夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

あの家に暮らす四人の女 あらすじ・感想 三浦しをんによる現代の”おとぎ話”~

こんばんは、紫栞です。
今回は三浦しをんさんの『あの家に暮らす四人の女』をご紹介。

あの家に暮らす四人の女 (中公文庫)

第32回織田作之助賞受賞作。

 

あらすじ
東京杉並区の善福寺川近くにある古い洋館・牧田家。
刺繍作家で三十七歳独身の一人娘・佐知と、その母・鶴代の母娘二人で住んでいるこの家に、佐知の同い年の友人である雪乃と、佐知の刺繍教室の生徒で、雪乃の勤める生命保険会社の十歳年下の後輩でもある多恵美が転がり込んで同居するようになって一年。
多恵美の元交際相手のストーカー騒ぎ、花見と水漏れ騒動、同じ敷地内に住む謎の老人・山田、「開かずの間」にある河童のミイラの秘密・・・・・・。
女ばかり四人が暮らす屋敷には、数々の珍事がもたらされる。
かしましい牧田家の、春から夏にかけての“おとぎ話”のような同居物語り。

 

 

 

 


現代版『細雪
『あの家に暮らす四人の女』は2015年執筆作品。2015年は谷崎潤一郎の没後50年にあたる年で、中央公論新社から決定版の全集が刊行され、

 

谷崎潤一郎全集 - 第一巻

谷崎潤一郎全集 - 第一巻

 

 

谷崎潤一郎メモリアル企画として、谷崎作品にちなんだ作品を現代作家たちが書き下ろすという企画の一環で書かれたのが、この『あの家に暮らす四人の女』です。下敷きとなっているのは谷崎潤一郎の代表作の一つ細雪

 

新装版 細雪 上 (角川文庫)

新装版 細雪 上 (角川文庫)

 

 

大阪の旧家・蒔田家の四姉妹、鶴子幸子雪子妙子が繰り広げる物語りで、谷崎潤一郎の三番目の妻・松子さんの姉妹がモデルとして使われているので有名な作品。※松子さんは次女の幸子のモデル。


今作の作中でも
「私たち、『細雪』に出てくる四姉妹と同じ名前なんだよ」
と出て来るように、名前や登場人物の設定などが所々踏襲されていますが(ラストに下痢の描写があるのとか)、今作は現在設定で東京が舞台の“今の時代ならでは”の女の共同生活が描かれていて、大まかなストーリーは『細雪』とはまったく異なります。


七十歳近くになってもお嬢様気質の鶴代、世間知らずで苦労性の佐知、美人だけど男っ気がなく毒舌の雪乃、ゲテモノ好きでダメ男に甘い多恵美、という、三浦しをん作品ならではの個性的で等身大の登場人物達のやり取りが面白おかしく、時に切なく寂しく描かれています。

 

 


ドラマ
『あの家に暮らす四人の女』は2019年9月30日にテレビ東京スペシャルドラマとして放送されることが決定しています。

 

キャスト
牧田佐知中谷美紀
上野多恵美吉岡里帆
谷山雪乃永作博美
牧田鶴代宮本信子

 

原作の佐知は平凡な見た目でトドのような体型を気にしているという設定なので、中谷美紀さんだと美人すぎるじゃろ!だし、雪乃も永作博美さんだと年齢や容姿の設定が違うなぁと思うのですが、ドラマでは“年齢も性格もバラバラな四人の女性が共同生活をしている”という、原作よりもより“バラバラ感”を強調する作りになっているのかもしれません。

多恵美や鶴代は割と原作のイメージ通りかなぁと個人的には思います。キャスト一覧の二番目に多恵美の名前があるので、ストーカー騒動に時間を割いて描かれるのかも。原作ですと多恵美は四人の中では比較的出番が少なく、印象が薄いですからね(キャラクターは濃いけど)
演出でどう見せるかによってお話の雰囲気やとらえ方が劇的に変わる原作だと思いますので、ドラマではどう味付けされるのかに期待ですね。

 

 

 

 

 


以下、若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

語り手
少し前までは文学界は「父親殺し」が題材とされることがもっぱらでしたが、近年は「父親の不在」を描くことが多くなってきているのだとか。私はエンタメミステリばっかり読んでいるのでよくわかりませんが・・・(^^;)。


今作も「父親の不在」が大きく描かれています。佐知は父親の行方をまったく知らないままに生きてきた女性で、ある種の父親コンプレックスを抱いています。異性に積極的になれないまま今日まで至ってしまったのも、その事が起因しているのではないかと自己分析したりしているのですが、佐知の父は意外な形で常にこの物語りに登場しているのだと終盤でわかる仕掛けが施されています。

 

中盤でいきなりカラスの集合知、カラスのイデアたる「善福丸」が鶴代と佐知の父親との出会いを語る場面があり、それまで四人の日常のやり取りを淡々と読んでいた読者はちょっと驚くというか、戸惑ったりするのですが(※文庫版の表紙絵にカラスが描かれているのもそのため)、終盤で実はこの物語りの語り手は死んだ佐知の父・牧田幸夫なのだということが明らかにされます。


当初の段階から語りの視点が定まらず「これは誰の視点での語りなのかな?」と読んでいて思っていたのですが、この語りは死んで牧田家の周辺を浮遊し、世の動きのほとんどを知り、人の心の動きすら覗こうと思えば自在に覗けるが、“ただ見ているだけ”という、人間がいうところの「神」にほぼ等しい立場となった牧田幸夫によるものだったのです。
読んでいて語りに不審を抱いていたので、この解答には「ああ、なるほど」と腑に落ちましたね。終盤、この“見ているだけ”だった語り手の父は、思わぬ形で娘の佐知を窮地から救います。

 

「父親の不在」に関しては、牧田家の敷地内の離れの守衛小屋に昔から住んでいる山田一という八十代の老人が重要なキーになっています。佐知は行方知れずの父親への複雑な想いから、他人なのにずっと一緒に過ごしている山田老人に対して少し邪険に接してしまっていたのですが、作中で今までに感じたことのなかった“父親の存在”を感じてからは吹っ切れてあたりが柔らかくなります。

 

「(略)私には、山田さんは佐知と鶴代さんの家族に見える。家族だからこそ、甘えて邪険にしちゃうってことなんじゃない」
「うん、そうかも。血もつながってないし、社会的には他人だけど、家族なんだよね。やっとそう認められるようになったというか、腑に落ちたというか、そんな感じ」

 

山田さんの存在によって、「父親の不在」のみならず、他人だけど一緒に暮らしている“家族”である雪乃と多恵美との関係も浮き彫りになっています。

 

 

 


おとぎ話
カラスの集合知「善福丸」や、死人の父親が語りとして登場するので読者の中には「話がいきなりSFになってしまった」と思う人もいるようですが、一部死人が珍妙な力を発揮する場面があるものの、今作はけっしてSFではないと思います。あくまで“あの家”での四人の女の同居物語りが描かれる現代版『細雪』です。


「善福丸」や「死人」は見守っているだけで四人の女の現世界には何ら及ぼすことはないからです。ミイラ乗っ取りは唯一現世に干渉した突発的事柄として、「そんなヘンテコなことも起こりうるかもしれない」くらいの事象として受け止めようというか。「善福丸」や「死人」が語りを勤めるのは今作の“おとぎ話”感を強めるためというのが大きいかなと。

 

作中では現在の結婚観なども度々描かれていますが、でもやっぱり、「仲のいい友達と末永く暮らしましたとさ」なんて、まるで現実味のない“おとぎ話”だと多くの人が感じるでしょう。

 

いつか喧嘩別れするかもしれない。特段の理由もなく、いつかなんとなく疎遠になってしまうかもしれない。けれど、「いつか」の未来を恐れて、夢を見るのをやめてしまったら、おとぎ話は永遠におとぎ話のままだ。孵化せず化石になった卵みたいに、現実化する道は閉ざされる。それって馬鹿みたいじゃないか、と佐知は思う。夢を見ない賢者よりは、夢見る馬鹿になって、信じたい。体現したい。おとぎ話が現実に変わる日を

 

今作は牧田家での女四人のゆるやかな日常が続いていく場面で終わっていて、一見なんの変化もなく感じられますが、多恵美はストーカーと切れて新たな恋に踏み出していて、いつ牧田家を出て行くともわからないし、佐知自身もイケメン内装業者さんとの交際が上手くいけば、いずれは雪乃がいつまでも牧田家に住み続ける訳にもいかなくなるのでは・・・という同居生活の「崩壊」を少し感じさせています。


喜ばしい変化だと思う一方で、楽しい四人の共同生活・“おとぎ話”がいつまでも続いて欲しいという、どこか寂しい気持ちにもなる読後感ですね。

 

とはいえ、先のことばかり考えて不安になってしまいがちな独り者には、まるでオアシスのような、気持ちを軽くしてくれるお話になっていますので、癒やされたい(?)方は是非是非。

 

 

 

細雪(上) (新潮文庫)

細雪(上) (新潮文庫)

 

 


ではではまた~

 

 

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六番目の小夜子 ネタバレ・解説 夏のオススメ本~⑥

こんばんは、紫栞です。
今回は久しぶりに夏のオススメ本で恩田陸さんの六番目の小夜子を紹介したいと思います。

六番目の小夜子(新潮文庫)

 

あらすじ
私たちの高校にはある奇妙な『行事』がある。
三年に一度、“サヨコ”と呼ばれる生徒が指名される。指名をするのは前回の“サヨコ”で、他の生徒には誰が“サヨコ”なのかは分からない。引き継がれるのは卒業式当日の在校生が卒業生に花束を渡す時で、そのメッセージを受け取った者は“サヨコ”になることを承知したという証に、四月の始業式の朝、自分の教室に赤い花を決められた花瓶に活けなければならない。赤い花が活けられた瞬間から『ゲーム』は始まる。
“サヨコ”は誰にも自分が“サヨコ”だと悟られることなく、文化祭で「小夜子」という女の子が出て来る芝居をやりとげられれば“勝ち”。それがその年の“吉きしるし”となり、学内での大学合格率が非常に良くなるという。
いつ、誰が始めたのかは正確には分からない。だがこの『行事』は十数年間にわたり続けられてきた。
そして、私たちの卒業するその年は「六番目のサヨコ」の年。
しかし、謎めいた美少女・津村沙世子が“サヨコのクラス”に転校してきたことで、「サヨコ伝説」は思わぬ事件を引き起すこととなった――。
「小夜子」を巡る、私たちの卒業までの一年間の物語り。

 

 

 

 

 


デビュー作
六番目の小夜子』は奥田陸さんの初作品でデビュー作。新潮社の第三回ファンタジーノベル大賞の候補となり、1992年に文庫として刊行されたもののすぐに絶版。

 

六番目の小夜子 (新潮文庫―ファンタジーノベル・シリーズ)

六番目の小夜子 (新潮文庫―ファンタジーノベル・シリーズ)

 

 

しかしその後、口コミなどで評判になり、大幅な加筆がされて1998年に単行本として改めて刊行された希有な作品。
こういった刊行経緯は桜庭一樹さんの砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけないに似ていますね。

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作家の綾辻行人さん・小野不由美さん夫婦は、『六番目の小夜子』を熱心に宣伝し世に広めた立役者であるとのこと。私は2000年刊行の文庫で読んだのですが、

 

六番目の小夜子 (新潮文庫)

六番目の小夜子 (新潮文庫)

 

 

98年の単行本には綾辻さんの解説が収録されているらしいです。

 

六番目の小夜子

六番目の小夜子

 

 

あと、綾辻さんは『Another』を書く際、『六番目の小夜子』のイメージを参考にしたとあとがきで書かれていますね。

 

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確かに世界観や雰囲気は共通する部分がありますので『Another』が好きな人にはオススメです。『Another』はこの作品とは比較にならないほど血みどろなホラーミステリですけどね・・・(^_^;)。

 

 


ドラマ
私は未視聴なんですが、『六番目の小夜子』は2000年にNHKドラマ愛の詩】という学生向けの枠で放送されていたドラマで一般に広く知られているようです。
もともと、このドラマ枠の前身的な枠NHKの【少年ドラマシリーズ】へのオマージュとしてこの作品を書かれたとのことで、まさに“おあつらえ向き”なドラマ化だったのではと思います。
このドラマでは主役の女の子がドラマオリジナルキャラクターだったり、高校生から中学生の設定になっていたり、人物関係も話の展開も変更されているらしいので、原作小説とは別物として愉しむものですかね。
しかし、そもそもこの小説自体が細かいところは気にせずに雰囲気を愉しむのが第一みたいな作品ってところがあるので、世界観が崩されていなければ違いをとやかく言うものでもないのかなぁと思います。

 

キャスト
●潮田玲鈴木杏
●津村沙世子栗山千明
●関根秋山田孝之
●花宮雅子松本まりか
●唐沢由紀夫勝地涼

 

潮田玲というのがドラマオリジナルキャラクターですね。原作だと沙世子、秋、雅子、由紀夫の四人がお話の主要人物となっています。

19年前のドラマなんですが、今こうやってキャストを見てみると有名俳優さんばかりで驚きますね。皆さん今もご活躍なのは凄い。キャスティングの段階で将来性が見抜かれていたのだろうか。他にも生徒役で山崎育三郎さんや佐野ひなこさんが出演しています。

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学園ホラー・ファンタジー・ミステリ
この作品がどんな作品かというと、ホラーとファンタジーとミステリで彩られた高校生の青春群像劇。

言い表すと色々と欲張りに詰め込まれていると感じるかもですが、これらの要素が絶妙な塩梅で構成されてします。


まず、六番目の小夜子というタイトルが良いですよね。このタイトルだけで興味をそそられます。そして、冒頭で説明される「サヨコ伝説」が不気味ながらもワクワクさせてくれて、その後をどんどんと読ませてくれる。
この感覚は七不思議や都市伝説を知りたがる感覚に似ていますね。ちょっとしたことに意味を持たしてああだこうだと思いをめぐらす愉しさというか。学校っていうのはこういう怪談ちっくな話で盛り上がりたくなる場所なんですよね。

「サヨコ伝説」は“学校”という特殊な閉鎖空間ならではの『行事』で、“学校”でなければ成立しない伝承で、そこら辺がこのお話の巧みなところだなと思います。“サヨコ”の継承が毎年ではなく三年に一度というのがミソなんですね。
三年間一つの箱にいて、卒業して去って行き、入れ替わりで新たな者たちが箱に入ってくるという、学校のシステムが最大限に利用されている。

 

この物語りは主要人物たちの高校卒業とともに終わります。「サヨコ伝説」は学校にいる間のみ、大人未満でいる刹那にかかっている魔法みたいなもので、卒業して“大人”となればとけてしまう。こう言うとトトロみたいですけど(^^;)「サヨコ伝説」を通してやがて失われてしまう青春の煌めきが描かれているのです。

 

 

 


歴代の「小夜子」
読んでいる最中にも忘れかけたりしたので、個人的備忘録もかねて五番目の「小夜子」までがしてきた行動や特徴を少しまとめてみます。

 

●最初の「小夜子」
文化祭で匿名の台本による『小夜子』という女の子の一人芝居の舞台が好評で、その年の大学合格率が非常に良かったため、『小夜子』をやった年は縁起が良かったのだ、となんとなく皆が思いこんだ。

 

●二番目の「小夜子」
三年が経ち、文化祭で『小夜子』を再上演しようということになり、イメージがピッタリだった女の子が小夜子役に選ばれるも、女の子は役に選ばれたことを知る前に交通事故で両親とともに死亡。上演は中止となり、その年の大学合格率は史上最低を記録した。

 

●三番目の「小夜子」
関根秋の兄が、花瓶が置いてある場所の鍵と手紙を受け取る。手紙の内容は
「きみが今年のサヨコをやるのならば、赤い花を自分の教室に飾りなさい、誰にも見つからないようにサヨコの芝居の準備をしなさい。
サヨコの選択股は三つある、きみが新たにサヨコを凌ぐものを用意できるのなら、再び赤い花を活けなさい、しれができず昔のサヨコを再上演するなら、からの花瓶を置きなさい、何もできないならば、何も置いてはいけない」
と、いうもの。
秋の兄は赤い花を活け、過去の『小夜子』を知る男子生徒が彼女を回想するという形の、男の一人芝居を書いた。劇の評判は良く、その年の大学合格率も史上一、二を争うほどよかった。

 

●四番目の「小夜子」
鍵を受け取ったのは気が強い女生徒で、「受験勉強で忙しいのに何故こんな訳のわからない変なことをしないといけない。こんな因習はやめるべきだ」と生徒総会に訴えた。
その後、その女生徒は受験の時期に原因不明の高熱を出して浪人、翌年もまた同じ時期に高熱を出し、ノイローゼとなってしまった。

 

●五番目の「小夜子」
四月の始業式に赤い花は活けてあったものの、あとは何もしなかった。『無言のサヨコ』と呼ばれている。

 


二番目の「小夜子」の事故死が大きな要因となって一連の『行事』に発展している訳ですが、作中でこの二番目の「小夜子」、事故死した女生徒の名前が「津村沙世子」だと判明。関根秋は自分のクラスに転入してきた津村沙世子と何か関係があるのでは?と、探り始めます。
お話の最初は花宮雅子と唐沢由紀夫が主のように書かれているのですが、この二人は途中からサヨコ伝説とはさほど関わらなくなり、関根秋と津村沙世子の二人が主軸となっていきます。


津村沙世子が色々と不可解な行動をとる中、関根秋がサヨコの謎を追い、その傍らで青春を謳歌する花宮雅子と唐沢由紀夫が描かれるといった形ですね。

 

三番目の「小夜子」の時点で生徒総会の手によってサヨコ伝説のシステムが決められていて、間の二年間は鍵の受け渡しはどうなっているのかというと、鍵を「渡すだけのサヨコ」がいるという設定。四番目と五番目の「小夜子」の間には、関根秋の姉・夏が「渡すだけのサヨコ」をしており、短編集『図書室の海』で今作の番外編としてその時のエピソードが描かれているようです。

 

図書室の海 (新潮文庫)

図書室の海 (新潮文庫)

 

 

関根家は兄弟三人ともがサヨコ伝説に関わったということで、何か因縁めいたものを感じますが・・・単に家系が優秀なので目立つってことなんでしょうか。

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おかしな?結末
私は『六番目の小夜子』を最初に読んだのは十年以上前で、今回久しぶりに再読してみた訳ですが、最初に読み終わったときは結末が解せないというか、納得がいかなかったんですよね。詳細を忘れたなぁと思って改めて読み返してみたんですけど、終盤まではミステリアスな展開に惹きつけられて面白く読み進められたものの、やっぱり結末は腑に落ちない箇所が多々ある。


ハッキリ言って、ミステリ小説だと思って読んだら後悔するだろうと思います。

 

作中では思わせぶりな謎が多数出て来るのですが、これらの謎や伏線が殆ど回収されないままにこの物語りは終わってしまいます。
疑問はありすぎるほどあるのですけども、特にわからないのは「津村沙世子」ですね。
この『六番目の小夜子』は津村沙世子が謎の中心人物として描かれているお話ですが、この沙世子が行動に一貫性がないというか、「いったいなのをしたいんだ、コイツ」と理解しがたいんです。
なにか目的があって行動している風で、終盤で秋が

「そうか、わかった、津村は『サヨコ』をやめさせるために来たんだ」

と、突如理解したと地の文で語っていますが、その後の津村沙世子の行動はむしろサヨコ伝説を続ける後押しをしているように見えるし、転入してきた訳が語られる沙世子の独白では、サヨコ伝説を知って高揚したと書かれているだけで「やめさせるため」とは出て来ない。


関根秋へ恋心を抱いている佐野美香子を唆して部室に火をつけさせるのですが、何故そんな回りくどいことをするのかがわからない。自分でやれよと思うし、そもそもマニュアルを消したいだけなら火を点ける以外にいくらでもスマートな方法があるでしょう。放火は大罪だし。
人の気持ちを弄ぶのって、ホント罪深いですよね。読んでいて沙世子にムカムカしました。自分がそう誘導したくせに、秋が火事に巻き込まれたと気づくと助けようとパニックになるのがまた意味不明。

火事が起こって以降と以前でまるっきり違う人物になっているような印象を受けます。いきなり神秘性が剥奪されて唯の女の子になったというか。

火事以前までは「二番目の小夜子」が取り憑いていたとかそういうことなんでしょうか?そう考えると操れていたはずの野犬が、火事のときには追っ払えなかったのとか納得いくような気がする。気がするだけですけど(^^;)。

 

他にも黒川先生のこととかもハッキリとはわからずじまいでモヤモヤするのですが、しかし、まあ、この物語りは“学校”という特殊空間に満ちている刹那の輝きと愛しさ、不気味さと恐ろしさを描くのが目的で、意図的にこうなのかも知れません。学校の不思議というのはわからないままに円環していくものですからね。

 


謎は雰囲気を盛り上げるためのスパイスで、ホラーファンタジーの世界観の中で青春小説を満喫するのがこの作品の愉しみかたなのかなと思います。
凄く怖いというものではないですが、演劇の部分は読んでいて何ともゾクゾク・ザワザワしてきて今作の見所の一つです。
夏の夜に読むのがオススメですね。

 

 

六番目の小夜子(新潮文庫)

六番目の小夜子(新潮文庫)

 

 

 

六番目の小夜子 (新潮文庫)

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ではではまた~

 

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「カエル男 ふたたび」 ネタバレ・感想 あの衝撃ラストからの続きはいかに!?

こんばんは、紫栞です。
今回は中山七里さんの『連続殺人鬼カエル男 ふたたび』をご紹介。

連続殺人鬼カエル男ふたたび

2011年刊行の『連続殺人鬼カエル男』の続編です。

 

 

 

以下、あらすじも含めて前作のネタバレになるのでご注意下さい。

※前作『連続殺人鬼カエル男』の詳細についてはこちら↓

 

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あらすじ
凄惨な殺害方法と、その遺体のそばにカエルに擬えた稚拙な犯行声明文を残す猟奇殺人犯「カエル男」が埼玉県飯能市を恐怖と混乱でパニックに陥れた「飯能市五十音順連続殺人事件」から十ヶ月後、この事件に深く関わっていた精神科医御前崎宗孝の自宅が爆破され、跡から御前崎教授と思われる遺体と「カエル男」による犯行声明文が発見される。
飯能市五十音順連続殺人事件」で最初に犯人として捕まった当真勝雄が退院してすぐの出来事であった。
果たして、これは当真の報復によるものなのか。
協力要請を受け、埼玉県警の渡瀬と古手川は捜査に乗り出すが、警察の必死の捜索にもかかわらず、当真勝雄の消息はまったく掴むことが出来ない。
そんな最中、さらなる五十音順殺人が次々と発生。さらには、医療刑務所に収監されていた有働さゆりにも新たな動きを起し――。
破裂・溶解・粉砕。「カエル男」が起す悪夢に渡瀬と古手川がふたたび挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

ふたたび
『連続殺人鬼カエル男 ふたたび』という、そのまんまで長いタイトルの通り「カエル男」がまたも悪夢を繰り広げる続編です。

前作での終わり方が終わり方なので、続くのが意外なような、意外でないような~・・・ですが。ま、前作を読んだ人間にとってはやはり見逃せないですね。“アレ”の続きがあるとこられちゃ。

 

ミステリ小説のシリーズはどこから読んでも単体で楽しめるような作りになっているものも多いですが、今作は絶対に『連続殺人鬼カエル男』を先に読まないと駄目ですね。『ふたたび』の方から読んでしまうと、前作での衝撃も今作での面白さも色々と半減します。

洗脳がとけないままに退院した当真勝雄、「カエル男」として捕まった有働さゆり、二人を操って犯行をさせた首謀者であるにも関わらず、直接手を下した訳ではないので逮捕出来ずじまいだった御前崎宗孝教授。
三人や他事件関係者のその後が読めるのは勿論ですが、著者の別シリーズ作品である『贖罪の奏鳴曲』

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 の主要人物・御子柴礼司が有働さゆりの弁護士として今作にも登場していたりと、ファンには嬉しいサービスも。


私は単行本で読んだのですが、文庫版ですと巻末に今までの中山七里作品の人物相関図が掲載されているようです。

 

 

 

中山七里作品は出版社やシリーズをこえて登場人物が絡まり合っているらしいので、ファンにとっては整理するのにうってつけなのではないかと思います。

 

前作は古手川の単独行動が多く、有働親子とのやり取りや衝撃的な事が次々と起こる怒濤の展開で起伏が激しい作品でしたが、今作は割かしと淡々としていて、渡瀬と古手川の捜査過程が実直に描かれている印象です。
前作ほど展開の驚きというものはないんですけど、渡瀬&古手川コンビのやり取りは堪能出来ます。

前作から十ヶ月経ったという設定で、古手川もだいぶ上司慣れしたもよう。渡瀬の老獪さが読んでいて面白いですね。古手川がやっぱりタフすぎてビビる。前作で大怪我を負ったものの、左足(※原型が解らないほどの複雑骨折をした)を少し引きずる程度の後遺症しか残っていません。


あ、すごい。あんな大怪我したのに、もう傷跡も残ってない。古手川さんって頑丈なのね。いったいどんな身体してるのかしら」


と、作中で看護師さんにも言われています。
ホントおかしい。どうなっているのか古手川の身体は。しかも、今作でも懲りずに終盤で犯人とやり合って怪我を負っています。でももう、「古手川は不死身なんで大丈夫!」という変な安心感があるので、読んでいても全然ハラハラしない(^_^;)

 

あと、今作もグロ描写はてんこ盛りですので、人によっては注意が必要ですかね。

 

 

 

三十九条
前作は深刻な社会問題までもトリックの一要素として使っているところが秀逸な点だったのですが、今作はトリックのためとかでは無く、日本の司法制度の問題点について描くのがメインだという印象の作品になっています。

御前崎教授の娘と孫が殺された事件「松戸母子殺害事件」の詳細が明らかにされていますが、これはもう完全に光市母子殺害事件がモデルに使われていますね。殺害方法もそうですが、被害者の夫の反応や裁判での弁論なども『光市母子殺害事件』を強く連想させるものとなっています。

 

大きく違う点は、作中事件では御前崎教授の娘と孫を殺した犯人・古沢冬樹は弁護士の提案で詐病により刑法第三十九条を使って無罪となっていて、それで刑法第三十九条の可否について強く問われる構成となっているのですが、実際の『光市母子殺害事件』で大きく問われたのは死刑適用についてで、法廷では無期懲役か死刑かで長らく争われていました。最高裁で死刑確定されています。

 

作中では繰り返し「無責任に心神喪失の殺人者を擁護する世論」について書かれ、御前崎教授もその世論への怒りから前作の事件を引き起こした訳ですが、これが読んでいて個人的に少し疑問ですね。
現実には心神喪失の殺人者への擁護の声ってかなり少数派で、厳罰を望む声が大半というか。事件内容が残虐極まりないものだし、“無罪に賛同する多くの世論”ってちょっと考えにくいんですよね。皆そんなに人権派気取ってないでしょと思うし、精神障害者に対してやさしい世の中だとも思えない。

 

とはいえ、システムの不備こそが問題だという指摘は大いに頷けます。予算不足により医療施設に長らく置いておくことが出来ず、寛解状態かうやむやでも退院させ、その後は放置してしまう現状。

「凶悪犯罪が起こる度に心神喪失者等医療観察法を見直せという議論が再熱する。だが、抜本的な改正になることはない。劇的に変えてしまうにはあまりにセンシティブな問題だからだ」

問題だと解りつつもどうすることも出来ない。難しい問題で、非常に考えさせられるテーマですね。

 

 

 

 

 

 

以下がっつりとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ミステリとして
目次は
一・爆ぜる
二・溶かす
三・轢く
四・粉砕する
五・裁く

で、前作同様に五章での作りになっています。


一章で御前崎教授が爆死、二章で工場職員の佐藤尚久(さとうなおひさ)が硫酸プールに落ちて死亡、三章で出版社勤務の志保美純(しほみじゅん)が電車に轢かれて死亡、第四章で精神科医の末松健三が破砕機に巻き込まれて死亡・・・・。


と、いった具合に「カエル男」の犯行が繰り返される訳ですが、ア行が終わって次はカ行かと思いきや、カ行をすっ飛ばしてサ行に移ってのターゲット選びとなっています。※カ行が飛ばされるのなんだか納得いきませんが、どうもこうもしょうがないので納得するしかない。

 

今作『連続殺人鬼カエル男ふたたび』での「カエル男」は誰なのか。それは御前崎教授です。


御前崎教授は訪ねてきた当真勝雄をまず殺害。予め用意していた自分の身代わりとなる老人を殺し、自宅を爆破。自分が死んだと見せかけ、佐藤尚久の事故死、志保美純の自殺を現場に「カエル男」による犯行声明文を置くことによって「五十音順殺人」が再開されたかのように偽装。「松戸市母子殺害事件」で弁護士と結託して鑑定書を作成した精神科医の末松健三を殺害。娘と孫を殺した張本人・古沢冬樹が仮出所で医療刑務所から出て来たところを襲い、待ち構えていた警察に逮捕されます。

 

勝雄が犯人じゃないんだろうなというのは予想がつきますし、“顔が解らない死体は偽装”というのは本格推理小説のド定番ですし、硫酸プール落下と轢死は犯行声明文が発見されるのがやたらと遅いので後から置いただけだろうというのも読んでいて察しがつきます。
有働さゆりは途中まで医療刑務所にいたのだから、「カエル男」の名前を使って末松健三と古沢冬樹を狙う動機があるのはもう消去法で御前崎教授しかいない。

 

犯人もトリックも驚くものではないのもそうですが、チグハグに感じてしまうのは、前作で自らの手を汚さずに証拠も一切残さずに見事に犯行計画を遂行させた御前崎教授が、今作では全て自身で犯行を行うという“単純な殺人者”になってしまっているところです。

直接の犯行をしていなかったからこそ逮捕出来なかったという犯人としての特性が、あっさりと放棄されて酷く短絡的になってしまったような・・・いきなり馬鹿になってしまったように見える(^^;)。
渡瀬は教授が有働さゆりに外傷再体験セラピーを施した際に、施術者である教授自身が有働さゆりの狂気に影響されてしまったんじゃないかと言っていますが、ちょっとこじつけっぽいというか、後付け感は否めないですね。

 

そして、逃走中の御前崎教授に対面したホームレスの兵さん、警察に供述するときに「老人だった」と言わないの、どう考えても不自然ですね。フードを被っていて顔がよく見えなかったとはいえ・・・。
成人男性を軽々と持ち上げているし、格闘しても顔が見られるまで古手川に勝雄なんだと疑われないぐらいだし、教授は体力面がかなりお若いのだろうか。

 

 

 

 

みたび・・・?
そんなこんなで、エンタメミステリとしては前作を凌駕しているとは言い難いですが、司法制度の問題点やコンビでの捜査のやり取り、前作での登場人物達の後日談などは十分に愉しめますので、今作は読者サービスというか、前作で描ききれなかったことを補足する意図が強いのかな?とも思いました。

が、しかし。
今作でのラストは脱走した有働さゆりが、御前崎教授が取り逃がした一番の標的・古沢冬樹を殺害しようとしているところで終わっていて、その後古沢冬樹や有働さゆりがどうなったのかきちんと判らずじまいに終わっています。

この終わり方は前作を彷彿とさせるものですので、ひょっとしてまた続くのかなぁ~と。『連続殺人鬼カエル男』は三部作構成なのかもしれません。この第二弾がどこか消化不良なのもそのせい・・・・・・・かも。

 

『連続殺人鬼カエル男 みたび』

あるのでしょうか?
もしあるのだとしたら、その時はやはり読まねばなりますまい。悪夢には最後までお付き合いをしなくては。

 

ではではまた~

 

 

 

 

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『連続殺人鬼カエル男』ネタバレ・あらすじ どんでん返しの有名作を解説

こんばんは、紫栞です。
今回は中山七里さんの『連続殺人鬼カエル男』をご紹介。

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)

あらすじ
埼玉県飯能市にあるマンションで女性の他殺体が発見される。遺体は全裸で、口にフックをかけられ、13階からぶら下げられているという凄惨極まるものであった。そして、その傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文が置かれていた。
「きょう、かえるをつかまえたよ。はこのなかにいれていろいろあそんだんだけど、だんだんあきてきた。おもいついた。みのむしのかっこうにしてみよう。くちからはりをつけてたかいたかいところにつるしてみよう。」

異常者の犯行とみて捜査を開始する警察だが、その捜査をあざ笑うかのように第二、第三の殺人事件が発生。無秩序に猟奇的な犯行を続け、その度に“かえる”に擬えた犯行声明文を残す--・・・犯人は「カエル男」と呼ばれ、誰もがその名に怯えるようになる。
やがて犯行の法則性が明らかにされると、街は恐怖と混乱でパニックに陥り、暴動が多発する事態に。
埼玉県警捜査一課の渡瀬と古手川は、暴徒と化した市民に捜査を阻まれつつも、必死に「カエル男」の正体に迫るが――。

 

 

 

 

 

 

 

 

“どんでん返し”の有名作
作者の中山七里さんは『さよならドビュッシーから始まる【岬洋介シリーズ】で一般に広く知られている作家さん。

 

 

『さよならドビュッシー』は「このミステリーがすごい!大賞」の受賞作で、中山さんのデビュー作でもあるのですが、この『連続殺人鬼カエル男』は改題前の『厄災の季節』というタイトルで『さよならドビュッシー』とともに「このミス大賞」初のダブルエントリーをされて話題になった作品。受賞したのは『さよならドビュッシー』の方であるものの、「こっちを読みたい!」という「このミス大賞」ファンからの声によって刊行されるに至ったんだそうな。

 

『連続殺人鬼カエル男』は、どんでん返し系ミステリ小説のオススメランキングなどで度々名前が挙がる、ミステリ界隈ではやたらとなんだか有名な作品。読んだことはなくっても“カエル男”というタイトルは聞いたことあるという人も多いのではないかと思います。私もその一人でして、おすすめサイトなどを見てタイトルだけは以前から知っていたものの、今まで読まずじまいでした。そんなに有名ならいっちょ読んでみるかと今回手にとってみた次第です。

 

分類としてはサイコサスペンスで、そっち系ではやり尽くされている感がある精神鑑定や少年法、刑法第三十九条などを扱った物語りになっていて(一時期はこの刑法第三十九条を扱うサスペンス、ホントにいっぱいありましたよね)

 

39 刑法第三十九条

39 刑法第三十九条

 

 

サイコサスペンスでお決まりの司法制度と人間感情との間で起こる問題点を指摘する社会派ミステリという“サイコものの定番”をド直球に描いている作品という雰囲気で、特に目新しさはないなと思わせつつ、終盤に怒濤のどんでん返しで読者を唖然とさせてくれます。

実はこの「社会派部分」がトリックの素材のために使われているのが今作での突出した点ですね。

 

私個人としては、読み終わった直後の感想は「満足したな」というものでした。
どんでん返し系ミステリなんだという前知識があったので、驚きはしたものの「想定内さ」という気構えだったのですが、期待通りのどんでん返しの後にまた意表を突く真相が最後の最後で判明する、「良い意味での期待の裏切り」があって、この系統のミステリの愉しさを最後の一行まで味わわせてくれた小説だったなぁと。空恐ろしい終わり方をするのですが、私には恐怖よりもミステリ的満足感が勝りましたね。
どんでん返し系ミステリのオススメランキングで上位にくるのも納得の作品です。

 

 


ドラマ
『連続殺人鬼カエル男』は、2020年1月10日から『このミス』大賞ドラマシリーズの第4弾として実写ドラマ化が決定しています。関西テレビでの放送とU-NEXTでの配信予定。全八回。キャストなどの詳細はまだ不明ですね。


こんなに有名作なのに、まだどこでも映像化されていなかったのは意外な気もしますね。一部トリックが映像でやるには困難だからでしょうか。あと、死体の状態とかも・・・。

「カエル男」と呼ばれる犯人が陰惨な殺人を繰り返すという点から、漫画で映画化もされたミュージアム

 

 

を連想する人や、この小説が『ミュージアム』の原作本なんだと勘違いする人などが結構いるようですが、作者も異なりますし、まったくの別作品で関連性もありません。影響を受けたとかそういうこともないと思います。ジャンルも扱っているテーマも違いますしね。
漫画も映画も私はちゃんと観たことはないのですが、『ミュージアム』はどっちもめっちゃ恐そうですよね・・・。漫画の紹介ページや映画予告だけでも恐かった(^^;)

 

ミュージアム

ミュージアム

 

 

 

 

 

古手川・渡瀬
今作での中心人物は刑事の古手川と渡瀬。
主役の古手川は一年前に捜査一課に配属された若手刑事。自尊心と功名心が高く、上司である渡瀬に対しても能力が高いことは認めつつも「いけ好かないオヤジだ」と反発心や嫌悪感を抱いている生意気な若造で、読者的にはそっちが「いけ好かないガキだよ」って感じ(^_^;)
当初はこの事件捜査も功名心からくる気持ちで挑んでいる部分が大きかったのですが、捜査の最中に、ピアノ教室をしながら保護司をしている有働さゆりやその息子と触れ合うことで事件への取り組み方が変わっていきます。渡瀬への態度もどんどんと素直になっていって、最終的にはきちんと尊敬できるように。古手川の成長は今作の見所の一つになっています。


古手川自身、刑事になった切っ掛けは学生時代の罪悪感からくるもので精神的に不安定で問題を抱えている人物なのですが、有働さゆりのピアノ演奏を聴いて感動。仕事に対する心構えや人との接し方に変化が生じていきます。
そういう訳で、ピアノが大きな役割を担っているため、演奏部分はだいぶページを割って丁寧に描かれています。中山七里さんは音楽描写を得意にしている作家さんらしいので、今作でもそれが発揮されているということでしょうか。音楽への思い入れの強さが伝わってきますね。

 

 

渡瀬は警部で捜査一課の班長。パソコンが駄目だったり勘を信じたりと“いかにも”な古株の刑事かと思いきや、やたらと博識で捜査能力に長けたキレ者。主役は古手川ですが、どちらかというと探偵役は渡瀬の方が担っています。後半はお話の展開上、登場シーンが少ないのでチト寂しいですが、最後の最後はビシッと謎解きをしていて古手川のお株を取ります。

この古手川と渡瀬のコンビは他作品でも脇役として度々登場するらしく、特に2011年刊行の『贖罪の奏鳴曲』では今作とリンクする部分が多数あります↓。

 

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以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気になる点
今作ではミステリ的な仕掛けや謎解き要素とは別に、得体の知れぬ猟奇殺人犯が出没したことのよる街の人々の動向が描かれていています。

最初は闇雲に不安がるだけの街の人々でしたが、犯人が被害者を名前の五十音順で選んでいるという犯行の法則が明らかにされると、恐怖と混乱が熾烈さを極めていきます。最終的に精神異常による犯罪者のリストを公開しろと武器を持って警察署を襲いにくるまでに。署は大混乱となり、ヤクザの抗争レベルの乱闘が繰り広げられます。死人が出なかったのが不思議なほどですね。


色々なレビューでも書かれていることですが、ここの乱闘場面が異様に長く読んでいて中だるみする・・・と、いうか、ミステリ小説なんだかバイオレンス小説なんだか、私は今、何を読んでいるんだ?と混乱してきます(^^;)


ここまでの騒動になるのかも少し疑問で、リアリティが感じられないというのもあるのですが、そこはまぁ追い詰められればあり得るかとも思いますし、そういう人間の恐ろしさを描くことで正常と異常の紙一重さを表すのが著者の意図なんでしょうが、それにしても長いですね。どう考えても、もっとこの描写は短くていいでしょうと。


しかも、この警察署襲撃で大怪我を負った古手川はさらにその後、傷も癒えないうちに二回も犯人と生死をかけた格闘をしています。常人ならばどう考えても死んでいる。古手川の不死身っぷりはある意味今作一番のミステリです。

 

あと気になった点としては、初期の作品だからかも知れませんが、なんだかワザワザ難しい単語を使って物事を説明していると感じました。単に私の語学力が低いだけということもあるでしょうけど・・・(^_^;)

 

 

 

 


仕掛け
物語りは
一・吊す
二・潰す
三・解剖する
四・焼く
五・告げる

の、五章での作り。

各章のタイトルは「カエル男」の行動をそのまま示しています。


主な語りは古手川ですが、合間合間に犯人と思われる人物の生い立ちを振り返る独白場面が挿入されています。名前は「ナツオ」
十歳の頃より父親から性的虐待を受け、代償行為として小動物の殺生にいそしむようになり、エスカレートして十二歳の時に近所の女の子を殺害。逮捕され、医療少年院おくりになるまでが描かれています。
医療少年院を出所する際、家庭裁判所に改名を申請出来るという情報が作中で提示されるため、言動の類似点などから有働さゆりが保護司として面倒をみている前科者・当真勝雄がこの独白の語り手で「カエル男」なのだと読者に思わせるように描かれています。
やがて当真勝雄の部屋から古手川が物的証拠を発見。勝雄は逮捕され「自分がやった」と犯行を自供しますが、実は「カエル男」の正体は勝雄の保護司である有働さゆり

 

犯罪被害給付金を目当てに実の息子である真人を殺害することにした有働さゆりは、目眩ましに五十音順に無関係な人間を殺す計画を立てて遂行。罪を当真になすりつけるべく勝雄の昔の日記を犯行声明文として利用して、勝雄にも意識操作をして自身が「カエル男」なんだと信じ込ませた・・・。

 

有働親子に一時癒やされ、真人の死によって「カエル男」を捕まえるべく執念を燃やしていた古手川にとってはこれ以上ないくらい非道な真相ですよね。まさに悪夢。

 

今作でのメインの仕掛けは男だと思っていた「ナツオ」が女だったという、性別誤認の叙述トリックです。
叙述モノで性別誤認は王道の(?)仕掛けですが、今作では父親から性的虐待を受けている描写、性行為部分が最大の引っかけになっています。女性相手には通常しない行為をしているので、男子なんだと誤認してしまうんですね。


虐待の酷さを伝えるための執拗な描写だと思いきや、実はこの描写が読者を騙すために作用している・・・。
うん、そうか、あえて女性相手にアブノーマルな方法をとりたい輩もいるんだものなぁ・・・・うん。ここの描写から安易に男性だと連想してしまった自分が何か恥ずかしいような、微妙な気分になる(^_^;)。


なんにせよ、「やられたな」と。王道ながら意表を突く仕掛けですね。
最初の犯行の、口にフックをかけて13階から吊すとうのも、力のある男性でないと困難だろうという先入観や(※コレには物理的なトリックがある)、犯人を表す名称に“男”とついているなどの部分も性別誤認のトリックに作用しています。作品タイトル自体が読者を騙す仕掛けとして使われているのは別の叙述モノの有名作にもありましたね↓

 

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御前崎

本命の標的とその関連を悟らない目隠しのために名前の五十音順に殺人を繰り返すというのはアガサクリスティーABC殺人事件での設定そのままですね。

 

ABC殺人事件 (クリスティー文庫)
 

 

しかし、今作では『ABC殺人事件』を踏襲していると見せかけて、さらなる仕掛けが最後に隠されています。


被害者たちは五十音順に、荒尾礼子(あらおれいこ)指宿仙吉(いぶすきせんきち)、そしてさゆりの息子である有働真人(うどうまさと)、弁護士で病院に入院中だった衛藤和義(えとうかずよし)と殺されていきます。

勝雄に続き、改めて犯人として有働さゆりが逮捕される訳ですが、第五章の「告げる」の後半で、さらに真相は一変します。勝雄とさゆり、両方の治療を受け持った精神科医御前崎宗孝こそが有働さゆりを操り、「カエル男」事件を引き起こさせた張本人なのだと渡瀬の追求により明らかになるのです。


御前崎教授は過去に娘と孫を未成年者に殺されたことがあり、その時の裁判で刑法第三十九条を持ち出して被告を無罪にした弁護士・衛藤和義を殺すことが狙いでした。
さゆりに実の息子を殺させることもまた、御前崎教授による目眩ましのための殺人だったのです。

何故こんな無関係な人間を殺すような無茶苦茶な殺人計画を立てたのかというと、三十九条への批判を込めてのものなんだとか。

 

「(略)世論も法曹界も刑事責任の追及よりは少年の健全育成が重要なのだという。良かろう。人を殺めた者も寛解状態を認められれば社会に復帰する。それも良かろう。だが、それは人を喰らった獣を再び野に放つことだ。野に放てと叫んだ者は、その獣と隣り合わせに暮らす恐怖を味わう義務がある」

 

娘と孫を殺した少年を、心神喪失者だからと赦そうとした世論への復讐。
しかし、こんなのは唯の八つ当たりですね。

 

「(略)あの爺さんがしたことは復讐なんかじゃない。いくら娘の無念を晴らすためでも、自分で手を汚さずに無関係な人間を巻き添えにするなんてただの腹いせじゃないか。あの爺さんは嘘を吐いている」
「その通りさ。ただな、嘘ってのは他人に吐くんじゃない。大抵は自分に吐いているんだ。そうやって嘘吐きは自分の首を絞めていく」

 

直接手を下した訳ではないため、古手川と渡瀬は真相を知りつつも御前崎教授を逮捕することが出来ません。古手川は弁護士の他にも鑑定医と収監中の少年のことも亡き者にしようと御前崎教授が企てるのではと危惧しますが、教授には皮肉な因果応報が待ち受けていました。
有働さゆりが逮捕されたことにより、当真勝雄は退院後元の生活に戻れることに。洗脳がとけていない勝雄はさゆりの意思を継いで「カエル男」として五人目の獲物を“オ”のつく人物から選びます。


――オマエザキムネタカ。

 

 

 


続編
と、ここで『連続殺人鬼カエル男』は終了しています。「ひぇ~」って感じの終わり方ですが、なんと2018年5月に続編として『連続殺人鬼カエル男ふたたび』が刊行されました。

 

御前崎教授の末路についてそこで明らかにされているようなので、また読んで感想をまとめたいと思います!

 

※読みました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

 

 

 

 

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『dele3』ディーリー小説版 ネタバレ・感想 待望の続編!

こんばんは、紫栞です。
今回は本多孝好さんの『dele3』の紹介と感想を少し。

dele3 (角川文庫)

待望!
2018年放送のドラマとの連動企画で書かれた原作(原案)小説【dele】のシリーズ第3弾です。
続いてくれましたね・・・!歓喜です。

『dele2』で思いがけない展開になって祐太朗が事務所を去り、切なくも感動のラストを迎えていたので続編は望み薄かと思っていたのですが、(※1・2の詳細につきましてはこちら↓)

 

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2019年6月にめでたく『dele3』が発売されました。
祐太朗と圭司がまた一緒に働く姿を熱望していたので、あのラストから続いてくれたのは読者として本当に嬉しいです。熱望していたくせに発売されたのに気づかずに読むのが遅くなってしまいましたが(^^;)。やはり小説の刊行情報はこまめにチェックしないとダメですね・・・。

 

ドラマの最終回が小説と違って祐太朗が事務所に残ることを選んでの終わりだったので、ひょっとしたら小説の方も続いてくれる・・・・・・?と淡い期待をしていたのですが、それが現実のものに。
ドラマはドラマで小説とは違う独自の展開をしていて、それはそれで面白かったですね。完成度の高い良いドラマでした。個人的にドラマも続編希望です。

 

 


今回は最初から文庫での刊行で「リターン・ジャーニー」「スタンド・アローン」の二編収録。

 

では順番にご紹介。

 

●「リターン・ジャーニー」
あらすじ
死後、誰にも見られたくないデータを故人に代わってデバイスから削除する会社・『dele.LEFT』の所長である坂上圭司がある日突然姿を消した。
圭司の姉・坂上舞から事情を聞いた真柴祐太朗は、かつての勤務先であった『dele.LEFT』の事務所を訪れるが、圭司の机の上には今までに見覚えのないパソコンが置かれており、ディスプレイ画面には四桁の暗証番号が要求されていた。
このパソコンの中に圭司の失踪に繋がる何らかの手掛かりが残されているのではないかと考えた祐太朗はデジタルに関する知識が豊富な中学生・堂本ナナミの元を訪れる。
舞とナナミ、祐太朗の三人でパソコンに入っていたファイルの情報から圭司の行方を追うが、そのファイル内容は得体の知れぬ陰謀へと繋がっていて――。

 

 

 

職場復帰 

どうです、この展開。何かワクワクしますよね(笑)。
『dele2』で祐太朗が事務所を去ってから四ヶ月ほど経っている設定です。意外とそこまで経っていないんだなとちょっと拍子抜けしつつも安堵。あれからもう一、二年程の月日が流れた~とか言ってくるのかっていう気になっていたので。前作での最後の「期限のない約束~」とか「いつか遠くない未来に・・・・・・」などの言い回しの雰囲気的にそうかと。ま、祐太朗が思っていたよりも早く“その時”が来たってことなんですね。良かった良かった。

 

前作でのあのラストからどう繋げるのかな~と思っていたらケイが失踪するところからのスタート。
『dele2』に収録されている「ファントム・ガールズ」

 

dele2 (角川文庫)

dele2 (角川文庫)

 

 

に登場したデジタルの凄腕で登校拒否女子中学生の堂本ナナミが再登場。ケイとデジタル上で張り合うほどの腕をもった女子中学生という“只者じゃない”キャラクターで、一話のみにしか出て来ないの勿体ないなとか読んだときは思ったものですが、まさかの再登場です。かなり活躍してくれています。ナナミちゃんがいなかったらこのお話はにっちもさっちもいかなかったですね。

 

 

 

 

以下ネタバレ注意~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐太朗がケイの行方を追うという形式でお話が展開していくので、ケイは終盤まで姿を現しません。暗証番号が設定されたパソコンを置いて失踪というところからしてそうですが、他にも色々と不吉な事柄がチラホラしてくるので、終始、ケイの安否にハラハラ。どう展開してもおかしくないシリーズですからねぇ。死なすことも十分考えられる訳で・・・(^_^;)。

しかし、読者の期待通りの立ち振る舞いで無事生きて登場してくれて「おお、キタ」と興奮、そして、安心しました。ホント良かった・・・。

 

色々とあったケイと祐太朗の二人ですが、再会した途端に前と変わらぬ調子でやり取りしているのにニンマリ。
今回のゴタゴタの末、なんやかんやで自然と祐太朗は『dele.LIFE』に戻ってくることに。いったん辞めていたというより、ケイの「また連絡する」の言葉通り、少~し、四ヶ月間休職していただけって感じですね、状況的には。まあ祐太朗も「辞める」とハッキリ宣言した訳じゃなかったですしねぇ・・・。

 

 

 

 

夏目(ミツメ)
今までの作中でも度々名前が挙がっていたケイの大学の先輩で『dele.LIFE』の元従業員「夏目」が今作では深く関係してきます。
夏目はクラッキングに関してはウィザード級を超えてルシファー級だと評される“そっちの世界”では「ミツメ」という通称で呼ばれ、ほとんど伝説みたいな扱いをされている有名人。

・・・と、いう、よく分からないけどとりあえず何とも凄そうな人物として『dele2』収録の「チェイシング・シャドウズ」で語られていました。祐太朗の妹絡みの事件にも関わっていた人物です。


これまでは名前が出て来るだけで実際に登場はしなかったのですが、このお話の終盤で電話ごしの会話という形で登場します。相変わらず性別も年齢もハッキリとは解らずじまいですけどね。
ケイはいつまでも裏で暗躍し続ける「夏目」を表舞台に引きずり出そうと行動していたのですが、国益のため「夏目」の存在を隠しておきたい国の連中に邪魔をされて捕まってしまった。実は『dele.LIFE』の事務所にパソコンを置いたのは「夏目」で、捕まったケイを逃がすために祐太朗たちを巻き込んで色々と画策したというのが事の真相。
「夏目」は今現在、国家権力とつるんで「正しい愛国者を作るための世論形成」をしているところなんだとか。「夏目」としてはそれを名目に国家権力を利用して人間観察をすることが真の目的なんですけどね。
「一つの情報が、受け手にどんな影響を与えるのか。そういうことに病的に興味がある」
と前作でもケイの口から語られていました。

 

ケイを祐太朗たちの手を使って連中から逃がしたものの、「夏目」には表舞台に出て来る気も、今している“観察”も辞めるつもりはサラサラないようです。
表面上だけ見ると、人々の意思を好き勝手に操作して高みの見物を決め込んでいる化け物のような人物に思えてきますが、ケイは「夏目」に対しては簡単な敵意だけではなく複雑な思いを抱いているようです。“表舞台に引きずり出す”というのは最初からダメ元で、本当の目的は一言文句を言うことと、一言「俺が見ているってことを」伝える為でした。

 

「化け物を作るのは、本人の超人的な才能でもなければ、強力な権力による圧力でもない」
「あー、それじゃ、何?」
「孤独だよ」
「孤独」と祐太朗は言った。
「放っておくと、本当に化け物になる気がしてな」

 

誰かが自分の行いを見ていると思えるだけで気持ちの安定が保てるというのは、様々な宗教や何やらにも見られるあり方ですね。大袈裟なことじゃなくっても、「人道から外れることをすれば罰が当たる。神様が見ているから」と、少しでも思って罪悪感を生じることが出来れば“歯止め”になる。具体的に、より身近に見守ってくれる人がいるなら、それは強固なものとなりますよね。

「夏目」はケイのこの想いに気づいてくれているのかどうなのか・・・。祐太朗の妹絡みの事件が終わり、今度は「夏目」絡みでの大きな流れに物語りは動きそうな気配です。一気に話が世界規模のものになったのでちょっと戸惑いましたがね(^^;)。

 

 

 

 

●「スタンド・アローン」
あらすじ
誰に対しても優しく、いつも楽しそうで、クラスで誰よりも慕われていた女子中学生・蕗田唯が自殺した。
彼女は死ぬ前に『dele.LIFE』にデータ削除の依頼をしていたのだが、父親のクレジット名義で契約していること、依頼人が未成年者であることから、所長の圭司は契約不成立だとしてデータの削除は行わず、金も依頼人の父親に返金し事情を説明するという。
それでは『dele.LIFE』に託した依頼人の思いを裏切ることになると、祐太朗とナナミの二人は蕗田唯が通学していた中学校まで赴き級友達などに話を聞いてまわるが――。

 

 

 

通常モード
「リターン・ジャーニー」で大騒ぎした後に収録されているのがこちら。
国家権力だなんだとスケールがでかく、映画のような大立ち回りをした「リターン・ジャーニー」ですが、この「スタンド・アローン」はこのシリーズの通常運転というか、依頼が来て、死亡確認して~という流れで、データに残された秘密や想いが意外な真相と共に明かされるといった“記憶と記録のミステリ”が展開されています。

 

祐太朗が『dele.LIFE』に戻って三日後の出来事として描かれており、引き続き登校拒否女子中学生・ナナミちゃんが事務所に居座っています。中学三年生とあって、ナナミちゃんなりに進路に思い悩んでいるようで、何というか社会見学(?)で、しばらくいるということに。

買った当初や読んでいる最中は「今作は何でこの二編を収録なんだろう?お話の雰囲気も違うし、どうせなら短編集として後一編くらい足して刊行すればいいのに」とか思ったのですが、読み終わってみると納得。「リターン・ジャーニー」も「スタンド・アローン」もナナミちゃんの成長が描かれているので、この二編はセットで読むべきもので他の一編を足したらかえって纏まりが悪くなるのですね。

 

「スタンド・アローン」で自殺した依頼人の唯はナナミちゃんと同じ中学三年生だったということで、同学年の女子なら学校周辺で話を聞き回っても怪しまれないだろうとナナミちゃんがもっぱら聞き出し役になっています。祐太朗は「妹が心配で付き添っている兄」設定であまり口出しせずにナナミちゃんに会話を任せています。


同学年の唯の残された友人達と会話していく中でナナミちゃんの中で変化が生じていきますね。大人びすぎた、肝が据わりまくった子でしたが、このお話の終盤ではやっと本来の中学生らしい顔に。
このまま学校に行かずに『dele.LIFE』の一員として事務所に居座り続けるのかな~とか思ったのですが、学校に登校する決意をして「またきますよ」と事務所を去っていきます。また再登場しそうですね。

 

 

 

 

 

 

クラッカー

デジタル上じゃなく、生身の同級生と真っ直ぐに向き合ったからというのもありますが、ナナミちゃんを変えたのは祐太朗によるところが大きいようです。

 

「スタンド・アローン」で最後に解る事の真相はとても苦々しいものでした。
相手の中に入っていって、そこにしまってある声を聞ける人だったという蕗田唯。彼女の前では皆が素直になり、大事な何か、秘めた想いを話していた。聞いている唯のことは無視で、皆が好き勝手に。
負の感情もありのままに話してくる周りに、何に対しても本気で向き合うことしか出来なかった蕗田唯は聞き役として耐えられなくなってパンクした。親友や両親も内心悲鳴を上げている彼女に気づかず、自殺しても自分たちがした仕打ちに思い当たらずに「わからない、わからない」と嘆いている。

ナナミちゃん曰く、祐太朗のように相手の思惑なんかにお構いなく、ずかずかと中に入っていく人がそばに居たなら、蕗田唯もきっと死ななかっただろうと。だから自分も自分がいるべき場所でそれをやってみると。

 

「確かにお前は暴力的なクラッカーだ」
「あー、え?」
「パスワードも、プロトコルもお構いなしに、堂本ナナミの中に入っていって、彼女を変えた」
「いや、そんなつもりはなかったけど」
「悪意のないクラッカーか。一番タチが悪い」

 

と、ケイも言っています。
ケイも祐太朗に変えられた一人なのでこのように言い表す訳ですが。「リターン・ジャーニー」での行動も祐太朗に出会ってなければしなかったでしょうし。コレについては「夏目」も、自分よりも祐太朗の方がケイを劇的に変えたのが気に入らなくって嫉妬したと言っていました。“情報”って言い方していたんですけども。

 

 


今後
「夏目」は「戻ったところで、前の時ほど楽しくもないし刺激的でもない。それとも、変化を止めた怠惰な次巻の中でほのぼのとした余生をすごす?」と言っていますが、祐太朗もケイも一緒に仕事をこなしていく中でまだまだ互いから影響を受けて変化し続けていくと思います。データと違って、生き物というのは“情報”だけにとどまるモノではないですからね。個人的には「ほのぼのとした余生」のなにが悪いって感じですが。

 

二人の変化も「夏目」の今後も気になりますし、また続きが待ち遠しいです。

もう勝手にシリーズ続くもんだと決めつけているのですが・・・え?続く・・・よね?だって「夏目」関連がまだちゃんと終結してないし・・・。


今作『dele3』の繋げかたは見事でした。無理に繋げたんじゃなく、著者の中では当初からの決まった流れだったのではないかと思います。前作からの伏線の回収が確りされていて、“後付け感”がまったくなかったですからね。

 

ドラマ化で気になって読み始めたシリーズですが、私の中では今後も読み続けたい大事なシリーズとなりました。
『dele4』、お待ちしております!

 

 

dele3 (角川文庫)

dele3 (角川文庫)

 

 

 

 

ではではまた~

 

 

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小説「ルパンの娘」続編!『ルパンの帰還』ネタバレ・感想 華と数馬のその後~

こんばんは、紫栞です。
今回は横関大さんの『ルパンの娘』の続編『ルパンの帰還』をご紹介。

ルパンの帰還 (講談社文庫)

 

あらすじ
北条美雲は23歳の新人刑事。実家は京都の老舗探偵事務所であり、祖父は昭和のホームズと謳われ、父は平成のホームズと称されて、どちらも数々の難事件を解決した名探偵として名をはせている。
幼い頃から“探偵の英才教育”を受け続けて育ってきた美雲は、難事件を求めて警視庁警察官採用試験を受け合格。採用試験での満点合格、警察学校での成績トップ、加えて“名探偵”という家柄の良さ。諸々が考慮され、異例中の異例として初っ端から警視庁捜査一課へと配属されることに。
23歳と若く優秀。しかも飛び抜けて美人とあって、一課で注目を集める美雲。そんな彼女に教育係としてつくことになったのは、先祖代々警察一家のサラブレッド・桜庭数馬。
ある日、バディを組んだ二人が法務省のエリート官僚殺害事件を捜査している最中、保育園のバスがジャックされる事件が発生。そのバスには数馬の妻である華と、娘の杏が乗っていて――。
探偵一家と警察一家と泥棒一家。それぞれのサラブレッドが不可解なバスジャック事件と対峙する。果たしてその結末は?

 

 

 

 

 

 

続編
こちらは只今放送中の連続ドラマ『ルパンの娘』の続編でシリーズ第二弾。ドラマ化をうけてか2019年7月12日に刊行された文庫書き下ろし作品です。


前作がこれ以上ないくらいの大団円で綺麗に終わっていたので、

 

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作品としては単発ものの雰囲気が漂っていましたが、ドラマ化で話題を集めた為なのかなんなのか、この度新たなキャラクターを交えてシリーズ化させる運びになったようです。既にシリーズ第3弾が2019年9月に刊行予定となっているんだそうな。

 

『ルパンの帰還』は前作『ルパンの娘』での騒動からおよそ5年経過した設定。華と数馬は籍を入れていないものの、もうじき4歳になる一人娘・杏と共に家族三人でマンション住まいをしています。数馬は警視庁捜査一課でいまだに刑事を続けているのですが、そこに名探偵一家の娘・北条美雲が所属されてきて・・・――てな展開。


泥棒一家の娘と警察一家の息子だけでもお腹いっぱいなのに、コレに加えて今度は名探偵一家の娘。もうどんな末裔が現われても驚かないなって感じですね(^^;)。まぁ「ルパンときたらホームズも」というノリでしょうか。
書き下ろしのためか、急いで刊行されたせいか、読んでいると結構な誤字脱字が目立ちました。ドラマで話題になっているタイミングでシリーズ化だ!という気概が(?)伝わってきます。

 

 


北条美雲
今作から登場の北条美雲は老舗探偵事務所で名家の娘。

探偵というのは一般的には金品を受け取って人様の秘密を調査したり失せ物を探し出したりするのが主な仕事で、密かに、地味に遂行されるべき職業ですが、この北条家はミステリ界隈でお馴染みの名探偵“より”で作中では京都の格式ある名家的扱いを受けています。
実家からお目付役として「猿彦」たる手練れの老人が使わされていており、美雲のことを「お嬢」と呼んでいたりするので、探偵というよりは忍者というか密偵の一家という印象。情報屋として猿彦に捜査一課が追っている事件の調査をさせたりするので「それ、ちょっとズルイんじゃないか?」と思ったりしますが、“使える物は全て使う”というのを美雲は信条にしているからいいらしい。
名探偵の英才教育として幼少から海外のミステリ小説読破を義務付けられていたというのが可笑しい。その教育で出来上がるのは名探偵じゃなくって唯のミステリオタクでしょ(^^;)。
と、いう訳で色々とチグハグでヘンテコですが、この設定を開き直って楽しみましょうって趣向が前作から引き継がれています。


加えて美雲は23歳で超美人、優秀だけどドジッ子というキャラクターとしての特性が色々と詰まった人物で、数馬と華の両者を喰う勢い・・・と、いうか、もはや主役。9月に予定されているシリーズ第3弾のタイトルは『ホームズの娘』ですからね。

 

前作では数馬は庁内で“名探偵”と呼ばれている優秀な捜査官として描かれていましたが、今作では美雲に完全にお株を取られていますね。華も特に目立った活躍はしないので、美雲の印象がとにかく強い。個人的に前作から引き続き華と数馬には魅力をあまり感じられないので、そのせいもあるかもですが。華が相変わらず家族に対して煮え切らない態度をとっていてイライラします・・・。

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家族達
前作で泥棒一家と警察一家、どう考えても相容れないながらも両家の合意のもと華と数馬は結ばれて家族となった訳ですが、5年の月日が経ち、最初のうちは良好だった両家の関係は娘の杏が大きくなるに従って寒々としたものに。それというのも、杏の教育上、泥棒一家の三雲家を近づけさせるべきではないのではと桜庭家が思い始めたから。
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・・・・・・・・・・
・・・・・・
え?そんな普通のこと言っちゃう?

 

なんというか、かなり拍子抜けしてしまいました。
いや、泥棒は犯罪で、犯罪者一家を子供の生活に関わらせるべきではないのは当たり前で常識的な考えですが、そんな当たり前のこと、二人が一緒になる前から分かりすぎるほど分かっていたでしょうに。こんな普通の常識を口にするなら反対し続ければよかったじゃない。それでも警察か?前作で出された結論は何だったのよ。

と、なんだかモヤモヤ。


“普通”を無視して覚悟の上で規格外の道を選んだ桜庭家だったと思っていたんですが。やはりいざ現実が押し寄せると・・・ってことでしょうか。
華と数馬が恋仲になるように画策したのは互いの祖父の巌と和一でしたが、今作ではまったく援護してくれません。巌はしょうがないといった態度だし(原因作っといて無責任なのでは)、和一にいたっては登場しませんし。

美雲が登場するせいか、前作では個性的な魅力を発揮してくれていた三雲家と桜庭家の面々の登場シーン自体が少ないですね。華の両親である尊と悦子は主役以上に活躍してくれますが、他の家族達は申し訳程度の登場で個性を発揮させてはくれていません。香さんとか、絶賛婚活中なのは分かりましたが(前作での先輩とはダメだったらしい)、とりあえず出しときましという申し訳程度のものでしたね。個人的に香さん好きなので、少しでも登場させてくれて嬉しかったですが。次作ではもっと登場させて欲しいですね。

 

 

 

 

帰還
今作は華と娘の杏バスジャック事件に巻き込まれるというのが主なストーリーですが、このバスジャック事件はとある人物を釈放させるのが隠された真の目的でした。
その“とある人物”というのは岩永礼子。殺人罪で30年間服役していた女性。しかし、これは買った戸籍の名前で本名は三雲玲。尊の三つ上の姉で、華にとっては叔母にあたる人物。

華は叔母の存在自体をまったく知らされていませんでしたが、玲は「三雲家の長い歴史の中でも最高の才能」と証された天才犯罪者。しかし、違法ドラッグの密売など三雲家の流儀に反することをし始め、殺人を犯したことが決定的となって三雲家から勘当。逃走中に警察官を撃って捕まり、30年間牢屋に入っていましたが、この度、刑務官を洗脳してバスジャック事件を起させて法務大臣を影で脅し、仮釈放の権利を得て出て来た途端に姿をくらまします。


天才犯罪者が帰ってきた。と、いうことで『ルパンの帰還』まぁルパンみたいに義賊の面は無さそうな叔母さんですが。

 

はい、非常に後付けくさい設定ですね(^^;)。稀代の犯罪者のわりには30年おとなしくムショに入っていたりだとか違和感があるのですが。シリーズ化させる為の追加設定でしょうからまぁしょうがない。

 

今作ではこの叔母である玲が行方不明なまま終わっており、バスジャック事件に姪である華を巻き込んだ目的は明かされずじまいになっています。尊や悦子、巌達は玲の存在を警戒してしばらく潜ることに。

 

 


新たな・・・?
叔母である三雲玲がなにをしようとしているのか気になるのは勿論ですが、それ以上に気になるのが今作のラストで華の兄・渉と対面した美雲が一目見ただけで渉こそが自分の“運命の相手”だと強く確信してしまうことです。美雲はかねてより運命の相手を見れば自身の名探偵の気質によって絶対に解るはずだと確信していて(なんだそりゃ)、その確信が渉を見た瞬間まあ“キタ”と。一目惚れなのか?これは?よくわかりませんが(^^;)。
そして次作、シリーズ第3弾の題名は『ホームズの娘』

 

ホームズの娘 (講談社文庫)

ホームズの娘 (講談社文庫)

  • 作者:横関 大
  • 発売日: 2019/09/13
  • メディア: 文庫
 

 

また新たに名探偵一家の娘と泥棒一家の息子の「禁断の愛」が展開される!?


・・・のかどうかは定かではありませんが、かなり愉快なことになりそうですね(^o^)。

 

※2020年、さらなる新刊も出ました

 

 

ルパンの星 ルパンの娘 (講談社文庫)

ルパンの星 ルパンの娘 (講談社文庫)

 

 

今作は大きな物語りの序章といった感じで、話的にも中途半端なので主要人物達がさほど活躍していませんが、次作では泥棒と警察、そして名探偵が各々見せ場を披露してくれるんじゃないかと思います。
色々と次作までのお楽しみということで。

 

ルパンの帰還 (講談社文庫)

ルパンの帰還 (講談社文庫)

 

 

 

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ではではまた~

『秘密season0』8巻〈悪戯〉感想・あらすじ ”ゲーム編”始動!

こんばんは、紫栞です。
今回は清水玲子さんの『秘密season0』8巻〈悪戯〉をご紹介。

秘密 season 0 8 (花とゆめCOMICSスペシャル)

あらすじ
2068年4月。小学校で給食の残りのパンに1個だけ辛子入りを混ぜて順に食べていくゲームをしていた女児のうちの一人・小岩瞳子が、その中にたまたま入っていたピーナッツパンによってアナフィラキシーショックをおこし死亡した。パンを識別出来る「袋」から出されて通常のパンとの区別がつかなかったために起こった、不幸な偶然が重なった事故。小さな子供達の、たわいのない“ただのゲーム”――。
小岩瞳子の父親・小岩国明は葬儀に参列したクラスメイトの会話を耳にし、娘は事故ではなくクラスメイトの三人の女児によって故意に殺害されたのではないかという疑いを持つようになり、「第九」に「MRIで娘の脳を調べてくれ」と駆け込んでくる。しかし、それから間もなく小岩国明は女児に刃物で襲いかかり、かけつけた警官に射殺されてしまった。
突然の娘の死に気が触れてしまった父親の奇行の末の出来事。
世間がそんな風に事件をとらえるなか、薪はこの一連の出来事に一昨年夏に大量殺人事件を起したカルト教団ストーンヘンジ」教祖・児玉良臣の10歳になる息子・須田光の関与を疑うが――。

 

 

 

 

 

 

 

やはりキタ
宝塚女優のような表紙絵。2019年7月5日に発売されました『秘密season0』8巻です。前シリーズ【秘密-トップ・シークレット】

 

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終了後に始まったこのSeason0ももう8冊目。7巻が発売されたのが2018年7月5日なので、ちょうど一年ぶりの刊行ですね。

 

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連載元の「メロディ」は偶数月刊行の雑誌なので1冊分が溜まるまでにどうしても一年ぐらいかかってしまうんですよね。年一の楽しみとして毎年慎重に(?)読んでいます。


基本的には1冊完結型でどの巻から読んでも楽しめる近未来警察ミステリであるこのシリーズですが、今作は5巻・6巻〈増殖〉で登場した須田光が再登場でお話の主軸になっておりますので、5巻・6巻を読んでから今作を読むことをオススメ。

 

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光君・・・やはり再登場しましたね。〈増殖〉の最後がかなり後味の悪い、恐い終わり方でしたのでね、須田光少年のその後の動向はまた話に関係してくるんだろうとは思っていましたが。
〈増殖〉で描かれたカルト教団の事件からおよそ一年が経過し、カルト教の総本山だった「つばき園」の元園児30人の子供達が入院治療・生活観察を経てそれぞれ保育園や学校に通い出しています。
この元園児達はいまだ須田光の洗脳下にあるのではないかと思われる危険因子達。世に放たれ、〈増殖〉の最後で薪さんたちが危惧していた出来事が―――?
てな訳で、悪戯(ゲーム)編始動の第8巻です。

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


コドモ
今回の事件タイトルは悪戯と書いて“ゲーム”と読ませているもの。子供の悪戯による犯罪が描かれています。
子供が尊いという意識は大人が当たり前のように持っている共通意識ですが、それと同じように、子供時代を経験した大人達は子供が残酷で恐ろしいということを知っている。人生経験を積んでいないがために時に軽はずみに、罪悪感もなく、平然と残酷なことをやってのける子供の恐ろしさを。
通常、子供の悪戯というのは「子供だから」という言葉で済ませられ、割り切られるものですが、死人が出たとなるとそれでは済まされない・・・ようでいて、悪戯をした当人・“子供”は表面的にはお咎めを受けないのが現在の日本での実情。結局、法治国家では幼児には罪を問えないので、周りの大人が責められることになる。管理体制が悪い、対応が悪いなどなど・・・。いじめ問題が起こると学校側に批判が集中するのがまさにって感じですが。本来は危害を加えた当事者が批判されるべきところが、“子供だから”公には責められない訳ですね。

 

法治国家で一番強いのは子供の犯罪者だ 彼等はいついかなる時も保護される」
「そして結局現場にいもしなかった「大人」が責任をとらされる」

 

今回の事件を起した三人の女児の狙いは担任教師を辞めさせること。そして、人を殺すことへの好奇心。死亡した小岩瞳子はそれのダシにされただけでした。しかも、当人達は反省や後悔を微塵もしておらず、実験が上手くいったという具合にクスクス笑っている・・・・。
あまりに酷い。
しかし、 “子供だから”罪に問うことも糾弾することも許されない。こんな状況では、娘を失った父親も気が狂おうというものです。

岡部さんはこの女児三人の犯罪行為にかなりのショックを受けていましたね。『秘密-トップ・シークレット』5巻「特別編」での

 

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子供とのやり取りからも分かるとおり、岡部さんは子供に対して希望を持っている側面が強いんですね。

 

この悪戯(ゲーム)を指南したのもまた10歳の子供である須田光。薪さんたちは警察にとって一番厄介な“子供の犯罪者”と真っ向から対峙することとなります。

 

 

 

 


須田光
序盤は稀代の犯罪者・怪物として人間味なく描かれている光君ですが、話が展開してくるにつれ青木への執着が垣間見えるようになってきます。


「え?なんで青木に?」って感じですが、どうやら児玉良臣を撃って助けたのが青木だから、らしい。少なくとも光君は青木に自分は生かされたと思っているようです。
〈増殖〉では結局、児玉を撃ったのが青木か岡部さんか判らずじまいに終わっていたんですがねぇ・・・青木が撃ったということで良いんでしょうか?(6巻でも波多野はそう決めつけていたけど)でも光君がそう思い込んでいるだけかもしれないし・・・・・・う~ん、まだハッキリとしないですね(^^;)。

 

光君は「つばき園」の元園児・〈増殖〉の最後で弟を死なせた仲根みどりを使って青木の姪の舞ちゃんに接触させ、青木が里親申請するように誘導。里子として青木宅に入り込もうと画策し、青木宅の里子となるために現在の親代わりである神父を殺害までします。

 

助けられたことからの執着ですが、心臓の疾患が見付かり医者から自分が成人するのが難しいと知らされたこと、そして、今巻での終盤で青木に“希望あふるる言葉”かけられたことが決定的というか、拍車がかかったというか、余裕が無くなって暴走し始めているように見受けられます。
ここら辺の平静じゃ無い状態や過去に苦しんでいる様子などから「稀代の怪物」なのか、父親から被害を受けた「ただの10歳の子供」なのか、判別がつかなくなってきますね。まあ、どっちもなんじゃないかとは思いますが。


薪さんも青木に言われて先入観で光君を見ていたことに気がつき、青木の前でならごく当たり前に10歳の子供の「顔」を見せるかもしれないと”見張り”も兼ねて光君を里子として迎えるように言い渡します。
薪さんが青木に素直に非を認めるのはかなり珍しい。物にあたる癖はそのまんまで、スマホ壊しかけて電話の向こうの岡部さんを慌てさせた後ではありましたが(^_^;)。赤面している薪さんが可愛かったですね(^^)。
“「名前」が汚れる”と、福岡までわざわざ忠告するためだけに飛んでくるところが愛の深さを感じる。福岡に現われたときは青木に夢だと思われていましたからね。気持ちは分かる・・・薪さん現実味がない容姿してるから・・・。

 

〈悪戯〉編は今巻では終わりません。次巻に持ち越しで、今巻では光君が里子として青木宅に来たところで終わっています。

 

 

 

 

次巻はどうなる
今巻では不穏なシーンが作中挿入されています。

写真を握り締めて泣いている薪さんと、どこかのトイレに監禁されて助けを求めている舞ちゃんと思われる女の子。


不穏・・・この感じは前シリーズ『秘密トップ・シークレット』9巻の三好先生が殺されると見せかけてお姉さんが殺されたあの感じを思い出させますね。

 

新装版 秘密 THE TOP SECRET 9 (花とゆめCOMICS)

新装版 秘密 THE TOP SECRET 9 (花とゆめCOMICS)

 

 

誰かが死ぬ気配・・・順当に考えれば光君の青木への執着が、青木が子煩悩爆発させて可愛がっている舞ちゃんに牙をむくのかというところですが。秘密シリーズのことだからこれは引っかけで、本来は別の人物が本当の危機にさらされるのかもしれない・・・・・・・と、なると・・・・

・・・・・・・

・・・・

不吉、そして不安(-_-)。


「つばき園」跡地からは新たに切断された子供の頭蓋骨が発見されたりして、まだまだ「つばき園」には“秘密”がありそうですし、色々と気になりすぎます。


「こんな気になるところで終わり・・・次巻読めるの一年後なんでしょだって・・・」と、今巻を読み終わった後、絶望に苛まれました。

今巻は部下の波多野と山城の登場シーンが少なかったんですが、次巻はもうちょっと登場してくれるんじゃないかと思います。個人的な希望ですけど。〈増殖〉の事件で山城はかなりしんどい目に遭ったので、心身共にちゃんと回復しているのか気になるところ。
あと、今巻で初登場した臨床心理士スクールカウンセラー神原医師も次巻では話しに深く関わってきそうですね。いかにも“出来る女風”の先生ですが・・・こちらも気になるところ。


そんな訳で、続きが気になりすぎてどうしてくれるっ!てな8巻でした。


1冊完結型で慣れていると、いざお話が次巻持ち越しになったときの読者的ダメージが大きいですね。〈原罪〉や〈増殖〉は2冊使っての事件でしたけど、どちらも2冊同時刊行でしたからねぇ・・・。

 

 

 

 


今作は今まで以上に長いお話になるのかもしれません。タジクとかも絡んでくるのかもかも。


なにはともあれ、出来るだけ早い刊行を願って次巻待ち続けたいと思います。

※出ました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

 

 

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