こんばんは、紫栞です。
今回は、中田永一さんの『彼女が生きてる世界線!』を読んだので感想を少し。
あらすじ
交通事故に遭い死亡した28歳のサラリーマンである「僕」は、目が覚めるとアニメ『きみといっしょにあるきたい』の悪役・城ヶ崎アクトに転生していた。
『きみある』と呼ばれるこのアニメは、主人公の少年・佐々木蓮太郎と白血病を発病してしまった少女・葉山ハルとの淡い恋心が描かれる物語。最後にはヒロインの葉山ハルが死んでしまうという悲恋の難病もの作品だ。
『きみある』の熱烈なファンであり、シナリオも裏設定も知り尽くしている「僕」は、転生したこの世界で葉山ハルが生き延びるシナリオのルートを探そうとするが――。
異世界転生+難病もの
※乙一さんの別名義について、詳しくはこちら↓
名義によって作品雰囲気を分けているようでして、中田永一名義の時は青春爽やか系の作風ですね。乙一ってなると短編で叙述トリックやどんでん返しの仕掛けが施された作風のイメージが世間では持たれていると思いますが、中田永一名義ですと『くちびるに歌を』みたいに、
そういった仕掛けなしの、直球で青春を描く作品も多いですね。
叙述トリックやどんでん返しで名を馳せた作家が仕掛けなしの作品を書くとガッカリされがちですが、筆力があるので仕掛けものではなくても遜色ないところが凄いところ。
私はミステリやホラーちっくなものが好きな人間なので、乙一名義か山白朝子名義の作品雰囲気の方が好みなんですよね。
なので、今作は買うかどうしようか少し迷ったのですが、ま、買ってみました。
まず本が届いて驚いたのが、結構厚さがあったこと。620ページほどある。乙一さんは短編を得意とする作家で長編を書いても大体200~300ページほどなので、これは珍しいなと。
帯にも「涙の調律師・中田永一 渾身の大長編!」と、書いてある。”涙の調律師”ってのは初耳なのですが・・・そうなのか?
上記したあらすじにある通り、今作は所謂「難病もの」で、「異世界転生もの」で、「悪役令嬢もの」(※今作は”令嬢”ではないですけども)。
「異世界転生もの」「悪役令嬢もの」ってのは2010年頃から人気が出て来たジャンル。現世で死んで、創作物の世界に転生した主人公が、事前にストーリーと設定を熟知していることと人生二度目の経験を活かしてすったもんだする・・・・・・と、いうのが私の中でのボンヤリとした認識なんですけれども。
今作もその「異世界転生もの」の定石に則っての物語ですね。主人公が転生したのはヒロインが白血病と闘うアニメだということで、「難病もの」でもある。
私は普段殺伐としている血生臭いミステリばかり読んでいるため、青春爽やか系もファンタジーも不慣れ。「異世界転生もの」もこれまで漫画含めてまともに読んだことが無いし、「難病もの」も好んでは読まないので、読み進めるのに苦労してしまいました。こんな事言うと身も蓋もないのは解っているのですが、現世で死んでどこぞのクリエーターの創作物の世界に転生って・・・何それ・・・・・・?
まあまあまあしかし、世界観をのみ込んでしまえば後は面白かったですよ。
大きく三つの章にわかれていまして、「Act 1」がサラリーマンから悪役に転生して順応するまで、「Act 2」が既存のストーリーからの逸脱、「Act 3」がヒロインの生存ルートを探す旅路。
この本の刊行前に三冊分冊で出ているみたいですね。
悪役に転生したのに前世でのサラリーマンの時の癖をいつまでも引きずっている主人公や、ヒロインや側近二人とのやり取りも乙一作品らしい”おかしみ”に溢れたもので良かったです。結末は大いに納得がいくもので読後も爽やかで言うこと無しですし。
設定は特殊ですが、小細工なしの直球の青春小説って感じですね。
帯には「数多の名作を手掛けてきた著者だからこそ書ける、創作へのリスペクトと怒りを込めた感動の大長編!」とも書かれているのですが、なんせ今までこのジャンルを読んだことが無いもんですから、何処がどの様に突出しているのかはよく解りませんでした。
普通の「異世界転生もの」とは違う目新しさや意外な展開をしているのでしょうかね?実は。
コミカライズが決定しており、BUNCOMI(文藝春秋)にて連載予定とのこと。主人公が転生した悪役・城ヶ崎アクトは誰もが恐れおののく悪魔のような面構えという設定なので(ホント、作中皆顔に対しての反応が失礼過ぎて「オイオイ・・・」となった)、どんなキャラクターデザインになるのか気になりますね。(分冊版の表紙に描かれているのはいたって普通に見えますが・・・)
有名作家が描く「異世界転生もの」に興味がある方、心温まる爽やか青春物語を味わいたい方は是非。
ではではまた~