夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『The Book』(ザ・ブック) ジョジョ 小説 乙一による力作!ネタバレ・感想

こんばんは、紫栞です。

今回は乙一さんの『The Book ~jojo’s bizarre adventure 4th another day~』をご紹介。

 

The Book ~jojo’s bizarre adventure 4th another day~ (集英社文庫)

 

あらすじ

2000年1月、杜王町。ぶどうヶ丘学園高等部一年の廣瀬康一と漫画家の岸辺露伴は、コンビニの前で全身が血に汚れたまま歩いている猫と遭遇する。猫に怪我をしている様子はなく、血はどこか別の場所でつけてきたものと思われた。二人は猫がはめていた首輪に書かれていた電話番号と名前から飼い主の家を捜し当てて訪問し、一人の女性の遺体を発見する。

密室の中、その女性は“車に轢かれたのが死因”だとしか思えぬ奇妙な状態で死んでいた。

 

解決まで二ヶ月半もかかることとなる、奇妙な事件の幕開け。しかし、本当のストーリーはとっくの昔、まだ“彼”が母親の胎内で小さな細胞だったときから始まっていた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

乙一×ジョジョ

『The Book jojo’s bizarre adventure 4th another day』は、荒木飛呂彦さんによる大人気超長編漫画ジョジョの奇妙な冒険の第四部ダイヤモンドは砕けないの世界設定を借りた、乙一さんによるオリジナル物語の小説作品。

 

刊行されたのは2007年で、それ以前も同じような形で『ジョジョ』の三部、五部と小説が刊行されているのですが、四部はまだ出ていませんでした。そこで、乙一さん自ら「『ジョジョ』の四部は小説にしないんですか?もしも書く人がいなかったら、書かせていただけませんか」と申し入れがあって実現したもの。

 

乙一さんは1996年に『夏と花火と私の死体』で第6回ジャンプ小説・ノンフィクションを受賞してデビューしたとあって、もともとジャンプとは馴染みのある作家。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

驚愕の十六歳でのデビューでしたが(ちなみに、この本の作中で“貴重な十代の時間を小説執筆にあてるなんてもったいないことをするものだとおもった。宝石をドブにすてるようなものだし、今すぐやめて、もっと外であそんだほうがいいとおもう。もしも自分が十代でデビューした作家なら、そんな忠告をしたいところ”という文章が出てくる)、十代の頃から『ジョジョ』のファンで、「もし『ジョジョ』の小説を書かせてもらえるのなら第四部がいいな、とぼんやり夢想していた」とのこと。

 

バトル漫画といえ、『ジョジョ』の四部は一つの町で起こる奇妙な出来事、短編の連なりのような構成になっているので、怪奇譚的な短編を得意とする乙一さんと相性がいいと読者的にも思うところ。

今作は370ページあって、乙一さんの作品の中ではかなりの長編となりますがね。スピンオフの岸辺露伴は動かない関連での短編小説も書いてくれないかなぁなんてことも思うところ。

www.yofukasikanndann.pink

 

 ファン故に気合いが入りまくったためか、書いては気に入らなくってボツにするというのを繰り返し、小説の内容は二転三転して、葬った原稿は2000枚以上。執筆にかかった期間は五年。その五年間、この小説のことばかり考え、収入が途絶えながらも別件の仕事をやって生活費を稼ぎ、三回引っ越しし、結婚までして、やっとこさ完成したのが今作。

 

物語自体の面白さはもちろん、「これまでに食べたパンの数をおぼえている人間がこの世にいるだろうか」など、ところどころジョジョ愛が垣間見える文や、「名前?意外とこういうスタンド名ってやつは、洋楽からとったりする場合がおおいんだよな」などのメタ発言が出て来て、読んでいて「フフッ」となります。

 

そんな訳で、ジョジョファンにとって申し分ない作品になっていますが、ちょっとしたことながらも、猛烈に違和感があるのが岸辺露伴の一人称が「私」になっているところ。露伴「僕」と言っているイメージが強いし、漫画でもアニメでも「僕」って言っていたと思うのですが・・・(全部の発言を確認した訳ではないから断言は出来ませんけど)。この小説では「私」なのかい?でも、「私」って言った後に「ぼくたち」と発言もするから訳がわからない。どういうこと?気分?露伴先生の。

 

あと、妙な具合にひらがな表記が多くって若干読みにくくなっているのも謎。乙一さんは作品によって漢字の量を変える作家ではあるのですが、「おもう」や「かんがえる」がひらがなで、「遭遇」や「腫瘍」が漢字というのは解せませんね。

 

乙一ファンでジョジョも好きなので気になっていたものの、ずっと読めていなかったのですが、この間、ジョジョの第四部のアニメを観終わって「めっちゃ面白いじゃん!」と改めて感動したので、興奮冷めやらぬままに勢いでやっとこの本を購入した次第です。いや、ホント、何で今まで読まなかったのかと後悔しましたね(^_^;)。

 

2007年にハードカバー版が、

 

 

2011年にJUMP j BOOKS から新書版が、

 

 

2012年に文庫版がそれぞれ刊行されています。

 

 

 持ち運びに便利なのはもちろん文庫版でしょうが、最初のハードカバー版は作中に登場するスタンド能力【The Book】と同じく「単行本サイズのダークブラウンの表紙で、三百八十ページほどのあつさがある本」で、荒木さんのイラストが飛び出す仕掛けなどもあって凝った作りのものになっていてオススメ(私は最初文庫で買って、その後ハードカバーを見つけ、素敵な装丁に惹かれて結局そっちも買った…)

どの版にも荒木さんの各章扉絵と挿絵は収録されていますが、乙一さんのあとがきは文庫版には収録されていませんので注意。

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蓮見琢馬の復讐

今作の舞台は、原作での吉良吉影との戦いが終わってからおよそ半年後。

原作漫画からの登場人物は東方仗助廣瀬康一虹村億泰岸辺露伴山岸由花子トニオ・トラサルディー東方朋子など、一通り出てくる。

語り手は康一君の他に、小説オリジナルの登場人物である、ぶどうヶ丘学園高等部二年の蓮見琢馬、ぶどうヶ丘学園高等部一年で琢馬と親交があり、好意を抱いている双葉千帆、婚約者の男に突き落とされ、ビルとビルの隙間から出られなくなってしまった飛来明里と、複数の視点で物語が構成されています。物語が進むにつれ、各人物の繋がりが明らかになるつくり。

 

ビルとビルの隙間から出ることが出来ずに長期間過すハメになるという、なさそうであるような、どうにかできそうでできないような、この奇妙な状況設定は凄く乙一作品的。こんなにも発見してもらえなかったのは、明里をこんな目に遭わせた男・大神照彦【黒い琥珀の記憶】(メモリー・オブ・ジェット)なるスタンド能力を持っていたためなのですが(大神は単に「幸運」と呼んでいた)。海外旅行先で、矢じりのようなモノで肩を傷つけたと言っているので、十中八九、“あの矢”によるものですねぇ・・・。

飛来明里はこの奇妙な状況下で大神照彦の子を身籠もっていることに気が付き、たった一人で出産する。そのときの子が蓮見琢馬。

 

 

今作は、蓮見琢馬の父親への人生をかけた復讐を描いた物語。仗助たちはその人生に途中参加しただけ、琢馬としては“思わぬ邪魔が入った”という形ですね。

 

 

蓮見琢馬は幼少から見聞きしたものすべてを記憶し、“忘れることがない”という人物。超記憶症候群サヴァン症候群、瞬間記憶能力(カメラアイ)のような特性で、それで今までに食べたパンの数だっておぼえている訳ですが、“忘れることが出来ない”という苦悩から、【The Book】という、自分の人生がすべて文章で記されている【本】の形のスタンド能力を手にする。これがページを人に見せると琢馬の体験を見た者に追体験させることが出来たりなどする能力で、ジョジョ的スタンドバトルに発展していくという訳です。

 

琢馬が生まれながらにスタンド能力を持っていたこと、復讐の障害になる人物をスタンド能力で殺害したこと、探り始めた仗助たちへの牽制のために東方朋子に危害を加えたことが決定的となって、琢馬は仗助たちと戦わざるをえなくなるのですが、本来の目的は一貫して父への復讐。

最後、仗助との戦いには敗れるものの、琢馬は大願だった父への復讐は成就させています。

空恐ろしい方法での復讐だったのですが、復讐を成すことだけを考えて人生を終えることとなった琢馬の一生というのは、飛来明里の子供への想いのことをふまえると酷く悲しくてやるせない。暗闇の中での唯一の希望で、必死の思いで産んだ子に、こんな風に人生を消費して欲しくなんかなかったはずですからね。

 

 

 

 

リーゼントヘアの【彼】

途中、語り手の康一君が地の文でいきなり、原作で描かれた謎の「リーゼントヘアの少年」についてメタメタな発言をしだして読者は驚くこととなる。後の展開への前フリになっているのですが、それにしたってもうちょっと自然なやり方があったろうに・・・何故なんだ(^_^;)。

 

原作を読んだ人なら誰でも知っている、1987年の冬、仗助の命を救ってくれた「リーゼントヘアの少年」。原作では結局何者だったのか明かされずじまいだったのですが、今作では康一君のメタ発言によって、当時からファンの間で一番多く言われていた仮説、「リーゼントヘアの少年は、敵のスタンド能力で過去にタイムスリップした仗助自身だったのではないか」という説が紹介されています。

確かにそう考えるのが一番キレイな形に思えるのだけど、原作者の荒木さんが明かしてない以上、ただの憶測でしかありませんね。この謎って、今後他の部で明かされるのかなぁ・・・。明かされたら「スゲぇ」ってなるけど。果たして、作者は覚えているのだろうか。

 

「リーゼントヘアの少年」は、仗助にとって今の自分の生き方を形作る重大な存在。琢馬は「【彼】は君自身だったんじゃないのか」「僕はこの町の人物なら全員記憶している。【The Book】で検索して、【彼】なんて“いなかった”ということになったらどうする?」と、仗助を精神的に揺さぶって勝機を見出そうとする。

ここら辺のシーンが小説ならではのバトルシーンといった感じで良い。琢馬の【本】のスタンド能力という設定も存分に発揮されていて巧いなと。この揺さぶりに対する仗助の“答え”も原作ファン納得のものとなっています。

 

 

 

 

 

少年ジャンプ的でない結末

17年前、飛来明里を閉じ込め、子供を取り上げ、死なせた後、大神照彦は結婚して苗字が変り、双葉照彦となっていた。

つまり、双葉千帆は照彦の娘で、琢馬とは腹違いの兄妹。誰とも親しい交友関係を築こうとしなかった琢馬が、千帆とだけは例外的に親しくしていたのは「妹」だから。そして、そのことを利用して父に復讐するため。

琢馬は照彦の共犯だった織笠花恵は殺害しましたが、照彦を殺害する気は端からありませんでした。父の照彦にはもっと罪深く、冷酷な復讐を用意していたからです。

 

最終的に、復讐は千帆の手によって成されて終わるのですが、最後の最後に康一君が知るこの「復讐」の内容も、そのことを語る千帆も恐ろしい。「楽園を追放され、永遠に荒野をさまよいつづける罪人」のようになった千帆ですが、それでも強くしなやかに生きる彼女に康一君は「遠くへ!遠くへ行くんだ!運命も追ってこない遠くへ!」と、スタンド【エコーズ】を使って言葉を運ぶ。

倫理観や道徳観が揺らぐ、とても重い真相と結末。およそ「友情・努力・勝利」などといった少年漫画的ではない代物となっていますが、とても深く心に残る結末となっています。

 

少年誌的ではないものの、色々とひっくるめて乙一作品らしい、ジョジョ四部らしい見事な作品となっておりますので、気になった方は是非。

 

 

 

 

 

 

ではではまた~

 

 

www.yofukasikanndann.pink