夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

乾くるみ『リピート』あらすじ・ドラマと原作との違いなど~

こんばんは、紫栞です。
今回は乾くるみさんの『リピート』をご紹介したいと思います。

リピート (文春文庫)

只今、読売テレビ日本テレビ系で放送中の連続ドラマ『リピート』の原作本ですね。


実は私、この本ずっと前に買って読まずに放置していたのですが(そういう本が何冊もある・・・)、今回ドラマ化されると聞いてやっとこさ、読んでみました。

 

 

あらすじ
「今から約一時間後の午後四十五分に、地震が起きます。三宅島で震度四、東京は震度一です」
九月一日、日曜日の午後。大学生の毛利圭介のもとに見知らぬ男から、いきなりこのような奇妙な電話がかかってきた。不審に思いつつも、大して気にもとめなかった圭介だったが、一時間後、電話の男が告げていた通りの午後四十五分に地震が起きる。
驚愕する圭介のもとに、再び先ほどの男から電話がかかってくる。男は未来から来たと言い、時間旅行のゲストの一人としてあなたをお誘いしたい。詳しい説明は九月二十九日、横浜中華街にある《回龍亭》という店でするので、是非来て欲しいと告げる。
言われた通りに二十九日にその店に行ってみると、集まったのは九人の見知らぬ男女だった。皆、圭介と同じように地震予知の電話をうけ、ここに来るように言われたという。
地震予知電話の男は風間と名乗り、店に集まった皆を“現在の記憶を持ったまま十ヶ月前の自分に戻れる「リピート」”にお誘いしたいと提案する。
戸惑いつつも人生のやり直しに挑む男女達。しかし、「リピート」した先で一人、また一人と不審な死を遂げていき――。

 

 

 

 


タロット・シリーズ
この『リピート』は乾くるみさんの代表シリーズ【タロット・シリーズ】の内の一冊です。タロットカードの十番・運命の輪がモチーフになっていますね。


他に
●塔の断章(16番・塔)

 

 

イニシエーション・ラブ(6番・恋人)

 

 

 

●セカンド・ラブ(2番・女教皇

 

 

●嫉妬事件(3番・女帝)

 

 

が、あります。

イニシエーション・ラブ』については前にこちらの記事でも少し触れましたね↓

 

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タロット・シリーズに共通しているのは“天童太郎”という人物が必ず登場するところです。が、この天童さんが探偵役で活躍するようなミステリシリーズものではなく、各作品は完全に独立している作品で、ストーリーや人物に繋がりは一切ありません。“天童太郎”というキャラクターも連続しているものではないので、作品によって違う“天童さん”で、役割も異なります。主要人物でガッツリ登場するときもあれば、ほんのチョイ役でしか出て来ないことも。


『リピート』では主要人物としてかなり活躍していますね。ドラマだと主要三人の内の一人ですし。

 

 

 

 

 

 

 

原作小説の率直な感想
え~、正直言いますと、私的にはいまいちでしたかねー(^_^;)


肝心の時間旅行「リピート」をするまでが何だかやたら長いです。「どうしよう」「ああしよう」「いやでも」とか逡巡しまくって、図書館で調べ物など仕始めたり、ペテンを疑ったり、競馬の詳しい話が入ったりする始末。これらのシーンは後半で何か意味を持ってくるのかといったら別にそうでもない。前半は「この部分は必要なのか?」という疑問が常に付きまといます。さっさとその「リピート」とやらをしたらどうだ。と、イライラしてくる。

6章でやっと「リピート」をした後はドンドンとスリリングに展開していきます。アガサ・クリスティそして誰もいなくなったみたいな展開ですね。

 

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 しかし、主人公の圭介を筆頭に登場人物皆、そこまで好感を持てる人がいない(むしろ反感を抱くような人ばっか)ので何だかどう展開してもどうでもいいような気になってしまうんですね~。ハラハラドキドキ出来ない。
別に感情移入出来る人物がいない小説は沢山あるし、悪人ばっかでもかまいやしないのですが、読んでいて関心を寄せられないというのはちょっと。どうも人物が表面的にしか描かれていないような印象を受けます。
真相部分も演出のせいなのか、そこまで驚きを感じる事が出来ません。読後、思い返してみるとよく考えられたアイディアだって気はするんですが・・・。

しかし、「リピート」前の“前説”が長いのは『リプレイ』

 

 

 や他タイムトラベルものの名作へのオマージュ的意味合いがあるのかも知れません。私はSF小説あんまり読まない人間なので詳しいところはわかりませんが・・・(^_^;)


文庫版の大森望さんの解説を読んでいて思ったのですが、この『リピート』という小説はゲーム感覚で楽しんでもらうのが狙いで書かれているのかも。

十人の男女が時間旅行するというのはゲームの設定っぽいですし。それならキャラクターを掘り下げて書いていないのもわざとそのようにしているとも考えられます。


あと、他のタイムトラベルものとは違って、“タイムトラベルし続けることが出来た者が勝ち”といった方向にストーリーを持って行くのが斬新ですね。

 

 

 

 

 

 

原作とドラマとの違い

 

 

ドラマの第一話を観たのですが、時間旅行「リピート」の大まかな設定以外は原作とは違うところだらけですね。同じところの方が少ないぐらいに感じます。


まぁ、原作の設定の面白さを活かしつつ、他は大胆にいじって、各キャラクターを掘り下げた人間ドラマを描いた方が見応えのあるドラマになるかなと思います。


とりあえず、原作での長いくだりをすっ飛ばして、第一話でさっさと皆が「リピート」したのはストーリー展開として正解・・・って、いうか、「そうだよね、ここ飛ばすよね」って感じ(笑)


1番大きな違いは、主人公が毛利圭介(本郷奏多)から篠崎鮎美(貫地谷しほり)に変わっているところです。

原作はひたすら圭介視点で語られているので雰囲気はガラッと変わりますね。この篠崎さん、原作だと男に全力で寄っ掛かることしか考えていないような女性で、お話が進めば進むほど強引で打算的な面が目立ってくるので、人によってはかなりの嫌悪感を抱くかと思います。ちなみに、私は大っ嫌いです。「なんだぁ?この女」とか思う。まぁ良くも悪くも表面的にしか描かれていないので、腹立たしさが持続する訳ではないのですが。圭介もなかなかの最低野郎なので、どっちもどっちというのもある。


ドラマは各キャラクター、性格も設定も原作とは大幅に異なるので、原作のキャラクター像はドラマを観る上ではまったく当てにしない方がよさそうです。


原作では篠崎さんは司書じゃないし、恋人もいない設定で、特別おとなしい性格ってこともない。


圭介はバイト内容と由子(島崎遥香)という女性が出て来るのは同じですが、原作だと表面的には社交的な性格で、「リピート」仲間のまとめ役をしたりしますが、ドラマの圭介くんはそんなことしなさそう。社交性の欠片もないというか(笑)由子も原作ではあそこまでヤベー女ではないです。


天童さん(ゴリ)はまだ何とも言えないですが。でも天童さんは原作とはあんまり変えないかも。職業は違いますけどね。原作だとシナリオライター

 

他に気になる違いは大森さん役を安達祐実がやっているところですかね。原作だとこの大森さんは男性なんですが。横沢さん(手塚理美)も男性。二人とも原作ではほぼ触れられないような脇役。


あと「リピート」仲間が一人少ないですね。池田さんがドラマだといないです。

 

このような変更からも、ドラマでは「リピート」仲間一人一人にスポットを当ててお話を展開していきそうな予感がしますね。特にラブストーリーを前面に押し出してになるのかな。原作だと表面的でどーでもいいラブストーリーしか展開されないですが(^^;)

 

原作の設定を使って、原作にはない“深み”がドラマでプラス出来れば、思いがけない良作に化けるかも知れません。ハラハラドキドキ感もドラマ演出の方が上手く表現されてエンタメ性が増すかも。

今後に期待ですね(^o^)

 


『リピート』みたいにSFとミステリが融合したお話が好きな方はこちらの小説とかもオススメ↓

 

 

 


ではではまた~

 

 

 

 

 

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『魍魎の匣』 原作 あらすじ・映画・アニメ・・・諸々まとめ

こんばんは、紫栞です。
二〇一八年一発目の記事は、京極夏彦さんの【百鬼夜行シリーズ】

 

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二作目の魍魎の匣を紹介したいと思います。

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

第49回日本推理作家協会賞受賞作。


年末年始とみごとに風邪を引いてしまい、記事の更新が停滞してしまっていたのですが(^^;)仕事以外の時間は寝床にいるしか無い、しかし、何だか寝付けない!で、『魍魎の匣』文庫版を丸々読み返していた訳なんですが「あぁ、やっぱり面白いよね~。ずっと読んでいたいっ!」みたいな状態に陥って、奇しくも今年の正月は『魍魎の匣』に憑かれていた私。せっかく面白さを再認識したので、この作品について少しまとめようかと。

 

 


あらすじ
匣の中には綺麗な娘がぴつたり入つてゐた。

日本人形のやうな顔だ。勿論善く出來た人形に違ひない。人形の胸から上だけが匣に入つてゐるのだろう。
何ともあどけない顔なので、つい微笑んでしまつた。

それを見ると匣の娘も
につこり笑つて、
「ほう、」
と云つた。
ああ、生きてゐる。

何だか酷く男が羨ましくなつてしまつた。

 

昭和二十七年八月、武蔵野小金井駅で十四歳の少女・柚木加菜子がホームから転落して重傷を負う。現場に居合わせた木場は転落時に加菜子と一緒にいた同級生・楠木頼子に事情を尋ねるが、放心状態の為かいっこうに埒が明かない。そんな中、木場の前に加菜子の姉・陽子が現れる。陽子は木場が熱烈なファンである引退した元女優の美波絹子だった。重態の加菜子は巨大な“箱”のような奇怪な建造物[美馬坂近代医学研究所]へ運ばれるが――。
一方、関口はカストリ雑誌編集者の鳥口とともに「荒川連続バラバラ殺人」の現場取材をしていた。バラバラの四肢は箱詰めにされており、さらに事件には「穢れ封じ御筥様」という霊能団体が関係しているらしく――。

箱を祀る霊能力者、箱詰めにされた少女達の四肢、巨大な箱型の建物「美馬坂近代医学研究所」――これら“箱”と加菜子転落事件、バラバラ殺人事件にはどのような繋がり・関係があるのか。果たして事件関係者に憑いてしまった“魍魎”は落とせるのか――?

 

「今日――物語に終わりを告げるために、ある陰気な男がここに来ることになっているのです」

「今日は、魍魎退治に伺いました」

 

 

 

 

 

 


シリーズ代表作
『魍魎の箱』はシリーズ二作目にして最大の代表作、シリーズ最高傑作との声も多いです。この作品ばっかり推されている意見を目の当たりにすると「魍魎だけじゃないよっ。他の作品も面白いわよっ」とか変な反発心(?)が芽生えたりしますが・・・(^^;)しかし、私も思い返してみると決定的にこのシリーズにはまったのは『魍魎の箱』からだったかなって気がします。ので、やっぱり大好きな作品ですね。
シリーズ第一作目で京極さんのデビュー作でもある姑獲鳥の夏はミステリー界に波紋をもたらした衝撃作ですが、

 

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この二作目の『魍魎の箱』は、前作とはまた違う衝撃・度肝を抜かすストーリーと真相で、これぞ“超絶”。一作目の『姑獲鳥の夏』の段階では読者には半信半疑だったシリーズの世界観が明確になり、各キャラクター性も強まって読者を一気に惹きつけた作品です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


メディアミックス
魍魎の匣』は代表作なだけあって舞台、映画、テレビアニメ、漫画と四種の媒体で表現されています。

大前提として原作小説は絶対読んで下さい!ですが。

 

 

●映画

 

 

二〇〇七年公開。
二〇〇五年に公開された姑獲鳥の夏から主要キャストはほぼ引き継ぎ。

 

 

関口役のみ、前作の永瀬正敏さんが御病気の為降板で椎名桔平さんに交代しています。(個人的には原作の関口に近いのは永瀬さんの方だと思う)
キャスト以外の監督やスタッフは総入れ替えですね。まぁ実相寺監督が亡くなってしまったのでしょうがないんですけど・・・。
で、この映画、どうかというと、これがまったくダメダメである。

かなり大胆にストーリーが改変されていて原作の良い部分が全て無い。長い話なので映画の二時間で全て表現するのは難しいのはわかりますが、もうちょっとやりようがあるだろう・・・と。「折角のシリーズ最大の代表作がこんな事になっちまって」とファン的には唯々悲しく残念なかぎりです。観終わった後の呆然感と沸き上がる怒りといったら・・・もう、ね(笑)
前作の『姑獲鳥の夏』もそんなに評価が高い映画ではありませんが、コレに比べれば大分マシだし原作に忠実です(忠実なのが良いって訳じゃないですけどね)。実相寺監督が『魍魎の匣』撮っていたらどうだったかな~とか今でも時々考えます。

 

 

●テレビアニメ

 

 

二〇〇八年、日本テレビ系。
キャラクター原案がCLAMPだけあってキャラクターが皆美麗。関口も綺麗です。綺麗な関くん(笑)
全体的にお耽美な雰囲気に。作者の京極さんも「宝塚みたい」と雑誌インタビューで言っていましたね~。
“黒衣の男”で京極さんが少し声の出演をされています。いっそ京極さん本人が京極堂の声やれば一番ファンからの文句出ないのでは・・・?とか思う(笑)
全十二話。

これが、前半はやけにダラダラと展開していたくせに後半で巻きが入るという訳のわからなさ。原作での解決編の素晴らしい場面演出とセリフ回しが台無し・・・前半はやたら丁寧にやっていたのに何故だ・・・。あと、絵柄がお耽美なせいか原作のコミカルなシーンが薄らぐのが残念。
とはいえ、実写映画の方と比べれば大分マシですけどね。ちょこちょこ観るより一気に観た方が良いと思います。

 

 

●漫画

※お馴染み、志水アキさん作画による漫画もあります。

 

 

結局、原作のお話を手っ取り早く知りたいならこの漫画読むのが一番良いのかな・・・。(ファンとしては勿論原作小説を読んで欲しいですけどね)
全五冊。

 

 

●舞台

2019年6月に舞台化されました。

 

個人的に、今までの『魍魎の匣』の映像化作品のなかではこの舞台がダントツで良いと思います。

詳細はこちら↓

 

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実は一九九九年に「劇団てぃんか~べる」によっても舞台化されているのですが、こちらは今では観ることは叶いませんね。

 

 

 

 


百鬼夜行シリーズ”の確立

 

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京極夏彦作品がことごとく映像化に恵まれないのは、ファン的には比較的毎度の事で半ばあきらめの境地ですが。だって、原作の時点であまりに完成していますからね。あのページ数なので、相当の省略能力がないと破綻してしまうというのもある。


魍魎の匣』はシリーズファンには特に思い入れが強い作品なので色々文句をつけたくなってしまうところ。


この作品に思い入れが強くなる要因としては事件の面白さもさることながら、シリーズの基礎パターンがこの作品から確立されたというのが大きいとも思います。

 

第一作の『姑獲鳥の夏』は比較的(当社比)シンプルな構成で、読み終わった後は「これをシリーズでどう続けるんだ?」とか思いますが(関口とか、姑獲鳥のみの登場キャラクターかなぁとか読後思ったの私だけじゃないハズ。魍魎に普通に登場して何だか驚きだった)、姑獲鳥の夏』で示された“規格外”でインパクトが強いストーリー要素を引き継ぎつつ、数々の事件が各視点で平行して語られ、絡み合い、最後に全てが解き明かされる百鬼夜行シリーズお馴染みのパターンが『魍魎の匣』で確立されています。

 

 

 

 

見所の“退治”シーン

魍魎の匣』には「御筥様退治」「魍魎退治」の二つの退治シーン、“似非霊能者との対決”“科学者との対決”が描かれています。


まさに対決。憑き物落とし。


このシリーズならではの、唯々のミステリーでは味わえない言語によって相手をやり込める、まるでアクション小説を読んでいるかのようなゾクゾク感と娯楽感が、シリーズの中でも屈指の出来で傑作です。

終盤の、通常のミステリーでは真相解明部分にあたる「魍魎退治」は勿論ですが、その前にある「御筥様退治」もかなりの見所。中禅寺(京極堂)のペテン師っぷりにニヤリとさせられます。中禅寺、榎木津、関口の連係プレーが見られるのも良い。※関口はオロオロしているだけですけどね(お約束)

 

 

 


キャラクター性の強化

前作の『姑獲鳥の夏』は関口視点で語られる部分が大半で、関口本人が大いに関わる事件だったので全体的に鬱々した印象が強いですが、この作品からはコミカルなシーンも多く見られるようになり、キャラクターの個性も高まって、シリーズの面白味が一気に上がっています。


前作ではほんの脇役だった木場にスポットが当てられ、青木の存在感が増し、「うへえ」で今後のシリーズでも大活躍なカストリ雑誌編集者の鳥口守彦が登場するのもさることながら、突出すべきはやっぱり榎木津ですかね。


前作では「ちょっと変わった人かな」ぐらいの印象だったのが、この作品から「まったく奇天烈だな」レベルに、飛躍的に昇格!作中での榎木津のセリフ「何てイカレているんだろう。普通じゃないね」が何だかウケる(笑)『魍魎の匣』には、シリーズ内では貴重な榎木津視点の語りがあるので必見。榎木津視点の語りはコレと百鬼夜行―陽』収録の「目競」のみですね。

※詳しくはこちら↓

 

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関口の不憫感と、中禅寺の悪魔的な話術も磨きがかかっています。

 

 

 


他に
この作品はとにかく匣、筥、箱でハコまみれ。各部分で語られ、現れる“ハコ”がお話を印象的にしています。この“ハコ”要素、京極さんの他作品でもよく表現に出て来ます。京極さんはハコ好き・・・?


あと、頼子が加菜子に抱いている複雑な心理は、あの年齢の頃の女子間では結構陥りやすい心理だなぁと思います。勿論大小がありますけどね。特定の友人を偶像視してしまうのって、成人すると勝手に幻想を押しつけてなんだか失礼だったなぁとか気づきますが、十代の頃(特に女子は)相手も普通の人間だって事を無視して突っ走りがち。歯止めがないと、このお話のように取り返しのつかない事態になってしまうので要注意ですね。


お話の合間に入る久保竣公『匣の中の娘』という作中作は怪奇小説じみてモヤモヤとした不安な雰囲気を作品全体にもたらしていますが(特に冒頭部分の“ぴつたり”とか“ほう”とか)、これが唯々の雰囲気作りではなく、真相にモロに関係していることが明かされるシーンは驚愕。冒頭を読んだ段階ではまったく予想出来ないですからね~。あぁ、凄い・・・!
私は終盤の久保の語り部分が妙に好きです。何度も読み返しちゃいますね。

 

 

 

 

 


以下ネタバレ注意~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この作品で個人的に思想に影響をもたらした部分は
“科学者が幸福を語る時は、科学者の貌をしていてはならない”
“肉体の衰えが、精神の衰えに繋がるのは当たり前”
“意識は脳だけで造り出されるものじゃない。人間は人間全部で人間なんだ”
“脳が人間の本体だなんて考えは、魂が人間の中に入っていると云うのと変わりのない馬鹿馬鹿しい考え方だ”
などなどの部分ですね~。


世間一般では、どうも脳味噌第一主義みたいなのに囚われがちですよね。そりゃ大事な器官に違いはないんだけど、だからって脳だけ取り出したって駄目なんだと。脳に人間の本質や全てが詰まっているなんて唯々の妄想。肉体と精神は切り離して考えるものではないのね~と。当たり前の事なんだけど、改めて指摘されると目から鱗の思い。うへえ。

そして余韻溢れる最後の
「〇〇は、今も幸せなんだろうか」
「それはそうだろうよ。幸せになることは簡単なことなんだ」
京極堂が遠くを見た。
「人を辞めてしまえばいいのさ」
で、冒頭の
“何だか酷く男が羨ましくなってしまった”
の、一文に繋がる終わり方が綺麗。


彼岸に行き着いてしまわなければ得られないモノがある。おかしくなっちゃえば楽なんだろうけど・・・。複雑な思いを抱えつつも、関口同様、何だか羨ましいって気もしてしまいますね。

 

 

 


とにかく読んで欲しい

この『魍魎の匣』は代表作なのもそうですが、シリーズの今後に関係してくる“戦時下での研究実験”が出て来るので、シリーズ内ではやはり重要な位置を占める必読の作品です。
また、シリーズを知らない人でも十分に楽しめる作品であることも間違いありません。この作品だけ百鬼夜行シリーズから単独でアニメ化されているのもそれを証明していると思います。
麻薬的作用のある、中毒性の高い作品なので「ずっと読んでいたい」と思ってしまったが最後、【百鬼夜行シリーズ】に取り憑かれてしまうのは必至でしょう。


長大な作品で本自体がまさに箱のようですが、臆せずに蓋を開けてみて下さい(^o^)

 

魍魎の匣(1)【電子百鬼夜行】

魍魎の匣(1)【電子百鬼夜行】

 

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

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『名探偵コナン』 94巻 感想 ※『犯人の犯沢さん』感想も

こんばんは、紫栞です。
今回は名探偵コナン』94巻の感想を少し。

名探偵コナン 94 (少年サンデーコミックス)

 

コナン界隈、ただいま色々と賑わっております。映画情報の公開、長期休載の発表、休載直前話での黒の組織“あの方”の正体判明・・・・・・。

ぶっちゃけ、新刊の内容より気になることが多すぎて読んでもしっかり頭に入ってこない状態ですが(^^;)

 

94巻には前回93巻での大阪の剣道大会の事件解決編が1編。

 

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他にカフェでの事件と、灰原のストラップ探しの話、そして修学旅行編が途中まで。


以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 


では一応順番に。

 

 

剣道大会の事件
コナンが普通に大人達の前で推理披露していますね。佐藤刑事も完全に頼ってるし。まぁ、今さらかもしんないですけど。小学一年生だぞ?
もはや皆、コナンが事件推理するのに疑問抱かなくなっているから“毛利小五郎の推理ショー”ってホントする必要なくなってきているな~と、実感する。沸き上がる、作品への疑問。今さらですけど。ファンタジーだと思って許容すべきだって事でしょうね(^^;)
最終的には平次が解決させていますね(ある意味、蘭が決着つけていますが)
毎度の事ですが、犯人、殺す前に事実確認しろよと思う。犯罪計画は慎重に。

 

カフェでの事件
世良ちゃん登場。小五郎のおっちゃん、蘭の尾行に何故コナンを連れて行くのか疑問。
カフェ関係者の異常に複雑な人間関係が4ページほどで濃縮されているのはさすが(笑)殺されアピール前回の被害者で読んでて苦笑してしまいますね。
トリック自体はさほど目新しいものではないです。犯人が誰かも容易に解るし。随分大量のペットボトルをロッカーに入れていましたけど、遅かれ早かれ捜査の過程で部屋中のロッカー調べただろうから、そのとき何て言って刑事さんかわすつもりだったのかなぁ~と思う・・・。

 

灰原のストラップ探し
安室さん登場。沖矢さんも少し。安室さんはまだ“おっかけ”やってたんですね~。仕事的にはもう探る必要って無いだろうし、これは私怨での行動なんですかね。暇なのか?「車で仮眠」という良い訳は大分厳しい(^^;)
劇場版の名探偵コナン 純黒の悪夢に登場した公安の風見さんが登場。

 

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逆輸入というヤツですね。子供のストラップ探しに公安の捜査官使うのはちょっとどうかと思うぞ。
ストラップ、「左目が取れてたからマジックで描いといてやったぜ」って・・・描くにしてももう少しちゃんとやって欲しいよね(笑)

 

修学旅行編
連載1000回目のカラー部分がそのまま収録されていますね。修学旅行か・・・ここから、漫画世界の時間、一気に進めるんですかね~。
平次との入れ替わり方法がオイオイオイオイ~って感じ(^_^;)イヤイヤ、無理でしょ。
剣道大会に引き続き、紅葉さんも登場。胸が、デカイ・・・。
新一が登場するのって個人的にはもうレア感が無いんですが、新一の「アレレ~」には吹いた(笑)ラブコメ全開話ですが、相次ぐ発表のせいでラブコメを楽しむような気分じゃない(^^;)私、灰原派だし・・・。

 


修学旅行編は途中ですが、長期休載に入ったので次巻はいつ出ることやら見当もつきませんね。年単位で待たされるのかしら。先生にはしっかり養成して頂きたいところですが、“充電期間”とも言っているので、連載再開したら終焉に向かってお話が加速するのかもしれないですね。楽しみ(^^)

 

以下、またネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

黒の組織“あの方”・・・。

サンデーで明かされた訳ですが・・・。ネットの考察サイトなどでは必ず出て来る名前だったんで、私はそこまで驚きは無いです。個人的にはエドワード・クロウ説の方を推してたんだけどな~。だって、“あっちの方”は考察サイトでも名前がそれっぽいってのと、年齢だけが根拠でしたからね。
しかし、すでに故人になっている設定なので『誰かに化けてる・入れ替わっている』などの二転三転がまだあるかもしれないですよね。ラムの正体もまだ明かされて無いし。連載再開が待ち遠しいです!

 

 

この新刊と一緒に、スピンオフの『犯人の犯沢さん』も買いました。

 

名探偵コナン 犯人の犯沢さん 1 (少年サンデーコミックス)

感想としては「う~む」って感じ。何か思っていたの違った・・・。先に金田一少年のスピンオフ読んでいたのでそちらとどうしても比較してしまうのもありますが

 

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「米花町」という犯罪多発地区での珍道中(?)が描かれています。蘭のツノがど真ん中に描かれていたりするのが可笑しい。悟りきった発言が多くって、個人的に本編の蘭より好きです(笑)

 

 


色々モヤモヤしてしまうところではありますが、連載再開を気長に待ちたいと思います。


ではではまた~

 

名探偵コナン 94 (少年サンデーコミックス)

 

 

ドラマ『今からあなたを脅迫します』最終回 感想 ※原作との違いなど

こんばんは、紫栞です。
日本テレビ系の連続ドラマ『今からあなたを脅迫します』が12月17日に最終回を迎えましたね。

今からあなたを脅迫します 透明な殺人者 (講談社タイガ)


ドラマ開始前に原作を読んだので、このブログで何回か記事をまとめた訳ですが。

 

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今回はドラマ全九話、観終わってみてのドラマと原作との違いについて少し書こうかと思います。

 

(全体を通しての)ドラマと原作との違い
と、いっても、ドラマ初回から(特に終盤は)原作とは違うところの方が多くって、もはや原作ってよりは“原案”って感じだったんですが・・・(^^;)
終盤の方の大筋は原作【脅迫屋シリーズ】の2作目『今からあなたを脅迫します 透明な殺人者』からとられていますね。

 

今からあなたを脅迫します 透明な殺人者 (講談社タイガ)

今からあなたを脅迫します 透明な殺人者 (講談社タイガ)

 

 

まぁ、この2作目は現在3冊刊行されている【脅迫屋シリーズ】の中での唯一の長編なので、最終にこのお話を持ってくるのは容易に予想出来る事だったんですが、放送前は私的にはするかどうか微妙だなぁ~と思っていました。それというのも、この長編、原作では千川さん(ディーン・フジオカ)がほとんど登場しないお話なので・・・。
原作は(武井咲)とナンパ師のスナオ(間宮祥太郎)の二人が事件を調べていく過程が中心に描かれているんですが、ドラマでは大胆に改変して、千川さんとスナオの二人が主に調査していく流れになっていましたね。
ここら辺の改変は、澪役の武井咲さんの体調などへの配慮で出番を減らすためだと思いますが(まぁ、普通に考えて、妊娠中で主演級の撮影はキツいよね・・・^^;)代わりに澪の穴埋め的に、スナオが大活躍でしたね。


スナオが千川さんに弟子入り志願したりなどの一連の流れは全てドラマオリジナルで、キャラクター設定も原作とは大分異なります。原作はもうちょっとクールで何だかつかみ所の無い人物像ですね。年齢ももうちょっと高め。
最終回前の第八話は千川さんと恋人の来栖稚菜(松下奈々)との回想シーンでほぼ一時間でしたが。この来栖稚菜さん、実は原作ではまだ名前が出てきているのみで詳細は全然明かされていません。シリーズ三作目で最新刊の『今からあなたを脅迫します 白と黒の交差点』

 

今からあなたを脅迫します 白と黒の交差点 (講談社タイガ)

今からあなたを脅迫します 白と黒の交差点 (講談社タイガ)

 

 

で明かされるのを期待していたのですがスルーでして。

なので、第八話は観ながら「稚菜さんの回想丸々一時間やるの!?」と少し驚きでした。原作も稚菜さんの詳細はドラマと同じ感じなのかなぁ~と気になるところですが。殺された理由とかもあんな感じなのだろうか・・・。シリーズ4作目に期待!


スナオと稚菜さんの二人はどちらも原作小説の2作目から登場する人物ですね(いや、稚菜さんは名前だけだけど)

 

 

雨垂れの会
最終回、個人的に不満が残る点としては“雨垂れの会”の会のあり方というか、犯罪行為のやり方をもうちょっと丁寧に描いて欲しかったな、と。原作は“善意の第三者達が無意識に犯罪に荷担する”っていう方法がこのお話のメインでして、そこの部分が空恐ろしく、ミステリなんですけど。ドラマではミステリ的部分は軽く流されて、アクションなどを取り入れたエンタメ作品になっていましたね。せっかくの長編なのに・・・ミステリ好きとしてはチト残念です(-_-)


原作はまだまだ雨垂れの会には黒幕がいるんだぜ!って感じで期待持たせる書き方されていますが、ドラマの方は富永絢子(真野響子)ラスボスでスカッと終わらせていましたね。まぁドラマ続編は無いだろうしな・・・(^^;)

 

 

最後に
個人的、率直な意見としてはドラマ『今からあなたを脅迫します』の全体通しての感想は・・・微妙でしたかね(^_^;)もの凄く悪いわけでは無いが、もの凄く良い訳でも無い。と、いう・・・。


ライトなドラマなのはわかっているので、主演二人の会話やコメディシーンをもっとテンポ良く、笑えるものにして欲しかったです。

 

 

 

今期のドラマもほぼ終了しましたね~。このドラマ以外にも『奥様は、取扱注意』『ブラックリベンジ』『監獄のお姫様』『刑事ゆがみ』なども欠かさず観ていたんですが。

個人的には今期のドラマ最終回は『ドクターX』が凄く良かったですね。晶さんのシーン、もらい泣きしそうになった・・・(T_T)

 

今年ももうじき終わり。来年のドラマもまた期待したいところですね。

 

 

ではではまた~

 

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スパイラル~推理の絆~ 小説版まとめ

こんばんは、紫栞です。
今回は1999年から2005年まで「月刊少年ガンガン」にて連載されていた漫画『スパイラル~推理の絆~』の、小説版の紹介まとめをしようかと思います。

小説スパイラル 推理の絆〈2〉鋼鉄番長の密室 (COMIC NOVELS)

 

小説スパイラル~推理の絆~
漫画の連載と平行して書かれていたもので全4冊。漫画の『スパイラル~推理の絆~』は原作が城平京さん、作画が水野英多さんでの作品で、小説版の方も原作者の城平京さんが書かれています。漫画作品のノベライズというのは、どうしても齟齬を感じる事が多いですが(このキャラクターがこんな事言うかな~?するかな~?といった・・・ね)原作者が同じだとそういった事が無くて良いですよね。

 

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漫画の『スパイラル』は最初(ホントに最初)推理漫画でしたが、中盤からドンドン形態が変わっていって終盤ではもはやファンタジーに・・・“推理の絆”ってなんぞ?って感じだったのですが、小説版の方は比較的きちんとした謎解きミステリです。
漫画本編の「ブレード・チルドレン」とは無関係に、事件の謎を解く。ミステリの典型的な筋立てに倣った作品ですね。


私は先行して漫画本編を読み始め、完読していますが、実は漫画本編よりこの小説版の方が好きだったりします。謎解きミステリ目当てで読み始めた漫画だったので、ファンタジックな展開にちょっと困惑してしまって・・・頭が固いんですね(^^;)


1~3までは漫画スパイラルの主人公でもある鳴海歩が探偵役を務めている長編と、後半に『外伝 名探偵 鳴海清隆~小日向くるみの挑戦』という外伝でのみのキャラクター・小日向くるみを語り手に、漫画スパイラルでの全ての元凶のお騒がせ兄貴・鳴海清隆が探偵役を務める短編が数話収録されています。本編の漫画では鳴海清隆がすでに失踪しているところから始まるので、この外伝は鳴海清隆が失踪する前、まだ普通に刑事さんやっていた時のお話ですね。まどかさんもしっかり登場します。


※漫画本編の単行本9巻巻末に『外伝 名探偵鳴海清隆 小日向くるみの挑戦』というショート漫画が収録されていますね。

 

 


完結編の4で外伝の長編が丸々1冊を締めて、小説版スパイラルは幕引きとなります。

 

 

 

 

では1冊ずつご紹介。


『小説 スパイラル~推理の絆~ ソードマスターの犯罪』

 

 漫画本編の第8話と9話の間にあたるエピソード。
歩とひよのが、一人の少女から兄の仇を討つために力をかしてほしいと懇願されて過去の殺人事件の真相を探ることになり、ついでに歩が剣の達人と対決したりするお話。
剣道がお話に深く関わっています。出だしが剣の達人との対決の場面からで、そこから歩が回想していく構成。過去の殺人事件はもちろんですが、剣の対決にもミステリらしい論理的思考が入ってきます。
外伝の方は「怪奇クラゲ二重奏」「ワンダフル・ハート」の2編が収録されています。「ワンダフル・ハート」が個人的に好みのミステリ。動機面とか・・・。

 

『小説 スパイラル~推理の絆~2 鋼鉄番長の密室』

 

小説スパイラル 推理の絆〈2〉鋼鉄番長の密室 (COMIC NOVELS)
 

 本編漫画の第25話と26話の間にあたるエピソード。
45年前に密室で死んでいた“鋼鉄番長”の死の真相を究明するお話。
“鋼鉄番長”との単語は何かの比喩的なものかと思ったら、もうそのまんま“番長”のことで。【熱き番長の時代】の舞台設定が良い意味で荒唐無稽でハチャメチャで面白いです。ひよのの熱弁と歩の冷めたツッコミがひたすら良いですね(笑)
外伝は「殺人ロボの恐怖」の1編を収録。ふざけたタイトルですが、内容は結構凄絶。本格ミステリ度が強いお話ですね。

 

『小説 スパイラル~推理の絆~3 エリアス・ザウエルの人喰いピアノ』

 

 いわくつきのピアノ、暗い影を持つ古い屋敷、殺されたと言われる一族の当主に、死因を疑問視される一族の妖婆。と、いう、実に怪奇ロマン溢れるミステリ話。
歩が中学生の時に遭遇した事件の顛末が語られます。途中、インタビュー形式の箇所がありますね。
外伝は「青ひげは死んだ」「カニの香りの悪魔」「ハイスクール・デイズ」の3編収録。「ハイスクール・デイズ」は犯人当て小説ではありませんが、鳴海清隆の本質が垣間見える作品で重要度は高いです

 

『小説 スパイラル~推理の絆~4 幸福の終わり、終わりの幸福』

 

 外伝、完結編。
表題作の長編の前に「近状報告」「くだんを殺せ」の2編が収録されていますが、この2編も含めての長編って感じですね。
この完結編には小学生の歩もお話にガッツリと登場します。およそ小学生らしからぬガキですが(笑)
折り紙と競馬による鉄壁のアリバイを崩すってのがお話の筋でして、ちょっと複雑そうに感じますが、真相はシンプルで良い。ちょっと空恐ろしい真相ですね。私はこの手のお話、好みです。
1~3までは特に漫画本編や外伝シリーズを知らなくっても単体で読んで楽しめるように書かれていますが、この完結編はさすがに漫画本編や外伝シリーズを読んでいないと面白味が半減してしまうと思います。

 

 

 

最後に
私がこの小説版が好きな理由には、元々本格ミステリファンだとういのとは別に、歩とひよの、清隆とまどかさんらコンビの会話劇が存分に楽しめるところにあります。

テンポの良い、クスッと笑える会話場面が多くあって、コンビもののボケツッコミが大好きな私としては非常に好みなのです。漫画ではそこまで会話劇入れられないですからね~話の都合上。半分ぐらい(いや、それ以上かも?)は、そこら辺のコミカルな部分目当てで読んでいました。そういった意味では一番のオススメは『鋼鉄番長の密室』かも知れないですね(^^)

 

小説スパイラル 推理の絆〈2〉鋼鉄番長の密室 (COMIC NOVELS)
 

 

 

本編漫画のファン、本格ミステリファン、ボケツッコミ会話劇が好きな方にオススメです。コミカルで読みやすいのでミステリ小説入門にも良いと思いますよ。

 

ではではまた~

 

 

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三浦しをん『光』あらすじ・感想

こんばんは、紫栞です。
三浦しをんさんの『光』が映画化されたと聞いて読んでみました。なので感想を少し。

光 (集英社文庫)

あらすじ
島で暮らす中学生の信之は、同級生の美しい少女・美花と付き合っている。娯楽の無い島で美花とのことばかりを楽しみに過ごす毎日。幼馴染みの輔はそんな信之になにかとまとわりついてくる。信之は卑屈でずうずうしい輔が疎ましくてならなかった。
或る日、大災害が島を襲い、信之と美花と輔、そして数人の大人だけを残して皆死んでしまう。
島での最後の夜、ある現場を目撃した信之は、美花を守るために罪を犯す。
その罪は暴かれぬままに二十年の歳月が過ぎ去り、信之は美花と離れ、妻子とともに平穏に暮らしていた。
そんな信之の前に「あんたがしたことを、俺は知ってる」と輔が現れ――。

 

 


三浦しをんさんの長編小説はコミカルなものが多いですが

 

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この『光』はシリアス全開でクスッと笑えるような箇所は一つもありません。三浦しをんさんの“お仕事小説”を中心に読んでいる人には意外に思われる作品かもしれないですが、短編だと

『天国旅行』

 

天国旅行(新潮文庫)

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『きみはポラリス

 

きみはポラリス (新潮文庫)

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など、シリアスなお話が多かったりするので別に異色作という訳ではないですかね。「こういう長編も書けますよね。わかっていました」って感じ(笑)

 


映画との違い
映画は11月25日から公開されていて、順次各地を回っていくみたいです(私の住んでいる地区には来ないっぽい・・・)
監督の大森立嗣さんはまほろ駅前~』シリーズを手掛けている監督さんですね。

 

まほろ駅前多田便利軒
 

 

映画『光』のキャストは
信之井浦新
瑛太
美花長谷川京子
南海子橋本マナミ

※南海子というのは信之の奥さんです。


小説を読む前にこのキャスト欄を見たので、頭の中で役者さんのイメージを持って読み進めました。個人的には大きな違和感は無かったです。先に小説の方を読んでいたらまた違っただろうなとは思うんですが。
実際に映画を観た訳ではないですが、ちょろっと調べたところによると、概ね原作の通りに作られているようです。
映画の公式サイトを見る限りで発見できる違いは、20年前が25年前になっているところと、大災害が島を襲うのが信之が罪を犯した後だというところですね。
うーむ。確かにこの方が罪が覆われた感“罪”と災害とは無関係だ感は強まりますかね。

 

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暴力
この小説は「日常に潜む暴力」がテーマなんだそうな。
作中で“圧倒的に理不尽な暴力”として描かれているのは島を襲う津波です。津波と言われると、どうしても東日本大震災を連想してしまいますが、この小説が書かれたのは2006年で震災の五年前なので、この小説に影響しているという事は無いです。しかし、津波に襲われた後の島の描写は痛切で容赦ないので、人によっては注意が必要かもしれません。
他に、幼少期から輔が父親に暴力を振るわれている事。信之の娘が“ある暴力”を受けたこと。美花が受けた暴力。そして、美花を守るために信之が暴力に暴力で返した事・・・などなど。様々な“暴力”がお話の中に登場します。
災害で“圧倒的に理不尽な暴力”を目の当たりにした信之、輔、美花の三人は、死も不幸もただの出来事だと嫌と言うほど知っている。その思いが三者三様に生き方に影を落してはいますが、このお話ではあくまで軸として扱われているのは、人々・日常にある暴力の方ですね。誰もが持ち合わせている暴力性が描かれていて、そこには過去の災害は関係ない。

 


語り手
お話は信之、輔、南海子の三人の語り手が代わる代わるして構成されています。普通なら美花の視点が入るだろと思われるのに、美花視点は一切なし。代わりに信之の妻・南海子の視点が入ります。

島にも災害にも関係ない第三者の視点が入るのがこの小説の特徴かなと思います。客観的には、信之や輔はどのように見えているのかと、日常的に南海子に潜んでいる暴力と。
個人的には美花の視点、読みたかったですけどね~。美花の視点が無いので、このお話はミステリアスな部分を残しつつ終わります。まぁ、その方が印象深いお話になるって事なのかな(^^;)

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不幸
読んでいて一番やり切れない思いを抱いたのは、信之、輔、美花、南海子の好意が交わらないところですね。やっぱり片思いは辛いなぁ・・・と。

輔は信之に幼少期の思いそのままに、愛憎を抱いている。
信之は輔が嫌いで、美花に対して信仰めいた好意を抱いていて、自分は美花にとって特別な存在だと思っている。
美花は“あの夜”から求められてもなにも感じない、信之も他の大勢の男とおんなじだと思っている。
南海子は夫を愛しているが、夫が自分や娘を“愛そうとしている”だけだと気付いている。

思いが全然交差しませんね!辛い。

美花のために人殺しまでした信之ですが、そのような行為は美花にとってただ迷惑なだけだった。美花はいわゆる魔性の女風に描かれていますが、美花自身は信之を利用した自覚もないんですよね。信之のことは“美花のため”などと言って勝手に余計なことをし、見返りを求めてくる脅迫男にしか思えない。魔性の女の抱える悲劇性だと思うんですけど。
信之は結局“美花のため”にここまでする事が出来ると自己陶酔しているだけで、本当は自身の暴力性を否定したい一心でさらに暴力を重ねる。

終盤で信之は輔を愛せればよかったと思います。しかし、それは無理な相談で、輔を嫌いだという思いはどうしても変わらない。
『不幸というなら、これのこと。
求めたものに求められず、求めてもいないものに求められる。よくある、だけどときとして取り返しのつかない、不幸だ。』

 


最後
実は、私個人としてはこういう終わり方あんまり好きじゃないんですが・・・(^^;)罪を犯したヤツが日常に戻ってきて、でもどこかしら壊れているような気がする~みたいな。


この『光』の登場人物達はろくでなしばっかですが、完全な悪人な訳じゃなく、皆どこかしら共感してしまうところがあります。特に輔はなんだか愛しい。ろくでなしなんですけどね~。

明確な答えはない小説ですが、読んだら色々考えを巡らせて自己解釈してみるといいと思います。

 

光 (集英社文庫)

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『 きみはポラリスに収録されている「私たちがしたこと」も、十代のときに付き合っていた男女が罪を犯してしまうお話で『光』と設定が似通った部分があります。あわせて読むのがオススメです。

 

きみはポラリス (新潮文庫)

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ではではまた~

 

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有栖川有栖『幻想運河』あらすじ・感想

こんばんは、紫栞です。
有栖川有栖さんの『幻想運河』を読んだので、感想を少し。

幻想運河 (実業之日本社文庫)

 

あらすじ
大阪――
警邏中の巡査は一人の不審な男に声をかける。男は三十歳前後、真ん中で分けた長めの髪を風になぶられながら、手中の新聞紙の包みをひどく思いつめた表情で凝視していた。大川、淀川、平野川、安治川・・・大阪を走る運河に、バラバラ死体の各部位を投棄して回っていたのだ。
巡査は強い調子で男に言う。
「一緒にきてもらおか」
男は真顔で訊き返した。
「どこへ?」

アムステルダム――
シナリオライター志望の恭司はアムステルダムの不思議な魅力に引き留められて、ずるずると不法滞在を続けていた。芸術家の正木兄弟、音楽家の水島、ビジネスマンの久能らと共にソフトドラッグを愛好する会に所属しながら甘美な時を過ごす毎日。
しかし或る日、運河から水島のバラバラ死体が発見される。
恭司には事件時に仲間とトリップしていたというアリバイがあるのだが・・・・・・。

 

 


水の都としての大阪とアムステルダムの共通項を軸にした作品。この共通項、若干無理やり感があるってな気が(^_^;)有栖川さんは大阪が大好きである!(笑)


この作品は最初実業之日本社から単行本で出され

 

幻想運河

幻想運河

 

 

講談社ノベルス

 

幻想運河 (講談社ノベルス)

幻想運河 (講談社ノベルス)

 

 

講談社文庫

 

幻想運河 (講談社文庫)

幻想運河 (講談社文庫)

 

 

そして今年2017年に里帰り的に実業之日本社文庫

 

幻想運河 (実業之日本社文庫)

幻想運河 (実業之日本社文庫)

 

 私は実業之日本社文庫版で読みましたが、実は「実業之日本社」からの本読むのって今回が初でした。

 

 

 

異色作
比較的シリーズもので有名な有栖川さんですが

 

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この『幻想運河』はノンシリーズで、どこで称されているのかは定かではないが(笑)、有栖川さんの“裏ミステリベスト1”とか言われていた(らしい)。


確かにこの『幻想運河』が有栖川作品の中では“異色作”であることは間違いないです。


お話の主な舞台はアムステルダムなのですが、アムステルダム―オランダではソフトドラッグが違法ではなく、【コーヒーショップ】という名でソフトドラッグを供給する店が四百軒ほど存在するのだそうな。

なので、お話の中で主人公の恭司も正木兄弟らの「盆栽クラブ」に入会してソフトドラッグを楽しむ訳なんですが、ここら辺のドラッグで得られる幻覚作用の描写に力が入っているというか(文章のレイアウトとかも大分凝っていたり)怪奇小説じみた作中作(この作中作が良い味出してます)が間に挿入されていたりするので、お話は全体的に夢の中で漂っているような浮遊感があります。ボヤボヤっとしているというか。夢か現か。タイトルの通り『幻想運河』って感じですね。

 

 

本格ミステリ
“異色作”とはいえ、読んでいると「やっぱり有栖川さんだなぁ」との思いは端々でちらつきます。
お話にドラッグを絡ませると、どうしても暴力的で下世話な箇所、エログロやバイオレンスに走りがちですが、この『幻想運河』での幻覚シーンは確かに“イカれて”はいるのですが、どこか上品で綺麗です。登場人物達も表面的には皆常識的で健全に描かれています。エログロも無いですね。
水島のバラバラ死体が発見されるまでが結構長いのですが、そこからは「あ、いつもと毛色は違うけど、この本もやはり“本格ミステリ”なのね」と。
話の内容が内容なので、きっちりとしたトリックとか期待して無かったのですが、終盤に用意された謎解きは思いのほか本格ガチガチなトリックでちょっと驚きました。私はこのトリック、なんか好きです(笑)この舞台で、この筋でのものでないと出来ないトリックですね。やはり本格ミステリ書いている人の小説だなぁと。真面目ですね、やっぱり。

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動機・真相
よく、『有栖川作品は動機が難解だ』とか『そんなことで殺すか』とか言われたりしますが・・・。私は比較的、どれも納得・理解出来る動機だと思うんですけどね~(^^;)「そういうこともあると思うよ」みたいなね。

『朱色の研究』とかがそうですかね。↓

 

朱色の研究 (角川文庫)

朱色の研究 (角川文庫)

 

 

この『幻想運河』は動機や真相がぼかしてあってハッキリとした答えが提示されないまま終わってしまいます。犯人(と、思われる人物)はこれから起こることを幻視する能力を持っている・すくなくとも、自身はそう信じているのですが、どんな幻視を視て犯行に至ったのかは語らぬまま自殺してしまいます。そして終盤で“ある人物”もまた自殺してしまい真相は永久に闇の中に・・・。
自殺する前に“ある人物”が語る犯行動機の憶測はわかりやすく直ぐに頷けるものではないですが、まぁ・・・「そういうこともあると思うよ」ですね。個人的には納得出来ます。
こういう様々な箇所を宙ぶらりんにしたまま終わるのが、この『幻想運河』という作品には合っているのだと思います。夢か現か。

 

※このお話、少し『モロッコ水晶の謎』に通じているところもあるかも↓

 

モロッコ水晶の謎 (講談社文庫)

モロッコ水晶の謎 (講談社文庫)

 

 

 

最後
この作品は冒頭の大阪での導入部分とお話の大半をしめるアムステルダム、そして最後にまた大阪に戻って冒頭部分に繋がるようになっています。
最初の大阪パートとアムステルダムパートがどう繋がるのか最後までわからなくって疑問だらけだったのですが、読み切った後「ああ、そういう事だったのか」とストンと落ち着きました。

読後感はなんとも形容しがたい気持ちにさせるものですが、もの凄く綺麗なラストだとも感じます。


幻想的な気分に浸りたい方は是非。

 

幻想運河 (実業之日本社文庫)

幻想運河 (実業之日本社文庫)

 

 

 

幻想運河 (講談社文庫)

幻想運河 (講談社文庫)

 

 


ではではまた~

 

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