夜ふかし閑談

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『富豪刑事』アニメ・ドラマの原作小説 とんでもないお金の使い方が面白い!推理小説

こんばんは、紫栞です。
今回は筒井康隆さんの小説富豪刑事を紹介したいと思います。

富豪刑事 (新潮文庫)

ドラマ・アニメの原作小説
富豪刑事』は1975年から1977年にかけて4編発表された連作短編小説。今からおよそ40年前の作品ですね。

筒井さんは小説家としては時をかける少女』『七瀬ふたたび』などのSF作品で有名な作家なのですが、こちらはトンデモ設定ではあるものの、キッチリとトリックのある連作推理小説
“SFの鬼才がまったく新しいミステリーに挑戦する”
と、新潮文庫の紹介文にも書いてあるように、いつもとは違うジャンルに挑むという意欲作だったのだと思います。筒井さんは実験的作品が多い作家さんですので、他ジャンルを書くといっても特別なことではないのかも知れませんが。

 

概要としては、大富豪の息子・神戸大助という刑事が大金を惜しげも無く使って事件を解決してゆくお話。

 

一般的にはこのタイトルを聞くと2005年に深田恭子さんが主演をしたテレビ朝日の連続ドラマを連想する人がほとんどだと思います(世代にもよるでしょうけどね・・・)

  

富豪刑事 DVD-BOX

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第一話 富豪刑事の囮

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私も当時毎週観ていました。人気があり、2006年には第2シーズンとして富豪刑事デラックスも放送されていましたね。

 

富豪刑事デラックス DVD-BOX

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  • 発売日: 2006/10/06
  • メディア: DVD
 

 

深田恭子さんの刑事らしからぬ煌びやかな服装ととぼけた振る舞い、夏八木勲さん演じる孫を溺愛する大富豪老人、ユニークな捜査班の面々、ぶっ飛んだ散財方法など、非常に楽しいエンタメドラマでした。


ドラマが好きだったので原作小説があると知った時「いつか読もう」と思っていたものの、今までずっと読まずじまいだったのですが、今年、2020年4月にノイタミナ枠でテレビアニメ化されると知ってやっとこさ読んでみた次第です。

40年前の作品だし、原作小説とはいってもドラマとはかなりの違いがあるのは分かっていたので、「ドラマ好きだったといっても、原作はどうかなぁ~」とか読む前は気がかりだったのですが、まったく無用な心配でした。原作小説もとっても楽しいエンタメ作品になっています。

 

 

 

 

 

 


各話あらすじと紹介
今作は全部で4編の連作短編小説。1編はどれも60ページ程で4編全部合わせても250ページ程とサクッと読める本になっています。


ドラマが2シーズンあって倍以上の話数を放送していましたので、原作が4話しかないのは意外かもしれないですが、この本は続編も無くって、本当にこの1冊に収録されている4話のみ。設定の変更や脚色もそうですが、ドラマは各ストーリー自体も丸々オリジナルが多かったみたいですね。原作の4話はいずれもドラマの第1シーズンで使われていたようです。第2シーズンの『富豪刑事デラックス』は丸々オリジナルストーリーだったってことですね。


ドラマは大富豪・神戸喜久右衛門の孫娘・神戸美和子が主役となっていましたが、原作小説では神戸喜久右衛門の息子・神戸大助という男性刑事が主役です。
ドラマで主役を男性から女性に変更したのが何故なのかは判然としませんが、豪華な衣装などは画的に女性物の方が見ていてやっぱり楽しいので、実写ドラマとしては良い変更だったと思います。


他、捜査班の面々もドラマ独自のアレンジがされていましたが、ドラマ版も原作小説版もそれぞれに個性的で面白いです。

大富豪・神戸喜久右衛門が唯一ドラマも小説も人物設定が同じ感じ。息子(ドラマだと孫)が刑事になったことを大いに喜び、自分の金を捜査に使ってもらうことが、散々悪どいことをして金儲けをしてきた罪ほろぼしになると考えている人物ですね。夏八木勲さんは見事に原作通りの喜久右衛門を演じていたのだと、この本を読んでしみじみと実感しました。

 

 

収録作品
富豪刑事の囮
五億円強奪事件の時効まであと3ヶ月。容疑者を四人まで絞れたものの、そこから先に捜査が進展せずに途方に暮れる捜査本部。そこで、神戸大助が刑事という身分を隠して御曹司として各容疑者に接触。大金を使わざるを得なくなる工作をして、強奪した五億円を使おうとしたところを逮捕しようとするお話。


窮地に追い込んで金を使わせようというのではなく、親しくなったところで富豪なのを見せつけ、張り合う心理に導いて使わせようとするところが富豪刑事ならでは。凡人には考えつかぬ様々なダイナミックな金の使い方が『富豪刑事』の1話目として相応しいお話です。

 

●密室の富豪刑事
ある会社の社長室で社長が殺害される密室殺人事件が発生。容疑者は被害者のライバル会社社長だが、殺害方法も証拠も掴めず捜査は難航。そこで、神戸大助は新たに容疑者の会社のライバルになり得る会社と密室殺人が起きた社長室と似た作りの部屋を造って罠を張り、容疑者がまた同じ犯行を実行するよう仕向けようとする。


今度は罠を張るためだけに本当の会社を設立しちゃうお話。密室殺人ということで、本格推理小説を意識しているというか、コミカルにオマージュしているような物語り。作中で本格推理小説ではお馴染みの「読者への挑戦」が挿入されています。

 


富豪刑事のスティング
子供の誘拐事件が発生。被害者の父親は犯人に言われて警察に知らせずに要求された五百万円を渡したが、子供は帰されずに「もう五百万用意しろ」と電話があり、被害者の父親はたまりまねて今度は警察に連絡する。捜査を開始するが、神戸大助は「五百万円を用意出来ない」という被害者や警察にやきもきし、なんとか自分が用意した金を被害者の父親に不自然な形にならぬように渡そうとする――と、いうもの。


作中で著者のものと言葉として「話を面白くするために、小説中における時間の連続性を、トランプのカードをシャッフルするように滅茶苦茶にしてしまえばどうであろうか」と出て来て、実際にそのようなプロットで書かれるという試みがなされています。
札束を雑踏の中でばらまいて周囲の目を惹きつけるというドラマで繰り返しなされていたシーンが今作で登場しています。

 

●ホテルの大富豪
神戸大助たちの管轄である町に二つの暴力団組員のほぼ全員が集まって何らかの談合をするらしいという情報が入り、署全体で警戒にあたることに。多すぎる警戒対象者をどうやって扱おうと頭を悩ませる署員たち。神戸大助は自分の父の持ち物である高級ホテルに暴力団員全員が宿泊するように誘導し、署員たちはそれぞれホテル従業員に扮して暴力団員たちを見張ろうという案をだす。
なんだか東野圭吾の『マスカレード・ホテル』のような流れの本作。

 

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 今作の方が30年以上前の作品だし、こちらは主人公がホテル一個丸々貸し切り状態にして警備するというトンデモ案ですけどね。


作中で殺人事件も起きています。こちらは“如何にも本格推理小説”というトリックがあるものですね。ホテルの内線電話や鍵の開け閉めなど、40年間の間に随分と変わったので、ここら辺は本の中で一番時代の違いを感じる部分かも知れません。
最終作で前3編では詳しい説明がなかった捜査班の面々の人となりの説明があるというのが妙な具合で面白いです。終わり方も普通の小説とは一味違って、最後まで型にはまらない連作短編集となっています。

 


以上、全4編。

 

 

 

 


ドラマはある程度パターン化された「お約束を楽しむ」というつくりになっていましたが、この小説はシリーズものであるものの、4編とも形式が異なる描き方がされています。
作中人物にメタ発言をさせたり、著者が地の文で読者に語りかけたり、パロディ要素がふんだんに盛り込まれていたりと、全体的にユニークで型破り、それでいてキッチリと正当な推理小説である作品です。

トリックはもちろんですが、次はいったいどんなお金の使い方で捜査をするのだろうとワクワクさせてくれる他にない推理小説でもあります。推理小説を読み慣れている人にも読み慣れていない人にもオススメの本ですね。

 

 


アニメはどうなる?
富豪刑事」とは言うものの、原作小説の主人公・神戸大助は班員の中では一番の下っ端で、捜査会議で提案をするときも「あのう」とおずおずと手を挙げてだし、他とはあまりにもズレている金銭感覚を揶揄されて赤面してうつむいたり、「富豪なのは自分ではなく父です」と、常々言っていたりと、偉そうな素振りはほとんどない、少し内向的な性格をしています。それでいてダイナミックな金の使い方をするところがチグハグで面白いのですけども。周りの刑事たちも警察の上層部も大富豪の息子だからと忖度することもなく接しています。

 

2020年4月から開始されるアニメですが、公式サイトを見ると神戸大助と加藤春という男性刑事とのバディものとなっているようです。

「加藤春」たる人物は小説では登場しないし、バディものでもないのでこの設定は完全にアニメオリジナルですね。
キャラクターの絵柄や下っ端刑事ではなく警部になっているところ、「で、いくら必要だ?」という公式サイトの文句を見るに、神戸大助の設定もアニメでは大きく変更していそうですね。葉巻吸ってるところは同じですが。


有無を言わさず金の力を使う警部と「金がすべてじゃない」と主張する刑事とのバディものということでしょうか。ドラマとは違い、原作通りの男性主人公ですが、アニメはアニメでオリジナル要素の強い独自の作品になっていそうですね。

 

 

40年以上経っても色あせない『富豪刑事』。アニメやドラマで気になった方は原作小説も是非。

 

 


ではではまた~

 

富豪刑事 (新潮文庫)

富豪刑事 (新潮文庫)

 

 

 

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