夜ふかし閑談

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『烏は主を選ばない』原作小説2作 アニメとの違いを解説!

こんばんは、紫栞です。

今回は、阿部智里さんの『烏に単は似合わない』『烏は主を選ばない』について少し。

 

烏は主を選ばない【新カバー版】 (文春文庫)

 

 

和風ファンタジー

『烏に単は似合わない』『烏は主を選ばない』は阿部智里さんによるファンタジー長編小説シリーズで、2024年5月時点で外伝も含め12冊刊行されている八咫烏シリーズ】の始まりの二冊。

『烏に単は似合わない』が一作目、『烏は主を選ばない』が二作目ですね。

 

シリーズ第一弾である『烏に単は似合わない』は2012年に発表された作品で、阿部智里さんのデビュー作であり、第十九回松本清張賞受賞作。大学在学中の二十歳での受賞で、これは現時点で松本清張賞の史上最年少受賞とのこと。

 

私はいつもミステリ小説ばかり読んでいて、ファンタジー小説はそこまで得意ではないのですが(特殊設定ものミステリでのファンタジーなどは読むのですが・・・)

 

2024年4月からNHKで『烏は主を選ばない』のタイトルでアニメ放送が開始されまして、

 

それを観て興味が湧いたのと、Kindle Unlimitedでこの二冊が読み放題対象になっていたこと、

 

 

 

一作目が松本清張賞を受賞していると知って読んでみました。

 

松本清張賞ってことは、良質なミステリ要素があるのか!?と思いまして。ミステリ好きなので一気に興味を持ってしまう。

 

しかし調べてみたところ、松本清張賞は当初こそ「推理小説歴史小説、時代小説」を対象にしていたものの、第十一回以降は「ジャンルを問わない広義の長編エンターテインメント小説」を対象としているそうで、ミステリに限定された賞ではないようです。確かに、松本清張はジャンル問わずに色々書いていましたからね。

でも、『烏に単は似合わない』は私が期待した通りのミステリ要素のあるもので大変満足致しました。

 

 

舞台は「山内」(やまうち)という、人の姿に転身出来る八咫烏が住まう世界。そこでは全八咫烏の長として「金烏」(きんう)が民を統治している。

ファンタジーですと設定や世界観を掴むのに苦労したりしますが、基本的にはこの世界の住人は人の姿で生活しているので、「金烏」が帝で、朝廷があって、厳しい身分制度があって・・・と、日本の平安時代の仕組みや生活とほぼ変わらないので、取っつきやすいかと思います。時代小説が好きな人はより理解しやすいのではないかと。

 

設定や雰囲気から、小野不由美さんの十二国記を連想する人も多いでしょうが、『十二国記』はもっと壮大でファンタジー色が強い作品なので印象は大分異なります(私は昔アニメを観ていただけですが・・・)。

とはいえ、『十二国記』の影響は確実に受けているのだろうなと思いますが。私はファンタジーに詳しくないですけど、『十二国記』が日本のファンタジー小説界に与えた影響は大きいのだろうということは何となく分かる・・・。

 

 

 

 

 

 

 

シリーズ序章

一作目の『烏に単は似合わない』は、簡単に言うとこれから「金烏」となる予定である若宮の后選び話。※下の画像は旧カバー版

 

 

山内では、民を統治する中央の宗家の他に大まかに東家、西家、南家、北家と、四つの大きな家があり、各家から選出された四人の姫が宮邸の桜花宮に登殿。若宮はこの四人の姫から后を選ぶ決まりとなっており、姫達は家からの期待を背負い、后に選んでもらうべく己を磨き、知略をめぐらす。

 

あけすけに言うなら長の女選びの場ってことで、大奥みたいなイメージですね。

 

女の世界の闘い!恋の鞘当て!なのですが、この物語、肝心の若宮が終盤まで桜花宮に来てくれないので、姫達はひたすら待ちぼうけを食らっている状態。最終的に確り后選びはされますが、身体の関係云々のやり取りはないので、大奥のような生々しさはないです。

 

物語は主に、四人の姫のうちの一人で、予定されていた姉の代わりに急遽登殿することとなった東家の姫・あせびの視点で描かれています。

急だったので姉のように后教育を受けておらず、病弱で幼少からあまり外に出ない生活をしていたという設定でして、世間知らずのお姫様がバチバチ女の園で翻弄されるってな具合に物語が展開していきます。

 

若宮が来ない桜花宮で姫達が腹の探り合いをしている最中、次々と謎の事件が起きてーー・・・という、ミステリ要素の強い作品となっていますね。

 

 

二作目の『烏は主を選ばない』は、『烏に単は似合わない』と同一時間軸での物語で、ひょんなことから若宮の側仕えをすることとなった北領の地方貴族の次男坊・雪哉の視点で物語が展開される。※下の画像は旧カバー版

 

 

一作目の『烏に単は似合わない』を読んだら誰もが思うこと、「若宮、せっかく集められた姫達ほったらかして何してんの?」の、疑問に答えてくれる作品。

姫達が桜花宮ですったもんだしていた最中、若宮は若宮で色々したりされたりで大変だったと。若宮サイドの朝廷内でのすったもんだが描かれる。

 

一作目からは一転して主従関係ものとなっていますが、今後の展開からするとシリーズとしてはこちらが本流。一作目の方が番外編って感じですね。なので、アニメのタイトルもこちらの方を採用しているのだと思われ。

 

ミステリ要素は薄めで、『烏に単は似合わない』での答え合わせと、若宮と雪哉の主従関係を愉しむのがメイン。どんでん返しはありますが、前作を読んだ後のためか、読んでいて予想がついてしまいました。

 

 

 

この二作は二つで一つの作品で、シリーズの前日譚的な位置付けのものです。この二作で若宮は后と近習を得て、三作目から外敵との戦いと山内の危機が描かれるシリーズ本格始動となる。

 

三作目の『黄金の烏』まで読んだのですが、

私は今のところ圧倒的に一作目の『烏に単は似合わない』が好きです。

予想外の展開、キャラクターの意外な動向、終盤での謎解きのくだり、味わいのある終わり方。大変好みで気に入りまして、その興奮そのままに二作目三作目と読み進めました。

 

しかし、各サイトのレビューを見てみると、シリーズの中で『烏に単は似合わない』が一番好きという人は少数派のようですね・・・。ファンタジー目的で手に取った人にとっては、ミステリ展開が「思ってたのと違う!」ってなるらしい。確かに、ミステリに特別関心が無い人にとっては不満なのかも。

 

まだこの後もシリーズを読み進めるつもりでいますが、少し気になるのは視点が定まらない文章の書き方ですね。誰のどの心境を読んでいるのだか混乱してしまうので、語りの視点は固定して欲しいなぁと思う。

あと、然るべき場面ではもっと格式張った口調の方が雰囲気が出るのでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

アニメと小説と

今放送中のNHKアニメはこの二冊を一つにまとめたストーリーとなっています。同一時間軸での物語なので、連続アニメでやるには分けない方が良いという判断なのでしょうかね。元々、原作者の阿部智里さんも最初は分けずに一つの作品で書くつもりだったらしいです。ま、アニメで原作通りのストーリー展開をやると説明が面倒ですからね・・・。

二作品を一つに構成し直しているので、必然的に細かい部分が色々と端折られています。詳細を知りたい人は是非原作を。

ファンタジー小説は世界観をのみ込むのに一苦労するので、アニメで映像イメージを掴んでから読むと、より原作小説にも没入出来るのではないかと思います。私自身、最初にアニメ観ておいて良かったと思いました。

 

『烏に単は似合わない』も、『烏は主を選ばない』も、松崎夏未さん作画で漫画化されていますが、

 

 

 

 

小説の表紙絵とも、漫画とも、アニメのキャラクターデザインは異なりますね。アニメだと四人の姫がめっちゃパーソナルカラー!って感じ。衣装がちょっと中華っぽさ入っているので、もっと日本の平安時代衣装そのままでやって欲しかった気が。

私は南家の姫である浜木綿が好きです。女性が惚れる女性ですよね。アニメ観てただけの時も好きでしたが、原作読んでもっと好きになりました。

 

エンジンがかかるまでに結構時間がかかる作品ですので、途中でアニメ観るのをやめてしまう人もいるかも知れないですが、終盤に面白さが詰まった作品ですので是非是非最後まで観て頂きたく。色々と騙されますよ。

 

アニメと小説、両方楽しんでいきたいと思います。

 

 

 

 

ではではまた~