夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『本と鍵の季節』感想 米澤穂信の新シリーズ(?)開幕~

こんばんは、紫栞です。
今回は米澤穂信さんの『本と鍵の季節』の紹介と感想を少し。

本と鍵の季節 (単行本)

 

久しぶりの青春ミステリ
2018年12月に発売された米澤穂信さんの2年ぶりの新刊ですね。
米澤さんは量産型の作家さんではないので、私個人としては新刊をいつも待ち望んでいる状態なんですが、1ヶ月ほど発売されていることに気づけていませんでした・・・(-_-)
まったく小説の新刊ってのは知らないうちに出ていますよねぇ。そう思うのは私だけでしょうか。特に集英社刊行の文芸は見落としがち。漫画はすぐわかるんですけどね。米澤さんの本が集英社から刊行されるのは追想五断章』以来でしょうか。

 

 

今作は図書委員の高校生男子二人が主役の謎解き青春ミステリで全6編収録の連作短編集。


古典部シリーズ】を始めとして学生が主役の青春日常ミステリで知られる米澤さんですが、

 

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近年は『満願』『王とサーカス』など、社会人が主役の大人向けミステリが多かったので、学生が主役の青春ミステリは久しぶりです。
古典部シリーズ】【小市民シリーズ】が何年も停滞しているので、新しい青春ミステリを書く前にそっちを・・・・・・とか、若干思ってしまったんですが(^^;)、読んでの率直な感想は「めちゃくちゃ面白いじゃないの」と、いったものでした。やはり米澤さんは期待を裏切らない作家さんですね・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


目次
●913
●ロックオンロッカー
●金曜に彼は何をしたのか
●ない本
●昔話を聞かせておくれよ
●友よ知るなかれ

の、6編収録。

古典部シリーズ】が完全な日常謎解きなのに対し、今作は青春ミステリとはいっても、他の学生シリーズと比べると扱う事柄はもっと重めというか、もろに犯罪が絡んでいるものもあるので、『満願』などで興味を持った人にも受け入れられやすい連作短編だと思います。

 

 

『満願』『真実の100メートル手前』『王とサーカス』などの大人向けミステリを経たからこそ、お馴染みの青春ミステリがより洗練されたものになっている印象も受けますね。


私は最初、てっきり他学生シリーズと同じ日常謎解きものだと思っていたので、1話目の「913」は途中からの展開に驚いてしまいました。
公式サイトの米澤さんと青崎有吾さんの対談によると、1話目の「913」を書き上げたときは独立した短編のつもりだったものの、編集さんに登場する男子高校生たちの先を読みたいと言われて連作小説として再構成したのだそうです。編集さんに感謝ですね。

 

 

 

堀川と松倉
ともに高校2年生の図書委員である堀川次郎と松倉詩門の二人が、利用者のほとんどいない放課後の図書室に持ち込まれる謎に挑む様子が描かれる今作。

堀川次郎は童顔で頼まれ事の多い人物。今作の6編は全てこの堀川が「僕」として語り手を務めています。語り手なので容姿などの描写は少なめですね。松倉詩門は背が高く顔もよくて目立つ存在。「快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋のいいやつ」と、語り手の堀川は称しています。かなり大人びた言動をする人物ですね。まぁ堀川もずいぶん大人びているんですが。高校生男子ってもっと馬鹿な言動するもんじゃないかなぁ~とか思うんですけど。進学校だと違うんですかね?

米澤さんの作品で男子二人がメインのものは珍しく感じますが、今作では男子高校生二人の小気味よい掛け合いが楽しいです。


コンビもののミステリで一方が語り手を務めている場合は、もう片方が探偵役で語り手はその探偵の助手的役割をし、活躍を読者に伝えるワトスン役方式を採られることがほとんどですが、この『本と鍵の季節』ではそうではなく(最初はそう見せかけていますが)、堀川と松倉の二人ともがW探偵役を務めています。互いに考えを補い合って真相を導いていく形ですね。

 

「俺にとって、疑うってのは性悪説だ。自分に笑顔で近づいてくる人間はどいつもこいつも嘘つきで、本音を見抜くにはこっちにも策がいると考える。ところがお前は、そうじゃない。性善説と言えば言いすぎだが、相手の言葉の枝葉に嘘はあっても、その根底にはなにか真っ当なものがあると信じている節がある」

 

上記は松倉が堀川の事を称していうセリフ。


それぞれ違ったアプローチが出来るということで、言ってみれば二人三脚で謎を解明していきます。
堀川のこういった部分は本の後半で幅を利かせてきくるもの。序盤は松倉の謎解きがクローズアップされていますが、後半ではいつのまにか堀川の謎解きに主軸が移るという構造ですね。

 

図書委員活動に着眼されている設定もなかなか珍しいですよね。私も高校時代は図書委員だったのですが、図書室自体が小規模な学校だったので、貸し出しの受付作業以外はほとんど司書さんがやってくれていた覚えが。当時は本好きでもなかったし、今作の二人のように書籍の分類に関してとか、装丁とかサイズとか、全然詳しくなかったですね。設定では堀川も松倉も読書家ではないってことなのですが、「詳しすぎでしょあんたら」って感じでした。進学校だと図書委員をやるからにはこれくらいの知識はあって当然なんですかね?
図書委員の知識が遺憾なく発揮されているのは4話目の「ない本」。図書委員の設定がフルに活用されていて今作ならではです。

 

 

 

 

 

 


推理と友情
公式サイトの対談によると、今作では色々なパターンのミステリに挑戦するのが目的だったのだそう。確かに色々な切り口からの謎解きが展開されつつ、そのどれもが綺麗な道筋を経て着地する手腕はいつもながらお見事です。


それにくわえてさらに見事なのは、今作では推理と堀川・松倉の二人の友情が密接に関わっている点です。それぞれのお話を通してお互いを知り、お互いに知り得ないことを知っていく連作ミステリで、この本の中のどのお話が欠けてもこの本は駄目なんだということが最後まで読むとよく分かります。二人の友情自体が大きなミステリになっている感覚ですね。

流れとしては、3話目の「金曜に彼は何をしたのか」のラストでなにやら不穏な空気が漂い始め、終盤の2作「昔話を聞かせておくれよ」「友よ知るなかれ」で友人の思わぬ苦しみが明らかになり・・・てな展開です。

 

米澤さんの青春ミステリは青春のキラキラ感ではなく、青春のやるせない苦さが描かれているものがほとんどですが、今作もやはりかなりのほろ苦さ・ビター感がつきまとっています。終盤の2作で決定的になっていますね。ですが、今作では苦さの先に友情が浮かび上がってくるので、読後は爽やかで穏やかな気分になれます。

 

終盤、二人はお互いの間でどうにも解り合えない部分があることを痛いほど実感します。それを知ったうえで友人関係を続けるのか、続けることが出来るのか。
しかし、そもそも人と人が完全に解り合うことなど不可能だし、友人だからといって解り合う必要なんて端からない。理解ではなく、問われるのは“受け入れるか否か”。さて、二人はどのような答えを出すのか・・・・・・と、まぁコレは読んでのお楽しみで。

 

 


続編
さて、公式サイトの対談で青崎さんからの「今回の次郎と詩門の物語は今後も続いていくんでしょうか?」の質問に対し、米澤さんは「続けてみたいなとは思っています」と返答しています。
なんと嬉しい御言葉!ちょっと含みを持たせた言い方ではありますが・・・(^^;)


いやぁ、もう是非シリーズ化して欲しいところです。今作のラストが綺麗な形で終わっているので、続きを書くのは野暮なのかもって気がしなくもないですが、堀川と松倉の二人はまだまだ読み足りない魅力的なキャラクターなので、個人的には続編を熱望です。編集さんにまた頑張って貰いたいところですね(笑)

 

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とにかく多くの人に読んで欲しいオススメの本ですのでちょっとでも気になった方は是非是非。

 

 

 

 

ではではまた~

 

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