夜ふかし閑談

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『インド倶楽部の謎』感想 "有栖川版"国名シリーズ、13年ぶりの第9弾!

こんばんは、紫栞です。
今回は今月の7日に発売された有栖川有栖さんの『インド倶楽部の謎』をご紹介。

インド倶楽部の謎 国名シリーズ (講談社文庫)

 

あらすじ
神戸の異人館街の外れ。〈インド亭〉と呼ばれる屋敷では、家主である実業家の間原郷太を中心に毎月一度、インド好き同士の七人が集まり例会と称して食事を楽しむ会を開催していた。
ある日、例会の余興として、前世から自分が死ぬ日までのすべての運命が記されているというインドに伝わる「アガスタティアの葉」の公開リーディングをすることに。対象者の過去を次々と言い当て、前世での人となりや名前、自身が死ぬ日を手帳に書いて貰うなどし、その度の例会はつつがなく終了したが、後日「アガスタティアの葉」のリーディングを仲介したコーディネーターの出戸守が遺体となって発見され、さらにリーディングを受けた例会のメンバーの一人が殺害される。現場に残っていた手帳には被害者が死亡したと思われる日付と同じ日にちが記されていた。まさかこの死は予見されていたのか?
犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖は捜査(フィールドワーク)を開始するが、調べていく中で例会の七人のメンバーは“ある絆”で結ばれていることが明らかになって――。

 

 

 

 

 

13年ぶり!
2005年に発売された『モロッコ水晶の謎』以来、13年ぶりの有栖川版【国名シリーズ】です!
※【国名シリーズ】について、詳しくはこちら↓

 

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これで9作目となります。私はというと待ち望んでいたくせに一週間ほど発売されたことを知らずに過ごしていたのですが。なんたる不覚・・・!


こんなにも期間が空いてしまったことに対して、あとがきで有栖川さんは
「あれ、時間が経つのが早いな。えっ、なんで?」と思っているうちに歳月が流れていたのだ。感嘆。
とのこと。


まぁ【国名シリーズ】が出てなかったってだけで「作家アリスシリーズ(火村英生シリーズ)」はコンスタントに各出版社から刊行されていましたからね(^^;)

短編集が多い【国名シリーズ】ですが、今回は長編です。作者の有栖川さん曰く、「作家アリスシリーズ」は短編作品が多いので、数年前から長編を増やそうとしているとのこと。確かに『鍵の掛かった男』『狩人の悪夢』と長編作品が続いていますね。
他記事でも書いていたように、私個人は海外旅行を期待していたのですが、夢叶わず(笑)。

 

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今回は神戸が舞台です。
「作家アリスシリーズ」には大阪、京都、神戸とそれぞれお抱え(?)の捜査班がありますが、神戸が舞台って事で今回は樺田班。個人的に樺田班が好きなので嬉しかったです。他の班の人達が寛容で親切な刑事さんばかりなので、野上さんみたいに二人に嫌味言ってきたりする人がいると新鮮なんですよね。メリハリが利いた樺田班。今回は嫌みは控えめでしたけど。今作は野上さん視点のところもあります。毎回思うけど、野上さんってやっぱりツンデレ(笑)

 


有栖川ミステリ
『インド倶楽部の謎』という題名はエラリー・クイーンが書こうとしてやめた作品の題名から頂いているとのこと。作中に詳しい解説があるんですけども。そんなわけで、題名先行で書かれたお話らしいですが、読んでみての感想としては凄く有栖川さんらしいミステリだなと思いました。
インドという事で「アガスタティアの葉」だの前世だの荒唐無稽な事柄を扱っていますが、ロジックによって犯人にたどり着く過程や、犯人の一筋縄では理解しにくい動機、余韻が残る終わり方などなど。凄く有栖川作品らしさが溢れていますね。


そして、やっぱり火村とアリスの二人でのやり取りや捜査過程が抜群に面白いです。今回は最初っから最後までコンビで行動していて嬉しい。作品によっては火村が後半まで出て来なかったりするものもあるんですが、このシリーズは二人揃っているのがやっぱり楽しいし面白いですね。読む度痛感します。


今作は捜査(フィールドワーク)が始まってからは先が気になって一気読みって感じでした。犯人にたどり着くロジックも綺麗で個人的に好みです。

 

 


カレーを呼ぶ男
今作は長期シリーズならではの、長年読んでいるファンが楽しめる仕掛けがいつも以上に多かった気がしますね。「作家アリスシリーズ」は「学生アリスシリーズ(江神二郎シリーズ」のアリスが執筆しているというパラドックスな設定ですが、

 

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「作家アリスシリーズ」のアリスもフィールドワークに立ち会うたびにそれぞれの事件に名前をつけていたとか言って火村に軽い衝撃を与えるシーンがあります。今までの事件を振り返っての話がバーと続くのとかなんだかサービス精神を感じました。


“永遠の34歳”設定ということもあり、時事ネタも随所にあります。北朝鮮のミサイル話とかRADWIMPSの「前前前世」の話が出て来たりとか。「学生アリスシリーズ」とは違い、今現在が舞台なんだと強調されていますね。(「前前前世」は今作の“前世話”からのしゃれっ気でしょうけど)


そして、他作品でもやたらとカレーばっかり食べている火村とアリス。今作は題名に“インド”とついているだけあって、カレーは外せないっ!って感じで満を持して(?)作中で二回食べています。
「宇宙が誕生した瞬間から、お前と俺は今日これを食べると決まっていたみたいやな」
と、アリスも言っています。火村も「ここに至るには必然性があった」とか返している(笑)
今作は食事シーンが多かったですね。出だしも居酒屋でのシーンからでしたし。出て来るメニューがいちいち美味しそうでした。グルメ推理小説

 

 

 

 

 

 

 

以下若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前世
「アガスタティアの葉」って、私は何とな~く聞いたことがあるような無いようななボンヤリしたもので馴染みは全然無いのですが、世代によってはインドとイコールで連想するものなんですかね。「アガスタティアの葉」についてはお話の導入に使われていて、重要なのは〈インド倶楽部〉の七人が皆“前世で同じ時を生きた”という共同幻想で結ばれているという点です。


いい歳しした大人が七人も集まって何をバカな・・・って感じですが、この共同幻想は幻想を植え付けていた被害者の本性が明かされても最後まで揺らぐことはありません。被害者の坊津は相当上手いストーリーテラーだったらしく、色々と空恐ろしい限りなのですが(ホント、他にも色々と恐ろしいが被害者でした・・・)、犯人は坊津が信じ込ませた“前世”を理由に犯行に及んだ訳なので、悪趣味の一環で上手くやりすぎたせいで自身が命を落すことになったのは何とも皮肉な結果ですよね。

 

前世なんて火村はもちろん、アリスも真っ向否定の立場だろうってのはファンは了解しているところですが、〈インド倶楽部〉のメンバーの一人・佐分利が、輪廻転生の話の中で

「まさにそうです。転生を信じられたら、人は生き方を誤りにくくなります。凶悪事件のニュースを聞いた時、私たちは被害者に深く同情します。『気の毒に。どうしてそんな目に遭わなくてはならなかったのだろう』と。あれは因果応報というもので、理不尽な事件で命を落す人は、前世で理不尽に人を殺しているんですよ」

と、いうのを聞いてアリスが怒りを露わにするのですが。


私も読んでいて凄い腹が立ちましたね。もう怒っているアリスの意見に完全同意で。アリスはいつも作中で私の意見を代弁してくれて、もう大好きなんですけども(笑)


しかし、ここで語られている転生話は転生することが希望や救いになるといった言い方なので、輪廻転生からの「解脱」が最終目的の仏教の考え方とは別で、インドの原始宗教によせたものなんでしょうね。輪廻転生と言われると仏教のイメージが強いですけど、仏教では転生し続けることが苦しみだという考え方なので、上記の佐分利の意見とは真逆になる。

 

輪廻転生の話の延長でソウルメイトの話が出て来ます。火村とアリスがそう見えると。“ソウルメイト”とか出て来てちょっとビビっちまったんですが(笑)
あ、やっぱり初対面の人から見ても二人はそういう、ただならぬかんけ・・・いや、絆が深そうに見える・・・の、か(^^;)

 

 

 

物語を完成させるのは
ソウルメイトはともかく、近年の「作家アリスシリーズ」は読む度に「アリス~。なんて友人想いなんだ。感動するぞ」とか思います。前作の『狩人の悪夢』なんて泣きそうになりましたからね私。

 

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近年の作品では語り手のアリスの役割が前面に出されているものが多いように感じますね。今作でも事件関係者に

 

「謎を解くのは先生で、あんたが物語を完成させるんかな。それがコンビを組んでいる理由や」

 

と言われています。


それから、逮捕後の犯人に
「あんただけは、判ってくれるだろう」といった旨のことも。
通常の推理では到達出来ないであろう部分を、アリスは感じ取ることが出来るということなんですね。そして、火村はアリスのそういう部分を確りわかっているんだけど、アリス自身はまったくの無自覚でやってのけているという。
ただ名探偵の活躍を記する語り手ではなく、探偵役を、物語を、補っている登場人物の一人。侮れない(笑)

 

 


今回の『インド倶楽部の謎』もそうですが、やはり長編作品はシリーズ内での重要度が高いって気がしますね。シリーズのファンならばやはり必見。長編は外せません。(短編ももちろん面白いですけど)
是非『鍵の掛かった男』『狩人の悪夢』『インド倶楽部の謎』と続けざまに読んでシリーズの深みを味わって欲しいです。

 

ではではまた~