夜ふかし閑談

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『法廷遊戯』原作小説 ネタバレ 感想 面白いけど、怒りが湧く法廷ミステリ

こんばんは、紫栞です。

今回は、五十嵐律人さんの『法廷遊戯』について感想を少し。

法廷遊戯 (講談社文庫)

 

あらすじ

法都大ロースクールの学生達の間では、「無辜(むこ)ゲーム」という日常で起こった揉め事を、独自ルールで定めた模擬裁判によって決着を付けるゲームが行なわれていた。

ある日、このロースクールに通う学生である久我清義(くがきよよし)に「無辜ゲーム」が仕掛けられる。それは清義と法都大同級生の織本美鈴(おりもとみれい)、二人の過去に犯した「罪」を示唆するものだった。

嫌がらせのように事件は続き、清義は法都大ロースクール異端の天才で「無辜ゲーム」の絶対的審判者・結城馨(ゆうきかおる)に相談を持ち掛ける。

しかし、事態は思わぬ方向へと進み――。

 

 

 

 

 

 

法廷ミステリ

『法廷遊戯』は2020年に刊行された長編小説で、第62回メフィスト賞受賞作。五十嵐律人さんのデビュー作なのですが、なんと、五十嵐さんはこの作品を執筆当時現役司法修習生。その後、無事大学を卒業し司法試験に合格。現在は弁護士として法律事務所に所属しつつ小説を執筆されています。

 

『元彼の遺言状』

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新川帆立さんも弁護士をしながらの作家デビューでしたが(※現在は弁護士を休職して作家業に専念)、司法修習生時代に小説家デビューし、その後確りと弁護士にもなっているとは驚異的ですな。

 

2023年11月に実写映画公開予定。

 

houteiyugi-movie.jp

 

漫画化もされています。

 

 

映画化とメフィスト賞受賞作ってことで、気になって読んでみました。

 

五十嵐律人さん曰く、この小説は法律学の魅力を伝えたくて書いたとのこと。

物語は第1部「無辜ゲーム」と第2部「法廷遊戯」の二部構成となっていて、第1部では模擬法廷ミステリが、第2部では本格的な法廷ミステリが描かれるという変わった構成で、著者の法律知識や経験が存分に発揮された物語となっています。「無辜」というのは“罪のないこと”という意味ですね。

 

本の謳い文句には

 

法律家を志した三人。

一人は弁護士となり、

一人は被告人となり、

一人は命を失った。

謎だけを残して。

 

と、書かれているのですが、この状況に至るのは第1部の最後でして、簡単に言うと第1部「無辜ゲーム」は丸々この物語の“前ふり”。

 

法律の専門用語が多く、「無辜ゲーム」の独自ルールも小難しくて最初は取っつきにくいところがありますが、展開の先が読めないのと、第1部で張られていた伏線が後半の第2部で次々に回収されていくのが面白い。

法廷ミステリというだけでなく、苦々しい青春や「罪」と「罰」、「制裁」と「救済」、人が人を裁くことなど、法律を介して人間ドラマと議論が描かれる作品となっています。

 

メフィスト賞受賞作にしてはクセが強くなく、映像化されるのも納得の作品ですね。

メフィスト賞ってなると、クセ強作品を期待する人が多いかとも思いますが。私自身、メフィスト賞ですと奇想天外系のミステリを期待してしまう。

 

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前半は展開が予想出来ないのが売りの一つになっている作品だと思うので、詳しいあらすじや前情報などは知らないまま読むのがオススメ。上記した本の謳い文句も知らない方が驚きは増すと思うのですが、帯に堂々と書かれていちゃしょうがないですね。

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同罪報復

この『法廷遊戯』は久我清義織本美鈴結城馨、この三人の間での閉じた物語となっています。

 

第1部の「無辜ゲーム」では清義と美鈴の過去の「罪」についてを仄めかす嫌がらせやストーキングが相次ぎ、その度に無辜ゲームで模擬裁判が行なわれていくのが一連の流れとなっています。

ずば抜けて優秀な結城馨の助言により、一つずつの事件の真相は明らかになっていくものの、肝心の黒幕へはたどり着けないままに卒業を迎えますが、ここで第1部は唐突な結末を迎える。

模擬法廷室で結城馨が刺殺体で発見され、犯人として織本美鈴が逮捕されるのです。そして美鈴は、自分の弁護人として清義を指名する。

 

 

清義と美鈴をターゲットにした事件が続いていた中で、関係のない善良な第三者だったはずの馨が急に殺害されてしまう第1部の終わりは衝撃です。まさに「え?何で?」ですね。馨は魅力的な人物だったので、単純にショックだというのもある。

 

第2部を読み進めていくと、これがなるべくしてなった、仕向けられた結果だということが明らかになっていく。

 

 

久我清義と織本美鈴は同じ児童養護施設出身者。二人は恋人同士でも家族意識がある訳でも無いが、養護施設時代に起こった事件により断ち切れない絆が芽生え、その後、二人そろって法律家を志し、その資金を貯めるために犯罪行為を一緒に繰り返していた。共犯関係を持続させることで、二人の絆はますます強固なものになっていったのですね。

 

二人が行なっていたのは「痴漢詐欺」。二人で役割分担し、引き際を見極めることで途中まで上手くいっていたものの、ある時決定的な出来事が起こる。「冤罪」を発生させ、一人の警察官とその家族の一生を台無しにするに至りますが、二人は真実を誰にも告げずに法都大ロースクールへと進学した。

 

第2部に入り、清義が調べを進めていくと、馨が二人が陥れた警察官の息子だった事実が判明する。

 

ここまでくると、おぼろげながらどのような目的で起された事件なのか読者にも予想がついてくる。すべては、父を陥れた二人と司法制度に法廷という場を使って正しい制裁を与えたいと考えた馨による企み、遊戯だったのですね。

 

父の冤罪にショックを受け、法律学にのめり込んだ馨は「同罪報復」の考えに固執する。「同罪報復」と言われるとイメージとしては「目には目を――」といった、やられたらやり返すというどこか野蛮な解決法だと捉えがちですが、作中で馨は「同罪報復は復讐ではなく寛容の論理」だと説く。

 

「自分の目を潰した犯人を差し出されて、好きに復讐していいと言われたとしよう。刑罰が存在しない無秩序な世界だったら、半殺しにするか、それこそ命まで奪いかねない。でも、奪われた視力の対価に命を求めるのは、さすがにやりすぎだ。視力の対価は、視力を奪うことで許してあげなさい。それが、目には目をの意味だよ」

 

憎いはずの二人と学生生活を共にしながら、馨はこの“寛容の論理”にこだわり続け、考えぬいた末にこのようなまどろっこしい計画を立てた。

 

 

 

 

傲慢

譚的に言うと、すべて馨の手のひらで踊らされていたという事件内容なのですが・・・どうなんでしょうかね。馨がやろうとした制裁は“寛容の論理”なのでしょうか。

公平さを第一条件として掲げているようでいて、やはりとても傲慢なものだという気がする。馨自身が選んだ最後も含めて。

人が人を裁くの自体が傲慢だと言われればそれまでですが。

 

 

それ以上に感情移入出来ないのが、清義と美鈴。

この二人が引き起こした痴漢冤罪が酷すぎて、この事実が分ったところから読んでいてムカムカしっぱなしでした。最低ですよ、最低。

犯罪行為でもしなきゃ自分たちには資金を集めることは無理だったとか何だとかクドクド地の文で語っていましたが、絶対そんなことないですよ。二人とも司法試験に一発合格出来る頭を持っているのですから、合法的に稼ぐ方法がいくらでもあったと思う。別に現役合格に拘る必要もないし。ホント、犯罪者の言い訳でしかない。

 

「大丈夫。君はやり直せる」と言われてカッとなったという美鈴ですが、実際、十分にやり直せますよ。貴方のせいで無実の罪で逮捕されることになった警察官よりはね。

 

一人の善良な警察官をあんな目に遭わせておいて、懲りずに法律家になろうとするその神経も信じられないし、美鈴よりも外道なことをしているくせに、まるで無関係のように弁護士事に取り組む清義には虫酸が走る。

 

馨の父親も、警官なのに何であんなにすんなり認めてしまったのかと思う。もっとちゃんと無実を主張していれば、警察側も身内から犯罪者なんて出したくないからもっと丹念に捜査したはず。あの捏造された証拠とか、ちゃんと調べれば確実にボロが出るだろうに。

あのお母さんはお母さんで、おとなしすぎるというか何というか。なんで二人に対して怒りをぶつけないのだろう。私なら絶対に許しませんよ。

 

 

「罪」の内容もさることながら、もっともムカムカさせられる原因は二人が悔いている描写がほぼないところですね。

なので、最後に清義がする選択もかくあるべきではあるのですが、心情としては唐突に感じてしまう。

美鈴も最初と最後で言い分が矛盾していますし、このような心情が大きく左右する物語なら、もっと説得力のある人間描写が必要だと思います。

 

描写については、脇役達もあまり物語に活かせていないように感じました。サクとかトオルとか、別に登場させる必要ないのでは?お墓の話は良かったですけどね。

 

 

最後のどんでん返しはミステリとしても物語としても良いんですけど。良いんですけど、よりムカムカはします

 

結局、清義も美鈴も馨も、三人とも傲慢だなって。

このラストでムカムカする以外に思ったのは、罰を受けて罪を償うチャンスが与えられるのは、恵まれたことなのだなということですね。

 

 

個人的に痴漢冤罪は卑劣で許しがたい犯罪だという思いが強いため、読んでいて必要以上に怒りが湧いてしまいましたが、構成が見事なのと、作者が意図していた“法律学の面白さ”は間違いなく愉しめる作品で読み応えがあり、色々と考えさせられました。

 

 

映画化で気になった方は是非。

 

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ではではまた~