夜ふかし閑談

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『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』弁護士・御子柴礼司 モデル・他作品との繋がり解説~

こんばんは、紫栞です。
今回は中山七里さんの『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』をご紹介。

贖罪の奏鳴曲 (講談社文庫)

あらすじ
御子柴礼司はどんな罪状で起訴されようが、必ず執行猶予を勝ち取るかわりに、被告に多額の報酬を要求することでウラの筋では有名な悪辣弁護士。
かつての名前は『園部信一郎』。二十六年前、十四歳のときに幼女バラバラ殺人を犯し、〈死体配達人〉と呼ばれて世間で恐れられた殺人犯だった。逮捕され、少年院に収監された後に名前を変えて弁護士となったのだ。
そして四十歳となった現在、御子柴はまた一つの遺体を遺棄しようとしていた――。

入間川の堤防で三十代前半だと思われる男性の死体が発見される。判明した死体の身元は加賀谷竜次。強請屋として有名なフリーライターだった。埼玉県警捜査一課の渡瀬と古手川は、加賀谷が最近何かと騒がれている東條家の三億円保険金殺人について調べていたこと、その過程で事件の担当弁護士・御子柴礼司が、四半世紀前に起きた猟奇殺人事件の加害者少年〈死体配達人〉であったという事実を知ったらしいことを突き止める。
脅迫してきた加賀谷を御子柴が殺害したのではないかと捜査を進める渡瀬と古手川だったが、御子柴には犯行時刻に鉄壁のアリバイがあった。

弁護士として三億円保険金殺人事件を追う御子柴と、その御子柴を追う渡瀬と古手川。二転三転する二つの事件の真相とは?

 

 

 

 

 

 

 


異色の前歴を持つ弁護士
『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』は中山七里さん初のリーガル・サスペンス小説で、【御子柴礼司シリーズ】の第一作目。

 

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上記のあらすじを読むと、アリバイ崩しがメインの推理小説だと思われるでしょうが、実際は弁護士・御子柴による法廷劇が中心のリーガルもの。


冒頭から遺体を遺棄している御子柴の視点が描かれて驚き、その御子柴が弁護士であることに驚き、さらに少年時代に猟奇殺人の前歴があることに驚き・・・で、のっけから驚きの連続なんですが、死体遺棄をしていた経緯は一旦展開的に保留され、三億円保険金殺人の法廷論争がメインとして話は進んでいきます。法廷戦術や事件の供述調書、見取り図や証人尋問など、細部にわたって詳しく書かれていると感じました。この法廷劇だけで充分に読みごたえがあります。

しかし、「それだけで終わらないのが中山七里作品だよ」といった具合に、法廷劇だけでは終わらずに、ミステリとして驚きのどんでん返しな真相が待ち構えています。真相が何度もひっくり返るので、「え?え?」と息つく暇も無く驚き続ける感じですね。最終ページまで気が抜けません(^^;)。

リーガル・サスペンス、ミステリの要素に加えて、大きく扱われているのは少年法の是非と主人公の過去、殺人罪に向き合う“想い”です。


今作は四章から成る構成ですが、第三章「償いの資格」では章の全てを使って御子柴の少年院時代の出来事が描かれています。保険金殺人やフリーライター殺人の事件と直接関係が無いながらも非常に引き込まれる内容で、物語りの中盤の章に持ってきていることからも、今作はこの第三章を書くことが著者の主たる目的なのではないかと。それは『贖罪の奏鳴曲』というタイトルにも表れていますね。

 

 

 

 


モデル
弁護士としての腕は一流であるものの、そのスキルと引き替えに依頼人には法外な報酬を要求するヤクザな商売をする一方で、一文の得にもならない国選の事件を引き受けたりもする、まるで“弁護士会ブラック・ジャック”のような御子柴ですが(ホント、『ブラック・ジャック』がエンタメ界に与えた影響は大きいなぁ・・・)、その設定以上にこの主人公が特異なのは、少年時代に殺人を犯して逮捕された過去があるという点です。

 

主人公の御子柴が少年時代に犯した殺害事件というのは、近所に住んでいた五歳の女児を殺害後バラバラにし、生首を郵便ポストの上に、右脚を幼稚園の玄関に、左脚を神社の賽銭箱の上に・・・と、一日に遺体一パースずつ人目に付きやすい場所に遺棄するというもので、逮捕後に語った殺害動機は「とにかく人を殺してみたかった。相手は誰でも良かった」
なんとも愉快犯じみていて、猟奇性が高い事件でした。

 

犯行内容や十四歳男児の凶行であること、世間での事件の扱われ方などから、一九九七年に起きた『神戸連続児童殺傷事件』、いわゆる酒鬼薔薇聖斗事件”を連想する人が多いと思います。非常にセンセーショナルな事件でしたし、この本の参考文献にも『少年A 矯正2500日全記録』

 

 

とあるので、著者も『神戸連続児童殺傷事件』を意識して設定に盛込んだことは間違いなさそうですが、この事件と同様に著者が意識したと思われる事件が一九六九年に起きた『高校生首切り殺人事件』(サレジオ高校首切り殺人事件)
男子高校生がいじめに耐えかねて同級生を殺害した事件で、少年犯罪であることや殺害後に首を切断しているなどの類似から『神戸連続児童殺傷事件』と対比して語られることも多い事件ですが(動機や状況は全く異なるので本来は対比して語るようなものではないと思いますが)、この事件の犯人は少年院出所後に名前を変えて司法試験に合格、弁護士となって事務所も持っていたといいます。二〇〇六年に出版された奥村修司さんのルポルタージュ「心にナイフをしのばせて」

 

 

 で話題になり、ネットに実名や顔写真が出回ったことによって結局廃業してしまったようです。意見が一方に偏っているため、この本自体も批判の対象になったようですが。

 

猟奇殺人を犯した人物が弁護士に。一般的に受け入れがたいことではありますが、少年犯罪は前科がつかないので実力さえあれば弁護士にだってなれるということなんですね。御子柴礼司の設定は明らかにこの事件加害者の実例を受けてのものだと思われます。

 


ドラマ
『贖罪の奏鳴曲』は二〇一五年にWOWOWでテレビドラマ化されています。

 

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 全四話で、主演の御子柴礼司役は三上博史さん。
中山七里作品初のテレビドラマ化作品。概ね原作通りのストーリー展開のようですが、犯人像などは結構変更があってラストの決着の付き方も原作とは違いがあるようです。

 

そして今年、二〇一九年一二月にフジテレビ系「オトナの土ドラ」枠にて『悪魔の弁護士 御子柴礼司~贖罪の奏鳴曲』というタイトルで連続ドラマ放送が決定しています。(長いタイトルですね・・・)
こちらの御子柴役は要潤さん。

タイトルに“贖罪の奏鳴曲”とありますが、このドラマでは概在の【御子柴礼司シリーズ】四作、『贖罪の奏鳴曲』『追憶の夜想曲』『恩讐の鎮魂歌』『悪徳の輪舞曲』を全て映像化するようです。一つの事件を二話ぐらい使ってといった感じでしょうか。
キャストに古手川と渡瀬の名前がないので、ひょっとしたらこのドラマでは登場しないのかもしれません。この一作目の『贖罪の奏鳴曲』は終盤かなり渡瀬が良いところかっさらっているんですけどね・・・。

 

 

 


「カエル男」との繋がり
今作は同著者による『連続殺人鬼カエル男』とお話上、密接な繋がりがあります。

 

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古手川・渡瀬コンビは著者の他作品でも度々登場するコンビなのですが、『贖罪の奏鳴曲』は古手川が埼玉県警に配属されて一年が過ぎた頃のお話で、時系列としては『連続殺人鬼カエル男』事件の割とすぐ後頃。作中に『連続殺人鬼カエル男』での出来事を示す記述が多数出て来ます。

そして、『贖罪の奏鳴曲』第三章「償いの資格」では『連続殺人鬼カエル男』に登場した有働さゆりが旧姓の「島津さゆり」として登場しています。御子柴と同時期に少年院に収監されており、院生が一同に会しての合唱会で島津さゆりのピアノ独奏ベートーヴェンピアノソナタ〈熱情〉」を聴いたことで御子柴は欠落していた感性が目覚め、気持ちが変化していくという訳で、重要な役割を担っています。


この少年院でのことがあって、『連続殺人鬼カエル男』の続編『連続殺人鬼カエル男ふたたび』では御子柴はさゆりの担当弁護士として古手川と渡瀬に再度接触しています。

 

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『連続殺人鬼カエル男』→『贖罪の奏鳴曲』→『連続殺人鬼カエル男ふたたび』と読んでいけば各繋がりを愉しめるファンサービスな作りになっていると。
ただし、順番を間違えるとネタバレをくらうので注意が必要ではあります。私自身も『連続殺人鬼カエル男ふたたび』の方を先に読んだ(この作品に御子柴が出て来たからこそ『贖罪の奏鳴曲』を読もうと思ったのですが)ので、『贖罪の奏鳴曲』での御子柴の処遇については最初からネタバレをくらっての常態ではありました。それでも面白く読めましたけどね。

 

 

 

 

 

 

 

贖罪
今作のテーマはやはり“贖罪”。

多くの人々は面白半分で猟奇殺人を犯した人間などは「化け物だ」という風に捉え、いつまでも危険因子で本質的更生など不可能な存在だと考える向きが強いと思います。まして未成年だったという理由だけで刑事罰を受けず、前科も残らず、名前を変えて司法に携わる仕事についているなど、事件に直接関係が無い人間でも聞かされれば憤りを感じるところですよね。


御子柴も少年院に入ってばかりのころはおよそ罪の意識もない“欠落した”少年でした。なるほど「化け物」な少年で、斜に構え、態度だけ取り繕って少年院での生活をやり過ごそうとしているのがアリアリと見て取れる。およそ本質的更生とは無縁そうな腹立たしいガキです。
ところが、この少年院で島津さゆりのピアノや教官の稲見、同じ院生の雷也次郎と出会い、接していく中で変化が生じてきます。そして院内で起こった事件、自身がしでかしてしまった事によって自らの罪を心から悔いるようになります。雷也と次郎の顛末は本当に悲痛ですね・・・。雷也の母親、いくらなんでも骨ぐらいは引き取れよと思うのですが・・・。

 

悔いたところでどうすることも出来ないのだと絶望する御子柴に、担当教官である稲見は

「後悔なんかするな。悔いたところで過去は修復できない。謝罪もするな。いくら謝っても失われた命が戻る訳じゃない。その代わり、犯した罪の埋め合わせをしろ」

「お前は既に他人の人生を奪っている。だから他人のために生きてこそ埋め合わせになる」

と言います。
ホント、周りに確りと物事を教えてくれる大人がいるいないで人生が変わってしまうものだなぁと深々と思うところですが。稲見のこの言葉と雷也の語っていた将来の夢を受け、御子柴は弁護士を目指す。


御子柴が依頼人に法外な報酬を要求するのは自分が殺した女児の家族や怪我を負わせてしまった稲見などに毎月多額の金を送っているためという事情も終盤で明らかに。
物語りの最後、御子柴が儲からない国選の仕事を引き受けたり、今回の事件で自分の身を危うくしてまで母子を救おうとしたのは何故なんでしょうと疑問を口にした古手川に、渡瀬は「きっと自分が救われたかったんだろう」と答えます。

 

死ぬまで他人のための人生を歩こと。救われたいと願いながら、救われずに苦しんで罪を忘れずに生きていくこと。でも、そんな苦しみも結局は自分の為の行いであること。


もとより人殺しは償えるようなものではないですよね。刑務所に何年入ろうと、多額の金を渡そうと、いくら善行をしようと、償いにはならない。ならないけども続ける。死ぬまで罪と向き合って、生き続けることから逃げないのが、罪人が最大限できうることなのかなぁと。だから御子柴に安楽の日々は今後も訪れない訳で。

 

『贖罪の奏鳴曲』は元々単発ものとして書いていたらしく、シリーズ化は見据えてなかったとのこと。しかし、これだけ盛りに盛った設定をしょわされている主人公ですから、この一作で御子柴を描ききるのは無理というものです。単純に一作で終わらせるには勿体ない主人公ですし、シリーズ化されたのは当然といえる。
直接殺害した訳ではないものの、死体遺棄した事実はどうなるんだとか、御子柴の幼少期とか、母親と妹とか、気になることが山ほどありますので、【御子柴礼司シリーズ】続けて読んでいきたいと思います。

※読みました!シリーズすべてのまとめはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

 

 

 

 

 

 

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