こんばんは、紫栞です。
今回は、米澤穂信さんの『栞と噓の季節』をご紹介。
あらすじ
二月。高校二年生の堀川次郎は、図書委員の仕事として図書室で一人督促状を書いていた最中、返却箱に一冊の本が置かれたことに気が付く。顔を上げてみたが、目撃したのは部屋を出て行く女生徒の後ろ姿のみだった。
その数分後、長らく図書委員の仕事をさぼっていた松倉詩門が図書室にやってきて一緒に当番の仕事をこなすことに。二人で返却本の中身をチェックしていると、先ほど置かれた本の中に花の栞を見つける。その花は猛毒のトリカブトだった。
そのまま忘れ物入れに入れることも躊躇われ、二人は張り紙をして名乗り出て来る人物がいるかどうか様子を見ることにしたが、思いがけず校舎裏でトリカブトが栽培されているのを発見し、さらには毒を盛られて倒れたと思わしき被害者が出る事態に発展。校内は異様な空気に包まれる。
張り紙を見て「自分の栞だ」と嘘をついて接近してきた女生徒・瀬野と共に、二人は猛毒の栞の謎を追うが――。
図書委員シリーズ第2弾!
こちら、2018年に刊行された堀川次郎と松倉詩門の図書委員二人が様々な謎に挑む連作短編集『本と鍵の季節』の続編。
前作が刊行された段階ではシリーズ化は未定だったので名称がありませんでしたが、今作の帯で【図書委員シリーズ】と書かれているのでそういうことらしいです。
シリーズ第2弾の今作は長編。短編も好きですけど、シリーズものの長編となるとやはりテンションが上がる。
前作は終盤で松倉が抱えている問題が明らかとなり、堀川は友人が一線を越えないことを願いつつ図書室で待つところで終わっていました。
その後、松倉は図書委員の仕事をさぼって堀川とはいったん距離を置いていたようですが、踏ん切りが付いたということなのか、およそ二ヶ月を経て図書委員の仕事に復帰(委員のさぼりを他の委員たちと教師がスルーしているのはどうかと思いますが)。復帰してコンビが復活した矢先に間髪入れずに犯罪めいた事件に遭遇してしまう訳です。
相変わらず司書さんはほぼ不在。図書委員は忙しく働いております(ホント、司書さん何してんだって感じ。仕事ほぼやってもらってない?私の高校では司書さんってずっと図書室に居たぞ!?)。
米澤さんが描く高校生が皆大人びているというのもあって、学校の委員活動というより職場といった感じ。
高校生の図書委員二人による謎解きという設定を聞くと「日常の謎モノ」なのかと思ってしまうところですが、このシリーズはあからさまに警察が介入してきたりはしないものの、犯罪性が高いものを扱うのが特徴。
今回の長編もトリカブトの栞を巡る物語とあって図書委員らしからぬ物騒さ。普通の学校生活を送る中での“犯罪的な非日常”ですね。
事件だけでなく、堀川と松倉の軽快なやり取りは面白いし、友情物語としての進展も見所です。
堀川と松倉の二人に加え、今回は嘘つきで事情を抱えている美人女生徒・瀬野と一緒に謎を追うことに。前作で登場していた図書委員の後輩・植田や、嫌われ者教師・横瀬は今作でも登場しています。単独でも愉しめるようにはなっていますが、登場人物たちの事情などを知っていた方がもちろん面白さは増すので、やはり順番に読むのがオススメです。
以下、若干のネタバレ~
栞
猛毒であるトリカブトの栞。「配り手」によって数個作られ、様々な理由で苦悩している人々の手に渡ったことにより校内全体でパニックが起こるような事態に発展するのですが、発端は数年前に友人同士二人が互いの人生の苦境に耐えるため、“切り札”として作ったもの。
「(略)何があっても、誰にどんなことをされても、お前が生きていられるのはわたしが生かしてやっているからなんだと思うために、わたしたちは切り札を持たなきゃいけなかった」
二人の間だけの言わば「おそろいのお守り」だったはずが、この栞の存在を知った第三者が模倣して“お守り”を広めるべく配った。
これは1998年に起こった「ドクター・キリコ事件」がモデルというか、要素として組み込まれているのだと思われますね。
自殺幇助事件だとされていますが、ウェブサイトの掲示板を使って青酸カリを送付していた男性は自殺を幇助するためではなく、自殺を踏みとどまるための“お守り”として送付していた。
猛毒を持ち、「これを飲めばいつでも楽になれるんだから」と思うことで精神状態を保とうという考えですね。
『栞と嘘の季節』でのトリカブトの栞は自分にではなく他者に使うことに意識がむいていますが、考え方の根本は同一のもの。
危険物を持つことが危険行動を起さない抑止になる。この“お守り”は確かに効果があるのでしょうが、やはり人は皆それぞれ違う。「ドクター・キリコ事件」もそうですが、実際に手にしたことで背中を押されてしまう、使ってしまう人間が出て来る。
トリカブトの栞のオリジナルを作った二人は、“切り札”と言っていることから“お守り”ではすまないだろうこの栞の危険性を見越していたのでしょう。
“切り札は切らないのが一番だけど、切らなきゃいけないときは切るもの”
武器を持つ理由は主に二つ。自身を守る為と他者に危害を加えるため。
毒花の栞という、危険だけれどもどこかお手軽でしゃれっ気もあるこの代物は、辛い思いをしている子供を何人も惑わせる訳です。
嘘
この物語は嘘つきだらけの物語です。
登場人物は皆それぞれに嘘をつく。その嘘はいったい何のための嘘なのか、なぜ嘘をつくのか。幾重もの嘘を一つ一つ暴いていって真相に迫っていく物語で、メインは事件の犯人当てよりもそれぞれの人物の秘めた想いですね。
とある人物が嘘をつき続ける選択をするラストは痛々しくも感慨深い。今作もやはり友情の物語ですね。
“毒花の栞”というアイテムはビターな青春ミステリである【図書委員シリーズ】にベストマッチなものだったと思います。
突き止めるべき犯人である「配り手」に関してはちょっと「何だかなぁ・・・」な人物造形でしたかね。いきがって少しサイコパス“ぶっている”といいますか・・・。結局何したかったんだかよく分らんし。ま、思春期ですから、これぐらいの浅はかさ、深みのなさがむしろリアルなのかもしれないですけど。
堀川と松倉、友人ながらも踏み込みがたい距離を保ち続ける二人にも微妙だが重大な変化あり。このべったりじゃない友情関係もこのシリーズの特色ですね。
松倉にとっての「解決すべき問題と、検討すべき選択肢」の答えはどうなったのかももちろん分りますよ。
嫌われ者の問題教師・横瀬の事情など含みが持たせてあったので、今後のシリーズでまた描かれるのではないかと思います。植田も心配ではある。
シリーズがまだまだ続いてくれそうなのは嬉しいですね。これもやはり他シリーズ同様に高校卒業までが最終地点となっているのでしょうか。いやぁ、他シリーズもまだ卒業できてないですけどねぇ・・・。
他シリーズと同じように、【図書委員シリーズ】も今後追っていきたいなと。
米澤さんのビターな青春ミステリ。気になった方は是非。
ではではまた~
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