こんばんは、紫栞です。
今回は城平京さんの『虚構推理短編集 岩永琴子の純真』をご紹介。
こちら、あやかし達の争い事の仲裁・解決、相談を受け、虚構を用いて人とあやかしの間を繋ぐ「知恵の神」である岩永琴子と、その恋人で、不死で未来を決定する能力を持つ“怪異を超えた怪異”である桜川九郎の二人が活躍する【虚構推理シリーズ】の小説版四冊目。
※シリーズについて、詳しくはこちら↓
このシリーズは元々単発長編小説として出された第一作目以降、城平京さんが原作小説を書いて、片瀬茶柴さんがコミカライズするという形で漫画連載がされていて、今回収録されている短編は五話のうち、一~四話は講談社コミックスの12~14巻の間で既に漫画作品として刊行されています。
五話目の「雪女を斬る」だけがコミカライズされていないという訳ですが、この五話目は小説版用のみの書き下ろしということで今後もコミカライズはされないのかも。最新コミックス15巻では別のお話をやっているようですしね。後になってコミカライズする可能性は否定できませんが。
では、一話ずつご紹介。
第一話「雪女のジレンマ」
人間不信となり、山の麓にある町で引き籠もり生活を送るなかで妖怪の雪女と親しくなった男性・室井昌幸に殺人容疑がかけられる。被害者の死亡推定時刻、昌幸は雪女と一緒にいた。しかし、妖怪である雪女が警察に昌幸のアリバイを証言できるはずもなく。昌幸の容疑を何とか晴らしたい雪女は「知恵の神」である岩永琴子に相談する。
この話、本の紹介文では「雪女の恋人に殺人容疑がかけられた」となっているのですが、実際はこの話の段階では友人以上恋人未満的な関係です。事件もですが、人間と妖怪の恋模様も見所になっている物語。
殺人容疑をかけられてしまう昌幸なんですけど、学生時代には嫉妬で親友に殺されかけ、結婚してからは愛人を作った妻に財産目当てで殺されかけ、その後は仕事仲間に裏切られて自身が興した会社を追われるという、「呪われているのか?」と言わんばかりの散々っぷり。そりゃ人間不信にもなるわな(^_^;)なのですが、それで「お祓いしてもらおう」となるのではなく「昔自分を助けてくれた妖怪に会いに行こう」となるのがなんともはや。
事件解決のためではなく、雪女と昌幸の仲を取り持つために虚構の推理を披露するというのがこのシリーズらしさですね。
第二話「よく考えると怖くないでもない話」
必ず超常現象が起こると噂され長い間手付かずになっていた“いわくつき”の一軒家の解体作業を請け負った便利屋とその後輩たち。解体作業は拍子抜けするほど何事もなく無事に終わったが、それはアルバイトとして来てもらった桜川九郎のおかげじゃないかと便利屋は後輩たちに語る。
アルバトに来ている九郎先輩についての小話で、ページ数は20ページほど。“怪異を超えた怪異”として九郎先輩が姿を見せただけで化け物達は逃げ出すということで、いわくつきの物件の工事などで重宝される存在となっているらしい。もちろん、何故九郎先輩がいると工事が無事に終わるのかは周りの人間は分っていないのですけどね。
『呪怨』みたいなホラーではオキマリ設定の家が出て来る訳ですが、現実は映画みたいな怪異もなくつまらないもんだ・・・と、見せかけてそうでもないというタイトル通りの物語。
第三話「死者の不確かな伝言」
地方の村にある祖父母の家を訪れていた風間怜奈は、駅まで歩いている最中に猪の化け物と、その化け物に怖がられていた女性と出会う。高校時代、岩永琴子と同じ部活だったことで“化け物なれ”していた怜奈はさほどの警戒心もなく女性に話しかけた。すると、この女性が岩永琴子の恋人の従妹であることが判明。桜川六花と名乗ったその女性は、岩永琴子が高校時代に解決させた相談事にはどんなものがあったのか教えてくれと頼んできた。請われた怜奈はかつて部に持ち込まれたダイイングメッセージにまつわる相談事を話し出す。
忘れた頃にやってくる六花さん登場。シリーズ二冊目『虚構推理短編集 岩永琴子の出現』でも琴子の高校時代に入部していたミステリ研の話が出ていましたが、
この話でもミステリ研での思い出話が語られる。
琴子が示した解決策について、ミステリ研メンバーは「悪辣だ」と言って引いたりしていますが、個人的には「そうか?」って感じ。実際、うるさい人を黙らせるための方便としてはこれくらい言わないと効果はないだろうと思う。ま、高校生ってのはまだ社会人生活もしてなくってウブだから、そういう反応になってしまうのかな。長じれば分るようになるよ・・・あなたたち・・・と、言いたい。
第四話「的を得ないで的を射よう」
ある夜、岩永琴子は桜川九郎を廃村まで連れてきて「リンゴを頭の上に置いて矢の的となってください」と言い出す。なんでも、一週間ほど前に二匹の猿の妖怪が野原に落ちていた弓矢を拾ったのだけれども、互いにこれは自分の物だと譲らず埒が明かないので、不死である九郎の頭の上に置いたリンゴを先に弓で射貫いた方に所有権を認める勝負をすることにしたと言うのだが――。
これも20ページほどの小話。日本昔話とか、大岡裁き風味なお話で、単純に争いを仲裁・解決するだけでなく、「知恵の神」として威厳を保たなければならない琴子の苦心が少し垣間見える。
しかし、九郎先輩が不死で痛みもないとはいえ、縛られて矢の的にされ続けるというのは想像するとゾッとしますね。最後には琴子が弓で身体を射貫いているし。恋人にする所業じゃない。このシリーズでは今更なことではありますが。
第五話「雪女を斬る」
岩永琴子は白倉静也という青年から剣豪の先祖について相談を受ける。江戸時代、静也の先祖で無偏流剣術の使い手・白倉半兵衛は二十代の時に山で遭遇した雪女を斬ったことで無偏流開祖も極めることがかなわなかった秘剣『しずり雪』に開眼し、無偏流を完成させたという。
無偏流を隆盛させ、養子を取って後継として育てていた半兵衛だが、四十歳の時に謎の死を遂げた。道場に門下生がおり、稽古に励んでいた日中に自宅の庭先で頸動脈を切られて倒れていたところを発見された半兵衛は、絶命する前にかすれ声で「ゆきおんな」と呟いたらしい。
「雪女がいようといまいと、半兵衛は何か隠し事をしています。謎の死にもそれが関わっているとしか思えません。僕にはどうしても気になるんです」
琴子は「知恵の神」として、江戸時代から続く雪女の因縁に一定の解決を与えねばならないと虚構を組み立てるが――。
タイトルにまた“雪女”と出て来るから、また同じ雪女についての話かと思いきや、今度は江戸時代で別の雪女についてのお話。「雪女のジレンマ」に登場した雪女の姉という設定ですね。妖怪に姉妹とか兄弟とかあるのかって感じですが、このシリーズでの妖怪は犬〇叉的世界観ということなのでしょうか。妖怪と人間との子が絡んでくるのもまた犬〇叉的。雪女ってことで、異種間婚姻を描いているってことなのでしょうが。
雪女が氷の刀で襲ってくるというのが何やらおかしみがある。剣術が物語に大いに関係してくるのは『スパイラル』の小説一冊目「ソードマスターの犯罪」を思い出しますね。ミステリで剣術ってそうそう取り上げる題材でもないと思うのですが。作者の城平さんは剣術好きなのでしょうか。最初に辻褄の合う仮説を提供した後に“本当にあったこと”を語る解決編の流れは二作目の「鋼鉄番長の密室」を想起させる。
スパイラルを書いていた時点で既にこのシリーズを書く素養は揃っていたのだと感じますね。
次は長編?
前に出た短編集は化け物が絡むというだけでただの推理物だなというものも多かったので、今回の短編集はちゃんと“虚構が前提の推理”をしていて好ましかったなと。九郎先輩の出番が全体的に少なめでしたかね。役割的に短編だとしょうがないかなとは思うのですが。
漫画は現在15巻まで刊行されていて、最新刊では「岩永琴子の逆襲と敗北」という長めのお話をやっているようですので、次の小説版はこの長編になることが予想されます。
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虚構推理は2022年にアニメの二期が決定しているのですが、今度のアニメは短編中心で後半が長編とかなのですかね。一期が長編を長々とやる構成になっていて連続アニメとしては少々退屈な仕上がりになっていたので、二期は短編を多くやってくれたら良いなというのが個人的希望ですけど・・・どうなのでしょう。
何はともあれ、色々期待して待ちたいと思います。
ではではまた~
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