夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

【小市民シリーズ】4作品まとめ紹介 〈冬季〉とアニメ化前におさらい!青春スイーツミステリ

こんばんは、紫栞です。

今回は、米澤穂信さんの【小市民シリーズ】をご紹介。

 

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

 

小市民シリーズとは

【小市民シリーズ】は米澤穂信さん初期の代表作である2大青春ミステリ小説シリーズの内の一つ。※もう一つは【古典部シリーズ】ですね。

 

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シリーズ第一作が刊行されたのが2004年で、今からおよそ20年前。その語、2006年に二作目、2009年に三作目と続けて刊行されましたが、それ以降長らく音沙汰無し状態が続き、11年後の2020年に番外編の作品集発売。

 

やっとシリーズ再始動か!?と思いきや、また4年音沙汰無しだったのですが、なんと、2024年7月にこのシリーズを原作としたアニメ放映が決定

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そして、小説の方も本編の完全新作「冬季限定ボンボンショコラ事件」が4月に発売予定とのことで「やっとか~」と、一報を聞いて歓喜いたしました。

 

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しかしながら、番外編の短編集はともかく、本編の三作品は15~20年前で内容をかなり忘れてしまっているので、改めて再読。記事にまとめつつ、今一度このシリーズについておさらいと考察をしてみたいと思います。

 

 

“恋愛関係にも依存関係にもない互恵関係にある”同級生、小鳩常悟朗と小佐内ゆきの二人が、高校生活を送る中で遭遇する些細だったりきな臭かったりする様々な謎・事件を、解いたり籠絡したりするシリーズ。

 

「互恵関係」とは聞き慣れない言葉ですが、意味は利益を与え合い、損をしない関係のこと。

 

小鳩常悟朗は並外れて推理力が高い男子。様々な事に首を突っ込んでは謎を解き、皆の前で披露するのに快感を覚えていましたが、中学時代にその気質のせいで痛い目に遭い、出しゃばることをしない、穏やかで慎ましい「小市民」を目指す。

 

ホームズ的“推理のひけらかし”ですね。ホームズは探偵だし、高機能社会不適合者として突っ走りますが、小鳩君は学生生活を送る少年。“ひけらかし”は学校というコミュニティでやられると鬱陶しいし不快なものだと気がついた思春期ボーイの小鳩君は、謎から回避して自分の気質を封印し、普通の学生として社会に適合しようと努める。

 

そんな小鳩君と中学三年生の時から互恵関係を結んでいるのが小佐内ゆき。彼女もまた特殊で厄介な気質を持ち合わせており、封印するべく「小市民」であろうとしている。

 

小鳩君と小佐内さんは目的を同じくする同志。何かから逃げたいときはお互いの存在を言い訳に使い、楯にする。二人一緒に行動することで助け合い、本来の気質が暴走しないように互いに見張り合う関係。

なんだけれども、頻繁に事件に遭遇してしまって・・・なかなか二人が目指すところの「小市民」にはなれないのでありました――・・・

 

こんな具合に、少し特殊な関係の男女コンビが織り成すミステリシリーズです。

 

また、小佐内さんが大のスイーツ好きという設定でして、美味しそうなスイーツ描写があるのもシリーズの特徴の一つ。本のタイトルには必ずお菓子の名称が含まれています。

 

青春×スイーツ×ミステリ

 

と、一見ライトなミステリですが、それだけではない米澤穂信作品特有のほろ苦さや毒っ気もちゃんとあるので必見。

 

主要二人の他にレギュラーで登場するのは小鳩常悟朗の馴染みで“まぎれもなく良いヤツ”、荒事に担ぎ出されがちな島健ぐらい。

 

基本的に、このシリーズは探偵役の小鳩常悟朗による一人称語りが主です。小佐内さんの心情は意図的に全く描かれておらず、得体の知れないミステリアスな存在として終始読者を惹きつけています。

 

 

 

 

 

 

 

 

シリーズ順番

では、刊行順にご紹介。

 

●「春期限定いちごタルト事件

 

目次

プロローグ

羊の着ぐるみ

For your eyes only

おいしいココアの作り方

はらふくるるわざ

孤狼の心

エピローグ

 

短編集。高校入学からの春の出来事・謎解き話が時系列順に描かれています。お話しはそれぞれ単体で楽しめるように描かれていますが、ところどころラストのお話への伏線が張られているので長編ともいえる構成。

 

 

●「夏期限定トロピカルパフェ事件

 

目次

序 章 まるで綿菓子のよう

第一章 シャルロットだけはぼくのもの

第二章 シェイク・ハーフ

第三章 激辛大盛り

第四章 おいで、キャンディをあげる

終 章 スイート・メモリー

 

長編。とはいえ、各章で謎解きが用意されているので連作短編風味。高校二年生になった二人の夏休み中の出来事が描かれる。

 

 

 

●「秋限定栗きんとん事件」

 

 

 

 

目次

第一章 おもいがけない秋

第二章 あたたかな冬

第三章 とまどう春

第四章 うたがわしい夏

第五章 真夏の夜

第六章 ふたたびの秋

 

長編。上下巻で今のところシリーズ最長の作品。描かれる次期も高校二年生の秋~三年生の秋までと、約一年間の出来事で最長時間となっています。

 

 

「巴里マカロンの謎」

 

収録作

巴里マカロンの謎

紐育チーズケーキの謎

伯林あげぱんの謎

花府シュークリームの謎

 

番外編で短編作品集。一作目~三作目までの間と、その後にあった細やかな謎解きエピソードが収録された一冊。各タイトルはクィーンの国名シリーズを意識したものですね。

この本については、詳しくはこちら↓

 

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以上。2024年2月現在で四冊。

 

 

 

 

以下、ネタバレ含みますので注意~

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の高校生活と互恵関係

このシリーズ、

 

春期限定いちごタルト事件」では高校一年の春、詐欺事件に関わって二人とも本来の気質が出てしまって反省。

夏期限定トロピカルパフェ事件」では高校二年の夏休み中、誘拐事件が起こり、その事件の真相をきっかけに小鳩君が小佐内さんに互恵関係解消を提案し、二人は別れることに。

「秋限定栗きんとん事件」では高校二年生の秋~高校三年生の秋までの約一年間、連続放火事件を追った末に二人は改めて互いの存在の必要性を再認識。ふたたび互恵関係を結ぶ。

 

大まかにはこういった流れになっております。

 

日常ミステリでありながら、詐欺・誘拐・放火と、どの本も最終的にはモロに犯罪絡みの事件に関わる「小市民」なはずの二人。

完全な日常ミステリである【古典部シリーズ】とは似ているようでまったく違うのですね。テイストとしては近年開始された【図書委員シリーズ】に近いかと思います。

 

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一作目でまず二人の関係がどんなものかを示し、二作目で片方がルール違反をしたために互恵関係が破綻して別れる、三作目で互いに別の人と一年間過した結果「あなたが、きみが、いまのところ最善の相棒」と気がついて関係修復。

 

このシリーズでテーマとして描かれるのはやはり“互恵関係”。高校生活を通して二人の関係性の変化を追っていく青春物語なのです。

 

学校ではいつも二人で行動しているため周囲にはカップルだと思われているし、そう思わせておいた方が言い訳に使うときに都合がいいのでそのままにしているが、あくまで利益ありきの関係で恋愛感情はないよ~という「互恵関係」。

 

しかし、放課後や休みの日にスイーツを二人で食べに行く場面などが頻発するので、読者的には最初からこの「互恵関係」って疑問なんですよね。「小市民」のスローガンも。

小鳩君の語りを読んでいても正直、よくわからないし。新手の中二病的といいますか、子供がひねくれた考えを持ち出して態々事態を小難しくしている印象。

 

三作目の「秋限定栗きんとん事件」でようやく、

 

”そうじゃない。必要なのは「小市民」の着ぐるみじゃない。

たったひとり、わかってくれるひとがそばにいれば充分なのだ、と。”

 

やっと気がつく訳ですが。

頭がいいのに、このシンプルな答えに行き着くのに三年間かかっている。ま、これが青春。思春期なんでしょうね。どんなに大人びていても子供は子供。

 

 

 

来る冬季!

「お!自覚もできたし、次が楽しみ!」と、読者がなったところで、上記したように、このシリーズは長らく音沙汰なし状態になっていました。ヤキモキさせられたというものです。

 

2024年、やっとやっとで「冬季限定ボンボンショコラ事件」が読める!

 

タイトルが春夏秋ときているため、読者の間ではずっと「冬季限定」がシリーズ最終作となるのだろうと言われてきました。しかし、特報の文章を読んでみると「最新作」「四部作〈冬〉」とは書かれているものの、「シリーズ完結」という文字は見当たらない。

ひょっとして、四部作刊行後にも同シリーズで何か予定しているのですかね?作品集に収録されている「花府シュークリームの謎」ではもう高校三年の正月になっているので、卒業までは必ず描かれると思うのですが。

 

一作目「春季限定いちごタルト事件」のラストで、小佐内さんが「自分に危害を加える人間を、謀をめぐらして完膚なきまでに叩き伏せることに快感を得る」という復讐大好き娘だと判明。

小市民を目指す同志でありつつも、謀っている側と謎を解く側で腹の探り合いをする状態になったりするのもこのシリーズの醍醐味。

そんな二人が小市民になるべく互恵関係を結んだのは中学三年生の時とのことですが、そのきっかけとなった過去の出来事の詳細については未だに双方明かされずじまいのまま。

「冬季限定ボンボンショコラ事件」ではそこら辺のことについても満を持して語られると思いますので、とても楽しみです。

 

 

シリーズ開始が20年前ですので、読み返してみて結構時代を感じました。携帯電話はもちろんですが、学校や公共機関の運用とか。この20年で世の中大きく変わったなぁと再認識。

アニメの予告映像にはスマホが出てきているので現在設定にするようですが、割と原作から変更しなければいけない部分が多々出てくるのではないかと。

「夏季限定トロピカルパフェ事件」までのストーリーをやるようですが、それだとラストが・・・・・・どうするのでしょう。

あとタイトルも、まさか「小市民シリーズ」のままではないだろうと思うのですが・・・どうなのでしょう?

非常に気になるところ。アニメもどんな風になるのか楽しみですね。

 

 

どちらもワクワクしながら待ちたいと思います。

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

 

 

『金田一37歳の事件簿』15巻 ネタバレ・感想 ロジカルな推理!リアル人狼との”読み合い”対決!

こんばんは、紫栞です。

今回は、金田一37歳の事件簿』15巻の感想を少し。

 

金田一37歳の事件簿(15) (イブニングコミックス)

 

今巻は1冊丸々、前巻からの人狼ゲーム殺人事件』が収録されています。

 

 

※前巻のあらすじ・詳細について、詳しくはこちら↓

 

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以下ガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前巻ではファンお待ちかねだった美雪がやっとこさ登場して湧きましたが、今巻はそんなことなどなかったかのように通常運転です。

ま、前巻で『人狼ゲーム殺人事件』が始まった瞬間からもうそうだったので、そこら辺は期待していなかったんですけども。でも、「一方、その頃・・・・・・」とかで美雪登場してくれるかなぁ~とかはちょっと期待していた・・・(^_^;)。

 

 

 

 

先読み対決

今巻は咲間みおりが二人目の被害者として発見されるところからスタート。

 

一人目の被害者・冬城楽人が殺害される事件は落雪で通路がふさがれたことによるアリバイトリックものでしたが、二つ目の事件は積雪量から目算したアリバイトリック。

 

発見時、死体の上にはかなりの雪が積もっていた。二時間半前に見に行ったときは何もなかったため、最初に見に行った後の三十分間ほどで犯行が行なわれたはずだけど・・・っていうアリバイものですね。

 

咲間みおりの遺体発見と同時に竜門峻平が行方知れずとなり、他メンバーは検証の結果、アリバイがないのは池上凛のみだということに。

 

とりあえず池上さんの行動制限をしつつ、失踪した竜門さんが犯人か、それとも何処かで殺されているのか、判らないままに皆で捜索開始。

 

黒シルエット犯人(リアル人狼)は竜門さんを犯人に仕立てて殺害し、自殺を偽装することで幕引きするベタすぎる目論見だった訳ですが、金田一の推理によってまだ息のある状態で竜門さんを雪の中から発見することが出来、第三の殺人を阻止することに成功。

犯人のベタベタな企みは打ち砕かれ、竜門さんを何としてでも殺害したい犯人と、阻止して犯人を突き止めたい金田一との“先の読み合い”対決となる。

 

読者としては、竜門さんが罪を着せられて死んでから「いや!犯人は別にいる!」って推理を披露するいつもの流れだろうと予想してしまうので、第三の殺人を阻止出来て後のこの対決は少し意表を突かれました。長年読んでいると、読者は“パターンの先読み”をしてしまうのですよねぇ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

シンプル

今作は派手な機械トリックを好むこの漫画シリーズにしては珍しく、論理的な筋道によって犯人を特定するロジックものとなっています。

 

ゲームマスターのヘンリーが入れ替わっていたというのはやはり予想通り。

犯人当てに関しては、被害者の冬城楽人だけがメンバーの中で唯一左利きだったということを見抜ければロジックで当てられるようになっている。名刺交換の場面をやたらわざとらしく画で見せていたのはそのせいですね。でも名刺って、基本両手で渡すものなんですけどね・・・。

前巻で「まだ物語の半分だから」と思い、犯人は男性だろう(入れ替わりの都合上)ぐらいで留めて真面目に推察もしていなかったんですけど、前巻の段階で犯人当てに必要な要素は既に出揃っていたのですね。毎度のことですが、もっとちゃんと読者として推理するべきだったなと反省。

 

殺人が起こる前のゲーム時に人狼のカードを持っていた人がそのまま「リアル人狼」だというのはシンプルで良いですね。

 

今回の事件はロジックものということで、トリックもいつもよりひねっていないというか、至ってシンプル。そのぶん、まとまりが良くなっていたと思います。ハデさはないですが、私は今回の事件結構好みです。

 

しかし途中、ウィーチューバ-の峰雪虹太金田一たちとで人工降雪機の話をしているのですが、種明かしの時に「死体の上に人工降雪機で大量の雪を降り積もらせた」と語り出されたのには「あ、そんなに“そのまま”なの・・・」と、逆に驚いた。もっとさりげないヒントに出来なかったものか。

 

寒波で降雪100%の予報が出ているなか長野の山奥に行くなんて「閉じ込められに行くようなもの」で、雪国の人間としては信じがたい危険行為だと前巻での感想ブログにも書きましたが、今巻での峰雪さんが動画のためにわざと屋根の落雪を受けたというエピソードは更にバカバカしい危険行為で怒りが湧きました。

 

あのね、雪国では屋根からの落雪で毎年何人も命を落しているんですよ!動画のウケ狙い目的でこんなことするのは超ド級のバカ者ですからね。雪国の人間に侮蔑の目を向けられて罵倒されますよ。私もしますよ。ダメ、絶対!

 

 

ロジックで事件を解き明かしていくのは良いものの、犯人との最後の“読み合い対決”で皆のペットボトルに睡眠薬を入れて・・・という方法を阻止しての決着はよろしくなかったですね。

別の事件で似たようなことしているものがあったし、謎解きの最中なのに皆で一斉にペットボトル飲料を飲み始めるのは唐突すぎて違和感アリアリでした。ここまできて犯人の姿をまたシルエットに戻すのも意味不明でしたし。

 

 

そんなこんなで、犯人はIT起業家の鬼屋敷剣だと判明するのですが、動機面は次巻に持ち越しとなっています。個人的には一つの事件であまり巻を跨がずに二冊でバシッと終わらせて欲しいところですが、尺の都合上どうしてもこうなってしまうのですかね。

 

四年前に鬼屋敷さんの娘さんが死んでしまって、それが今回の被害者三人の身勝手さのせいであるとのことのようですが。

次巻予告から察するに、雪道の中、娘さんを連れてどこかへ向かう途中に三人に妨害されて身動き取れなくなって、最終的には娘さんが死ぬ結果に・・・・・・って、ところでしょうか。

ま、読者的“パターンの先読み”は程々にしておきましょう。

 

 

次の16巻は、2024年初夏発売予定。

 

【首なしスキーヤー】編開幕と書かれているので、初夏発売ですが今作から引き続き冬事件もののようです。(しかし、“首なしスキーヤー”って・・・色々とアレですね^_^;)

次巻はちょっとでもいいので、美雪がまた出てくれると嬉しいですね。

 

また楽しみに待ちたいと思います。

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

どんでん返し映画 5選 驚きの逆転!仕掛け映画の魅力と楽しみ方

こんばんは、紫栞です。

今回は私が今までに観た、結末で物語が驚きの逆転をする仕掛けもの映画、“どんでん返し映画”を5つ、まとめて紹介したいと思います。

 

以下、仕掛けのネタバレはしていませんが「どんでん返しもの」だと知ってしまうだけでネタバレはネタバレですので(本当は宣伝文句なども知らず、先入観なしに観るのがこの手の映画は1番楽しめる)、ご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

アザ-ズ

 

 

2001年製作のアメリカ・スペイン・フランスの映画。

第二次世界大戦終結直後の1945年が舞台で、出征した主人の帰還を待ちながら大邸宅で暮らす夫人と子供、三人の使用人が、様々な怪奇現象に見舞われていくホラーサスペンスストーリー。

 

二人の子供は重度の日光アレルギーで、館の中は常に暗闇に包まれている。そんな中で妙な物音・話し声が聞こえたり、物の位置が勝手に変わったりといった不気味な現象が起こるという、お化け屋敷的ホラー映画。とはいえ、グロい描写などはないのでホラーが苦手な人でも平気だと思います。

 

物語は三人の使用人を雇うところからスタートするのですが、この時点で既に怪しい会話がチラホラリ。もちろん伏線です。

主演はニコール・キッドマン。製作された2001年当時に夫だったトム・クルーズが製作総指揮で参加しているとかで「ほぉーん」って感じ。暗闇とシックな装いでニコール・キッドマンの美しさが際立っています。

 

 

 

 

シャッター・アイランド

 

シャッター アイランド (吹替版)

シャッター アイランド (吹替版)

  • レオナルド ディカプリオ
Amazon

 

2010年のアメリカ映画。

舞台は1954年。精神を病んでいる犯罪者ばかりを収容している島に、失踪女性の捜索のため相棒と共に訪れた連邦保安官のテディ。女性は「4の法則。67は誰?」という謎のメッセージを残して姿を消していた。精神疾患を患っている収容者たちに取り調べをしていくテディだったが、そのうちこの島で異様なことが行なわれているのではないかと疑問を持ち始める・・・・・・。

と、いったストーリー。

 

島という閉鎖空間で周りは精神疾患者ばかり、管理している者たちも明らかに何かを隠している様子でとても信用出来ない。得体の知れない島の中で心身ともに追い詰められていくサスペンス・ホラー風味の映画。謎のメッセージや島での企み事など、ミステリ要素でも惹きつけられる作品。

 

どんでん返しの仕掛けがあるものの、劇中で頻繁に心象風景や過去の出来事などが描写されているので気がつく人も多いかも。真相を知った後だと、ある意味とても怖い物語だと感じる。余韻が深く残る終わり方で、鑑賞後は複雑な心境にさせられます。

 

監督のマーティン・スコセッシと主演のレオナルド・ディカプリオがタッグを組んでいる映画は今作が4作品目。2023年に公開された『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』でもディカプリオを主演に起用しています。6作品目のタッグ。よっぽど監督のお気に入り俳優のようです。

 

 

 

 

ユージュアル・サスペクツ

 

 

1995年のアメリカ映画。

マフィアの麻薬密輸に使われていたと思われる船が爆発・炎上し、焼き後から多数の遺体が発見された。事件はマフィアたちの抗争によるものだと推察され、関税局捜査官・クイヤンは事件で生き残った詐欺師・キントに尋問をする。

キントは事の発端、6週間前にニューヨークの警察署で銃器強奪事件の容疑者としてさせられた“面通し”で偶々知り合ったメンバー5人で犯罪計画を立案し、実行していったところから船爆破事件へと発展した経緯をクイヤンに語っていく・・・。

 

こんな感じに、キントの回想話によって全体が構成されている犯罪映画。話が進むにつれ、すべての黒幕であるとされる人物「カイザー・ソゼ」とは何者なのかという謎が主題になっていきます。

タイトルの「ユージュアル・サスペクツ」は“いつもの容疑者”という意味。ことある毎に警察の厄介になっている5人の犯罪常連者たちが、「カイザー・ソゼ」によってあれよあれよと深みに嵌まってしまう様が描かれる。

 

回想話には注意するべき点があり、この映画はその王道を真っ正面から描いています。王道だからこそ、物語と人物が様変わりする最後の瞬間がシビレる。気持ちよく「やられたよ!」となる映画ですね。

 

この映画、どんでん返し系ではかなりの有名作でして、お笑いのネタにもなっていたりしているそうな。「カイザー・ソゼ」で検索するだけで肝心要部分のネタバレをくらってしまうので、観る前に検索するのは絶対におやめ下さい。(ま、ここで紹介している映画は全部事前検索は要注意ですが・・・)

 

 

 

 

イニシエーション・ラブ

 

 

2015年公開の日本映画。

舞台は1980年代後半。大学生で恋愛経験のない鈴木は、代打で呼ばれた合コンで繭子と出逢い、恋に落ちる・・・・・・と、いう、タイトル通りのラブストーリー。

 

前半はウブな恋模様で交際に至るまでが、後半は鈴木の就職が決まって遠距離恋愛することとなる様子が描かれる、大きく二つに分けられた構成となっています。

 

乾くるみさんの原作小説が発売当時、「最後から二行目は絶対に先に読まないで!」「必ず二回読みたくなる本」とデカデカと広告に書かれ、著名人絶賛コメントの帯が付いたことも手伝ってか、どんでん返しものの話題作としてバカ売れしました。

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映像化不可能作品だと思われていたので、映画化すると聞いて「ええ!アレはどうするんだ!?」と読者は皆驚いたことでしょう。私もそうでした。

 

映画は独自設定を一つ追加することで仕掛けを成立させていましたね。「ほうほう、そう来るか」ってなりました。

この映画の良いところは、かなり丁寧に“答え合わせ”をしてくれるところ。コレ系の映画は伏線回収をあえて詳細にはせずに、符合点や考察を観た側に委ねるものが多いのですが、この映画ではラストの5分間で映像によるとても分りやすい答え合わせをしてくれる親切設定となっています。原作読んでよく解らなかったという人にこそオススメの映画。

 

80年代後半のファッションや音楽も見所。どんでん返しものでありながら、人死にや事件が起きないラブストーリーなのも特色ですね。

 

 

 

アヒルと鴨のコインロッカー

 

 

2007年公開の日本映画。

大学新入生の椎名は、引っ越してきたばかりのアパートで隣人の青年・河崎から初対面でいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけられる。夜の本屋から広辞苑一冊を盗み、失恋で落ち込んでいる外国人留学生にプレゼントするという、聞けば聞くほど意味の解らない誘いだったが、椎名は妙な具合にのせられて計画に協力することに。

本屋襲撃終了後、椎名は河崎の知り合いだというペットショップ店長の麗子から、二年前に起こった出来事を聞かされて――・・・。

 

と、一風変わったストーリー。

 

原作は伊坂幸太郎さんの傑作小説。叙述トリックもので有名な伊坂幸太郎作品のなかでも特に名作とされる初期の代表作です。

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伊坂作品の魅力がつまりにつまった傑作小説。さて、どんな風に映像化されているものかと原作ファンは不安にもなったことでしょうが、見事に伊坂ワールドを再現してくれている映画となっていまして、原作小説同様にこの映画も評価が高い作品です。

 

これまた原作を読んだ身としては「あの仕掛けはどうするんだ!?」と、なるところですが、この映画では変に凝らずに割と直球の表現方法がとられています。普通に考えると「アンフェア!」となりそうなところですが、演出と演技の良さで気にならない。むしろ感動する。

 

二時間でおさめるために原作から所々変更はありますが、いずれも映画ならこの方が良いと思える上手い変更です。

ラストシーンも場面は忠実に再現しているものの、原作とは“ある点”が大きく違うのですが、これはこれで非常に感慨深いものとなっていて良い。

 

小説と映画、両方愉しんで欲しい名作ですね。

 

 

 

 

 

 

以上、5選。

 

私は叙述系のどんでん返し仕掛けがある小説が好きなので、読んだ小説が映像化されるとなると気になって観てみるということが度々あります。小説の叙述トリックものは文章だからこそ出来る仕掛けですので、映像で原作での驚きをどう表現するのか、物語を知っているからこそ興味深いのですよね。

 

最近ですと、絶対に映像化不可能と謳われ続けてきた新本格ミステリの超名作『十角館の殺人』がドラマ化される

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との一報で、思わず「えっ!?」って声が出ました。Hulu独占なので、今の状況のままじゃ私は観られないんですけど・・・(^_^;)。

 

 

実写のどんでん返しは“視覚でとらえていたものに騙される快感”があり、通常とは違う創意工夫をしなくてはいけないので、脚本・演出・演技、それぞれの力量が一般的な映画より試されるものだと思います。ただ驚かせられれば成功というものではなく、物語としての魅力も大前提として必要ですしね。

 

一度観終わった後また最初から観て、鑑賞者が“答え合わせ”をし、別目線で観直すという独自の楽しみがあるのがどんでん返し映画。

何回も観て、観る度に“考える楽しさ”を味わって欲しいです。

 

ではではまた~

『鵼の碑』ネタバレ 登場人物、他シリーズとの繋がり、徹底解説!”化け物の幽霊”とは?

こんばんは、紫栞です。

今回は、京極夏彦さんの『鵼の碑』(ぬえのいしぶみ)について多少突っ込んだ内容紹介と解説をしたいと思います。

 

鵼の碑 【電子百鬼夜行】

 

あらすじ

昭和二十九年、二月。

劇の脚本を書くため日光榎木津ホテルに滞在している最中、メイドから殺人の記憶を打ち明けられて懊悩する作家・久住加壽夫。

失踪した勤め先の主人を捜して欲しいと薔薇十字探偵社に依頼した薬剤師・御厨富美。

二十年前に消えた三つの死体の行方を追うこととなった刑事・木場修太郎

発掘された古文書の鑑定と整理のため日光に滞在している学僧・築山公宣。

大叔父の遺品整理のために空き家となった診療所に訪れた病理学者・緑川佳乃。

 

二十年前の事故と遺体消失。十六年前の少女による殺人の記憶。示唆される幾つもの不審な出来事。そして何かを嗅ぎ回る公安・・・。

 

時を同じくしてそれぞれが日光に集い、縺れ合って“得体の知れない何か”が浮かび上がっていく。

果たしてこの日光で何が行なわれていたのか?皆に取り憑く“化け物の幽霊”。その正体とは――?

 

 

 

 

 

 

 

キメラ

『鵼の碑』は2023年9月に刊行された長編小説。百鬼夜行シリーズ】(京極堂シリーズ)、17年ぶりの新作です。

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2023年の私にとって最大の出来事はこの『鵼の碑』の発売でした。嬉しすぎて当ブログでも喜びを書き殴るだけの記事を何個かアップしましたが、

 

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今回はきちんと、『鵼の碑』の作品紹介とネタバレこみの感想や考察を書き上げて、この2023年を終えたいと思います。

 

 

『鵼の碑』は新書版(講談社ノベルス)と単行本版が同時発売でした。

 

 

 

京極夏彦さんは版が変わる度に文章がページをまたがないように加筆・修正するので有名な作家ですので、中身の違いが気になる人も多いかと思いますが、ノベルス版を大元として、単行本だと調節のため台詞や地の文が足されています。さりげなく、細かく、なんですけど。

ファン的には榎木津のトンキチな台詞が足されているのが注目ポイント。単行本はお値段の高い豪華版ですので、ちょっとした特典気分を味わえますよ。是非読み比べて欲しいですね。

 

 

タイトルにある「鵼」は、頭が猿、胴が狸、手脚は虎、尾は蛇だとかいう(※組み合わせは文献によって異なる)色々な動物が合わさった姿をしている怪鳥。キメラの如き化け物です。

 

物語も「鵼」に習ってといいますか、本全体で「鵼」を表現しているといいますか、、の五パートでそれぞれに展開していき、その五パートが段々縺れて合わさって、“キナ臭い話”が浮かび上がるという構成になっています。

 

「蛇」ではメイドの桜田登和子に打ち明け話をされて右往左往する劇作家・久住加壽夫と、何故か一緒に右往左往することになった関口巽が、

「虎」では行方不明となった勤め先の主人・寒川秀巳の捜索を依頼した御厨富美と、探偵の益田龍一が、

「貍」では二十年前に起こった遺体消失事件を追うハメになった刑事の木場修太郎が、

「猨」では助勢を頼んだ史学科教授の助手・仁礼将雄、古書肆・中禅寺秋彦とともに古文書鑑定をする学僧・築山公宣が、

「鵺」では医者だった大叔父の遺品整理のために日光の村外れにある元診療所を訪れた病理学者・緑川佳乃が、

 

各パート、それぞれの視点で物語が展開されていき、収斂していく。(※語り手は青字の人物)

 

日光には榎木津礼二郎の兄・榎木津総一郎が経営する「日光榎木津ホテル」があり、中禅寺の仕事にくっついてくる形で榎木津と関口の三人でこのホテルに滞在しています。

総一郎さんは奇天烈な弟とは違ってごく普通の容姿をしていてマトモなのですが、頼りない言動のおかしみ溢れる人物。榎木津には「アニ」と呼ばれている。

 

中禅寺は仕事で来ているのでずっと古文書鑑定、関口はスランプで例によって暇を持て余し、久住さんと妙に意気投合して一緒にウジウジと“メイドの殺人記憶問題”に取り組むことに。(わざわざ面倒事に首を突っ込んで鬱々する、毎度毎度の懲りない関口)榎木津はテニスしたり乗馬したりで元気に遊びほうけています。(今回は本当にほぼほぼ遊んでいるだけ)

 

 

中禅寺の仕事にくっついて旅行に行くという流れは鉄鼠の檻を彷彿とさせますね。

 

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今作では他にも所々これまでの事件を思い出させる要素が盛込まれています。インタビューによると、これは意図的にそうされているそうな。17年ぶりなので、長年のファンに向けてのサービスってことでしょうか。

 

 

 

 

 

登場人物

木場以外、各パートの語り手は初登場の方ばかり。

語り手で木場!テンションが上がりましたね。木場は『塗仏の宴』以降、シリーズではチョイ役でしか登場していなかったので、ガッツリ登場は凄く久しぶり。やっぱり木場の語りは良いですねぇ。

榎木津が「おいこら四角」って言って闖入してくるのには読んでいて「キター!」と、ニヤニヤしてしまった。お互いに罵りあっているのに、総一郎さんも交えての幼馴染みエピソードを語り出すのが可笑しい。

 

益田は今作でもガッツリ登場。益田は本当に出番が多いキャラクターですね。スピンオフでもいっぱい登場するし。下僕筆頭だからでしょうか。

 

他、一段落のみの登場ですが青木鳥口和寅『格新婦の理』『百器徒然袋-風』などに登場した中華丼のイラストに似たお喋り娘・奈美木セツ邪魅の雫に登場した公安の郷島郡治、かつての木場の相棒だった長門さんと陰摩羅鬼の瑕で登場した伊庭さん(※伊庭さんはスピンオフの『今昔続百鬼-雲』にも登場しています)などが登場。

今作では長門さんが現場で念仏を唱えるようになった理由が明らかにされています。

 

過去作のキャラクターが数多く登場していまして、宮部みゆきさんは百鬼夜行アベンジャーズと称されたようですが、伊佐間屋とマチコが居ないので個人的にはアベンジャーズとは言い難い。伊佐間屋は話題の一つでは出て来ていましたけど。

 

後、『鉄鼠の檻』の時には連れてきていた奥方二人、千鶴子さんと雪絵さんも今回は不在。前は木場とセットで出がちだった猫目洞のお潤さんも登場はなし(お潤さん、『塗仏の宴』の一件の後どうしているのか気になるんですが・・・)。中禅寺の妹・敦子も不在。ま、敦子はこの間にスピンオフでご活躍だったからしょうがないですが。

 

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本当にアベンジャーズしていたのは『塗仏の宴』ですね。この時は本当に全員登場していた。

 

 

後、スピンオフですが『百器徒然袋』の二冊も。

 

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個人的に、久しぶりなので関口視点の語りを読みたかったなぁという気がする。シリーズファンとしては関口の語りが最も馴染み深いですからね。

饒舌な中禅寺に感化されて「最近は話をする努力をしている」ということで、久住さん相手に沢山お喋りしていますが。でもやっぱり中禅寺に後で一刀両断されているけどね・・・。

 

『鵼の碑』は刊行前に【百鬼夜行シリーズ】のアナザーストーリー集である百鬼夜行-陽』に前日譚の「墓の火」「蛇帯」が既に発表されていました。

 

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「墓の火」は御厨富美が捜している薬局の主人・寒川秀巳が主役で、「蛇帯」は今作で久住さんに“殺人の記憶話”をしたメイドの桜田登和子が主役。

別記事でも書きましたが、この二つのは『鵼の碑』を読む前に絶対に押さえておいて欲しいエピソードですので是非。

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

他作との繋がり

京極夏彦さんには【百鬼夜行シリーズ】の他にもう一つ代表的シリーズがあります。江戸時代後期を舞台にした巷説百物語シリーズ】ですね。

 

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京極夏彦作品は殆どの作品が同一世界線として描かれているので、これまでも『狂骨の夢』や『陰摩羅鬼の瑕』などで【巷説百物語シリーズ】との繋がりが示されていたのですが、今作での繋がり方は今までとの比ではありません。“モロ”です。

 

『鵼の碑』前に読んでおくべき本ってことで、当ブログで発売前に記事を書いたのですけれども↓

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今作を読んだ後ですと、絶対に読んでおくべき本は上記した『百鬼夜行-陽』収録の「墓の火」「蛇帯」の他に、

後巷説百物語

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と、『書楼弔堂 破曉』収録の「未完」

 

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が、特に今作での繋がりを知るには重要。どちらの本も明治時代が舞台で、江戸時代の【巷説百物語シリーズ】と昭和が舞台の【百鬼夜行シリーズ】との間を埋める要素があるものですね。

※本ごとの時系列について、詳しくはこちら↓

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『鵼の碑』を読む前に必ずチャックして欲しい本であるものの、それを言うと『鵼の碑』自体の重大なネタバレになってしまうので、読む前の人には言えないというジレンマ。

 

ま、『鵼の碑』の後でこの二冊を読んでも十分愉しめるので、『鵼の碑』読んだけどこの箇所よく分らなかった~って人は、これらの本も一緒に是非。

 

 

 

 

陰謀

話が進むにつれ、各パートそれぞれに別方向からとある「疑惑」に行着いていきます。

 

戦前、この日光の地で日本陸軍原子力兵器開発の秘密実験を行なっていたのではないか――と、いう。

 

荒唐無稽で“如何にも陰謀じみた”疑惑ですが、その疑惑を追っていた、知ってしまったために殺されたと思われる人物や、秘密警察が行なった隠蔽工作被爆が原因で亡くなったらしき遺体があったこと、不自然な土地の買収、探り回っている公安・・・・・・等々、疑惑を裏付けるようなもっともらしい事柄が次々に出て来て、皆この「陰謀」に取り憑かれてゆく。

 

皆日光に集結し、追ってきた事柄を共有していくのですが、その結果出来上がるのは“異なった複数の世間が絡み合っているような、奇妙な事件のキメラ“

 

キナ臭さばかりが増幅して、謎は深まる一方。いつまでも出口の見えない隘路に陥る。

 

 

「狸の胴に猿の頭だの蛇の尾っぽだのをくっ付けると、訳の解らない化け物になってしまうんですよ旦那。しかも、まるで関係のない鵼なんて名前で呼ばれてしまうことになる。いいですか、鵼なんて化け物は居ないんですよ。鵼のお話は、凡て化け物が退治された後に醸造されたものです。一度混ざってしまえばもう分離は難しい。化け物の鵼の話からは鵺は汲み取れない」

陰謀なんかないんですよ――と、中禅寺は木場に云った。

 

 

「鵼」は色々な動物が混ざりまくって訳の解らないものになってしまった化け物。見た目からは鳥の要素なんてまったくないのに「鵺に声が似ているから」って理由で「鵼」と呼ばれていますが、その似ているとされる鵺も実際には居ない鳥。

何処までも「空」「虚」な存在なんですね。

 

いろんな方向から情報を持ち寄った結果、ありもしない陰謀に翻弄されてしまうというのがこの『鵼の碑』という物語。

 

もちろん、こんな空騒ぎをすることになってしまったのには理由がある。開戦前、内務省の特務機関所属でありながら反戦主義者の山辺唯継が、“あの”堂島静鎮と陸軍に対して原子力の危険性を知らしめて兵器開発を阻止させるために、同志を集めて日光の山で原子力兵器開発をしているように見せかける大規模な偽装工作「旭日爆弾開発計画」をしていたのです。

※堂島や山辺が分らないって人は、『塗仏の宴』をお読み下さい。詳しくはこちら↓

 

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土地を買い上げ、原子力研究をしていると軍に盛大にアピール。定期的な成果発表の度に「ほら、こんなに危ないんですよ」と示してみせるが、実際は何の開発も実験もしていない。

大掛かりな“ハリボテ計画”だったのですね。

(今作の発売延期理由の一つに震災も関係したと京極さんが仰っていましたが、原子力関連の題材だったからなんですね。確かに、あの時期に刊行していたらよろしくないことも言われただろうなと思う)

 

ハリボテはハリボテでも絶対にバレてはいけないハリボテ。微に入り細を穿ち、外面をもっともらしく装ったために、二十年も経ってこのような空騒ぎ事態を招くこととなったと。

まったく、まったくさぁ・・・山辺さん・・・・・・!まどろっこしいことしてくれたなぁ今回もよぉ!って感じですね(^_^;)。

 

そんなですので、今作はシリーズ史上最も“何も起こっていない”物語です。事件はどれも十五年以上前のことでとっくに時効だし、切羽詰まった事態でもないし、殺人や人死にも発生していない。

 

中禅寺は今回、ありもしない“幽霊の化け物”の憑物落としをしたのですね。

 

 

 

 

 

末裔たちの邂逅

公安の郷島さんがうろちょろしていたのも大戦の後始末のため。”戦前と云う死んだ化け物の幽霊を捕まえに”日光に来ていた。郷島さんがいることによって胡散臭さが倍増して、皆の混乱が強まったのですがね・・・。

 

しかし、郷島さん以上に怪しげな動きをしている者達が今作にはいました。山で暮らし、調査団の案内役をしたという老人・桐山勘作、行方不明となっていた寒川に接触していた仏師・笹村市雄、市雄の妹で桜田登和子に“殺人の記憶”を思い出させるきっかけを与えた笹村倫子

 

この三人が「何をしていやがるんでぇ」ってな具合に物語の端々で怪しげにチラホラリとしている。

 

よからぬことをしている黒幕的な者達か?と、なるところですが、実はこの三人は別シリーズの巷説百物語シリーズ】に登場する化物遣いの末裔

笹村市雄と倫子の兄妹は、『後巷説百物語』に登場する笹村与次郎小夜の孫にあたる。小夜は又市一味である山猫廻しのおぎんの孫。つまり笹村兄妹は末裔だということに。桐山勘作は山の民で、二人の育ての親なんですね。

 

笹村兄妹の両親は記者で、二十年前に件のハリボテ計画を探っていたら巻き込まれて諜報員に殺害されてしまった。

笹村兄妹と桐山勘作の三人は、両親の死の真相を探りつつ寒川秀巳や桜田登和子を牽制し、見守っていたのです。

 

後巷説百物語』でも、『書楼弔堂-破曉』での菅丘李山(山岡百介)の蔵書を中禅寺輔(※中禅寺秋彦の祖父)が引き取って云々のくだりでも小夜や与次郎の動向は描かれていなかったので、知れたのは今作が初。

 

百鬼夜行-陽』の「墓の火」で“笹村”って出て来た時点でピン来た人もいますかね?私は恥ずかしながら失念していましたよ・・・。今作の終盤で「笹村・・・笹村って・・・・・・あ、あああー!」って。

で、「与次郎!お前、小夜さんと結婚出来たんか!良かったね!」ってなりましたわ。

結構作中で頻繁に匂わせる描写されているのですけどね。「一白新報」とか、笹村与次郎って名前もちゃんと出て来ていますし、笹村兄妹の容姿も又市とおぎんを連想させるものです。

「目の縁がほんのり~」で、え?おぎん?ってなる。小夜もそうでしたが、おぎんの遺伝子強いですね・・・。

後巷説百物語』ではおぎんが誰の子供を産んだのか明確な記載がないのですが、市雄の容姿や言動を見ると、やはり又市との・・・・・・でしょうか。

 

 

憑物落としの終盤で三人が登場するシーンは、【巷説百物語シリーズ】の記念すべき一作目「小豆洗い」でのシーンを彷彿とさせてアツイ。

 

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そしてなにより、憑物落としの拝み屋と化物遣いの末裔の、時を経ての邂逅アツイ・・・!

 

京極夏彦作品を長年読んできたからこそ味わえる読書体験。感無量です。

 

 

 

 

化け物の幽霊

かつて、人々は不幸・不遇・悪しきものごとを化物妖怪の所為にして折り合いをつけていましたが、江戸時代を過ぎるとそういった化物妖怪の役割は薄れていき、今作の舞台である昭和二十九年の世では通用しなくなっている。

 

代わりに人々が飛びつくようになったのが、「陰謀論」。

納得いかないものの背後にはこんな秘密があるからですよ~と、それらしく語られると信じてしまうし、「陰謀論」は化物妖怪の所為にするよりは近代的で理知的と受け取られる。“理解し難い隠れた存在”の所為にしている点は同じだし、根拠のなさは化物妖怪と大差ないのですが。

 

「陰謀だと云ってしまえば、全部陰謀で片付いちまうだろうが」

慥かに、何だか判らないけれど気に入らないことは何もかも陰謀だと云う者は多い。陰謀の多くは何の憑拠もない。解らないからこそ陰謀だと云う理屈である。

 

ありもしない陰謀に翻弄される今作。

令和の今も陰謀論蔓延る世の中ですので、何やら暗示的ですね。京極さんのインタビューによると偶々らしいですが。そりゃ、物語の構想自体は17年前からあったはずですからね・・・。

 

化物遣いの末裔である市雄たちは、自分たちの作法で事態の改善を図りましたが、昭和の世ではかつての作法は虚しく、陰謀論に取り憑かれた寒川秀巳を救うことは出来なかった。他の取り憑かれた者たちも、中禅寺側の作法で祓われた。

 

「化け物は、もう死んだのです。もし――僕達があなたの仰るような者どもの末裔であったのだとするなら、そうなら、僕達は」

化け物の幽霊ですと市雄は云った。

 

 

化け物の幽霊は、もう居なくてもいい。そういう世になった。

 

「居なくてもいいんだな」

勘作はそう云った。

「はい」

「もう会えねえぜ」

「はい。僕は――少し淋しいですが」

「ふん。人は大体淋しいもんだろうよ」

 

今作は【巷説百物語シリーズ】の本当の最後ともとれますね。化け物が不要になって、幽霊のように残って、その幽霊も居なくてよくなった。

 

シリーズを追ってきた読者としてはとても淋しい。【巷説百物語シリーズ】は、いつも淋しいんですけど。そういうシリーズなんですよね。

 

最後の緑川さんの語りによる、

もう会えないけれど――。

生きていれば会えないこともないよ。

に、なんだか凄く救われる。

 

病理学者で、学生時代に中禅寺たちの知り合いだったという緑川佳乃さんは非常に興味深い人物。どうも、昔中禅寺のこと好きだったぽいんですよね。今後もシリーズに登場するんだろうなと思います。

他パートの語り手、関口と意気投合した奇特な久住さん、薬剤師の御厨さんと、信仰を見詰め直した築山さんも再登場の可能性あるなと。

 

寒川さんは行方知れずのままになりましたが、これで完全退場なのですかね。でもこのシリーズ、姑獲鳥の夏でトンズラさせた菅野を鉄鼠の檻で再登場させるなんてことをやってのけますからね・・・油断は出来ない。

寒川さんが病気で余命幾ばくもないというのは、まったく予想していなかったので驚きました。でも確かに、そう考えると色々な点が腑に落ちる。

御厨さんと寒川さん、再会して欲しかったですね。残念です。山辺のハリボテ計画、憎い・・・!

 

 

『鵼の碑』はシリーズ17年ぶりの新作などということになってしまいましたが、次作予定の『幽谷響の家』(やまびこのいえ)はそう間を開けずに刊行されるのではないかと思います。京極さん曰く、タイトルを決めると同時に内容も出来上がるらしいので。どういう頭してるんだって感じですが。もう、すぐ読みたい。すぐ。

 

今作は只今連載中の【巷説百物語シリーズ】最終作『終巷説百物語』を踏まえてのものでもあるでしょうから、そちらも大変楽しみです。

 

これまで私は、『鵼の碑』を読むのを心待ちにして過してきました。やっと念願の『鵼の碑』を読む事が出来てどうなったかというと、より一層に、京極夏彦作品を待望する思いが強まりましたね。これだから京極夏彦ファンはやめられない。

今後も新作を愉しみに待ちながら日々を邁進していきたいと思います。

 

 

 

 

ではではまた~

『変な家2』感想 今度は間取り図11枚!栗原さんの推理も炸裂のシリーズ第2弾

こんばんは、紫栞です。

今回は、雨穴さんの『変な家2 11の間取り図』の感想を少し。

 

変な家2 ~11の間取り図~

 

間取り図ミステリー第2弾

『変な家2 11の間取り図』は2023年12月に刊行された長編小説。

タイトルの通り、ウェブライターでYouTuberである雨穴(うけつ)さんが2021年に刊行した作家デビュー作『変な家』の第2弾。

※第1弾の『変な家』について、詳しくはこちら↓

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フリーライターの「筆者」と設計士・栗原のコンビが、新たな謎に挑む間取り図ミステリー第2弾”

 

です。

 

“間取り図ミステリー”は第2弾ですが、2022年に『変な絵』を刊行しているので、雨穴さんの長編小説作としては三作目。

二作目の『変な絵』は若かりし頃の栗原さんが出て来るものの「著者」が出て来ない小説作品でしたが、

 

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今作は上記した謳い文句にあるように、「著者」が取材したものですという“テイ”で書かれているルポルタージュ風。「実話ですよ」と装ったモキュメンタリーもの。雨穴さんにあたる「著者」栗原さんのコンビをまた堪能出来る御本という訳です。

 

二作目でルポ風ではない小説を出したので、一作目のような本をまた書くのかどうかは微妙なところかなと思っていたのですが、『変な絵』は本の刊行前に出されたYouTube動画が再生回数1500万回突破(※2023年12月時点)書籍と漫画がヒットし、世界9カ国での翻訳決定2024年3月に映画が劇場公開・・・・・・と、華々しい旋風を巻き起こしておりますので、続編が出るのは必然でしょうかね。

 


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雨穴さんにハマったものの動画は全部観ちゃったし、書籍も二冊すぐ読んじゃったしで飢餓状態だったので、新刊の通知が来た瞬間にすぐ予約してしまいました。

 

 

続編が出たとなると、シリーズ名がちょっと気になるところですね。【間取り図ミステリーシリーズ】とでもするのか?でもそれだと間取り図縛りになってしまうし・・・。二作目の『変な絵』もひっくるめて【“変”シリーズ】とでもするのか。

個人的にはルポ風より小説文体の方がやはり読み応えを感じるので、『変な絵』風味の作品もまた出して欲しいですけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11枚もある!

今回のタイトル見てまず驚くのは間取り図が11枚もあるってところですよね。

 

設定・あらすじは、

 

『変な家』の刊行から二年。本は反響を呼び、著者のもとには「家」に関する数々の情報が寄せられるようになった。この本では数あるものの中から11軒に関する調査資料を収録。一見、無関係に思えるこれらの資料には“ある共通点”がある。その先にあるとんでもない真相とは?

 

と、いったもの。

 

前半で11の資料、

 

①行先のない廊下

②闇をはぐくむ家

③林の中の水車小屋

④ネズミ捕りの家

⑤そこにあった事故物件

⑥再生の館

⑦おじさんの家

⑧部屋をつなぐ糸電話

⑨殺人現場へ向かう足音

⑩逃げられないアパート

⑪一度だけ現われた部屋

 

 

が、紹介された後、「著者」がこの資料を持って設計士・栗原さんのもとへ相談に行き、栗原さんが11の資料から導き出した推理が展開されるといった構成。

 

資料・間取り図が11もあるのでページ数は今までで最長の400ページ以上。栗原さんは140ページほどお喋りしてくれています。

第一弾の『変な家』より200ページほど違うし、本を見るとかなりのボリュームに感じる方もいらっしゃるでしょうが、ルポ風で図解がとにかく一杯出て来るので、本来の400ページ越え小説とは読書感覚は全く違います。あっという間に読めますよ。

 

と、いうか、一気に読んだ方が良いのですよね。資料が11もあるので、各資料内容を忘れないうちに読み進めないと栗原さんの推理を読んでいても「えーと、何だっけ?」ってなる。

 

ま、推理中も図やまとめレポートで解りやすく示してくれる親切さなので大丈夫は大丈夫なのですけど。

数日かけてコツコツ読むよりは、その日のうちに読み切ってしまうことがオススメの一気読み推奨本です。

 

 

 

前二作では物語のプロローグにあたる内容の動画を雨穴さんのYouTubeで出してくれていたので、今回も動画出してくれるかな~と思っていたら、期待を裏切らずに出してくださいました。流石雨穴さん。

 

『変な家2』YouTubeバージョン↓

 


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本とは結構違いがありますね。

新聞記事の内容が変更されていて「おや?」となりました。YouTubeバージョンの方がお話としては自然になっているかと。本ですとあくまでアクシデントってな内容なので、建設会社の評判が落ちて持ち直すのに苦労したとか違和感があった。

動画での雨穴さんと栗原さんのやり取りはやはり面白いですね。本を既に読んだ人も、これから読む人にもオススメの動画です。

 

 

 

家の話

「家」にまつわる物語ということで、今作もやはり「家」という建造物から明らかになる「家族」の物語となっています。

 

心霊現象はありませんが、11の資料・間取り図から導き出される真相はおぞましく、間違いなくホラーな内容。

 

上記した11の資料が作中では順番に紹介されていくのですけれども、ただの資料の羅列でなく、資料ごとに前段階の“オチ”が用意されているので読み飽きないです。「ひょっとしてこういうことだったのではないか?」という、空恐ろしくなるような、悪意が見え隠れする「憶測」が各資料の最後で提示されるのですが、どうも腑に落ちない。

 

“この11個、どこかしらにつながりを感じるんですけど、それが具体的にどういうつながりなのか推理できなくて。それでまた、栗原さんの力を借りようと思ったんです。”

 

11の「腑に落ちない憶測」が、終盤の「栗原の推理」で一つ一つ吟味されて、繋がっていき、当初の憶測以上のおぞましい事実が明らかにされていく。

 

11の資料・間取り図・憶測ですからね。そりゃあ栗原さんも140ページしゃべり続けることになりますわって感じ。

 

 

「著者」が言うように、繋がりに関しては資料を読んでいるとボンヤリと察することが出来るようになっています。でも詰め切れてなくってモヤモヤする。

そのモヤモヤを終盤で綺麗にしてくれるといった印象で、予想もつかないところからバーン!と来る衝撃の真相!!ってよりは、「あ~そういうことか~!」と、パズルをはめてくような、頭の中が整理されていく感覚のミステリーですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

不自然さ

第1弾の『変な家』は面白いものの荒唐無稽なのは否めないものでした。そこらへんが受け入れられなくって「つまらない」となる人もいたかと思いますが、今作は第1弾と比べると荒唐無稽さは薄いので受け入れやすい推理と真相になっているかと。

 

しかし、資料の集まり方に関しては無理矢理感がやっぱりありますね。

 

虐待されていた男の子の手記とか、1940年出版の紀行文集とか、読んでみるまで分らないのにどう関連付けて入手したんだよってなりますし、「ネズミ捕りの家」「逃げられないアパート」は、もはや建造物の問題とは違うだろうって思う。相談の過程もなんだか納得出来ない。「80年前に私の家の建っている土地に死体があったらしい」とか、「そりゃどの土地だって大昔まで遡りゃあ人死んでるわいな」ってなる。

 

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最も不自然なのが、「著者」がある人物の伴侶の名前を調べないところですね。普通、すぐ調べるだろうに・・・。

 

 

しかし気になる点はあれど、11の間取り図を使い、確りとすべてに意味を持たせてホラーミステリーとして仕上げる手腕はやはりお見事。

雨穴さんらしいどんでん返しもあり、最後の1ページ目まで飽きることなく楽しませてくれます。やるせないラストも良い。

 

途中語られる真相は本当におぞましかった・・・。特に、“糸電話”の真相はドン引きしました。私が当事者だったら死ぬまで知りたくない。ホントに、ホントに最低な男だ。

 

後、367ページに誤植がありますね。重要な箇所なので出版社の方に指摘が多数いっているのではないかと。推理に関わる箇所なのでこの間違いは読んでいて残念。次の版から直されますかね。

 

 

今後も、動画・書籍ともに、雨穴さんの作品に注目していきたいと思います。

 

 

ではではまた~

『スイート・マイホーム』映画 感想 ホラー?原作との違いは?

こんばんは、紫栞です。

今回は、映画『スイート・マイホーム』を観たので感想を少し。

 

スイート・マイホーム

 

こちらの映画、神津凛子さんの小説を映画化したものでして、前にこの原作本について当ブログで感想を書きました。↓

 

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映画が公開されたのは2023年9月。で、今は2023年12月。

アマプラで早くも見放題対象になっていてビックリしてしまいました。だって、劇場公開からまだ3ヶ月ほどしか経ってないですよ?ページで見つけた思わず瞬間「早っ!!」って言ってしまいましたよ(^_^;)。

ちょっと思うところはありつつもやはり有り難いことですので、ビックリついでに鑑賞いたしました。

 

 

 

 

 

※以下、ネタバレありの感想となりますので注意~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この映画、監督は斎藤工さんで、主演は窪田正孝さん。ドラマ『臨床犯罪学 火村英生の推理』コンビですね~。

 

俳優で有名な斎藤工さんが監督だというところが注目されるポイントかと思いますが、斎藤工さんは俳優業の傍ら、20代から映像制作も積極的に行なっているそうで、2018年以降は映画監督として色々受賞していらっしゃるのだとか。けっして素人監督作ってことではないってことですね。

 

原作を読んだのでどうしても観ていて比較してしまうのですが、概ね原作通りのストーリーとなっていました。後味が悪くって映画では果たしてやるのかなぁと危惧していた、あの、“問題のラスト”もそのまま。

 

静かで、画も暗め。終始不気味な雰囲気漂う映画となっています。

 

原作も同様なのですが、この物語、中盤まではホラーなのかミステリなのか、マジものの怪異ものなのか、人が起しているものなのか、判然としないように描かれている。

ま、原作の発売時に大々的にオゾミス(おぞましいミステリ)と触れ込まれていたので、人間の仕業だというのは読む前から丸わかりではあったのですけど(霊的なものの仕業なら“ミステリ”とは謳いませんものね。特殊設定ものとか、例外はありますが・・・)。

 

映画の方も、どこぞの邦画ホラー作品のように撮られているものの、人間の仕業なんだろうな~というのは最初の段階で察しがつく。と、いうか、犯人が丸わかりなんですよね。これは原作もそうなのですけど。

あまりに“分りやすく怪しい”ので、捻りやどんでん返しがあるのだろうと思う人も多いかと思いますが、どっこい、そのままです。一応ミスリード要因の人物はいるのですが、すぐに退場してしまいますしね。

 

それでも原作では人物の生い立ちや心情が描写されているので納得出来るし、「おぞましい」という感想も持てるのですが、映画ですと色々と説明不足で、映像や役者の演技は良くてもストーリーが陳腐だと感じてしまう。

特に、犯人の妄想世界に入り浸った経緯がかなり省略されているので、単純に「なんかおかしい人」くらいにしか感じられない。イカレ具合が足りないのですよね。なので、最後の主人公との対峙も迫力に欠ける。

 

“あのラスト”も、説明や人物の描写が少ないぶん、原作以上に取って付けた感があります。

 

主人公の過去、家族に関しても同様で、なんだかフワッとした説明しかない。最初にキャストを知ったときにお兄さん役で窪塚洋介さんを使うのは何か勿体ないのではないかと思ったものですが、観てみたら思っていた以上に勿体なかった。

お父さん役で竹中直人さんがワンカットだけ使われているのはもっと驚いた。「贅沢」ってよりも「勿体ない」という感想を持ってしまいますね。

 

 

上記したように、画面が暗めで特に効果音もなく、ストーリーにも起伏がなくって終始淡々としている。

いや、人が死んでいるのだし、起伏はあるはずなのですが、襲われるシーンなどがなくただ「死にました」って結果だけ伝えられるので、起伏がないように感じてしまうのですよね。

 

画面が本当に真っ暗で、全然分らない箇所もあります。怖がらせるシーンなのでしょうが、何も見えないもんだから怖くない。部屋の電気消して見直して、やっと少し見えて「あ~ぁ?あ、はいはい」ってなった。

見えてもよくわかんなかったんですけど。怖いも何もないですね(^_^;)。

個人的に、どんな演出意図があろうとも見えないのと台詞が聞き取れないのはダメだと思う。

 

ジワジワとした不気味さでザワザワした恐怖を観る者に与えたくって静かに、暗く、淡々と描いているのだというのは解るし、ちゃんと出来ているのですけど、物足りなさはあります。

もっと怖くすることも、スリリングにすることも、ビックリさせることも、おぞましく感じさせることも、出来たのでは?と。

 

原作が“オゾミス”と謳われているくらいですからね、もっとエンタメよりに撮った方がこのお話には合っていたんじゃないかって。でも、そういう風には撮りたくなかったんだろうなぁ・・・監督の好みで・・・。

 

 

この映画に対して、私の率直な感想は「もの凄く悪い訳ではないが、もの凄く良いという訳でもない」ですね。

 

しかし、怖すぎないジワジワ系邦画ホラーが観たい人には良いのではないかと思います。怖くないって何回も書いてしまいましたが、マイホームをこれから建てようって人には別格の怖さがあるでしょう。家買って失敗するのって最大級の恐怖ですからね。

 

説明不足に感じた人は是非原作を。主人公や犯人の凄絶な過去を知ることが出来ます。映画はここら辺本当にサラッとなので・・・。

 

 

漫画化もされているみたいです。

 

 

 

諸々、気になった方は是非。

 

 

 

 

 

ではではまた~

 

 

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『七色いんこ』あらすじ・解説 トンデモ話多数!?手塚治虫が描くお芝居漫画

こんばんは、紫栞です。

今回は、手塚治虫先生の七色いんこをご紹介。

 

七色いんこ 手塚治虫文庫全集(1)

 

演劇を下敷きにしたドロボーエンタメ

七色いんこ』は1981年3月~1982年5月まで「週刊少年チャンピオン」で連載されていた漫画作品。

 

内容はともかく、タイトルはそこそこ知られている作品だと私は思っていたのですが、今回調べてみたらどうも知名度が低い部類とも認識されているような、いないような。

アニメ化などされていないからですかね?

手塚治虫作品の中では割と長期間連載だし、別作家のスピンオフやトリビュートで登場することも多く、舞台化も2回しているのですが。

一回目は2000年に稲垣吾郎さん主演、二回目は2018年に伊藤純奈さん主演での舞台化ですね。2018年版だといんこ役を女性が演じているというのが興味深い。

 

 

 

代役専門の天才役者で泥棒の「七色いんこ」が、代役仕事を通して様々な出来事に遭遇していくというストーリーで、全47話の一話完結形式もの。

各エピソード、有名演劇を題材にしているのが特徴で、数話例外はありますが、サブタイトルはどれも実在する演劇からとられています。

 

「代役を引き受けている公演中、劇場で何が起こってもいっさい目をつぶる」のが、七色いんこが代役を引き受ける条件。つまり、公演中に金持ちの観客から金品を盗むといった方法で泥棒をしている訳です。

そして、いんこは優れた役者でありながら変装の名人でもあり、メーキャップでどの様な人物にも化けることが出来る。

 

モロに江戸川乱歩怪人二十面相な設定ですが、コレに演劇要素・題材が加わって他にはない独自の活劇ものとなっています。

 

 

主要人物は本当に少なくって、いんこの他は千里万里子(せんりまりこ)という、いんこ事件担当の女刑事ぐらい。

この千里刑事、スポーツ万能で射撃の名人「女性版ジェームズ・ボンド」とも言われるパワフル娘であり、鳥を見るとアレルギーで身体が子供のように縮んでしまう、メルモちゃんも驚きの特異体質持ち。

物語序盤でいんこに恋してしまい、恋心を胸に秘めつつ刑事としていんこを逮捕しようと追いかけ回すという、いかにも活劇的でありながら珍妙なラブコメ要素も絡んでいます。

人物ではないですが、演技上手で妙に色っぽい雄犬・玉サブローも良い味を出していますね。

 

 

エピソードごとに登場人物も場所も変わる一話完結形式。連載先も「少年チャンピオン」だし、『ブラック・ジャック』の役者版か?

 

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と思ってしまうところでしょうが(私自身、読む前はそう思っていた)、実際読んでみると作品テイストは全然違います。

ブラック・ジャック』は命のやり取りが描かれるだけあって全体的にシリアスですが、『七色いんこ』は軽快でコメディ色の強い作品。そしてラブ要素あり。

 

読んでいて楽しいのはもちろんですが、とにかく多くの演劇が作中で紹介され、下敷きにしたエピソードが展開されますので、様々な有名演目を知ることが出来るのも嬉しい作品です。

 

少年チャンピオン・コミックス 全7巻

 

 

が、もちろん最初の形態。手塚治虫の強い要望により、各話冒頭にモチーフとなった演劇の解説ページが設けられています。

・・・・・・が、手塚治虫コミックスでは毎度のことながら、作者の気に入っているエピソードを優先的に選んでの収録になっているので、実質このコミックスは“抜粋版”。未収録エピソードが数話あります。

ホント、毎度毎度・・・何で全話発表順に収録してくれなかったんですかね?同時進行で多数の連載をしていると「気に入っているのだけ見せたい」とかなるのでしょうか。もし私がリアルタイムの読者だったらグチグチ言っていただろうなと思う。当時の読者から文句言われなかったのかな?

 

未収録があるので要注意ですが、各話に演劇の解説があるのは良いですね。私、お話の度に演目をネットで調べていたので、専門家の解説がセットになっているのはとても親切だという気がする。

 

手塚プロダクションから出ている電子書籍

も全7巻なので、おそらく少年チャンピオン・コミックスと同じ内容なのだと思います。やはり要注意。この電子版、いつでも要注意だな・・・。

 

 

文庫版の、

 

●秋田文庫 全5巻

 

 

手塚治虫文庫全集 全3巻

 

では、全話収録されています。

 

やっぱり、集めやすいのは全3巻の「手塚治虫文庫全集」ですかね。『七色いんこ』について講演会で手塚先生が語られたことや、手塚プロダクション資料室長・森晴路さんの解説も収録されていますし。私も文庫全集版で読みました。

 

 

例によって例のごとく、マニア向けの豪華本《オリジナル版》復刻大全集も刊行されています。全4巻。

 

カラーページや予告カットなど、雑誌掲載時を完全再現。ファン的に重要なのは、番外編である「七色いんこの国際漫画祭ルポ」が収録されているところですかね。手塚治虫がフランス・アングレーム国際漫画祭を訪れた際、七色いんこが先生にくっついて会場に潜り込んだという設定で描かれた漫画レポートでして、『七色いんこ』のコミックスや文庫版には収録されていないお話。ま、レポート漫画ですから収録されないのも分るのですが。

 

手塚治虫エッセイ集』でも読めるようですので、

 

 

他作品の復刻大全集よりも“うまみ”はないかも知れないですけど。

手塚治虫はコミックスに収録するにあたり大幅な修正や改変をすることが多く、「この復刻大全集じゃないとオリジナルは読めないよ!」って事態がよく発生しているのですが、『七色いんこ』ではそのようなことは特になかったらしく、お話の内容は同じ。

なので、この本は本当にマニア向けですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手塚治虫の描く「芝居」

作者の手塚治虫はかなりの芝居好きで映画好き。世界各地、あらゆる時代の創作物から着想を得て、自身の漫画作品に昇華させていることはどの手塚作品を読んでいても伝わってきます。

手塚治虫はストーリー漫画の先駆者といわれていますが、「ストーリー漫画」も漫画に映画的手法を取り入れてのものですからね。手塚漫画の特徴である、キャラクターを俳優のように扱う「スター・システム」も、芝居好きだからこその発想。漫画を描きながら俳優をキャスティングし、操って、監督気分を味わっていた訳です。

 

極端な話、手塚治虫が芝居好きじゃなかったらどの漫画も描かれることはなかったと。今日の漫画界の在り方も大きく変わっていたやも知れません。

 

手塚治虫は漫画家になる前、大阪の劇団に3年ほどいたことがあり、昭和22年頃はずっと舞台の上でお芝居をしていたのだとか。『ブラック・ジャック』は医学学校時代の経験・知識がいかされてのものですが、『七色いんこ』もまた作者自身の舞台経験からきているのですね。

 

“芝居に関するぼくのイメージとか、ぼくが芝居を好きだからこそこうした漫画を描いているんだ、ということをわかっていただくために始めたのが「七色いんこ」なのです。”

 

と、仰っているように、『七色いんこ』には芝居についてのアレコレがこれでもかと詰めこまれています。

哲学的なものやメッセージ性の強いものもあれば、滑稽でダジャレでオチているものもあり。リアリティを度外視した、ありえない、漫画すぎるほど漫画な表現も多いです。玉サブローとかはもうモロですね。犬だけど芝居上手で酒飲み。

 

メタなネタもかなりあって、「作者を探す六人の登場人物」にいたっては心身症になったいんこが作者の手塚治虫に直に抗議しています。しかも、それで心身症にするのをやめさせるのに成功してそのまま終わる。どんな漫画だよ。

手塚治虫もやりすぎたという自覚があったのか、チャンピオン・コミックスの方ではこのお話は未収録になっています。

 

 

なんでもあり。もはや無法地帯ですね。

 

“「七色いんこ」というのは、今までのぼくの作品系列からいうといったいどれにあたるかわからないほど変わった作品”

 

とも仰っているのですが、正にって感じ。

しかし、この、なんでもありでどんなことでも起こっていいというのが芝居の在り方そのものなのかも知れません。

 

 

 

以下、若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

最終回

そんなこんなで滅茶苦茶な印象を受ける『七色いんこ』ですが、最終回の「終章」ではキッチリと見事にまとめ上げられています。

ハムレットから始まり、父と息子の対立とロミジュリ要素が合わさったこの「終章」。第一話の段階で多数の伏線が張られているので、この「終章」は最初から確りと予定されていたものだと知れて胸が熱くなります。

 

私は特にいんこと万里子のラブコメ部分が好きだったので(じゃじゃ馬ならし「青い鳥」が個人的にお気に入り)、最後に明かされる真相には何やら興奮した。

 

ちょこちょこと登場していた財界のキングである鍬潟隆介、万里子の見合い相手として現われる黒谷マモルなどの存在もちゃんと回収されます。

 

トミーに関しては急に出て来た感があるので、もうちょっと事前に色々匂わせしといても良かったのではって気もしますけど。でも不思議とそこまで突飛な印象でもないので、急に出て来ても素直に受け入れられる。

 

手塚作品ですと打ち切りも多くて尻切れトンボのものも散見されるのですが、

 

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七色いんこ』は比較的作者の予定通りに書き進めることが出来た作品なのではないかと思います。

なので、途中どんなに滅茶苦茶な無法地帯が展開されていても、完成度の高い作品だと感服させられる仕上がりになっているかと。

 

私、何故か手塚作品はシリアスなものばかり読んでいたので、『七色いんこ』は新鮮に感じられて面白かったです。

とにかく万里子が性格と容姿諸々凄くかわいいのと(大きいのも縮んでるのもカワイイ)、いんこがかっこいいのだけれども、結構恥ずかしい失敗をしたり「ホンネ」とかいう幻覚見て洒落にならないくらいマジでヤバイことになっていたりするのがまた新鮮な主人公像でした。読んでいて、「びょ、病院入れないと・・・」ってなった(^_^;)。

 

 

最終回の「終章」はあえてぼかされた結末となっています。その後を描いた石田敦子さんによるトリビュート漫画が発売されているのですが、こちらは「手塚作品を舞台で演じる」というものなのだとか。面白い設定ですね。

 

 

別設定で中井チカさんによる漫画もあります。こちらですと七色いんこと万里子が国際犯罪組織と対峙するといった内容らしい。

 

 

 

謎の番外編「タマサブローの大冒険」

七色いんこ』は、本編終了後に何故か「タマサブローの大冒険」たる番外編が描がかれてされています。

玉サブローだと思われる犬がドブ川を流れているのから始まり、スター犬に恋をして大冒険を繰り広げる内容。いんこや万里子は登場しません。

 

いんこと一緒にいないし、飼われる前の話とも思えないし、“玉サブロー”ではなく“タマサブロー”で表記も違うことから、本編とは違う世界線ってことなのかと思ったのですが、手塚治虫オフィシャルサイトの方ですと七色いんこと別れ別れとなったタマサブローは”と、説明されているので↓

tezukaosamu.net

(そんな具体的な説明や場面は作中には一切ないのですが・・・)「終章」後にいんこと一緒にいられない事態に陥ったということでしょうか。それですと、あの舞台の時いんこは・・・・・・と、悲劇的な考えに至るのですけども。

 

うーん、でも、この「タマサブローの大冒険」は深刻な社会問題を盛込みつつもかなりファンタジックな仕上がりとなっているので、パラレルだと言われた方が個人的にはしっくりくるんですけどね~。色々と考察しがいのある番外編となっています。

 

読者にゆだねるラストの場合、私はいつも無理やり良い方に考えることにしているので、『七色いんこ』に関しても勝手にそう思っておきます。もう作者による正式な続きが描かれることもないですしね。

 

 

「タマサブローの大冒険」もふくめて、『七色いんこ』は表面上なんでもありでコミカル活劇でありながら、シビアな社会問題や人間の微妙な心理状態なども巧みに描かれています。

 

作中でまるで感嘆詞の代わりのように「日本の国土!」と叫ぶシーンが多数あって、今読むと意味不明なのですが、これはどうも当時北方領土問題で世間が揺れていたのをうけてのもののようです。揶揄して使っていたってことでしょうか。

後、過去話でのサンドイッチにはドン引きしました。驚くほどサラリと描かれているのがまたどす黒い。普通の漫画家だったらここの部分の演出で数ページ使うだろうに・・・。これが手塚漫画の強み。

 

 

手塚治虫が描く「お芝居漫画」、様々な要素が組み合わさった他にない漫画作品となっていますので、気になった方は是非。

 

 

 

 

ではではまた~

 

 

 

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