夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『東京二十三区女』ドラマの原作小説 あらすじ・考察

こんばんは、紫栞です。
今回は長江俊和さんの東京二十三区女』をご紹介。

東京二十三区女

 

2019年4月12日にWOWOWで放送開始予定の連続ドラマの原作本ですね。


上の画像は単行本の表紙のもの。私は単行本で読んだのですが、最初気がつかなかったんですけど、この絵、よくよく見ると怖い絵ですね。肩のところの手が・・・。
文庫版も刊行されています↓

 

 

東京二十三区女 (幻冬舎文庫)

東京二十三区女 (幻冬舎文庫)

 

 

こちらは地図みたいな表紙でイメージがガラッと変わっていますね。


あらすじ
フリーライターの原田璃々子は、東京二十三区のルポルタージュ企画を作り雑誌社に売り込みたいと東京二十三区を巡って取材をしている。だが、それはあくまで名目であり、璃々子が東京の各地を巡っている本当の目的は別にあった。そんな璃々子の取材に、大学で民俗学の講師をしていた先輩・島野仁はダラダラと文句を言いながらも同行してくる。
「自殺の名所」「処刑場」「有名な心霊スポット」・・・璃々子と島野の二人は東京二十三区を巡る中で様々な「東京の怪異」に遭遇していく。
「私が探している場所は、ここではありません」
東京の“いわくつき”の地ばかりを巡る彼女の本当の目的は何なのか。

 

 

 

 


東京の怪異
東京二十三区女』は東京二十三区に残されている伝承をテーマにしたホラーミステリー小説。

“東京の各地にある実際の伝承をテーマに描かれる物語”という説明書きに心引かれて読みました。都市伝説好きにとっては凄くワクワクする説明書きですよね(^^)
東京の各地を舞台に、それぞれの人物が遭遇する怪異話の連作短編集。それぞれ主人公は異なりますが、各話、フリーライター璃子が登場し、同行している元民俗学の講師・島野先輩が各地を訪れる度にその土地に伝わる伝承や血塗られた歴史のウンチクを披露。それこそ先生のように読者に解説してくれます。
璃々子はいわゆる“みえる人”。霊感が強く、霊の存在も当然信じている・・・と、いうか日常なんですが、島野先輩は霊現象完全否定派。と、いうことで、二人はいつも意見が対立しています。先輩は璃々子がオカルト記事を書きたのだと思っていますが、璃々子の真意は別にあり、それは本の最後のお話「品川区の女」で明らかにされるという流れ。
ただ“怖い話”というだけではなく、謎解きや驚くべき真相、どんでん返しがあったりとミステリ好きも読んでいて愉しめる仕掛けが随所に施されています。

 

目次
東京二十三区
板橋区の女
●渋谷区の女
●港区の女
江東区の女
●品川区の女

最初の「東京二十三区」は前口上のようなもので使われているのは2ページ。これの後にお話が5編収録されています。タイトルの全部に“女”とついていますが、実は全話女が主役という訳ではないので、読者としては何故タイトルが全て“女”で統一されているのか少し疑問ですね(特に港区とか)。まぁ全話女性が関係してはいますけど・・・。
どのお話も60ページ程の長さで読みやすいです。私は地方在住なので上京したときによく行く渋谷区ぐらいにしか馴染みはないですが、都内在住で出身者の人には身近な土地の秘められた過去が知れるというのは興味深さと共に恐怖も倍増するのではないかと思います。

 

 

 

ドラマ
4月12日からWOWOWで毎週金曜深夜0時から放送予定のドラマは、全6回とのこと。
監督・脚本は原作の著者である長江俊和さん自身が担当されるとのことなので、原作の世界観はバッチリ再現されるのだと保証されているようなものですね。
私は長江俊和さんの名前は今作で初めて知ったのですが、元々放送作家さんで「放送禁止」シリーズ

 

放送禁止 (角川ホラー文庫)

放送禁止 (角川ホラー文庫)

 

 

パラノーマル・アクティビティ第2章TOKYO/NIGHT」

  

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などを手がけられているのだとか。これらの番組名はホラーに疎い私も聞き覚えがあります。著書も「出版禁止」

 

出版禁止(新潮文庫)

出版禁止(新潮文庫)

 

 

というホラー小説が代表作で有名らしいので、やっぱりホラーを中心に活動されている方なんですね。

 

キャスト
第1話「渋谷区の女」
倉科カナ
月船さらら
佐野史郎

 

第2話「江東区の女」
安達祐実
●上村歩未
クノ真季子
長谷川朝晴
鈴木砂羽

 

第3話「豊島区の女」
桜庭ななみ
●藤原季節
小日向文世

 

第4話「港区の女」
壇蜜
大西信満
竹中直人

 

第5話「板橋区の女」
中山美穂
マフィア梶田
浅川悠
小木茂光

 

第6話「品川区の女」
●島崎遙香
白州迅
山崎真実
●藤木由貴
岡山天音


お話ごとに主人公が異なりますので各話キャストはバラバラ。全話で登場するフリーライターの原田瑠璃子役は島崎遙香さん、島野先輩の役は岡山天音さん。
「6つの街、6つの恐怖、6人の女」という番組キャッチコピーと上記のキャストから、ドラマは原作とは異なり、全て女性の主人公に変更されているようです。まぁ、その方がタイトルと合致して自然ですからね。色々な女優さんの恐怖の演技が愉しめるのでしょう。

各話の順番も原作とは違いますが、もっとも気になるのは原作にはない「豊島区の女」ですね。著者である長江さんによると、『東京二十三区女』は続編を現在執筆中だとのことなので、「豊島区の女」は続編に収録されるお話なんでしょうか?それともドラマ用完全オリジナル?気になるところですね。

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


単行本の帯には「あなたの街の秘密を、教えてあげる」とある通り、この本では日本人なら誰もが知っている場所の、知られざる過去が次々と作中で露わになります。

板橋区の女」では自殺の名所である団地や“縁切り榎”が。
「渋谷区の女」では、渋谷は川を地中に埋没させて出来た都市だということが。
「港区の女」では六本木の名前の由来や歴史が。
江東区の女」ではゴミの埋め立て地“夢の島”が。
「品川区の女」ではかつての処刑場、鈴ヶ森刑場が。

それぞれに、現状からはとても想像出来ないような平和な地が、実は陰惨な歴史を持っていることが作中で説明され、まるでその土地の歴史が引き起こしたかのような怪談話が描かれています。

「土地に残る怨念が怪異を招く」というのは怪談にはつきもので、もはや怪談と土地は不可分だとの見方もあったりしますが、よくよく考えてみると際限なく歴史を遡るならば、どこの土地にも陰惨な事柄があるのは当たり前なのではないかとも思えます。江戸時代は勿論ですが、日本は大戦での混乱も経験していますし、戦国時代には日本のそこらじゅうで大勢が不遇の死を遂げていた。どこの地にも“いわく”があるのは当然だとわかっていても、人は怪異と土地を繋げて考えたがるし、事件が起きれば起こった場所自体を「怖い」と感じる。

「だから言ったじゃないですか。今現実に起こっている事件の背後には全て、歴史の奥に封印した呪いや怨念が潜んでいると」

これは作中での璃々子のセリフ。
「そこまで言い切っちゃいますか・・・」と、思ってしまうところではありますが(^^;)完全に否定しきれないのもまた人の性質なんでしょうかね。

また、今作が突出しているところは「東京」という大都市の繁栄には葬り去ってきた歴史があるのだというところですね。私たちは何も知らずに浮かれて過ごしているのだなぁ~と痛感させられる訳です。

 

 


板橋区の女・ラスト
今作でやたらと気になるのは板橋区の女」のラスト、薫の夫が絵馬に残したメッセージの答えです。ハッキリと答えが明かされないままに終わっているのでモヤモヤします。
メッセージは
『妻には過去のゆか 憂い怒る怖い。かなし』
で、最後にはコレが全て平仮名になっている
『つまにはかこのゆか うれいいかるこわい。かなし』
と、いう一文が書かれています。

はい。私、初見ではまったく解らなかったので(^_^;)他の方の様々な意見を調べてみましたよ。

作中で璃々子と島野先輩が「暗号なんじゃないか」「『かなし』だけが句点で区切られ、ひらがなで書かれているのには何か意図があるのでは」と言っているので、このメッセージは暗号であり、『かなし』がこの暗号を解くためのキーであると考えるのが自然(な、はず)。
で、『かなし』は有名な「狸(“タ”抜き)の暗号」と同じく、「“か”無し」つまり、文から「か」を抜かして読む(主人公の名前が薫なので「“か”折る」と考えるという意見もありましたが、文にある『かなし』から導き出す方が自然だと思う)。

 

妻には過去のゆか 憂い怒る怖い。かなし
つまにはかこのゆか うれいいかるこわい。かなし
つまにはこのゆうれいいるこわい
妻には子の幽霊居る 怖い

と、いったメッセージになる。

文章としては「妻には子の幽霊居る 怖い」とした方が解りやすいと思うのですが、「か」の濁音は扱いが難しいので外したのでは・・・・・・と、まぁ調べてみて個人的に一番しっくりきたのはこの回答なのですが・・・でもどうでしょう?解いても少し不自然さを感じる文章になるので正解かどうか何とも言い難い。
ドラマでは回答が出て来るかもしれないので注目ですね。

 

 

 

 

島野仁
今作での大ネタ、「島野先輩が実は幽霊である」というのは、この系統の(?)本に馴染みのある読者なら割と早い段階で察しがつくと思います。璃々子が取材の予定を連絡している様子もない(するはずもない)のに、先輩がいつも取材に同行しているというのは不自然ですからね。直接的に匂わせているのは「港区の女」からで、最後の「品川区の女」でハッキリと明かされる。


「幽霊なんて信じない」とずっと言い続けている先輩が「幽霊」を実証する存在自体になっているというのは何とも皮肉で、璃々子としては非常にもどかしい状態でしょう。幽霊が幽霊なんていないと言っているんですからね。何をか言わんやってなものです。

璃々子が東京のいわくつきの地を巡っている本当の理由は、先輩の成仏のため。先輩の死には先輩が生前研究していた東京の歴史・事象が関係しているのではないかと考えているのですね。

「彼が死亡した日、あのコーポで何があったのか。私は考えました。本当に病死だったのか。それとも、禁忌に触れて呪い殺されたのか。もしくは実際に、何らかの方法で誰かに殺害されたのか。私は彼の死の真相を探るために、品川区の一帯を調べていました。その男性の魂は、成仏できずに私の周囲を彷徨っています。彼を成仏させるため、呪いの根源を求めて、古い史跡や火災現場など、死亡事故があった場所を巡っていたんです」

 

 

 

 

続編
今作では璃々子のこの“調べ物”は終わっていません。先輩の幽霊も、相変わらず東京の蘊蓄をたれながら璃々子の周囲を彷徨っています。

続編は只今執筆中とのことなので、次作に期待ですね。先輩の死の真相、成仏できるか否か、次作で解決するのかどうなのか・・・。東京は二十三区ありますし、上記したように、どの土地にも“いわく”はあるもの。ネタには事欠かなそうなので、ひょっとしたら2冊で終わらずに3冊4冊とシリーズ化するかも・・・?

どうでしょうか。次までのお楽しみですね(^^)

 

東京二十三区女 (幻冬舎文庫)

東京二十三区女 (幻冬舎文庫)

 

 

 

 

東京二十三区女

東京二十三区女

 

 


ではではまた~

『塗仏の宴 宴の支度』各話あらすじ・ネタバレ

こんばんは、紫栞です。
今回は京極夏彦さんの『塗仏の宴 宴の支度』をご紹介。

文庫版 塗仏の宴 宴の支度 (講談社文庫)

 


大興奮の大作
『塗仏の宴 宴の支度』は【百鬼夜行シリーズ】の六作目。

 

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この六作目は二部作になっていて、上巻にあたる「宴の支度」では六つの妖怪の名前を冠した六編の話が収録されている短編集形式になっていて(一つの話が100ページ以上あるので短編ともいえないかもですが)、

 

文庫版 塗仏の宴 宴の支度 (講談社文庫)

文庫版 塗仏の宴 宴の支度 (講談社文庫)

 

 

下巻にあたる「宴の始末」では上巻で示されたそれぞれの謎が集約され、解明されていく構成となっています。

 

文庫版 塗仏の宴 宴の始末 (講談社文庫)

文庫版 塗仏の宴 宴の始末 (講談社文庫)

 

 

上下巻とも、いつものように千ページほどあるレンガ本で鈍器本すので、「支度」と「始末」を合わせて考えるなら『塗仏の宴』はシリーズ中では現状一番のページ数を誇る超・超大作で超・超絶ミステリここに極まれり!な作品。


当ブログでは【百鬼夜行シリーズ】を順番に紹介してきた訳ですが(期間はだいぶトビトビですけど・・・)、やっと『塗仏の宴』ですよ。とうとうね。今作は百鬼夜行シリーズ】の転換点でシリーズの第一期のクライマックスともいうべき作品。いつも以上の尋常ならざる超絶ミステリは勿論、シリーズファンにとっては驚きの展開がてんこ盛りで、読んでいて大興奮な作品です。

 

塗仏の宴 宴の支度(1)【電子百鬼夜行】
 

 


本当はまとめて紹介したかったのですが、あまりに大作でまとめきれないので(^^;)今回は「支度」と「始末」で分けて紹介したいと思います。

 

 

 

 

各話・あらすじ
●ぬっぺっぼう
関口巽は『實錄犯罪』の妹尾の紹介で出会った光保公平の依頼で、彼が戦前に警官として駐在していた静岡県韮山山中の“消えてしまった村”「戸人村」(へびとむら)を探すことになる。「戸人村」は地図に載っておらず、記録もなく、近隣住民の記憶もない、存在そのものが抹消された村だった。戦時中の新聞記事から大量殺戮の果てに村人全員がいなくなったのではないかと噂されている「H村」が、光保の記憶している「戸人村」なのではないかと聞かされた関口は韮山に赴き、地元の警官・淵脇と、道中で出会った郷土史家の堂島静軒と共に「戸人村」があったはずの場所を訪れる。そこで、光保が語っていた通りの「佐伯家」の屋敷を発見し、足を踏み入れるが――。


●うわん
一柳朱美は神奈川を離れ、何かと一柳夫婦を手助けしてくれるベテランの薬売り・尾国誠一の薦めで夫と共に静岡県沼津に居を移して暮らしていた。
ある日、朱美は首吊り自殺をしようとしている現場に出くわし、救って介抱する。自殺未遂者の男は村上兵吉と名乗るが、何故自殺しようとしたのかと問い質しても「自分でもわからない」といい、幼少の頃謎の男の手引きで家出をし、十何年ぶりに郷里に戻ったものの家族も何もかもが居なくなっていたこと、「薬売り」に恐怖を抱いていることや「みちの教え修身会」の信者であることなどを朱美に話す。
すっかり落ち着いた様子だった兵吉だったが、朱美が隣人の松嶋ナツにナツの元に毎日のように勧誘にくる新興宗教「成仙道」に困っているという話を聞かされていた最中、再び自殺を図り――。


●ひょうすべ
韮山に赴く四ヶ月ほど前、関口は京極堂の座敷で中禅寺の同業で先輩でもある宮村香奈男と知り合う。宮村は知り合いの加藤麻美子という女性の悩みについて中禅寺に相談を持ち掛けていた。麻美子の祖父は「みちの教え修身会」に入会以降、麻美子と記憶の食い違いが生じるなど様子が変わってしまい、財産も会に注ぎ込んでいた。さらには、修身会は麻美子のこともしつこく勧誘してくるという。
麻美子は祖父を退会させたいというが、彼女も子供の事故死をきっかけに「薬売り」の尾国に紹介された華仙姑処女(かせんこおとめ)という、「必ず当たる」と評判の女占い師にのめり込み、財産をつぎ込んでいた。どうやら祖父を「みちの教え修身会」から退会させるように麻美子に強く云い寄ったのは華仙姑であるらしいのだが――。


●わいら
中禅寺敦子は、手を触れずに気で相手を倒す「韓流気道会」を取材し「奇譚月報」に記事を掲載するが、その記事について「韓流気道会」から抗議を受け、門下生らに付け狙われることになってしまう。
そんな只中で、敦子は今世間を賑わせている女占い師・華仙姑処女だと名乗る女性と出会う。彼女もまた「韓流気道会」に狙われていると聞き、共に逃げることに。逃亡の最中に漢方薬局「条山房」の医師・通玄と宮田に救われた後、敦子は華仙姑処女から身の上と本名を聞く。彼女は自分の本当の名前は佐伯布由で、“絶対に語れない過去”があるという。
華仙姑の予言の仕掛けと布由の過去を知るとっかかりをつかもうと、敦子は彼女を連れて「薔薇十字探偵社」を訪れるが、布由を見て榎木津は思いもよらぬ発言をする。そうして、布由は十五年前に自分が家族に“したこと”を敦子に話すが、それはおよそ信じられぬ内容だった。


●しょうけら
木場修太郎は「猫目堂」の女主人・竹宮潤子から三木春子を紹介され、彼女の相談にのって欲しいと頼まれる。
春子は工藤信夫という男からつきまといの被害を受けているという。毎週、工藤から春子の一週間の行動を克明に記した手紙が送られてくるというのだ。手紙の内容はすべて当たっており、執拗なまでに行動が逐一記録されていた。仮に覗いているとしてもずっと見張っていられる訳はないのに、何故ここまでの内容が書けるのか。
木場が調査を進めると、背後には「条山房」の“長寿延命講”が関係しているらしいとわかるが、そこに照魔の術で警察の調査に協力しているという少年・童子が現われる。


●おとろし
織作茜は織作家の遠縁だと主張する羽田製鐵取締役顧問・羽田隆三に「徐福研究会」を手伝って欲しいと誘われる。羽田にはとある疑念があった。研究会を任せていた学者・東野と、経営コンサルタント「大斗風水塾」の南雲がそれぞれ購入を希望する土地がまったく同じ場所、韮山山中なのだ。こんな辺鄙な土地を二人とも何故躍起になって欲しがっているのか。榎木津に調査を依頼しようとしたもののすっぽかされ、羽田は代わりに茜と秘書の津村信吾を韮山に行かせる。
茜はその使いのついでに、織作家の屋敷にあった「石長姫の神像」を中禅寺の紹介で知り合った妖怪研究家・多々良勝吾郎に薦められた場所・下田に奉納しようと津村と共に立ち寄るが、そこで出会った郷土史家だと名乗る男に、「石長姫の神像」の奉納先に下田は不適切だと云い、茜にある“忠告”をする――。

 

 

 

 

 

語り手たち
あらすじ書くだけで一苦労(^^;)。しかし、今作はいつも以上に複雑に事が絡み合っていて次巻を読んでいてもこんがらがってくること請け合いなので、あらすじ書くとなんか整理されて良いですね。
まず、最初に今作の全てのプロローグにあたる「ぬっぺっぼう」はシリーズお馴染みの関口君が語り手。前作ではほぼ不在だったので、「お!語り復活か」と思いきや、とんでもないことになって語り手どころじゃなくなる。関口、最大のピンチ!ですな。


敦子の語りがあるのも兄への思いや鉄鼠の檻

 

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などで少し触れられていた“悩み”も深く掘り下げられていて興味深いですし、木場が珍しく不安定になるのも読んでいてハラハラ。
それにくわえ、狂骨の夢の一柳朱美

 

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や、『格新婦の理』の織作茜

 

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が語り手で登場する。これだけでもうシリーズファンとしては大注目で必見。が、それだけじゃない!

 

 


解決しない事件
この六つの妖怪の名前を冠した六つのお話、これら全て次巻で行われる“宴”の支度です。千ページ程ある本が丸々伏線を張る為の仕込み・・・否が応でも次巻に期待が高まるというか、一体どれだけの気合いが込められているお話なんだ!って感じですよね。シリーズ史上、最大の事件の予感!で、まぁそれは当たっています。

「宴の支度」で示されるのは「みちの教え修身会」「成仙道」「華仙姑処女」「韓流気道会」「条山房」「大斗風水塾」などの妖しげな団体達と、暗躍しているらしき“薬売りの尾国”、そして郷土史家だと名乗り「世の中には不思議でないものなどないんですよ」と嘯く謎の男・堂島静軒

六つのお話とも、途中まで謎が解明されるものの肝心の部分は解らないままに終わっていて、読むと読者は宙ぶらりんな状態にさせられます。とにかく水面下で何かが動き出している不穏な気配を切々と感じるといった読後感で、「おとろし」の最後では衝撃的な展開を迎える・・・とにかく「始末」へ急げ~!ですね。

 

 

 


以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


催眠術
今作の六つのお話、結末で解る仕掛けのほとんどに“後催眠”が使われています。自分の決断で行動しているつもりが、催眠術によって行動を定められていたらしいという真相ですね。
ミステリの世界では基本的には「催眠術」は御法度になっています。「なんで?」って、まぁ、何でもありになってしまうからですけど。ミステリを読んで「被害者は何故そんな行動をとったのか?」と真剣に考えていたのに、最後に「催眠術で操っていたのです!」なんてオチだったら腹が立つというものですし、人を無意識下で自在に操れるのならトリックなど必要なくなりますよね。


しかし、この御法度をあえて描こうとするミステリ作家は結構います。サブリミナルとか、流行(?)もあったと思いますが、タブーとされてる「催眠術」をいかにミステリとして昇華させるか、タブーだからこそ挑みたい作家的反骨精神でしょうか。

この【百鬼夜行シリーズ】は、本格推理小説だのミステリだの明確に括れるシリーズでもないから「こんなの本格ミステリじゃない!」という文句もお門違いではありますけど。そもそも榎木津の能力自体が“アレ”だしね・・・(^^;)


この『塗仏の宴』は催眠術を通して“認識の揺らぎ”がド直球で描かれたお話。やり手の催眠術師がいるため、“事件の関係者の証言はどれもアテにならない”といった客観的事実が消失した状況に読者は追い込まれ、はてには「意思とはなんなのか」といった考えにまで及んでいく。

 

そもそも意思とはなんだ。何処にある。
人に、本当の意味での自由意思などあるのか。
凡てのものごとは、決めるのではなく、決められる――のではないのか。

 

このようなミステリを読む上での大前提や個人の意思まで疑うような中で、物語を収束することなど出来るのか。
読者はなんとも言いしれぬ不安を覚える訳ですが、そこはもちろん、【百鬼夜行シリーズ】ですので、下巻「宴の始末」の方でちゃんと憑物は落されます。

 

 


織作茜
今作の最後に収録されている「おとろし」は『格新婦の理』での黒幕で事件の犯人である織作茜での視点だとは上記したとおり。


『格新婦の理』での事件は茜が作ったシステムによってトータルで15人も亡くなる大事件で、茜自身が直接殺害した人も何人かいるのですが、茜の罪は明かされぬままで、警察に捕まるような事態にもなっていません。だからこそ語り手として登場する訳ですが。

 

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「おとろし」では事件のその後の茜の様子や心境の変化が描かれています。『格新婦の理』では事件の黒幕である茜の動機についてはハッキリとした形では提示されていないので、前作を読んだ人ならば、その後の茜の心情が描かれるというのは必見であります。
茜が『格新婦の理』の事件を起こしたのは
「あらゆる制度の呪縛から解き放たれ、個を貫き、己の居場所を獲得する」
ため。
全てを排除して“個”を、自分を確立させたいといったものだったのですが、事件から日が経って、茜のこの“自分探し”“居場所探し”はどうなったかというと・・・

 

――このからだが私だ。
自分探しなど糞食らえである。
精神と肉体は不可分なものなのだ。肉体的経験を積み重ねることが、即ち生きることである。非経験的なる観念を、先天的な真理と見做すことは幸福の獲得には繋がらない。肥大した観念は身体を苛めるだけなのだ。観念的な“個”と云う幻想をただ追い掛けて――。
結果、茜は襤褸襤褸になってしまった。
考えずとも幸せはここにあり、
求めずとも居場所はここにあった。
――このからだこそが私の居場所だ。
妹が逝って、母が逝って、家族が誰ひとり居なくなって、茜はそうしたことに漸く気が付いた。

 

てなことらしいです。
あれだけの事件を起こして、得られた考えは至極シンプル。反抗期から脱却して達観した人みたいな状態になっています。
「精神と肉体は不可分」というのはシリーズ二作目の魍魎の匣でも語られていたことですね↓

 

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この「おとろし」を読むと、茜はやはり聡明な女性なんだなというのが解ります。自分が死に追いやった家族の中でも葵のことを強く意識している事実や、中禅寺への複雑な感情なども明かされます。

茜は生前の妹とまともに議論したことなど、一度たりともなかった。妹だけではない。茜はだれとも言葉を闘わせずに生きてきたのだ。
ただ、ひとりの男を除いて――。

 

 

支度の完了
「おとろし」の終盤で、茜は殺害されてしまいます。そして、その犯人として関口巽が逮捕されたことが判明するところで宴の「支度」は完了する。


行われようとしているのはどの様な「宴」で、その「始末」はどうつけるのか。次作で下巻の『塗仏の宴 宴の始末』に全ては引き継がれます。
今作を読み終わったなら、そのままの勢いで次作へ急ぎましょう。シリーズ最大の興奮が待っています!

 

塗仏の宴 宴の支度(1)【電子百鬼夜行】
 

 

 

 

文庫版 塗仏の宴 宴の支度 (講談社文庫)

文庫版 塗仏の宴 宴の支度 (講談社文庫)

 

 


ではではまた~

 

 

 

 

 

『砂の器』原作小説・映画・ドラマ・・・違いを解説。意外とおかしい(?)松本清張の有名作~

こんばんは、紫栞です。
今回は松本清張砂の器について色々とまとめたいと思います。

砂の器 デジタルリマスター版

あらすじ
東京・国電蒲田操車場で男の扼殺死体が発見される。死体は線路を枕に仰向けに寝かされており、顔は判別が付かぬほどに潰されていた。
聞き込みにより、蒲田駅近くのトリスバーで被害者と思われる男と連れの客が話し込んでいたことが判明するが、被害者が東北訛りのズーズー弁だったこと、連れの客が「カメダは今も相変わらずでしょうね?」という言葉を発していたこと以外にめぼしい情報は得られず、捜査は被害者の身元も犯人と思われる連れの客の正体も見当がつかぬ八方塞がりとなる。
捜査本部は当初「カメダ」は人名だろうと広範囲な捜査を開始するが、ベテラン刑事の今西栄太郎は「カメダ」は地名で、秋田県にある「羽後亀田」近辺を指しているのではないかと指摘。若手刑事の吉村弘と共に彼の地に捜査に訪れるが、付近をあやしい男がうろついていたとの情報はあったものの、それ以上に有力な情報は得られずに捜査は芳しくない結果に終わった。

その後の必死の捜査も空しく、捜査本部は解散。だが今西は諦めきれず、他の事件の合間をぬって執拗に事件を追い続ける。今西の独自の調査によって少しずつだが捜査は進展し始めるが、事態を混乱させるように第二、第三の事件が発生し――。

 

 

 


時代をこえて話題になる名作
砂の器』は1960年~1961年にかけて新聞連載され、同年に光文社から刊行された長編小説。『点と線』

 

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ゼロの焦点などと同様、数ある清張作品の中でも特に著名な作品で各時代に何度も映像化され、その度に話題になる有名作です。
私は新潮文庫版で読んだのですが、上下巻にわかれていて2冊とも400ページ程あるので結構なボリュームの長編小説ですね。

 

砂の器(上) (新潮文庫)

砂の器(上) (新潮文庫)

 

 

本格推理小説と銘打たれていますが、探偵役が鋭い洞察と驚きの閃きでバーンと解決するといったものではなく、ベテラン刑事がわずかな手がかりから、とにかく足を使って粘り強い捜査をしていくことで少しずつ、確実に、真相が明かされていくといった実直な犯罪捜査ミステリ。それだけではなく、事件の根底・背景には深刻な社会問題が描かれているといった清張作品ではお馴染みの社会派ミステリでもあります。
方言に基づく捜査とハンセン病(作中では癩病と表記されています)が扱われているのが作品の特色で印象的な点ですね。

 

 

 

 

 

以下、犯人についてのネタバレあるのでご注意~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


映画・ドラマ
砂の器』は今までに映画が一本、テレビドラマが五本制作されています。そして今月、2019年3月28日にはフジテレビ開局60周年記念の単発ドラマとして放送が決定います。

映画
1974年 松竹株式会社・橋本プロダクション

 

砂の器 デジタルリマスター版
 

 

●今西栄太郎-丹波哲郎
●吉村弘-森田健作
●和賀英良-加藤剛

 

ドラマ


1962年 TBS系列(全2回)

●今西栄太郎-高松英郎
●吉村弘-月田昌也
●関川重雄-天知茂
●和賀英良-夏目俊二

 

 

1977年 フジテレビ系列(全6回)

 

砂の器 [DVD]

砂の器 [DVD]

 

 

●今西栄太郎-仲代達矢
吉田弘山本亘
●関川重雄-中尾彬
●和賀英良-田村正和

 

1991年 テレビ朝日系列(全1回)

 

砂の器 [VHS]

砂の器 [VHS]

 

 

●今西栄太郎-田中邦衛
●吉村弘-伊原剛志
●関川重雄-船越英一郎
●和賀英良-佐藤浩市

 

2004年 TBS系列(全11回)

 

 

●和賀英良-中居正広
●成瀬あさみ(ドラマオリジナルキャラクター)-松雪泰子
●関川-武田真治
●今西-渡辺謙

 

 

2011年 テレビ朝日系列(全2回)

 

 

●吉村弘-玉木宏
●山下洋子(ドラマオリジナルキャラクター)-中谷美紀
●今西栄太郎-小林薫
●和賀英良-佐々木蔵之介

 

 

放送予定
2019年 フジテレビ系列(全1回)
●今西栄太郎-東山紀之
●和賀英良-中島健人
●本浦千代吉-柄本明

 

こうやってみると、どの作品もそうそうたるメンバーが出演されていて驚きますね。

映像化作品が云々以前に、砂の器』という作品自体がここまでの有名作になっているのは1974年の映画の功績が大きいようです。その後のテレビドラマ作品は設定などをみると原作以上に映画の影響を強く受けている印象ですね。
今回原作を読み終わってこの記事を書く為に色々調べていたのですが、どこでも事あるごとに「とにかく映画を観ろ」という記述が散見していたので「そんなにアレなら観てみようか」と、気軽な感じでレンタルしてきて観たのですが、あまりにも良すぎる。

 

<あの頃映画> 砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]

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「名作とはいっても原作読んで筋知っているし、かなり昔の作品だし、楽しめるかな~」とか観る前は侮っていたのですが、感動して泣いてしまいました。

ラストの40分、「宿命」という組曲が演奏される中で犯人の幼少期の回想がセリフ無しで流され、描かれる部分が圧巻です。かなり大胆な脚本ですが、原作を損なうことなく良作に仕上がっている映画だと思います。その後のドラマ作品が影響を受けるのも納得ですね。「宿命」もシネマコンサートがされる程の名曲です。

私はリアルタイムで見ていたのは2004年の中居正広さん主演の連ドラと、2011年の玉木宏さん主演の単発ドラマですが、この時原作は未読でした。他作品は未視聴か観たとしても記憶に残ってないかですね(^_^;)

 

中居正広さん主演の連ドラの印象が強かったので、原作もてっきり倒叙形式のお話なんだと思っていたのですが(清張作品は犯罪者が主役のものが多いですし)、連ドラでは犯人視点をメインに作り替えがされていたということなんですね。
2011年の玉木宏さん主演のものは時代設定は原作のままですが、原作の今西刑事から若手刑事の吉村弘視点に変更されています。「なんで吉村君視点?」と、原作読んだ今としては思いますが、散々映像化されている作品だから新しい視点で描いて他作品と差をつけようって目論みだったのではないかと。テレビ朝日は清張作品をよくやっているイメージですね。

 

両作品とも、視点を替えているだけあって原作とは違うオリジナルキャラクターが登場したり、設定も大幅に変更されていますが、コレはコレで原作とは別で愉しめる作品になっていると思います。

2019年版は公式サイトによると、現在設定で事件はハロウィーン当日の渋谷なんだとか。「ハ、ハロウィ~ン?何故?」って感じですが・・・どうなることでしょう。他設定は原作よりも映画版の方に全面的に寄せていますね。

『点と線』ゼロの焦点は映像化するにしてもお話の都合上、原作の時代設定のままで展開されるものが殆どですが、『砂の器』は映像化の度に時代設定を現在に変更されているものが殆どとなります。

 


原作と映像化作品との違い
上記の映像化作品ですと和賀英良が犯人である前提が最初っから示されているものが殆どで、そういった犯人心理を描くお話なんだと思われている方も多いでしょうが(私がそうでした)、原作はこの前提部分がまず違います。


原作の大まかな流れは・・・
遺体が発見され「東北訛りのカメダ」を唯一の手がかりとしての警察の捜査が今西刑事視点で延々描かれる。
→合間合間に“ヌーボー・グループ”なる新進芸術家達の集団の一人である関川重雄の動向が描かれる。
→第二第三の事件が起き、ついには関川の愛人で妊娠していた三浦恵美子も流産の果てに死亡する。
→今西は被害者が立ち寄った映画館で加賀英良の写った写真を発見する。
→今西が捜査会議で捜査の末判明した加賀の本名と素性を説明。加賀を犯人として逮捕状を請求する。
→渡米のため皆に華々しく送り出された和賀だが、空港で逮捕状を突き付けられ、今西、吉村の手によって連行される。

完。

と、いった流れでして。小説の大部分は今西の視点で描かれており、思わせ振りに愛人とのやり取りなどが挿入されている関川重雄が犯人であるかのように読者をミスリードしますが、結果的には関川が度々意識して陰口を叩いていた加賀英良が犯人でした。と、いう読者の意表を突くストーリー展開となっています。

 

映像化作品ですとそもそも関川重雄とその周辺人物自体がカットされ、原作にあるようなミスリードの手法も放棄されていることが多いです。
映像化作品と原作でなぜこんなに乖離しているのかというと、やはり1974年の映画の存在が大きいと思われます。

原作は長大作ですので、映画の時間内で全ての内容をやるのは不可能。原作ではほんの数行書かれているだけの加賀の過去「父・本浦千代吉との遍路の旅路」を主軸にお話は作り替えられ、簡略化されて、映画として観るのに最適でストレートな構成になっています。なので、この映画では話を複雑にしている新進芸術家集団・“ヌーボー・グループ”や関川重雄は登場せず、第二第三の事件もカット。あくまで「東北訛りのカメダ」を手がかりにした今西刑事の捜査過程と、和賀の動向のみが描かれています。

 

“不運な境遇から脱却しようともがき、虚構を作り上げて必死の思いでやっと成功をつかみかけている人間が、突如現われた“過去”を葬るために殺人を犯してしまう“といったテーマが創作意欲をかき立てるのか、映画の後続作品は和賀の生い立ちを色々な角度から突っ込んで描写しようと試みられています。

 

 

 

 

 

以下、さらに突っ込んだネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ハンセン病
原作での加賀の犯行理由というのは、ハンセン病を患っていた人間の息子だという過去を葬り去るためのもの。自分が「本浦秀夫」だった頃のことを唯一知っているかつての恩人を、秘密を守るために殺害してしまいます。
今でこそ“ハンセン病”“癩病”と言われてもピンと来ませんが、かつてこの病気は「業病」(前世の悪行の報いでかかるとされた病)とされ、隔離されたり村八分にされたりと酷い差別を受けていました。家族にハンセン病患者がいるというだけで差別の対象にされたのです。
加賀(本浦秀夫)の父・本浦千代吉ハンセン病になり、妻に離縁され、村を追われ、引き取った六つの息子・秀夫を連れて信仰をかね、遍路姿で流浪の旅に出ます。
旅の途中でこの親子の様子をみかね、巡査だった三木謙一は千代吉を病院に入れ、秀夫を引き取って育てようとするものの、秀夫は三木の元を飛び出して行方知れずに。その後、戦中のどさくさを利用して偽の戸籍と「加賀英良」という名前を手に入れ、前衛音楽家となります。名声を得、政治家の娘との結婚も決まり、順風満帆だったところにかつての恩人・三木が現われ、偽の経歴と今の名声を守るため殺害するに至るという訳です。

 

原作は本当にこういった事実が今西の口から捜査会議で説明として語られるだけで、父親の本浦千代吉も既に死んでいる設定であり、三木はただ昔を懐かしんで訪ねてきただけとなっていますが、映画だと千代吉がまだ生きていて、三木は秀夫と父親をどうしても会わせたいと躍起になっていたため殺害されたことになっています。
原作と違い、映画は遍路の旅路の最中、差別に晒される中での親子の絆がこれでもかと描かれ涙を誘ってくるため、この殺害動機の微妙な違いが深々と心に突き刺さってきます。
慕っていた父との過去を自分の名前と共に捨て、過去を振り切るために虚構でも虚しくとも成功に向かって突き進んでいくしかなかった和賀にとっては、父に会うことはどうしても避けなければいけないことだった。たとえどんなに会いたくとも。
しかし、このような和賀の心情は三木のように何よりも情を重んじて生きてきた人間にとっては理解出来るものではなく、悲劇が起こってしまう。なんともやるせない話ですね。
原作には無い千代吉の登場シーンでの、和賀の写真を見せられ秀夫の面影を見つけるも秀夫を庇うために「こんな男は知らない」と泣きながら言うところと、最後に今西刑事が「彼はもう音楽の中でしか父親に会うことは出来ないんだ」と言うのがなんとも悲しい。

 

こういった感動ややるせなさは“ハンセン病患者の苦悩と差別”という点をなくしては成立しないと思われますが、映画以外のドラマ作品ですと、この千代吉のハンセン病設定は全て変更されてしまっています。
ハンセン病はデリケートな部分を多く孕んでおり、特効薬が出来て完治する病気となっても作品で扱うのはどこかタブー視されているようです。原作で事件背景として取り入れたのも当時は大きく話題になり、映画化のさいも抗議の声が上がったのだとか。そのため、ドラマ作品ではどれも設定が変更になってしまうんですかね。まぁ、現在設定だと病気をしてお遍路しているというのは時代にそぐわないので、変更は当たり前かなとも思いますが。(今度の2019年版もおそらくハンセン病の設定は変更されているんじゃないかと思います)
しかし、変更のために千代吉が犯罪者で逃亡していた設定にされるのは原作や映画を知る人間からするとやっぱり釈然としませんね。

 

ドラマの設定変更に対しての抗議や、原作や映画に対しても「ハンセン病が表面的にしか描かれていない」とのコメントも結構見ますが、『砂の器』は別にハンセン病を描こうとしている作品ではなく、あくまで当時の社会事情として取り入れているだけなので、あんまり声高に病気のことばかり指摘するのは何か違うかなとも思います。

 

 

おかしい
実はこの小説、結構おかしい点というか、何がしたいんだかよく解らなくってご都合主義なところが多いんですよね。
まず、犯行時に着ていた血の付いたシャツの処分を愛人に頼むのですが、この愛人、どうやって処分するのかというとシャツを細かく切って紙切れみたいな状態にして汽車の窓からばらまくんですよね。で、その様子を新聞のコラムに書かれて、その記事を読んだ今西が線路を歩いて探し回り、やっとの思いで血痕が付いたシャツの切れ端を発見するという流れ。


シャツの処分を愛人に頼むのも変ですし、そんな処分の仕方をすること自体がかなりおかしい。美人が汽車の窓から紙切れのようなものをばらまき、それが風に散って紙吹雪となるというのは、画を想像するとなんとも情緒的ですが、ちょっとロマンチストが過ぎる。この愛人はそういう感傷的なことがしたい気分だったってことなんですかね?複雑な心境に陥っている愛人に証拠隠滅なんて頼むべきじゃないとつくづく感じますね。


今西も今西で、どうしてこの記事を読んで事件と関係しているのではないかと疑うのか甚だ疑問。この記事を読んで「愛人が証拠を処分したんだ!」なんて発想に、何故、なるのか。

今西の妹のアパートに引っ越してきた女性が犯人の愛人なのではないかと結びつけるのも、どこをどう結びつけてそんな考えに行着くのか解らない。そもそも、何でまた都合良く越してくるのか。

直感が鋭いとかを通り越して、霊能者なんじゃってな勢いです。

 

第二第三の事件ですが、前衛音楽家である和賀が技術を利用し、超音波を聴かせて心臓が弱い人間や妊婦を死に追いやるといった奇抜な方法で殺害しています(妊婦は関川の愛人で、関川に頼まれて流産させようとしたら結果的に死んでしまったのですが。関川、本当に酷い男だなぁ)。
コレがですね、読んでいると「なにか変なこと言い始めたぞ」と、当惑してしまうんですよね。「どうした??」と。まぁ超音波聴かされ続ければ具合も悪くなるでしょうけど・・・・・・う~ん(^^;)
最新技術を駆使しての犯罪というのを盛込みたかったらしいですが、第一の事件の「カメダ」の情報だけを頼りにした今西刑事の足を使ったクラシカルな捜査と、このハイテク(?)な方法の第二第三の事件はかみ合わなすぎてどうしても異質に見えます。第二第三の事件があるせいで犯人の和賀にも同情出来なくなりますし、やるなら別作品にすれば良かったのに・・・と素人ながら思ってしまいます。

 

映画は原作でのこういった不自然な部分がほぼ無しになっている構成ですね。超音波云々が無いので、和賀の職業は原作の前衛音楽家からピアニストの作曲家に変更されています。映画以降のドラマ作品でも超音波云々は省かれ、和賀の職業も映画の設定を引き継いでピアニストになっていますね。まぁ、その方が感動や共感は得られやすいですからねぇ・・・。

 


意欲作
話の纏まりが良く、感動するのは原作よりも映画の方ではありますが、原作は感動させることが目的の物語として書かれているものではないので、この違いは当然のものです。

原作は非常に意欲的な小説だと思います。当時実際にあった前衛芸術集団をモデルに“ヌーボー・グループ”を登場させて皮肉ったり、最新技術の装置をトリックに使ったり、きわどい題材を動機に盛込んだり。今までにない小説を書いてやろうという著者の意気込みを感じますね。

 

個人的に映画観て感動したばかりなので、なんだか映画の事ばかり書いてしまいましたが(^_^;)
原作も勿論面白いです。今西刑事の、前進したと思ったら振り出しに戻るもどかしい捜査で少しずつ解っていく真相、予想がつかない展開と、二転三転する事実などなど、長大な作品ですが最後まで飽きずに読ませてくれる名作ミステリです。

 

まずは小説と映画の両方に触れて違いを楽しみ、気に入ったなら他のドラマ作品も観て・・・と、楽しみを広げていって欲しいです。『砂の器』というタイトルの意味も読みながら、観ながら、想いをめぐらして感慨に耽るのが良いかと。タイトルの意味がより強調されているのはやっぱり映画の方ですかね。※ちなみに、原作では映画のように物理的に砂で器を作るシーンは出て来ません。

 

とにかく、小説と映画は必須!

 

 

砂の器(上) (新潮文庫)

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砂の器 デジタルリマスター版
 

 


ではではまた~

 

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『金田一37歳の事件簿』3巻 ネタバレ・感想 「ワカメ頭」登場~

こんばんは、紫栞です。
今回は金田一37歳の事件簿』3巻、発売されました~。あらすじ・内容・読んでみての感想など、簡単に紹介したいと思います。

金田一37歳の事件簿(3) (イブニングKC)

 

1巻2巻同様、今回も限定版と通常版の二形態での刊行。3巻までくると、もうずっとこのまま二形態での刊行なんじゃないかって気がしてきましたね。
オレンジの方が通常版(680円)、

 

金田一37歳の事件簿(3) (イブニングKC)

金田一37歳の事件簿(3) (イブニングKC)

 

 

限定版は紫で(1998円)

 

 3巻の限定版は
●「容疑者になれる権」応募専用ハガキ
●「高遠遙一クリアファイル」
●「特製ステーショナリーケース」
の三大特典付き。
今回、限定版には結構な大きさの箱が付いているので通常版と間違えて買う心配とかはないかなと思います。
それはそうと、値段がお高い。ほぼ二千円ですよ。特典内容をみるとそんなにたいしたものは入っていなさそうなんですが・・・(私が買ったのは通常版なので、ちゃんとモノを見たわけじゃないから何とも言えませんけど)

「容疑者になれる権」は1巻の特装版にも付いていましたね。

 

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今回は第二弾。そういや、1巻の「容疑者になれる権」の当選結果は?とか思ったんですが、結果は第三シーズン(つまり三つ目の事件)でとのことらしいので、コミックスだと結果がわかるのは次巻の4巻ですね。


通常版・限定版とも2月22日同時発売。私の住んでいるところは地方なのでコミックスや雑誌は一日遅れで入荷されることがほとんどなのですが、何故か限定版だけ22日に店頭に並んでいました。店員さんに聞いてみたら「通常版が入ってくるのは明日です」と言われ「あ、そうなんですね~」と返答しつつも内心「え?なんで?」って感じだった(笑)地方の不思議。

 

 

「タワマンマダム殺人事件」あらすじ
隣人の森下桃香に頼まれて会社の後輩・葉山まりんと一緒にタワーマンションでのケータリングの手伝いに来た金田一。しかし、前日までうるさく注文を付けていたケータリングの依頼主・美咲雛がパーティの当日になって姿が見えない。
美咲は同じタワーマンションの友人、姉小路牧子・九条美音子・園森紗英の三人に身ぐるみを剥がされ、猿ぐつわをされ手足を縛られて監禁されていた。美咲の友人であるはずの三人はこれから何をしようというのか。華やかなパーティの裏で恐ろしい犯罪計画が動き出す――。

 

 

 

 

 

 


倒叙
今巻は前巻に1話収録されていた

 

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「タワマンマダム殺人事件」で1冊占められています。お話としてはいわゆる倒叙モノで、最初っから犯人が明かされていて、犯人視点で金田一との攻防戦が描かれています。“コロンボ形式”と言えばわかりやすいですかね。
作品雰囲気は金田一少年の事件簿短編集収録の「殺人レストラン」と、

 

 

 「女医の奇妙な企み」

 

 に似ているかと。

犯人が金田一に突き詰められてオロオロする様子がギャグテイスト強めで描かれています。


元々個人的に短編の「殺人レストラン」「女医の奇妙な企み」がお気に入りなので今巻は全体的には楽しく読めたのですが、まぁちょっと長いですね。2巻の第1話を読んだときはてっきり短めのお話だと思っていたので、1冊以上使うのには驚きました。しかもこの巻では完全に終わらず、動機面の詳細が次巻に持ち越しです。一つの事件で巻を二つ跨ぐのはちょっと頂けないよなぁと思っちゃいますね。残りはあと1話だったんだろうし、何とか出来なかったのかってな気が。
倒叙モノは短編によく用いられる手法なので余計にお話が間延びしているように感じてしまうかと。犯人たちも小者感が漂っていますし、高遠さん絡みでもないからやっぱり“一休み”の印象が強いので「一休みだと思ったら長いな・・・」という驚きと意外性。

 

 


登場キャラクター
今作では【金田一少年の事件簿】からのお馴染みキャラクターとして真壁誠が出て来ます。ワカメ頭のミス研部員・真壁先輩ですね。なんと刑事さんになっている。意外。やっぱり小説はスッパリ諦めたんですね(まぁ自分が書いていたんじゃないしね・・・)「学園七不思議殺人事件」

 

 

で初登場のときはそれはそれは嫌な奴でひたすら気持ち悪い真壁先輩でしたが、今作では結構まともに刑事さんやっています。ざっくばらんで比較的物わかりも融通も利くので、読んでいてストレスになりません(笑)。白金署勤務とのことですが、剣持のオッサンはもう退職しているし、明智さんは階級が警視長にまでなってしまっているから、今後別の事件でも真壁先輩は登場するかもしれないですね。
真壁先輩といえば、鷹島さんとはどうなったんですかね?「学園七不思議殺人事件」の最後で金田一「あいつはもう鷹島から一生はなれられないんじゃないかな」とか言われていましたが・・・。もし今後鷹島さんについての事柄が出て来たら楽しそうですね。期待したいところです(^^)

他は今作では高校時代の馴染みの方々は出て来ませんね。隣人の森下さんとまりんちゃんがいるだけ。でもこの二人も今作は犯人視点が多いのでお話に登場している印象は薄いです。この二人はやっぱり金田一に気があるんでしょうか・・・。美雪の話が出たとき微妙な表情していましたが・・・。
予想通り、今作ではやっぱり美雪についての新事実などは出て来ませんでしたね。はぁ~・・・(-_-)

 

 

 

 


以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 


ハイテク・古典
事件についてですが、前作同様にギャグテイスト強めで面白いは面白いんですが、やっぱり動機面までギャグっぽくされるのは抵抗がありますね。今回は浮気だなんだで“モロ”な絵も出て来るんですが、まぁ下品です。これは青年誌掲載なのを意識してなんですかね。裸描けば良いってもんじゃないと思いますが。昔の妖しげで艶っぽい絵柄と人間関係の設定が恋しい・・・。

美咲の浮気相手、インストラクターの悠也先生ですが、美咲の部屋からジャケット引っ張り出して「これ僕のジャケットなんですよ~~」と言うのにはビックリしました。「ですよ~~」って、馬鹿か。不倫相手ですと宣言しているようなもんだし、続くいい訳も下手くそ過ぎる。真壁の「ハイ不倫っ!!自白取れましたー!!!」が笑えました。
ビックリしたといえば、ゴキブリわしづかみにするのは衝撃的でした「ぎゃああ~~!!」ですね。


トリックですが、変装のときに一回カメラに写っているスカーフを使うのはいくらなんでも迂闊。スーツケースを「内側からうまい具合に閉じた」という一ちゃんのセリフがぼかしまくりの言い方で何だか可笑しい。

3Dプリンターを使う点などは“今どき”で、犯人も昭和ミステリは今の時代の推理には意味がないとか金田一耕助を揶揄するような物言いをしていましたけど、メイントリックはかなりの古典でしたね。それこそ科学捜査とかすればすぐバレちゃうじゃん、みたいな。自殺でかたづけられて検視とかされなければ大丈夫だと思っていたってことなんですかね。

しかし、推理に対して現在後ろ向きな一ちゃんも、やっぱりジッチャンの事馬鹿にされるのは我慢できない模様でなんか嬉しい。まぁ名にかけまくってきたからなぁ(^^;)前回の事件よりもキリッとした推理シーンで高校時代っぽかったですね。この方がやっぱり好き。

 

 


空白の20年間に何があったのかとか、美雪のことや高遠さん関連のことが気になるのは勿論ですが、理由はともかくとして一ちゃんにはまた推理への自信ややる気を取り戻して欲しいというのが第一としてあるので、これから徐々に調子を取り戻していく過程も楽しみに次巻を待ちたいと思います。

第4巻は2019年6月発売予定とのこと。


ではではまた~

 

 

 

 

秘密-トップ・シークレット3巻「チャッピー連続殺人事件」あらすじ ネタバレ

こんばんは、紫栞です。
今回は清水玲子さんの『秘密-トップ・シークレット』

 

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3巻に収録の土屋雅紀殺人事件/チャッピー連続殺人事件」をご紹介。

新装版 秘密 THE TOP SECRET 3 (花とゆめCOMICS)

 

あらすじ
2061年8月。有名私立大生の土屋雅紀の他殺体が白泉公園で発見される。遺体は左手左足が粉々に粉砕され、全身の皮を剥がれたうえ首を落された凄惨な状態のものだった。
「第九」MRI捜査されることとなり、被害者の脳映像を確認したところ、犯人は「チャッピー」という動物公園のキャラクターの着ぐるみ姿で犯行に及んでいた。さらに、被害者は生前に「5年前の死神がおまえをむかえにいく」「5年前に一体何を見た?」などの脅迫めいた手紙やメールを受け取っており、MRIで5年前の映像も確認したところ、被害者が2056年8月に進学塾の合宿中に殺人事件を目撃していたことが判明。その犯人も「チャッピー」の着ぐるみ姿で凶行に及んでおり、少なくとも4人以上の子供を殺害していた。
しかし、このような事件が報告された事実はない。土屋を含め事件を目撃したのは6人の学生。彼等は何故事件を通報しなかったのか?
土屋の葬儀後、目撃者である他5人は皆行方不明となる。

その目撃者のうちの4人、片岡・石崎・境・竹内は、同じく目撃者の1人の西澤に呼び出され、悪天候のなか山奥の廃墟に集められていた。そこで4人は冷蔵庫から西澤の皮剥遺体を発見する。この状況は5年前の事件と類似していた。山を降りようとする4人だが、車が何者かの手によって破壊されていて――。

 

 

 

 

 

 

 

 

サスペンス
3巻は土屋雅紀殺人事件/チャッピー連続殺人事件」と短編読み切りの「不思議な秘密」清水玲子先生による“脳”解説(?)「現実の秘密」が収録されています。シリーズの中でもページ数が多くって、280ページほどある大ボリューム。このシリーズはコミックスにする際はページ数関係なく事件を丸々収録してくれるところが良いですね。

「チャッピー連続殺人事件」は「第九」の事件捜査の過程と片岡ら閉じ込められた4人の様子が並行して描かれる物語構成になっています。薪さんら「第九」の捜査で5年前の事件の詳細が明らかになっていく過程も勿論面白いですが、片岡たち4人がクローズド・サークルちっくに閉じ込められ、得体の知れない犯人に怯えながら精神的に追い詰められて戦々兢々としていく描写が凄く面白いです。シリーズの中でもサスペンス色が強い事件ですね。

着ぐるみ姿の犯人や過去に罪のある者達が悪天候で交通手段が断たれ、閉じ込められたところに事件が起こるなど、舞台設定はミステリの王道そのものですが(近未来SF漫画だってこと忘れるくらいにね・・・)、後半の真相部分はこのシリーズならではの“秘密”にどっぷりとまつわるもので「ベタだけど特徴的」な感じ。美人でミステリアスな犯人も出て来て、個人的にも特に好きな作品です。

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


自己保身
5年前、片岡たち6人の学生が事件を通報しなかったのは、合宿最終日でハメを外し、夜遊びをしてドラッグ、アルコール、タバコ等を大量摂取していたから。バレれば受験はダメになるという自己保身のため。
今回、片岡たち4人を閉じ込めた犯人は5年前の被害者の子供の一人である篠崎佳人。5年前の加害者である大倉正が自分に抱いている愛情を利用して今回の犯罪計画を実行しています。


片岡たちは逃げる途中で「たすけて」という子供を聞いたにも関わらず、子供たちよりも受験を控えた自分たちの将来の方が大事で見殺しにした。結果、片岡たちが去った後に佳人は被害を受け、一緒に捕まっていた佳人の妹・香里は殺された。「あのとき通報してくれていれば・・・」と、佳人は片岡たちに復讐をする訳です。
片岡たちは直接殺害に関わった訳ではない。しかし、自己保身のために子供を見殺しにして、その後はバレないことに安堵し、“あの夜のこと”を忘れて何事もなかったように有名大学に通っている。これは当事者からしてみれば実際に手を下した犯人と同等、ひょっとしたらそれ以上に罪深く思えるんじゃないかと思いますね。「助かるかも」という希望を抱いたぶん、切り捨てられたショックは大きいでしょうし、無関係を装って忘れようとしている行為はとても許せることじゃないでしょう。

 

 


女・男
黒幕の佳人ですが、「チャッピー」の着ぐるみの仕事をしているときは男性として働いていますが、5年ぶりに母親に電話する場面や片岡の妹に接触するときなどは女性として、亡くなった妹の香里として振る舞っています。終盤までずっと男なのか女なのかわからないままお話が進んでいきまして、読み手としては「なんで性別があやふやな描写なのか」と疑問を抱くのですが、最後にはこれらの疑問がすべて繋がる結末・“秘密”が用意されています。佳人の声が高いのも伏線になっていますね。


佳人がこのような事件を起こしたのは、復讐は勿論ですが自分が5年前に“されたこと”の秘密を知る者をすべて葬り去ることも目的。

せっかく生きのびて逃げられたのに、一番に帰りたい両親のもとに帰れないというのはあまりにも辛すぎますね。最後、両親に知られる前に死のうとする佳人に嘘をついて必死で止める青木との場面が何とも印象的。薪さんがその嘘にのって佳人の自尊心を守る為に証拠を改ざんするのもまた感慨深いです。

 

しかし、作中で佳人の髪の毛が短くなったり長くなったりしていたのは何故なんでしょうか?かつらなのかな?
あと、絵柄の問題なんでしょうけど、佳人と薪さんの顔が似ていますよね!(1巻のマシュー・ハーヴェイにも似ていましたけどね・・・^^;)

 

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青木の「もしかしてオレ今両手に花?」が可笑しいです。公園の名前とかゴリラのところとか小ネタが多いですね。

 

 


ラスト
物語の最後は事件のその後の経過が箇条書きで綴られています。
佳人の処分は「医療少年院送致」に決定しますが、両親とも嫌がらせをうけて引っ越しを余儀なくされたり、被害者の大学生たちの親が損害賠償請求をしたりと、やり切れない顛末が箇条書きで淡泊に書かれているところがもの凄いリアリティを感じさせますね。簡単に割り切れるものではないというか。佳人の側からの視点で描かれているから肯定的にみてしまいますけど、大学生の親族からすれば復讐の仕方が苛烈過ぎると感じるだろうし、これだけの罪を犯した犯人が「医療少年院送致」では納得いかないし許せないと思うのは当然ですよね。
世間では事件は忘れ去られるが、当事者達の間ではいつまでも恨み辛みが繰り返される。どこまでもやり切れないですね。

 

 


おまけ
この「チャッピー連続殺人事件」の後に収録されている読み切り「不思議な秘密」は心霊現象を扱っているお話で完全に「耳袋」的怪談話で怖いです。夜に薄暗い建物の中でMRI映像を見るってよくよく考えるとめっちゃ怖い状況ですね(^^;)短いお話ですが“よく出来た話”で作者の技量を感じます。最後に2巻の天地のことが少し出て来ますね。

 

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作者のページ(?)な「現実の秘密」も面白いですので必見。作者のページは毎巻あればいいのになぁ~。「秘密」はこの巻以降はこういったものが収録されていないので残念です。清水先生のお話ユーモアもあって面白いんですけどねぇ。

 

 

 

 

3巻収録のお話はシリーズ全体の伏線に絡むようなものではないですが、単純に物語りとして、サスペンスとして面白いので気になった方は是非是非。

 

 

 

 

 

新装版 秘密 THE TOP SECRET 3 (花とゆめCOMICS)

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ではではまた~

 

 

 

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『ダイイング・アイ』原作小説のあらすじ・ネタバレ

こんばんは、紫栞です。
今回は東野圭吾さんの『ダイイング・アイ』をご紹介。

ダイイング・アイ (光文社文庫 ひ 6-11)

2019年3月からWOWOWで放送予定の連続ドラマの原作小説です。

 

あらすじ
許さない、恨み抜いてやる、たとえ肉体が滅びても――。
雨村慎介は「茗荷」という店で働くバーテンダー。ある日、仕事帰りに何者かに頭を殴打されて重傷を負ってしまう。二日後に病院で目を覚ますが、頭に損傷を負ったせいか“ある記憶”の一部が欠落してしまっていることに気付く。“ある記憶”とは1年半前に自らが運転する車で死亡事故を起こしたことだった。慎介は現在執行猶予中の身だったのだ。
慎介を襲った人物はその事故の被害者・岸中美菜絵の夫でマネキン制作会社勤務の岸中玲二だったことが判明。だが警察がつきとめたとき、岸中玲二はすでに自宅で服毒自殺をしていた。
退院し、事故について断片的には思い出せたものの、肝心の事故を起こした瞬間の記憶はどうしても思い出せない慎介。
自分は何故、事故のことだけ忘れてしまったのか――。
周りに事故についての詳細を聞くうち、自分の運転や行動に疑問を感じた慎介は事故のことについて独自に調べ始める。
そんな中、慎介の前に喪服姿の妖しい魅力に満ちた謎の女が現われ、慎介は次第にこの女に溺れていくが、女の顔は岸中玲二が妻に似せて作ったマネキンに瓜二つだった。
果たしてこの女は何者で、何が目的で慎介に近づいてきたのか?そして、事故の真相は?

 

 

 

 

 


東野圭吾のホラー小説
大人気作家なだけあって作品の映像化数が凄まじい東野圭吾作品。最近は書けば遅かれ早かれ全て映像化されるのではないかといった勢いですよね(^^;)。
この『ダイイング・アイ』は2007年刊行で十年以上前の作品。ドラマの公式サイトの東野さんのコメントによると「『ダイイング・アイ』は扱っている題材からして、まずそういう話(映像化の話)は来ないだろうと予想しておりました」とのこと。ドラマ化と、この東野さんのコメントが気になったので読んでみた次第です。


今作なんですが、ネットで調べると「ハードサスペンス」と説明されています。ハードな、サスペンス・・・かぁ・・・といった感じですが、読み終わっての率直な感想としては「ホラー小説」ですね。
謎が明かされていく過程は一般的な東野圭吾ミステリとして十分楽しませてくれますが、お話の根本はホラーそのもの。結末も途中の場面も色々と怖いです。東野圭吾作品でこういったものは読んだことがなかったので新鮮でしたね。
登場人物達が悪人ばかりというのも東野圭吾作品では珍しいなと思いました(全著作を読んでいる訳ではないのでハッキリとは言えませんが)。前にこのブログで紹介した乾くるみさんの『リピート』と同じように、

 

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『ダイイング・アイ』では人間の欲深さ、浅ましさなどを描くのが主題なんだと思います。

 


ドラマ
3月からの連続ドラマWでのキャストは以下の通り

雨村慎介三浦春馬
岸中美菜絵/瑠璃子高橋メアリージュン
村上成美松本まりか
岸中玲二柿澤勇人
岡部義幸小野塚勇人
木内春彦淵上泰史
小塚洋平木村祐一
小野千都子堀内敬子
江島光一生瀬勝久

 

最初に映像化を知ったときは映画なのかと勘違いしましたが、こちらはWOWOWでの全6話編成の連続ドラマ。原作は400ページちょっとのボリュームなので6話編成は丁度良いのではないかと思います。


主人公の雨村慎介は原作では感傷的だったりドライだったり悪人な部分もあったりと、結構一筋縄ではいかない人物ですので、三浦春馬さんがどんな風に演じるのか見物ですね。バーテンダー姿も楽しみです(^^)
原作にはアイリッシュクリーム」を始めとして数々のカクテルが出て来ますので、カクテル好きな人には観ていて愉しめるんじゃないかと思います。

 

主演はもちろんですが、原作を読んだ人間ならまず気になるのは「瑠璃子役」は誰がするのかですね。これは高橋メアリージュンさんが岸中美菜絵との一人二役で演じられるそうです。瑠璃子は原作だと妖艶で大胆なシーンが多いのでドラマではどの様に描かれるのか気になるところですね。
映像としては大量のマネキンをどの様に映すのかも見所なんじゃないかと。妖しげで魅惑的な映像に期待です。

 

 

 

 


以下がっつりとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


“ダイイング・アイ” 意味
タイトルの「ダイイング・アイ」というのはミステリによく出て来る「ダイイング・メッセージ」から採ったものだと思います。
通常の「ダイイング・メッセージ」とは死亡した被害者が死の間際に残すメッセージのこと。
この『ダイイング・アイ』ではプロローグで車の死亡事故の被害者・岸中美菜絵視点で美奈子が事故に遭い、死ぬまでの瞬間が描かれています。美菜絵は車にぶつけられて飛ばされた後、壁と車に挟まれるのですが、今死ぬといったまさにその瞬間、恨みのこもった目で車の運転手を睨みつけます。

美菜絵の目は、真っ直ぐに前に向けられていた。彼女の身体を押し潰した車を運転している人間の顔に、だった。
許さない、恨み抜いてやる、たとえ肉体が滅びても――。

身体が潰されて骨が折れ、内臓が次々破裂する様子や、走馬灯のように美菜絵が今までの自分の人生、まだまだ続くはずだった夫との幸福な日常に想いをめぐらせる部分など、これらの描写が相まってこのシーンは読者に強烈な印象を与えています。
今作のタイトル「ダイイング・アイ」とは、この美菜絵の“死に際の恨みのこもった眼光”のこと。美菜絵は眼光によってこの世に恨みを残して逝き、眼光を向けられたことで、この“恨み”を受け継いだ“ある人物“が事件を引き起こしていくのがこのお話。

 

 


事故
今作では「交通事故による加害者側の責任意識の低さ」が題材になっています。
美菜絵が死んだ交通事故の加害者は二人で、慎介と木内春彦。最初に美菜絵にぶつかったのは慎介が運転していた車で、その車に進路妨害をされた結果、ハンドルをきりそこねて美菜絵を押し潰したのは木内が運転していた車。
しかし、実際に車を運転していたのは慎介が勤めていた店のオーナーの江島光一と、木内の婚約者で社長令嬢である上原ミドリ
慎介は三千万円と引き替えに、木内は飲酒をしていた婚約者を庇って身代わりを引き受けたというのが事件の真相。慎介が事故を起こした瞬間のことを思い出せなかったのは、実際に車を運転していたのが自分じゃなかったからなんですね。

 

お金や立場があるとはいえ、慎介も木内も何故簡単に身代わりを引き受けたのかというと、実刑が下らないだろうことがわかっていたから。

人が一人死んでいても、交通事故によって加害者側に下される罪状は軽いもの。加害者が二人いるというのも両者に「直接被害者を死亡させたのはあちらだ」「事故原因を作ったのは向こうだ」と、いった具合に罪悪感は薄まってしまう。加害者の一人である江島は「一年間に交通事故で死んでいる人数は約一万人。サイコロの目みたいなもので、たまたま悪い目が出てしまったというだけ。運が悪かっただけ。こっちだって被害者だ」という風に思っています。

年間一万人の交通事故死者がいるということは、それに近い数の加害者も存在するはずだ。彼等はたぶん以外に軽い量刑にほっとしながらも、ただひたすら自分に起きた災いを忘れようとしているのだろう。そして加害者が忘れることで、被害者は二重に傷つけられる。

忘れることなど出来ない被害者側としては、加害者側のこういった態度はあまりにも無責任に見えるはず。被害者側と加害者側での認識の落差が激しいのが交通事故の問題点で悲痛なところなんですね。

 

 

 

 

モヤモヤ・考察
「瑠璃子」の正体は手術で美菜絵の顔に似せた上原ミドリ。直接美菜絵を押し潰した車を運転していたミドリは、死に際の美菜絵に睨みつけられたことで気が触れてしまい、自分自身が被害者の美菜絵であるかのように振る舞い(または眼光によって美菜絵の想いが乗り移って本当に美菜絵自身になっていたのか)、慎介に近づいてきたのも“美菜絵として”慎介に復讐するため・・・・・・らしい。
お話の要となる部分なんですが、コレが何というか~・・・どうもよくわからない(^^;)

 

璃子(ミドリ)は慎介に思わせ振りに接触。その度に積極的に性行為を求め、慎介をマンションに監禁までしますが、何故か殺そうとはしない。妊娠することが目的だと受け取れる言動がありますが、それに続く言葉は「やめさせたいなら私を殺して」というもので、殺させてミドリが味わった苦しみを同じ加害者の一人である慎介に追体験させるのが目的なのかな?とは思うんですけど、妊娠しようとした動機はよくわからないですね。必要ないとも感じますし。
終盤で瑠璃子(ミドリ)は本当の加害者の一人は慎介ではなく江島だと知って、江島に自分を殺させる訳ですが、江島には
「そうして今度こそ忘れないで。あなたがわたしを殺したということを。あなたが殺した女の顔を、女の目を」
と言い放ち、江島は逮捕後に「女の目がいつも自分を見ている」と怯えて発作的に両目を自分で潰して失明。
“忘れることは許さない”というのが、瑠璃子が考えていた殺す以上の復讐なんですよね、やっぱり。妊娠しようとしたのはより忘れられなくする為の後押しというか嫌がらせだったのでしょうか。

 

そもそも、瑠璃子が見つめるだけで相手の身体が動かなくなったり、行動を誘導されたりするのにはカラクリがなく、ただ摩訶不思議な力だというのはミステリだと思って読んでいた読者としては拍子抜けでモヤモヤしてしまいます。「催眠術みたいなもの」と出て来ますが、催眠術にかかる状況も作らないで、見つめるだけで身体が動かなくなるというのは催眠術ではなくって、もはやただの魔法ですよね。推理小説として読んでいたのにそれはちょっと・・・。
まぁ拍子抜けしてしまうのは東野圭吾作品だからミステリ的カラクリにより期待しちゃうというのもあると思いますが。「ホラーならホラーと言っておいてよ」と言いたくはなりましたね。


他にも慎介の彼女である成美の行動は突拍子もなくって解せないですね。あんなに健気に慎介に尽くしているように描かれてしたのに金を持ち逃げ、あげく欲が出て江島にさらにせびりに行くとは・・・。失踪した後は作中に登場しないまま「殺されたんだろう」という憶測で終わりだし、色々と残念です。
刑事の小塚さんが知らない間に殺されてしまっていたのもショックでした。事件自体には直接関係なくって、作中では唯一の善人だくらいの人だったのに・・・(-_-)

 

 


最後に
色々とモヤモヤはしますが、ホラー小説なんだと思えばこのモヤモヤ感も納得出来るものだと思います。
謎を紐解いていく過程やスリリングな展開は文句なしで面白く、ぐいぐい読ませてくれる一気読み必須の本なので、気になった方は是非是非。

 

ダイイング・アイ (光文社文庫 ひ 6-11)

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ではではまた~

 

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『ダリの繭』(作家アリスシリーズ) あらすじ・ネタバレ感想

こんばんは、紫栞です。
今回は有栖川有栖さんの『ダリの繭』をご紹介。

ダリの繭 「火村英生」シリーズ (角川文庫)

あらすじ
推理作家の有栖川有栖は自身の最新作の完成と、犯罪学者の友人・火村英生の誕生日を祝して料理店でささやかな宴をしていたところ、宝石チェーンの名物社長・堂条秀一を見かける。堂条秀一は幻想を愛し、奇行で知られたシュールレアリスムの巨匠・サルバドール・ダリの心酔者で、ダリを真似た“ダリ髭”がトレードマークの有名社長だった。
それから一週間とたたないうちに、堂条秀一が神戸の別宅で殺害される事件が発生。堂条の遺体は“フロートカプセル”の中に入った状態で発見され、奇妙なことにトレードマークの“ダリ髭”が無くなっていた。他にも数々の不可解な点が・・・。
容疑者のうちの一人として有栖の友人・吉住訓夫の名前が挙がり、気になった有栖はフィールドワークでこの事件の警察への捜査協力をすることになった火村に事件の詳細を聞き、一緒にフィールドワークに参加することに。しかし、捜査が進むにつれ友人の吉住は窮地に立たされて――。

 

 

 

 

 

 


装丁いろいろ
『ダリの繭』は【作家アリスシリーズ】(火村英生シリーズ)の長編2作目。

 

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最初に刊行されたのは1993年で、

 

ダリの繭 (角川文庫)

ダリの繭 (角川文庫)

 

 

1999年には愛蔵版が刊行。

 

ダリの繭

ダリの繭

 

 

2013年には角川ビーンズ文庫版の上下巻で刊行されています。

 

 

 

 愛蔵版と角川ビーンズ文庫版の下巻には巻末には書き下ろし拳編シュルレアリスムの午後」という、アリスとお隣さんの真野さんとのお話が収録されています。この挙編は元々は愛蔵版の特典サービスとして書かれたものですね。

内容は道端で会った際の二人の会話といったもので、事件には直接関係ないです。麻々原絵里依さんによるコミカライズでは『朱色の研究Ⅰ』

 

 

 

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の巻末にこのお話が入っています。会話の内容はほぼ同じですが、こちらの漫画ではアリスと火村とのお話に変更されています。

文章だけで愉しみたい方は愛蔵版、挿絵ありが好きな人はビーンズ文庫版がオススメ。有栖川さんは文庫化の度にあとがきを書いてくれるのでそちらも必見。個人的に、有栖川さんはあとがきが面白い作家さんの一人だと思っております。

 


新婚ごっこ
シリーズの第1作目というのはどうしても説明的な部分が多くなってしまいがちなので

 

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2作目の長編は主要人物たちの個性や関係性の掘り下げが多くされる傾向が強いです。【作家アリスシリーズ】(火村英生シリーズ)もご多分に漏れず、この2作目の『ダリの繭』ではアリスと火村の関係性の掘り下げ・・・と、いうか、端的に言えば二人の仲良しっぷりがこれでもかと描かれています。

まず、初っ端からフランス料理店で火村の33歳の誕生日を祝って(アリスの本の完成もですが)シャンパンで乾杯しているところから始まります。
コレはですね、大抵のことは本で書かれていると「そんなもんか」と受け入れてしまう私でも「流石におかしいな」と思いましたね。

しかも、

つまらないことを言いながら周りをふと見渡すと、楽しげに語らい合うカップルで私たちが包囲されていることに気がついた。結構なことだ。他人の幸せそうな様子を見ることは私の喜びである。

確かに結構なことですけど。「ア、アリス、あのさ、もっと気にするべき点があるのでは~・・・」と読みながら思いました。「え?私の方がおかしいのかな?」とか(^^;)。

ちなみに、二人のこの日の予定は

ここで上品な料理とうま酒を賞味しながら互いに祝い合った後、御堂筋を走る車を眺めながら路上でラーメンを食べ、それから私のマンションに彼を引っぱり込んでうだうだ言いながら飲み続ける、というのが素晴らしき今宵の予定であった。

らしい。
この独身万歳!な感じ(笑)学生のままのノリのようで、フランス料理店で乾杯というのが社会的地位のある大人を表している(のか?)。いずれにせよ羨ましい。
しかし、この地の文、大好きっぷりが滲み出ていますよね・・・。語り手のアリスは探偵役の火村のことを普通に(?)友人として好意的に接しているのが示されてします。これはコンビの推理物シリーズでは結構珍しいんですよね。探偵役に振り回されて語り手が苛ついたりで、表面上は反発し合っているが実は・・・・・・みたいなのが一般的には多いですから。このシリーズではどちらかというと語り手のアリスの方が振り回していますしね。

 

角川ビーンズ文庫版のあとがきで有栖川さんは「私は男三人でフランス料理店で食事するけどどうよ?」みたいな事を書いていらっしゃいます。わかってないわねっ!二人と三人じゃ全然違うわよっ!
・・・と、物申したい気分になりますが。
やはり私と同じような疑問を感じてしまう人々からお声が多数あったようですね(^^;)

 

今作の“そういった部分”で特に有名なのが「新婚ごっこ」。ネットで『ダリの繭』を検索すると「新婚ごっこ」と出て来るくらいにファンの間では有名です。


これは何だというと、もうそのまんまで、アリスと火村の二人で新婚ごっこをしているんですよね。フィールドワークの都合上、火村がアリスのマンションに五日ほど入り浸っていたので(その間、大学の講義はずっと休講)、その間のアレコレが色々。本人たちも「新婚ごっこもどきをしている場合ではない」「新婚ごっこはもう終わりだぜ」などと作中で言っています。

これらの部分は著者としては二人の良好でフラットな関係を表したいんだとは思うんですが・・・ちょっと気になってしまいますよね、女子としてはね。しかしコレ、有栖川さん自身はそういった方面のウケ狙いで書いているのではなく、あくまで自然なやり取りのつもりで書いているんだと個人的には思っています。

 

 

ドラマ
『ダリの繭』は2016年放送の日本テレビ系連続ドラマの第4話で実写映像化されました。

 

臨床犯罪学者 火村英生の推理(DVD-BOX)

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ハッキリ言って、ドラマのこの回はなかったことにしたい。と、いうのが個人的な感想です。
長編なのに一週のみの構成で詰め込みすぎだし、大胆すぎるカットがされているし、原作での丁寧な心情描写が雑すぎだし・・・・・・と、まぁ言いたいことはいっぱいある(-_-)「新婚ごっこがやりたかっただけだろ」とか言われてしまうもの納得です。(ちなみに、私は原作の「新婚ごっこ」の方がずっと好きです)でもドラマだと二人の仲がギクシャクする展開でしたね。原作は上記のようにひたすら仲良しな内容なんですけど。

この連ドラは短編はともかく、長編の回がダメダメでしたね。『朱色の研究』は二週にわたってだったので期待したんですが、後半が「なぜあの原作がこうなる」ってな感じで当時は観ていて怒り心頭でした。原作ファンとしてはコレを観て『ダリの繭』をわかった気になられては困るってなものです。原作読んで下さいね!

 

 

 ※『朱色の研究』もね!

 

 

 

 

 

 

 


以下若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


今作は被害者から“ダリ髭”がなくなっていたことなどの複数の不自然な点が綺麗に繋がっていくのが爽快な王道の推理小説ですが、推理部分以上にタイトルの『ダリの繭』にお話の主題が込められています。
被害者の堂条秀一は別宅にフロートカプセルを置いており、そのフロートカプセルの中で遺体となって発見されるんですが、このフロートカプセル云々から個々の“避難場所”へのお話が描かれていきます。
堂条秀一はフロートカプセルで胎内回帰願望を満たしていたらしく、これはサルバドール・ダリが生前「私は母親の子宮内にいたときのことをはっきりと覚えている」と公言していたことに由来するのですが、堂条本人は別宅のフロートカプセルのことを「繭」と呼んでいました。作中ではコクーニング現象と結びつけて語られています。

 

「(略)八十年代の終わり頃にコクーニング現象というものが言われました。コクーニングとは繭作りという英語ですね。この場合の繭とは、家庭を意味したもので、蚕がせっせと繭を作るように、自分を優しく包んでくれる家庭を再構成しようという姿勢を指したのがコクーニング現象。家庭への回帰。自分が愛せるもの、自分に敵意を向けないものだけに囲まれていたい、という態度」

 

上記は火村先生の解説。
まぁ簡単にいうと精神面での避難場所(シェルター)ってことですね。この話題の延長線上で事件関係者たちのそれぞれの「繭」、そして、アリスと火村にとっての「繭」が語られます。

 

アリスにとっての「繭」は小説を書くということ。
アリスが小説を書き始めた日は高校二年生、十七歳の夏で七月九日の蒸し暑い夜。七月七日の夜にしたためた恋文を翌日クラスメイトの女の子に渡すも、その女の子はその日の夜に自殺未遂を起こす。2ヶ月経って学校に復帰したとき、その子が友人に語った自殺未遂の理由は
――生きていてもつまらないと思って。

この出来事でのショックからアリスは本格推理小説という論理世界の虚構に逃げ込むように推理小説を書くことに没頭。そして、いつしか推理小説を書くことを職業に。

・・・何というか、絶妙にエグいトラウマですよね。
このアリスのトラウマ話は以後シリーズの中で結構引っぱっていく事柄なので、ファンには重要です。菩提樹荘の殺人』でやっとこさ振り切れている感じですね。

 

 

菩提樹荘の殺人 (文春文庫)

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一方、火村にとっての「繭」は

「学問にかこつけて人間を狩ることさ」

警察に協力してフィールドワークをしている理由は「俺自身、人を殺したいと真剣に考えたことがあるからだ」と言う火村先生。コレについてはシリーズで一貫して出て来る事柄で、今だに詳細が明らかにされていないシリーズ最大の謎。毎度のことではありますが、読んでいると危なっかしくって苦しそうな火村に読者は胸を痛ませる訳です。

私が今作で特に好きな場面は、アリスのマンションで火村が「何らかの避難場所は誰にとっても必要だ」と言った後に、ローリング・ストーンズの『ギミー・シェルター』を口笛で吹き散らしているのを壁越しに聴きながらアリスがくすりと笑って就寝するところ。

火村にとって、アリスという友人の存在が少しでも気を抜くことが出来る“避難場所”として機能してくれていたら良いな。そうでありますように。といった願望というか、想いが込められている気がして好きですね。今作で仲良しな描写がたくさんあるのもこういった意味合いがあるのかな~とか(^^)。

 

 

このように、アリスのトラウマ話や二人の関係性の深み、ついでにたまにアリスに鳴かないカナリアを預けていくお隣さんの真野さんも登場するので(真野さんはこれ以降度々シリーズに登場する人物)、シリーズの中でも『ダリの繭』は必見なお話です。もちろん本格推理小説としてのロジックも堂条秀一とサルバドール・ダリを関連づけてのお話の纏め方も見事ですし、93年の作品ですが古くささもさほど感じずに読めますので是非是非。

 

 

 

 

 


余談ですが、今作の終わり方、アリスと真野さんが今後恋仲になるのかなぁ~とか読んだ当時は思ったものですが、2019年現在でも今のところそのような展開にはなっていないですね・・・(^^;)いつまでも独身万歳!な様子を楽しみたいのでまぁ良いんですが。

 

 

 

ではではまた~

 

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