夜ふかし閑談

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『Wi-Fi幽霊』乙一・山白朝子の傑作選 全9編 あらすじ・感想 夏のオススメ本~⑮

こんばんは、紫栞です。

今回は、乙一・山白朝子のホラー傑作選『Wi-Fi幽霊』をご紹介。

Wi-Fi幽霊 乙一・山白朝子 ホラー傑作選 (角川ホラー文庫)

 

こちら、2024年3月に刊行されたアンソロジーの短編集。角川ホラー文庫で、乙一と山白朝子、二名義からの傑作選で全9編収録されています。

ファンにとってはもうお馴染みのことですが、”山白朝子”乙一の複数ある別名義の中の一つ。※詳しくはこちら↓

 

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ですので、一見すると二人の作家作品からの傑作選本に勘違いさせられそうになりますが、実質同一作家のホラー短編傑作選本ですね。

 

私は乙一が別名義での活動もし始める前からのファンでして、別名義のものも含めて小説本はほぼほぼ買って読んでいます。(他作家との合同であるアンソロジー本などは追えてなかったりしますが・・・乙一は短編が主の作家なので、企画物のアンソロジー参加が多いのですよね)

 

だから、この傑作選に収録されている短編も殆ど読んだ事があるもので手元にある本とも重複してるのですけども。表題作の「Wi-Fi幽霊」がこの本のために書き下ろされた中編だとのことで、少し迷いましたが購入致しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目次

階段 乙一

『ホラー・アンソロジー 悪夢制御装置』(角川スニーカー文庫)のために書き下ろされた短編。他にアンソロジーの『青に捧げる悪夢』にも採録されているらしいですが、乙一名義の著書に収録されるのは今作が初。

 

SEVEN ROOMS 乙一

『ミステリ・アンソロジーⅡ 殺人鬼の放課後』(角川スニーカー文庫)に最初掲載され、後に乙一の短編集『ZOO 』(※分冊された文庫版だと『ZOO 1』)に収録された短編。

 

神の言葉 乙一

乙一の短編集『ZOO』(分冊された文庫版だと『ZOO 2』)に収録されている短編。

 

鳥とファフロッキーズ現象について 山白朝子

山白朝子の短編集『死者のための音楽』に収録されている短編。

 

〆 山白朝子

山白朝子の【和泉蠟庵シリーズ】の一冊目『エムブリヲ奇譚』に収録されている短編。

 

呵々の夜 山白朝子

山白朝子の【和泉蠟庵シリーズ】の二冊目『私のサイクロプス』に収録されている短編。

 

首なし鶏、夜をゆく 山白朝子

山白朝子の短編集『私の頭が正常であったなら』に収録されている短編。

 

子供を沈める 山白朝子

山白朝子の短編集『私の頭が正常であったなら』に収録されている短編。

 

Wi-Fi幽霊 乙一

乙一名義によるこの本の為の書き下ろし中編。

 

 

 

 

 

 

 

乙一名義のものが4話、山白朝子名義のものが5話、収録されていますね。「乙一」の名義だけでやっていた時、作風は大きく二極化されていました。ブラックでホラーに特化したものと、切ない純愛系ですね。ファンの間ではそれぞれ「黒乙一」「白乙一と呼ばれたものです。

 

多数名義を使うようになり、「黒乙一」的なホラーや奇談は山白朝子名義で主に書かれるように。山白朝子のふれこみも”怪談作家”となっていますしね。山白朝子名義のものは耽美さがあるイメージ。

ですので、今乙一のホラー傑作選の本を出すなら、当然山白朝子名義のものが半数占めることになる。

 

「首なし鶏、夜をゆく」「子供を沈める」に関しては当ブログで前に『私の頭が正常であったならで』を紹介した際に触れているので割愛させていただきますが↓

 

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「SEVEN ROOMS」は、姉と弟の兄弟二人が唐突に拉致されて謎の部屋に監禁される不条理ホラーで「黒乙一」を代表するような作品。部屋が七つ並んでいるという設定と巡らされる知略が見所で非常に”よく出来た話”ですが、色々とグロくてイカレテいまして、一度読んだら忘れられない短編ですね。

 

「神の言葉」は、自分の発する言葉で世界を思い通りに出来ると気がついた少年の行く末が描かれる異能者もの。とんでもないチート能力で、「どんな風にお話まとめるの!?」と、不安になってしまうような設定ですが、乙一らしい奇抜な仕掛けで見事にまとめられた一作。最後に描かれる究極の自己愛がなんとも恐ろしいです。

 

「鳥とファフロッキーズ現象について」は、傷ついた鳥を介抱したら、その鳥が家人が願った物を運んできてくれるようになるというもの。これが口に出して願ったものだけでなく、心の中で思ったものまで手段を選ばずに運んできてしまうものだから困ってしまう。主人公が良識的で”異能”に苦悩するのが「神の言葉」とは対極的。並んで収録されているので特にそう感じますね。

 

「〆」「呵々の夜」は、ありえない道の迷い方をしては怪異に遭遇する旅本作家・和泉蠟庵とロクデナシの怠け者である荷物持ち・耳彦との旅の道中記で、江戸時代(おそらく)が舞台の怪異譚シリーズ【和泉蠟庵シリーズ】の中の短編。

一話完結型のシリーズなのでこんな風にアンソロジー本に入っていても支障は無いですが、ロクデナシ耳彦の人となりを踏まえてのストーリーになっている部分もあるので(このおかしみのある人物造形がいかにも乙一的だと感じる)、ファンとしては『エムブリヲ奇譚』『私のサイクロプスとシリーズ全部読んで欲しいなと思うところ。

 

 

 

 

「呵々の夜」は王道の怪談話。「〆」はショッキングなお話で、これまた一度読んだら忘れられない短編ですね。

【和泉蠟庵シリーズ】、私凄い好きなシリーズでして、勝手に定期的に続けてくれるシリーズなんだと思っていたのですが、二冊目の『私のサイクロプス』刊行以降音沙汰無しで何年も経ってますね・・・。

掲載雑誌の関係とかあるのでしょうが・・・そもそも、乙一は長期的なシリーズはやってくれない作家なんではって気もしますけど(^_^;)。ファンとしてはあきらめずに今後に期待したい。

 

この本で読んだことがないのは書き下ろしの「Wi-Fi幽霊」だけかと思っていたのですが、「階段」も個人名義の本に収録されるのは初で未読だったので今回読めて嬉しかったです。なんだか棚ぼた気分ですね。

DVをする父親に苦しめられる幼い姉妹のお話。階段を下りて”恐怖”が待ちかまえている場所に行かねばならないという状況とハラハラする心理描写が巧みですが、”乙一だから”と、仕掛けやどんでん返しを期待してしまうとやや肩透かし感。ホラー短編としては文句のない完成度なんですけどね。

 

表題作で書き下ろしのWi-Fi幽霊」は、キャンプに行った先で謎のWi-Fiをチャッキしたら幽霊につきまとわれることになるという、なんとも”今どき”な怪談。面白いのが解決策も今どきなところ。

どんなに怖い目に遭っても窶れても元凶のスマホを捨てようとしない主人公に違和感がありますが、現代人のズレが妙な具合に表現されているとも思える。ホラーだけでなく、ミステリ要素とユニークさもあって様々に楽しめる中編です。

 

 

私は乙一のホラーと山白朝子名義で描かれる奇譚が大好きなので、「出ているのは全部読んで欲しい!」と、なってしまうところではありますが、この『Wi-Fi幽霊』は”傑作選”と銘打たれているだけあって”いいとこどり”された作品集となっていると思います。

 

久しぶりに読み返してみて、改めて乙一作品と山白朝子作品の素晴らしさを再認識させられたので、ファンにも初めて読む人にもオススメの一冊です。

この夏にどうでしょうか?

 

 

ではではまた~