夜ふかし閑談

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『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』あらすじ・感想 マジシャンによる華麗な調査手腕!

こんばんは、紫栞です。

今回は、東野圭吾さんの『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』を読んだので感想を少し。

 

ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人 (光文社文庫 ひ 6-24)

 

あらすじ

東京で仕事と数ヶ月後に控えた結婚の準備に追われていた神尾真世は、独り暮らしをしていた父が殺害されたとの一報を受けて故郷に帰郷する。

事件現場となった生家に警察と共に立ち入った真世は、そこで長年音信不通だった叔父の武史と再会した。元マジシャンの武史は警察を頼らずに自分の手で真相を突き止めると宣言し、真世も叔父の調査を手伝うことを決意する。

父の英一は多くの生徒達に慕われた元教師だった。真世の同級生達が同窓会を計画中だったこともあり、英一はつい最近も教え子数名と会ったり電話でのやり取りをしていたらしい。

犯人は真世の同級生の中にいるのか?

武史はマジシャンの能力を活かして皆を煙に巻き、華麗に謎を紐解いていく。すると同級生達の秘密が次々と明らかになっていって――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マジシャンによる殺人事件調査

『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』は2020年11月に刊行された長編ミステリ小説。2025年にこの作品を原作とした映画が公開されることが決定しております。

 

moviewalker.jp

映像化されると知り、この度読んでみました。2024年1月に『ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』が刊行されていまして、シリーズ化されている作品ですね。

 

 

つまり東野圭吾作品の”新たなヒーロー”誕生ということで。活躍するのはかつて海外を飛び回っていた人気マジシャンで今は日本でバーを経営している五十代男性・神尾武史

普通に警察の捜査に協力して事件が解決したところで、警察は遺族に詳細は明かしてくれずじまいだろうということで、独自に調査すると自信満々に言い出す。で、語り手であり武史の姪・真世が「私もお父さんが誰に、なぜ殺されたのか、自分で調べたい!」と、武史の手伝いをすることに。

 

叔父と姪のコンビってのはあまりなくって新鮮ですね。割とコミカルなやり取りをしてくれます。親族が亡くなったのにちょっと脳天気なんじゃないかという気にもなりますが、まあ、あんまりシンミリとばかりされても話に支障が出ますしね。

 

殺人事件の調査をしようにも素人二人、何の手掛かりも持っていないのにどうするんだ?なのですが、マジシャンの能力を最大限に活かし、話術とテクニック(手癖の悪さ)で手品のように情報を入手し、謎を解いていく。

ペテンで人を煙に巻いての調査が読んでいて楽しい作品です。

 

殺人事件調査の必要情報をどこから入手するのかというと、やっぱり警察からということになりますので、いかにして警察のだまくらかし、転がして情報入手をするかが主な描写になっている。

探偵小説というのは警察が協力的なものが殆どなので、警察が敵のように扱われるのもまた新鮮ですね。

 

500ページほどあり、見た目では結構なボリュームだと感じますが、実際に読んでみると追う事件も1つだけだしサクサク読めます。レビューですと中盤での中だるみを指摘する声もありますが、私はさほど気にせずに読めましたね。

 

 

 

 

 

 

コロナと田舎町の殺人

手品師の事件調査という特色の他に、この作品は2020年当時のコロナ禍まっただ中での殺人事件で、舞台が地方のとある町というところも特徴の1つ。

 

コロナ禍で変化したものは多々ありますが、その中でもそれまでと大きく変わったものの1つは葬儀のやり方。今はだいぶ緩和されていますが、まっただ中のこの時期は接触や密を避けるため、一人ずつ個室に入っての焼香やオンライン方式が採られたりしました。

今作はそのコロナ禍での葬儀状況を逆手にとって犯人当ての材料に使ったり、コロナ禍のために変化した人間関係、町おこし計画の頓挫による地方の葛藤や、観光地の苦しみが作品に反映されています。

 

読んでいると、「コロナ禍」を描くのが作者が強く掲げたテーマなのかなと感じさせますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

色々と気になる

今作、事件自体は非常に地味といいますか、特に奇々怪々なところの無い、トリックも何もない事件内容なのですよ。

なので、ひたすら神尾武史のマジシャン的調査手腕が見所となっています。レビューを見てみると、武史が上から目線で偉そうなのが受け付けないとの声もありますが、個人的にはこれくらい不遜で活き活きとしていた方が”いかにもミステリの素人探偵”って感じで読んでいて痛快で面白い。

ガリレオシリーズ】など、年齢を経てなんでしょうが初期よりだいぶ湯川先生の人柄が丸くなってしまって、良い変化なのでしょうがやっぱり淋しさがありますしね。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

名探偵ってのはやはり変人奇人の方が読んでいて楽しい。

 

 

しかしながら、重きを置いているのが武史の調査手腕の方とはいえ、この事件1つに500ページも使ったのか・・・とは正直、思ってしまいますね。

 

犯人も動機も読者には早い段階で予想出来てしまうもので驚きがない。東野圭吾作品なので叙述もののどんでん返しや「え!数行しか出て来ていないあの人が?」な、展開を期待してしまうのですが、今作ではそういった仕掛けはまったくないです。逆に驚きですね。

 

警察を出し抜いたり調査の過程は面白いのですが、解決編はもっとマジックショーさながらに華々しくやって欲しかったなと。近年は少なくなってきつつある関係者一同を集めての解決編だったのでワクワクしたのですが、どうも肩透かしを喰らった気分。

葬儀の時の映像を見せて追い詰めていく流れでしたが、解決編はやはり理責めで犯人を落して欲しい。ミステリ小説ならば。

 

あと、タイトルの”ブラック・ショーマン”というのがあまりピンとこないのですよね。最後に黒ずくめの格好を少ししただけで、誰かが「ブラック・ショーマン!」と呼んでいる訳でもないし・・・。

 

真世の結婚問題や同級生の夫婦関係問題も半端なまま終わっています。どっちも現実的に関係修復は「無理じゃね?ダメじゃね?」なんですけども。

同級生の夫婦関係とか、おさんどんは女性がやるのが常識的だっていう著者の考えが透けて見えるようで嫌でしたね。出産と育児で家事がおろそかになっているのを指摘されて「彼の言う通りだ」とか妻側がなっているんですけど、いや、「言う通りだ」じゃないですからね!コロナで仕事ぽしゃって家にいて、手伝いもしないのに家事に難癖つけてんじゃないよ!

 

武史がマジシャンを辞めた理由など、色々と含みを持たせてはいますが今作では明かされずじまいなので、割と長期的なシリーズ化をするつもりなのかと思います。映像化もされますしね。

 

事件そのものについてはちょっと残念な部分もありましたが、神尾武史のキャラクターは気に入ったので、とりあえず二作目の『ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』も読みたいと思っております。

 

 

 

 

 

 

ではではまた~