こんばんは、紫栞です。
今回は、芦花公園さんの『極楽に至る忌門』を読んだので感想を少し。
”あの”物部さんがお手上げの怪異!?
こちら、2024年3月に刊行されたホラー小説。四国の山奥にある村を舞台にオムニバスで怪異が描かれていて、読み進めていくとこの村で起こっている怪異の正体が段々と分かっていくという構成のもの。
長編は長編なんでしょうが、各章きちんと怪異譚として話が成立しているので、ホラー短編集としての読み応えもある1冊となっております。
芦花公園さんの代表的ホラー小説シリーズ【佐々木事務所シリーズ】に出て来る拝み屋・物部斉清が登場するってことで、本の宣伝文句や紹介文に
「最強の拝み屋・物部斉清も阻止出来なかった土地の怪異」
と、書かれております。
【佐々木事務所シリーズ】を読んでない人にとっては「?」な宣伝文句でしょうけど、物部さんは最強も最強、シリーズでは毎度最終手段として頼られる人、ほとんど神様的存在として扱われている人物なので、シリーズファンはこの宣伝文句でかなり心動かされてしまうのですよね。
「あの物部さんでダメだとは・・・よっぽどだぞ!!」って、なる訳です。物部さんがダメだと言うのならもうダメなんですよそれは。もう間違いない。あきらめるしかない。
それくらい、信頼の置ける最強っぷりのお方です。
※【佐々木事務所シリーズ】について、詳しくこちら↓
物部さんが登場するとあって【佐々木事務所シリーズ】のスピンオフともいえる作品だとのことで気になっていたところ、この度Kindle unlimitedの読み放題対象作品になっていたので意気揚々と読んでみました。
コミカライズもされているようです↓
土地の怪異
物語は、
頷き仏
泣き仏
笑い仏
外れ仏
の、4章で構成されています。同一の村での出来事ですが、各章で登場人物も発生時期も異なる。
「頷き仏」は、東京生まれ東京育ちの大学生・志村隼人が主役。
大学の友人・匠に実家に帰省するのに付いてきてくれと言われて村へとやって来た隼人だったが、実家で独り暮らしをしている匠の祖母は何やら村人から避けられている様子。その祖母は夕食の席で「頷き仏を近づけた」と発言し、その後匠が失踪してしまう。やがて、無関係なはずの隼人も村の怪異に飲み込まれていき――・・・。
「泣き仏」の主役は20代女性の美和。
村から上京して東京で就職したものの心労で会社を辞めた美和は、死に場所を求めて村へ帰郷しようと考える。美和の両親は少し前に行方不明になっていて、今は祖母が一人で実家を管理していた。しかし、祖母に帰郷すると電話をした翌日に、祖母が亡くなってしまう。
不躾で勝手な村人たちに反感を覚えた美和は怪異に悩まれつつも意固地になって実家に留まるが、残酷な事実に直面することになって―・・・。
「笑い仏」は小学四年生の優斗が主役。
両親に連れられて祖父の家へとやって来た優斗は、四つ年上の従妹・花音が出入禁止の小屋で見つけたという妙な”すごろく”を誘われてやってしまう。怪異に襲われ、花音は気がふれて戻らなくなり、話を聞いた祖父たちの異様なほどに深刻な様子を見て優斗は大変なことになったのだと実感する。
一晩明け、花音の母親が「どうしてこんなことになったのか」と乗り込んできて一族で騒ぎになっていたところに拝み屋だという物部斉清が現われて―・・・。
と、こんな具合に三つの怪異譚が描かれる。
「外れ仏」はエピローグ的なもので、大学の民俗学ゼミの教授・斎藤晴彦とゼミ生の頼金、物部さんの三人がこの村の怪異が如何なるものなのか語り合うといったもの。
以下ネタバレ~
イヤミス的
どの話でも共通しているのが、石仏、わらべ歌、指・舌・目の三つの捧げ物、猿神信仰
など。
所謂”因習村もの”といいますか、王道の古風なJホラーって感じですね。
同じ土地が舞台で怪異の内容も共通したものですが、三者三様の物語が展開されて最後まで飽きずに一気に読めます。読み始めるとその章を読んでいる途中では切れなくって、就寝時間が過ぎても読み続けてしまいました。
各章の主人公たちはいずれも浮かばれない最期を遂げています。芦花公園さんの作品ですと脇役含め100%善良で健全って人物が出てこないのが毎度のことでして今作も然りなのですが、今回の各章主人公たちは厭な部分はあれど感情移入出来る人物たちばかりで良かったです。その分、結末が辛くなるんですけど。
村の怪異だけでなく、意外な人間関係の秘密も読み応えがありました。「泣き仏」の美和は本人には何も非がないのに突き付けられる事実が残酷過ぎましたし、「笑い仏」はまだ幼い子供がこんな目に遭ってしまうのはやはり読んでいて精神的にやられる。物部さんが来て助かることも出来たのにってのがもうね・・・。
怪異も含めて”厭な事実”が解き明かされてくのでホラーというだけでなく「イヤミス」的要素もある作品です。
オムニバスで描かれる話自体が面白いですが、やっぱり知っているキャラクターである物部さんが出て来るとテンションが上がりますね。物部さんが出て来るのは「笑い仏」の終盤ですが、割とガッツリ登場してくれています。
忌門
今作は”モノホン”の怪異を扱っている物語ですが、本当に怖くて厄介なのは人間の業だと思い知らされるホラー小説。
元々、裕福に暮らしていた村の者が死後も幸福でいたいだとかいう願いを叶えてもらおうと子供を生け贄に差し出して”極楽の門の鍵”を手にしようとしたことが発端で、勝手に生贄を捧げ続けて、そしたら生贄達の怨念が溜まって悪いことが起こるようになって、拝み屋一族にすがるものの生贄捧げてたなんて言えないから土地神の怒りだと思わせて、拝み屋が器としてつくった「仏」を祀り続けて、けど結局「仏」に入っているのは神じゃなくって生贄の怨念だから・・・・・・と、どうしようもなく歪み続けてしまった結果がこれなんですね。
人間から初めて、都合の良い解釈をし続けて、怪異を増幅させた。
”人間の解釈が、現象に影響を及ぼす”って訳で、村人たち自ら”どうしようもない土地”にしてしまったと。
そもそも、大事にしている子供を生贄に差し出せば極楽に行けるという思考からして歪みきってますよね。そんなことしたらむしろ地獄行きになりそうじゃん。普通に。
もっとも怖いのが、時代が変わっても村の一族が”極楽の門の鍵”に拘って土地から離れようとしないところ。身内から犠牲者も出て酷い事になってるのに、あるかどうかも分からない死後の極楽を諦めきれないとは・・・強欲で浅ましい限りです。
それで物部さんも匙を投げるしかなかったんですね。助かろうとしない奴らを助けるのは無理なんですよ。
知らないのに巻き込まれてしまう気の毒な人が何人も出て来ますが、個人的に今作で一番気の毒なのは拝み屋の津守さんだなぁと。
物部と同じ流派の拝み屋一族なのですが、この村に振り回されるだけ振り回されて命を落すことになる。物部さんがこの村までやって来たのも津守さんのことがあったから。
ここら辺の事情はカクヨムで公開されているスピンオフ話で知ることが出来ます。↓
王道ホラーでありながらミステリとしての面白さもあってちゃんと恐い。夏にオススメの一冊ですので是非。
ではではまた~