こんばんは、紫栞です。
今回は乙一さんの『さよならに反する現象』をご紹介。
作家生活25周年
『さよならに反する現象』は2022年4月に刊行された短編小説集。
本の帯に“作家生活25周年を迎えた乙一が贈る”と書かれているように、節目の年だからなのかなんなのか、同時期に単行本3冊続けざまに出されてビビってしまった
普段が全然出してくれない作家ってイメージですからね。それでも近年は映画との連動企画とかでまだ本出してくれていたなぁとは思いますけど。
それで「またしばらく期間空くかな~」と油断していたぶんビビったというのもある。短編を得意とする作家さんなので、一冊の本としてまとまるまでに時間がかかるってことなのでしょうが。
ま、出費は痛いですけどファンとしては嬉しいです。角川の単行本は毎度装丁が凝っていて素敵だなぁと思う。作家生活25周年おめでとうございます。
各話・あらすじ感想
『さよならに反する現象』は五編収録。
●「そしてクマになる」
会社をリストラされ、妻子に内緒でクマの着ぐるみを着るアルバイトをする男性のお話。住宅展示場でのバイトの最中、“ある人”を目撃したことで疑心暗鬼に陥っていく。
主人公は穏やかな男性なのですが、どんどんと不穏で危うい心境になっていく過程が空恐ろしい。最後どうなっちゃうのかとハラハラしましたが、家族愛を感じられる終わり方で良かった。現実と虚構が曖昧になる話なのですが、この“レベル”がなんだかリアリティあるなぁと。
●「なごみ探偵おそ松さん・リターンズ」
イヤミの邸宅でカラ松の他殺体が発見される。犯人は誰なのか?ピリピリするイヤミ宅に場をなごませるだけの名探偵・おそ松さんが訪れる!
と、いった乙一らしいシュールで、ヘンテコで、絶妙におかしい短編小説。
私はおそ松さんに関しては幼少期に『天才バカボン』の再放送を観てのおぼろげな記憶がある程度なので、詳しい人はもっと楽しめるように書かれているのかもしれない。ま、無知でも十分楽しく読めましたけど。
シュールなだけでなく、驚きの真相と意外な解決も用意されています。
●「家政婦」
霊の通り道となっている場所に建っている有名作家の屋敷に家政婦として住み込みで働くことになった女性のお話。
“霊の通り道”ネタはオカルトものだと定番ですね。普通は怖がって長続きしないだろうところですが、ナイスミドルの作家とイケメンの息子を鑑賞する楽しみが勝って家政婦を続ける気の多い主人公が面白い。作中で「畳地獄」というボードゲームが出て来るのですが、実際にあるゲームらしいです。
主人公の性格がお気楽だからと油断していると足をすくわれる。個人的にはこの本の中では一番怖くて好きなお話でしたね。
●「フィルム」
星野源さんの「フィルム」という曲にインスパイアされて生まれたというショートショート。
本にはこの曲の歌詞が全部掲載されています。この歌詞と同様、辛さと喜びに溢れた人生そのものを感じさせるショートショートになっています。
●「悠川さんは写りたい」
部屋に引き籠もり、画像編集ソフトで作ったインチキ心霊写真を投稿することをひそかな楽しみにしている男性。ある日、合成に使用する素材写真を撮るためにカメラを持って町をうろついていたところ、本物の幽霊である女性・悠川さんに遭遇。取り憑かれ、成仏のために悠川さんの願いを叶えるべく協力することとなるが――な、お話。
いつも心霊写真を作っているのに、ガチの幽霊である悠川さんはカメラに写すことが出来ないため回りくどい苦労をするといった、「過去を引きずる男性と陽気な女子大生幽霊との交流ものかぁ~」と、ほんわかしていると、またも最後に小型爆弾を落される。
とはいえ、この手の交流ものはやはり読んでいて楽しくも切なくなりますね。
“そう思っていた時期が、僕にもありました”と、いきなり敬語で書かれている一文がなにやら不気味でゾッとしてしまった。多分杞憂なんでしょうけど。多分。
さよならに反する物語集
短編集というのは収録作品の一つを表題にしているものが多いですが、この本のタイトルである「さよならに反する現象」は収録作からとられたものではなく、本全体をまとめて付けられたタイトルとなっています。これは乙一さんの単行本では珍しいことですね。
タイトルの通り、この本に収録されている五編はいずれもお別れすべきところでそれに反する現象が描かれています。ストーリーも雰囲気もバラバラですが、“お別れに背く不可思議な現象”という部分が共通している物語集なのですね。
ホラー寄りになってはいますが、乙一作品特有のユーモア、シュールさ、切なさが一挙に味わえる短編集となっていますので、気になった方は是非。
ではではまた~
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