夜ふかし閑談

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『密室黄金時代の殺人』あらすじ・感想 とにかく密室バカな一冊!

こんばんは、紫栞です。

今回は、鴨崎暖炉さんの『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』について、感想を少し。

 

密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック (宝島社文庫)

 

あらすじ

三年前の冬、”日本で初めての密室殺人”が起こった。客観的な証拠から犯人は明らかであったが、現場の密室状態を誰も崩せなかったことから、裁判では「密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある」と判断され、犯人は無罪に。

この判決が下されて以降、日本では”現場が密室であれば無罪になる”との認識が広まり、密室殺人が多発。一年に起きる殺人事件のおよそ三割が密室殺人という、”密室時代”となった。

 

高校二年生の葛白香澄は、大学生の幼馴染みである朝比奈夜月に誘われて七年前に他界した有名推理作家が遺したホテル「雪白館」に泊まることになった。

しかし、到着したその日に密室殺人事件が発生。橋が落され、電話も通じずに孤立状態に陥った雪白館で次々と殺人が繰り返される。しかも、その現場はいずれも密室で――。

 

 

 

 

 

 

 

密室黄金時代

『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』は、2022年に刊行された長編推理小説第20回「このミステリーがすごい!」大賞・文庫グランプリ受賞作で、作者の鴨崎暖炉さんは今作がデビュー作とのこと。

 

一時本屋さんでよく平積みになっていましたね。タイトルや表紙が印象に残っていたので、Kindle Unlimitedで読み放題対象になっているのを発見して読んでみました。

 

この作品の面白いところは、なんといっても設定ですね。

タイトルの”密室黄金時代の殺人”ってどういうことだ?と思って読んでみたんですけど、密室殺人で無罪になったという判例によって密室殺人が横行している架空の日本が舞台になっています。

 

かつて、推理小説界では密室トリックものだらけの時代がありました。推理物と密室トリックがほぼイコールで、どの推理作家もアイディアを駆使してこぞって書き、小説でも漫画でもドラマでも、本格推理ものなら密室が出て来るのが当たり前、出てこないとガッカリするってレベルの、そんな時代が。

 

今でも根強い人気はあるものの、昨今は推理小説も多様化し、叙述ものや倒叙ものの台頭で「推理物=密室」のイメージは薄れてきていますが、今作ではかつて本格推理界であった「世はまさに密室黄金時代!」が現実世界で起こっている、ある種のファンタジー設定。

 

密室トリックが前ほど描かれなくなった要因の一つは、「必要性が無く、現実的でない」物語のリアリティ追求の妨げになってしまうところ。自殺に見せかける以外に密室にするメリットってないですし、不可能犯罪を示して何がどうなる訳でもない。わざわざトリックを用いて現場を密室にしたところでただの徒労でしょ?と。

それが、このファンタジー設定によってクリア出来ているってことですね。

 

密室殺人が横行しすぎているせいで、警察には『密室課』があるし、密室の謎を専門に扱う『密室探偵』がいるし、依頼されて密室殺人を実行する『密室使い』なんて輩もいる。法務省が定めた「密室分類十五種」なんてのもある。

本格推理物ファンなら思わずニヤリとしてしまう面白設定です。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハウダニット特化型小説

この密室特化型特殊設定によって、今作ではなんと六つも密室トリックが出て来ます。起きる殺人が当たり前に全部密室なんですね。こんなに密室まみれの長編を読むのは私も初めてです。350ページほどの作品でよくこんなにだすもんだ。

 

「最後の解決編で六つも密室トリックの説明するの?さすがにダルイ!」ってなりそうなところですが、密室トリックだけはその都度解答が比較的すぐに明かされるので大丈夫です。あけすけに言うと、クイズ問題の連なりのようになっている。最終解決編は「密室分類十五種」と照らし合わせていく~ってなって、正直「いや、ダル!」ってなりましたけど(^_^;)。

 

ハウダニットに重点を絞るためか、文章はかなりライトでコミカル、多くいる登場人物も名前が職業や役割をモロに表すものになっているダジャレみたいな親切設定で、クローズド・サークルな閉鎖空間で殺人が次々起きているのに不自然なほど緊迫感はなく、人物描写や動機も深くは描かれない。

 

100パーセント「密室」に振り切っているので、ガチガチの本格ものや物語の重厚感を期待して読むと裏切られますかね。

 

割り切ってしまえば、コミカルなやり取りなど素直に楽しかったです。謎解きの探偵役の設定も面白いですね。出て来る女性キャラクターが全員美人なのは呆れものでしたけど・・・。

 

密室トリックは王道の機械トリックが多い。機械トリックだと文章での説明が解りにくいし、やっぱりリアリティに欠けていて色々とツッコミどころも多いのですが、ま、そこら辺は御愛敬で。

個人的に、”あるも物”を多用されたのが萎えポイントでした。これとか形状記憶合金とか、ミステリで出されるとテンション下がるんですよね・・・。

 

他にも説明不足な点が多々あったのですが、今作はシリーズ化して続いているようですので、次作以降で明かされていくということでしょうか。

 

 

 

 

 

暇つぶしにサクッと読める、ミステリ初心者にも優しい「密室特化作品」となっているので、気になった方は是非。

 

 

ではではまた~