こんばんは、紫栞です。今回は『金田一37歳の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』10巻の感想をば。
ついにホントの最終巻です!
こちらの表紙はKCコミック『金田一少年の事件簿 獄門塾殺人事件(上)』のパロディ。
本家よりバックの人数が多いですが。本編を読み終わったらカバー裏を見ることもお忘れなく。
最終巻に収録されている事件は「黒魔術殺人事件」「不動高校学園祭殺人事件」「血溜之間殺人事件」「誰が女神を殺したか」「獄門塾殺人事件」の五つの事件性と途中に「1億部突破少年の事件簿」、巻末に作者・船津さん実録漫画。と、盛りだくさんな内容になっています。
「黒魔術殺人事件」
犯人:井沢研太郞
「黒魔術殺人事件」は本家で作画崩壊がピークだった頃。特に高遠さんが「だれ!?」レベルの顔になっているし、実行犯の伊沢も酷いもんでした。二人ともやたら顎が長かった・・・他の人も長かったりしましたけど(^_^;)。このスピンオフ漫画ではこの作画崩壊っぷりまで忠実に再現していて流石だなと。当時本家を読んだときの唖然とした気分が甦った・・・。
そんな訳で、高遠さんプロデュースの事件なのですが「金田一一を呼んでください」「それでは美しくない」だの相変わらず実行犯にとっては迷惑でしかないことを言っていて、井沢に論理的に指摘されても全く話が通じない。そのくせ自分が金田一を態々呼ばせたことをすっかり忘れているのだからもうぶん殴りたい感じ。「犯罪は芸術じゃねーんだよ」と井沢が金田一と同じことを心の中で叫んでいるのが可笑しい。井沢には本当に同情する。
作中で検証されているように、これはもう完全に本家のミスでしょうね。絵も話も雑・・・このときは本家どうかしていたのよ。
「不動高校学園祭殺人事件」
犯人:津雲成人
こちらは短編でして、短編なだけあってスピーディーに解決されちゃう。被害者の男子生徒がなぜかメイド服姿で死んでいるという“絵面が酷い”奇抜な事件。トリックの都合上、素足なのをごまかすためとなっているのですけども、メイド服だろうとなんだろうと素足なのは違和感がある。
あまりにも科学実験ぽすぎるトリックなので科学教師が犯人なのは納得。短編だからか、次の「血溜之間殺人事件」の犯人とセットで紹介されているのが今までにない形式で面白いです。
「血溜之間殺人事件」
犯人:海峰学
高校入試絡みのことが動機の事件で、本当はもっと偏差値の高い高校に入学出来たはずが不動高校なんかに入学するはめになってしまった~と、不動高校をこき下ろしまくっている犯人の海峰。別に不動高校はバカ校って訳でもないんだけど、殺人事件がおきまくりで治安が最悪なので・・・。あらためて羅列されると確かに酷い。教師も生徒も殺し殺されだからなぁ。まともに考えて入学したい人いないよね。「全校集会に次ぐ全校集会・・そして保護者説明会」だよなぁ。
津雲(元)先生が海峰に「私の勤め先を悪く言うな!!」と言っているのが妙に可笑しい。
「誰が女神を殺したか」
犯人:汐見初音
こちらは読み切りで一話のみ。「誰が女神を殺したか」は1997年に掲載されたFILEシリーズの頃の短編なので、この本のなかでは絵柄が浮いている。本家のこの頃の絵は丁寧で髪の艶とか瞳とかキラキラしていたなぁ。このときの絵が恋しい・・・。
本家では被害者の先生が死ななかったことで良い感じに終わっているものの、教師の立場で生徒妊娠させてハッキリしたことも言わずに数日放置ってかなりのクズでしょう。当時読んだときも「指輪選んでた」じゃ、ねーよ。って感じだった。あと、視力が悪いのにいいフリするのも無理がありすぎる・・・。
「1億部突破少年の事件簿」
【金田一少年の事件簿】シリーズ1億部突破を記念しての読み切り。
今までの犯人たちが次々登場して“犯人の地位向上”のために主義主張をしていく。結論として1億部のうち5000部は自分たちの働きのおかげだということで落ち着いています。うん。ま、それはそうですよね。
「獄門塾殺人事件」
犯人:濱秋子・氏家貴之
最後の事件は「獄門塾殺人事件」。最後はやっぱり高遠さんプロデュース事件ですが、高遠さんの存在は割と薄めで、このスピンオフ漫画最終ケースということで歴代の犯人たちが応援したり実況したり注意を促したりするという集大成な作品になっています。みんな、本当によく頑張ったよ・・・!と、言ってあげたくなる(^_^;)。
判りきっているように、最終回でも金田一少年には勝てない。「勝つまで続けるって手もあるんじゃないか?」と氏家さんが言いますが、有森が「知っているか?ミステリにおいて犯人ってネタバレなんだぜ?」という当たり前で今更なことを言い返される。
【金田一37歳の事件簿】はイブニングで好評連載中。“金田一がいる限り犯人は生まれ続ける”ってことで、希望(?)を残すように宣伝して・・・最後にちょっと読者を「お?」と思わせるような形で終了しています。
殺人エンタメとして
「1億部突破少年の事件簿」の読み切りですが、笑えるようでいて実は“推理もの作品”の核心を突く深いことを言っている(ような気がする)。
“推理もの作品”は所詮、殺人事件をエンターテイメントに昇華させたもの。遺体を山に埋めるなり海に投げこむなりして後は知らぬ存ぜぬを決め込んだほうが確実に捕まるリスクは回避出来るにもかかわらず、態々七面倒くさい仕掛けを考えて実行して小道具を作ったり妙な扮装をしたり・・・端から見ればバカバカしいことこの上ない。でも、そのバカバカしさを前提にしてああだこうだと考えて楽しむ遊戯なのですよ。
謎をつくりだす者がいて、それを解く者がいる。犯人なくして名探偵なし。トリックなくして推理なし。
『犯人たちの事件簿』はエンターテイメントのため、“バカバカしいこと”を頑張って実行する犯人たちに”ネタバレ”というタブーをおかしつつスポットを当てた、さらなるエンターテイメントだったという訳(なんじゃないかと思う)。
【金田一少年の事件簿】ファンのみならず、ミステリファンも楽しませ、笑わせてくれた『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』に感謝いたします。ありがとうございました!
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ではではまた~