夜ふかし閑談

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『濱地健三郎の幽たる事件簿』7編の感想・あらすじ シリーズ第2弾!

こんばんは、紫栞です。
今回は有栖川有栖さんの『濱地健三郎の幽たる事件簿』(はまじけんざぶろうのかくれたるじけんぼ)をご紹介。

濱地健三郎の幽【かくれ】たる事件簿


幽霊を視る能力があり、心霊現象を専門に扱う探偵・濱地健三郎とその助手・志摩ユリエが様々な怪異に相対していく連作短編集で、2017年に刊行された『濱地健三郎の霊(くしび)なる事件簿』

 

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 に続くシリーズ第二作。今作は“幽たる”“かくれたる”と読ませるタイトルになっています。


単行本の装丁は前作とはチト違う感じに。文庫版の方のデザインの系統であるような気がするので、

 

 

今後はこんな感じで統一されるのかもしれませんね。前作の単行本の装丁も個人的には好きですけど。文庫や今作の装丁の方が作品雰囲気にはあっている気はします。

 

濱地健三郎は三十歳にも五十歳にもみえる年齢不詳のミステリアスダンディで、幽霊を視る能力や祓う能力の他に鋭い推理力のある探偵さん。霊媒師ではなく“探偵”なのがこのシリーズの特徴ですね。
志摩ユリエは絵が得意ということでボスや依頼人が霊視したモノをスケッチするという助手としての働きをしているのですが、シリーズ一作目からボスの仕事に同行するうちに能力が開花。今作ではもう、ボスほどではないにしても完全に“視える人”になっています。

 

 

 

 

 

 

前作同様、今作も七編収録


目次
●ホームに佇む
●姉は何処
●饒舌な依頼人
●浴槽の花婿
●お家がだんだん遠くなる
●ミステリー研究会の幽霊
●それは叫ぶ

 


一作目の「ホームに佇む」以外は怪談専門誌『幽』(2019年からは妖怪マガジン『怪』と合併して『怪と幽』という雑誌名になっています)に掲載されたもの。
「ホームに佇む」は『小説BOC』に寄稿されたもので、「山手線の駅を舞台にした特集を組むから、好きな駅を選んで書いてくれ」という依頼を受けて書かれたもので、他の作品より短めの20ページ少々。有栖川さんは鉄道ファンということもあり、電車関係の小説執筆をよく依頼される作家さんですね。


出張の度に東海道新幹線を利用するサラリーマンが、新幹線が有楽町駅を通過する際に、有楽町駅ホームに赤い野球帽の少年の幽霊を新幹線の窓から毎回必ず目撃。そのうち、少年の幽霊はサラリーマンに何か訴えかけるような眼差しを向けてくるようになり、悩んだ末にサラリーマンは濱地健三郎の新宿の事務所を訪れる--。


少年がホームに佇んでいる理由におかしみがあるお話で、短編としては「なるほど」というネタなのですが、最後の“幽霊に物品を渡せる”というのが個人的に少し納得出来ない。ま、心霊現象には現実の常識は通用しないのだと言われればそれまでなのですが・・・(^_^;)。

 


「姉は何処(いずこ)」は郊外の実家に住んでいた姉がある日突然行方知れずになり、只一人の肉親である弟が実家に戻って姉を毎夜捜索するなかで、同じ場所、同じ時間に毎日姉の幽霊が現われている事に気が付く。話しかけても応えてくれず、いつも同じところで姿を消してしまう姉の幽霊。弟は一刻も早く姉を見つけてやりたいと濱地健三郎に依頼する――。
てなお話。


この本に収録されている7編のなかでは一番探偵小説的要素があるお話で、心霊現象を扱っているものの、推理して、犯人に罠を仕掛けて・・・と、いつもの有栖川有栖的本格推理小説短編らしさに溢れている作品。慣れているぶん、ファン的には有栖川さんの短編だとこういう展開を期待してしまうところですね。しかし、あくまで怪談話として怪談専門誌『幽』に掲載された作品ですので、油断していると最後でゾッとさせられます。ユリエちゃんに一抹の不安を感じる・・・。

 

 


「饒舌な依頼人は濱地健三郎の事務所にやってきた依頼人がやたらと饒舌に一人でお喋りするという、言ってしまえばそれだけのお話。


怪談話に違いはないのですが、コミカルさがあってクスッと笑えるような“オチ”がついています。そのオチや話に作中でユリエちゃんが駄目だしするのがさらに可笑しい。霊視能力があるとこんな事にも遭遇するよ~っていう濱地探偵日常の一コマってな感じのお話で、濱地先生は流石になれた対応をしています。本の中盤でこのようなお話が入っているのはバランスが良くて短編集の愉しさの一つだと思います。

 

 


「浴槽の花婿」は資産家の男性が浴室で死亡。事件か?事故か?被害者の弟は結婚したばかりだった兄の妻が犯人だと捜査一課刑事である赤波江に訴えるが、その弟には兄の幽霊が恨めしそうな顔で“憑いて”いた。犯人は若い妻か?金に困っていた弟か?
な、お話。


ミステリーとしては「どっちが犯人か」という、フーダニットの二択版。容疑者の一人に被害者の幽霊が憑いているという状況をとっかかりに話しが展開されるのが心霊探偵ならでは。
被害者の幽霊が恨めしそうな顔で憑いているのなら、憑かれているヤツが犯人だろうと単純に思うところですが、もちろんそこには捻りがある。結末は恐くも哀しく憐れで、その後がどうなったか気になります。
シリーズ一冊目でも登場した濱地先生と交流のある刑事・赤波江さんと(赤波江さんはこの本では登場するのは今作のみ)、ユリエちゃんが交際している大学時代の漫画研究会後輩・進藤叡二君が登場。

タイトルの「浴槽の花婿」は100年以上前にあった保険金目当ての連続殺人事件に牧逸馬がつけた名「浴槽の花嫁」からとられています。 

浴槽の花嫁 (現代教養文庫)

浴槽の花嫁 (現代教養文庫)

 

 三人の新妻を浴槽での戯れに足を引っぱって溺死させ、入浴中の事故死を装って保険金をせしめていたという事件。そんなに認知度は高くない名称だとは思いますが、私は偶々別の小説作品で紹介されていたのを読んだことがあったので元ネタにすぐ気づくことが出来、なんだか嬉しかった。

 

 


「お家がだんだん遠くなる」は、毎夜寝る度に幽体離脱して(魂が?)どこかに連れて行かれそうになる女性が助けを求めて濱地健三郎の元に訪れるお話。
幽体離脱がテーマで、このシリーズでは珍しくタイムリミットがある切迫したお話。濱地先生とユリエちゃん、おまけで進藤君も駆けずり回って捜査しています。このお話は本当に怪談でミステリー要素は薄いですかね。終わり方が苦々しい。
こちらのタイトルは童謡の『あの町この町』の歌詞の一節から。


童謡 あの町この町 平井英子 野口雨情作詞・中山晋平作曲

この童謡、私は知らなかったですね。世代によるのかな?それとも地域?作中では濱地先生もユリエちゃんも、皆が知っている童謡として紹介されていましたが。

 

 


「ミステリー研究会の幽霊」は、高校のミステリー研究会の部室で前々から起こっていた超常現象が新しい部員を一人迎え入れてからエスカレートして・・・と、いうお話。


このミステリー研究会は推理小説ではなく超常現象を研究する会とのことで、紛らわしい(^_^;)。
学園ものでお話の大半は高校生の視点で語られるので、終盤でやっと濱地健三郎シリーズなんだと分かる仕組み。物理学の先生が顧問で、噂を聞きつけ心霊探偵の濱地健三郎に依頼するのですが、作中でも言及されていますが物理学教師なのにかなり柔軟な考えで驚き。普通は生徒の話を疑うだろうし、“心霊探偵”なんて胡乱なものに頼ろうなんて考えもしないと思う。ネタとしては学園ものホラーでよく出てくるものですね。恩田陸さんの『六番目の小夜子』とか、

 

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綾辻行人さんの『Another』とか。

 

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この手のお話はオカルト好きだとやはりワクワクする。学園ホラーは独特の雰囲気が良いですよね。

 

 


「それは叫ぶ」は夜道で得体の知れないモノに触れられてから発作的な自殺衝動に襲われるようになってしまった男性のお話。


このお話は完全に怪談で、犯人だの隠された真相といったミステリー要素は皆無ですね。今作ではなんと、濱地先生は拝み屋からの紹介で事に介入することになった設定。商売敵かと思いきや、濱地先生は拝み屋界隈でも一目置かれる存在なんだそうな。この拝み屋は凄腕なんだそうですが、拝み屋にも視えなかった“アレ”をユリエちゃんは視ることが出来ていて、あらためて能力の開花が凄まじいのだということが分かる。
意味も理由もない悪意に突如襲われる理不尽さというのは、通り魔事件も模してのもの。許しがたく、ただただ恐ろしい怪異が描かれています。

 

 

 

 

 

 

 

 

幽と解
怪談専門誌に掲載されている作品ですので「怪談」を前提に書かれているのですが、このシリーズのコンセプトは怪談とミステリー「両者の境界線において新鮮な面白さを探すこと」。なので、心霊現象を前提としたなかで謎解きが展開されるのが主で、シリーズ第一冊目『濱地健三郎の霊(くしび)なる事件簿』の方では犯罪を扱っているものが多く、捜査一課の刑事さんも度々登場していた訳ですが、模索中だということもあって全体的にぎこちなさが少しありました。
今作の『濱地健三郎の幽(かくれ)たる事件簿』では心霊現象と謎解きを融合させるという形式に囚われずに自由度が増し、バラエティに富んでいて、短編集として読んでいて面白かったです。

ミステリー要素よりも怪談に重きが置かれている話が多かったですが、無理に謎解きを絡ませようとするよりこの方が良いのではないかと個人的には思いました。推理小説作家で有名な有栖川さんですが、怪談話も十分に上手い作家さんですからね。

 

 

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心配 

やはり、気になるのは助手の志摩ユリエ。

上記したように濱地先生の仕事に同行するうちに霊視能力が向上していっているのですが、ユリエちゃんはその事を嬉しく思っている気持ちの方が強いみたいなんですよね。もっともっと先生のお仕事の役に立ちたいというのと、“未知の世界があるのを知って、自分が広がったみたいに思ってる”と。それを聞いて交際相手の進藤君は「広がらなくてもいいでしょう」と、ごもっともなことを言っている訳ですが(^^;)。


確かに心霊世界なんて広がる必要はないし、助手をするなかで何度も恐い目に遭っているのに、好奇心ばかりが勝って喜んでいるユリエちゃんは実はかなり危うい状態なのではないかと感じる。せっかくの進藤君の注意も「やきもちかな?」と心中で軽く済ましてしまっていますし、読者としてもこのまま濱地さんの助手やってて大丈夫なのかと心配になってしまうところです。


しかし、能力はユリエちゃん自身が潜在的に持っていたものだし、視えるようになってしまった以上、対処を心得ているプロフェッショナルの濱地さんの元にいるのが一番安全だという結論がこの本に最後に収録されている「それは叫ぶ」で示されていて「なるほどな」という感じ。

 

 

いずれにせよ、シリーズはまだまだ続きそうなので今後も楽しみです。前のブログでも書きましたが、このシリーズで長編も読んでみたいなぁ~ともやっぱり思いますね。勝手に期待しときます(^^)。

 

ではではまた~

 

 

 

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