夜ふかし閑談

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『硝子の塔の殺人』面白い?駄作?本格ミステリへの愛を叫ぶ!驚きマニア小説

こんばんは、紫栞です。

今回は、知念実希人さんの『硝子の塔の殺人』をご紹介。

硝子の塔の殺人

 

あらすじ

円錐状のガラスで覆われた直径十メートルほどの展望室に閉じ込められながら、どうしてこんなことになってしまったのか、自分はどこで間違えたのかと考えていた。

殺意を抱いて神津島太郎(こうづしまたろう)に近づいたときか、絶好の機会だとこの硝子館での宴に参加することを決めたときか、それとも、あの名探偵に会ったときか・・・・・・。

 

生命科学で大発見をした研究者で重度のミステリフリークである神津島太郎が、潤沢な財産を惜しみなく注いで建設した硝子館。

この巨大なガラスの円錐状の館に招かれたのは、刑事、料理人、医師、霊能力者、小説家、名探偵・・・と、いわくありげな面々ばかり。

館の主人である神津島太郎が「とても重大な発表をする」と言って集められたゲストたちであったが、発表の前に神津島太郎が密室の中で死んでいるのが発見されたのを発端に次々と惨劇が発生。

雪で閉ざされた塔の中で、自称「名探偵」の碧月夜と医師の一条遊馬は“硝子館の殺人”の謎に挑むが――。

 

 

 

 

 

 

 

本格ミステリ愛炸裂作品

『硝子の塔の殺人』は2021年に刊行された長編推理小説。作者の知念実希人さんは日本内科学会認定医で、映画化された『仮面病棟』、連ドラ化された『祈りのカルテ』など、病院が舞台で医療知識が活用されたミステリなどで有名ですね。

 

知念実希人さんの作品を読むのは始めてなのですが、『屍人荘の殺人』

 

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『medium 霊媒探偵城塚翡翠

 

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同様、近年の本格ミステリ界隈での話題作らしいので読んでみました。

 

作家デビュー10周年で書かれた今作は、語り手が医者であるものの医療知識などはそこまで絡んできません。

舞台はガラスの円錐状の塔という特殊すぎる館、雪で閉ざされたクローズド・サークル、様々な職業の招待客たち、忌まわしい過去の事件、連続する密室殺人、名探偵、読者への挑戦状・・・・・・などなど、本格ミステリと聞いて皆が思い浮かべるであろうコテコテ設定。

それに加えて、作中では本格ミステリ作品のマニア知識が存分に語られていまして、作者の本格ミステリへの愛が存分に感じられる作品となっております。

 

帯の推薦文にある有栖川有栖さんの「まるで本格ミステリのテーマパーク」竹本健治さんの「これはありったけのミステリ愛を詰めこんだ花束」という紹介がまさにって感じですね。

 

ミステリマニアが言及するのはエドガー・アラン・ポーコナン・ドイル、アガサクリスティーなど、ミステリの起源に関する古典ものに偏りがちですが、今作では日本で1980年代後半から1990年代前半にかけて起こった“新本格ムーブメント”の代表的作家たちである有栖川有栖歌野晶午法月倫太郎などの作品に加え、森博嗣さんの作品に登場する真賀田四季

 

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上記した今村昌弘さんの『屍人荘の殺人』や、『ビブリア古書店の事件手帳』などのライトノベルミステリへの言及、映画『ナイブズ・アウト』のナイフ、

 

BBC制作のドラマ『シャーロック 忌まわしき花嫁』

 

 

の衣装であるウェディングドレスが事件の小道具として登場するなど、私のように近年ミステリにしか触れてないよ~といった人間でも楽しめるウンチク披露になっております。

 

古典ものについて語れられるのは当たり前ですが、「これを知らなきゃお話になりませんよ」と突き放されている気分にもなってしまうもの。近年ミステリについての言及が多数あるのは読んでいて嬉しいですね。

とはいえ、ミステリなんて全然読まないし観ないよという人にはチンプンカンプンでしょうが(^_^)。

 

特に島田荘司さんの【御手洗シリーズ】

 

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綾辻行人さんの館シリーズ

 

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に関しては今作の要ともなっているのでこの二つのシリーズを読んだことある人向けの作品ですね。

 

なので、帯の推薦文も当然書いてもらっている。

 

綾辻さんの「ああびっくりした、としか云いようがない。これは僕の、多分に特権的な驚きでもあって、そのぶん戸惑いも禁じえないのだが――」の文の意味は、今作を読み終わるとよく解るようになっています。もはや、綾辻さんへのラブレターだよなと。

 

島田さんは「今後このフィールドから、これを超える作が現われることはないだろう」という、「そ、そこまで!?」な、絶賛文を書かれていて、今作の巻末には島田さんの「『硝子の塔の殺人』刊行に寄せて」も収録されています。

 

島田さんがここまで絶賛するくらいですから、今作は単なるミステリ愛に溢れた作品というだけではもちろん留まっていません。

読者の読みの裏の裏をかく仕掛けと構成で今までにない驚きを与えてくれる“ミステリマニア小説”となっています。

 

 

 

 

 

 

 

以下、序盤について若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一条遊馬・碧月夜

この物語、初っ端のプロローグ部分で医者の一条遊馬(いちじょうゆうま)が罪を暴かれて塔の展望台に閉じ込められているところから始まる。つまり、一条遊馬が犯人ですよと最初に明かされているのですね。

 

で、回想する形で一条遊馬が語り手のまま館に招かれた一日目から事が進んでいく(※この物語は四日間の出来事として描かれている)。プロローグで書かれている通りに一条遊馬が神津島太郎を毒殺し、医者の立場を利用して簡単な密室トリックで病死に見せかけようとする。

 

「あ、倒叙モノなのか」となるところですが、遊馬が予期せぬ第二第三の密室殺人事件が発生。

自分以外にも殺人犯がいることに戸惑いつつも、遊馬はこの状況を利用し、もう一人の犯人に自分の犯した殺人の罪もおっかぶせてしまおうと考える。

その為には第二第三の事件の謎を解いて犯人を見つけなければいけない訳ですが、遊馬は自分なんかに探偵役は務まらないと早々に判断。じゃあ名探偵・碧月夜(あおいつきよ)の助手の“ワトソン役”になることで犯人に早く近づこうとする。

 

碧月夜は端正な顔をした長身の女性で、シャーロック・ホームズを真似てチェック模様の英国風スリーピースを着て男装しているミステリオタクで自称「名探偵」。

上記したような作中で語られるミステリウンチク披露は、ほとんどが碧月夜の口から語れるものです。

これだけだと完全にヤバイ人ですが、(ま、最後までヤバイ人なのに間違いはないのですが)自称しているだけでなく「名探偵」なのは間違いのない事実。ちゃんと頭が切れる探偵役として謎に挑みます。

 

最初の殺人を犯しているという、腹に一物ある語り手・一条遊馬が、クセが強いオタク名探偵・碧月夜に自身を“ワトソン役”として売り込むところが面白いところ。

 

口説き落とした方法もですが、ワトソン役として認めてもらった後の二人のやり取りも面白いです。信頼し合っているコンビではなく、“裏”があってのコンビ関係というのが新鮮ですね。

 

遊馬は碧月夜を利用して罪を逃れようとする腹づもりですが、本格ミステリでは「名探偵」はすべての謎、すべての罪人を暴くもの。

 

遊馬の目論見が裏目に出るのは火を見るより明らか。現にあのプロローグだって・・・・・・ですけども、もちろんそれだけでは終わらない仕掛け、どんでん返しが待ち構えている。

 

上記した王道の本格ミステリ要素に加え、倒叙モノとどんでん返しの要素も盛込まれていると。ホント、本格ミステリのテーマパーク”ですね。

 

 

 

 

 

ギリギリ

この物語、仕掛けがとにかく大胆で挑戦的なのですが、そのぶん荒唐無稽なところがあり、人によっては「バカミス」だとも受け取れる代物になっている。

私も読み終わった時は「これは賛否が分かれる作品だろうな」と思いました。人によっては「滑稽だ」「駄作だ」となるだろうなと。

 

確かに、発想としてはミステリファンなら一度は夢想することで作中でも“モロな”ヒントが何度も書かれているので読んでいて「もしや・・・」と、なるのですが、あまりに荒唐無稽なので「いやいや、そんな・・・」と否定してしまうところを・・・なんというか、ねじ伏せてくる真相「ええ!それで正解だったんですか!?」みたいな。

 

私は、一歩の差で「バカミス」にはなっていないと思います。ギリギリではありますが。スレスレの危うさで理論と物語構成によって了承できる“ねじ伏せ”であるかなと。逆にこの荒唐無稽さをよくここまでの物語、本格ミステリとして昇華させたものだと感服しますね。

 

終わり方もスッキリはしないものですし、動機面が陳腐だという文句も出るかと思われるところですが、個人的な印象としては新本格ミステリから江戸川乱歩的活劇に着地した」って感じ。エンタメ100%。いったいどれだけ欲張れば気が済むのか・・・そこがまた感服。

 

やっている事酷いですし、あの終わり方は私も「う~ん・・・ちょっとなぁ・・・」ではあるのですが。

あと、第二の事件での密室トリックがとても見事だと作中で言っていますが、そのトリックは何だか特に見破りやすいような。私はそのトリックだけ概要読んですぐ察しがついた。

 

しかし、この大仕掛けと驚きの真相を知った後も、いや、さらに存分に伝わるのは本格ミステリへの愛の叫び!マニアここに極まれり。ミステリオタク万歳!!な、作品ですね。

 

 

キャラクターがユニークですし、続編が出たら是非とも読みたいですが・・・ストーリー的にどんな風に続けるか予想出来ないですね。このまま終わるのが物語としてはやっぱり綺麗なんじゃないかという気もする。

 

『屍人荘の殺人』や『medium 霊媒探偵城塚翡翠』も映像化されたので、同じような話題作の今作も映画化されるんじゃないかと思うところですが・・・正直、この二作の映像化も微妙でしたからねぇ・・・。

 

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どうも、本格ミステリファンが凄いと思う部分と一般視聴者では齟齬があるといいますか・・・。なかなか難しいようです。

 

今作は近年のミステリ知識、特に綾辻行人作品に関しては必須なところもありますから、映像化するならそこら辺どうにかしないとですね。

でも、ネタ的には映像化不可能といったものではないので、上手くやれば面白い驚きエンタメ映画が出来ると思うんですけど。

 

 

とにかく、近年ミステリファンならかなり愉しめる作品ですので是非。

 

 

 

ではではまた~