夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『どろろ』アニメ前に予習! 手塚治虫の打ち切り?未完?作品。

 

こんばんは、紫栞です。
手塚治虫さんの漫画作品どろろが約50年ぶり(!)に再アニメ化で2019年1月に放送予定、さらに舞台化もされるとのことなので、今回はこの漫画について少し纏めようとかと思います。

どろろ(1) (手塚治虫文庫全集)

あらすじ
室町時代。武士の醍醐影光は、ある夜「地獄堂」に出向き、彫ったのちに彫刻師が発狂して死んでしまったという曰く付きの四十八体の魔像に天下取りを祈願する。影光は願いを聞き入れてくれてくれるならば「あさって生まれる予定のわしの子どもをやろう。わしの子の目、耳、口、手、みんなおまえたちでわけるがいい。四十八ぴきで四十八か所、好きなところをとれ」と、我が子を生け贄に差し出すことを約束する。
予定日の通りに産まれてきた影光の子は、身体の四十八か所が欠けた異形の状態で誕生した。魔神達が願いを聞き入れてくれたのだと歓喜する影光は、「この子は育たん」と言って嫌がる妻に産まれたばかりの子供を捨てるように命じ、眼前で子供を川に流させる。
その後、赤ん坊は医者に拾われる。医者はこの子を育てることを決意し、長時間の手術をし、義手や義足を作り、見た目上は並みの人間と変わらぬ身体を与える。子供は生まれつき不思議な力をそなえているらしく、やがて自由に走り回れるようにまでなった。
医者の元で生活すること14年。子供の不思議な力に引き寄せられるものか、医者の住居は沢山の妖怪が連日集まる化け物小屋のようになってしまう。子供は医者の元を離れることを決断し、“百鬼丸”という名を医者に与えられて出奔する。出て来た矢先、「おまえは四十八ひきの魔物に出会うだろう」「四十八ひきの魔物と対決せよ。もし勝つことができれば、おまえのからだはふつうの人間に戻れるかもしれぬ」との謎の声に導かれ、百鬼丸は自分の身体を取り戻す旅に出る。
道中、百鬼丸は複数の大人から袋叩きにされていた“どろろ”という幼子と出会う。どろろは幼子ながらに人は騙す、物は盗む、嫌がらせはするといった厄介者だという。百鬼丸どろろを助けるが、どろろ百鬼丸の義手に仕込まれた刀を欲しがり、絶対に盗んでやると言って百鬼丸にしつこくまとわりついてくる。脅かしても恐ろしい目に遭っても百鬼丸の元から離れないどろろ百鬼丸の一人旅はいつしかどろろとの二人旅へとなり、旅の中で二人は次々と魔物と対峙していく――。

 

 

 

 

 

妖怪漫画
どろろ』は1967年~1969年に発表された作品。スポ根意外は全てのジャンルの漫画を描いたなんていわれている手塚治虫大先生。妖怪漫画も描いていたのでした。
この時代は水木しげるさんの墓場鬼太郎など、妖怪漫画が台頭してきた時代だったらしく、創作意欲が刺激された・・・のかどうか定かではありませんが。『どろろ』の作中でもどろろ水木しげるに聞かせたいな」なんてセリフを言っていたりしますので(笑)、大なり小なり意識していたのではと思います。作者本人もインタビューでそう語っているんだそうな。


出て来る妖怪はほぼ手塚治虫のオリジナルで、鳥山石燕の『画図百鬼夜行などを参考に考えられたとのこと。(まぁ、どんな“妖怪もの”も基本は『画図百鬼夜行』なのですが)

「四化入道」という妖怪が出て来ますが、コレほぼ鉄鼠ですね。息子さんのスケッチも参考にしたらしいですけども。

 

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ユニークなデザインや特性のある妖怪ばかりで楽しませてくれます。百鬼丸の両腕が刀となって戦う姿が印象的なアクションシーンも、かなり凝った構図で映画を観ているようなダイナミックさがあって見物です。

 

 


打ち切り?未完?
実は『どろろ』は連載や刊行にあたり中々複雑なことになっています。1969年に【少年サンデー】で連載が始まったものの、1968年に「第一部・完」というかたちで一度連載終了、1969年にテレビアニメ化を受けて掲載雑誌を秋田書店【冒険王】にうつし、設定の一部変更にともなってそれまでの原稿は描き直しされ、その後新作が発表されますがテレビアニメ終了と共に雑誌掲載も終了。どろろ百鬼丸の因縁の相手とは一応の決着がついた状態で終了していますが、四十八の魔物との対決が半端なため百鬼丸の身体も当然全部揃ってないので、なんとも中途半端な印象を受ける。
掲載雑誌がうつり、描き直しなどがされている関係で秋田書店サンデーコミックス版(全4巻)

 

 

講談社手塚治虫漫画全集では編集内容などが異なるようです。

 

 

全集版の方が最終稿で正当な扱いになりますかね。現在手に入れやすい文庫サイズのものは秋田書店講談社とも全集版と同様です。全集版文庫は全二巻。秋田文庫だと全3巻。

 

私は秋田書店の文庫サイズのもので読みましたが、

 

 

 

最終話を読んだ後はしばらく「ポカーン」(゚Д゚)でした。

だって最終話の直前まではなにも匂わせてなかったのに、最後の一話で怒濤の展開をしたあげく、無理矢理なモノローグで終了。それまで面白く読んでいただけに、この終わりかたはショックでした。

 

ショックのあまり調べたのですが、打ち切りのようになってしまった理由は、どうも乱世が舞台の陰惨で重く、救いのない内容が読者にウケなかったのと、作者自身が漫画の展開に迷いがでたりしていたのもあってこのような終わらせかたになったようです。「四十八の魔物」とかいうくらいだから長期連載のつもりで設定作ったんだと思うんですけどね。
まぁ、サンデー向きではないよなぁというのは判ります。50年前なら特に。もし今やるにしても内容は青年誌向きですね。しかし、当時もテレビアニメ化されたのだし、

 

どろろ Complete BOX [DVD]

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単純な不人気とは違うんじゃないかと思いますね。派生作品もいまだにどんどん出て来る状態ですし、魅力的な作品なのは疑いようもない事実でしょう。

 

 


“あの”作品に繋がっている?
作者自身、ストーリーへの迷いがあったとのことですが、なんと当初はどろろ百鬼丸から取られた四十八か所の身体の部分をこねくりまわして作られた人間で、どろろを殺せば百鬼丸の身体は元に戻る」という設定だったのだとか。


なんだその恐ろしい設定は。読み終わった後で知ってびっくりしました。良かった設定変更されて・・・。


それはともかく、設定が抜群に面白い漫画なので、こんな消化不良のような状態で終了してしまったのは勿体ないとどうしても思ってしまいます。作者もそう思ったものかどうか、『どろろ』は後の代表作のブラックジャックの前進的作品だとも言われています。

 

 

 

確かに、百鬼丸が医者の技術でまともな姿形にしてもらう過程は『ブラックジャック』のピノコに関する設定とほぼ同じだし、ブラックジャックピノコの人物造形や二人のやり取りの雰囲気も『どろろ』があったからこそ産まれたものだという風に感じます。
かくいう私も元々『ブラックジャック』のファンでして。だからこそ『どろろ』はドストライクだったのだなってな気が。なので『ブラックジャック』好きな人にはオススメですね。

 

 

映画・アニメ
私が『どろろ』を読んだきっかけは2007年の映画を観たからでした。

 

どろろ(通常版) [DVD]

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原作とは違い、成人男性と成人女性とのコンビでストーリーもかなり異なるので“原作”というよりは“原案”と言った方が良いくらいですが、コレはコレで別作品として楽しめて私は好きです。

原作とはかけ離れた容姿の柴咲コウさんがどろろ役をしていますが、キャラクターの中身は比較的原作通りで奔放で逞しいどろろが描かれています。妻夫木聡さん演じる百鬼丸は原作よりクールな部分が強調されていました。二人の対比をハッキリさせる為ですかね。
友達はこの映画観て「面白いけど映像が気持ち悪い、グロい」と言っていました。通常はグロいの苦手な私は平気だったんですがね。

監督は三部作にする予定だったらしいのですが、予算など、大人の事情で頓挫してしまったのだとか。当時は主演二人に交際・破局報道などもありましたからねぇ・・・。

続編、是非観たかったので残念です。原作漫画だけでなく映画も不遇な結果になってしまった訳ですね。

 


2019年1月から放送予定のアニメですが、公式サイトを見てみたところ絵柄は近代風になっていますね。髪型がふつうだ・・・。この絵も良いですけど、原作のどろろ可愛いから原作も読んで・・・(^^;)
百鬼丸がかなり無表情ですね。目が死んでる・・・(まぁ入れ目だからなんでしょうけど)映画版の雰囲気のほうに寄せてクールな感じなのでしょうか。

サイトのあらすじだと「十二体の鬼神像」になっています。かなり減ってる・・・!この数からして、今回のアニメでは百鬼丸が身体を全て取り戻すところまでやってくれるのではないかって気がしますね。結果的に原作とはストーリーがかなり違うものになりそうな予感。どうであれ、ハッピーエンドが良いなぁ・・・(^_^)

 

 

 

 

以下若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女の子
どろろですが、男の子のように描かれているし、どろろ自身も男だと言って振る舞っていますが、実は女の子です。
作中何度も匂わせぶりなシーンがあるものの、直接的な言及などは無いままにお話が進み、最終話でやっとハッキリとしたかたちで明かされます。乱世に根無し草で生きていくには男だと周りに思わせておいた良いという判断なのか、両親はどろろを男の子として育てたということのようです。


原作ではどろろは五才ぐらいという設定ですので、どろろ自身、女だと気が付いていたかどうかもハッキリとしません。個人的には意地で「男だ」と言い張っているだけで本能的なところでは自分の性別のことはわかっていたんじゃないかと思うんですけどね。
人によっては「何のための設定なのかわからない」「男の子で別にいいじゃないか」といった意見があったりします。

私はこの設定が凄く好きなんですけどねぇ。どろどが嫉妬したり頬染めたりするのが可愛いんですよ~(^_^)


ストーリー上は無意味な設定に感じるかもですが、二人の関係性にアクセントが加わって面白味が増していると思います。ひょっとしたら、作者としてはちゃんとどろろが女の子だということが大いに関係してくる展開を用意していたのかもしれないですね。
ゲーム版だとラブロマンスぽくなっているんだそうな。

 

どろろ

どろろ

 

 

ラブロマンスはまぁいいですが(^^;)、今度のアニメでもこの“実は女の子”設定は変更せずに作って欲しいです。

 

 


結末
悲惨な結末が多い手塚治虫作品ですが、『どろろ』では“未完ですよ臭”漂う無理矢理な結末への消化不良と、百鬼丸どろろが別れてしまうラストシーンは悲しいものの、メイン二人が死んでしまうような手塚作品お馴染みの「絶対に続けようもない結末」にはなっていません。
前にインタビューで「僕はキャラクター主体の漫画は描けなくって、いつもストーリーが大前提の漫画しか描けない」と手塚先生が語っているの映像をテレビで観ました。(だいぶうろ覚えですけど・・・)
だからこそ、いつも「キャラクターに容赦ないけども絶対的な結末」というのが迷いなく描けたのだと想像するんですが、『どろろ』には手塚先生も未練や迷いがあったんじゃないかなぁと思います。この作品にもキャラクターにも愛着が湧いていたからこそ、非情でスッパリとした結末には出来なかったのでは・・・・・・と、思いたいところですがどうでしょう(^_^;)

 

未完だというのが通説になっている作品ですが、この終わりかただったからこそ派生作品が産まれ続けていることもまた事実だと思います。今度のアニメや舞台ではどのような結末にもっていくのか気になりますね。出来れば二人が離れない結末にして欲しいもんですが。

 

メディアミックスで気になった方は是非是非原作を。

 

 

 

ではではまた~

 

 

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『マスカレード・ナイト』あらすじ・感想 映画化作品の続編!

こんばんは、紫栞です。
今回は東野圭吾さんの『マスカレード・ナイト』を読んだので感想を少し。

マスカレード・ナイト

あらすじ
警視庁からの委託を受けた民間団体が設置している「匿名通報ダイヤル」からの情報提供によって、練馬のワンルームマンションで独り暮らしの若い女性の他殺死体が発見される。被害者女性は妊娠しており、被害者宅に出入りする男性の姿が複数の人物に目撃されていた。警察は被害者の周辺を徹底的に捜査するも、いまだにその男性の身元を特定することは出来ずにいた。
そんな中、警視庁に密告状が届く。密告状の文面は次のようなものだった。
『警視庁の皆様
情報提供させていただきます。
ネオルーム練馬で起きた殺人事件の犯人が、以下の日時に、以下の場所に現われます。逮捕してください。
12月31日 午後11時
ホテル・コルテシア東京 カウントダウン・パーティ会場
密告者より』
密告状の内容を受けて「ホテル・コルテシア東京」に潜入捜査をすることを決定した警察。以前に同ホテルにフロントクラークとして潜入経験のある新田浩介はその経験を買われて再度潜入捜査官に任命される。
潜入捜査官にあたり、フロントクラークからコンシェルジュとなった山岸尚美にも再度捜査への協力が求められた。
奇しくも再びホテルでの事件捜査に関わることになった新田と山岸。二人はホテルに訪れる様々な仮面を被った客の中から殺人犯を見つけ出すことが出来るのか――。

 

 

 

 

 

シリーズ3作目
この『マスカレード・ナイト』は『マスカレード・ホテル』

 

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から続く【マスカレードシリーズ】の第3作目。

2作目の『マスカレード・イブ』

 

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は1作目の『マスカレード・ホテル』の前日譚にあたるお話が収録された短編集なので、『マスカレード・ホテル』の続編という点ではこちらの『マスカレード・ナイト』が正式な長編2作目となります。


お話は『マスカレード・ホテル』での事件から数年後。新田は相変わらず警視庁の刑事で、尚美はホテルの受付業務であるフロントクラークの仕事からお客様の様々な要望を聞く係であるコンシェルジュになっています。
コンシェルジュ業務ということで、宿泊客の要望は前作よりかなり突っ込んだものになっています。読んでいるとですね、ホント大変な仕事だなぁと思うのは勿論なんですが、こんな個人の込み入ったこと、ただ宿泊しているってだけでホテルの人間に頼むかな・・・高給取りはそうなのか・・・?とか疑問。尚美は「ホテルマンに『無理です』は禁句」という信念のもと、無理難題にも果敢に健闘しますが、果たしてここまでする必要があるのか・・・と。まぁ、これらの無理難題にも実は訳があるというのが終盤には明らかになるんですけどね。

公式の作品紹介のページなどを見ると“あのホテルウーマンと刑事のコンビ再び”とか書いてありますが、新田は前回の経験からまたフロントクラークへの潜入捜査で、氏原という新たな男性のホテルマンが指導係につき、尚美は尚美でコンシェルジュですので、さほど二人で話す場面も無く、コンビでどうこうといった印象は前作よりだいぶ薄れています。

 

 

進展は・・・?
警察関係者やホテルの上層部などの人間関係は前作からほとんど同様。能勢さんが所轄から捜査一課に栄転しています。今回も情報を掴むたびにホテルにいる新田にビールの差し入れ持って報告しに来てくれます。個人的に能勢さんが好きなので栄転していて嬉しかったです(^^)新田の能勢さんへの信頼度もだいぶ上がっていますね。
今作で登場するフロントクラークの氏原さんですが、最初は頭でっかちのいけ好かない人物といった感じですが、この人はこの人でプロフェッショナルなのだなというのが段々とわかってきて最終的には好感がもてる人物となっています。

 

前作『マスカレード・ホテル』を読んだ人なら、新田と尚美の仲は恋愛として発展しているのかというのがまずは気になるところだと思うのですが、これがなにも起こっていない(^^;)前作の最後で二人で食事していたのにねぇ・・・。どうもあれっきりで特に連絡も取り合ったりしていなかったようです。だから今作で二人は数年ぶりの再会。何だか肩透かしな感じ・・・。

 

 

 

以下がっつりとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

感想
今作は登場する宿泊客の大半がお話の主軸の事件に関わっているので無駄が少なく纏まっており、華やかな仮装パーティ会場がクライマックスの舞台になっているところはシリーズのテーマである“仮面”とマッチしていて良いです。


しかし、お話の盛り上がりに欠けるというか、前作よりもエンタメ的楽しみが少なくなっている印象を受けました。尚美が殺されそうになるのも「またか・・・」と思ってしまいましたし(^_^;)ドキドキする間もなく比較的すぐに助かるのも若干拍子抜け。腕時計の伏線は「あ~」と感心しましたが。

 

メインのトリックは宿泊客の仲根緑が実は女装した男性だったというものですが・・・これは前作のトリックを踏襲しているものですが、前作よりわかったときの驚きが・・・「はぁ、男性だったの。それで?」てな感じで一気に謎が解明される爽快感がないんですよね。(頭の良い人は違うんでしょうけど^^;)


犯人達の行動も何だか不自然で無理矢理感が否めません。女性二人の方ですが、取引にこんなに大々的に警察を巻き込もうとするのは、ただ脅して金を巻き上げるのが目的なだけなのにリスクが高すぎて普通はしないでしょうし、仲根緑(森沢光留)はいくらなんでも偽装のストーリーを作る過ぎというか、悪ふざけが過ぎると思います。接触している時間が長ければ長いほど女装がばれるリスクも高まるのに・・・。「年末にシティホテルに何泊もする女など不自然で怪しまれるだろうから」とのことですが、仕事などを装えば大丈夫なのでは?今のご時世、皆が皆年末休んでいるって訳でもないのだし。

日下部が実はホテル側の人間で尚美をテストしていたというのも最後に明かされますが、従業員のテストに一般の宿泊客である仲根緑を巻き込むのも不自然ですよね?ホテルの人間ならばお客に無駄な時間を過ごさせることは職業倫理に反するのでは。本気で仲根緑がタイプで「あわよくば・・・」と考えていたとしか思えない(笑)

 

450ページほどあり、通常のボリュームは十分あるお話なのに、終盤が急ぎ足になっていると感じてしまう点も少し残念ですね。犯人達にはそれぞれ結構な込み入った事情があるぶん、丁寧な描写がないと薄っぺらく感じてしまうと思います。

 

 


今後
尚美がロサンゼルスに勤務することが決まったところでお話が終わっていますが、今後このシリーズは書くつもりあるのでしょうか。書くとしたら今度の舞台はロサンゼルスになるんですかね~。
そして、最後にまた食事の約束している新田と尚美。進展は・・・う~ん・・・。この二人は恋愛とかそういった関係性のものではないのかも知れないですね。そういった想いの寄せ方は双方していないのが現状です。このラストの食事の約束も、食事したらその後はまた機会が無ければ連絡取り合ったりとかしなさそう。
次作でいきなり恋愛関係になっていたらビックリしますけどね~。どうなんでしょう。気になるところですが。


色々と好き勝手に感想を述べましたが、シリーズの第1作、第2作を読んだ人はやっぱり読むべき作品だと思います。映画が公開されれば文庫も発売される・・・と、思いますので(^^;)、映画で気になった方も是非是非。

 

※2020年、文庫発売されました↓

 

マスカレード・ナイト (集英社文庫)

マスカレード・ナイト (集英社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2020/09/18
  • メディア: 文庫
 

 

マスカレード・ナイト

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ではではまた~

 

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『犬神家の一族』小説・映画・ドラマ・スケキヨ・足・・・諸々まとめ

こんばんは、紫栞です。
今回は横溝正史犬神家の一族についての色々をまとめて御紹介。

犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5 (角川文庫)

 

あらすじ
「御臨終です」
昭和二十X年二月十八日。信州財界の一巨頭、犬神財閥の創始者で日本の生糸王といわれる犬神佐兵衛は、犬神家一族が固唾を呑んで見守る中息を引き取った。
佐兵衛には、松子、竹子、梅子と女ばかり三人の子があったが、三人が三人とも生母を異にしており、その生母らのいずれも佐兵衛の正式な妻ではなかった。佐兵衛は生涯正室というものを持たなかったのだ。佐兵衛は娘たちに対して、どういうわけか微塵も愛情をもっておらず、娘の婿たちのこともまったく信頼していなかった。
佐兵衛の死後、財閥の機構は誰によってうけつがれ、莫大な遺産はどのように分配されるのか――。一族の皆は焦燥し、懸念していた。遺言状は犬神家の顧問弁護士・古舘があずかっており、戦争からまだ帰らぬ松子の息子・佐清が復員し、皆が出揃ったときはじめて開封、発表されることになっているという。
佐兵衛が亡くなってから八ヶ月ほどたった十月十八日。金田一耕助は犬神家の本宅のある那須湖畔に訪れた。古舘の法律事務所に勤務する若林から「近くこの犬神家の一族に、容易ならぬ事件が勃発するに違いないので、未然にふせぐために調査をして欲しい」との手紙を受け取ったためであった。しかし、金田一に会う前に若林は何者かの手によって殺害されてしまう。知らせを聞いて金田一の元を訪れた古舘は、若林は犬神家の誰かに買収されるかして、事務所の金庫に保管していた佐兵衛の遺言状を盗み見たのではないかと言う。
そんな中、佐清が復員してくる。とうとう遺言状を公開するにあたり、強い不安に苛まれた古舘は金田一に遺言状発表の場に立ち会ってくれるよう依頼する。
公開された佐兵衛の遺言状の内容は、一族を互いに憎みあうように仕向け、血で血を洗う渦のなかへ投げこむような条件を課したものだった。
そして、この遺言状に導かれるように恐ろしい殺人事件が次々と起き――。

 

 

 

 

 


シリーズ屈指の人気作
犬神家の一族』は金田一耕助シリーズ】のうちの一つで、長編五作目。順番としては『八つ墓村』の次に描かれた長編小説となります。
最近ではAXNミステリーで実施された「あなたの好きな金田一耕助作品」アンケートで一位も獲得した人気作ですね。
金田一耕助シリーズ】は一般的にこの『犬神家の一族』と八つ墓村

 

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の二作品が有名でシリーズ自体のイメージを固めていると思うのですが、『八つ墓村』は小説ですと終始事件関係者の一視点で描かれており、怪奇冒険譚的側面が強い作品なので、金田一耕助の活躍や探偵小説部分というのは実はさほど感じることが出来ません。そもそも金田一耕助の出番自体が少ないですしね。
犬神家の一族』は金田一耕助が事件を追っていく過程がお話の中心で探偵小説の王道をいくものですし、金田一耕助が推理で大いに活躍もしていますので【金田一耕助シリーズ】の醍醐味を味わいたいのなら『犬神家の一族』が代表作品として相応しいかと思います。

もちろん、濃厚すぎる人間関係や因習にまつわるアレコレ、猟奇的な事件内容、見立て殺人、トリックなど、【金田一耕助シリーズ】の特色がたっぷり味わえる点でも、やはりシリーズ代表作といって間違い無し!です。

 

 

映画・ドラマ
犬神家の一族』は今までに映画が三作、テレビドラマが五作品公開されています。シリーズ内では『八つ墓村』に次いで二番目に映像化の多い作品ですね。
テレビドラマは今年2018年12月24日に主演・加藤シゲアキさんで放送予定です。なんだか今までに無い金田一耕助作品になりそうな予感がしますが・・・どうなのでしょう?

 

※追記 2023年4月、NHKで吉岡秀隆さん主演でテレビドラマ放送

 

 

映画
●1954年 東映 金田一役:片岡千恵蔵
●1976年 角川春樹事務所 金田一役:石坂浩二
●2006年 東宝 金田一役:石坂浩二

 

テレビドラマ
●1970年 日本テレビ系列 金田一役:なし
●1977年 TBS系列 金田一役:古谷一行
●1990年 テレビ朝日系列 金田一役:中井貴一
●1994年 フジテレビ系列 金田一役:片岡鶴太郎
●2004年 フジテレビ系列 金田一役:稲垣吾郎

●2018年 フジテレビ系列 金田一役:加藤シゲアキ

2023年 NHK 金田一役:吉岡秀隆


犬神家の一族』はなんといっても1976年公開の市川崑監督、石坂浩二さん主演の映画が有名です。

 

犬神家の一族(1976)

犬神家の一族(1976)

 

 

金田一耕助シリーズ】の作品イメージを印象づけているがもうこの映画によるものが大きいのではないかと思います。この映画には作者の横溝正史先生も那須ホテルの主人として登場していますので必見。

当時はこの映画がきっかけとなって爆発的横溝正史ブームが到来したのだとか。三十年後2006年に同じ監督・主演コンビで再映画化。

 

犬神家の一族(2006)

犬神家の一族(2006)

 

 

この映画は市川崑監督の遺作となりました。三十年後に同じ主演で同じ映画を撮るというのはかなり珍しいことだって気がしますね。私は世代的にこの2006年版の映画の方が印象は強いです。豪華なキャストで話題でしたが、主演以外にも年齢が合わないのでは?というキャストは何人かいました。ですが設定が昭和なせいかさほど気にならない不思議。

 

金田一耕助シリーズ】の映像化作品は一般的にはやはり映画は石坂浩二さん、ドラマは古谷一行さんというのが二大巨頭でしょうね。

 

犬神家の一族 上巻 [DVD]

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どちらも最初に撮った金田一耕助作品はこの『犬神家の一族』です。

 

テレビドラマの方ですが、片岡鶴太郎さんのものと稲垣吾郎さんのものはリアルタイムで観たことがあるのですが、中井貴一さんが主演をしたものがあるとは知りませんでしたね~。
中井貴一さんバージョンの金田一耕助は洋装でハンチング帽に丸メガネで女性の助手を連れているらしいです。54年の片岡千恵蔵さん主演の映画も洋装らしいですが、これは江戸川乱歩明智小五郎を意識したものなのですかねぇ・・・(明智小五郎は原作だと恰好が時代によって変わるのですが)。

1970年版は設定を70年代になおされていて、登場人物も全て名前が変えられており、金田一耕助も登場しないとのこと。まったく別物の人間ドラマって感じなんですかね。

 

 

 

 

モデル
八つ墓村』が史実の「津山事件」を一部モデルにしていることは知っていましたし、前にこちらの記事でも書きましたが↓

 

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ネットで『犬神家の一族』を検索するとこちらも検索候補に“モデル”と出て来る。
え?『犬神家の一族』で史実の事件を元にしている部分があるなんて何だか信じがたい・・・とか思ってちょっと調べてみたのですが、事件がどうこうではなくって、犬神財閥のモデルとして使われているのが戦前に製糸業で財をなした片倉財閥なのではないかと言われているらしいです。
片倉家は信州生糸王の財閥で特に二代目の片倉佐一は「日本のシルクエンペラー」と呼ばれているのだとか。
対して『犬神家の一族』の書き出しをみてみると

“信州財界の一巨頭、犬神財閥の創始者、日本の生糸王といわれる犬神佐兵衛が”

と、ある。
“信州”“生糸王”という部分と人物名の“佐”の字が被っていますね。たしかに財閥のモデルとして片倉財閥が使われている可能性は高そうです。
この片倉財閥、『犬神家の一族』のような血で血を洗う骨肉の争いなどはもちろん起こっていないのであしからず。

  

 


斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)
犬神家の一族』は『獄門島にあったような“見立て殺人”が展開されるお話です。犬神家の家宝「斧(よき)、琴(こと)、菊(きく)」になぞらえた三つの殺人が順番に起こる訳ですが・・・これ、人によっては「“斧(おの)”をなんで“よき”って読むの?」と疑問に感じるのではないかと・・・と、いうか私自身が疑問だったのですが(疑問に思ったのは私だけではないと信じたい)
日本では古くから斧のことを“よき”ともいい、今でも林業の人などの間では斧のことを“よき”と呼ぶ人はいるのだとか。「斧琴菊」というのは元々判じ物として有名な和柄の名称で

※こんな柄↓

 

 

縁起担ぎで「良きこときく」と読ませるために“よき”としているらしいです。

本来は縁起が良い意味で使われる言葉が『犬神家の一族』では松子、竹子、梅子がいじめ抜いた青沼菊乃の呪詛の言葉として使われるのがなんだか空恐ろしいところ。

 

 

 

 

スケキヨ・足
犬神家の一族』といったらこの足↓

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インパクトがありすぎて有名ですよね。もう犬神家といったらコレを連想する人が多いですし、色々な作品でオマージュされていたりします。
まぁたしかに「何事だ」って感じの画なんですけど(^^;)コレは白いゴムマスクを被っているのがこれまた衝撃的な印象の佐清(スケキヨ)の遺体の足です。

ちなみに、映像化作品だと得体の知れない白いゴムマスクですが、原作ですと佐清のゴムマスクは顔に負傷をする前のもとの端整な顔立ちを忠実に再現したもの。佐清は美形の設定なんですね~。佐兵衛翁もかつてはかなりの美貌の持ち主だった設定で血を受け継いでいるのです。

 

最初に竹子の息子・佐武が菊人形に生首を飾られ、次に梅子の息子・佐智が絞殺されて首に琴糸が巻き付いている状態で発見。それぞれ「菊」「琴」と見立て殺人がなされる訳です。で、三番目に殺されるのが佐清で、死に様は「斧」に見立てられているのですが・・・コレ、一見するとどこらへんが「斧」表しているんだって感じですよね。逆さになって足出してるだけじゃんっていう。


これは金田一耕助の解説によると・・・

佐清(スケキヨ)の死体が逆立ちになっている

→ヨケキス→

逆立ちをしたスケキヨの上半身は、水の中に埋没している

→ヨケキスの四文字から下の二文字を取る

→ヨキ(斧)
と、言うわけで被害者の肉体をもって「斧」を暗示しようとしている。

 

・・・ちょっと何それって感じですが(^_^;)
原作では警察が屋敷から見立てに使えそうな道具を一切処分していたため苦し紛れにこのような方法が。
作中でも「子供だましの判じ物だ」と言って金田一耕助がひっつったような笑い声をあげるんですが。こんな陰惨なお話の中で酷く滑稽な事柄が出て来るのがまたなんとも不気味。

 

ところでこのスケキヨの足なんですが、物理的に湖にこんな逆さにぶっさすことが可能なのか?とか思いますよね(思うのは私だけじゃない・・・はず)。犯人が言うには、“なるべく水の浅いところを選って、泥のなかへ体を逆さにつっこんだ。そのときはまだ、それほど氷は厚くなかったが(※原作だと季節が冬で湖面が凍った状態)、夜が更けるとともに厚氷になって、なんともいえぬ変てこなことになってしまった”とのこと。

う~ん・・・凍ったっていってもそんなことになるかな・・・と疑問ですが。

原作ですと死体はパジャマを着たままで、埋まっているのはヘソから上です。市川崑監督はインパクトを強めるためにわざと原作と少し変えたんでしょうね。で、後続の作品はそれに倣ったってことでしょうか(スケキヨのマスクも)。

足はともかく、私は映像化作品だと佐武の菊人形の見立てが怖かったですね。今でも菊人形見るとこのシーンを連想してしまって怖いです(^^;)

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~(犯人の名前も明かしているので注意)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結末
覆面を利用した入れ替わりトリックや、偶然が複雑に絡み合った事態のあり方、複雑で濃厚な人間関係など、ミステリとして小説として非常に面白く読ませてくれる本作なのですが、個人的にちょっと結末が納得いかないなぁ~・・・と。


本物の佐清は実は生きていて、珠世は幼少の頃から佐清に想いを寄せていたのでこれ幸いと一緒になることを決めて~の大団円ではあるのですが、コレ、結局犯人の松子の思い通りの結果になっているんじゃって気が。
自分の息子に財産を相続させる為に妹たちの息子を殺しといて、“小夜子と佐智の子が大きくなったら犬神家の財産を半分わけてやってほしい。これが罪滅ぼしだ”といって毒をあおって死ぬ松子。なんだか終盤でいきなり松子が殊勝な人間っぽくなっているけども、なんか訳わかんないですよね。自分の息子に独り占めさせたいといって二人殺害しといて財産半わけてやれとか・・・竹子も梅子もこんなのじゃ怒りは収まらないんじゃないかと。青沼親子のことは完全無視だし。青沼親子ばっかり割を食っているってな気が。

 

もっとも釈然としないのが、かつて自分達が悪鬼の所業の末に放逐した青沼菊乃が宮川香琴として松子の琴の師匠をしていたという事実を知っても松子、竹子、梅子、共にまったくその事に反応を示さないところです。普通は驚いたり何なりするだろうと・・・。香琴(菊乃)ももっと恨み言をぶつけても良いと思うのですが。

しかし、いくら名前と姿形が変わっているとはいえ、自身があんなに酷い仕打ちをした相手から琴を教わってまったく気が付かない松子はどうかと思います。自分の息子が入れ替わっているのにも気が付かないし・・・節穴なのか(-_-)

 

やっぱり青沼親子がひたすら報われないって気がしますね。青沼親子に対し、松子は頑なに詫びの言葉を口にしないのでモヤモヤします。ですが、これは松子の怒りにも正当性があるということなんですかね。たしかに、松子の立場ならいきなりポッと出の小娘が佐兵衛の正妻になると言われたらとても容認出来ないだろうなとは思います。

結局一番悪いのは佐兵衛翁だってことですかね。

男の身勝手で人生を左右される世界で、それに必死で抗い闘おうとする女。『犬神家の一族』はそれが本質のお話なのかも知れないですね。

 

 

 

 

 

 

ゲームや漫画もあるみたいなので気になった方はどうでしょう

 

犬神家の一族

犬神家の一族

 

 

 

 

ではではまた~

 

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『犯人たちの事件簿 』4巻 金田一少年の事件簿外伝 ついに高遠さん登場!

こんばんは、紫栞です。
今回は金田一少年の事件簿シリーズのスピンオフ漫画金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(4)』をご紹介。

金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(4) (週刊少年マガジンコミックス)


こちらの表紙絵はKC20巻のパロディ。

金田一少年の事件簿 魔術列車殺人事件 (講談社プラチナコミックス)

何だかいつも以上に金田一の顔の再現度が高いような・・・。もう4作目ですし、作者の船津さんも模写がどんどん上手くなってきていますね。


今回もいつも通り、不運にも金田一に出くわしてしまった犯人達の物語が展開される訳ですが、今作はついに「犯人総選挙」で1位に輝いた“地獄の傀儡師”が登場する「魔術列車殺人事件」が登場。

※「犯人総選挙」の詳細に関してはこちら↓

 

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他、『魔神遺跡殺人事件』『首吊り学園殺人事件』の2編も収録された【金田一少年の事件簿】ファンには必見の1冊になっております。

 

 

 

 


では以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ファイル9「魔術列車殺人事件」(本家ではファイル15)

 

金田一少年の事件簿File(15) (講談社漫画文庫)

金田一少年の事件簿File(15) (講談社漫画文庫)

 

 犯人:高遠遙一
作者の船津さんはやるつもりは無く、担当編集者にもそのように伝えていたにもかかわらず、犯人総選挙の企画のせいで描かざる終えなくなった地獄の傀儡師・高遠遙一。

・・・犯人総選挙なんてやったら1位はこうなるだろうことは目に見えて明らかな事なので、船津さんの言うとおり「これがマガジンのやり方か・・」ですね(^^;)
船津さんのやりたくなかった理由というのが「この漫画のコンセプトに反しているから」らしいのですが・・・そうですね、読んで納得しました。確かに高遠はこの漫画の醍醐味である“犯人の人知れぬ苦労”を描くことに反していますね。だって苦労しないんですもの。
なので、必然的に内容は事件状況へのツッコミが主になっています。
「魔術列車殺人事件」は私自身【金田一少年の事件簿】の数ある事件の中でも特にお気に入りで、幼少期には何度も繰り返し読んでおり、皆でお菓子食べる場面は何となく好きな箇所だったのですが、この漫画読んで「そういや殺人現場だったな、これ」と・・・(^^;)
金田一がリス使って助かろうとするのは私も当時子供ながらに疑問でしたね。助かった最終的な過程が省かれているのも可笑しいと思っていました。「結局どうやって助かったのさ」とね・・・。
あと、金田一が橋のレバー壊していたけど、これってその後どうしたのかな・・・とかも当時思っていました。結果オーライで犯人を絞り込むことに成功したけど、設備を壊しておいて直後にホテル側に報告しないの結構問題だと思うんだけど・・・(^^;)壊しといて「何をいけしゃあしゃあと・・・・!!」ですよね。

 

 

 

 

 

 

 


ファイル10「魔神遺跡殺人事件」(本家ではファイル18)

 

 犯人:西村弥
金田一も皆も犯人をあえて見逃したので有名な「魔神遺跡殺人事件」。横溝色全開で淫靡な雰囲気が漂い(さとうさんの絵もこの頃はキレキレで独特の色気があったのでエロティックでしたね~・・・)、ご都合主義すぎる超常現象が色々起こるのである意味でシリーズ史上もっともファンタジックな事件でもある。
最後の“忌まわしい記憶だけが上手いこと無くなる”というのもそうですが、港屋さんが呪いにおののいている最中に釣り鐘落ちてきて死んじゃうのは衝撃でした。もうここのシーンが強烈すぎて、この事件はここの印象ばっかり強いですね。しかもこれ本当にただの偶然だというのがまた・・・。弥生さんの「なんか死んだ」っていう感想は読者皆が思ったことだと思いますよ(笑)
本家だと“私は何も考える必要なかった「凶鳥様」の言いつけ通りに動いただけだから”と、弥生さんは言っていたのですが(病気で死にかけなのにあんなパワフルな犯行が出来たのも「凶鳥様」のおかげなんだよきっと)、『犯人たちの事件簿』ではここら辺のことは無視でしたね。まぁやるとオカルトちっくになって世界観が崩れるからアレなのかな・・・(^_^;)
「思う存分ジャットコースター・ロマンスして頂戴!」「リアルフェイスがラブソースウィートな真夜中のシャドーボーイね!!」に笑いました。出しちゃうのね、役者ネタも。

 

 

ファイル11「首吊り学園殺人事件」(本家ではファイル8)

 

金田一少年の事件簿File(8) (講談社漫画文庫)

金田一少年の事件簿File(8) (講談社漫画文庫)

 

 犯人:浅野遙子
中盤まで金田一がまんまと犯人の思惑通りに動いてしまったことで有名な「首吊り学園殺人事件」。【金田一少年の事件簿】の手にかかると予備校や試験まで陰惨な殺人事件の舞台装置になるのかって感じ。本家では8作目の事件で、色々なパターンやってみようみたいな、そんな意気込みを感じる作品ですが。
終盤の謎解きで事件関係者にテスト受けさせるのも変化球な展開。浅野さんも恐怖しているように、自作のテストまで作ってとんだエンターテイナーな金田一少年。犯人としてはかなり嫌な追い詰めかたですね、ほんと。
浅野さんが言う「この漫画・・鳥の死体出がち・・・・」と、いうのは度々地味に指摘されているような気が・・・。確かに今思いつくだけでも異人館村殺人事件」「蝋人形城殺人事件」「魔神遺跡殺人事件」・・・等ありますねぇ。気軽に雰囲気出せてトリックにも利用できる便利な小道具とでも思っているんでしょうか。普通に考えてかなりエグいですよね。犯人もモラルが悲鳴をあげますよねそりゃ。
運の良さの前には努力も無駄になるのが無情。

 

 

 

 


今作は高遠さんが登場するってことで注目の巻だったのですが、思っていたよりスンナリと、引き延ばすこともなく四話使って終わりでしたね。もっと特別感出すかと思っていたのですが・・・。やっぱり高遠さんを他の犯人と同列に扱うのは無理があるってことなのですね。
仰るとおり単体のスピンオフがあるくらいだし↓

 

 

 

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前巻で「金田一少年の殺人」、今巻では「魔術列車殺人事件」やってしまったので、なんだか終わりが分からなくなって来ましたね、この漫画も。
こうなったら第Ⅰ期・FILEシリーズの事件は全部やるのでしょうか?ファンとしては読んでいると事件を一つ一つ懐かしむことが出来て楽しいから全部やってもらっても良いくらいですが。
次巻は「黒死蝶殺人事件」「飛騨からくり屋敷殺人事件」「怪盗紳士の殺人」を収録予定で2019年春頃発売予定とのことです。次巻も必ず読みます!

 

 

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ではではまた~

 

 

 

マスカレード・イブ 各話 あらすじ・感想 『マスカレード・ホテル』の前日譚4編~

 

こんばんは、紫栞です。
今回は東野圭吾さんの『マスカレード・イブ』をご紹介。

マスカレード・イブ (集英社文庫)

 

 

 

前回、こちらの↓記事でまとめた『マスカレード・ホテル』のシリーズ2作目。

 

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時間軸は『マスカレード・ホテル』での事件が起こる前、新田浩介と山岸尚美が出会う前のそれぞれの物語が四話収録された短編集。
この『マスカレード・イブ』は1作目の『マスカレード・ホテル』、3作目の『マスカレード・ナイト』

 

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とは異なり、単行本を経ずに最初から文庫で刊行されています。

 

目次
●それぞれの仮面
●ルーキー登場
●仮面と覆面
●マスカレード・イブ

の4話。

三話までは【小説すばる】に掲載されたもので、どのお話も60ページほど。表題作の4話目「マスカレード・イブ」は書き下ろしで少し長めの140ページ。

 

 

 

 

 

では順番に紹介

 

 

 

 

 

 

 


●それぞれの仮面
あらすじ
「ホテル・コルテシア東京」に入社して四年目、フロントクラークとしては新米の山岸尚美の前にかつての交際相手である宮原隆司が客としてやって来る。元野球選手のタレントのマネージャーとしてタレントと共にチェックインした宮原は、その日の夜になって「大変なことになったんだ」「君の助けがほしい」と、尚美を部屋に呼びつける。宮原の愛人がホテルの部屋で密会している最中に自殺を仄めかして姿を消したというのだ。半ば呆れつつも、事を内密に済ませたいという宮原の意向を受けて尚美は愛人の捜索を開始する。
そんな中、高価なルームサービスを次々と注文する客の存在から尚美はある推測をするのだが――。

 


前作『マスカレード・ホテル』で尚美が特殊なお客様の一例として話していた小話の詳細が語られるお話。
前作ではフロントクラークの鏡といわんばかりに完璧な接客・職業倫理を持つ生真面目な人物として描かれていた尚美ですが、このお話ではまだ新米ということで腹の中ではお客様に対して悪態をついている場面などもあり、接客業をしている人間的には親近感が湧きます(^^;)
しかし、「馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇよ」と心中で毒づいているのには驚きましたね。前作では表でも裏でも粗野な言葉遣いのない人物だったぶんギャップがありました。
最後の部分なのですが、散々振り回されたとはいえ、チャックアウト後にお客様に見抜いた真相を披露して事実を確認する行為はホテルの従業員としてどうかな?と思いました。お客様の人間性がどうであれ、従業員としては口出しすることじゃないし、差し出がましいよなぁと。結局糾弾するような形になって、不愉快な気分にさせてサヨナラ・・・。
まぁこのラストの方が読んでいてスカッとはするんですけどね。

 

 

●ルーキー登場
あらすじ
捜査一課に配属されたばかりの刑事・新田浩介は、ホワイトデーの夜に発生した実業家殺害事件の捜査に参加する。被害者は習慣にしていた夜中のジョギング中に殺害されており、現場には犯人が被害者を待ち伏せている間に吸ったと思われる5本の煙草の吸い殻が残されていた。部下からの受けがよく、取引先から恨まれている気配もなく、家庭を大事にしていた被害者には怨恨や痴情のもつれによる動機の線が浮上せずに捜査は行き詰まるが、新田は不意な思いつきから現場の偽装を見抜き、やがて犯人逮捕に辿り着いた。
しかし、新田は犯人の供述から“ある人物”の事件への関与を疑い始める――。


今度は新田が新米刑事だったころのお話。『マスカレード・ホテル』での新田も若さ溢れる感じでしたが、今作ではさらに若いですね。色々と。
お話の導入部分で、前作で語っていた元カノとのホテルでの朝支度の攻防が詳しく描かれています。しかし、言っちゃ悪いが馬鹿そうな女性と付き合っていたもんだ(笑)
お話としては普通の事件捜査でホテルも関係ないので、このシリーズでの特色は感じられません。新田が主役として活躍するだけ。新田のエリートっぷりが良くわかるお話ですね。
“素顔”と“仮面”ということでシリーズにこじつけているのですが、この真相はミステリとしては結構定番で新鮮味はあまりないですね。一話目とは違い、ラストはモヤモヤします。

 

 

 

 

 

 

●仮面と覆面
あらすじ
「ホテル・コルテシア東京」に男性五人組がチェックインする。どうやら彼らの目的は覆面女流作家・タチバナサクラであるらしい。タチバナサクラが「ホテル・コルテシア東京」に缶詰になるという情報を聞きつけ、熱狂的なファンである彼らは同じホテルに宿泊して張り込み、タチバナサクラに遭遇して素顔を見ようと目論んでいたのだ。
事情を察した尚美はタチバナサクラの担当編集者・望月に事態を知らせ、トラブルが起きないよう目を光らせるが、タチバナサクラとしてチェックインしたのは玉村薫という中年男性だった。望月からタチバナサクラは本当は中年の男性作家であり、この秘密は絶対に世間に知られるわけにはいかないといった諸事情を知らされた尚美は、どんな方法も辞さないファン五人組からタチバナサクラの秘密を守るべく奮闘するが、その一方で部屋に缶詰状態で小説を執筆しているはずの玉村が度々外出していることに引っ掛かりを覚えていた。

 

こちらは非常にホテルならではのお話。“覆面”“仮面”と、ホテルのシステムを利用している点など、このシリーズならでは感が強いですね。
オタク五人組の行動が怖いし本当に迷惑。でも実際このくらいのことするファンっているんでしょうね・・・。
最後まで読むとこの出来事も『マスカレード・ホテル』で小話として出て来ていたものだと気づく仕掛けになっています。

 

 

●マスカレード・イブ
あらすじ
開業したばかりの「ホテル・コルテシア大阪」に応援・教育係として数ヶ月勤務することになった尚美。フロントクラークの業務をこなす中、ある客たちの行動に興味を持ち、想像を巡らせる。
東京では大学教授の岡島孝雄が大学内で殺害される事件が発生。所轄の女性警官・穂積と共に捜査にあたった新田は、同じ学部の准教授・南原に目をつけ、南原のアリバイについての供述についての嘘を暴くが、南原は大阪のホテルに宿泊したことは認めるものの、なぜかホテル名や一緒に宿泊した女性については頑なに口を閉ざす。殺人の容疑をかけられているにもかかわらず、あくまで証言しない南原に新田は不審を抱く。
取調室での度重なる追求の末、南原はようやく宿泊先を白状する。その宿泊先とは「ホテル・コルテシア大阪」だった。


“イブ”とついているだけあって、トリックなど色々と『マスカレード・ホテル』の前段になっているお話。
新田と尚美が知らないうちに別事件で既に交差していたというのが良いですね。前作でも触れられていた新田の嗅覚の良さがこの作品でも生かされているのが上手くて唸りどころ。
エピローグで『マスカレード・ホテル』の事件の発端となる出来事が描かれていますので必見。

 

 

 補足の1冊

読んでみての全体の感想としては、シリーズ前作の長編『マスカレード・ホテル』の補足説明の短編集って感じですね。エピソードもそうですが、新田と尚美の人物設定も補足されて深まっています。
あと、何だか全編、騙されていることに気付かない愚かな男性が多く描かれていた印象。“仮面”をかぶるのは女性の方が上手だって事なんですかね(^^;)

どのお話も映像化しやすそうです。映画化はともかく、配信ドラマとかに向いてますかね。『マスカレード・ホテル』の映画公開の前後で何らかの形でこちらの短編集を映像化するかもなぁという気がするのですがどうでしょう?

 

前日譚なので時系列としては『マスカレード・ホテル』より先に読んでみた方が良いのか?と思ったりする人もいるかと思いますが、前作を読んでいないと分からない部分や面白さに気がつけない箇所もありますので、最初はやっぱり刊行順に読むのがオススメです。

 

 

『マスカレード・ホテル』を読んだら続けてこちらの短編集を是非。

 

 

 

 そして続編長編の『マスカレード・ナイト』へ!

 

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※2022年に4作目も出ました!

 

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ではではまた~

マスカレード・ホテル 小説 あらすじ・感想 ホテルが舞台のミステリシリーズ開幕~

こんばんは、紫栞です。
今回は東野圭吾さんの『マスカレード・ホテル』について色々まとめて御紹介。

マスカレード・ホテル (集英社文庫)

2019年1月18日公開予定の映画の原作本ですね。


あらすじ
都内で起きた3件の不可解な連続殺人事件。容疑者もターゲットも不明。ただ1つ共通する点は事件現場に残された不可解な数列の暗号のみ。警視庁の捜査本部は暗号解読の結果、この暗号は次の殺害現場を予告するものであることをつきとめる。第3の殺害現場に残されていた暗号から、次の犯行現場は一流ホテル「ホテル・コルテシア東京」で起こると捜査本部は推測するが、現時点で予測できるのはこの犯行現場のみ。
第4の事件を未然に防ぐ為、捜査員を数名フロントスタッフやベルボーイに扮させてホテルに潜入させることになり、刑事の新田浩介は帰国子女で英語が堪能であるなどの理由からフロントスタッフに化けての潜入捜査員に選ばれる。
彼の教育係・補佐役として優秀なフロントクラークの山岸尚美が任命されるが、立場も職業倫理も異なる二人は衝突が多く、中々上手くいかない。
そんな中、「ホテル・コルテシア東京」には次から次へと怪しげな客たちが訪れる。はたして二人は真相にたどり着き、事件を未然に防ぐことが出来るのか?

 

 

 

 

 


ホテルが舞台のミステリ
東野圭吾さんはあまりにも売れ売れで、本屋で他の作家作品が追いやられた状態で東野圭吾作品が何冊も平積みされていたりするのを目にすると、何だか変な反発心が芽生えてしまうのですが、読むとやっぱり面白いので「チクショウ」って感じで悔しいですね(笑)


『マスカレード・ホテル』というタイトルから、パーティーシーンなどがある華やかなストーリーを想像していたのですが、予想に反し、お話の中で展開されるのは訪れる奇妙な客たちの意外な事情・目的をミステリ仕立てにした“一流ホテルが舞台の日常ミステリ”といった感じです。次々と怪しげな客たちが訪れ、その都度対応して解決していく中、並行して殺人事件の捜査が進捗していくといったストーリー。
タイトルにあるマスカレード(仮面舞踏会)は、“お客様”という仮面を被っている客たちを表しています。

 

 


モデル
高級ホテルの舞台裏を題材にしている物語ですので、普段は富裕層が泊まるようなホテルには縁が無い私には読んでいて新鮮なことばかりで楽しめました。書くにあたり、かなりの取材をされたのだろうなというのは読んでいてビシビシと伝わってきます。
気になるのは具体的にどこのホテルがモデルになっているのかですが、巻末に
“取材協力 ロイヤルパークホテル”
とあるので、主にモデルとして使われているのは東京日本橋のロイヤルパークホテルなのだと思われます。文庫本の表紙に使われている写真もロイヤルパークホテルの内観。

 

映像化作品で有名な『新参者』麒麟の翼』なども日本橋付近がお話の舞台でしたね。

 

新参者 (講談社文庫)

新参者 (講談社文庫)

 

 

 

麒麟の翼 (講談社文庫)

麒麟の翼 (講談社文庫)

 

 

 

シリーズ・順番
『マスカレード・ホテル』はシリーズもので、『マスカレード・ホテル』刊行後にこの事件の前日譚が描かれた2作目の『マスカレード・イブ』

 

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そして続編となる3作目の『マスカレード・ナイト』と続けて刊行されています。

 

 

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前日譚の『マスカレード・イブ』をあえて先に読んでみるのも楽しみ方としてアリでしょうけど、やっぱり刊行順に読むのが良いでしょうかね。『マスカレード・ホテル』『マスカレード・イブ』は文庫化されていますが、『マスカレード・ナイト』はまだ文庫化されていなません。映画の公開時期に合わせて発売するのでは・・・と、予想しているのですがどうでしょう?

 

 

 


映画
映画の監督は『HERO』やフジテレビ系ドラマでお馴染みの鈴木雅之さん。監督の今までの作品や予告映像を見た限りでは、原作よりもコミカルで軽快なタッチで描かれる映画になるのかな?と思います。

 

キャストは
新田浩介木村拓哉
山岸尚美長澤まさみ

小日向文世梶原善泉澤祐希、利根作寿英、石川恋、濱田岳前田敦子笹野高史、髙嶋政弘、菜々緒生瀬勝久宇梶剛士、橋本マナミ、田口浩正勝地涼松たか子鶴見辰吾篠井英介石橋凌渡部篤郎

と、そうそうたるメンバーなのですが。

 

主要二人以外は誰がどの役を演じるのか公式サイトを見ても現段階では明確にわかりません。予告映像から察するに、新田のバディである刑事の能勢さんが小日向文世さん、客の一人で花嫁の高山佳子前田敦子さんだというくらいですね、ハッキリわかるのは。


主演の木村拓哉さんですが、原作の新田は三十代の設定なので年齢がかなり離れています。
作品や人物設定によっては年齢の開きはさほど問題にならないものもありますが、今作はちょっと問題なのではないか?と、個人的には思いますね。
新田は優秀で早くに捜査一課の刑事になり、際立った成果をこれまでに上げてきた為、少しばかりプライドが高い人物。このプライドが高いが故の言動が、なんというか・・・若さ故、若いから許されるといったものの類いで、まぁそこらへんの成長もお話の中で描かれ、作品の魅力の1つになっているのですが、四十歳半ばで原作の新田と同じ言動をされたら結構イライラしちゃうと思うんですよね(^^;)大人げないというか。

映画では新田の設定は多少変えるのですかねぇ・・・予告映像を見た感じだと原作の設定のままって気がするのですが・・・どうなっているのでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 


仮面
私自身、接客業をしている人間なのですが、今作のもう一人の主役・フロントクラークの山岸尚美の


“ルールはお客様が決めるもの。お客様がルールブックで、だからお客様はがルール違反を犯すことなどありえないし、私たちはそのルールに従わなければならない”


というホテルマンとしての基本姿勢には頭が下がります。とてもじゃないがこんな境地に達することは出来ないなぁ~と感服しますね。
“お客様がルールブック”との言葉は表面的に受け取ると「お客様は神様です」精神と同一のものかと思ってしまうところですが、単純にただハイハイとかしこまっていれば良いという訳ではなく、お話の中で描かれるのは「お客様を快適な気分にさせる」ということに特化したホテルマンとしての姿勢です。

 

「昔、先輩からこんなふうに教わりました。ホテルに来る人々は、お客様という仮面を被っている、絶対にそのことを忘れてはならない、と」
「ははぁ、仮面ですか」
「ホテルマンはお客様の素顔を想像しつつも、その仮面を尊重しなければなりません。決して、剥がそうと思ってはなりません。ある意味お客様は、仮面舞踏会を楽しむためにホテルに来ておられるのですから」

 

上記は尚美と新田のやり取り。
このお話の舞台はラグジュアリーな一流ホテルなのでなおのことですが、ホテルに泊まるという行為は大小ありつつも、日常から解き放たれた“いつもと違う自分”を一時楽しむ場。
刑事は素顔を暴いて仮面を剥がすのが仕事ですが、ホテルマンは仮面を尊重して素顔を鑑みながら、その上で相手を満足させることを考えねばならない。

刑事である新田とホテルクラークである尚美が衝突してしまうのは必然ですね。

 

 

 

見所
最初のうちは衝突を繰り返す二人ですが、仕事を共にする中で信頼や尊重、尊敬の意思が芽生えていき、打ち解けていきます。ここら辺の二人の関係性の変化はやはり読んでいて楽しい点です。続編では二人の関係がどうなっているのか気になるところですね。

個人的には新田と所轄のベテラン刑事・能勢さんとの信頼感の変化も好きな箇所です。能勢さん、凄くいい人なんですよ。だから途中で新田が能勢さんのことを軽視したりするのは読んでいてムカッとしてしまうのですが(^^;)まぁ、若さ故だろうと大目に見られますけどね・・・。

そしてもちろん、ミステリとしても面白いです。怪しい客が来て、その都度様々な方法で解決していくストーリー展開の只中で、実は確りと殺人事件についての伏線が散りばめられ、最後には綺麗に収束されて、気の利いた台詞で締めくくられる。
スカッと爽やかな読後感。流石のエンタメ作品です。


映画で気になられた方は是非読んでみては如何でしょうか。

 

マスカレード・ホテル (集英社文庫)

マスカレード・ホテル (集英社文庫)

 

 そして、こちらを読んだら次は『マスカレード・イブ』へ!

 

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 そして『マスカレード・ナイト』へ

 

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ではではまた~

水の中の犬 あらすじ・感想 映画化『アウト&アウト』の前日譚

こんばんは、紫栞です。
木内一裕さんの『水の中の犬』を読んだので感想を少し。

 

水の中の犬 (講談社文庫)


あらすじ
「あなたは、どうなることを望んでいますか?」
「あの男が死ぬことです」
探偵の元にやってきた一人の女性。彼女の望みは一人の男が「死ぬこと」。
交際相手の弟に軟禁の末暴行され、兄貴に知られたくなければ俺の女になれと脅迫とつきまといを受けていたのだ。
たしかに彼女の問題はその弟が死ななければ解決しないように思われた。辛い話を聞いてしまった者の責任として、探偵はこの解決しようのない依頼を引き受けるが、探っていった先に待ち構えていたのは底の見えない暴力と悪意だった。
それらは連鎖していき、やがて探偵自身の封印された記憶を解き放つ――。

 

 

 

 

 

ハードボイルド
『水の中の犬』は木内一裕さんの小説第2作目で前回当ブログでもまとめた『アウト&アウト』から続く元ヤクザの探偵・矢能が活躍するシリーズの前段に当たる作品です。読まなくても後続の作品は十分楽しめますが、読むと矢能や栞の事情がよくわかるし、シリーズへの愛着もより深くなるので読むべし。

※矢能シリーズ(仮)の順番などに関して、詳しくはこちら↓

 

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この『水の中の犬』は矢能が主役の『アウト&アウト』などのエンタメ色が強い作品雰囲気とはだいぶ異なり、ハードボイルド一直線でノワール小説ばりに暗くて重い内容ですが、コレはコレで別の面白さがある魅力的な作品です。

シリーズ3作目の『バードドッグ』の文庫版解説を読んで知ったのですが、この作品には前身となる著者の「きうちかずひろ」さんが撮った映画『鉄と鉛』があり、今作はこの映画の小説版ということらしいです。

  

鉄と鉛 STEEL&LEAD [DVD]

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「探偵」を渡瀬さんが演じているというのが納得。凄くピッタリだと思う。 

 

お話は
第一話 取るに足りない事件
第二話 死ぬ迄にやっておくべき二つの事
第三話 ヨハネスからの手紙
の、三話構成になっています。

お話は全て繋がっていて、描かれるのは“最悪の連鎖”。三話ともミステリアスな女性が探偵事務所に依頼に来るというハードボイルドの定番みたいな出だしで、情報屋、ヤクザ、麻薬常習者・・・と、これまた定番な人物や事柄が出て来る。
各話、終盤で明かされる真相は悪意と暴力に塗れていて、どれも読後の後味は良いものではありません。
ですが、ただ不愉快で虚しくさせるだけのお話かというとそんなことは無く、それだけではない“何か”が残る作品です。

 


探偵
主人公は元警察官で探偵の「私」。最後まで名前は明かされず、周りにも「探偵」としか呼ばれません。

今作ではこの探偵の「私」自体が一番の謎として描かれています。


口調は丁寧で思慮深く冷静、普通の倫理観も持ち合わせていて真人間そうに見えるのに、いきなりスイッチが入ったように思考はそっちのけでドンドンと行動的すぎる行動をとっていき、読者の気持ちが追いつかないままに早く展開するので「どうして」「なんで」と困惑します。
依頼に対しても「他人の為に何故そこまでするのか」と周りに理解されないほどの行動をし、その都度大怪我を負っているのですが、読んでいてもこの「探偵」はお人好しといったタイプじゃなさそうだし、正義感に駆られてとっている行動とも思えないので、ここもまたチグハグな印象をうける。

 

「お前はすぐに当事者になっちまう。いつだって自分の事件にしちまうんだ」

「お前は不運にもちょくちょく暴力沙汰に巻き込まれちまうって思ってんだろ?これは探偵って職業にゃ付き物だとか何とか言ってよ・・・・・・だけどそうじゃねぇ。いつだってお前が暴力を誘ってるんだ」

上記は二つとも情報屋のセリフ。


探偵である「私」は依頼人のためではなく、無意識のうちに自ら望んで危ない目に遭っている。実は自分のために行動しているんですね。

これらの「私」の謎は三話目のヨハネスからの手紙』で明らかになります。読者としては「ああ、そうだったのか」と、ストンと腑に落ちました。
が、自分の危なっかしい行為の理由がわかって落ち着くかと思いきや、「私」は理由がハッキリとしたことで行動をさらに加速させていきます。そして逃れようのない哀しい結末へと向かってしまうのです。

 

 

 

 

 

 

 

矢能
矢能が登場するのは二話目の『死ぬ迄にやっておくべき二つの事』からで、探偵を監視していたはずが行動を共にするうちにすっかり探偵の協力者になってしまう“なんか良いヤツ”で、二話の終盤には
「お前がくたばったら・・・・・・後は俺に任せろ」
とまで言ってくれる。
探偵は“後を託せる人間がいることは素晴らしいことだ”と嬉しく思い、三話目では命を狙われている小学生の「栞」を矢能に預けています。ほんの数日のつもりが~・・・で、続編の『アウト&アウト』に繋がる訳なんですけども。
エピローグで矢能は「私」のことを
「あいつは俺が知っている中でも最高の男だ」
と言い、新たに探偵事務所の主となる。

悲惨な出来事ばかりで哀しく辛い物語ですが、矢能が後を引き継いだこと、探偵が助けた「栞」が矢能と共に探偵事務所で日々を過ごしていること。“その日々を描いた続編があること”がこの物語の最大の救いになっています。
なので『水の中の犬』を読んだ後に『アウト&アウト』を読むと感慨もひとしおですね(^^)

 

 


最初に読むべき
私はこの小説の存在を知らず、続編の『アウト&アウト』を先に読んでしまったので、今作を読む前からある程度の結末は知っている状態でして。結末を知っていても面白く読めたは読めたのですが、やっぱり最初に『水の中の犬』を読んでいればもっと物語を純粋にハラハラしながら楽しめたろうし、感じ方も違ったろうな~と。


シリーズ番号などが表紙に明記されていないので、私のようにシリーズの途中から読んでしまう人、結構いるのではないかと思います。後から読むのももちろん良いですが、気が付いた人は是非飛ばさずに『アウト&アウト』の前にこの作品を読んで欲しいです。シリーズのことは抜きに、単体の作品として十分面白いですので是非是非。

 

水の中の犬 (講談社文庫)

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www.yofukasikanndann.pink

 

 

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ではではまた~