夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『今昔百鬼拾遺 天狗』ネタバレ・感想 連続刊行ラスト!

こんばんは、紫栞です。
今回は京極夏彦さんの『今昔百鬼拾遺 天狗』をご紹介。

今昔百鬼拾遺 天狗 (新潮文庫)


あらすじ
昭和二十九年十月。女学生の呉美由紀は薔薇十字探偵社に赴いた際、篠村代議士の娘・篠村美弥子と対面する。帰りに美弥子にお茶に誘われ、そこで美由紀は美弥子が探偵社を訪れた理由を耳にする。
美弥子の友人である是枝美智栄は八月に高尾山中で消息を絶ち、行方知れずのままに約二箇月経った十月七日に群馬県の迦葉山で女性の遺体が発見されるが、遺体は何故か美智栄の衣服を身にまとっていたという。
美由紀はこの事件の話を「奇譚月報」の記者・中禅寺敦子に相談。敦子が事件について詳しく調べてみると、美智栄が消息を絶ったのと同じ頃に高尾山中で天津敏子という人物の遺体が発見されていたこと、そして、美智栄の衣服を着て迦葉山で発見された葛城コウという女性は天津敏子と深い関わりのある人物だったということがわかったのだが――。
“天狗攫い”ともいうべき失踪事件から端を発する事件の謎を、中禅寺敦子・篠村美弥子・呉美由紀の三人の女性が追う。
天狗、自らの傲慢を省みぬ者。やがて美由紀たちが辿り着いた事件の真相はあまりにも悲痛なものだった――。

 

 

 

 

ラスト
百鬼夜行シリーズ】

 

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のスピンオフ的最新作【今昔百鬼拾遺】(こんじゃくひゃっきしゅうい)3社横断3ヶ月連続刊行企画で、講談社タイガから刊行の第一作「鬼」(※3社横断3ヶ月連続刊行企画の詳細についてもこちらをご参照下さい↓)、

 

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角川文庫から刊行の第二作「河童」

 

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に続いてラストとなる新潮文庫からの刊行、第三作目「天狗」です。

 

 

今作も敦子が謎の解明し、最後に美由紀ちゃんが犯人にキレるという今シリーズのお約束を踏んでいまして、今作では全編美由紀ちゃん視点での語りになっております。
第一作目「鬼」が敦子の視点のみ、第二作「河童」が美由紀ちゃんと敦子で交互の視点でしたので、三作品通して敦子と美由紀ちゃんで語りが綺麗に二分されている形ですね。こういうキチキチした構成は何とも京極さんらしい。

 

表紙写真と口絵のモデルは前作、前々作同様に女優の今田美桜さんです。

前二作ともお面に隠れて顔出ししていませんでしたが、ラストである今作もやはりお面でお顔は拝見できないままに終わりました。ホント、贅沢すぎる女優さんの使い方(^^;)。三冊通して見てみると、制服で作中の季節が判るようになっています。春→夏→秋ですね。

 

ページ数は380ページ程で前作「河童」と同じぐらいですが、角川文庫の「河童」より、新潮文庫の今作の方が若干値段はお安いです。
普段は各出版社の値段設定ってさほど気にしないんですけど、こうやって3社横断3ヶ月連続刊行の企画をされると各社の違いが目につきますね。講談社タイガから刊行の第一作目「鬼」は260ページ程で100ページ程の違いがあるものの、値段は新潮文庫の今作と20円(税別)の差しかないので、講談社・角川に比べると新潮は少し値段設定が低めなのかな?と思います。(使っている紙の関係とか色々あるんでしょうけど)

 

※2020年8月追記。

3社横断してややっこしく刊行されたこのシリーズですが、「鬼」「河童」「天狗」の三作を一冊にまとめた『今昔百鬼拾遺 月』講談社からノベルス・文庫と刊行されました↓

 

 

 

 

 

 タイトルに「月」ってついてるけど新作ではないので要注意。・・・とかの前に講談社と結局どうなっているのだという感じですが。そういうことらしいのでレンガ本で読みたいならこちらで。

 

 

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この【今昔百鬼拾遺】は敦子と美由紀ちゃんの二人が主軸のシリーズではありますが、今回は美由紀ちゃんと美弥子さんの会話が多くを占めているので、事件の謎に女三人で挑む!って印象のお話になっています。
陥穽の中での会話が少しシュールで面白いのですが、後になって事件の真相が解ってみると色々とゾッとする。


美由紀ちゃん視点のみなのもあって、敦子は前二作より少し存在感が薄いですかね。後の二人が啖呵切るからというのもありますが・・・。

今作はですね、非常に心揺さぶられるお話になっていて、「やはり凄い」と思わせてくれる作品になっています。ホント、ファンが辞められません。

 

 

 

 


美弥子さん
前作「河童」のゲストは多々良センセイでしたが、今作のゲストは【百鬼徒然袋】

 

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 の一話目「鳴釜」に登場した篠村代議士の娘・篠村美弥子さんです。

「鳴釜」の終盤の美弥子さんは本当にカッコよくってですね、オカマは惚れさせるし、“あの”榎木津を呆れさせるしで、読者の気持ちを一気にかっさらっていったお嬢様なのですが、今作でまさかの再登場をしてくれました。ファンとしてはひたすら感謝感謝です。ありがとうございます。
美弥子さんが登場するとあって「鳴釜」関連の話題がチラホラ出て来ますので、未読の方は今作の前に読んでおくことをオススメ。

 

 

 

 

同じく「鳴釜」に登場したオカマの金ちゃんも再登場してくれてさらに驚きと喜びが。

美弥子さんはあの「鳴釜」での騒動の後、金ちゃんとすっかり仲の良いお友達になっていたらしい。被害者の早苗さんとも。

初対面の美由紀ちゃんに「見所がありますわ」とすぐに「お友達になって戴けます?」と云うくらいなので、少しでも興味をもった人とは親睦を深めたいと思うタチなのかもしれないですね。美弥子さんが中禅寺(兄)のことを果心居士のまま覚えているのが可笑しい。
しかし、美由紀ちゃんも女学生にして探偵、祈祷師、雑誌記者、代議士の娘とかなり奇異な交友関係を形成していっていますな・・・。

 

他、益田鳥口青木の三馬鹿トリオがそろって登場。
最初、薔薇十字探偵社を訪問するところから始まりますが、益田のみの登場で和寅は登場しそうでしなくってちょっと残念。何時までもお茶を入れていたらしい(^^;)。榎木津は富士山だか河口湖だかに行っているらしい。何しに行ったんだかは不明とのこと。
う~ん、このお出かけは長編に関わることなのかどうなのか微妙なところですね。

 

青木はやっとまともに登場したなといった感じ。「自分はつまらない人間」という敦子に対して、悩ましげに心配している姿がチラチラと。最後に木下も少し登場していました。
鳥口は第一作目「鬼」と同じ用途で、カストリ雑誌記者独自の取材技術で事件のやや下世話な詳細を調べてくれています。“常軌を逸している”を、「蒸気が出てる」と言い間違えするのに笑いました(^^)。
この三馬鹿トリオは『塗仏の宴』以降、しっかり友人関係になっているのが伝わってきますね。薔薇十字団だからか。

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


男・女
今作では女性同士の恋愛が絡んでくるとあって、舞台は昭和なものの、テーマは昨今よく取り沙汰されるLGBT問題を大いに想起させるお話となっています。
今でこそ環境も変わって理解ある人も増えましたが、昭和のこのころの御時世だと同性同士の恋愛はさぞや厳しい偏見が多かったのだろうなと思います。今作では武士一族の厳格な家での出来事とあって、より男性視点での旧弊的な偏見や差別が強調され、終盤は女性蔑視で傲る男性に対峙する敦子・美弥子・美由紀の三人の女性たちという図式になります。

この男性による女性蔑視は「鳴釜」でも扱われている題材です。なので、今回のお話に美弥子さんが登場するのは必然とも感じる。金ちゃんも。

 

「鳴釜」は“男らしさ”を声高に主張する乱暴者が女性を暴行するという事件でした。

――男らしい。
男らしいとはどう云うことなのだ。
(略)
意地を張ったり見栄を張ったり、痩せ我慢をしたり、暴力を振るったり女性に乱暴をしたり、威張ったり蔑んだりすることが男らしいと礼賛されるなら、僕は男なんか辞めたい。

上記は「鳴釜」に出て来る一節。


今作では「威張ったり蔑んだり」という、“傲り昂ぶり”が天狗に擬えてクローズアップされています。

男・女といったジェンダーについては『格新婦の理』でも散々触れられていましたね↓

 

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天狗
「鬼」は恐いモノ、「河童」は品のないモノ、「天狗」は傲慢なモノ。


一般的に云われている天狗の概要というのは、自分の知識や能力を過信して正しい修行をしなかった僧侶がなるとされています。傲慢であるがために悟りを開くことも出来ず、どの道からも爪弾きになる。
傲り昂ぶり、その傲慢を省みることもなく、どんな境遇であれ謙虚さが全くない。

 

今作では男だというだけで何の根拠もなく「女より優れている」という無根拠な“傲り”を、傲りとも気づかず“常識”だと信じて疑わない老人の存在が事件の大きな要因になっています。

曰く、

「女の分際で男と対等に口がきけると思うな」

「女に出来ることは子を産むことだけ」

「男を守り立てて家を護ることすら出来ない女には生きている価値がない」

云々。

 

聞くに堪えない暴言ばかりで読んでいると怒りが込み上げてくるのですが、読者の気持ちを代弁するようにその都度、美弥子さんが怒ってくれるので、読者は心の均衡を保つことが出来る(^^;)。ホント良かった、美弥子さんがいてくれて。て、感じなんですが。

 

「そうやって家名だの血統だの資産だのと云った、くだらないものに縋っていなければ、まともに立ってもいられないのでしょうね。剰え性別にまで寄り掛かり、振り翳す。見苦しいことこの上ないですわ。そんな肝の小さい、器の小さい人間を、わたくしは心底蔑みます。男だろうが女だろうがそのいずれでもなかろうが、そんなことは何の関係もない。地位も名誉も何も持っていなくったって、人は一人で立っていられるものですわ。何故なら」

人だからですわと美弥子は云った。

「生きていることそれ自体が誇りです。それなのに貴方達はそんな要らないものを振り翳して相手の上に乗って来る。そうしなければ立てないんです。それは猿のすることではなくって?いい迷惑ですわね」


美弥子さんはやっぱりカッコいい。惚れ惚れしますな。

 

このお爺さんは幼少からの徹底した武士教育(?)の賜物でこんな昭和の時代でも引かれるような旧時代的な考えになっているのですが、女性同士で恋愛をしていると知って「家の恥だ」と本気で自分の孫を刀振り回して殺そうとするのだから、もう武士だのなんだの関係なくただひたすら狂った爺さんなんですよね。別に女性じゃなくったって、男性だって誰だってこのお爺さんが狂人だというのは解る。もちろん息子にも。

 

犯人はこのお爺さんの息子で、女性同士で恋愛をしていた娘の父親である藤蔵です。
娘とその恋人をこの狂った爺さんから逃がしてやりたいと、何の関係もない女性二人を殺害して身代わりにしたというのが事の真相。
犯行が露見した後、藤蔵は父を糾弾します「孫を本気で殺そうとするアンタは狂ってる」「私は家名なんかより娘を大事に思う。望みを叶えてやりたいと思う。それが親だ」と。

 

父親の傲慢さを糾弾し憤る藤蔵ですが、藤蔵がこんな非道な計画を立てたのは、家の中では父の機嫌を取って今まで通りに振る舞い、その上で娘の願いも叶えてやりたいという、虫の良過ぎる思惑から。


本当に藤蔵がすべきだったのは父親を説得することだったハズ。

なのに、父の考えはおかしいとは思うものの「世間とそう違いはない、世間だって娘のことを蔑むはずだ」と決めつけ、諦め、説得すること、考えることを放棄した末のこの無茶苦茶な殺人計画。
自分の考えに固執して正しいと思い込み、違っているとは思いもしない。
自らの傲慢を省みぬ者。
藤蔵もまた「天狗」なんですね。

 

 

 

 

啖呵
美弥子さんが既に啖呵を切りまくるので、お約束の美由紀ちゃんの啖呵はどうなるんだとか変な不安をしてしまいましたが(^_^;)、今作でも美由紀ちゃんは堂に入った啖呵を聞かせてくれます。
至極真っ当な長広舌で相手をぐうの音も出ない状態にするというのは京極作品の醍醐味ですが、小娘ならではの率直な感情の高ぶりが伝わってくる啖呵は美由紀ちゃんだからこそで、この【今昔百鬼拾遺】ならではのものですね。


今作は犯行理由があまりに理不尽なものだったので(わざわざ穴まで掘る必要あるかなとか若干疑問)、被害者のことを思うと哀しくやり切れない想いが込み上げてきます。啖呵の部分を読みながら美由紀ちゃんと同調して目がウルウルしてきてしまう。犯人に怒り狂っていた美弥子さんも、美由紀ちゃんの啖呵を聞いて気が落ち着いているので、図らずも美由紀ちゃんが事件関係者の憑物落とししてるのだなぁと。

 

 

 


今後
今作は度々【百鬼夜行シリーズ】で描写されていた敦子の密かな悩みも再度クローズアップされていましたし、

 

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美弥子さんも上記で紹介した部分はほんの一部で、もっとカッコいいシーンも一杯ありますので、見所たくさんでファンは必見ですので是非。

 

欲を云うなら、ラストだし榎木津か中禅寺(兄)を出して欲しかったところですが(【今昔続百鬼】だと最後に中禅寺が登場していましたからね)、

 

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3ヶ月連続刊行も今作がラストだと思うと寂しいですね。3ヶ月間、毎月愉しませてもらって有り難い限りでした。
京極さんは機会があればまた【今昔百鬼拾遺】を書いてもいいとインタビューで仰っていたので、このシリーズは続くかもです。

また敦子の理路整然とした推理・美由紀ちゃんの啖呵が読める日を願って、京極夏彦ファンを続けたいと思います。※『鵼の碑』もね!!

 

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

 

 

 

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舞台『魍魎の匣』観てきたっ!感想

こんばんは、紫栞です。
記事タイトルの通り、舞台『魍魎の匣観てきました~!ので、自分用覚え書きも兼ねて感想をば。

 

2019年6月21日~6月30日まで東京・天王州 銀河劇場、2019年7月4日~7月7日まで神戸・AiiA2.5Theter kobeにて公演。

原作:京極夏彦魍魎の匣
脚本:畑雅文
演出:松崎史也

 

キャスト
中禅寺秋彦橘ケンチ
木場修太郎内田朝陽
関口巽高橋良輔
榎木津礼二郎-北園涼

鳥口守彦-高橋健介
中禅寺敦子-加藤里保菜
青木文蔵-舟木政秀
増岡則之-津田幹土德
里村絋市-中原敏宏
福本郁雄-小林賢祐

楠本頼子-平川結月
楠本君枝-坂井香奈美
柚木加菜子-井上音生
柚木陽子-紫吹淳
雨宮典匡-田口涼
須崎太郎-倉沢学
寺田兵衛-花王おさむ
寺田サト-新原ミナミ
久保竣交-吉川純広
美馬坂幸四郎-西岡德馬


※「福本郁雄」というのは原作の福本巡査のことですが、小説では下の名前が明記されていない人物だったのを、著者の京極さんが福本役の小林賢祐さんに「福本には下の名前がないので、京極先生につけてもらえるように頑張ります!」と言われて、その日の夜に「福本郁雄にします」と先生からお電話があったんだそうな。凄い話ですね(^^)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原作ファン
ゴリゴリの京極夏彦ファンで特に百鬼夜行シリーズ】

 

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はこの世で一番好きな小説シリーズである私。

原作が好きすぎるせいかもしれませんが、今まで京極小説の映像化作品には「原作の内容をちゃんと表現してくれている」と感じられる作品にはお目にかかれずじまいで、こちらの記事でも書いた通り↓

 

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特に『魍魎の匣』は実写映画が最悪だったし、アニメも結構不満が残る出来だったしで、もう「原作が良すぎるから無理なんだ」と、自分を慰めて諦めの境地になっていました。
なので、今回の舞台化の情報を知ったときも最初は観に行こうかどうしようか地方在住者なのもあって悩んだんですよね。しかし、舞台は円盤化されない限り二度と観られないことが殆どだし、とりあえずは観ておかないと後々後悔するかも・・・と失礼ながら最初からだいぶハードルを下げた状態で観に行ったのですが、コレが予想を裏切る素晴らしい舞台でしたので、思いつくままに感想を少し(^o^)。

 

 

 

 

二時間
まず、ストーリーは原作通りで公演時間は二時間一〇分でした。


1000ページ越えでえらく複雑に事柄が絡み合った
魍魎の匣』を!
ストーリーを変えずに!
理解出来るように二時間で纏め上げる!!

もうそれだけで賞賛に値します。『魍魎の匣』の場合は。


観終わって何に一番驚いたって、二時間で原作の話を出来てしまったという点でした。「二時間で出来ちゃうんだ」っていう。


序盤は場面が目まぐるしく切り替わるし、セリフの応酬も早いので「原作知らない人ついてこられるのかな?」と若干思いましたが、舞台特有のライトやスクリーンなどを使った分りやすい演出と独自のテンポで途中からは飲まれてしまって気にする余裕がなくなりました。私はもちろん、一緒に観に行った先輩も原作内容は予め把握しているので、原作未読の人が実際どう思ったかはちょっと判らないですけどね。


時間の都合上、薔薇十字探偵社の和寅は登場シーンごとカット、中禅寺の細君・千鶴子さんは話しかけられる描写があるものの役者は使われず、原作だとエピローグ部分で登場する伊佐間は登場せずにセリフや役割は敦子に割り振られているという風に人物の省略・変更や、脅迫状の詳細がなかったりなどの事件内容の簡略化、細部・伏線が抜かれていたり、中禅寺のウンチク量が削減されていたりしますが(それでも一杯喋っていましたけどね)、二時間で分りやすくする纏めるために削るべきところを削り、必須で重要な部分を最大限に表現しているといった感じですね。


長大作なぶん、原作のコミカルな部分というのは映像化の際には無くされがちなんですが、今作ではちゃんとクスリと出来る部分もあって、そこら辺も原作雰囲気が良く表現されていたと思います。

 

 

 

 

登場人物達
浅学なもので舞台にも役者さんにも詳しくなくって、この舞台でもお名前を存じ上げていたのは内田朝陽さん、紫吹淳さん、西岡德馬さんのお三方ぐらいでした。

正直、このお三方のキャスティングも最初知ったときは「なんで?」と違和感あったんですが、いざ舞台を観てみると流石役者さんというかなんというか、ちゃんと声や身のこなしでキャラクターの雰囲気を表現されていて、すんなりと受け入れることが出来ました。

 

主演で中禅寺秋彦役の橘ケンチさんも知らなかったんですよね。「EXILEのお人?何故?」とか思ったのですが、最初に後悔された舞台のビジュアル写真がもの凄く中禅寺ぃぃぃだったので、何か期待が高まった(笑)。小畑健さんの絵のような

 

爆裂薔薇十字探偵 (講談社 MOOK)

爆裂薔薇十字探偵 (講談社 MOOK)

 

 

女性ファンが思い浮かべる絵姿そのままって感じ。

写真だけでなく、実際に動いているのを見てもそのままでしたね。和服が似合っていて良かった(重要)。御筥様退治の時のマジカルステップがキレキレで「流石EXILE・・・」ってなった(笑)。

中禅寺は原作ではもっと腰が重い人物なんですが、この舞台では尺の関係上初っ端から活動的な中禅寺ですね。声が見た目から想像するよりも高くって最初「ん?」となりましたが、後半で展開が切迫してくるとドスが利いてくるので気にならなくなる。

 

声といえば、加菜子頼子雨宮の役者さんたちの声がそれぞれ声優みたいというか、良い意味で現実味のない声で各場面の印象が強くなっていましたね。観ながら舞台役者さんはやっぱり一味違うなぁとか思っていたのですが、後でパンフレット読んで加菜子役と頼子役の役者さんは今回が初舞台だと知って驚きました。

 

今までの映像化作品だと事件内容に引っぱられるようにシリアスが全面に押し出されてしまってコミカルさが抜けてしまっていたので、榎木津の奇人っぷりや鳥口のひょうきんさが鳴りを潜めてしまっていたのですが、今作ではちゃんと出ていて長年の不満が解消されました。
もうホント、榎木津とかは「私はいつになったら陽気な榎木津が観られるのだろう・・・」とか長年思っていたのですが、今回の舞台で確りとすこぶる元気で、足の長い(重要)榎さんがようやく観られたな、と。「口外法度なんだよ」「こんにちは。弟子です」に大満足。

欲を言えば、原作にはもっと奇抜なセリフや行動があるので(ダットサンもどきをぶっ飛ばしたりとかね)それらもやって欲しかったところですが、まあ尺の関係上仕方ない(^^;)


鳥口は原作そのままの印象で凄く良かったですね。いろんな「うへえ」が聴けてこちらも満足。

 

関口は原作より社交的っぽそうでちょっと抜けてる人って印象に変わっていましたかね。映画で椎名桔平さんが演じた関口に近い感じ。

 

魍魎の匣

魍魎の匣

 

 

まぁあまり鬱々されても進行の妨げになりますしね。敦子青木も原作より若干陽気だったような。敦っちゃんが溌剌としていて可愛かった(^o^)。

 

 

 

 

 

 

 


小説世界
今回の舞台は、観ているとまるで小説世界の匣の中に入ってしまったかのような錯覚をさせてくれる舞台でした。
映画版やアニメ版では久保の狂気とかお話にとても重要なはずなのに蔑ろ気味というか、ちゃんと表現されていないと感じていたのですが、この舞台ではこれでもか!と“狂い”が表現されていました。終盤の匣に入ってからの久保の視点もそうですが、血で汚れて原稿が読めないのとかが演劇ならではの演出で魅してくれていましたね。


同じように、【百鬼夜行シリーズ】の最大の見せ場である中禅寺の憑物落としの場面で圧巻の言葉の応酬をそのままやってくれていて「そうそう、コレだよ」と嬉しくなりました。内容の省略はあるものの、ほぼ原作のセリフそのままでやってくれていたと思います。

ファンなので、もう聴いていて次のセリフが分かる状態なんですが、“頭に浮かぶセリフを、次の瞬間には役者さんが体現してくれる”というのがこんなに快感とは。アニメ版は憑物落としがやたらサラッとしていたのが一番の不満だったんですよね~。映画版はもう言わずもがな・・・。

 

しかし、やっぱり原作のセリフは素晴らしいなぁと性懲りも無く小説に惚れ直しました。

私が観に行ったのは公演二日目の昼だったのですが、小説の文庫本が既に売り切れていましたね。

 

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

 

 

皆私と同じで、舞台を観たら小説を読み返したい衝動に駆られたのだと思われ。
観客は驚異の女性率でしたね。ほぼほぼ女性でした。やはり【百鬼夜行シリーズ】は女性人気が高いのかと実感。役者さんのファンもいるんでしょうけど。年齢層はだいぶ広くって、「様々な世代に愛されてる~」と嬉しくなりました。

 

 

ポスターやパンフレットだと中禅寺以外の登場人物達が皆現代風の恰好になっていますが、公演ではちゃんと昭和当時の恰好です。憑物落としの着物もポスターだと紫になっていて姑獲鳥の夏の映画衣装を思い出して不安だったのですが、

 

姑獲鳥の夏 プレミアム・エディション [DVD]

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舞台では確りと黒でした。やっぱりあの陰陽師衣装は黒じゃないとダメだと思うのよ・・・(^_^;)。

 

 

 


リスペクト
舞台化に関し、著者の京極さんからのコメントで「原作ファンが怒る場合、それは原作と変えたから怒るのではなく、作品がよろしくなかったから。作品が面白ければ、原作とどれだけ違っていようと文句はいわれない」と、いったことをおっしゃっていました。


これは確かにその通りで、作品としての完成度が高くて面白いものになっていれば、“原作”が“原案”になっていようと「コレはコレで良い」となるのは至極真っ当なことです。

このお言葉に一観客、一読者として付け加えさせて頂くなら、原作ファンが求めるものは制作者の原作へのリスペクトが感じられるかどうかだと思います。
原作に真摯に向き合ってくれたかどうかが大切で、とりあえずの“やっつけ仕事”みたいな作品にされると、ファンは大好きな原作を侮辱された気分になって怒るというのが大半かと。事実私がそうですし。

 

そういった点において、今回の舞台は原作へのリスペクトが大いに感じられるものになっていました。ゴリゴリの原作ファンである私を満足させてくれて、心から感謝です。シリーズ化希望!円盤化も。

 

7月7日にはニコニコ生放送で独占最速放送もされるそうなので、気になった方は是非是非。

 


ではではまた~

 

 ※PrimeVideoでも出たようです!こちら↓

舞台「魍魎の匣」

舞台「魍魎の匣」

  • 発売日: 2019/08/02
  • メディア: Prime Video
 

 

 

魍魎の匣(1)【電子百鬼夜行】

魍魎の匣(1)【電子百鬼夜行】

 

 

 

 

 

 

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『犯人たちの事件簿』6巻 感想 ファイルシリーズ完結!

こんばんは、紫栞です。
今回は金田一少年の事件簿シリーズの犯人視点スピンオフ漫画金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』6巻の感想を少し。

金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(6) (週刊少年マガジンコミックス)

この表紙はKC27巻のパロディ。

金田一少年の事件簿 (27) (講談社コミックス (2488巻))

27巻はFILEシリーズの最終巻なので、このような如何にも最終刊っぽい画になっています。(実際はコミックスのデザイン変えて続けてるだけなんですけどね・・・)

 

6巻に収録されている事件は異人館ホテル殺人事件」「墓場島殺人事件」「速水玲香誘拐殺人事件」の三つと、ファイルEXとして短編の「氷点下15度の殺意」とオマケの「オーナーの事件簿」など盛り沢山。「オーナーの事件簿」が描かれているぶん、いつもの著者・船津さんによる実録漫画・「華麗なる仕事場日記」は今巻にはありません。

 

 

 

 


ファイル15異人館ホテル殺人事件」(本家ではファイル7)

 

 犯人:不破鳴美(本名・北見蓮子)
佐木が殺されたり、金田一が一時的にとはいえ逮捕されたりと結構衝撃的な事柄が多いが、何故かシリーズの中では存在感が薄い・・・ような気がする「異人館ホテル殺人事件」。(トリックは割と評価が高いですけどね)


この事件は本家では「麻薬、ダメ!絶対!」というメッセージ(?)が込められたものだったんですよね。発売当時に読んだときは私は幼少で麻薬自体あんまり知らなかったので、危険性とか書かれてもよく分らなかった覚えが。この犯人視点では事あるごとに「シャブやってんの?」と出て来て「やめれ」って感じ(笑)。


キャリアの権力ふかせまくりで金田一もタジタジだった事件ですが、解決編で明智さん呼ぶのは読んでいた当時、私も意外だった。この作中で不破さんも思っているように「あ、権力には権力で対抗するのね」っていう(^_^;)明智さんは本家だと「雪夜叉伝説殺人事件」以来二回目の登場でした。

 

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雪夜叉の時は嫌な人全開で小者感が漂っていましたが、この登場以降ドンドンと存在感のある人気キャラクターに。


解答編のお芝居ですが、これ不破さんもそうですが、美雪が中々白熱の演技を披露していた。

 

 

 


ファイル16「墓場島殺人事件」(本家ではファイル14)

 

金田一少年の事件簿File(14) (講談社漫画文庫)

金田一少年の事件簿File(14) (講談社漫画文庫)

 

 犯人:檜山達之森下麗美
爆弾だのが出て来るサバイバルな状況下で本格推理漫画が展開される事件。共犯モノというのは明らかにされると推理物好き人間は少しガッカリした気分になるものですが、犯人視点だと犯人同士であーだこうだ言っていて面白い。「飛騨からくり屋敷殺人事件」とかもそうですね。

 

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檜山と森下は恋人関係ということで終始イチャイチャしています。うざいくらい(笑)。コントみたいなやり取りを繰り広げている。森下が怒るシーンが可笑しかったですね。女子特有の怒り方ですよ。男性が困るヤツ。
この事件では「犯人はこの中にいる!!」を二回しています。二回目の犯人指摘展開は確かにかなり「ためるじゃねぃか・・」だった。本家のKCコミックスでは次巻に持ち越しシーンだったのさ・・・。

 

 


ファイル17速水玲香誘拐殺人事件」(本家ではファイル19)

 

 犯人:安岡真奈美
本家のFILEシリーズ最後の事件。犯罪コーディネーター高遠が初お目見え回ですね。

高遠さんに振り回される実行犯を安岡さんが熱演。高遠さんに言われるまま金田一連れてきていますが、実行犯にしてみれば正に「名探偵・・・・わざわざ連れてくる必要ある・・・・?」ですよね。金田一連れてこなければ最後に毒殺されることもなかったろうに・・・少し同情する(^^;)。

最後、紅茶飲むのはともかく、砂糖入れて味を調えるのはやっぱ不自然ですよね~。「こんなタイミングで丁寧に砂糖を入れて味を調えた紅茶が飲みたい気分を押さえられない・・なぜ?」ホント、何故(笑)。


毎度の敗因を語る場面で「これでファイルシリーズもできる分は終わったわけでしょ」とのセリフが。ちゃんと“できる分”と言っていますね。そう、本家二作目の異人館村殺人事件」が抜けているのですよ・・・。ぶっちゃけまくりな今作ですが、やっぱり異人館村は大人の事情で無理なんですねぇ・・・。


※「異人館村殺人事件」の大人の事情については詳しくはこちら↓

 

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ファイルEX「氷点下15度の殺意」(本家では短編集1巻収録)

 

 犯人:鈴森笑美
ここに来て短編の事件をやるとは意外。1話のみでのお話ですね。本家の中でもこれ以上ないくらい「めでたしめでたし」だった事件。「人一人殺そうとしたのに良いのかそれで」と当時読んでいた私も疑問だった・・・。
「墓穴からの墓穴・・・・」が可笑しかったです。ほとほと自らヒント与えちゃっている犯人ですよね。短編なだけあって小者感漂う。

 

 

 

 


「オーナーの事件簿」
オマケ的漫画で、オペラ座館の黒澤オーナーが【金田一37歳の事件簿】の「歌島リゾート殺人事件」を読んでワチャワチャやる内容。
黒澤オーナーが言っている諸々の驚きや感想は私が「歌島がまた出て来る」と聞いた時のものとほぼ同じで黒澤オーナーに完全同意です(^_^;)

この記事や、

 

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この記事にも書きましたね・・・。

 

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一人目は照明の下敷きになって死ぬと思っていたのに、絞殺だったときの驚きとかも、ホントそう。「ドラマ化希望だよ!!」は切に願う。日テレ様、お願いします。

 

 

そんな訳で、本家のファイルシリーズは(一作抜かして)すべて終わったこのスピンオフ漫画。この後どうなるのかと思いきや、そのままCaseシリーズの方を引き続きやってくれるそうです。
※FILEだのCaseだののシリーズの別れ方について、詳しくはこちら↓

 

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そして只今、金田一少年の事件簿と犯人たちの事件簿一つにまとめちゃいました。」と、いうタイトル通りの組み合わせ本が電子書籍限定で配信されております。

 

 やっちゃいますか・・・コレを。確かに概在ファンも初読の方もとんでもなく楽しめるでしょうが・・・本家の余韻はゼロになること請け合いですね(^^;)。

 

 

 

次巻7巻は2019年秋発売で「摩犬の森の殺人」「露西亜人形殺人事件」「銀幕の殺人鬼」収録予定とのこと。Caseシリーズも好きな事件一杯ありますので、引き続き読んでいこうと思います!

※7巻の詳細はこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

 

『金田一37歳の事件簿』4巻 あらすじ・感想 ”ベタ”がてんこ盛りの華道家事件

こんばんは、紫栞です。
今回は2019年6月21日に発売された金田一37歳の事件簿』4巻をご紹介。

金田一37歳の事件簿(4) (イブニングKC)

 

今回も今までと同様に限定版と通常版での二形態での刊行ですね。
通常版は680円。

 

金田一37歳の事件簿(4) (イブニングKC)

金田一37歳の事件簿(4) (イブニングKC)

 

 

限定版は金田一キャラクター扇子」「特性京風小箱」がついて1998円。

 

 

なんだかまたかさばる物つけたなって感じですが・・・。

今巻に収録されている事件は京都が舞台なので京都風味な特典のようです。小箱はボール紙で出来た引き出し付きのもの。うぅん。やっぱり通常版の倍以上の値段というのはお高いんじゃないかなぁという気が(^^;)。

今回は通常版と限定版で色味の違いが今までと比べるとちょっと分りづらいですかね?背景の青っぽい方が通常版で、紫っぽいというか暗い方が限定版。

 


収録内容は前巻からの「タワマンマダム殺人事件」

 

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が1話と、他は新章の「京都美人華道家殺人事件」が全てを占めています。

「タワマンマダム殺人事件」ですが、やっぱり後1話のみでしたね。1話だけならやっぱり前の巻で入れちゃった方が良かったのでは?と思います。
頭が固いので、殺人の犯行動機がギャグっぽいのはあんまりよろしくないなぁとなってしまいますな。真面目な方(?)の犯行動機はお受験の合否関係。受験の合否関係での動機って金田一少年の事件簿「血溜之間殺人事件」でもありましたね。

 

 

最後に真壁先輩が金田一を飲みに誘っているのがホッコリする。真壁先輩、丸くなったもんだ・・・。20年取ればてば角も取れてくるもんですかね。

 


さて、今巻は「京都美人華道家殺人事件」がメインですね。
では簡単にあらすじを・・・

 

音羽ブラックPR社の営業部主任・金田一一と部下の葉山まりんは、インバウンド向け京都伝統文化イベント企画のために京都の有名な華道家である赤池流家元・京極家を訪れた。
色々と複雑な事情がありそうな京極家の離れに都合により泊めてもらうことになった金田一とまりんだったが、その夜、金田一枯山水の中庭が見える風呂場の窓から庭石の上に横たわっている死体を発見する。枯山水に残っていた足跡は被害者のものだけ。はたしてこれは自殺なのか、それとも“足跡なき殺人事件”なのか。
一同が困惑に包まれる中、さらに謎を深める第二の事件が発生して――。

 

 

 

 

 

 

てんこ盛り
タイトルに“美人”ってついているの、なんだか週刊誌の見出しっぽい(笑)。
華道の名家、複雑そうな人間関係、双子、足跡なき殺人、首なし死体、見立て殺人・・・・・・と、色々とてんこ盛りで本格推理好きはワクワクするワードが目白押しですね。このベタな感じ、私は好みです。
古式ゆかしいミステリの雰囲気ではありますが、“リベンジポルノ”という近代的(?)な単語も出て来ます。しかし、この裸の画像の絵、もっと綺麗にというか丁寧に描いて欲しいですね。ほぼ一ページ使っての画なのだし・・・(^^;)。

 

今作ではコミックス第1巻特装版付録の「容疑者になれる権」の当選者の名前が作中で使われています。

 

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仲働きの浪風千紘として登場。京都らしい名前で今回の事件にあっていますね。
この千紘さんと板前の辻森さんですが、いくら話の都合上とはいえ、客人である金田一とまりんちゃんにベラベラ家の内情を喋りすぎですね。喋るだけではなく、リベンジポルノの画像だと言って、さっき対面した人のあんな身体のすべてが丸写しになっている写真見せるとか・・・・・・人として良識がなさすぎるんじゃ。それほど雇い主に鬱屈が溜まっているということなんでしょうか。

 

 


双子
本格推理もので双子が出て来るからにはトリックやらどっかしらに双子なのを利用した仕掛けがあるはず。
今のところ見当がつくのは、リベンジポルノの画像の主が妹の桜子ではなく姉の薫子の方なのかなぁぐらいですかね。薫子は精神的に追い詰められていた描写もありますし。
双子の美人姉妹で華道家って、金田一少年の事件簿の短編集2巻に収録されている「½の殺人者」と設定が被っていますね。

 

 ※文庫版の方だと短編集1巻に収録されているようです↓

 

 

姉の方がおとなしい性格で、好き勝手している妹の方が生け花の才能があるというのも同じ。そういや、茅さんは37歳の事件簿の方には登場してくれるのだろうか・・・。

 

 


ヒント
犯人特定のヒントとしては犯人が右腕を被害者に噛まれている点。

ハエ叩きのシーンがわざわざ描写されているのも腕を見せるためですかね。だとすると妖しいのは弟弟子の黒樹ですけど。電話掛ける際に丁度犯人が噛まれたあたりの腕部分が肘当てみたいなので隠れていましたしね。


あと、宗家の雁流が口走った「サイコやないか?」ですね。多分このセリフを聞いたから犯人は雁流を殺すことにしたんだと思うんですけど・・・。京都弁の独自の言い回しかなにかでしょうか?言う前に咳き込んでいたのがヒントなんでしょうけど、これはサッパリ見当もつきませんね。花粉とか香とかかな?

 

 


期待したい
4巻は犯人が雁流を殺そうとしているところで終わっています。この事件は結構長くなりそうな予感。次の5巻を丸々使って終わるかどうか微妙なところですね。

今巻ではまだ美雪は相変わらず金田一とライソで連絡とっているのみです。真壁先輩に「七瀬さんとはどうなったの?」と聞かれていますが、「その話はやめましょうよ!ね!」とはぐらかしています。(真壁先輩こそ鷹島さんとはどうなったんだろう・・・)
金田一は益々まりんちゃんに揺り動かされている御様子。大丈夫だろうか(-_-)やっぱり美雪に早く出て来てもらいたいところですね。

 

少年時代からの登場人物は今巻では新たには登場しなかったのですが、次巻では誰か出て来るかなぁ。京都府警の山科刑事金田一の場慣れ感を気にしている様子なので、どこかに素性確認して20年の間にあった“何か”の新事実が少し出て来るかも。なんにせよ次巻に期待ですね。


5巻は2019年10月発売。楽しみに待ちます!

※出ました!詳細はこちら↓

 

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ではではまた~

 

金田一37歳の事件簿(4) (イブニングKC)

金田一37歳の事件簿(4) (イブニングKC)

 

 

 

 

 

ルパンの娘 原作小説のあらすじ・内容ネタバレ ドラマとはまったくの別物?

こんばんは、紫栞です。
今回は横関大さんの『ルパンの娘』をご紹介。

ルパンの娘 (講談社文庫)

2019年7月11日から放送予定の連続ドラマの原作本ですね。

 

あらすじ
三雲華はある日突然恋人の桜庭数馬の家に挨拶に行くことに。結婚を意識していたとはいえ急な展開に緊張しつつも桜庭家を訪れた華だったが、到着早々、桜庭家の玄関に飾られていた家族写真を見て愕然とする。全員が警察の制服らしき服装に身を包み、それぞれ敬礼のポーズをしている写真だった。桜庭家は代々警察官を輩出してきた家系で今の家族は全員が警察関係者であり、公務員だと言っていた数馬自身も実は警視庁捜査一課の刑事であるという。
まったくどうしたものやら・・・。
華は途方に暮れてしまう。警察官一家の桜庭家と自分の三雲家では釣り合いがとれるとれない以前の問題だった。華自身は平凡な図書館司書であるが、三雲家は代々泥棒を生業とする家柄であり、今も華以外は家族全員が泥棒なのだ。
そんな中、荒川の河川敷で顔を潰された遺体が発見され、数馬はこの事件の捜査にあたることに。この遺体の主は華の祖父で伝説のスリ師・三雲巌だった。数馬も華もそれぞれに事件の謎を追うが――。
巌を殺した犯人は誰なのか?そして泥棒の娘と刑事の息子、報われない二人の恋の行方は?

 

 

 

 

珍妙なロミオ&ジュリエット
横関大さんは2010年に『再会』第56回江戸川乱歩賞を受賞して作家デビューされているミステリ作家さん。横関さんの作品を読むのは初めてなのですが、ドラマ化の情報を知って楽しそうな設定なので読んでみました。

著作が映像化されるのは受賞作でデビュー作の『再会』が2012年にフジテレビ系の土曜プレミアム枠で放送されて以来だそうです。

 

再会 (講談社文庫)

再会 (講談社文庫)

 

 

泥棒一家の娘と警察一家の息子の恋の行方・・・・・・・。当然のように前途多難でどんなロミジュリだよって感じなんですが、このあり得ない設定を活かしてコミカルにミステリが展開されていき、終盤には読者の期待通りのド派手な大団円が待ち構えているという、読んでいて気分の良い娯楽作品。恋愛小説で、家族小説で、ミステリ小説であるといった欲張りな作品でもあります。
題名の『ルパンの娘』というのは三雲家が「Lの一族」と呼ばれていることに由来していて、“L”というのがアルセーヌ・ルパンから取っての名称なので“ルパンの娘”。別にアルセーヌ・ルパンと何らかの関わりがあるという訳ではないので勘違いしないように注意(?)。

 

 

 


ドラマ
ドラマは2019年7月11日からフジテレビ系木曜劇場で放送予定。演出を担当されるのはのだめカンタービレ』『テルマエ・ロマエ』『翔んで埼玉』などを手掛けた武内英樹さんということで、コメディ一直線な楽しいドラマに仕上がるのではないかと。原作には無いアクションやミュージック要素(!?)まで入るらしいです。とにかく娯楽に特化したドラマになりそうな予感。

 

キャスト

三雲家
三雲華深田恭子
三雲尊(華の父。美術品専門の泥棒)-渡部篤郎
三雲悦子(華の母。宝飾品専門の泥棒)-小沢真珠
三雲渉(華の兄。ハッカー)-栗原類
三雲マツ(華の祖母。鍵師)-どんぐり
三雲巌(華の祖父。スリ師)-麿赤兒

桜庭家
桜庭数馬瀬戸康史
桜庭典和(数馬の父。警視庁警備部勤務)-信太昌之
桜庭美佐子(数馬の母。鑑識課の非常勤職員)-マルシア
新谷香(数馬の妹。交通課勤務)-さとうほなみ
桜庭和一(数馬の祖父)-藤岡弘


巻栄一(数馬の先輩刑事)-加藤諒

円城寺輝大貫勇輔

 


はい。このキャスト一覧を見るとまず気になるのが役柄と役者さんとの年齢の齟齬ですよね。

得に気になるのは三雲家でを演じる深田恭子さん現在の実年齢36歳。その母役の小沢真珠さんが42歳。役の栗原類さんが24歳・・・・・・家族の設定としては明らかに可笑しいですね。一応原作では母の悦子は五十代だが見た目は三十代に見えるという設定ではあるのですが・・・。
ドラマでの華は何歳設定なのでしょう?原作では華は25歳で恋人の数馬(瀬戸康史)は華の三つ年上の28歳という設定なんですけどね。


これはもう舞台演劇のように与えられた設定を飲み込んで役者の実年齢などには囚われずに鑑賞しろということなんでしょうか。

 

ドラマの公式サイトを見る限り、泥棒一家の娘と刑事の息子のラブコメディという設定を原作から頂いて別の娯楽作品に作り替える感じなんじゃないかなぁと思います。原作というより“原案”。
ドラマは人一倍盗みの技術はあるもののカタギの道を歩んでいる華が恋人の刑事・数馬を助ける為に毎回結果的に影で泥棒の手伝いをするといったストーリー展開なんだそうです。
数馬は捜査三課所属で窃盗事件捜査の中でいつも三雲家と関わってしまうという流れらしい。

原作では華は気を抜いていると無意識で財布をすってしまうといったことをするぐらいで(それもどうかと思いますけど)具体的に盗みに入るシーンはありませんし、小説内で追っている事件はあくまで祖父・三雲巌が殺された事件のみですので、そんなバラエティに富んだ窃盗事件は登場しません。そもそも原作での数馬は捜査一課所属で殺しの捜査が専門なので窃盗事件には関わらないんですよね。


なので何かと話題になっている泥棒スーツも原作ではもちろん着ないんですけど。ドラマのポスターは完全に泥棒活劇の映画。
でも、この設定変更はエンターテインメントとして面白そうですよね。連続ドラマでやるならこの方が楽しそう。原作以上のコミカルな作品に期待です。

 

他、数馬の妹の(さとうほなみ)はドラマでは既婚者設定のようですが原作ではバリバリ独身で、身体を鍛えてばかりいる男勝りな女性。最初は華に対して悪感情を抱いていたものの、一回華と飲みに行ってからは数馬と華の結婚を全力で応援してくれるようになるという原作の中でも特に魅力的な人物で私も一番好きなキャラクターなんですが、ドラマだと性格とかも変更されちゃいそうですかね(^^;)


円城寺輝(大貫勇輔)はドラマ完全オリジナルキャラクター。華の幼馴染みで大泥棒。華に想いを寄せていて何とか数馬から奪おうと画策するキャラクターなんだそうな。

気になるのは原作でのキーパーソンである元警察犬訓練士で数馬の祖母・桜庭伸枝がキャスト一覧に紹介されていないことですね。元警察犬の桜庭家の飼い犬・ドンの存在も公式サイトで紹介されていないのはどうしたことなのか・・・。伸枝が不在となると原作での事件の成り立ちがガラッと変わってしまうのですが・・・遅れて紹介なんでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


内容
小説は全四章。
華の苦悩をよそに何も知らぬ数馬と泥棒一家と警察一家で仲良く結婚に向けてとんとん拍子に進んでいく中、第二章の途中で数馬が華の祖父が殺された事件を捜査している中で華の素性を知ってしまい、第三章で結婚話はご破算になって華の両親は窃盗事件で指名手配となり、三雲家は一家離散に。最後の第四章で別の相手との見合い結婚を決めた数馬を三雲家一同で盗もうという「花婿強奪計画」を実行。そんな中で数馬は華の祖父が殺された事件の真相に気がつき、三雲家と一席ぶって犯人を罠にはめる――。
と、いった流れ。

 

語り手は華と数馬が交互。章とか関係なく5・6ページおきに目まぐるしく語りが替わるので、シンプルながらも500ページと結構な分量がある本ですが飽きずにズンズンと読む事が出来ます。

 

両家の顔合わせで両家が互いの素性を知らないままに思いがけず仲良くなってしまうところが面白いです。また登場する家族達が個性豊かで楽しいんですよね。なので、正体がばれてしまった時は「あーあ」って感じでした。
警察一家の息子と泥棒一家の娘で“ロミオとジュリエット”設定ではありますが、当人の華と数馬は互いの素性を知ってからは早々に“あきらめムード”になって第三章ではすぐに結婚はご破算になってしまうので、ロミオとジュリエットほど熱量がないのが何だか肩透かし。数馬の妹の香や祖父の和一は一生懸命に華の味方をしているってのに・・・。四章では早々に他の人との結婚を決めているし・・・ちょっとモヤモヤ(^^;)
主要二人の恋愛部分に熱を感じられないぶん、家族の面々が際立っているので恋愛小説の要素より家族小説の印象の方が強くなっているかなと思います。

 

 


結末
事件の犯人は数馬の先輩刑事・巻栄一。殺された華の祖父・巌は数馬の祖父・和一と祖母・伸枝と大学生時代の同級生で、巌が伸枝を家に送っていく途中で強姦目的の男に襲われ、未遂に終わったものの、伸枝は顔に一生消えない傷が出来てしまうという事件が発生。巌は長年この事件の犯人を追っており、やっと突き止めた人物は元警察上層部の巻の祖父。巻は祖父に頼まれて脅して口封じしようとするも、勢い余って殺害してしまったという真相。

しかし、この真相には続きがあって、実は顔を潰された遺体の主は巌が影武者として使っていた男で、巌は生きていた。最後に家族と合流して皆と幸せそうに過ごしています。華と数馬も両家の了承が取れて立場上結婚とはいけないまでも一緒に暮らして(実際には同棲相手も内部調査されるはずだから無理ではとは思いますが)新しい命を授かっています。

 

なんという大団円。これ以上ないほどのハッピーエンドですね。

 

 


いろいろ言いたい
こんな読者の期待通りの結末を迎える今作ですが、設定が設定なのだから多少のご都合主義には目をつむるべきだろうとは思いつつも、やっぱり色々と言いたいところがチラホラリ。

まず、数馬ですが、華が住んでいると偽っていた自宅の近隣住民に思いつきで事件捜査のために手にしていた巌の写真を見せて華の素性を知ることになるというのは都合が良すぎて解せないです。方やプライベート、方や事件捜査と二つの事柄にはこの時点では接点を見出しようもないのにこの行動は納得がいかないですね。

巻が犯人だろうというのは事件現場に行く前にトイレに寄っていく描写が何故か入っていることから読者は予想がつくのですが、犯人だとする根拠がこれだけだというのもミステリとしては少し足りないような気がしてしまいます。
巌が実は死んでいないというのも本格推理小説界の定説「顔が解らぬ死体=被害者偽装トリック」というので王道中の王道ではありますが、無理やりというかやり過ぎ感は否めないですね。

あと、巌さん、強姦未遂の犯人を突き止めるのに50年って、時間かかりすぎてやしないか。

 

個人的には個性豊かな家族の面々に比べて肝心の主役二人、華と数馬が魅力に欠けているように感じてしまうのが読んでいて少しネックでした。
恋愛部分の熱量が足りないとは上記した通りですが、華は三雲家に不平不満を抱きつつもハッキリした態度を示さずに流されてばかり。何故周りの人々にあんなに好かれているのかよくわからないんですよね。
数馬はあんなに結婚したがっていたのに華の素性を知ってすぐに諦めてやけくそで他の相手と結婚を決断したかと思いきや事が終わると「やっぱり華が好きだ」って・・・なんとも薄っぺらな。打算的な婚約者ではありますが、公の場であんな目に遭わせてしまうのはやはり気の毒だよなぁと女性としては思ってしまいます。この婚約者は別に何も悪いことしていないのに・・・・・・。

 

 

 

 

楽しめれば良い
と、思わず愚痴っぽく書いてしまいましたが(^^;)
これはエンタメとして細かいことや深いことは気にせずに振り切って楽しむべき作品なんだと思います。警察一家と泥棒一家という設定を生かした結婚式での結末は「やっぱりこうでなくちゃ」といった爽快感に溢れていてこの作品、この設定ならではの大団円で読者を気持ちよく満足させてくれますので、ドラマ化で気になった方は是非是非。

 

ルパンの娘 (講談社文庫)

ルパンの娘 (講談社文庫)

 

 

2019年7月12日に続編講談社文庫から発売されました!詳細はこちら↓

 

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ルパンの帰還 (講談社文庫)

ルパンの帰還 (講談社文庫)

 

 


ではではまた~

『奇子』(あやこ) ネタバレ・解説 子供に読ませてはダメ!?手塚治虫のタブーだらけの代表作

こんばんは、紫栞です。
今回は手塚治虫奇子をご紹介。

奇子 手塚治虫文庫全集(1)


あらすじ
昭和二十四年。天下仁朗は戦争から復員し、久しぶりに四百年続く大地主の旧家・天下家に帰ってきた。天下家には仁朗が戦争に行っている五年の間に「奇子」という四歳になる妹が出来ていたが、この奇子は仁朗の母・“ゐば”が産んだ子ではなく、兄嫁の“すえ”と父・作右衛門との間の子だという。長男の市朗が天下家の遺産を相続することと引き換えに嫁を差し出すことを作右衛門に要求されてのことらしい。
これらの事実を平然と話す一族の面々に仁朗は「うちは異常な家だ」と憤るが、仁朗自身は戦時下の最中でGHQの秘密工作員に成り下がっていた。
そして或る日、仁朗は上からの命令で共産主義者の男の殺害事件に関与し、その後血のついたシャツを洗っているところを女中で知的障害のある“お涼”と奇子に目撃されてしまう。
仁朗は口封じの為にお涼を殺害するが、弟・伺朗の告発によって仁朗の事件への関与が一族の前で白日の下にさらされる。しかし、家名が汚れることを恐れた兄・市朗は仁朗を逃がし、目撃者の奇子を警察の追求から遠ざけるために偽の死亡届を出し土蔵の地下に幽閉してしまう。
村人の記憶から消し去られ、外界から遮断された暗闇の中で奇子は人間ばなれした清潔さをもって美しい女へと成長してゆくが・・・・・・。

 

 

 

 

 

 


「冬の時代」代表作
奇子』は1972年から1973年まで「ビックコミック」に連載された作品。
私はその時代を体験していないので、その当時世間でどんな風に扱われていたのかは実際のところは分りませんが、1968年から1973年は手塚治虫が作家として窮地に立たされていた「冬の時代」らしいです。
劇画の台頭やらでそれまでの「健全ないい子ちゃん漫画」へのアンチ感情が蔓延したりしたらしく、それによって手塚漫画(主に「アトム」など)がやり玉に挙げられて人気が低迷。手塚治虫自身の精神状態が反映されたのか、はたまた「健全ないい子ちゃん漫画」という世間の声への反発と当てつけもあったのか、60年代後半から70年代前半は青年向けの暗くって陰惨な作品を多く描いています。巷でよく言われる「黒手塚作品」ってやつですね。

映画化もされた『MW』

 

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MW -ムウ-

MW -ムウ-

 

 

『人間昆虫記』

 

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などがよく上げられているでしょうか。どろろもこの時期に書かれたものですね。『どろろ』は少年誌での連載でしたが・・・。

 

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私個人は手塚治虫の後期の作品ばかり読んでいるせいか、「健全ないい子ちゃん漫画」などという言葉はまったくピンとこないんですけどね。初期の少年向けの代表作も知っている限り悲劇で始まり悲劇で終わる作品が多い印象が強いので、私の中では「容赦なく悲劇を描く作家」ってイメージです。キャラクターに対してドSだなぁっていう(^^;)この描きっぷりが物語作家としての凄味で天分なんだと思うんですけども。


作者の暗い精神状態が反映されているのではとは言いますが、暗いからといって駄作だという訳ではなく、作品としては非常に奥深くって今となっては評価が高い傑作なども多く誕生しています。
奇子もその一つで手塚治虫の“裏”代表作ともいうべき作品。子供に読ませてはいけない手塚漫画の筆頭って印象・・・・・・を私は長年勝手にもっていました。

とにかく淫猥なイメージが強くって、興味がありつつも「まだ読むべき本じゃない」とか学生時代から思い続けていた訳ですが、もういい加減オトナなので(^^;)満を持してこの度やっと読みました。


今現在入手しやすいのは角川文庫版の上下巻、

 

 

講談社から刊行されている手塚治虫漫画全集の上下巻と電子書籍

 

 

そして、復刻ドットコムから刊行の《オリジナル版》上下巻ですね。

 

 

 

《オリジナル版》なんですが、実は奇子』は単行本で刊行の際にラストを雑誌掲載時の内容から変更して書き換えられているらしいので(手塚治虫はよく書き直しをした作家で有名ですね)、この《オリジナル版》では雑誌掲載時の、単行本には未収録だった幻の別エンディング7ページが初収録されています。他にも連載時を再現し、カラー絵や全話扉絵もすべて収録されているということでお値段がお高い。
しかし、作者本人が書いた別エンディングがあるとか言われるとファンは見過ごせないですよね・・・。最終稿こそを真実作者が決定した結末と捉えるべきだとは思いますが。もっとお手頃価格のバージョンも出してくれれば良いのに・・・・・・。

 

 

 

 

地方旧家と戦後
読んでみての率直な感想としては「こりゃホント、子供に読ませちゃ駄目だわ」だったんですけども。

終始陰惨な話で、手塚作品でお馴染みのギャクなども今作には一切無いので手塚治虫の少年向け漫画しか読んだことない人はやっぱりかなり驚くと思います。

 

作品雰囲気は簡単に言うと横溝正史松本清張を混ぜた感じ
戦後の日本を舞台に、横溝正史作品のような地方旧家の因習、倒錯的な性や人間関係と、

 

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時勢や史実の事件を盛込んで松本清張作品のような社会派ミステリも展開されるといったストーリー。

 

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なんというか、文学的な印象を受けますね。小説で書いても面白いんじゃないかとか思ったりします。問題作だなんだと言われていますが、小説だったらこれくらいの内容は別に問題にならないですよね。


地方旧家・天下家は主人公の仁郎が序盤で言う通りに「異常な家」で、おぞましくて気持ち悪い人間関係が蔓延している中で、“村”という閉鎖空間ならではの裁量、殺人、近親相姦、知的障害者への虐待、幽閉、差別用語のオンパレードなどなど、タブーがこれでもかと出て来ますが、これがまったく荒唐無稽に見えない。嫌気がさすくらいにリアリティがあります。「ああ、当時の村ではこういう事、普通にあったんだろうな」っていう。
また、村民や天下家一族が強い訛りで交わす会話内容が何とも言えず生々しいんですよねぇ(^_^;)描写力が良くも悪くも凄い。

 

 

 

 

 


下山事件民進党
戦後の裏日本史ということで1949年に起きた国鉄総裁死亡事件・「下山事件が題材として使われています。作中では“霜川事件”と名称が変えられていますが、事件の詳細などはほぼ史実通りに描かれていますね。
下山事件」は未解決で終わっていて、色々な説が今なお飛び交っている事件なんですが『奇子』ではGHQの謀殺として描かれており、秘密工作員をしている仁郎が事件に関わってしまう流れ。
下山事件」は松本清張も1960年に連作ノンフィクションとして『日本の黒い霧』で取り上げています。

 

やっぱり『奇子』を描くにあたって横溝正史松本清張の作品を参考にしたんじゃないかなぁって気が。

 


他、作中では共産主義政党として民進党という架空の政党が出て来ます。時を経て、本当にこの名前の政党が日本で誕生したというのはまったくの偶然だとしても何か皮肉めいたものを感じてしまいますね。

 

上記の点などから『奇子』は昭和のこの時代だからこそのお話になっているのですが、只今九部玖凛さんによって現代リメイク版『亜夜子』が「テヅコミ」にて連載中で、今月6月には1巻も発売されました。

 

 

 

このお話をどうやって現代設定に・・・・・・・?かなり興味深いですね。

また、エロくてタブー目白押しだったり、史実の事件を扱っているせいか、有名作であるものの今まで映像化などはされてこなかった『奇子』ですが、2019年7月より初舞台化が決定されました。
このスキャンダラスな作品をどう舞台で表現するのか・・・・・・こちらもかなり興味深いですね。

 

 

 

 

 

 

 以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因果
奇子がどんな娘なのか。それは端的に言うなら「究極の箱入り娘」
23年間、土蔵の地下に幽閉され、自由を奪われて外界から完全に隔離された結果、世間一般での常識や教養を持ち合わせるすべもなく、損傷も疲弊も汚点もない、人形じみた肉体を持った純粋培養の女。
奇子』というタイトルではありますが、物語りは大半が仁朗の視点で進んでいます。奇子は特別なにか行動する訳でもなく、ただ閉じ込められているだけ。最初のうちは地下から出たがっていたものの、幽閉生活が長くなると外の世界を怖がって出るのを拒むようになり、下巻で天下家から逃れて仁郎の屋敷に身を寄せてからは何かあると自ら箱に入って閉じこもってしまうという文字通りの「箱入り娘」に。

 

奇子自身は何もしていないのに、奇子の存在によって周りが勝手に右往左往しているという図式がこの物語りの格で、特に男どもは皆が皆己の“欲”によって身を滅ぼし、道を外していくんですけども、その様々な“欲”・“因果”の中心には奇子がいる。

 

女性としては読んでいると「男はホント、しょうがねぇなぁ」っていう、もうそれにつきる感じなんですよ。この物語りでは奇子を始め、女は別段悪いとされるような事はしていないんですよね。男の都合で振り回され、奪われているだけ。これが当時の現実なんでしょうけど。奇子や“すえ”はもちろんですが、お涼なんて本当に気の毒ですよ。何にもしていないのに仁朗に脅されて不名誉な偽証されて挙げ句殺されて。

 

個人的に、すべての元凶である父・作右衛門や長男・市朗よりも罪深く感じてしまうのは三男の伺朗ですね。

途中までは幼いながらも一族の中で唯一正論をズバズバ言う読者の代弁者みたいな人物で、奇子の母である“すえ”に次いで数少ない奇子の味方の一人だったのですが、兄弟でありながら奇子と関係を持ってしまってからは「なにやってんだコイツ」状態。正論的なことを相変わらず口にしますが、奇子に手を出して以降はどんなセリフも「アンタに言われてもね」ですね。最初に読者の代弁者だったぶん、何だか裏切られた気分になってしまいます。

奇子は無知で、男だの女だの自体がよくわかっておらず、貞操観念が薄いというより“そもそも無い”という娘。差し入れられた本を読んで“恋”に憧れ、唯一接触する機会のある男性である伺朗に誘いをかける訳ですが、いくら誘われたとはいえ、何もわかっていない妹を相手に肉体関係をもってしまうというのは外道だと思う。

 

「人間のクズだ 人でなしめ!!」
「そん通りよ――おれはなー天下の汚物をぜんぶひっかぶったごみ箱がおれだというだことがある」

 

開き直ればいいってもんじゃないんだよ!ですが(-_-)


伺朗は過去の天下家について調べた際、天下家がいかに血縁関係のメチャクチャな家柄かというのを知って絶望というか諦めをして「俺一人だけ聖人でいるのは馬鹿馬鹿しい」と思ってしまったというのが背景にはあるようです。
血族結婚を繰り返すとサディストなど精神疾患者が出やすいという話があります。「血の伯爵夫人」

 

エリザベート・バートリ―血の伯爵夫人

エリザベート・バートリ―血の伯爵夫人

 

 

の異名で知られるエリザベート・バートリーを排出したバートリー家は、財産や権力を保つ為に外部の人間が入るのを嫌って血族結婚の繰り返しをしていたんだとか。日本でも名家や地方によっては同じような理由で近親間での婚姻が当たり前のように行われていた時代があったようです。
奇子』を書くにあたり、これらの歴史的背景も念頭にあったんじゃないかと思いますね。

 

 

 

 

ラスト
後味が悪いラストで有名な『奇子』。

手塚治虫自身はもっと長く書くつもりでいたらしいのですが、“大人の事情”で予定より早く連載を終了することとなり、終盤は確かに急ぎ足で収束に向かわしている感が見受けられます。


ラストは天下一族が一堂に会し、伺朗の暴走によって(ホントになにやってんだコイツ)皆が穴ぐらに閉じ込められるという展開。
終盤が急ぎ足なせいかやけくそな結末という風に感じるかもですが、読んでいて一番面白いのは、この穴ぐらに閉じ込められて皆が本音をぶっちゃけて言い争いをする場面です。ある意味一番スカッとする場面なんじゃないかと。

 

暗闇の中で皆が恐慌状態に陥るも、奇子は高笑いをし始めます。

 

「――奇子の笑っているわけがわかりますよ 奇子は復讐しているんだ 二十年もの閉ざされた恐怖を・・・・・・いまのみんなが味わってるんで」
奇子には満足なんだ」
「それで笑うんですよ」

 

意図せず復讐を果たすこととなる奇子と、仁郎がGHQの謀殺事件に関わったことで始まった物語りが、23年経って報復を受けるように身に降りかかってくるという因果応報。
大人の事情で打ち切りになった本作ですが、この物語りにはこの結末が最も相応しく、この結末以外あり得ないのではないかと思います。

 

最後は穴ぐらから奇子のみが生きて救出されるもその後行方知れずに。天下家で一人残された母・ゐばが村を見下ろしている場面で終わっています。


一見悪いことはしていない志子や一族と無関係の下田刑事の倅までもが死んでいるなかで、このゐばだけは天下家の因縁から難を逃れているのは不思議な気もしますが、良くも悪くも貞女の鏡で存在感は薄いものの、ゐばだけは欲に振り回されず、伺朗のように天下家に愛想を尽かして開き直ることもなく、妻として母として努めていた、実は最も強い人物なんじゃないかと。
皆ゐばを蔑ろにしているようでいて、遺言状を預けたり、奇子への送金を託したりしているので、家族の中で唯一誰からも信頼されていたのは読み返してみるとよく解ります。
手塚作品は比較的どのお話も母親が良さげに描かれているような気がする・・・。往々にして男性作家はそういう傾向が強いですけどね。基本マザコンというか・・・。

 

復刻ドットコムの《オリジナル版》に収録されている雑誌掲載時のラストは単行本とほぼ同じものの、生存者が増えているらしいので読み比べてみたいものですね。

 

 

 

しかし、単行本で奇子以外死ぬ風に書き直したということは、やっぱりその方が話しとして纏まりが良いと思ったからなんですかねぇ・・・。

 


行方知れずになっている奇子ですが、手塚治虫としては続編の構想があったようです。書かれないままに亡くなってしまったのでどんな形で続きを描こうとしていたのか想像するしかありませんが、男に道を踏み外させる運命の女・ファム・ファタールものみたいなのを書くつもりだったんじゃないかなぁ~とか思うんですけど・・・どうでしょう。先生が亡くなってしまったことが悔やまれますね。

 

夢や希望があるお話ではないですが、読めばきっと漫画家・手塚治虫の底知れぬ凄さを改めて思い知る作品だと思いますので、大人ならば是非是非読みましょう。

 

 

 


ではではまた~

 

 

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ダイナー 小説・ネタバレ 。映画、漫画・・・最狂エンタメの原作本!

こんばんは、紫栞です。
今回は平山夢明さんの『ダイナー』をご紹介。

ダイナー (ポプラ文庫)

第十三回大藪春彦賞、第二十八回日本冒険小説協会賞、第五十九回日本推理作家協会賞受賞作。
2019年7月5日公開予定の映画の原作本ですね。

 

 

あらすじ
「ここは殺し屋専用の定食屋(ダイナー)だ。おまえの客はすべて人を殺している。おまえは人を殺した人間から注文を取り、人を殺した人間に料理を提供し、人を殺した人間にコーヒーを注ぎ、つまり人を殺した人間をくつろがせる。気難しい奴が多い。極端な話、皿の置き方ひとつで消されることもあるだろう」
オオバカナコは三十万欲しさにほんの出来心から闇サイトのバイトに手を出すが、雇い主がしくじったことで一緒に捕らえられ、酷い拷問にあったあげくに定食屋(ダイナー)「キャンティーン」に使い捨てのウェイトレスとして売られてしまう。
キャンティーン」はプロの殺し屋専用の完全会員制のダイナー。天才シェフで元殺し屋のボンベロが作る極上の料理を目当てに、殺し屋たちはつかの間の憩いを求めて店に訪れる。
“王”として支配的に振る舞うボンベロや、客である殺し屋たちにいつ消されるともわからない戦々恐々の日々の中、カナコは殺し屋たちの複雑怪奇な人間模様に触れ、翻弄されていくのだが・・・・・・。
奈落で繰り広げられる狂気と暴力。そして、料理と男と女の物語り。

 

 

 

 

 

脳が刺激されっぱなしの最狂エンターテインメント!
作者の平山夢明さんは作家以外にも色々されている方。京極夏彦ファンの私としては「京極さんと仲が良い方」という認識が先にきます。一緒にラジオ番組やっていますし、京極さんの著作『嘘実妖怪百物語』にも実名で登場していますね。

 

 

あとはとにかく、グロ作家さんという印象です。
この『ダイナー』が平山さんの現状一番の代表作で知名度も高いですが、他に代表作の筆頭として必ず出て来る『独白するユニバーサル横メルカトル』

 

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

 

 

という短編集を前に読んだのですが、ま~とにかくグロい!全編、凄まじい暴力と拷問のオンパレード。あまりの描写にいっそファンタジックな気分になってしまうほどです。物語りは面白くて完成度も高いので良い短編集には違いないのですが、個人的に拷問描写が苦手な私は『ダイナー』が名作だよと聞いて気になりつつも何年もなんとなく手が出せない状態でした。今年映画化されるとなってやっと読んでみた次第です。

 

読んでみたらですね、今まで読んでいなかったのを後悔するくらいに面白かったです。流石にこの作品だけで賞を三つも取っているだけあると納得の小説でした。


最初っから最後まで一時も安心出来ない出来事の連続で気が抜けずに一気読み。圧倒的な「暴力」と「狂気」で終始「いつ消されるかわからない」といった恐怖で脳がシビれる状態が延々続きますが、「暴力」と「狂気」に彩られる中で別のものが見え隠れしてきて終盤に炸裂。そのまま最高のラストへと誘われます。

 

“ダイナー”というのはアメリカのレストランで主にハンバーガーなどを出すお店のこと。なので、作中ボンベロが作る料理もハンバーガーが主なんですが、コレが凄く美味しそうに豪華に描写されています。読んでいるとハンバーガー食べたくなってしまう(^^;)それで本の表紙もハンバーガー。他の料理もめちゃくちゃ美味しそうです。
散々の暴力描写の後にひたすら美味しそうな料理。
もう訳がわからない混沌の渦ですが、独自の世界観にドンドン引き込まれていきます。

 

小説のジャンルとしてはノワールになるんだそうな。確かに舞台は地獄そのものなのでノワールとなるのかもしれないですが、でも感覚としては規格外の刺激的すぎるエンタメ小説という感じ。
とにかくエンターテインメントに特化した作品で、ずっとごちそうを食べているかのような贅沢な作品になっています。

 

私は文庫で読んだのですが、今作は文庫化にあたり結構な書き直しがあるようです。特に第六章には大幅な変化があるのだとか。なので、今から読むなら文庫がオススメですね。単行本で読んだ人も文庫とどう違いがあるか確かめてみると良いんじゃないかと思います。

 

ダイナー (ポプラ文庫)

ダイナー (ポプラ文庫)

 

 

 

 

 

映画
7月5日公開の映画は監督が蜷川実花さん。蜷川実花さんが監督をするからには極彩色で毒々しい映像美が期待できますね。既にして、公式サイトにも流石に美しい写真が並んでいます。ストーリーはもちろん映像でも胸焼けするほど脳を刺激してくれそうですな(^o^)。

 

キャストは以下の通り
ボンベロ藤原竜也
オオバカナコ玉城ティナ
スキン窪田正孝
キッド本郷奏多
ブロ武田真治
カウボーイ斎藤工
ディーディー佐藤江梨子
ブタ男金子ノブアキ
マテバ小栗旬
マリア土屋アンナ
無礼図(ブレイズ)真矢ミキ
コフィ奥田瑛二


主演が藤原竜也さんとなっており、蜷川さんは男性の主役で映画を撮るのはコレが初なんだとか(言われてみれば、ずっと女性が主役の映画ですね)。原作は全編カナコ視点で描かれているのでカナコが主役という印象の方が強いんですけどね。

 

キャストですが、登場人物の名前や特徴や素性も色々変更されています。原作に登場するのはボンベロカナコを中心として、ディーディー、カウボーイ、スキン、キッド、無礼図(ブレイズ)、コフィ、マテバですが、マテバは作中では既に死亡している人物として語られていているのみですし、無礼図(ブレイズ)はキャストが真矢ミキさんになっていますが、原作では男性です。

 

原作通りの設定っぽいのは冒頭の闇サイトのバイトの雇い主であるディーディーカウボーイ、殺し屋のスキンキッド、ボンベロの現在の雇い主のコフィかなぁと。

 

他の、ブロー、ブタ男、マリアは映画オリジナルキャラクターですね。

 

女性の殺し屋でボンベロの元弟子の「炎媚」とボンベロの顔見知りで恩人の殺し屋「オヅ」が映画には不在のようです。原作ではボンベロの人となりを表す上でかなり重要で外せない人物なんですけどねぇ。

 

予告映像を観た感じでも原作からはだいぶ変更されたストーリーになっているようですので、原作小説とは別物で楽しむ映画となりそうですね。

 

個人的に、一番驚きなのがカウボーイを斎藤工さんが演じることですね。カウボーイって、冒頭でバカみたいなセリフばっかり連発してすぐに(ホントにすぐに)拷問にあって死んじゃうキャラクターなんですが・・・・映画もそのまますぐ退場なんだろうか・・・(^^;)

 

※観ました!詳しくはこちら↓

 

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漫画
『ダイナー』は漫画化もされています。

 

DINER ダイナー 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

DINER ダイナー 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

漫画版は河合孝典さんの作画によるもの。週刊ヤングジャンプで2017年36・37合併号にて連載開始、2019年2号まで連載されていましたが、その後WEBコミックサイトとなりのヤングジャンプに移籍して今も連載中。2019年6月現在でコミックスが6巻まで刊行されており、2019年7月4日に新刊の7巻が発売されます。


映画の公開が7月5日なので、それに合わせての刊行なんですかね。

 

平山さんの『ダイナー』が原作ではありますが、漫画版の方では小説だと死んでしまった人物が生きていたり、小説以上に色々な特性を持った殺し屋が出て来たりなど独自の展開をしているようです。
映画もそうですが、小説の「殺し屋専用の定食屋」という設定が奇抜で面白いので色々話を膨らませやすいのかもしれないですね。

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


オオバカナコ
この小説は終始、本作のヒロインであるカナコの一人称で描かれています。

“オオバカナコ”とカタカナ表記のみなんですが、この名前、そのまんま「大莫迦な子」と読めて、カナコ自身も幼少の時からこの名前を散々にからかわれてきて嫌っており、名前を変えたい一心で過去に安易に結婚したことも。


この小説の冒頭、カナコはリゾートホテル旅行に憧れて三十万欲しさに携帯闇サイトのバイトに手を出します。これだけでもう名前の通り「安易で愚かな女性だな」ですよね。旅行費の為に明らかに犯罪性のあるバイトに手を出すなんて。
案の定というかなんというか、結果的に「キャンティーン」という地獄に落ちてくる訳ですが、地獄に落ちてもなお、カナコは莫迦な行動をとり続けます。ボンベロに掃除が終わった後の便器を舐めろと言われ、従わなければ殺される状況下でそれを拒否。一億円以上する最高級の酒「歌姫(ディーバ)」(※ディーバ・ウォッカと言って実在するお酒です)を人質に取ってボンベロに軽はずみに殺されることを回避しようとします。

 

カナコは至って平凡な女性です。恐ろしい場面では普通に怖がり、身体だって震えます。怖い怖いと心中恐れているのに、裏腹に大胆で怖い物知らずな行動をする。
ようするに莫迦なんですね。


開き直ったのかなんなのか、雇い主で恐怖の対象であるはずのボンベロに敬語は使わずにタメ口で会話していますし、店に訪れる殺し屋に対しても当たり前のように口答えしたりします。
このように、ただ怖がって「きゃーきゃー」言うだけではなく、莫迦で妙な具合に逞しいカナコというヒロインはこの作品の魅力の一つになっています。

「厄介ごとは嫌いだ。おまえはややこしい」

と言っていたボンベロも、“大莫迦な子”・カナコに今までのウェイトレスに対してとは違う感情を持っていきます。

 

 

 


ボンベロ
元殺し屋の天才シェフ・ボンベロは序盤では威圧的で得体の知れぬ人間味のない人物といった印象ですが、相棒のブルドック・菊千代が登場するあたりから人間味が垣間見え始め、炎媚やオヅの登場で優しさや切なさが滲み出てきて物語り後半はすっかり魅力的な人物に感じられてきます。


カナコに対しても最初は「歌姫(ディーバ)」を人質に取られたとあって、隙あらば殺してでも酒のありかを突き止めようと狙ってくる、店の客同様にカナコの命を獲るかもしれない怖い人物ですが、カナコが菊千代の命を救ったことで「生かしておく」と決めてからは店の客や組織から全力で守ってくれるようになります。美味しいものも食べさせてくれるし。
カナコも怖がっていたはずが〈どこか別の場所でボンベロとレストランができたら良いのに・・・・・・〉と頭に浮かぶまでになります。※思った瞬間にショックをうけていましたけど。

 

「客に殺されるのは仕方がない」と言いながらもかなり骨を折って、自らも怪我を負ってまで助けてくれますが、終盤、「キャンティーン」の現オーナー・コフィの組織への裏切りにより店は閉鎖、ボンベロは今までの組織への忠誠を評価されて殺されずに追放処分となりますが、カナコは組織の手によって殺処分されることに。

「俺にはもう何もできん。何もなくなってしまった」

と、もはやここまでか・・・とカナコはボンベロに別れと感謝の言葉を最後に「キャンティーン」から去ろうとしますが・・・カナコの「ありがとう」にブチ切れたボンベロはカナコを引きずり込んで店に籠城。組織と真っ向対決することとなります。

 

ボンベロは「キャンティーン」の発案者で前オーナーのデルモニコと殺し屋仲間だったオズに命を救われた過去がありました。

 

「戻ってくるなんて思いもよらなかった。あの瞬間、最も狂っていたのはオズだった。百人が百人、俺を見捨てる状況だった。もちろん俺だってそうしただろう。ところが奴は帰ってきた。もちろん、奴だけの意思でなかったことがあとでわかったが・・・・・・」
「誰かに言われたのね」
「違う。おまえの言っている意味が命令や指図といったものであるとするならば、答えはノーだ。奴はデルモニコに電話を掛け〈感じた〉のだと説明したよ」
「感じた?」
「ああ。そうすべきだと・・・・・・デルモニコから、自分もそうすべきだと〈感じた〉のだと、奴はよく言っていた」

 

カナコにしても誰がどう見ても見捨てるしかない状況で、助けようとするのは気が狂っているとしか思えません。カナコの「ありがとう」を聞いた瞬間、ボンベロもオズと同じようにそうするべきだと〈感じ〉、ただ「生かしておきたい」という想いのままに組織に背いて店を舞台に銃撃戦を繰り広げることに。

ボンベロがこの選択をする瞬間というのがもう最高です。読んでいてテンションが爆上げに(^o^)

 

料理
殺し屋専用のダイナー「キャンティーン」はデルモニコのアイディアによるもの。自殺したり自滅してしまう殺し屋たちをなるべく生かしておこうというのが目的で、自分と同じ職業、境遇の者と触れ合い、絶品の料理でつかの間の休息を与えようというもの。


ただ食事することが自滅防止になるのかといった感じですが、たかが料理、されど料理。ボンベロのスフレを喰うことが生きがいだったスキンがそうだったように、「また喰いたい」と思うことで生き延びる気にさせることが出来る。料理にはそういう力があるんですね。

 

カナコとボンベロの間に具体的にあるのは「料理」のみ。
終盤、店に籠城し銃弾が飛び交う中でボンベロはカナコに「料理をしろ」と命じます。
それでカナコ、本当に作り始めるんですよね。こんな状況で料理を作るという、あまりにも斬新な場面が展開される訳ですが、このシュールさとどんな状況下でも料理ですべてを伝えるというのがこの作品ならではで“かくあるべし”だと感じさせられます。


カナコが作った料理の名は「Bombero’s Back(ボンベロの背中)」。ボンベロは「悪くない」と頷いて「が・・・・・・次はもっと旨く焼け」と言います。そして最後の最後、排気口にカナコを押し込み、口座と暗証番号を渡して「店でも開け。必ず喰いに行く」「面白かったぜ!オオバカナコ」と告げて菊千代と共に安否不明に。

 

エピローグではカナコは「Chimp piss(チンパンジーの小便)」というボンベロがきっと気づくはずの名前の店を開いています。
キャンティーン」の焼け跡からボンベロと菊千代らしき遺体が見付かっていないことから生存を確信、ボンベロの「必ず喰いに行く」という言葉を信じて、ブルドッグを連れた男が店に訪れるのを待ち続けているところで物語りは終了します。
つくづく料理ばかりが介在している二人ですね。

 

 

 

 

続編
現在、今作の続編として『ダイナーⅡ』ポプラ社のウェブサイト「WEB asta」にて連載中です。今作『ダイナー』は2009年刊行の作品。十年経ってのまさかの続編ですね。


『ダイナーⅡ』は2018年5月から連載されていて、映画公開に合わせて書籍刊行されるんじゃないかなぁと思うのですが、著者の平山さんは刊行の際に書き直しすることが多いみたいですので、すぐには出ないかもしれないですね。ウェブで読めるのですが、私は書籍化まで楽しみにとっておこうと思います。やっぱり紙で読むのが好き・・・(^^;)

続編、非常に嬉しいです。あの後どうなったのか気になるところ。ボンベロと菊千代がカナコの店に現われる姿を望むばかりなんですが・・・果たしてどうなっているのでしょう?とにかく、発売されたら絶対読みます!

 

 


ではではまた~

 

ダイナー (ポプラ文庫)

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ダイナー (ポプラ文庫)

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DINER ダイナー 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

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