夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『金田一37歳の事件簿 』2巻 ネタバレ “あの男”登場!美雪は!?

こんばんは、紫栞です。
金田一37歳の事件簿』2巻が発売されました。読んでみての感想や色々気になった点をまとめたいと思います。

金田一37歳の事件簿(2) (イブニングKC)

 

1巻と同様、今回も特装版と通常版での2形態での刊行ですね。1巻は青い方が通常版で赤い方が特装版でしたが、今回は逆。↓

 

 


前回からの先入観で間違えないように注意・・・まぁ帯の文句などでわかるとは思いますが。
今回の特装版には37歳の金田一一が勤める音羽ブラックPR社の「社員手帳風スケジュール帳」と、「キャラクター付箋」「クリアファイル3点セット」の付録付きで、お値段は1512円(通常版は680円)。

 

 

 

あらすじ
音羽ブラックPR社営業部主任・金田一一(37)は、高校時代に三度も殺人事件に巻き込まれた「歌島」に婚活ツアーの仕事で再び訪れることに。そして、やはり危惧していた通りにまたしても『オペラ座の怪人』になぞらえた殺人事件が発生してしまう。
ツアー客の一人、桜沢楓がチャペルから死体消失の後“ヴィーナスの鐘”で首を吊られて発見され、その後また、ツアー客の鈴木実がシャンデリアの下敷きとなって死んでしまう。
仕方なく謎を解くことを決意し、真相にたどり着いた金田一。高校時代と同じように容疑者達を集めて謎解きを開始しようとするも、犯人の罠によってかつてないピンチに見舞われてしまい――。
果たして二人を殺した殺人犯“第四のファントム”の正体とは。
そして、事件終了後に浮上する「あの男」の影――。

 

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~(犯人の名前も書いているので注意)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

収録内容ですが、前巻の『歌島リゾート殺人事件』編の完結までの7話分と、新章の『タワマンマダム殺人事件』編の1話収録。『歌島リゾート殺人事件』はほぼコミック二冊分使っての事件ということに。 

 

まずトリックや犯人なんですが、前回のこちらの記事で書いたことがほぼ当たってた。胸の黒子のことも(^^;)↓

 

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もうちょっと何かひねってくるかとも思っていたのですが・・・脇にボール挟んで脈を止めるトリックは古典中の古典ですからねぇ・・・(いつも思いますけど、死亡確認って普通脈より先に息してるかどうかみるよね)。やるにしてもコレですぐに犯人がわかってしまう状況設定は本格推理モノとしてどうかと。
胸の黒子は男性読者へのサービスとみせかけての伏線。どうでもいいことですが、麻生さんのあのデカイ胸は本物なんですかね?顔は整形してるってことですが・・・それにしても整形が偉大すぎる。

 

 

 

新鮮!笑える!だけど・・・
今回の解答編は新鮮でした。かなりギャグよりというか何というか・・・シルエット状態の犯人も今までになく喋りすぎですし。関係者集まってくれないから「犯人はこの中にいる!」って出来ないし。一ちゃんも「17歳のときと違う」とぼやいていますし。
ノリ的にはスピンオフの『犯人たちの事件簿』に近いですね。

 

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笑えるし面白いんですけど、本編の長編でやるのはどうなのかなと言う気もします。短編ならともかく。スピンオフがあるのだからこういったノリはそちらにお任せで良いのでは。

 

そして、今回の犯人“第四のファントム”、かなり下劣でしたね~。保険金殺人の常習犯で犯行は行き当たりばったり。殺害動機も「邪魔だったから」。


これも今までになく新鮮ではあるのですが・・・。シリーズの長年のファンとしては少し受け入れがたいところもあります。


金田一少年の事件簿』シリーズは本格推理もので情熱的なほどの緻密な犯行計画とリアリティは度外視した芝居かかった演出、並々ならぬ怨恨や複雑な事情がからんだ重すぎる犯行動機などが持ち味で、醍醐味で、こういったクラシカルな部分が他のミステリ漫画と一線を画すものとして位置づけられていた(はず)。

今作のような軽率でお粗末で軽薄な犯人には“第四のファントム”なんて怪人名を与えるのは納得がいかないっ!もうですね、歴代ファントムに謝って欲しいくらいですよ(-_-)みんなあんなに苦労して深刻に犯行に及んでいたのに・・・!

 

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37歳になったってことで作品も“近代化”なのかもしれませんが、個人的に昨今のサイコパスものを扱った作品には辟易することしばしばですし、そういったものは別の漫画作品で散々やっているのだから、このシリーズではする必要ないし、しないで欲しいというのが正直なところ。
今後はどうなんですかねぇ。こんな犯人ばっか出されたら嫌だなぁ~と思うのですが。

 

 

高遠さん
コミックスの帯やあらすじに「宿命のあの男」と書いてある。“あの男”とはもちろん地獄の傀儡師・高遠遙一さんその人である。
個人的に、「2巻でもう登場するのか~」って感じでした。もっと出し惜しみするかと思っていたので。


この2巻を読んでわかる事実としては、高遠さんは現在逮捕されて特別拘置室で死刑判決を待っている身だとのこと。ファンがいっぱいいて本の差し入れが全国から沢山くるらしい。
で、今回の事件の犯人・麻生早苗は高遠さんがスカウトして犯罪を仕込んだ弟子で「ゼウスのしもべアルテミス」と、ギリシャ神話の十二神にちなんで呼んでいたらしく、十二神というからには他にもよからぬ弟子が十人いるんじゃろ!と、金田一明智さんが推測して高遠さんがいる拘置所に訪ねに行く訳です。


と、いかにも漫画みたいな展開なんですけども(漫画だから良いんだけども)自分のこと“ゼウス”って呼ばせて、弟子に神の名前与えてって・・・新興宗教の教祖様みたいなことしていたってことでしょうか。最初は母親の復讐が目的で殺人を犯しただけだった人が何故こんな事に。

 

いずれにせよ、この“十二神”が今後『金田一37歳の事件簿』の主軸になるのでしょう。終盤、一ちゃんが
「冗談じゃねーぞ向こうはその気でもこっちはそーゆー気分じゃねっつーの」
と言っているのがジワジワくる(笑)
確かに37歳にもなってギリシャ神話だオリンポスの十二神だと言われても乗り気になれないかもしれない。

 

それにしても、麻生早苗が高遠さんの弟子とは・・・言っちゃ悪いけど、高遠さん見る目がないのでは?
麻生早苗みたいな下品な殺人犯は嫌っていそうなイメージがあったので何か意外・・・。まぁ「失望した」って言って人使って殺害するんですけど。こっちは別の意味で失望したって感じ(^^;)それとも何か深い考えがあってのことなんですかねぇ・・・。

 

はて、金田一と高遠さんは対面するのが20年ぶりらしいのですが、ここで疑問なのは高遠さんが逮捕されたのは何年前なのか?というところですね。対面するのが20年ぶりなら逮捕されたのも20年前か?と、なりそうですが、それだと27歳の麻生早苗をいつ弟子にしたのかという謎が出来てしまう。度々脱走を繰り返していた高遠さんが20年もおとなしく牢屋に入っていたというのも不自然ですよね。うーん・・・気になります。

 

 

 

 

 


美雪
美雪が・・・出て来ません。

1巻同様、金田一とライソで連絡とっているのみです。通話もなし。


高遠さんの登場が意外だったのは美雪より先に出て来たという点もあってなのですが・・・・・・と、いうか・・・

どういうことだっ。何故こんなに美雪を出し惜しみしている!?


出て来ないばかりか、一ちゃんはライソのメッセージ読んだ後空見上げて美雪のシルエット浮かべてるし。ヤメテ!空に浮かべないで!なんかザワザワするじゃんっ。

 

今回読んで、私、自分で思っていたよりも美雪のこと好きだったと実感しました(^^;)美雪が助手してくれないとやっぱりヤダ。いや、思っていたよりも『金田一少年の事件簿』が好きだったのだということも痛感しました。早く17歳のころの調子に戻って欲しいです。

 

 


何があったのか?
2巻を読んでも金田一「もう謎は解きたくない」と言っている理由はわからずじまいです。

 

もし また あんなことになったら――

や、回想だと思われる部分で

・・・金田一君・・・!――助けて!

 

と、思わせぶりなセリフがあるので、とにかく昔事件に関わっている最中に“何か”があったことは間違いなさそうです。
美雪を出し惜しみしているのはこの“何か”に深く関係しているからだろうとは思うのですが、金田一と美雪との連絡のやり取りが全て金田一の妄想だというのもあまりに突拍子がなさすぎて辻褄が合いませんし、美雪が生活に支障を来すような大怪我・ましてや死亡しているなどというのは考えにくい。

 

で、引っかかってくるのが“・・・金田一君・・・!――助けて!”の文章。
文面的にこのセリフを言ったのは女性だろうと思われるのですが、美雪は金田一君”とは呼ばないので、事件によって“何か”があった張本人はおそらく美雪以外の別の女性なのでは。
シリーズのレギュラーキャラクターの中で金田一のことを「金田一君」と呼ぶのは玲香ちゃんぐらいしか思い浮かびませんが・・・・・・しかし、レギュラーとかではないその事件のみの登場人物かもしれないので何とも言えませんね。玲香ちゃんもまだ出て来ていないので気になるところではあります。

 

 

 


気になる!
色々と思うところはありますが、今後どうなるのかかなり気になりますので読まずにはいられない。
3巻は『タワマンマダム殺人事件』の続き。1話目の雰囲気的に短めで一休みっぽい、高遠さんとか関係ない事件かな~と思うのですが、どうでしょう。3巻も美雪は登場しなさそうですかねぇ・・・。早く登場シーン見て安心したいんですけど・・・(^_^;)

 

何はともあれ、次巻も必ず読みます。3巻は2019年2月発売予定とのこと。心して待つ!

 

※3巻でました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

 

金田一37歳の事件簿(2) (イブニングKC)
 

 

アウト&アウト(アウトアンドアウト)映画の原作本 極道探偵の反撃が面白い!

こんばんは、紫栞です。
今回は木内一裕さんの『アウト&アウト』をご紹介。

アウト & アウト (講談社文庫)

2118年11月16日から全国ロードショーされる映画の原作本です。

 

あらすじ
矢能政男、46歳、独身。職業は探偵(見習い)。前歴は日本最大の暴力団・菱口組の最高幹部の側近をしていたヤクザ者。訳アリで小学校二年生の女の子・黒木栞の後見人をすることになり、ヤクザから足を洗って探偵を始めて八ヶ月。二人で暮らしているが、言動はヤクザ時代と変わらず粗暴なまま。まともに依頼を受けず、小学生の栞に説教をされる毎日を過ごしていた。

ある日、矢能の元に「ある人間を調べて欲しい」と依頼の電話がかかってくる。しかし、矢能が呼び出された場所に行ってみると、そこには依頼人の死体と「クリントン」の覆面を被って拳銃を持った若い男が。
図らずも目撃者となり、窮地に追い込まれた矢能。だが、覆面男は「しないですむ殺しはしないですませたい」と言い、持っていた拳銃の弾倉に矢能の指紋をつけ、これを“保険”として矢能と死体を置いて立ち去った。
知恵と機転で困難を上手く乗り越えたと達成感と高揚感に満たされる覆面男。これが周到に用意した殺人計画の大誤算になることも知らずに――。

人殺しの若造に嘗められたことに立腹した矢能は、独自のルートを駆使して反撃を開始する。

 

 

 

 

 

アウトだらけのエンタメ小説!
作者の木内一裕さんは小説家としては映画化された藁の楯

 

藁の楯 (講談社文庫)

藁の楯 (講談社文庫)

 

 

の作者として有名ですかね。漫画家でBE-BOP-HIGHSCHOOL

 

 

きうちかずひろと同一人物。


今作は『アウト&アウト』というタイトルの通り、登場するのは裏社会の情報屋、不良刑事、元弟分のヤクザ、死体の掃除屋・・・と、道から外れている者ばかり。そんな中でもひときわ毒っ気があるのが主人公の矢能。口では「もうヤクザじゃない」「カタギになった」と事あるごとに言いますが、見た目も言動も考え方もまんまヤクザの“ソレ”のまま。極道の道を歩いたまま「探偵」と名乗っているだけって感じで、とてもお近づきにはなりたくない人種・・・と、この設定だともうハードボイルド一直線なお話になりそうですが、ここに小学生の女の子・栞や、隠れ家に使いがてら時折様子を見に行っているお婆さんなどが出て来ることで作品雰囲気が中和されています。
お話としては“敵側”になる登場人物達も魅力的ですし、ストーリー展開も先がよめず、スピーディーで一気に引き込まれます。途中切なくさせる部分などがありつつ、決着のつけかたはこの作品ならではの痛快なものでコミカルさもあり「これぞエンタメ!」で、非常に楽しく、面白く読む事が出来ました。

 

 

前日譚・続編
この作品、私は映画化されるというので興味を持って読み始めたのですが、矢能と栞にはだいぶ込み入った事情や経緯があったみたいだけど詳しく書かれてないなぁ~と思ったら、ちゃんとこのお話の前日譚が描かれている『水の中の犬』という作品があるらしいと文庫版の野崎六助さんによる「解説」で知りました。

で、「面白かった~!続編ないのかな?」と思って調べてみたら続編も二冊刊行されているとのこと。勝手に単発ものだと思い込んでいたので、シリーズだと知って嬉しかったです(^^)

 

矢能シリーズ(で、良いのかな?)の順番は


『水の中の犬』

 

水の中の犬 (講談社文庫)

水の中の犬 (講談社文庫)

 

 


『アウト&アウト』

 

アウト & アウト (講談社文庫)

アウト & アウト (講談社文庫)

 

 


『バードドッグ』

 

バードドッグ

バードドッグ

 

 


『ドッグレース』

 

ドッグレース

ドッグレース

 

 


の、今のところ4作品。

矢能が主役になるのは今作の『アウト&アウト』からで、シリーズ第一作の『水の中の犬』では主役が異なり、矢能は脇で登場とのこと。
シリーズ4作目の『ドッグレース』は今年刊行されたばかりのようです。
私は『アウト&アウト』がだいぶ気に入ってしまったので、もうシリーズ全部読む事に決めて既に二冊買ってしまいました(^^;)落ち着いたら一気読みしようと意気込んでおります。

 

※読みました!詳しくはこちら↓

 

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映画
映画ですが、監督は「きうちかずひろ」さんです。つまり著者の木内一裕さん本人ですね。
お話を書いた本人が監督されるなら、原作と違うウンヌンとか諸々の文句は言いようもないってな気がしますね。だって御本人が撮っているのだもの。
しかし、漫画家で、小説家で、映画監督でって多彩な方ですね~。

 

キャストは以下の通り
矢能政男遠藤憲一
黒木栞白鳥玉季
情報屋竹中直人
婆さん高畑淳子
池上数馬岩井拳士朗
北川理恵小宮有紗
鶴丸清彦要潤

公式サイトで写真つきで紹介されているのは上記の方々。


原作に出て来るヤクザの工藤篠木、警官の次三郎、池上数馬の師である堂島哲士なども小説では重要な登場人物達です。映画ではどうなっているのか気になるところ。

 

矢能は原作だと


ハンサムにはほど遠い顔立ちだが醜男とも懸け離れている。甘さのない顔だが男臭い顔というわけでもない。歳は四十代半ばだろう。アメリカの映画俳優ウィレム・デフォーに少し似ているように思った。マッチョではないがタフな男の顔だった。


と、ある。
イメージぴったり!と、いうか・・・私は読む前に主演キャストをすでに知っている状態だったので最初から遠藤さんのイメージで読んでしまったのですが・・・(^^;)いや、でもぴったりだと思う・・・。
原作の矢能は四十代半ばの設定なので、現在五十代後半の遠藤さんとは年齢がだいぶ異なる。うーん、でも強面は年齢不詳になりがちなので別に問題ないんですかね。
年齢で言うと、原作の婆さんは八十近い設定なので、こちらは逆に高畑さんだとだいぶ若いですね。

 

映画の公式サイトでの予告を見ると、かなりシリアスというかハードボイルドが強めの感じですね。小説の方は個人的主観としてはもうちょっとコミカルさがあるように思うのですが。まぁ観てみないことには何とも言えないですけど、コミカルさはなくさないで欲しいなぁ~と思います。

 


以下若干のネタバレ~

 

 

 

 

“どっちつかず”の魅力
この小説は
第一章 発端
第二章 もう一つの発端
第三章 追撃
第四章 さらに追撃
の、四つの章で成り立っています。


第一章の「発端」で矢能が事件を追うことになる発端が矢能視点で描かれ、第二章の「もう一つの発端」では矢能が殺人現場で鉢合わせた犯人の覆面男・池上数馬の殺人を起こす経緯が池上数馬視点で描かれます。
読者としては「あ、じゃあ三章と四章も矢能視点と数馬視点で交互なのかな?」と思ってしまうところですが、この予想はあっさりと良い意味で裏切られます。どのように展開するかは是非読んでお確かめ頂きたい(^^)

覆面男の数馬ですが、犯人なんですけども格好良くっていい男なんですよね。バックボーンも主人公かってくらいに確り描かれていて、第二章の前半を読んでいる間は本来の主役である矢能を失念してしまいそうな勢い。まぁ第二章の後半で矢能の圧倒的存在感を思い出すんですけども・・・。

矢能や数馬もそうですが、この小説では主要人物たちが悪人・善人と綺麗にわかれて描かれてはいません。お話としては敵側の堂島や鶴丸も、根っからの悪人という訳ではなく、様々な経緯の末の結果がこうなってしまったという感じ。諸悪の根源である鶴丸清彦も3年前の事件直前は改心の兆候を見せていたし、一応、罪悪感も持ち合わせていたようですし。弱いから流され捲くって駄目駄目でしょうもない男になっちゃって(-_-)この人間くささが登場人物達の魅力になっていますね。

 

唯一例外的な存在として描かれているのは栞ですね。子供だからというのもありますが、数馬が堂島との電話で「絶対に、私を騙さない相手」と言ったのが印象的でした。ここら辺の数馬の終盤シーンは切なくて哀しかったですね・・・。エピローグで少し救われましたが。

 


他、イチオシ!ポイント
栞ちゃんがカワイイ。小学二年生ですが、やたら聡明で大人びていて口が達者。それでいて、ちゃんと可愛げもある。
血も涙もないような危険人物の矢能ですが、栞のことを大事にしているのだけはどうやら本当らしく、強気に出られなっくって頭が上がりません。矢能と栞との会話は読んでいる分には完全に夫と女房の会話にしか思えなくって可笑しいです(^^)シリアスなシーンでのやり取りまで夫婦のようでさらに可笑しい。

個人的に無愛想男と子供のコンビが好きなので(ブラックジャックとか)、ここら辺のやりとりはドンピシャでした。私と同じく、こういったコンビが好きな方は是非。

 

ハードボイルド小説に苦手意識がある人も多いかと思いますが、栞ちゃんとのやり取りもあるせいか、ハードボイルドの主人公特有の男性作家的「こいつカッコイイだろ」感(好き勝手しているだけなのに女に言い寄られる・・・など^^;)が薄く、ヤクザなど裏世界とのやり取りもノワール小説程の暗さや重さが無く、娯楽小説としての側面が強めなので読みやすいと思います。
とにかくオススメ!ですので是非是非。

 

 

アウト & アウト (講談社文庫)

アウト & アウト (講談社文庫)

 

 


ではではまた~

 

 

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スマホを落しただけなのに 小説 あらすじ・感想 リアリティのあるホラー

こんばんは、紫栞です。
今回は志駕晃さんのスマホを落しただけなのに』をご紹介。

スマホを落としただけなのに (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

2118年11月上映予定の映画の原作本ですね。

 

あらすじ
なんでこんなことになってしまったのだろうか。
事の発端はスマホを落したことだった。
都内に住むOL・稲葉麻美は、ある日彼氏である富田誠のスマホに電話をかける。しかし、電話にでたのはハスキーボイスの知らない男だった。富田は泥酔してスマホをタクシーの中に落とし、そのスマホをこのハスキーボイスの男が拾ったのだという。
拾い主の男はスマホを返却するが、男の正体は狡猾なクラッカー。富田のスマホの待ち受け画面に設定されていた麻美の姿と、電話でのやり取りで麻美のことが気に入った男は、富田のスマホから得た情報から麻美の個人情報を抜き出し、人間関係を監視し始め、SNSを介して罠を張り巡らしていく。
一方、神奈川の山中では身元不明の女性の遺体が次々と発見されて――。

 

 

 

 

 

 

50代の新人作家
この『スマホを落しただけなのに』は、第15回このミステリーがすごい!」大賞隠し球の『パスワード』を改題・加筆修正したもので、志駕晃さんのデビュー作。
隠し球”って何?って感じますが、最終選考まで残って大賞は逃したものの、編集部推薦で刊行したよ~ってなことらしいです。お節介で余計なお世話な個人的意見ですが、題名を『パスワード』から『スマホを落しただけなのに』に改題したのは大正解だと思います。与えるインパクトが全然違いますし、『スマホを落しただけなのに』という題名の方が作品にずっと合っていますね。『パスワード』だと本屋に並んでも広告を見てもあまり興味をそそられないんじゃないかと。

 

作者の志駕晃さんですが、1963年生まれでデビューしたときは既に50代。元ラジオディレクターで、今作はニッポン放送のエンターテインメント開発局長という要職に就きながらの執筆だったという異色の経歴の持ち主。
※2作目の『ちょっと一杯のはずだったのに』はラジオ業界が舞台の作品らしいです↓

 

 

SNSを利用しての犯罪という現代的な題材を扱っている作品なので、読む前は思い込みから若い作者を想像していたので以外でした。しかし、読んでみると胸のこと“おっぱい”とか、下着を“パンティー”と表記するところがなんか、あの、ソレっぽいので(笑)作者の経歴見て妙に納得しました(^_^;)

 

※追記。なんと、11月6日に『スマホを落しただけなのに』の続編が発売されたみたいです!続編があるようなお話だとは思ってなかったので意外・・・。詳しくはこちら↓

 

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SNSの恐怖
このミステリーがすごい!」からの出ですが、この作品はミステリー色というか推理小説的要素はさほどではないです。どちらかというとサスペンスでホラーって印象でしょうか。

お話はスマホの拾い主の男視点のAパート、麻美視点のBパート、捜査中の刑事二人のCパートの三つの視点で語られていきます。この視点の変化でスピーディーに読み進められ、先も気になって一気読みしてしまうといった感じ。

 

今やスマホは最も身近なツール。ネットも多くの人が日常的に利用するのが当たり前の時代です。肌身離さず持っているぶん、公共の場で落したり忘れたりする事も多い。この小説では最悪の人物にスマホを拾われてしまったことから始まる恐怖が全面に描かれていています。しかも、スマホを落したのは狙われることになる主人公ではなく、主人公の交際相手で、主人公に直接的な非はありません。まさに不運としか言いようがなく、平穏に過ごしていた人間が“知り合いがスマホを落した”という日常茶飯事的な事柄で人生をめちゃくちゃにされるというのは、誰にでも起こり得る状況なだけに現実的な恐ろしさがあります。
この本で取り上げられているのは主にフェイスブックですが、スマホに依存している生活、セキュリティの弱さ、システムの盲点・・・などなど。皆が無知なままに当たり前に利用しているスマホSNSは実は大きなリスクが伴うものなのだと嫌というほど痛感させられますね。

あと、どんなに親しい人物にもやっぱり裸の写真は撮らせちゃ駄目なんだなと思いました(^^;)

 

 

映画・キャスト
11月公開の映画は監督が『リング』シリーズ仄暗い水の底から』『クロユリ団地』などホラー映画で有名な中田秀夫さん。なので、やっぱり映画もミステリーよりホラーテイストよりのものになるのかな?と思います。

 

 

 

キャストは以下の通り
稲葉麻美北川景子
富田誠(麻美の彼氏)-田中圭
毒島徹(刑事)-原田泰造
加賀山学(刑事)-千葉雄大
浦野善治(インターネットセキュリティの専門家)-成田凌
小柳守(麻美の元同僚)-バカリズム
武井雄哉要潤
杉本加奈子高橋メアリージュン

 

キャストに関しては個人的には異論は無いです。刑事さん二人は本読んで想像していたのとちょっと違いますが、全体的に順当な感じ。


原作の麻美は綺麗な黒髪のストレートヘアの美女で、その特徴が元で狙われる設定。北川景子さんは茶髪のイメージが強いですが、予告動画などを見ると黒髪になっているので原作の設定に合わせたのだと思います。

原作だと武井は大学時代の先輩、加奈子は同大学出身の友人です。映画の公式サイトだと加奈子が「職場の同僚」となっていますね。びみょ~に変えていますが、お話の中での役割は大体同じだと思います。武井がプレイボーイの女好きなのも。

他、公式サイトですとサイバー犯罪者の大野俊也(酒井健太)、富田に言い寄る女性で天城千尋(筧美和子)と名前が出ていますが、この二人は映画オリジナルですね。


映画の予告映像を観ると麻美の交友関係は映画の方が原作より酷い事になっていそうな感じがしますが・・・どうなんでしょう。

 

 

 

 


以下若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



一気読み出来る面白い作品ではあるのですが、デビュー作だからというのもあるのでしょうけど、なんか色々と言いたい部分がチラホラあります(^^;)

 

サイコキラー
スマホの拾い主の男が、若い黒髪の女性ばかりを殺害しているサイコキラーだというのは物語の比較的早い段階で判明します。で、このサイコキラーの男、母親がネグレクトで自殺。女性に母性を求めて母親と同じ髪型をした女性を次々殺害していき、殺害時には被害者の腹部を滅多刺し。最後、逮捕された際には「見つけてくれてありがとう。このまま止めてくれなかったら、もっと女を殺さなければならなかった」と発言。
・・・・・・まるでプロファイリングものの典型を羅列しているような印象で、犯人視点での心情描写もそこまで突っ込んで書かれていませんし、何というか“プロフィール紹介をしているだけ”と感じてしまいます。
サイコキラーの内情が主の物語ではないってことなのでしょうけど、これならいっそ、犯人の生い立ちなどはまったく伏せたままで話しを進めて、最後に刑事さんにまとめて言わせるくらいでよかったんじゃないかなぁと。

 


男性の文章
主人公の稲葉麻美ですが、まず読んで思うのは、いかにも男性が想像する女性像だなぁと。人を見るときにいちいち打算的になっていたり、「女性ってこうだろ?」みたいな雰囲気を感じてしまいますね。文章も男性作家特有の匂いがプンプンします。特に“パンティー”の表記がね・・・(^^;)
そんな訳で、感情移入出来そうな、出来なさそうな微妙な主人公ですね。言動もなんだか一貫性がないような気がするし。

彼氏の富田は富田で純粋で良いヤツだとは思うのですが、終盤、犯人との取引に応じてせっかくの拘束を解いてしまうのには「馬鹿か?」となりましたね。反撃されるに決まっているのに・・・。

 



このミステリーがすごい!」大賞での選考で警察捜査の描写の甘さが指摘されているようですが、捜査描写もさることながら、気になるのは刑事二人が山中で話す話題の中に必要性がないものが多いような気がしてならないところです。

遺体発見現場で蛭だの猪だの熊だの、聞き込みした人が「くそ熱い中」って言ったりだの。ミステリー脳(笑)な人間としてはこの描写も何かの伏線か?結末に関係するのか?視点が三つにわかれているけど、まさか時間軸がズレているとか?と、色々勘ぐってしまうのですが、どの描写も特別結末には関係なく。大いに肩透かしをくらった感・・・まぁミステリー脳で読んでしまうとって話ですけど(^_^;)


しかし、じゃあこれらは何のための描写だったんですかね?読者を陽動するための確信的なものなのか。それともユーモアのつもりなのか。だとしたらユーモアだと気が付かれもしないってのはどうなんだ。

あと、アスペルガー症候群の話も出て来るのですが、これも何のために出してきたのかわかりませんね。個人的にはちょっと変わっているってだけで、すぐにアスペルガーだの何だの言い出す風潮って大っ嫌いなんですが。


結末
犯人なのですが、ちょっと解りやすすぎますね。一番怪しい人物がそのまま犯人で「あ、いいんだそれで」といった感じ。
で、終盤、お話は犯人特定よりも麻美の過去の謎がメインとなります。サイコキラーの犯人で引っ張りますが、実はお話のメイントリックはこっちなんですね。


一ひねりではありますが、上記したように、文面を読んでいるともっと大仕掛けや大どんでん返しが潜んでいるのかと期待してしまうので、この手のトリックが使われるミステリー小説を読み慣れている人にとっては物足りなさを感じてしまうかなぁと思います。
ホラー、ミステリー、パニック小説など様々な要素が入っているお話ですが、様々な要素が入っているために全体の描写が浅くなってしまっている印象。

 

個人的にはやはりミステリー小説としてよりも、ホラー小説として読むのがオススメですね。SNSを利用している人は特にリアルな恐怖を感じる事が出来ると思います。スマホSNS依存への問題提起的側面もあるので、日常的にSNSを利用する人にこそ読んで欲しい作品です。映画で気になった方は是非是非。

 

 

 

※漫画もある↓

 

 

 ※続編もね↓

 

 

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 ※第3弾もね↓

 

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ではではまた~

『風が強く吹いている』あらすじ 感想 。アニメ・映画で満足せずに原作を!

こんばんは、紫栞です。
三浦しをんさんの『風が強く吹いている』がアニメ化され現在放送中だとのことなので、この機会に少しまとめようかと思います。

風が強く吹いている (新潮文庫)

第1回ブクログ大賞文庫本部門大賞受賞作。

 

あらすじ
「走るの好きか」
ある春の日、万引きをして逃走中の走(カケル)に自転車に乗って追いかけてきた男・清瀬灰二はそう問いかけた。
蔵原走は高校時代にインターハイを制覇し、驚異的な速さで走る天才ランナーとして知られていたが、所属していた陸上部の監督と衝突。陸上部を退部し、そのまま高校を卒業。寛政大学に入学したものの、大学では陸上部に所属する気は無くしていた。
金に困り、脚力を生かして万引きをして逃走中、同じ寛政大学4年の清瀬に捕まり、言われるまま、成り行きで寛政大の学生ばかりが住むボロアパート・竹青荘(通称:アオタケ)に住むことに。
四月に入り、アオタケで走の歓迎会での最中、清瀬は驚きの発言をする。アオタケに住む十人で今年の箱根駅伝を目指そうと言うのだ。
実は竹青荘は「寛政大学陸上競技部錬成所」であった。清瀬以外の住人の皆、知らぬ間にアオタケに入居した時点で自動的に寛政大学の陸上部員となっていたのだ。
騙されたと感じながらも、清瀬の口車に乗って練習を始めるアオタケの面々。しかし、彼らは陸上経験に乏しく、駅伝などとても出られそうにないズブの素人ばかりだった。

「速く」ではなく「強く」。走るってどういうことなのか。
たった十人。寄せ集めの陸上部員達は「箱根駅伝」を目指してひた走る――。

 

 

 

 


箱根駅伝
『風が強く吹いている』は2006年に刊行された長編小説で“三浦さんの代表作の一つ。三浦しをんはここ十年の間にヒット作を何冊も書いているので埋もれてしまった感はありますが・・・(^^;)
曰く、執筆に六年を要したとのこと。三浦さんの作家デビューは2000年ですので、デビュー直後から他の作品と平行して執筆されていた訳ですね。おそらく取材に多くの時間を要したのだと思いますが。

ほとんど陸上経験が無い寄せ集めのメンバーで箱根駅伝出場を目指すという、現実的には荒唐無稽だとも思ってしまうお話を読者がすんなりと受け入れてしまうのは、この膨大な取材があるおかげでリアリティや説得力を感じられるからだと思います。


ランナーの心情はもちろん、箱根駅伝がどういったものなのかもかなり細かく描かれていますので、読めばたちどころに箱根駅伝に詳しくなれる事請け合い。この本を読んだ後はお正月の中継を何倍も面白く観ることが出来ると思います。私はお正月いつも仕事なのでまともに観られないまま何年も過ぎていますが・・・・・・(-_-)

 

 


モデル
三浦しをんの筆力のなせるワザなのか、読んでいると実際にこのようなド素人チームが過去にあって、この小説は実話を元に執筆されているのでは?とまで勘違いしてしまいそうになりますが、ストーリー自体は完全に小説での創作のようです。
モデルとしてという訳ではないのでしょうが、この小説で主に取材対象に選ばれた大学は大東文化大学法政大学の二つの陸上競技部
新潮文庫版の最相葉月さんの「解説」によると、

箱根駅伝には出場するけれども毎回優勝するようなレベルではなく、徹底管理型ではない指導者がいて、若者をどう伸ばしていくかに腐心しているアットホームな小さな陸上部。そんなイメージを大学陸上部を統括する関西学生陸上競技連盟に問い合わせたところ、推薦されたのがこの二校だった

とのこと。


かなり具体的な注文ですよね。著者の中ではかなり早い段階でストーリーが固まっていて、それに近い取材対象を探したってことなのですね。書きたいことが確りと定まっていたようです。

 


メディア展開
2007年に漫画化、ラジオドラマ化。

 

風が強く吹いている 全6巻 完結セット (ヤングジャンプコミックス)

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2009年に舞台化、実写映画化。

 

 

風が強く吹いている [Blu-ray]

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そして今年2018年にテレビアニメ化。

 

 

と、各メディア展開されています。人気作なんだなぁと思い知らされますね、こう並べると。


私は2009年の実写映画はレンタルDVDで観ました。なかなかよく出来ていましたが、原作は600ページ以上の結構なボリュームのあるお話なので、映画の二時間で納めるためにやはり色々と端折られています。ストーリーもそうですが、アオタケの住人間でのやり取りが少ないのが、原作を読んだ人間からするとやはり物足りないです。皆個性豊かで会話も面白いので、映画観て終わらずに原作小説も読んで~と言いたくなっちゃいますね。

原作はクイズ王や双子、司法試験に合格した秀才や漫画オタク、黒人の留学生やヘビースモーカーなどの設定が面白いです。登場人物それぞれに掘り下げがされていますので、連続アニメに向いているのではないかと思います。テレビアニメならではの丁寧な描写に期待したいですね。

 

 

 

 


天才と努力
「努力ですべてがなんとかなると思うのは、傲慢だということだな」

走(カケル)の完璧な走りを見ての清瀬のセリフですが。
著者はこの小説を書く中で“努力神話”について考えてみたかったとのこと。「報われなかったのは頑張りが足りなかったからだ」といった考えはどうなのか。才能や実力のない人に到底たどりつけない目標を与えて頑張らせるのは、人間を不幸にするのではないかと言うんですね。


もちろん、これはできる限りの努力をした上でってことが大前提ではありますが。努力では到底到達出来ない領域というのは確かにあり、天才と言うしかない人間も存在する。“圧倒的なもの”を見せつけられて、凡人は唯々思い知らされ打ちのめされる。

しかして、天才に「何故そんなに凄いんだ」と聞けば「努力しているからだ」と応えるのが大半ですよね。この小説の天才ランナー・走も


俺に特別な才能があるわけじゃない。だれよりも練習しているから、いいタイムが出るだけのこと。


と、思っています。
まぁ当人はそうやって結果を出してきているのだからそれはそう応えるんでしょうが、こういったところが天才と凡人の間とのどうしようもない隔たりですよね。
走は高校時代、“天才”だと周りから突き放され、さびしさを募らせいた。走れば走るだけ、一人になっていくのだけれど、でもそれでも走ることをやめられない。
そして、凡人もまた、むなしいと思いつつも求めずにはいられないという葛藤がある。清瀬の走への羨望や、「信じるという言葉ではたりない」という想いもこの葛藤の中でのものですね。

 

 

走る
この『風が強く吹いている』では、長距離走という本来一人でさびしく取り組む競技が「駅伝」によって人と繋がり結びついていく様が描かれています。

実は私は運動が、特に長距離走が大っ嫌いな人間でして。学生の頃は体育、特にマラソンの授業の無い世界に行きたい!とか常々思って過ごしていたのですが(^^;)

この小説はそんな私でも読んでいて夢中になれる面白さが詰まっていました。自分がこんななので、運動音痴の王子にやたら感情移入して肩入れしたりしましたけど。「あぁ、“走る”って特別で素晴らしいものだなぁ」とも思いました。だからといって自分が走りたいかといったらそれはまた別問題なんですけど。運動音痴人間の超えられない壁(笑)


選手達の感情の揺れ動きなど、三浦しをんの書きっぷりがとにかく素晴らしいです。映画やアニメなどの映像では絶対に100%伝わらないものがあると思いますので、原作小説を未読で映像化作品等に感銘を受けた方はそれに満足せず、是非その後小説を読んで欲しいです。絶対、読まなきゃ勿体ないですので!

 

風が強く吹いている (新潮文庫)

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風が強く吹いている 1 (ヤングジャンプコミックス)

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ではではまた~

 

プリティが多すぎる 原作 あらすじ・感想 ドラマとはまったくの別物?

こんばんは、紫栞です。
今回は大崎梢さんの『プリティが多すぎる』をご紹介。

プリティが多すぎる (文春文庫 お 58-2)

2118年10月18日から日本テレビ系でスタートする連続ドラマの原作本ですね。

 

あらすじ
新見佳孝は仙石出版に勤める新米編集者。新卒で入社後、「週間仙石」に配属され二年間、いつかは文芸部門の仕事をと夢見て頑張ってきた。しかし、春の異動で申し渡された部署は「ピピン編集部」。対象年齢中学生女子のローティーン向け月刊誌だった。
「プリティ、ポップ、ピュア、ピピン。女の子はPが好き」
チープでかわいい洋服やケバケバしい小物に溢れた編集部、くせ者揃いのスタッフや年下のモデル達。
まったく興味の持てない“カワイイ至上主義”の世界に放り込まれた男性編集者の悪戦苦闘の日々が始まる。

 

 

 

 

 

 

 


お仕事小説
ドラマ化されるのとファッション雑誌編集の舞台裏に興味があったので読んでみました。
上の画像は文庫の表紙ですが、私は単行本で読みました。単行本も6体の人形が出て来たりしてなかなか装丁が凝っています。あと、柔らかくて読みやすいです(^^)

 

プリティが多すぎる

プリティが多すぎる

 

 

読む前はてっきり10代後半~20代前半が対象年齢のファッション雑誌編集部が舞台だと思い込んでいたので、ローティーン向けと知って驚いた・・・と、いうか思っていたのと違った(^^;)勝手に勘違いしていただけなんですけど。
しかし、女子中学生が対象年齢の雑誌が舞台のお話ってのは珍しいですよね。この年齢の子達を相手にしているからこそのエピソードが描かれていて新鮮です。
大崎梢さんの作品を読むのは初めてなのですが、率直な感想としては非常に読みやすくってスイスイとページがめくれることと、6話構成で1話ごとに仕事上でのトラブルや編集者としての成長が描かれるので、非常に連ドラにしやすそうなお話だなぁと。
小説の各章は「PINK」「PRIDE」「POLICY」「PAPTY」「PINCH」「PRESENT」と、すべて頭文字が「P」でまとめられています。ドラマもサブタイトルはこの法則でまとめてくれるかな?と思うのですが、どうでしょう。

 

 


ドラマとの違い
ドラマのキャストは以下の通り
新見佳孝千葉雄大
佐藤利緒佐津川愛美
佐藤美枝子小林きな子
市之宮祐子矢島舞美
森野留美池端レイナ
レイ黒羽麻璃央
キヨラ長井短
美麗森山あすか
近松吾郎中尾明慶
三田村詩織堀内敬子
柏崎龍平杉本哲太

はい。あの、主人公はおいといて、原作通りなのは副編の佐藤美枝子さんぐらいで他は原作での容姿とは違いますね。

 

いえ、そもそも設定が原作とだいぶ違うので何とも言いがたいのですが。
まず大きな違いとしては、ピピン」がローティーン向け月刊誌から原宿系ファッション誌に変更されているところですね。
原作では女子中学生モデル達のこの年代のモデルならではの事情や葛藤がお話の中心となっているので、モデルの年齢が上がるとなると原作通りのお話の進め方はまず無理だと思います。ドラマの視聴者層に合わせて扱う系統を変えたってことですかね。

そして、主人公の佳孝の設定も週刊誌に配属されていた新米編集者から文芸編集部のエースという設定に。なので、近松柏崎の所属も文芸編集部に変更されています。
これはまぁ、文芸部のエースでエリート意識とプライドの高い男がいきなり女の子雑誌に異動のほうが話的にわかりやすいからですかね。強弱をつけやすいというか。確かに原作読んでいると、佳孝はまだ新米編集者のくせに馴染めない部署だからっていつまで心中でふて腐れているんだとかちょっと思うので、文芸部のエースだったという設定の方が説得力は出るかも知れないですね。
編集長の三田村が女性になっているのも、女性ばかりのところに男性一人という図の方がより困惑度合いが増すからだと思われます。

原宿のカリスマショップ定員で佳孝に何かとアドバイスするとかいう「レイ」なる人物はドラマオリジナルですね。

 

 

 

 

以下すこ~しネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


少女モデル達の裏側
この『プリティが多すぎる』なんですが、新米編集者の成長物語だと思いきや、年少モデル達のお話が多いというか大半を占めています。年少モデル達ならではの現場の雰囲気やオーディションの内容、未成年ならではの経済的問題やメーカーとの専属契約、モデルの知らないところで交わされる“大人の約束事”・・・などなど。
若干、少女だからってこんなにどのモデルも純粋で素直だろうかと疑問を感じてしまいうところはありますが(^^;)、小説的にはこの少女モデル達の裏側の部分を読めるところが特色になっていると思います。モデルの世界が描かれる物語は多いですが、“少女モデル”となるとまた事情が違ってくるのだなぁと驚きました。ありそうでなかった題材で面白かったです。

 

 

成長物語?
さて、少女モデル達の物語とは裏腹に、あまり興味をそそられないのが主人公・佳孝の編集者としての成長物語ですね。

モデル達の裏事情の方が積極的に描かれているからとゆうのもあるとは思いますが、どうも主人公に魅力を感じることが出来ないのが難点。最初の1章2章ぐらいでしたらまぁ、文芸部志望で“カワイイ”とは無縁な人生をおくってきた男子がローティーン向け月刊誌にいきなり配属されれば、馴染めずに腐ったりするのも必然だとは思いますが(そうでなくても女性特有の世界というのは男性の理解の範囲外でしょうからね)、お話が後半に入っても1章と同じような心持ちでグチグチするのは読んでいてしつこいというか、「まだそんな事言ってんのか」と思ってしまいますね。大手出版社勤務で新米なんだから贅沢言うなって気もしますし。最後まで読んでも「これ、成長してるのか・・・?」と疑問なまま終わってしまったなぁと。


しかしまぁ、主人公に感情移入出来ないのは私が女性で“カワイイ”が好きだからかもですが。やはり“カワイイ”という女性性を否定されるといい気がしないですからね。好きになれとは言いませんけど、否定ばっかりじゃなくって受け入れる姿勢をみせてくれたって良いじゃないの、と、文句言いたくなる(笑)

 

編集部の他の皆さんもあまり描かれていなくって残念な気がしますね。面白そうな人達が揃っているのに勿体ないような。同僚達とのあーだこうだって「お仕事小説」の醍醐味だと思うんですけど。

 

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最後の6章に「ピピン」のファンである小説家の水科木乃が出て来るのですが、サラッと終わってしまって・・・もっと話膨らまして欲しかったです。(水科木乃はドラマにも登場するみたいですが。清水くるみさんが演じるみたいです)

終盤、佳孝のミスのせいで一人のモデルの前途が大きく変わってしまうトラブルが起こるものの、お話としては全体的にあまり盛り上がらないままだった印象を受けます。もっと強弱が欲しかったと物足りなさも感じてしまいますね。

 

 


ドラマに期待!
と、まぁ佳孝に負けないぐらいグチグチと書いてしまいましたが(^_^;)
でも何というか、幾らでも面白く出来る要素が詰まっているお話だと思います。ドラマでどの様に味付けされるのか楽しみですね。ドラマは原宿系ファッション誌が舞台で別物になるぶん、小説もドラマも個々に楽しめると思います。少女モデルの裏側に興味のある方は是非。

 

プリティが多すぎる (文春文庫 お 58-2)

プリティが多すぎる (文春文庫 お 58-2)

 

 


ではではまた~

『インド倶楽部の謎』感想 "有栖川版"国名シリーズ、13年ぶりの第9弾!

こんばんは、紫栞です。
今回は今月の7日に発売された有栖川有栖さんの『インド倶楽部の謎』をご紹介。

インド倶楽部の謎 国名シリーズ (講談社文庫)

 

あらすじ
神戸の異人館街の外れ。〈インド亭〉と呼ばれる屋敷では、家主である実業家の間原郷太を中心に毎月一度、インド好き同士の七人が集まり例会と称して食事を楽しむ会を開催していた。
ある日、例会の余興として、前世から自分が死ぬ日までのすべての運命が記されているというインドに伝わる「アガスタティアの葉」の公開リーディングをすることに。対象者の過去を次々と言い当て、前世での人となりや名前、自身が死ぬ日を手帳に書いて貰うなどし、その度の例会はつつがなく終了したが、後日「アガスタティアの葉」のリーディングを仲介したコーディネーターの出戸守が遺体となって発見され、さらにリーディングを受けた例会のメンバーの一人が殺害される。現場に残っていた手帳には被害者が死亡したと思われる日付と同じ日にちが記されていた。まさかこの死は予見されていたのか?
犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖は捜査(フィールドワーク)を開始するが、調べていく中で例会の七人のメンバーは“ある絆”で結ばれていることが明らかになって――。

 

 

 

 

 

13年ぶり!
2005年に発売された『モロッコ水晶の謎』以来、13年ぶりの有栖川版【国名シリーズ】です!
※【国名シリーズ】について、詳しくはこちら↓

 

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これで9作目となります。私はというと待ち望んでいたくせに一週間ほど発売されたことを知らずに過ごしていたのですが。なんたる不覚・・・!


こんなにも期間が空いてしまったことに対して、あとがきで有栖川さんは
「あれ、時間が経つのが早いな。えっ、なんで?」と思っているうちに歳月が流れていたのだ。感嘆。
とのこと。


まぁ【国名シリーズ】が出てなかったってだけで「作家アリスシリーズ(火村英生シリーズ)」はコンスタントに各出版社から刊行されていましたからね(^^;)

短編集が多い【国名シリーズ】ですが、今回は長編です。作者の有栖川さん曰く、「作家アリスシリーズ」は短編作品が多いので、数年前から長編を増やそうとしているとのこと。確かに『鍵の掛かった男』『狩人の悪夢』と長編作品が続いていますね。
他記事でも書いていたように、私個人は海外旅行を期待していたのですが、夢叶わず(笑)。

 

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今回は神戸が舞台です。
「作家アリスシリーズ」には大阪、京都、神戸とそれぞれお抱え(?)の捜査班がありますが、神戸が舞台って事で今回は樺田班。個人的に樺田班が好きなので嬉しかったです。他の班の人達が寛容で親切な刑事さんばかりなので、野上さんみたいに二人に嫌味言ってきたりする人がいると新鮮なんですよね。メリハリが利いた樺田班。今回は嫌みは控えめでしたけど。今作は野上さん視点のところもあります。毎回思うけど、野上さんってやっぱりツンデレ(笑)

 


有栖川ミステリ
『インド倶楽部の謎』という題名はエラリー・クイーンが書こうとしてやめた作品の題名から頂いているとのこと。作中に詳しい解説があるんですけども。そんなわけで、題名先行で書かれたお話らしいですが、読んでみての感想としては凄く有栖川さんらしいミステリだなと思いました。
インドという事で「アガスタティアの葉」だの前世だの荒唐無稽な事柄を扱っていますが、ロジックによって犯人にたどり着く過程や、犯人の一筋縄では理解しにくい動機、余韻が残る終わり方などなど。凄く有栖川作品らしさが溢れていますね。


そして、やっぱり火村とアリスの二人でのやり取りや捜査過程が抜群に面白いです。今回は最初っから最後までコンビで行動していて嬉しい。作品によっては火村が後半まで出て来なかったりするものもあるんですが、このシリーズは二人揃っているのがやっぱり楽しいし面白いですね。読む度痛感します。


今作は捜査(フィールドワーク)が始まってからは先が気になって一気読みって感じでした。犯人にたどり着くロジックも綺麗で個人的に好みです。

 

 


カレーを呼ぶ男
今作は長期シリーズならではの、長年読んでいるファンが楽しめる仕掛けがいつも以上に多かった気がしますね。「作家アリスシリーズ」は「学生アリスシリーズ(江神二郎シリーズ」のアリスが執筆しているというパラドックスな設定ですが、

 

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「作家アリスシリーズ」のアリスもフィールドワークに立ち会うたびにそれぞれの事件に名前をつけていたとか言って火村に軽い衝撃を与えるシーンがあります。今までの事件を振り返っての話がバーと続くのとかなんだかサービス精神を感じました。


“永遠の34歳”設定ということもあり、時事ネタも随所にあります。北朝鮮のミサイル話とかRADWIMPSの「前前前世」の話が出て来たりとか。「学生アリスシリーズ」とは違い、今現在が舞台なんだと強調されていますね。(「前前前世」は今作の“前世話”からのしゃれっ気でしょうけど)


そして、他作品でもやたらとカレーばっかり食べている火村とアリス。今作は題名に“インド”とついているだけあって、カレーは外せないっ!って感じで満を持して(?)作中で二回食べています。
「宇宙が誕生した瞬間から、お前と俺は今日これを食べると決まっていたみたいやな」
と、アリスも言っています。火村も「ここに至るには必然性があった」とか返している(笑)
今作は食事シーンが多かったですね。出だしも居酒屋でのシーンからでしたし。出て来るメニューがいちいち美味しそうでした。グルメ推理小説

 

 

 

 

 

 

 

以下若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前世
「アガスタティアの葉」って、私は何とな~く聞いたことがあるような無いようななボンヤリしたもので馴染みは全然無いのですが、世代によってはインドとイコールで連想するものなんですかね。「アガスタティアの葉」についてはお話の導入に使われていて、重要なのは〈インド倶楽部〉の七人が皆“前世で同じ時を生きた”という共同幻想で結ばれているという点です。


いい歳しした大人が七人も集まって何をバカな・・・って感じですが、この共同幻想は幻想を植え付けていた被害者の本性が明かされても最後まで揺らぐことはありません。被害者の坊津は相当上手いストーリーテラーだったらしく、色々と空恐ろしい限りなのですが(ホント、他にも色々と恐ろしいが被害者でした・・・)、犯人は坊津が信じ込ませた“前世”を理由に犯行に及んだ訳なので、悪趣味の一環で上手くやりすぎたせいで自身が命を落すことになったのは何とも皮肉な結果ですよね。

 

前世なんて火村はもちろん、アリスも真っ向否定の立場だろうってのはファンは了解しているところですが、〈インド倶楽部〉のメンバーの一人・佐分利が、輪廻転生の話の中で

「まさにそうです。転生を信じられたら、人は生き方を誤りにくくなります。凶悪事件のニュースを聞いた時、私たちは被害者に深く同情します。『気の毒に。どうしてそんな目に遭わなくてはならなかったのだろう』と。あれは因果応報というもので、理不尽な事件で命を落す人は、前世で理不尽に人を殺しているんですよ」

と、いうのを聞いてアリスが怒りを露わにするのですが。


私も読んでいて凄い腹が立ちましたね。もう怒っているアリスの意見に完全同意で。アリスはいつも作中で私の意見を代弁してくれて、もう大好きなんですけども(笑)


しかし、ここで語られている転生話は転生することが希望や救いになるといった言い方なので、輪廻転生からの「解脱」が最終目的の仏教の考え方とは別で、インドの原始宗教によせたものなんでしょうね。輪廻転生と言われると仏教のイメージが強いですけど、仏教では転生し続けることが苦しみだという考え方なので、上記の佐分利の意見とは真逆になる。

 

輪廻転生の話の延長でソウルメイトの話が出て来ます。火村とアリスがそう見えると。“ソウルメイト”とか出て来てちょっとビビっちまったんですが(笑)
あ、やっぱり初対面の人から見ても二人はそういう、ただならぬかんけ・・・いや、絆が深そうに見える・・・の、か(^^;)

 

 

 

物語を完成させるのは
ソウルメイトはともかく、近年の「作家アリスシリーズ」は読む度に「アリス~。なんて友人想いなんだ。感動するぞ」とか思います。前作の『狩人の悪夢』なんて泣きそうになりましたからね私。

 

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近年の作品では語り手のアリスの役割が前面に出されているものが多いように感じますね。今作でも事件関係者に

 

「謎を解くのは先生で、あんたが物語を完成させるんかな。それがコンビを組んでいる理由や」

 

と言われています。


それから、逮捕後の犯人に
「あんただけは、判ってくれるだろう」といった旨のことも。
通常の推理では到達出来ないであろう部分を、アリスは感じ取ることが出来るということなんですね。そして、火村はアリスのそういう部分を確りわかっているんだけど、アリス自身はまったくの無自覚でやってのけているという。
ただ名探偵の活躍を記する語り手ではなく、探偵役を、物語を、補っている登場人物の一人。侮れない(笑)

 

 


今回の『インド倶楽部の謎』もそうですが、やはり長編作品はシリーズ内での重要度が高いって気がしますね。シリーズのファンならばやはり必見。長編は外せません。(短編ももちろん面白いですけど)
是非『鍵の掛かった男』『狩人の悪夢』『インド倶楽部の謎』と続けざまに読んでシリーズの深みを味わって欲しいです。

 

ではではまた~

 

 

 

 

 

『純平、考え直せ』小説 あらすじ・感想 映画との違いなど~

こんばんは、紫栞です。
今回は奥田英朗さんの純平、考え直せを御紹介。

純平、考え直せ (光文社文庫)

9月22日から公開される映画の原作本ですね。

 

あらすじ
坂本純平、21歳。歌舞伎町の早田組という組に所属の下っ端やくざ。ハンサムで気がよく、男相手には喧嘩っ早いが女には弱い。歌舞伎町を歩くと三十メートルごとに声がかかるちょっとした人気者だ。
そんな純平はある日、親分に対立する組の幹部の命を獲ってこいと命じられる。“これで男になれる。本物のやくざになれる”と気負い立ち「やります」と即答した純平は、親分から数十万円を渡され、決行までの三日間、自由な時間を与えられる。
決行し、捕まればしばらく娑婆とはお別れとなる。悔いなく過ごそうと気ままに楽しむ純平だったが、何故か行く先々で人にかまわれ、あてにされ、さらには行きずりの女にこれから自分が“鉄砲玉”になることをふと告白してしまったことから、ネット上には純平にたいして数々の無責任な意見が飛び交い・・・。
三日間の儚い“青春”。その末に純平が選ぶ選択は――?

 

 

 

 

 


青春小説
巧みな人物描写と、一気読みするしかない文章で読者をグイグイ引っ張ってくれる奥田英朗作品。犯罪が絡んだスリリングなお話や

 

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多視点で展開するお話なども多いですが、

 

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純平、考え直せ』はひたすら純平の一視点でお話が展開します。やくざの下っ端が対立する組の命を獲るよう命じられる、いわゆる“鉄砲玉”を扱った作品で犯罪絡みではありますが、このお話では描かれているのは犯罪部分ではなく、一人の若者の青春。雰囲気も全体的にコミカルで所々クスッと出来る箇所もある青春娯楽小説になっております。

 

 


映画との違い
映画のキャストは純平役が野村周平さんで、上記のあらすじにある“行きずりの女”・加奈役が柳ゆり菜さん。
映画の公式サイトには他のキャストも出ているのですが、どの人がどの役なのか分からないので割愛。


さて、公式サイトによるとあらすじに

ふたりの青春、あと三日!?

とか

孤独と不安を慰め合ううちに、ふたりは惹かれ合っていく・・・。

とか書かれているんですが。


コレが、原作よんだ人間からすると・・・え?何の話ですか???
ってなもんでして(^^;)


もうなんか、原作が違うんじゃないかとか思うぐらいなんですけども。

映画の公式サイトですとラブストーリー路線で、ポスターとかも完全に恋愛が主体の雰囲気のつくりなんですが、原作では加奈はホント、行きずりの女って役割での人物で、お話の中での重要度は純平以外の他登場人物達と大差ないです。歌舞伎町の様々な人達の中の一人ですね。


映画は加奈を相手役にして純平と加奈、ふたりのラブストーリーに作りかえているみたいですね。加奈役の柳ゆり菜さんはグラビアで有名な方なんだそうで、激しいラブシーンなども映画の見所となるようです。

 

原作を読んだ身としては、気になるのは作中に登場するジイサン・西尾圭三郎なのですが、映画のキャストも見た限り、そういった年齢の方がいないので、何だか登場しなさそうですね。原作では良い味が出ているジイサンで、出番も多めだし、作品の中での重要度も加奈より高いって思うのですが。ジイサンのくだりを丸々カットして加奈とのやり取りをお話の中心にしているんですかね・・・(-_-)
なんにせよ原作とは別物と考えた方が良さそうです。

 

2014年に舞台作品にもなっているみたいですね↓

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


バカしか出て来ない
この小説なのですが、堅気の人生を歩んでいる人から見れば軒並みバカしか出て来ません。

「男になれる」だの言って人殺しを即答でOKして、認めてもらえているだの舞い上がる純平はもちろんですが、「若いうちだけだから」「退屈だから」と不用心に無茶な遊び方をするOL の加奈、「ぼくは定年退職とともに、グレルことに決めたんだ」とか言う元大学教授の西尾のジイサン、鉄砲玉をするというのを聞いて心から純平を尊敬するテキ屋の信也・・・そして、ネット上で無責任に盛り上がる人々。

 

バカばかりなんですけど、しかし、皆どこか憎めないような人物なんですよね。純平の短絡的ですぐに調子に乗るところとか、兄貴の真似してかっこつけようとしたりとか、人に頼られると大口たたいて面倒ごとを引き受けちゃったりとか、読んでいて「バカだなぁ」と思うんですけど、何だか微笑ましい。
ネット上の人々の無責任な盛り上がりも、完全に突き放しているものではないです。面白がって悪戯に冷やかしたり、暴言を吐いたりする中でも、縁もゆかりもない赤の他人のために真剣に説得しようとしたり、心配する人もいる。「純平、考え直せ」と言ってくる。
幼少の時点で自分の人生を諦め、期待していなかった純平も
案外世界はいいところかもしれない
と、考え直したくなる訳です。

 

 

 

考え直してくれない
21歳の純平はずっと不良で、地元にいたときはひたすら喧嘩、新宿に来てからは丁稚のように組の部屋住みで、若者らしい遊びとはとんと縁がない生活をしてきた。決行までの三日間、やくざになってから始めて組から自由になり、今までいかに自分が狭い世界で生きてきたのかを実感します。


西尾のジイサンの話を聞いて、自分がただの猪突猛進の兵隊であること、殺し殺されのような状況下でも、すぐに開き直ったりすることが出来るのは若くってなにも知らず、価値があることもわかっていないからだと痛感もします。


三日間で今までにない出来事や人に遭遇し、純平の中で価値観も変化したかな?と思うのですが、やはりバカなので、鉄砲玉をやることを考え直してくれません。


色々な人から「考え直せ」と言われても、組仲間から尊敬する兄貴は純平をただ利用しようとしているだけだと聞かされても、考え直しません。


兄貴に電話して、明るくやさしい声をかけられただけでもう満足して“自分の信じることが真実だ”と娑婆とおさらばする決意をかためてしまいます。バカなので。


結局、どんな体験をしても純平が決意を鈍らせることはないままに最後、対立する組の幹部に拳銃を発砲するところで物語は終わっています。発砲して、その後どうなったのかはわからずじまい。
この小説では犯罪部分は重要ではなく、ただただ一途な純平という若者の三日間の青春を切り取った作品なんだとこのラストも物語っていますね。

 

読者的には純平が最後に決行してしまうのは残念な気持ちもありますが、読んでいるなかで純平の人となりを知ってくると、鉄砲玉を投げ出してどっかに逃げるという選択はまずしないのだろうなぁとわかってくるので、この結末も「やっぱりそうですよね」といった感じでストンと受け入れられます。

 

映画はストーリーを大幅に変えているみたいなので、結末もまったく違うものになっているかもしれないですね。原作ですと、加奈は何回か止めるものの、最後には説得をあきらめてただ無事を祈るのみになっていますが。
後、やっぱり西尾のジイサンがいないってことなら映画観た人には是非とも原作小説読んでジイサンを知って欲しいです。ホント、ナイスなジイサンなので(笑)知らないままじゃ勿体ない。

原作を読んでから映画を観ても、逆でも、どちらも十分に楽しめると思いますので、気になった方は是非。

 

純平、考え直せ (光文社文庫)

純平、考え直せ (光文社文庫)

 

 

ではではまた~