こんばんは、紫栞です。
このブログ『夜ふかし閑談』も今回でちょうど100記事目です。早いのか遅いのかよくわかりませんが(たぶん遅い)
記念すべき100記事目は京極夏彦さんの【百器徒然袋シリーズ】についてまとめようと思います。“百”からの安易な連想ですが。
前説
「それじゃあ探偵を紹介しましょう」
知人・大河内の言葉に唆されて「僕」は神保町の薔薇十字探偵社に訪れた。
大河内が云うには、その“探偵”はまともな男ではない。誰が見たって奇人変人の類で、探偵と云っても調査も推理もしない。それどころか、普通の人間がやるようなことは何もしない。ただ、秘密を暴く力――他人の頭の中を覗く特技を持っていると云う。
戸惑いつつも仕事を依頼した「僕」だったが、何故か依頼人であるはずの自分も“探偵”にこき使われ、気がつけば依頼内容終了後もそれは続き・・・・・・。このまま「僕」は“探偵”の下僕一味の仲間入りをしてしまうのか!?
救いようの無い八方塞がりの状況も、ワールド・ワイドな無理難題も、判断不能な怪現象も、仕掛けられた巧妙な罠も、全てを完全に粉砕する男!
眉目秀麗、腕力最強、天下無敵の探偵・榎木津礼二郎が「下僕」を引き連れ、京極堂店主・中禅寺秋彦を引きずり出して、快刀乱麻の大暴れ!
推理無用、全ての謎を見通して、解決せずに混乱させる・・・!!
「そうだ!僕だ。お待ちかねの榎木津礼二郎だこの馬鹿者!」
【百器徒然袋シリーズ】とは
京極夏彦の【百鬼夜行シリーズ】(または京極堂シリーズ、妖怪シリーズ)
のスピンオフ小説の中編集。
百鬼夜行シリーズでの主要人物の内の一人・探偵の榎木津礼二郎が、薔薇十字探偵社に持ち込まれる様々な事件を完全粉砕していく様が描かれる。
『百器徒然袋』のタイトルは鳥山石燕の妖怪画集から取られています。身近な道具類が元となる妖怪達が描かれている画集ですね。
上記の「前説」からもわかると思いますが、本編の百鬼夜行シリーズよりもだいぶ破天荒な、ふざけた、コメディな、笑える内容になっております。公共機関では読まないことをオススメ。噴き出しちゃうんで。※私は新幹線内で読みながら終始ニヤニヤしっぱなしでした(^^;)
しかしながら、ミステリ的部分(と、いうか妖怪小説部分?)は通常の京極夏彦作品同様、しっかりしているので御安心を。
このシリーズで語り手を務めるのは、平凡な小市民で電機配線の図面引きである「僕」。シリーズの第一番『鳴釜』で、薔薇十字探偵社に仕事を依頼して以降、色々といいように仕掛けに利用される羽目に。そもそもこのシリーズは、語り手の「僕」が榎木津の立派な「下僕」になるまでを描いたお話――と、いう見方も出来る。
とにかく豪華
榎木津が中心のお話なので、必然的に薔薇十字探偵社の益田龍一(バカオロカ)と安和寅吉(和寅)の出番が多いです。他に京極堂こと中禅寺秋彦、関口巽、木場修太郎、鳥口守彦、青木文蔵、伊佐間一成(伊佐間屋)、今川雅澄(待古庵)、中禅寺の妹・敦子・・・等々、オールキャスト揃い踏みで大変に豪華なスピンオフシリーズであります。
よくあるスピンオフものだと本編の主要人物はほんのオマケ程度しか登場しなかったり、一人以外はスピンオフのオリジナルキャラクターで占められていたりで、つられて読んでもある部分では不服だったりしますが、この【百器徒然袋シリーズ】では本編以上に主要人物達が登場してくれるので普通のスピンオフでは味わえない満足感が得られます。
特に榎木津と京極堂が全編にわたって登場してくれるのは、本編で虐げられる事に慣れているファン(本編だと主要人物のくせに二人とも出し惜しみ感ハンパないからね・・・)としては「こんなに飴ばっかりもらっちゃって良いのですか」みたいな変な気分になる(笑)
特に京極堂は本編より行動してくれるし、本編よりだいぶ楽しそうでイキイキしています。榎木津はいわずもがな。
“解決”ではなく、“粉砕”
榎木津が主役だと読む前に聞いたときは「え!榎木津が主役でまともに話が出来るの!?」と困惑したものでしたが、実際読んでみて当初思った通りというか、「やっぱり“まとも”じゃないな、全体的に」なのですが。
講談社ノベルス版の裏の説明に“全てを完全粉砕する”と書いてありますが、これが凄く納得。榎木津は事件を解決させている訳じゃ無いのですね。じゃあ何をするんだというと、“粉砕しているのだ”という説明が一番しっくりくる。
圧倒的な個性(榎木津)が大暴れして事態を混乱させるので、必然的に京極堂が引きずり出されて出番が多くなる。榎木津を扱えるの、京極堂だけなんでね(^_^;)
読む順番
順番といっても『百器徒然袋―雨』『百器徒然袋―風』の二冊しか刊行されてないのですが、コレが番号じゃなく“雨”“風”なので、どっちが先だったか後だったか意外とごっちゃになる(のは私だけじゃないと思いたい)。
【雨】が先!【風】が後です!※順番通りに読むと楽しめる仕掛けがあるので間違えないよう注意して下さい。
一冊につき三話収録されています。
●『百器徒然袋―雨』
目録
●鳴釜 薔薇十字探偵の憂鬱
『塗仏の宴』の事件後に当たります。お話には後日談的要素もあり。
●瓶長 薔薇十字探偵の鬱憤
『陰魔羅鬼の瑕』の事件直後のお話。
●山颪 薔薇十字探偵の憤慨
『邪魅の雫』の後に当たるお話。※このお話が書かれた時は『邪魅の雫』はまだ未刊行だった為、事件についてはほのめかす程度。
『鉄鼠の檻』に登場した僧侶・桑田常信が出てきます。
●『百器徒然袋―風』
目録
●五徳猫 薔薇十字探偵の慨然
『絡新婦の理』で織作家のメイドだった奈美木セツと、別シリーズ『今昔続百鬼―雲』の語り手・沼上蓮次が登場。
●雲外鏡 薔薇十字探偵の然疑
●面霊気 薔薇十字探偵の疑惑
【雨】に収録されている三つの事件はそれぞれ独立したものですが、【風】収録の三つ事件には『塗仏の宴』に登場する羽田製鐵の会長兼取締役顧問・羽田隆三が関わっていて三つ併せて一つの事件ともいえる作りになっています。
さらに、【風】の最終話「面霊気」には巷説百物語シリーズ
の又市達の仕掛けを匂わせる記述が出てきます。必見!
人物の言動や事件の事柄が奇天烈なので、読者も途中まで気付かなかったりしますが(^^;)語り手である「僕」は、【雨】の時点ではずっと名前が伏せられた状態でお話は進行します。【雨】の最後で上の名前が、【風】の最後で下の名前が明らかになりますね。最後の最後でのフルネームの明かされ方が綺麗で上手いです。なんか、“ほっこり”するのですよ(^^)
ラジオドラマ
2006年10月から2007年3月にラジオドラマが放送されました。
主なキャスト
榎木津礼二郎―佐々木蔵之介
益田龍一―石井正則
「僕」―田口浩正
中禅寺秋彦―髙嶋政宏
関口巽―上杉祥三
木場修太郎―ゴルゴ松本
鳥口守彦―島田敏
榎木津幹麿―京極夏彦
ナレーション―夏木マリ
榎木津のお父さん、榎木津幹麿元子爵を原作者の京極さんがやっています。
著名な俳優さんが多く使われていて豪華ですが、私は中禅寺の声が受け付けなくって早々に離脱しました(^^;)他にも「合ってないんじゃ・・・」て思うキャストは多々ありましたが・・・。個人的には音声ドラマは基本、声優さんがやった方が良いとか思ってしまうタチなので、違和感を覚えてしまうのは色々な先入観が邪魔しているのもあるのでしょうけど。
CDブックとして発売されています。
ドラマCD
お馴染み志水アキさん作画のコミックス
との連動企画で2013年からドラマCD化されています。
キャスト
「僕」―細谷佳正
益田龍一―神谷浩史
安和寅吉―坂口大助
こちらはラジオドラマとはうってかわってほぼ声優起用。
アニメ『魍魎の匣』
のキャストともまったく違っての総入れ替え。
アニメも、ラジオも、ドラマCDも・・・・・・ぶっちゃけ、どのキャストもいまいちピンとこない。制作の方もそう思っているのか、いつまでもキャストが安定しないですね。う~ん。思い入れが強すぎてハードル上げすぎなのかな?
こちらのドラマCDも榎木津幹麿元子爵の役は京極さんがやっています。京極さんもう出るのが当たり前っぽくなってる・・・。
ペーパーバック
『デスノート』の小畑健さんとのコラボで、講談社ペーパーバックスKから二冊刊行されています。
一冊目は【雨】の「鳴釜」
二冊目は【雨】の「瓶長」です。
中身の小説はノベルスと同じなのでお間違えなく。小畑さんの絵も表紙のみで挿絵などは無いです。
個人的に小畑さんの絵は大好きなのですが、この榎木津は綺麗だけどなんだか腹黒そうに見えるね(笑)
次はあるのか?
タイトルに使われている鳥山石燕の百器徒然袋は三部作なのですが、はたして京極さんの『百器徒然袋』は第三弾が出るのだろうか。今のところ不明なのですが、【風】で綺麗に終わっているから無いのではってな気が・・・。勿論、刊行されれば全力で買いますけど。まぁ、その前に『鵼の碑』だよね・・・・・・。
※2023年に『鵼の碑』でました!
本編を知らなくとも読んで欲しい
『百鬼夜行シリーズ』を読んでからの方が楽しめるのはそりゃ間違いないですが、このシリーズ単独で読んでも十分楽しめるし、笑えると思います。
私自身、「本編より好きかも知れない」と時たま思ってしまいますし。
私は最初この二冊を読み終わった後、この面白さを共有したくって、本編を読んだ事ない友達に無理矢理読ませたという過去があります(若気の至り)
職場の先輩と「五徳猫」に出てきた豪徳寺に行ったりもしましたねぇ。先輩と二人で「猫招き。猫招き」とはしゃいだもんです。
最後に榎木津大明神のお言葉を
「絶対的判断基準は個人の中にしかないのだ。だから一番偉い僕の基準こそこの世界の基準に相応しい。探偵は神であり神は絶対であって一切相対化はされない!」
無茶苦茶だなぁと感じますが、読後は「あぁ、榎木津は神なんだなぁ」と納得するしかなくなります。
観榎木津懲悪、とくとご覧あれ。
ではではまた~