてくる形で榎木津と関口の三人でこのホテルに滞在しています。

総一郎さんは奇天烈な弟とは違ってごく普通の容姿をしていてマトモなのですが、頼りない言動のおかしみ溢れる人物。榎木津には「アニ」と呼ばれている。

 

中禅寺は仕事で来ているのでずっと古文書鑑定、関口はスランプで例によって暇を持て余し、久住さんと妙に意気投合して一緒にウジウジと“メイドの殺人記憶問題”に取り組むことに。(わざわざ面倒事に首を突っ込んで鬱々する、毎度毎度の懲りない関口)榎木津はテニスしたり乗馬したりで元気に遊びほうけています。(今回は本当にほぼほぼ遊んでいるだけ)

 

 

中禅寺の仕事にくっついて旅行に行くという流れは鉄鼠の檻を彷彿とさせますね。

 

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今作では他にも所々これまでの事件を思い出させる要素が盛込まれています。インタビューによると、これは意図的にそうされているそうな。17年ぶりなので、長年のファンに向けてのサービスってことでしょうか。

 

 

 

 

 

登場人物

木場以外、各パートの語り手は初登場の方ばかり。

語り手で木場!テンションが上がりましたね。木場は『塗仏の宴』以降、シリーズではチョイ役でしか登場していなかったので、ガッツリ登場は凄く久しぶり。やっぱり木場の語りは良いですねぇ。

榎木津が「おいこら四角」って言って闖入してくるのには読んでいて「キター!」と、ニヤニヤしてしまった。お互いに罵りあっているのに、総一郎さんも交えての幼馴染みエピソードを語り出すのが可笑しい。

 

益田は今作でもガッツリ登場。益田は本当に出番が多いキャラクターですね。スピンオフでもいっぱい登場するし。下僕筆頭だからでしょうか。

 

他、一段落のみの登場ですが青木鳥口和寅『格新婦の理』『百器徒然袋-風』などに登場した中華丼のイラストに似たお喋り娘・奈美木セツ邪魅の雫に登場した公安の郷島郡治、かつての木場の相棒だった長門さんと陰摩羅鬼の瑕で登場した伊庭さん(※伊庭さんはスピンオフの『今昔続百鬼-雲』にも登場しています)などが登場。

今作では長門さんが現場で念仏を唱えるようになった理由が明らかにされています。

 

過去作のキャラクターが数多く登場していまして、宮部みゆきさんは百鬼夜行アベンジャーズと称されたようですが、伊佐間屋とマチコが居ないので個人的にはアベンジャーズとは言い難い。伊佐間屋は話題の一つでは出て来ていましたけど。

 

後、『鉄鼠の檻』の時には連れてきていた奥方二人、千鶴子さんと雪絵さんも今回は不在。前は木場とセットで出がちだった猫目洞のお潤さんも登場はなし(お潤さん、『塗仏の宴』の一件の後どうしているのか気になるんですが・・・)。中禅寺の妹・敦子も不在。ま、敦子はこの間にスピンオフでご活躍だったからしょうがないですが。

 

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本当にアベンジャーズしていたのは『塗仏の宴』ですね。この時は本当に全員登場していた。

 

 

後、スピンオフですが『百器徒然袋』の二冊も。

 

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個人的に、久しぶりなので関口視点の語りを読みたかったなぁという気がする。シリーズファンとしては関口の語りが最も馴染み深いですからね。

饒舌な中禅寺に感化されて「最近は話をする努力をしている」ということで、久住さん相手に沢山お喋りしていますが。でもやっぱり中禅寺に後で一刀両断されているけどね・・・。

 

『鵼の碑』は刊行前に【百鬼夜行シリーズ】のアナザーストーリー集である百鬼夜行-陽』に前日譚の「墓の火」「蛇帯」が既に発表されていました。

 

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「墓の火」は御厨富美が捜している薬局の主人・寒川秀巳が主役で、「蛇帯」は今作で久住さんに“殺人の記憶話”をしたメイドの桜田登和子が主役。

別記事でも書きましたが、この二つのは『鵼の碑』を読む前に絶対に押さえておいて欲しいエピソードですので是非。

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

他作との繋がり

京極夏彦さんには【百鬼夜行シリーズ】の他にもう一つ代表的シリーズがあります。江戸時代後期を舞台にした巷説百物語シリーズ】ですね。

 

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京極夏彦作品は殆どの作品が同一世界線として描かれているので、これまでも『狂骨の夢』や『陰摩羅鬼の瑕』などで【巷説百物語シリーズ】との繋がりが示されていたのですが、今作での繋がり方は今までとの比ではありません。“モロ”です。

 

『鵼の碑』前に読んでおくべき本ってことで、当ブログで発売前に記事を書いたのですけれども↓

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今作を読んだ後ですと、絶対に読んでおくべき本は上記した『百鬼夜行-陽』収録の「墓の火」「蛇帯」の他に、

後巷説百物語

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と、『書楼弔堂 破曉』収録の「未完」

 

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が、特に今作での繋がりを知るには重要。どちらの本も明治時代が舞台で、江戸時代の【巷説百物語シリーズ】と昭和が舞台の【百鬼夜行シリーズ】との間を埋める要素があるものですね。

※本ごとの時系列について、詳しくはこちら↓

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『鵼の碑』を読む前に必ずチャックして欲しい本であるものの、それを言うと『鵼の碑』自体の重大なネタバレになってしまうので、読む前の人には言えないというジレンマ。

 

ま、『鵼の碑』の後でこの二冊を読んでも十分愉しめるので、『鵼の碑』読んだけどこの箇所よく分らなかった~って人は、これらの本も一緒に是非。

 

 

 

 

陰謀

話が進むにつれ、各パートそれぞれに別方向からとある「疑惑」に行着いていきます。

 

戦前、この日光の地で日本陸軍原子力兵器開発の秘密実験を行なっていたのではないか――と、いう。

 

荒唐無稽で“如何にも陰謀じみた”疑惑ですが、その疑惑を追っていた、知ってしまったために殺されたと思われる人物や、秘密警察が行なった隠蔽工作被爆が原因で亡くなったらしき遺体があったこと、不自然な土地の買収、探り回っている公安・・・・・・等々、疑惑を裏付けるようなもっともらしい事柄が次々に出て来て、皆この「陰謀」に取り憑かれてゆく。

 

皆日光に集結し、追ってきた事柄を共有していくのですが、その結果出来上がるのは“異なった複数の世間が絡み合っているような、奇妙な事件のキメラ“

 

キナ臭さばかりが増幅して、謎は深まる一方。いつまでも出口の見えない隘路に陥る。

 

 

「狸の胴に猿の頭だの蛇の尾っぽだのをくっ付けると、訳の解らない化け物になってしまうんですよ旦那。しかも、まるで関係のない鵼なんて名前で呼ばれてしまうことになる。いいですか、鵼なんて化け物は居ないんですよ。鵼のお話は、凡て化け物が退治された後に醸造されたものです。一度混ざってしまえばもう分離は難しい。化け物の鵼の話からは鵺は汲み取れない」

陰謀なんかないんですよ――と、中禅寺は木場に云った。

 

 

「鵼」は色々な動物が混ざりまくって訳の解らないものになってしまった化け物。見た目からは鳥の要素なんてまったくないのに「鵺に声が似ているから」って理由で「鵼」と呼ばれていますが、その似ているとされる鵺も実際には居ない鳥。

何処までも「空」「虚」な存在なんですね。

 

いろんな方向から情報を持ち寄った結果、ありもしない陰謀に翻弄されてしまうというのがこの『鵼の碑』という物語。

 

もちろん、こんな空騒ぎをすることになってしまったのには理由がある。開戦前、内務省の特務機関所属でありながら反戦主義者の山辺唯継が、“あの”堂島静鎮と陸軍に対して原子力の危険性を知らしめて兵器開発を阻止させるために、同志を集めて日光の山で原子力兵器開発をしているように見せかける大規模な偽装工作「旭日爆弾開発計画」をしていたのです。

※堂島や山辺が分らないって人は、『塗仏の宴』をお読み下さい。詳しくはこちら↓

 

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土地を買い上げ、原子力研究をしていると軍に盛大にアピール。定期的な成果発表の度に「ほら、こんなに危ないんですよ」と示してみせるが、実際は何の開発も実験もしていない。

大掛かりな“ハリボテ計画”だったのですね。

(今作の発売延期理由の一つに震災も関係したと京極さんが仰っていましたが、原子力関連の題材だったからなんですね。確かに、あの時期に刊行していたらよろしくないことも言われただろうなと思う)

 

ハリボテはハリボテでも絶対にバレてはいけないハリボテ。微に入り細を穿ち、外面をもっともらしく装ったために、二十年も経ってこのような空騒ぎ事態を招くこととなったと。

まったく、まったくさぁ・・・山辺さん・・・・・・!まどろっこしいことしてくれたなぁ今回もよぉ!って感じですね(^_^;)。

 

そんなですので、今作はシリーズ史上最も“何も起こっていない”物語です。事件はどれも十五年以上前のことでとっくに時効だし、切羽詰まった事態でもないし、殺人や人死にも発生していない。

 

中禅寺は今回、ありもしない“幽霊の化け物”の憑物落としをしたのですね。

 

 

 

 

 

末裔たちの邂逅

公安の郷島さんがうろちょろしていたのも大戦の後始末のため。”戦前と云う死んだ化け物の幽霊を捕まえに”日光に来ていた。郷島さんがいることによって胡散臭さが倍増して、皆の混乱が強まったのですがね・・・。

 

しかし、郷島さん以上に怪しげな動きをしている者達が今作にはいました。山で暮らし、調査団の案内役をしたという老人・桐山勘作、行方不明となっていた寒川に接触していた仏師・笹村市雄、市雄の妹で桜田登和子に“殺人の記憶”を思い出させるきっかけを与えた笹村倫子

 

この三人が「何をしていやがるんでぇ」ってな具合に物語の端々で怪しげにチラホラリとしている。

 

よからぬことをしている黒幕的な者達か?と、なるところですが、実はこの三人は別シリーズの巷説百物語シリーズ】に登場する化物遣いの末裔

笹村市雄と倫子の兄妹は、『後巷説百物語』に登場する笹村与次郎小夜の孫にあたる。小夜は又市一味である山猫廻しのおぎんの孫。つまり笹村兄妹は末裔だということに。桐山勘作は山の民で、二人の育ての親なんですね。

 

笹村兄妹の両親は記者で、二十年前に件のハリボテ計画を探っていたら巻き込まれて諜報員に殺害されてしまった。

笹村兄妹と桐山勘作の三人は、両親の死の真相を探りつつ寒川秀巳や桜田登和子を牽制し、見守っていたのです。

 

後巷説百物語』でも、『書楼弔堂-破曉』での菅丘李山(山岡百介)の蔵書を中禅寺輔(※中禅寺秋彦の祖父)が引き取って云々のくだりでも小夜や与次郎の動向は描かれていなかったので、知れたのは今作が初。

 

百鬼夜行-陽』の「墓の火」で“笹村”って出て来た時点でピン来た人もいますかね?私は恥ずかしながら失念していましたよ・・・。今作の終盤で「笹村・・・笹村って・・・・・・あ、あああー!」って。

で、「与次郎!お前、小夜さんと結婚出来たんか!良かったね!」ってなりましたわ。

結構作中で頻繁に匂わせる描写されているのですけどね。「一白新報」とか、笹村与次郎って名前もちゃんと出て来ていますし、笹村兄妹の容姿も又市とおぎんを連想させるものです。

「目の縁がほんのり~」で、え?おぎん?ってなる。小夜もそうでしたが、おぎんの遺伝子強いですね・・・。

後巷説百物語』ではおぎんが誰の子供を産んだのか明確な記載がないのですが、市雄の容姿や言動を見ると、やはり又市との・・・・・・でしょうか。

 

 

憑物落としの終盤で三人が登場するシーンは、【巷説百物語シリーズ】の記念すべき一作目「小豆洗い」でのシーンを彷彿とさせてアツイ。

 

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そしてなにより、憑物落としの拝み屋と化物遣いの末裔の、時を経ての邂逅アツイ・・・!

 

京極夏彦作品を長年読んできたからこそ味わえる読書体験。感無量です。

 

 

 

 

化け物の幽霊

かつて、人々は不幸・不遇・悪しきものごとを化物妖怪の所為にして折り合いをつけていましたが、江戸時代を過ぎるとそういった化物妖怪の役割は薄れていき、今作の舞台である昭和二十九年の世では通用しなくなっている。

 

代わりに人々が飛びつくようになったのが、「陰謀論」。

納得いかないものの背後にはこんな秘密があるからですよ~と、それらしく語られると信じてしまうし、「陰謀論」は化物妖怪の所為にするよりは近代的で理知的と受け取られる。“理解し難い隠れた存在”の所為にしている点は同じだし、根拠のなさは化物妖怪と大差ないのですが。

 

「陰謀だと云ってしまえば、全部陰謀で片付いちまうだろうが」

慥かに、何だか判らないけれど気に入らないことは何もかも陰謀だと云う者は多い。陰謀の多くは何の憑拠もない。解らないからこそ陰謀だと云う理屈である。

 

ありもしない陰謀に翻弄される今作。

令和の今も陰謀論蔓延る世の中ですので、何やら暗示的ですね。京極さんのインタビューによると偶々らしいですが。そりゃ、物語の構想自体は17年前からあったはずですからね・・・。

 

化物遣いの末裔である市雄たちは、自分たちの作法で事態の改善を図りましたが、昭和の世ではかつての作法は虚しく、陰謀論に取り憑かれた寒川秀巳を救うことは出来なかった。他の取り憑かれた者たちも、中禅寺側の作法で祓われた。

 

「化け物は、もう死んだのです。もし――僕達があなたの仰るような者どもの末裔であったのだとするなら、そうなら、僕達は」

化け物の幽霊ですと市雄は云った。

 

 

化け物の幽霊は、もう居なくてもいい。そういう世になった。

 

「居なくてもいいんだな」

勘作はそう云った。

「はい」

「もう会えねえぜ」

「はい。僕は――少し淋しいですが」

「ふん。人は大体淋しいもんだろうよ」

 

今作は【巷説百物語シリーズ】の本当の最後ともとれますね。化け物が不要になって、幽霊のように残って、その幽霊も居なくてよくなった。

 

シリーズを追ってきた読者としてはとても淋しい。【巷説百物語シリーズ】は、いつも淋しいんですけど。そういうシリーズなんですよね。

 

最後の緑川さんの語りによる、

もう会えないけれど――。

生きていれば会えないこともないよ。

に、なんだか凄く救われる。

 

病理学者で、学生時代に中禅寺たちの知り合いだったという緑川佳乃さんは非常に興味深い人物。どうも、昔中禅寺のこと好きだったぽいんですよね。今後もシリーズに登場するんだろうなと思います。

他パートの語り手、関口と意気投合した奇特な久住さん、薬剤師の御厨さんと、信仰を見詰め直した築山さんも再登場の可能性あるなと。

 

寒川さんは行方知れずのままになりましたが、これで完全退場なのですかね。でもこのシリーズ、姑獲鳥の夏でトンズラさせた菅野を鉄鼠の檻で再登場させるなんてことをやってのけますからね・・・油断は出来ない。

寒川さんが病気で余命幾ばくもないというのは、まったく予想していなかったので驚きました。でも確かに、そう考えると色々な点が腑に落ちる。

御厨さんと寒川さん、再会して欲しかったですね。残念です。山辺のハリボテ計画、憎い・・・!

 

 

『鵼の碑』はシリーズ17年ぶりの新作などということになってしまいましたが、次作予定の『幽谷響の家』(やまびこのいえ)はそう間を開けずに刊行されるのではないかと思います。京極さん曰く、タイトルを決めると同時に内容も出来上がるらしいので。どういう頭してるんだって感じですが。もう、すぐ読みたい。すぐ。

 

今作は只今連載中の【巷説百物語シリーズ】最終作『終巷説百物語』を踏まえてのものでもあるでしょうから、そちらも大変楽しみです。

 

これまで私は、『鵼の碑』を読むのを心待ちにして過してきました。やっと念願の『鵼の碑』を読む事が出来てどうなったかというと、より一層に、京極夏彦作品を待望する思いが強まりましたね。これだから京極夏彦ファンはやめられない。

今後も新作を愉しみに待ちながら日々を邁進していきたいと思います。

 

 

 

 

ではではまた~