こんばんは、紫栞です。
今回は、今村昌弘さんの『明智恭介の奔走』について感想を少し。
〈明智恭介〉とは
タイトルにもなっている〈明智恭介〉。何者かといいますと、今村昌弘さんのデビュー作にして大ヒット作の長編推理小説『屍人荘の殺人』に登場した人物で、神紅大学ミステリ愛好会会長。(※会長といっても、会員は二人だけなのですが)
『屍人荘の殺人』の語り手である葉村譲の先輩で、推理小説に出て来る名探偵に憧れて事件に遭遇するべく日々名刺を配り歩くという変わり者。助手と評して葉村くんを引っかき回していた人物です。
『屍人荘の殺人』はその後シリーズ化して2024年現在で長編が三作目まで刊行されていますが、
(※今までシリーズ名が不明だったのですが、今作の帯に〈剣崎比留子〉シリーズと書かれていたので、それで決定のようです)
今作はシリーズ第一作目『屍人荘の殺人』よりも以前に、明智さんが挑んだ事件が描かれる短編集となっております。いわば、【剣崎比留子シリーズ】の前日譚、エピソード0、スピンオフといった代物ですね。
五編収録。
●最初でも最後でもない事件
この話は先立って電子書籍で発売されていたもの。詳しくはこちら↓
●とある日常の謎について
商店街にあるボロビルが破格の値で売れた謎についてのお話しで、その商店街で喫茶店を営んでいる店主の視点で描かれる。
●泥酔肌着引き裂き事件
泥酔して記憶をなくした明智さん。朝起きてみると、ズボンはちゃんと穿いているのに下着を穿いておらず、なおかつ、その下着は綺麗に切り裂かれた状態で玄関に置かれていた。
前の夜に介抱してくれた葉村くんを呼び出し、二人はこの奇妙な謎に挑む。
●宗教学試験問題漏洩事件
宗教学の教授の部屋で金庫が破られ、試験問題が保存されていたUSBメモリが盗まれる事件が発生。大学内で起こった事件だと調査に乗り出す明智さんと葉村くんだったが、調べれば調べるほど不自然な事柄が出て来て・・・。
●手紙ばら撒きハイツ事件
明智さんが大学の一回生だったときの出来事で、明智さんのバイト先の田沼探偵事務所に依頼された「ハイツの住人達にばらまかれている手紙の謎」を調査する過程が、探偵事務所所長の田沼視点で描かれる。
※以下、『屍人荘の殺人』のネタバレ含みますので注意!
不完全な探偵役
長編の【剣崎比留子シリーズ】は斑目機関とかいうヤバイ研究をしている組織が関わるため、「ゾンビ」「予知」「怪物」と、超常現象や超能力が”ある”のが前提とされた特殊設定ものの本格推理小説なのですが、今作はそんな特殊な事柄は一切なく、いわば”普通”の、短編推理小説集となっております。
読んでいると作者の本格推理ものへの愛が伝わってくる作品集で、古典のネタやトリックが使われながらも描き方や切り口が様々で面白かったです。行動の不自然さは所々ありますが、そこもまた王道の推理小説といった感じ。
長編の方へ繋がる事柄も散りばめられていて、シリーズファンにとっては見つける面白さもあります。
定番の本格推理ものと違うのが、探偵役である明智さんが比留子さんや他作の名探偵のようにキレイにズバッと解決できるわけではないところですね。
失敗を糧にし、助手の葉村くんなどによるサポートもあってやっとこさ真相にたどり着く。名探偵なのか、ただのトラブルメーカーなのか、判然としないように描かれています。
振り回されて文句を言いつつも、葉村くんはこの変な先輩との学生生活を楽しんでいたのだなぁと、二人のやり取りを読んでいると分かる。
作品雰囲気のせいか、比留子さんのキャラクター像のせいか、長編の方ですとコミカルなやり取りが浮いていて悉くスベってしまっている印象だったのですが、この短編集はコミカルな部分もマッチしていて楽しかったです。
ま、【剣崎比留子シリーズ】の場合は基本的に毎回極限状態なので、コミカルなやり取りされると「それどころじゃないだろ!」ってなるんですよね・・・(^_^;)。
続くのか?
『屍人荘の殺人』を読んだ人には承知のことですが、明智恭介はシリーズ第一弾でゾンビになって早々に(本当に早々に!)退場してしまう人物です。
ですので、読者としては明智さんの過去の活躍を知れば知るほど、魅力的に思えば思うほど、「この人、あの事件で死んじゃうんだよなぁ・・・」と、もの悲しくなる。
なので、明智さんが主役の短編はそこまで続けて書いたりはしないだろうと一話だけ電子書籍で買ったときは思っていました。この度1冊丸々明智さんの本が刊行されると知って少なからず驚きましたね。
のみならず、この本の説明文には”〈明智恭介〉シリーズ第一短編集!”と書かれてる。
【明智恭介シリーズ】として今後続けるつもりだということでしょうか?
確かに明智さんはただの捨てキャラにするには惜しい人物像ですし、個人的には比留子さんと葉村くんのコンビより、明智さんと葉村くんのコンビの方が好きなので、続くなら嬉しいは嬉しいのですけど・・・でも愛着が湧けば涌くほど悲しくなってしまうのではとも思いますし・・・・・・。
好きだけど、これ以上好きにはなりたくない。う~ん・・・複雑な心境です。
長編はトンデモ設定ものなんだし、こうなりゃどうにかして本編の方でも復活させて欲しいものです。無理でしょうけど。
短編集が続くかどうかも気になりますが、【剣崎比留子シリーズ】の続きも気になっているのでそろそろお願いしたいところ。
とにかく、〈明智恭介〉も〈剣崎比留子〉も追っていきたいと思います。
ではではまた~