夜ふかし閑談

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【小市民シリーズ】4作品まとめ紹介 〈冬季〉とアニメ化前におさらい!青春スイーツミステリ

こんばんは、紫栞です。

今回は、米澤穂信さんの【小市民シリーズ】をご紹介。

 

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

 

小市民シリーズとは

【小市民シリーズ】は米澤穂信さん初期の代表作である2大青春ミステリ小説シリーズの内の一つ。※もう一つは【古典部シリーズ】ですね。

 

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シリーズ第一作が刊行されたのが2004年で、今からおよそ20年前。その語、2006年に二作目、2009年に三作目と続けて刊行されましたが、それ以降長らく音沙汰無し状態が続き、11年後の2020年に番外編の作品集発売。

 

やっとシリーズ再始動か!?と思いきや、また4年音沙汰無しだったのですが、なんと、2024年7月にこのシリーズを原作としたアニメ放映が決定

shoshimin-anime.com

 

そして、小説の方も本編の完全新作「冬季限定ボンボンショコラ事件」が4月に発売予定とのことで「やっとか~」と、一報を聞いて歓喜いたしました。

 

www.tsogen.co.jp

 

 

しかしながら、番外編の短編集はともかく、本編の三作品は15~20年前で内容をかなり忘れてしまっているので、改めて再読。記事にまとめつつ、今一度このシリーズについておさらいと考察をしてみたいと思います。

 

 

“恋愛関係にも依存関係にもない互恵関係にある”同級生、小鳩常悟朗と小佐内ゆきの二人が、高校生活を送る中で遭遇する些細だったりきな臭かったりする様々な謎・事件を、解いたり籠絡したりするシリーズ。

 

「互恵関係」とは聞き慣れない言葉ですが、意味は利益を与え合い、損をしない関係のこと。

 

小鳩常悟朗は並外れて推理力が高い男子。様々な事に首を突っ込んでは謎を解き、皆の前で披露するのに快感を覚えていましたが、中学時代にその気質のせいで痛い目に遭い、出しゃばることをしない、穏やかで慎ましい「小市民」を目指す。

 

ホームズ的“推理のひけらかし”ですね。ホームズは探偵だし、高機能社会不適合者として突っ走りますが、小鳩君は学生生活を送る少年。“ひけらかし”は学校というコミュニティでやられると鬱陶しいし不快なものだと気がついた思春期ボーイの小鳩君は、謎から回避して自分の気質を封印し、普通の学生として社会に適合しようと努める。

 

そんな小鳩君と中学三年生の時から互恵関係を結んでいるのが小佐内ゆき。彼女もまた特殊で厄介な気質を持ち合わせており、封印するべく「小市民」であろうとしている。

 

小鳩君と小佐内さんは目的を同じくする同志。何かから逃げたいときはお互いの存在を言い訳に使い、楯にする。二人一緒に行動することで助け合い、本来の気質が暴走しないように互いに見張り合う関係。

なんだけれども、頻繁に事件に遭遇してしまって・・・なかなか二人が目指すところの「小市民」にはなれないのでありました――・・・

 

こんな具合に、少し特殊な関係の男女コンビが織り成すミステリシリーズです。

 

また、小佐内さんが大のスイーツ好きという設定でして、美味しそうなスイーツ描写があるのもシリーズの特徴の一つ。本のタイトルには必ずお菓子の名称が含まれています。

 

青春×スイーツ×ミステリ

 

と、一見ライトなミステリですが、それだけではない米澤穂信作品特有のほろ苦さや毒っ気もちゃんとあるので必見。

 

主要二人の他にレギュラーで登場するのは小鳩常悟朗の馴染みで“まぎれもなく良いヤツ”、荒事に担ぎ出されがちな島健ぐらい。

 

基本的に、このシリーズは探偵役の小鳩常悟朗による一人称語りが主です。小佐内さんの心情は意図的に全く描かれておらず、得体の知れないミステリアスな存在として終始読者を惹きつけています。

 

 

 

 

 

 

 

 

シリーズ順番

では、刊行順にご紹介。

 

●「春期限定いちごタルト事件

 

目次

プロローグ

羊の着ぐるみ

For your eyes only

おいしいココアの作り方

はらふくるるわざ

孤狼の心

エピローグ

 

短編集。高校入学からの春の出来事・謎解き話が時系列順に描かれています。お話しはそれぞれ単体で楽しめるように描かれていますが、ところどころラストのお話への伏線が張られているので長編ともいえる構成。

 

 

●「夏期限定トロピカルパフェ事件

 

目次

序 章 まるで綿菓子のよう

第一章 シャルロットだけはぼくのもの

第二章 シェイク・ハーフ

第三章 激辛大盛り

第四章 おいで、キャンディをあげる

終 章 スイート・メモリー

 

長編。とはいえ、各章で謎解きが用意されているので連作短編風味。高校二年生になった二人の夏休み中の出来事が描かれる。

 

 

 

●「秋限定栗きんとん事件」

 

 

 

 

目次

第一章 おもいがけない秋

第二章 あたたかな冬

第三章 とまどう春

第四章 うたがわしい夏

第五章 真夏の夜

第六章 ふたたびの秋

 

長編。上下巻で今のところシリーズ最長の作品。描かれる次期も高校二年生の秋~三年生の秋までと、約一年間の出来事で最長時間となっています。

 

 

「巴里マカロンの謎」

 

収録作

巴里マカロンの謎

紐育チーズケーキの謎

伯林あげぱんの謎

花府シュークリームの謎

 

番外編で短編作品集。一作目~三作目までの間と、その後にあった細やかな謎解きエピソードが収録された一冊。各タイトルはクィーンの国名シリーズを意識したものですね。

この本については、詳しくはこちら↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 

以上。2024年2月現在で四冊。

 

 

 

 

以下、ネタバレ含みますので注意~

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の高校生活と互恵関係

このシリーズ、

 

春期限定いちごタルト事件」では高校一年の春、詐欺事件に関わって二人とも本来の気質が出てしまって反省。

夏期限定トロピカルパフェ事件」では高校二年の夏休み中、誘拐事件が起こり、その事件の真相をきっかけに小鳩君が小佐内さんに互恵関係解消を提案し、二人は別れることに。

「秋限定栗きんとん事件」では高校二年生の秋~高校三年生の秋までの約一年間、連続放火事件を追った末に二人は改めて互いの存在の必要性を再認識。ふたたび互恵関係を結ぶ。

 

大まかにはこういった流れになっております。

 

日常ミステリでありながら、詐欺・誘拐・放火と、どの本も最終的にはモロに犯罪絡みの事件に関わる「小市民」なはずの二人。

完全な日常ミステリである【古典部シリーズ】とは似ているようでまったく違うのですね。テイストとしては近年開始された【図書委員シリーズ】に近いかと思います。

 

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一作目でまず二人の関係がどんなものかを示し、二作目で片方がルール違反をしたために互恵関係が破綻して別れる、三作目で互いに別の人と一年間過した結果「あなたが、きみが、いまのところ最善の相棒」と気がついて関係修復。

 

このシリーズでテーマとして描かれるのはやはり“互恵関係”。高校生活を通して二人の関係性の変化を追っていく青春物語なのです。

 

学校ではいつも二人で行動しているため周囲にはカップルだと思われているし、そう思わせておいた方が言い訳に使うときに都合がいいのでそのままにしているが、あくまで利益ありきの関係で恋愛感情はないよ~という「互恵関係」。

 

しかし、放課後や休みの日にスイーツを二人で食べに行く場面などが頻発するので、読者的には最初からこの「互恵関係」って疑問なんですよね。「小市民」のスローガンも。

小鳩君の語りを読んでいても正直、よくわからないし。新手の中二病的といいますか、子供がひねくれた考えを持ち出して態々事態を小難しくしている印象。

 

三作目の「秋限定栗きんとん事件」でようやく、

 

”そうじゃない。必要なのは「小市民」の着ぐるみじゃない。

たったひとり、わかってくれるひとがそばにいれば充分なのだ、と。”

 

やっと気がつく訳ですが。

頭がいいのに、このシンプルな答えに行き着くのに三年間かかっている。ま、これが青春。思春期なんでしょうね。どんなに大人びていても子供は子供。

 

 

 

来る冬季!

「お!自覚もできたし、次が楽しみ!」と、読者がなったところで、上記したように、このシリーズは長らく音沙汰なし状態になっていました。ヤキモキさせられたというものです。

 

2024年、やっとやっとで「冬季限定ボンボンショコラ事件」が読める!

 

タイトルが春夏秋ときているため、読者の間ではずっと「冬季限定」がシリーズ最終作となるのだろうと言われてきました。しかし、特報の文章を読んでみると「最新作」「四部作〈冬〉」とは書かれているものの、「シリーズ完結」という文字は見当たらない。

ひょっとして、四部作刊行後にも同シリーズで何か予定しているのですかね?作品集に収録されている「花府シュークリームの謎」ではもう高校三年の正月になっているので、卒業までは必ず描かれると思うのですが。

 

一作目「春季限定いちごタルト事件」のラストで、小佐内さんが「自分に危害を加える人間を、謀をめぐらして完膚なきまでに叩き伏せることに快感を得る」という復讐大好き娘だと判明。

小市民を目指す同志でありつつも、謀っている側と謎を解く側で腹の探り合いをする状態になったりするのもこのシリーズの醍醐味。

そんな二人が小市民になるべく互恵関係を結んだのは中学三年生の時とのことですが、そのきっかけとなった過去の出来事の詳細については未だに双方明かされずじまいのまま。

「冬季限定ボンボンショコラ事件」ではそこら辺のことについても満を持して語られると思いますので、とても楽しみです。

 

 

シリーズ開始が20年前ですので、読み返してみて結構時代を感じました。携帯電話はもちろんですが、学校や公共機関の運用とか。この20年で世の中大きく変わったなぁと再認識。

アニメの予告映像にはスマホが出てきているので現在設定にするようですが、割と原作から変更しなければいけない部分が多々出てくるのではないかと。

「夏季限定トロピカルパフェ事件」までのストーリーをやるようですが、それだとラストが・・・・・・どうするのでしょう。

あとタイトルも、まさか「小市民シリーズ」のままではないだろうと思うのですが・・・どうなのでしょう?

非常に気になるところ。アニメもどんな風になるのか楽しみですね。

 

 

どちらもワクワクしながら待ちたいと思います。

 

 

ではではまた~