夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『東京二十三区女』続編!”あの女は誰?”感想・考察

こんばんは、紫栞です。
今回は長江俊和さんの東京二十三区女 あの女は誰?』の感想と考察を少し。

東京二十三区女 あの女は誰? (幻冬舎文庫)

WOWOWで連続ドラマ化され、このブログでも紹介した東京二十三区女』の続編でシリーズ第2弾ですね。

第1作について、詳しくはこちら↓

 

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璃子と先輩のその後
今作は新元号始まりの日・5月1日に刊行されました。長江さんが続編を執筆中だということは知っていましたが、こんなに早く書籍化されるとは思っていなかったので少し驚きです。WOWOWのドラマは5月17日に最終話を迎えましたね。最終話はシリーズ第1弾の小説の最後に収録されているものと同じく「品川区の女」で、璃々子が東京の“いわくつき”の地ばかり巡っている理由と、先輩・島野仁の正体が明かされて終了。理由はわかったものの、結局“いわくつき”の地巡りの目的が達成できたのかどうか宙ぶらりんな状態での終了でした。
今作『東京二十三区女 あの女は誰?』ではこのシリーズ第1弾小説の、ドラマの続きである瑠璃子と島野先輩のその後が描かれています。なので、この本は絶対に第1作目を読んでから、またはドラマを観終わってから読むように注意して下さい。

今作は最初から電子書籍と文庫での刊行ですね。

 

 


目次
●豊島区の女
墨田区の女
葛飾区の女
千代田区の女

前作は5編収録でしたが、今作は4編収録。

今作も璃々子が“いわくつき”の地を巡っていく中で東京の怪異に遭遇していく連作短編形式ですが、最後の「千代田区の女」で前作以上の衝撃の展開をしていますので必見。

 

「豊島区の女」はドラマの第3話で放送されたエピソードと同様のもの。ドラマの公式サイトを見たときから「原作にないお話だなぁ」と気になっていたのですが、やっぱり続編で書かれていたものだったんですね。
江戸時代の文献に残されている『池袋の女』がモチーフになっているお話。『池袋の女』という俗信はまったく知らなかったのですが、まさに土地と怪異が強く結びついた俗信で、このシリーズで描くにはぴったりのものだという気がします。「やっぱり女は恐ろしいね」という結末で、怪異とはまた別の恐ろしさがあるお話ですが、語り手である阿久根一郎はこれはこれで幸せだったんじゃないかとも思ってしまいますね。サンシャイン60にまつわる都市伝説のお話が興味深かったです。


墨田区の女」はミステリ的仕掛けが施されたお話。私、まんまと騙されてしまいました(^^;)逆だろうと思っていたらそれがまた逆だったっていう・・・。前作に収録されている「港区の女」と似通った事情が隠されたお話ですね。
“本所七不思議”玉の井バラバラ殺人事件”など聞き覚えのある単語や事件が出て来ます。歌川国芳の浮世絵に描かれたスカイツリーの都市伝説はスカイツリーが建てられたばかりの頃に確かに話題になっていたなぁ~とちょっと懐かしくなりました。
このお話はホラー色が薄く、読後感も穏やかですね。


葛飾区の女」は母親を亡くしたばかりの大家族の元に死んだはずの母親が幽霊となって家に帰ってくるお話。葛飾区は映画や漫画の舞台となっている下町のイメージが強いですよね。このお話も下町っぽいアットホームな雰囲気が漂っています。せつない結末で、これもホラー色は薄い。願いを叶える“立石様”の奇跡物語りって感じですね。子供達の名前が今風なので騙されてしまいますが、前作に収録されている板橋区の女」江東区の女」と同様の仕掛けがある。
“首なしライダー”の都市伝説が出て来ますが、私の世代だと“首なしライダー”ですぐに連想するのは銀狼怪奇ファイルですね。

 

 

※ちなみに、『銀狼怪奇ファイル』がDVD化されない要因の一つには“首なしライダー”が関係しているらしいです。

 


最後に収録されているのは千代田区の女」。やはり最後は東京の中央に位置する千代田区がこの『東京二十三区女』にはふさわしい。そして、祟り・都市伝説界隈の大物で大ボス(?)、日本三大怨霊の1人で、千年を超えて今もなお恐れられる平将門首塚が登場します。「東京の怪異」を扱うならば、やっぱり「将門の首塚はやりますよねって感じ。
はたして島野先輩が研究し、璃々子が探し求めている“東京最大の禁忌”とはこの「将門の首塚」なのか?物語りは思わぬ展開をしていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原田璃々子
前作『東京二十三区女』での最終話「品川区の女」で明かされたことは、島野先輩は幽霊で霊感の強い璃々子に取り憑いており、璃々子は先輩が死んだ理由は生前先輩が研究していた東京のどこかに隠された禁忌の封印を解いてしまったためなのではないかと考え、先輩の死の原因を解明し、安らかに成仏してもらおうと東京の“いわくつき”の地を巡っている――・・・
と、いう事情でした。

 

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しかし、今作『東京二十三区女 あの女は誰?』の最終話千代田区の女」で語られる事柄は前作で明かされた真相がすべて覆される“別の真相”です。


千代田区の女」での語り手は幽霊とされている島野仁。千代田区を彷徨っていたところに霊媒師だという女が「転落死事件の真相を調べている」と言ってちょっかいを出してくるという展開です。

お話を読み進めると、霊媒師の女が調べている転落死事件の死亡者はフリーライターの原田璃々子だということが明らかになります。

本当の原田璃々子は死亡しており、この原田璃々子は島野先輩の恋人でした。今まで作中で璃々子として登場していた女は、本来の原田璃々子を突き落として殺害した人物。

 

「きっとあなたの後輩は、璃々子さんになりたかったのね。だから、彼女の存在を亡きものにしようと思った。璃々子さんを突き落とした後、あなたの後輩は“原田璃々子”のペンネームで、記事を書き始めた。そしてまるで取り憑かれたように、東京二十三区の曰く付きの場所や心霊スポットを巡り始めた。自分が殺した原田璃々子さんと同じように」

 

“原田璃々子”に成りすましている後輩を目にし、島野仁は疑いの目を向けるようになった。島野先輩は恋人の死の真相を探ろうと、原田璃々子に成りすましている後輩の前に度々現われるようになった。自分が“原田璃々子”だと思い込んでいる後輩は、妄想の中でストーリーを作り上げ、島野先輩が東京の禁忌に触れて取り殺されたと思うようになった――・・・
と、いうのが、今作で明らかになる真相です。

 

これによると、原田璃々子は原田璃々子ではなく、幽霊だと思っていた島野先輩も実はちゃんと生きた人間なのだということで、前作で明らかになったと思われていた事情は、すべて事実とは異なる後輩の妄想だったという結論になります。
前作を最後まで読んで、やっと明らかにされたと思っていた真相がすべて否定される形ですね。

 

 

 

 


生きているのか死んでいるのか
しかしながら、これはあくまで“島野先輩からの視点”での話です。
霊媒師の女と島野先輩の会話には色々と腑に落ちない点があり、含みを持たせている部分もあるので、後輩の一視点からの話同様、島野先輩の一視点もまたすべて鵜呑みにするのは間違いなのではないかという気がするのです。

島野先輩は最後に、「後輩が何故“原田璃々子”を殺して成りすましたのか、何故自分のことを怪異に触れて死んだなどと妄想のストーリーを作ったのかが解らない」と言っています。

葛飾区の女」で、“原田璃々子”に成りすましていた後輩は


「どうしても、突き止めなければならないんです。私の大切な人を殺めた、東京の闇の正体を・・・・・・」


と言っています。


この発言から、後輩は島野先輩に好意を抱いていたのではないかと思われます。“原田璃々子”になりたかった理由というのは、彼女が島野先輩の恋人だったからなのではないかと。

そして島野先輩ですが、やはり死んでいるのではないかと思います。
霊媒師の女は作中で「あなたは生きている。間違いないわ。私が証明してあげる」と言っていますが、最後には「あなたは何者なんですか」と訊かれて「嘘つきの霊媒師」だと答えていて、島野先輩が生きていると言ったのは嘘だったのでは?と、読み取れる返答になっています。

 

コーポで民俗学の講師である男性の死体が見付かったのは前作「品川区の女」での警官の証言から間違いのない事実なはずですし、今作葛飾区の女」の語り手・桃も、璃々子(本当は後輩)が島野先輩と一緒だったはずの場面で“女性一人の姿”しか目撃していません。居酒屋に入って何も注文しないのも実在している人間としては不自然ですし、それにやっぱり毎回の登場の仕方が可笑しいし・・・・・・・
総合すると、やっぱり島野先輩は死んでいる!と、思う・・・(^^;)

 

後輩は嫉妬と羨望から“原田璃々子”を殺害したものの、想いを寄せていた島野先輩は“原田璃々子”の後を追うように死んでしまい、そして霊となって自分に取り憑いた。この最悪の結末を迎えた事実から逃れるため、「東京の怪異」を持ち出した妄想のストーリーを作った。

こう考えると色々と辻褄が合うと思うのですが・・・どうでしょう。

 

 

後輩と島野先輩が最終的にどうなったのか、今作でもハッキリと結末がつかずじまいですが、このシリーズはやっぱり今作で終了でしょうかね?続けようがないですしねぇ・・・ひょっとしたらまた驚きの展開をするかもわからないですが。そしたらまたすぐ読みたいと思います!

 

 

 

ではではまた~

映画原作「泣くな赤鬼」収録の短編集 重松清『せんせい』紹介

こんばんは、紫栞です。
今回は重松清さんの『せんせい』をご紹介。

せんせい。 (新潮文庫)

2019年6月14日公開予定の「泣くな赤鬼」収録の短編集ですね。


先生と生徒。六つの物語り
著者の重松清さんは今では世間的には『とんび』とかが連続ドラマ化されたこともあって有名でしょうか。

 

とんび (角川文庫)

とんび (角川文庫)

 

 

 

とんび DVD-BOX

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他にも映像化されているものは何作品もありますけどね。個人的には『疾走』での読書体験が忘れられないのですが。

 

 

疾走【上下 合本版】 (角川文庫)

疾走【上下 合本版】 (角川文庫)

 

 


今作『せんせい』のタイトルは文庫版の方のタイトルで、単行本版『気をつけ、礼。』を改題したものです。

 

気をつけ、礼。

気をつけ、礼。

 

 

単行本版のタイトルは今作の最後に収録されている「気をつけ、礼。」をそのまま表題作としているものですね。文庫化にあたり、

「いささか緊張を強いるオフィシャルな号令ではなく、もっと大らかな呼ぶかけのほうが、文庫にはふさわしいような気がした」

とのことです。

読んでみると、確かにこの本全体を表す最も簡単で率直な単語は「せんせい」だという気がします。漢字じゃなく平仮名で“せんせい”なのがしっくりくる。

重松さんは長編でも短編でも「家族」「親」「子供」「学校」などを題材として書かれているものが殆どという作家さんです。誰もが経験してきたような経験や状況を巧みな心情描写をもって描く作家さん。と、いう勝手なイメージを私は持っているんですが。


この『せんせい』は、ザ・重松清の短編集!といった重松清作品の王道を行く短編集ですね。全話、重松さんが今まで執拗なほどに描いてきた「教師と生徒」のお話となっています。どのお話も明確な解決などは示されずに終わるのですが、読み終わるとほんのりと前進した気持ちになれる。そんな短編集です。

 

 

 

 

 

 

 

 

目次
●白髪のニール
●ドロップは神さまの涙
マティスのビンタ
●にんじん
●泣くな赤鬼
●気をつけ、礼。

 

重松さんの作品は著者自身の体験や思い入れが反映されているものが多いです。短編集だと収録作品のどれか一つには“ギター”“ロック”というワードが登場するのが常なのですが、今作も最初に収録されている「白髪のニール」ではニール・ヤングの曲を弾けるようになりたいと生徒にギターを教えてくれと頼む先生というのが描かれています。

重松さんの本を読むのは久しぶりだったのですが、初っ端にギター話が出て来て「ああ、やっぱり」と可笑しくなってしまいました。ロックは若いときしか歌えないなどよくどこぞで言われたりしますが、それに真っ向から反論するお話。

 

 

「ドロップは神さまの涙」保健室登校の生徒と保険医の先生のお話。保健室登校か・・・毎年何人かは学年にいたなぁと、読みながら学生時代のこと思い出したりしました。学校って本当に息苦しいところなんで、避難場所は必要だと苦々しい気持ちになりつつも、ほんのりと希望や救いが漂う結末。この、わかりやすい解決をしない「いじめ」の扱い方が重松清作品だと痛感。別作品ですけど、『ナイフ』とか読んでいると辛い。

 

ナイフ (新潮文庫)

ナイフ (新潮文庫)

 

 

 

マティスのビンタ」は授業そっちのけで絵描きになる夢を追い掛ける美術教師のお話。

私も中学のとき生徒に頓着しないで授業中も自分の作品描いている美術教師って実際にいたので、これもまた当時を思い出しながら読みました。「教師は生活の為に仕方なくやってて、本当はずっと絵を描いてたいんだ」というのを隠す気も無いっていう。ま、保護者としては教師のこういう態度は気に障るでしょうけど、生徒としては構われないだけ楽って感じでほっとくもんです。ちょっと寂しさはありますけどね。選択授業の先生は往々にしてそんな感じだった気もする。
このお話はいつまでも夢を追い続ける先生に痛々しさと苛立ちを感じてしまう生徒の視点が描かれます。この年代特有の苛立ちで青春だなぁと。

 

 

「にんじん」は一人の生徒のことを理由も無く嫌ってしまう先生のお話。

今作の中では個人的にこのお話が一番印象深いです。何とも理不尽な話で生徒としてはたまったものではないですが、子供ばかり大人数を一人でまとめるとなるとこういった選り好みは大なり小なりしちゃうんだろうなとは思います。いますよねぇ、生徒の好き嫌いがハッキリしている先生(-_-)。あからさまなのはもう論外ですが(私の小学校時代にそういう先生がいて、もう地獄でした・・・)、表面的には出していないつもりでも、生徒は感じ取りますからね。しかも、このお話で嫌われちゃう生徒は特に問題は起さず、地味で目立たない子。こういう子にとっては(私もそうでしたが)学校生活自体が悪意を向けられないように過ごす、静かな戦場なのだから、先生に目を付けられるのは勘弁して欲しいもんだと切に願います。

 

 

「泣くな赤鬼」は余命半年の元生徒と再会した長年高校野球部の監督をしている教師とのお話。

元生徒の方は野球部を途中で退部し、高校も辞めてしまったという設定。厳しくすることでしか教え子に向き合えなかった“赤鬼先生”が死にゆく元生徒と向き合うことで「教師として、もっと何かしてやれたんじゃないか」と当時を振り返っていくといったストーリー。
映画化されますが、お話自体は50ページほどしかない短編なのでストーリーはとてもシンプル。なので、映画では色々とお話を膨らませるんだと思います。脚本や監督の演出の手腕が問われる映画になるかと。50ページしかないにも関わらず、存分に涙腺を刺激してくるお話です。
遠くまで旅をして、いつか、こっちを振り向いてくれ。
という一節が教師という職業の辛さと喜びを痛いほど伝えてきます。

 

 

最後に収録されている「気をつけ、礼。」は著者の重松さん自身の体験を元に描かれているのだと思われるもの。最後に収録されているだけあって、この本全体をまとめ上げているように感じられる一編。田舎あるあるや時代も感じるお話ですね。

今作に収録されている六つのお話には、共通してけっして聖人君子ではない人間くさい先生たちが描かれています。お手本にはほど遠く、ときに罪深い教師たちと対峙する生徒。普遍的な罪深さと、それに対しての穏やかな許しが示される物語り。
「こんな先生いたなぁ」と思い出しながら、あの時にあった“怒り”、そして時を経て今ある“許し”を感じながら読ませてくれる短編集ですので、気になった「あのころ生徒だった人」は是非是非。

 

せんせい。 (新潮文庫)

せんせい。 (新潮文庫)

 

 

 

ではではまた~

『仮面同窓会』 原作小説のネタバレ 読んだことを後悔する?衝撃のラスト!

こんばんは、紫栞です。
今回は雫井脩介さんの『仮面同窓会』をご紹介。

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

2019年6月1日から放送予定の連続ドラマの原作本です。

 

あらすじ
新谷洋輔はシステムキッチンメーカーの営業マン。営業成績のことで課長に小言を言われる毎日で二十六歳にして将来に希望も持てず、今の自分に何の期待もできない現状に鬱屈した思いを抱いていた。
最近になって偶然に再会し、ストーカーからピンチを救ったことで親しくなった高校時代の憧れの同級生・竹中美郷に誘われ、気が進まないながらも高校の同窓会に参加することに。
洋輔は高校時代、幼馴染みの皆川希一・大見和康・片岡八真人らと四人で連み、素行不良の季一に引きずられる形でいつも生活指導担当の体育教師・樫村貞茂に教育とは名ばかりの体罰を受けていた。同窓会に参加したことで季一らと久しぶりに再会。さらに樫村とも遭遇するが、自身が過去に痛めつけた生徒の顔も忘れ、意気揚々と老後生活を過ごしている様子の樫村の姿を目の当たりにし、洋輔は苛立ちを覚える。そこに季一・和康・八真人の三人から樫村への仕返しの計画を持ち掛けられた。拉致して懲らしめてスッキリしようという、イタズラ半分の計画だった。
最初は尻込みした洋輔だったが、今の自分の卑屈さは高校時代の樫村から受けた仕打ちのせいだと日頃から思い至りがちだった洋輔は「これを切っ掛けにして過去を精算し、新たな人生を切り開こう」と計画に参加することを決意する。四人はこの計画を「仮面同窓会」と称し、入念に計画の準備を進めていった。
そして決行当日、計画通りに樫村を拉致して痛めつけ、倉庫に置き去りにして立ち去る四人。なんとか無事終わったと思った洋輔だったが、翌日、樫村は何故か別の場所で溺死体となって発見された。
俺達の中の誰かが現場に戻り、樫村を殺したのか?
不信感が募り、互いに疑心暗鬼に陥っていく四人。明らかになっていく“秘密”に翻弄された末、待っていたのは驚愕の真相だった――。

 

 

 

 

 

 

疑心暗鬼サスペンス
私は雫井脩介さんの小説を読むのは検察側の罪人に続き二作目です。

 

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検察側の罪人』が非常に面白く読めたので、また別作品が映像化されると知って読んだ次第です。
雫井さんは色々なジャンルを書かれているとは知っていたのですが、今作『仮面同窓会』は『検察側の罪人』とはまったく毛色が違うもので「こんなジャンルも書かれるのか」と意外でした。
『仮面同窓会』は一つの事件によって友人であるはずの者たちが互いに不信感を募らせて“友情”のメッキが剥がれていく疑心暗鬼サスペンスでミステリ。読後感的には“イヤミス”の部類というかそれに近い印象ですね。
信じていた世界は壊れ、誰も、何も信じられなくなった挙げ句の衝撃の結末と、作中にあるいくつもの仕掛けで読者を色々と唖然とさせるミステリ小説となっています。

 

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

 

 

 

 

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

 

 

 

 

 

 

ドラマ
ドラマは東海テレビ・フジテレビ系での製作。「オトナの土ドラ」枠で6月1日より放送予定です。「オトナの土ドラ」枠といえば、前に同じく雫井作品の『火の粉』をやった枠ですね。

 

火の粉 DVD-BOX

火の粉 DVD-BOX

 

 

 

火の粉 (幻冬舎文庫)

火の粉 (幻冬舎文庫)

 

 

このブログでも紹介した『絶対正義』をやった枠でもありますし、

 

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イヤミス”をやりがちな枠の印象があるような。

 

キャスト
新谷洋輔溝端淳平
竹中美郷瀧本美織
皆川希一野岳
大見和康木村了
片岡八真人廣瀬智紀
樫村貞茂渡辺裕之
美郷のストーカー長井大
上原加奈子雛形あきこ

 

年齢など細かな設定は色々変更されていますが、一番大きく違う点は雛形あきこさんが演じられる「上原加奈子」ですね。原作には登場しないドラマオリジナルキャラクターで「金遣いが荒い上に男性関係も自由奔放な美人教師」らしいです。いかにも波乱がありそうですね。
公式サイトの相関図によると、樫村貞茂(渡辺裕之)と不倫関係で皆川希一(野岳)と男女の仲らしい。やっぱり波乱がありそう(^^;)この設定ごとドラマオリジナルですね。小説では樫村も希一も今現在の男女関係のいざこざとかは別に描写されていません。樫村なんてすぐ殺されちゃいますからね。

原作だと洋輔の三人称視点がお話の大半を占めていて、他登場人物たちの事情とかは最後の最後にやっと解るといった構成なのですが、公式サイトの相関図を見る限りドラマでは各登場人物の掘り下げがされるんじゃないかと予想出来ます。原作ではサラッとしか描かれていない大見和康(木村了)も設定が追加されそうですね。

あと、原作では方言で殆どの人物がやり取りしているのですが、ドラマではどうなるのかも少し気になりますね。

 

 

 

 

 

以下、ガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叙述ミステリ
叙述ミステリというのは「叙述ものだ」と言うこと自体がネタバレになるもんですが、

 

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今作『仮面同窓会』は叙述トリックが仕掛けられたお話になっています。


主人公の洋輔なんですが、序盤でいきなり姿の見えない「兄」と会話し始めるんですよね。あまりにも唐突で「何事だ」って感じになるんですが、読み進めていくと洋輔は小学校六年の時に兄を一人事故で亡くしているという事実が出て来て「ははぁ。洋輔は多重人格で“兄”の人格と会話しているのかぁ」と、思わせるように書かれています。
で、物語りの構成は洋輔の三人称視点でのパートの合間に“兄”と洋輔が会話するパート、さらに「俺」の一人称視点のパートが差し込まれるという形で進んでいきます。「俺」の一人称視点は洋輔の“兄”、つまり洋輔の別人格での視点のように描かれています。イコールで洋輔が別人格に切り替わっている間に樫村を殺害したのではないかという疑念を読者は持ち始める・・・。

 

が、もちろんこれがそのまんま真相な訳はないです。物語りの早い段階でこんな妖しい書き方をするからには、必ずそこに仕掛けがあってしかるべきでして。

 

実は実在していないかのように書かれていた“兄”は実在します。事故で死んだのは二番目の兄で、作中会話していたのは一番目の兄の方。なんと、洋輔の部屋の押し入れで長年引き籠もり生活をしていて、押し入れの中からマイクを使って洋輔と会話をしていたというオチ。


作中で兄が二人いるというのは事実として書かれていますので、もう一人の兄の方かというのは読んでいて結構思い至る人も多いんじゃないかと思います。私も察しがついていましたし。まさか押し入れ生活しながらマイクを通して会話しているとは思いませんでしたが。

この兄、正体が明かされる前は挑発的な発言が主でミステリアスな雰囲気を醸し出していたのですが、いざふすまが開けられて姿が露わになると、一転してハズレた発言ばかりするギャグテイストなキャラクターとなります。終盤は「兄えもん」とか呼ばれちゃってるし。しかし、作中は地獄そのものみたいな状況下なので、困惑するというか不気味・・・ブラックジョークのつもりなのか何なのか・・・著者が何を意図しているのか分からない(^_^;)とりあえず変です。

兄は洋輔の部屋から一歩も出てはいなかった。では事件を起したと思しき「俺」の一人称パートの「俺」とは誰なのか?叙述トリックが一つ明らかにされた後、さらなる謎が噴出します。

 

 

 

 

犯人
「俺」が誰なのか。それは美郷のストーカーである“謎の男”というのが正解。このストーカー男、何故か度々洋輔の前に現われて馴れ馴れしく話しかけてきていた妖しすぎる男。当然、犯人です。謎の妖しすぎる男が犯人なんですよ?そのまんまですよね。妖しすぎて逆に疑っていなかったのに犯人。虚を突かれるとはまさにこのこと。


で、このストーカー男、もちろん美郷と共謀しています。
首謀者は美郷で、洋輔に接触してきたのは洋輔と周辺の友人達、季一・和康・八真人の様子を探るためでした。目的は高校時代の友人・日比野真理に暴行を働いて自殺に追いやった人物の殺害。
ストーカー男は中学の時に父親と浮気相手を串刺しにしたということで「串刺しジョージ」と渾名付きで噂されていた張本人で“ヤバい奴”。真理の実の兄・日比野譲司。美郷の復讐計画に手を貸します。


美郷は洋輔とデートしている最中もわざわざ相手の気を悪くさせることを言ったり、ストーカー男と連絡を取り合っていることを洋輔に咎められたら逆ギレしたり・・・挙動がかなり不可解でした。もう美郷も洋輔の別人格の一人なんじゃないかとか思うくらいです。洋輔が疑われている状態を楽しんでいるような言動ばっかでしたからね。美郷が「ふーん」と言う度に読者としては神経に障って、もう謎すぎる女だったのですが、これもそのまま犯人。

 

スリードと見せかけてミスリードじゃない。ミステリ好きでひねって考える人ほど驚く感じですね。

 


酷すぎる
終盤で明かされる各人物たちの事情はどれもおぞましくって酷すぎるものです。胸が悪くなること請け合いですね。


事件が起きたことで疑心暗鬼になり、友情に亀裂が走るといった流れのようでいて、もはやそんないいものでもない。洋輔・季一・和康・八真人の四人の間には元々“友情”自体が無いのです

 

季一や和康は洋輔に「俺達三人にはお前とはない“鉄の結束”がある」とぬかします。
“鉄の結束”とは、六年前に日比野真理を三人で暴行したこと。さらに、その六年前に八真人が洋輔の二番目の兄・雅之を殺害した瞬間を季一が目撃したことで、季一は八真人の支配者となっていたこと。
犯罪行為によって自分たちは通常よりも強い結束が出来ているのだと。樫村を拉致する「仮面同窓会」計画も改めて自分たちの結束を確認するためで、今回は洋輔も巻き込んでやろうと誘い、計画したと季一は言います。


しかし、一緒に犯罪行為をすることで生まれるのは“友情”なんかではない。そこに生まれるのは我が身可愛さの自己保身と互いに弱みを握り合い、脅迫し合う損得勘定と打算。


それを“鉄の結束”などと酔いしれながら発言するのだから読んでいると唯々気持ち悪いです。真理への暴行もそうですが、八真人が洋輔の二番目の兄・雅之を殺害した理由も女性のスカートの中身の盗撮を知られたからで、殺される直前、雅之が八真人にさせようとしたことも猥雑だし、樫村は真理から季一らに暴行されたことを相談したら「俺にもやらせろ」だし。

 

もう色々とホント気持ち悪いしおぞましいし虫酸が走ります。女性としては特に(-_-)

 


主人公の洋輔は季一らのこれらの行為は知らなくって、まさにただ巻き込まれただけの人物なんですが、過去を暴力で精算しようとしたのがもう間違いだったのだということでしょう。八真人もそうですが。

 

つまずかずに生きていくのは不可能と言っていい。しかし、一つつまずくと、洋輔のような弱い人間は、つまらない傷を心に負い、なかなか癒えてくれない。前を歩こうとしても、それを引きずったままになる。歩くのを放棄するなら、真理のようにこの世から去るか、兄のように押し入れの住人となるしかない。
傷を治すため、つまずいたものに無理にけりをつけようとすると、往々にして大怪我をする。そうしていつの間にか、満身創痍になってしまう。

 

友人だと思っていた三人は知らないところでおぞましい行為をし、親友だと思っていた八真人は兄を殺害した罪悪感から友好的に接していただけだった。
実質、洋輔は三人と連んではいても“友人”ではなかった。三人にとっては何も知らずに“友人ぶっている”道化のようなものだったのだと知らされます。終盤、洋輔の信じていた世界は粉々になります。


あまりに憐れに思える洋輔ですが、しかし、洋輔にしてもあまり同情心とかは湧いてこないんですよね。友人、特に八真人は親友だと言っている割には随分と簡単に疑って一人で不信感募らせて見当違いな推論を他人に披露して・・・八真人に対して「親友」という言葉を何度も使うのが空々しくってイライラしました。相手のこと端から信じようともしてないくせに。流されまくっていて何もちゃんと見ようとしていない人物だと感じます。

 

真理のための復讐だと言っている美郷もしかり。終盤化けの皮が剥がれてからの美郷はどう見ても殺人を楽しんでいるようにしか見えなくって友情などそっちのけなんじゃないかという気がする。(ドラマ、原作通りにやるんだとしたら美郷役の瀧本美織さんの演技に必見です。豹変してかなり怖いことになる)譲司もしかり。

 

つまり、この物語りに“友情”は無い。共感できない、とち狂っていて気持ち悪い人物しか登場しない小説ですね。
タイトルに「仮面」とついているだけに、人間の裏の顔を描くのが主題の物語りなんだと思います。

 

 

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衝撃の!ラスト
私が読んだ幻冬舎文庫版には裏の説明書きに「衝撃のラストに二度騙される」とあります。
確かに衝撃ではあります。酷すぎて。
最後の数ページは「このまま終わったらどうしようもないぞ」ってな展開で「まだ何かあるんでしょ?」と身構えながら読んでいたのですが・・・・・・・何もないまま終わってしまいました。「えぇえ!ここで終わり!?」という、そういう意味で衝撃のラスト。

 

内容も黒すぎるし、叙述による仕掛けも無理矢理感があるので、人によっては読んだ事自体を後悔する小説かなと思いますが、先が気になってドンドン読ませる力というのがある小説ではありますので、イヤミス系統が好きな方は是非。

 

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

 

 

 

 

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

 

 

ではではまた~

 

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秘密-トップ・シークレット5巻「屍蠟化死体事件」ネタバレ・あらすじ

こんばんは、紫栞です。
今回は清水玲子さんの『秘密-トップ・シークレット』5巻収録の

 

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「屍蠟化死体事件」と同時収録の短編「特別編」をご紹介。

 

新装版 秘密 THE TOP SECRET 5 (花とゆめCOMICS)


あらすじ
2062年。ガンを患い余命幾ばくもない梨田は、60年前に金欲しさに子供を誘拐・殺害した罪を告白する。梨田の証言により死体の捜索を開始した警察は屍蠟化死体を発見するが、この死体は中年男性で、死亡時期は20~25年前。梨田の起した事件とは無縁のもので、捜索中に偶然発見されたものだった。
解剖医の三好雪子は、遺体の状況から犯人は性的倒錯者の可能性のある異常者なのではないかと推察、第九にMRI捜査を求める。
遺体の状態・事件の緊急性のなさなどから室長の薪は雪子の申し出に難色を示すが、青木が薪に意見したことにより、青木が勤務時間外に一人で捜査することに。捜査により死体の身元が判明、脳映像の再現にも成功するが、映像の解析を進めた結果浮かび上がった容疑者は思いもよらぬ人物だった。
しばらくして、死体の捜索を続けていた警察はもう一体の屍蠟化死体を発見する。この死体こそ梨田が証言した事件の被害者男児のものだった。時効が成立しているため事件は立件不可能だが、被害者の母親はMRI映像の閲覧を希望する――。

 

 

 

 

 

 

二つの事件
今作では二つの屍蠟化死体(外気と長時間遮断された湿地や多湿な環境に放置されたことのよって腐敗を免れ、内部の脂肪が変性して全体が鑞状になった死体のこと)が同じ沼地から発見されるのですが、この二つの死体はまったく関連がないそれぞれ別の事件のもの。
前4巻までは猟奇性が高いものや世間的影響が大きい重大事件を扱っていましたが、

 

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今作はどちらも20年前・60年前と過去の事件で重大性も薄いものです。

 

流れとしては最初に中年男性の他殺体が発見されて捜査、この他殺体に関係した悲劇的な事件が起き、後味は悪いが一応事件は収束したところで、元々探していた子供の死体を発見。今度は被害者男児の母親が息子の死ぬ前のMRI映像の閲覧を希望、警察は承諾するが、閲覧中に思いもよらぬ事件が起きる――と、いった構成。
別個の事件を何故並べて描いているのか。一見すると戸惑いますが、そこには確りと意図があります。

子供の死体の方は証言通りに梨田が60年前に殺害した被害者のものですが、もう一方の死体は梨田の証言によって捜索していたら偶然に発見されたもの。こんな巡り合わせがなければ今後も発見されなかったであろう死体で、三好先生が「屍蠟化死体だからMRI捜査が出来るかもしれない」と言わなければ事件として発覚すらもしなかった代物。まったく不運な犯人だって感じで、三好先生も「薮蛇となったこの犯人は運が悪かったとしか言えないけど」と序盤で言っていますが、三好先生のこの発言自体が皮肉なことに三好先生自身にそっくりそのまま返ってくるという“藪蛇”な展開になります。

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薮蛇
中年男性の他殺体の身元は、25年前に行方不明になっていた堀江太一。親戚に引き取られたことで姓が変わっていますが、この男性は三好先生の十年来の親友である浜田葵の父親。

25年前。堀江太一は酷いDV男で、妻に子供達の見ている前で熱した調理油をかけて結果的に殺害。母親の死後、父親の暴力は長男の尚にむかい、命の危険を感じた尚は家を出る決意をします。まだ幼い妹・葵を置いて。お金が貯まったら妹を迎えに行こうと決めていた尚ですが、ある時、自分は我が身可愛さで妹を見捨ててきただけなんだと気がつきます。自分がいなくなれば、父親の暴力は残された葵にむかうとわかっていながらの自分の行動に深く後悔し、尚は葵の身を案じて実家に戻ります。ですが、そこに待っていたのは父親の死体とその横に蹲る妹の姿でした。
葵は父親の暴力に絶えかねて包丁で父親を殺害していたのです。尚は父親の死体を沼地に埋め、妹を人殺しにしてしまったことに負い目を感じ、今後何があっても葵を守り抜くと堅く心に誓います。
そうして25年経った現在、葵は結婚を間近にひかえていましたが、何の因果か、それとも知らず招き寄せてしまっているのか、その婚約者は父親と同じように暴力を振るう男でした。葵は25年前と同じ状況に追い込まれて錯乱し、包丁で婚約者に襲いかかります。そこを兄の尚が止めに入り、「二度とお前に人殺しはさせない」「たとえオレが人殺しになっても」と、葵から包丁を奪って変りに婚約者に襲いかかり、返り討ちにあって死んでしまいます。

三好先生は結果的に友人の幼少のころの犯罪、兄が命懸けで守ろうとした妹の「秘密」を暴いてしまった訳です。25年前の、DV被害者である子供の犯罪。まさに掘り返さない方がいい事件でした。


実は薪さんは遺体の刺し傷の状態から犯人が「小さい子供」なんじゃないかと見当がついていました。最初、真相解明に乗り気じゃなかったのはそのためです。

親友の身体の痣にも気づかず、遺体の刺し傷から性的倒錯者の可能性しか思い至らぬ三好先生の“観察力のなさ”を、終盤、薪さんは激しく糾弾します。
確かに、気がついている身としては三好先生の的外れな意見や藪蛇な行動にはイライラするかもですが、「じゃあ早く言ってよ」って感じだし、意地悪しているようにしかみえません(^^;)
なぜこんなに意地悪を・・・やっぱり青木が三好先生に惹かれていることが原因なのか?

※詳しくは4巻↓

 

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ってとこで今度は三好先生にやり返される訳ですが・・・う~ん、薪さんも薪さんですけど、三好先生も相手をやり込めるためにセクシャリティのことを持ち出すのは禁じ手というか卑怯な気がするなぁ・・・と、何とも言えない気分に~・・・なったとこで、唐突に何故か青木が三好先生にプロポーズ。
「???」
と、読者的にはもう混乱の渦で、「さらに事態をややっこしくすることしてんじゃねぇ」と青木に怒りを覚えたりします(笑)
しかも、三好先生実は薪さんのことが好きらしく~~~?


もうしっちゃかめっちゃかですね。
このしっちゃかめっちゃか、今後も引っぱるので、まぁ静観して見守っといて下さい(^_^;)

 

 


対比
しっちゃかめっちゃかの後、今度は梨田の殺害した被害者男児MRI映像閲覧を95歳の母親がします。

自分の息子が殺されるところを見るなど並大抵の覚悟では出来まいと思いますが、この母親、本当に覚悟を決めてこの場に来ていました。「第九」に来る前に加害者の梨田を殺害していたのです。
手錠をかけられた老婆に、薪さんは「なぜこんなおろかな事を」「あなたの今までの人生や被害者、ご主人の名誉も失う事に・・・」と訴えますが、95歳の母親は「夫はもう8年も前に亡くなった」「関係者もとっくにいない。自分は95歳だ」「これでもまだ私には守るべきものがありますか」と泣き崩れる。


息子の死ぬ直前にみた「幸せな夢」の映像を見ながら「梨田も悪夢に苦しんできたはずだ」と言った薪さんに「では・・・今度は その犯人の・・・梨田の脳の画を見せて頂けるのかしら 死ぬまで見続けたというその夢を」と言い放って空気が一変するところがそら恐ろしいです。
確かに60年間も自分たち家族を苦しめていた犯人が「もう自分は末期ガンで長くないから懺悔して天国に行きたい」などと言って今になって証言するなんていうのはとても許せるものじゃないですよね。相手が死ぬ前に自分で殺したいというのも分かる気がします。病室にそんな易々と入れるかなぁとか、着物についた血痕そんなに簡単に落とせるのかなぁとか疑問はありますが・・・。


十歳に満たない子供が自身を守るために行った殺人と、95歳になった老婆が60年苦しんだ末“守るものがない”ために行った殺人。
正反対ですが、同じようにやり切れぬ事件が対比で描かれています。

 

 

後味が悪い
この漫画シリーズは後味が悪い事件が多いですが・・・と、いうか、殆どがそうだという気もしますが(^^;)
その中でも今作は上位に食い込む後味の悪さです。

作画ももう拍車をかけてですね。尚が実家に戻って父親の遺体と妹の葵の姿を目の当たりにするところや、95歳の母親が皺だらけの顔で泣き崩れるところも画から漂う絶望感がもの凄いです。ラストの薪さん同様、頭を抱えてうなだれたくなります。

 

5巻は最後に岡部さんが主役の「特別編」が収録されています。これもそんなに軽くなく、結構重いお話なのですが、それでも救いがある終わり方していますので本編読んだ後で少しは晴れやかな気分に・・・なる、かな・・・?

分かりませんが。

とりあえず“あの子”死ななくて良かったと心底思った話だった(^^;)


色々と複雑な心境になる5巻。読んで是非色々と考えてみて欲しいです。

 

 

ではではまた~

『今昔百鬼拾遺 鬼』概要・感想 百鬼夜行シリーズ新作スピンオフ!

こんばんは、紫栞です。
今回は京極夏彦さんの『今昔百鬼拾遺 鬼』(こんじゃくひゃっきしゅうい おに)をご紹介。

今昔百鬼拾遺 鬼 (講談社タイガ)

 

あらすじ
「あ――そう、鬼の因縁だとか云っていました」
昭和29年3月、駒沢野球場周辺では「昭和の辻斬り事件」と呼ばれる日本刀を使った連続通り魔事件が発生。容疑者は捕まり、事件は収束に向かっていたが、最後の七人目の被害者・片倉ハル子は殺害される以前から学院の後輩だった呉美由紀に「先祖代代、片倉家の女は斬り殺される定めだ」と云い、自らの“女が斬り殺される家系”を畏れていたらしい。

自分が被害者になることを予見していたかのような生前のハル子の発言に疑問を持った呉美由紀から事件の相談を受けた「奇譚月報」の記者・中禅寺敦子は調査に乗り出す。
調査する先々で耳にするのは「鬼の因縁」、そして「鬼の刀」。片倉家の家系を辿っていくうち、敦子と美由紀の二人はとんでもない“因果”を目の当たりにするのだが――。

 

 

 

 

 


百鬼夜行シリーズ!新作!
2019年4月19日に出ました~百鬼夜行シリーズ】最新作!

 

 

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サイドストーリーズの百鬼夜行-陽』から数えるなら七年ぶり、

 

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長編で数えるなら邪魅の雫以来十三年ぶりの新作となります。

 

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もう発売を知ってから楽しみでそわそわしていました。こうして無事(?)読めて嬉しい限りです(^^)

今作『今昔百鬼拾遺 鬼』は正確にいうと【百鬼夜行シリーズ】のスピンオフ的作品で、昨年2018年に行われた三社横断京極夏彦新刊祭り・「三京祭」の期間限定サイトで公開されていたお話の書籍化です。講談社鉄鼠の檻 愛蔵版』

 

鉄鼠の檻

鉄鼠の檻

 

 

角川の『虚談』

 

虚談 (怪BOOKS 幽BOOKS)

虚談 (怪BOOKS 幽BOOKS)

 

 

新潮社の『ヒトごろし』

 

ヒトごろし

ヒトごろし

 

 

をそれぞれ購入し、各単行本の帯についているパスワードを全て集めると読めるという代物でした。
私は『虚談』と『ヒトごろし』は購入したものの、『鉄鼠の檻 愛蔵版』は田舎で直接目にすることも叶わずに買わずじまいだったので(ネットで買えるんですけど、お高いので実物を見ないまま購入は気が引けてしまった^^;)、こんなに早く書籍化してくれるとは思っていなかった分、嬉しさ爆発です。

このスピンオフ『今昔百鬼拾遺』はどうやら中禅寺敦子が主役のシリーズもので、昨年同様に三ヶ月連続で刊行されるのですが、なんと、同じシリーズなのに三社別々のところから刊行されます。
今作の「鬼」は講談社タイガからで、5月24日に「河童」角川文庫から、

 

 

6月26日には「天狗」新潮文庫から

 

 

 

刊行されます。


同じシリーズなのに何故こんな刊行に?と、ちょっとややこしい感じになっていますが、三社横断企画のサイトで公開されていたものなので、ケンカしないようにってことなんですかね(^_^;)
すべて文庫での刊行ということで講談社からは講談社タイガでの刊行。創立のときに作家一覧に名前を連ねていたのに長年刊行されずじまいだった“アレ”です。
個人的に講談社ではもう百鬼夜行シリーズは書かないのだと思っていたので、ちょっと驚きでした。スピンオフだからいいのかな?

 

※2020年に「鬼」「河童」「天狗」の三作を一冊にまとめたものが講談社からノベルス・文庫と『今昔百鬼拾遺 月』として刊行されました。↓

 

 

 

 

 

いや、結局講談社からまとめて出すんかい。

どうなってんのでしょう。大人の事情は。講談社と【百鬼夜行シリーズ】はどんなことになってるのよ今のところ。

 

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ま、シリーズファンとしては講談社ノベルスと本の分厚さに愛着があるので嬉しいは嬉しいですけどね。

 

 

『今昔百鬼拾遺』は三作とも表紙に使われているモデルは今「福岡一の美少女」と話題の女優・今田美桜さんです。

・・・・・・三作ともお面被っていて顔が写っていないのですが。

なんという“かわいい”の無駄遣い。少なくとも今作の「鬼」では表紙以外の写真でも顔が隠れているので意味不明の試みに驚きです。著者の京極さんも驚いていましたね。

 

 

登場人物
『今昔百鬼拾遺』は敦子と、『格新婦の理』に登場した呉美由紀の二人が事件を追う役割を担ったシリーズです。
この記事↓

 

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でも書いたように、私は呉美由紀ちゃんの再登場を熱望しておりましたので、これもまた嬉しさ爆発。ありがとうございます!ですね(^o^)

 

呉美由紀は『格新婦の理』での事件後、閉鎖された「聖ベルナール女学院」理事長代理の鈍感で楽観的な正義漢の柴田の便宜でまた全寮制の女学院に編入しています。最初は中禅寺か榎木津に相談しようと思っていたものの、両者とも例によって旅行中に起きた事件に関わっている最中で不在。※栃木に行っているらしい(おお!?)
それで妹の敦子におはちが回ってきたという訳です。


敦子と美由紀ちゃんの組み合わせって予想していなかったんですが、属性が同じ?というか、何というか、云われてみれば馬が合いそうな組み合わせですね。敦子の方が論理的で、美由紀ちゃんの方が爆発力(?)がありますけど。

 

他、【百鬼夜行シリーズ】からは鳥口守彦が登場します。敦子が調べ物の際に頼るという流れです。こういう協力をするから兄の中禅寺秋彦に「妹を誑かす不届き者」扱いをされるんですが(^^;)
鳥口といえば、『塗仏の宴』

 

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以降の陰摩羅鬼の瑕』『邪魅の雫と二作続けて不在で、スピンオフの『百鬼徒然袋』

 

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でチョロと登場したぐらいで音沙汰なしでしたので、ファンの間では登場を熱望されていた一人。登場して嬉しいですが、予定されている本命シリーズの長編・栃木で起こる『鵺の碑』にはやっぱり置いてけぼりをくらっているみたいで残念です。大作に出られないぶん、この『今昔百鬼拾遺』には多く登場して欲しいものですね。今作「鬼」ではやっぱり少ししか登場していませんが・・・。

 

シリーズの空気感もそうですが、敦子や鳥口にしろ、十年以上ぶりに書いているとはまったく思えないくらいに前作との齟齬がありません。間隔開けずにずっと書き続けてきたかのようです。呉美由紀に至っては二十年以上前に登場したきりのキャラクターなんですけどね。この“しれっ”とした感じが逆に凄まじく思える。流石。

 

後、青木の紹介で玉川署刑事課捜査一係の刑事・賀川太一が登場します。見た目が子供っぽく、思ったことをどんどん口走っちゃうなかなか愉快な刑事さんで楽しいです。次作の「河童」や「天狗」にも出て来るのかな?
青木は名前のみの登場でしたね。敦子視点だと青木も鳥口もてんで意識されてないなと何か気の毒になってくる。脈なしなのかな、やっぱり(^_^;)

 

 

 

 

リンク
今作は期間限定サイトで公開される前から触れ込みとして『虚談』『ヒトごろし』にリンクした物語りだとなっていました。
個人的に“リンクした”とはいってもすこ~し関係するだけかな~と侮って(?)いたのですが、もうリンクもリンク、今作の事件の大元にめちゃくちゃ関わってくるお話になっていました。
『虚談』の方は収録されている短編の「ちくら」とリンクしているのですが、

 

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『ヒトごろし』の方はもうガッツリですね。

もはや今作は『ヒトごろし』の後日談レベルです。
“鬼の刀”と出て来るあたりから「お?」ですね。まさか“あの刀”やお涼があんなことになっていたとは・・・・。
事件の真相と相まって『ヒトごろし』を読んだ人にはさまざまな思いが去来するお話になっています。単体でも愉しめる作りにはなっていますが、『ヒトごろし』を読んだなら後に必ず読むべきお話で、絶対にセットで愉しむべきだと思います。順序が逆になっても然り。『ヒトごろし』の単行本はぶ厚くって見るだけで心が折れるかもですが、最近電子書籍版も出たので是非・・・・・・!↓

 

 

 


この本の素晴らしさについて、詳しくはこちら↓

 

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我ながら長々書いた・・・(^^;)

美由紀ちゃんが登場しているので、もちろん『格新婦の理』も読んでおいた方が良いですね。京極夏彦作品は全部が全部なんかしら繋がっているので云っていくとキリがないですが・・・。

 

 

 

ライトじゃない
今作は講談社タイガからの刊行とあって、ページ数も250ページぐらいと百鬼夜行シリーズとは思えぬほどに薄いです(一応長編となっていますけどね。レンガ本になれているファンは短編のように感じてしまう)。じゃあ内容もライトなのかというと全然ライトじゃないんですけど。


ところどころクスリとする部分はありますが、他のスピンオフの『百鬼徒然袋』『今昔続百鬼-雲』

 

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みたいなコミカルよりではなく、扱っている事件自体はだいぶ重くて雰囲気も本来の百鬼夜行シリーズに近いです。妖怪のウンチクとかは入らないですが、因縁や妄信に囚われてしまった人々が描かれるミステリというのはこのシリーズ独自のものですね。

 

『今昔百鬼拾遺 鬼』では謎解き役を敦子が担っています。作中、美由紀ちゃんに何度も「お兄さんに似ていますね」と云われていますね。どうやら美由紀ちゃんは『格新婦の理』での憑物落としに感銘を受けたらしく、あの中禅寺の理路整然としたしゃべりを見習いたいらしいです。で、敦子に何度も「やめとけ」云われてる(笑)
謎解きはしませんが、美由紀ちゃんは終盤で思いがけない活躍をします。「どちらかと云うと探偵さんの影響が濃い」ですね。
とりあえず、美由紀ちゃん最高。惚れ直しました(^o^)

 

久しぶりすぎる百鬼夜行シリーズの新作、期待通りの面白さで一気読みでした。もう読み終わった直後から「今すぐ次作読みたい!」とウズウズしております。


次作の『今昔百鬼拾遺 河童』は5月24日発売。待ち遠しいです!

 

 ※出ました!読みました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

 

 

 

パラレルワールド・ラブストーリー 原作小説、ネタバレ! 異色の謎解き恋愛小説~

こんばんは、紫栞です。
今回は東野圭吾さんのパラレルワールド・ラブストーリー』をご紹介。

 

パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)

 

2019年5月31日に公開予定の映画の原作本ですね。

 

あらすじ
敦賀崇史は大学院在学中、週に三度ほど山手線を利用していた。毎回、決まった時刻に同じ電車に乗り、同じ車両、同じドアの脇に立って外の風景を眺めるのが習慣となっていたが、いつからか崇史は山手線と並行して走っている京浜東北線の車両に乗っている若い女性に目を留めるようになる。

彼女は毎週火曜日に同じ時刻の電車、同じ車両の同じドアに立っていた。並走する車両に彼女の姿を探すようになるうち、彼女と目が合うことが多くなった。毎週二人は二枚のガラス越しにほんの二・三秒見つめ合う。
崇史は名前も知らない彼女に恋をした。

しかし、卒業にともなって山手線を利用することもなくなり、結局彼女とは直接会うことも出来ないままに崇史の恋は終わってしまう。

大学院を卒業後、崇史はアメリカに本社のあるバイテックという企業が運営しているMACという学校に幼馴染みで親友の三輪智彦と共に入り、リアリティ工学の研究者として給料を貰いながら研究を行う日々を過ごしていた。

ある日、崇史は智彦から「彼女を紹介したい」と言われ、喫茶店で待ち合わせをする。足に障害があり、今まで女性・恋愛に距離を置いている様子だった智彦に恋人が出来たと聞き、大親友の幸せを心から喜ぶ崇史だったが、智彦が連れてきた津野麻由子と会った瞬間、そんな思いは吹き飛んでしまう。

麻由子はあの京浜東北線の彼女だった。

智彦への嫉妬に苦しむ崇史だったが、ある朝目が覚めると、彼女は自分の恋人として隣にいた。夢と記憶との符合や記憶と食い違う状況に混乱する崇史。麻由子が自分の恋人である「世界」と、麻由子が親友の恋人である「世界」。どちらが現実なのか?

目覚める度に変わる二つの「世界」で恋と友情は翻弄されていく。いったい自分に“何が”起こっているのか、崇史は謎を解明しようと調べ始めるが――。

 

 

 

 

 

 

 

「恋」と「友情」と「記憶」の物語り


パラレルワールド・ラブストーリー』は1995年刊行で、今から20年以上前の作品となります。スマホはおろか携帯電話も作中には登場しないので、電話事情に関しては読んでいると時代を感じますが(電話環境ってのはここ二十年でホント様変わりしましたよね)、違和感はそれぐらいで他は驚くほど今の時代と齟齬なく読めます。むしろ近未来的なお話だという印象。リアリティ工学の研究について色々と出てきますので、専門的知識がある人には気になる点もあるかもですが、大多数の人には今現在の方がより受け入れやすいお話になっているんじゃないかと。


タイトルに“ラブストーリー”と入っている通り、今作は一人の女性を巡る親友との三角関係が展開される普遍的な(しかし悲劇的な)ラブストーリーが展開されるのですが、これに「記憶」の混乱が入ることによって他にはない“ある意味ホラー”な謎解き恋愛小説になっております。ぶっ飛んでいて少しファンタジックな設定ではありますが、ラブストーリーにくわえ、親友との友情の行方、数々の謎や伏線が繋がっていく過程など、東野圭吾作品らしく楽しませてくれます。


「アイデアが生まれたのは20代。
小説にしたのは30代。
そして今ではもう書けない。」

と、いう、40代の頃に東野さんが言った今作についてのコメントが印象的。

上の画像による文庫の他に、最近になって映画化にあわせてか吉田健一さんによるイラストカバー版も刊行されています。

 

 

 

映画

 

 


映画の監督は『ひゃくはち』『宇宙兄弟』『聖の青春』などの森義隆さん。主題歌は宇多田ヒカルさんのアルバム『初恋』

 

初恋

初恋

 

 

に収録された「嫉妬されるべき人生」が使われています。タイトルが凄く合っている・・・。

キャスト
敦賀崇史玉森裕太
津野麻由子吉岡里帆
三輪智彦染谷将太
小山内譲筒井道隆
桐山景子美村里江
篠崎悟郎清水尋也
柳瀬礼央水間ロン
岡田夏江石田ニコル
須藤隆明田口トモロヲ


このお話はとにかく崇史・麻由子・智彦の三人の三角関係物語りなので、この三人がキャストでは重要なことになりますね。感情の揺れ動きがお話のキーになっているので役者さんの演技に注目です。

 

キャスト一覧に篠崎の恋人の直井雅美の名前がないのがチト気になる。映画には登場しないんでしょうか。

映画の公式サイトには「驚愕の108分!」「頭フル回転ミステリー」という文句が躍っていますので『去年の冬、君と別れ』

 

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みたいな視聴者ダマシ系(?)の仕掛けでアッと言わせる感じの映画になっているんですかね。
公式サイトには「映像化不可能と言われ続けてきた~」とも書いてありますが・・・個人的に原作小説を読んだ感じとしては「え?そうかな?」と。構成は少し複雑ですけど、別に原作通りにやれば結末で普通に驚かせることが出来るんじゃないかと思います。『去年の冬、君と別れ』や『イニシエーション・ラブ』みたいに原作がバリバリの叙述モノといった訳でもないので(叙述は叙述なんですけど)・・・まぁ場面がドンドン変わるので視聴者が混乱しないように作るのは難しいのかな。

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パラレルワールド
今作は第10章まであり、視点は全て崇史。各章始めに麻由子が崇史の恋人で同棲している「世界」が描かれ、その後で“SCENE”として麻由子が智彦の恋人である「世界」が描かれる構成。各章、そんなに長くない中で「世界」が変わるので読んでいると場面の変動がせわしなく感じるかと。状況が把握出来ないまま二つの違う「世界」が交互に示される訳で、読者も序盤は主役の崇史同様に混乱します。
タイトルに“パラレルワールド”とあるので、読者にこれはちょっとしたファンタジーで、二つの別世界を並行して小説で描いているのだと思わせられるようになっています。しかし、延々並行して進めていったところで「このお話はどう着地するんだ?」と、読みながら疑問を常に感じるんですよね。作者の意図が解らなくって戸惑う。小説ジャンルもちゃんと説明書きにありませんし。ファンタジーなのかミステリーなのか判断しかねるなぁと。

話が進むにつれ、崇史が“思い出していく”ことでこの二つの「世界」は別ものではではなく、繋がっているのだということが明らかになっていきます。


麻由子が智彦の恋人だったのが過去の出来事で、麻由子が崇史の恋人であるのが今現在。


一つの「世界」が時系列を変えて描かれていることで、まるで二つの別世界があるかのように見せかけられている。タイトルにある“パラレルワールド”というワードが読者をミスリードさせる一要因になっている仕掛け。

 

では何故崇史は前から麻由子は自分の恋人だったと思い、智彦とのことを都合良く忘れていたのか。崇史はここで自分の「記憶の改編」が何者かによってされたのではないかと考え、智彦が研究していた「リアリティ工学の常識を根底から覆す大発見」に思い至る。
で、智彦や須藤と共に研究していたメンバーの一人、須藤の不可解な言動やいきなりの辞職、智彦の急なアメリカ行きの事柄などからかなりきな臭い事態に話は展開していきます。

 

 

 

 

ラブストーリー
個人的な話ですが、私は普段ラブストーリー、特に三角関係を扱った作品はそこまで好んで読まないし、映像作品で観ることも少ないです。(ラブコメは好きなんですけどね)
それというのも、「恋愛」には推理小説やクライムサスペンスのような“かくあるべし”な理路整然とした解決というのは無いからです。どんなに前後の行動とかけ離れていようと、理不尽な選択や結末を迎えようと、それが「恋」だから!と、言われば納得するしかなくなる。人の気持ちは理屈じゃないから・・・・・・と、まぁ、そういった部分が普段ミステリー作品ばかりに触れている人間には不服なときもある(^^;)

 

今作も親友との三角関係が主軸ということで、やっぱり読んでいるとモヤモヤしてしまうんですよね。
主人公で語り手の崇史は、親友の恋人に横恋慕することで智彦に嫉妬や憎しみを抱くようになるうちに足が不自由な彼に対し、自分が心の底では見下していたんだということに思い至っていきます。ついには智彦がハンディを持っているせいで麻由子が自分の元に来てくれないのだとまで。

麻由子はあいつに縛られている。
あいつが普通の身体なら、彼女もあいつと別れる決心がついたに違いない。だけどハンディキャップのあるあいつを捨てることが、彼女にはどうしてもできないのだ。
あいつはそういう彼女の優しさにつけこんでいる。
それをフルに利用して、彼女を得ようとしている。
あいつさえいなければ。
智彦さえいなければ。

これは智彦に黙って麻由子と関係を持った後の崇史の心境で、まったくもって得手勝手で酷いんですよ。端から見れば。

裏切っておいて、何もしていない智彦に殺意まで芽生えさせるほどに歪んでしまう。何よりも大切な親友だったはずなのに。まさに恋は人を狂わせるといった感じでしょうか。

崇史は作中の割と早い段階で「智彦との友情が壊れてもいい。仕方がない」と思い始めます。それほどまでに自分は麻由子のことをどうしても諦められない程に好きなんだと。あっさりと「友情」より「恋愛」を選んでしまおうとするのですが、麻由子は「大事なものを、どうして簡単に壊せるの?」と言って二人の「友情」を守ろうと、崇史に心引かれている素振りをさせつつも“誘い”を拒み続ける。(その態度がまた崇史の心をこじらせさせているんですが・・・)

 

「きっと、あなただって気がつくわ」と彼女は静かに続けた。「彼との友情を犠牲にするなんてこと、結局できないんだってことにね」

 

 

 

真相
智彦は二つのことに悩んでいました。一つは研究班の助手だった篠崎のこと。もう一つは麻由子のこと。

智彦の記憶パッケージ研究班では「記憶の改編」に成功していました。しかし、実験途中で篠崎が意識をなくして昏睡状態になるという事故が起こってしまった。上司の須藤らと共に篠崎の身体を隠し、昏睡状態から目覚める方法を模索する智彦でしたが、篠崎が昏睡してしまったのは自分が研究を進めることに必死で安全性を考慮しなかったためだと自責の念に駆られます。
そして、麻由子については彼女の気持ちが崇史のほうにむいていることに以前から気づき、早くあきらめなければと思っていました。だけど、どうしてもあきらめられないと悩んでいたのです。
悩み続けた結果、智彦は両方を同時に解決させる方法を見つけだします。自分が実験台になって篠崎の事故の再実験を行い、その結果を参考に須藤たちに昏睡状態から目覚める方法を開発してもらう。そして、自分は記憶改編システムを使って麻由子が恋人だったことを記憶から消し去り、昏睡状態になっている間に崇史と麻由子にも記憶を改編してもらって二人に恋人として結ばれてもらう。そうすれば昏睡から目覚めたとき、自分は心の底から二人を祝福出来るはずだ、と。

 

「恋」のために「友情」を犠牲にしようとした崇史に対し、智彦は自分の「記憶」と引き替えに「友情」を保つことを選んだのです。

 

促されて智彦の麻由子に関しての記憶改編を手伝ったのは崇史です。実験の最中に崇史は自分も麻由子を忘れるよう記憶改編をすれば良いのではないかと思いはしますが、恐怖が勝って尻込みします。
“記憶を変えるのは、自分を変えること”
並大抵の覚悟で決断できることではないのです。それでも智彦は崇史との友情を保とうとこのような方法を選んだ。
崇史は激しい後悔と悲しみ、感動に胸が締め付けられます。自分の弱さと愚かさを突き付けられ、智彦の強さを知るのです。


以前から麻由子は自分の恋人だったという「世界」は、崇史に施された記憶改編によるものでした。智彦の昏睡をうけ、麻由子がそうしようと言い出したのです。
すべてを忘れてやり直しましょう――。
と。
崇史は苦しみからその提案に乗ります。しかし、後になって須藤たちが智彦の研究データを探すも見付からず、昏睡の直前にデータを崇史に託したのではないかという事になります。記憶改編された崇史を監視するため、麻由子は崇史と同棲します。麻由子が希望したことでした。

 

 

 

 

結末
「友情を壊さないで」とか言っている麻由子ですけど、真相が解ってみると、見方によっては麻由子が一番酷いことしているんじゃないかって気がします。
ずっとあやふやな態度とって智彦との肉体関係を拒み続け、結局崇史と関係を持って裏切り、智彦が昏睡状態になったら今度は崇史と恋人として幸せそうに同棲生活とする・・・・・・・なんなんだいったい

 

ラスト、崇史は「俺は弱い人間だ」と言い、麻由子は「わたしもよ」と言ってこの物語りは終わります。
何かときれい事を言っていた麻由子でしたが、実際は行動が伴わずに事態を悪化させ、最終的には「崇史との恋人生活」という欲望に負けている。崇史だけじゃなく、麻由子の人間的な弱さも明るみになる訳です。

 


智彦と篠崎は無事昏睡から目覚められるのか?全てを知った崇史と麻由子はこの後どうなったのか?今作は解らずじまいで終わっています。


運命的に恋に落ちた二人ですが、たとえ智彦が無事昏睡から目覚めたとしても、やっぱり何事もなかったように晴れて恋人になるなんて道はないだろうとは思います。個人的にはそうじゃないと駄目でしょうと言いたい。読んでいて終始智彦にばかり同情してしまっていたので、欲に負けて勝手な行動ばかりとった二人には怒りばっかり感じていましたから。

でもわかってはいます。「恋」だから誰にどう言ってもしょうがないのだということは(^^;)

 

そんな訳で、『パラレルワールド・ラブストーリー』は“ラブストーリー”を改めて思い知らされるお話でした。「恋」のキラキラした部分じゃなくて、「恋」によって明るみになる人間の弱さが描かれているものですね。
もちろんミステリー部分も面白かったです。やっぱり東野圭吾作品は謎を紐解いていく過程が読んでいて愉しく、次々とページをめくることが出来ます。


映画で気になった、恋愛謎解き小説に興味がある方は是非。

 

 

 

 

ではではまた~

 

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『塗仏の宴 宴の始末』ネタバレ・考察・人物相関

こんばんは、紫栞です。
今回は京極夏彦さんの『塗仏の宴 宴の始末』をご紹介。

文庫版 塗仏の宴 宴の始末 (講談社文庫)

『塗仏の宴 宴の始末』は百鬼夜行シリーズ】の七作目。

 

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『塗仏の宴』は二部作構成。シリーズ六作目の『塗仏の宴 宴の支度』が上巻で、今作『塗仏の宴 宴の始末』はその下巻となります。
※前作の「支度」についての詳細はこちら↓

 

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以下、「支度」について壮大にネタバレしていますので、「支度」を未読の方は必ず「支度」を読んでからお進み下さい。

 

 

 

 

 

 


あらすじ
世界が――少しずつ歪み始めた。

蓮台寺温泉で起こった裸女殺人事件。被害者は三ヶ月前の事件で一族のほとんどが死に絶えた織作家の唯一の生き残り・織作茜だった。
関口巽は “消えてしまった村”「戸人村」を探して静岡県韮山山中に居たはずが、気がつくと蓮台寺で木に吊された織作茜の遺体を眺めている状態で発見され、蓮台寺裸女殺人事件の容疑者として警察に拘束されてしまう。錯乱して何を訊いても譫言みたいなことしか云わぬ関口だったが、最初に現場に駆け付けた警官に「よく解らない。解らないんだけれども、多分僕がやった、そして、やった僕は逃げて行ったんだ」と口走ったらしい。
その頃、東京では榎木津礼二郎木場修太郎がそれぞれに行方知れずとなり、中禅寺敦子も何者かに連れ去られてしまう事態に。これには妖しげな宗教集団がそれぞれに関わっているらしく、青木・鳥口・益田の三人は右往左往して中禅寺秋彦に示唆を求めるが、中禅寺の反応は思わぬものだった――。
“消えてしまった村”「戸人村」。その村の「佐伯家」にあったという死なない生き物“くんほう様”とは一体何なのか。村人五十人鏖殺事件は本当にあったのか。この一連の騒ぎは“何”のためのもので、誰が起しているものなのか。
“参加者たち”は伊豆韮山に集結し、長い年月を掛けて支度された宴(ゲーム)は遂行される。

舞え歌え、愚かなる異形の世の民よ。
浄土の到来を祝う宴は、
――さぞや愉しいことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

宴の開催
前作『塗仏の宴 宴の支度』ではそれぞれに語り手が違う短編が六編収録で得体の知れぬ「宴」の支度完了までが描かれていましたが、

 

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下巻にあたる今作『塗仏の宴 宴の始末』は長編でいつも通り1000ページ以上を使って「宴」の本番と始末までが描かれ、前作の六編で散りばめられていた様々な謎が収束されていきます。

「支度」では、関口が逮捕された事件の被害者が『格新婦の理』の織作茜だったことが判明したところで終了。

 

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逮捕された関口同様、読者も困惑がきわまったところでこの「始末」にお話が持ち越される訳ですが、いざ「始末」に進んだら今度は木場と榎木津が行方知れずになり、敦子が変になり、関口は起訴される寸前だしで、事態は前作以上に悪化の一途を辿ります。


シリーズの主要人物達がモロに事件に巻き込まれていくという今までにない展開で「どうなっちゃうの?」てな心境に。シリーズが大きく動こうとしている予感がヒシヒシとしてきて、読んでいると言いしれぬ興奮をしてきます。「盛り上がってまいりました!」みたいな感じですね。後半の宗教団体たちが韮山に集結するシーンはまさに「宴」で「百鬼夜行」そのものです。

 

 

 


薔薇十字団
今作では語り手として村上貫一という刑事さんが序盤割と長めに務めています。関口が容疑者として逮捕されている蓮台寺裸女殺人事件を担当する刑事なのですが、この村上刑事は前作「支度」の「うわん」で登場した村上兵吉の兄で、“宴騒ぎ”の当事者の一人。貫一の家は養子の息子が本当の親の事を知ってしまい、家を出て行方知れずになり、奥さんは息子を見つけたい一心で「成仙道」に入信してしまうといった具合で、家庭崩壊の危機に陥っています。


他、ところどころで謎の人物の語りが入ります。黒幕の視点ですね。

 

中盤から青木、鳥口・益田の三人が色々と行動して頑張っています。木場や榎木津、敦子が行方不明になることで、この三人が不安でアタフタする訳です。青木ら三人は今作での頑張りからファンの間で「下僕三人組」「三馬鹿」と通称が与えられるように。

「(略)トリ頭に馬鹿オロカにコケシ顔が並んでいる!こんな連中に主役が張れるとでも思っているのか馬鹿者。百年早いぞ。三人合わせて三百年早いぞ!」

上記は榎木津の御言葉。いきなり登場していいとこかっさらっていきます(いつもの事かも知れませんが・・・)三人とも頑張っても主役は張れないようです(^^;)

 

途中、「あんたらは何者だ」と問われて鳥口が「薔薇十字団だ」と答えちゃいます。

「ば、薔薇十字――って」
「僕等は榎木津さんの下僕らしいし、探偵じゃないから探偵団とは云えないし――まあそんなところっすよ。いいでしょ――」

かくして、今作で「薔薇十字団」誕生。下僕の活躍にご期待下さい。
「薔薇十字団」については益田も十分に認識しているようで、『百器徒然袋』でも発言しています↓

 

 

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中禅寺の事件
今作『塗仏の宴』が前五作と決定的に違う点は、京極堂こと中禅寺秋彦が事件に対して傍観者ではないというところです。
中禅寺はいつもあえて事件に飛び込んでいこうとせず、傍観者に徹し、最後の最後に拝み屋として事件関係者の“憑物”を落すという役割を担っている人物。事件の当事者になってしまっては“憑物落とし”に支障が出るということで、弁えていつでも傍観者を貫いている訳ですが、今作では傍観者として一貫した態度でいつも鳥口たちを“ある意味”安心させてくれていた中禅寺の様子が何やらおかしい。それで中盤「下僕三人組」も不安をより一層深めてしまうのですが。

「僕は思うんだけどね鳥口君」
「何すか」
「今回の中禅寺さんは慥かに様子が違う。何が違うのか昨夜から考えていた。それで、もしやと思った」
「な、何を――」
「今回の事件はあの人の事件なんだ」

実は今回の中禅寺は事件の当事者。
織作茜が殺されたのは中禅寺が先の事件で関わったから、関口が犯人に仕立てられたのは中禅寺の知人だから、敦子が「気道会」の襲撃を受けたのは中禅寺の妹だから。これは、“ある人物”からの「ゲームには手を出すな」という中禅寺に宛てたメッセージで、当て擦りの嫌がらせなのです。

何のいわれがあってこんな嫌がらせを受けねばならないのか。ここで出て来るのが戦時中に中禅寺が所属し、精神誘導・生命などを研究していた「陸軍第十二特別研究所」。シリーズ二作目魍魎の匣

 

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美馬坂教授が研究者の一人として所属し、中禅寺が「嫌だったんで真面目にやらなかった」と云っていた“アレ”です。
そして、極めつけに姑獲鳥の夏で中禅寺が“呪った”内藤赳夫が登場します。

 

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佐伯家・陸軍第十二特別研究所
ネタバレもネタバレになりますが、『塗仏の宴』って真相は佐伯家の人々が“皆が皆、実際にはそんな事件は起こっていないのに、自分が家族を殺し、「村人五十人鏖殺事件」を実行した犯人だと催眠術で思い込まされていた”というモノで、規格外ではありますが(規格外なのはいつものことですが)結構解りやすい真相なんですけども、佐伯家の人々がゲーム「宴」の為にやらされていた宗教団体と名称・・・これが、人数が多い分こんがらがるので(^^;)自分用も兼ねて一覧でまとめたいと思います。

 

佐伯家
●佐伯癸之介-佐伯家当主 「韓流気道会」会長・韓大人
●佐伯初音-癸之介の妻 自分を襲った甚八を殺害。その後、身籠もって出産後に死亡。
●佐伯甲兵衛-癸之介の父 「成仙道」指導者・曹方士 
●佐伯乙松-癸之介の弟 「徐福研究会」主催者・東野鉄男
●佐伯亥之介-癸之介の息子 「太斗風水塾」南雲正陽
●佐伯布由-癸之介の娘 「華仙姑処女」
●佐伯玄蔵-佐伯家の分家 「条山房」の「長寿延命講」主催者・張果老(通玄)
●佐伯甚八-玄蔵の息子 初音に殺害される。
●岩田壬兵衛-玄蔵の父(佐伯家から勘当されている)「みちの教え修身会」会長・磐田順陽
●雑賀笙-初音が甚八に襲われた後に出産した子 「藍童子

 


次に佐伯家の面々に世話役として付いていた元「陸軍第十二特別研究所」の三人。

刑部昭二「成仙道」の布教者として曹方士(佐伯甲兵衛)に付く。
岩井崇「韓流気道会」師範代として韓大人(佐伯癸之介)に付く。
宮田耀一-漢方薬「条山房」で働きながら張果老(佐伯玄蔵)に付く。

●元内務相特務機関山辺班・尾久国誠一(雑賀誠一)
薬売りとして催眠術を使って暗躍しながら華仙姑処女(佐伯布由)に付く。童子(笙)を息子として育てていた。

 

他、「陸軍第十二特別研究所」の一員とは無縁ですが、南雲正陽(佐伯亥之介)には羽田隆三の第一秘書で東野を恨むように仕向けられた津村信吾が。
東野鉄男(佐伯乙松)には羽田隆三の財力が割り振られています。(※羽田隆三自身は「宴」とは関わりはない)


磐田順陽(岩田壬兵衛)には世話役とか付いてないのですが・・・韮山に土地を持っている加藤只次郎と懇意だし、別にいっか~って感じなんだろうか・・・?

 

一覧だけでもこんがらがりますが、作中ではこれらの人物相関がさらに巧妙に入り組んで描かれています。こんなに多くの事柄を計算ずくで書ける著者の手腕にただただ感服しますね。私はこの一覧を書いただけで頭が痛い(笑)

 

堂島静軒
記憶を好き勝手に改竄して人の人生を弄ぶ、非人道的で悪趣味な「宴」。この「宴」の仕掛け人で今作の黒幕は堂島静軒(どうじませいけん)。
堂島は元帝国陸軍大佐で「陸軍第十二特別研究所」では中禅寺、美馬坂、刑部などの上官だった男で、現在は表向き郷土史家を名乗っています。陸軍時代、中禅寺は「堂島大佐の懐刀」なんて云われていたらしいですが、中禅寺は堂島の本性を知って途中で離れたんだそうな。めっちゃ嫌ってます。堂島の方は未だに中禅寺のことを評価している様子ですが。

 

百鬼夜行シリーズ】にこんなラスボス的な人物が登場するとは・・・って感じでシリーズファンには初読だと結構な驚きがあるかと。堂島は戦時中、中国大陸で相当えげつないことをしていたようで、榎木津が過去を“視て”「こ――この化け物め」と云って後退りした人物。
あの榎木津が後退りするんですよ?もうこれだけで遣ってきた事の酷さが解りますよね。

 

堂島静軒は善く響く低い声と、真っ白い和服に籠目紋が入った小豆色の羽織り姿という出で立ちで、「この世には不思議でないことなどないのです」と嘯く人物。
モデルがいるのかどうか不明なんですが、これらの事柄から中禅寺とは対極に位置する人物としての印象が強いですけども、実は中禅寺も堂島も云っている事の根本は同じなんですよね。
中禅寺の「この世には不思議なことなど何もない」というのは、この世の全ての事柄・事象を知っている訳でもないのに、解らないからって気安く“不思議だ”と云ってかたづけるな。みたいな意味で、云い替えると「この世の中、何が起こっても当たり前だ」というスタンスでの発言なんですよね。だから榎木津の目の事とかも別段驚いたりしないよ~っていう。
堂島の「世の中の現象全て不思議と云えば皆不思議だ」の発言も「何が起こっても当たり前だ」という、同じ内容の発言です。云い方を替えているだけ。
巷説百物語シリーズ】でも出て来る「世に不思議なし、世凡て不思議なり」ですね。

 

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「それは貴様も同じことだ中禅寺。貴様のしていることと私のしていることは全く同じだ」
「ただ一つ違うところはな――」
「――貴様は愉しんでいないが」
「――私は――娯しんでいる」

同じなのに、何故堂島はこんなにも邪悪に見えるのか。それは愉しんでいるから。こんな非人道的で悪趣味なゲーム(宴)を企画したのも、個人的な娯楽の一貫。ただそれだけなんですね。
この愉しんでいるかどうかで人物の見え方が違うというのは『ヒトごろし』の土方と沖田にも共通していると感じる点ですね↓

 

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家族
佐伯家が崩壊したこともそうですが、今作「始末」では村上貫一を通して“家族”についても描かれています。
貫一や兵吉がいた村上家は、堂島などの企てによって崩壊させられたのですが、これが別に手荒なことをして崩壊させた訳ではなく、貫一にしろ兵吉にしろ、通常は上手くいくはずもない子供の突発的な家出をサポートしただけに過ぎません。

 

「(略)家族と云うものは実はどんな家族だっておかしいのだ。異常なのだ。でもね、家族が家族で居るうちは、それは異常でもなんでもないんだ。だから――壊すのは簡単なことだ。先ず――第三者の視点を導入する。それだけで家族は変容する。観察することが対象に変化を齎す。そうすれば――後はそこから生まれる差異を増幅させれば済むことだ」

 

「親を憎まぬ子は居ない。子を疎ましく思わぬ親も居ない。また親を敬わぬ子は居ないし、子を慈しまぬ親も居ない。人の心と云うものは常に矛盾している」

 

どの家族も端から見れば異常。でも、家族内ではどんなことも平凡なことだと思っているし、親や子供に不満はあっても、経済的に自立が出来ない・体面を保ちたい・義理や恩がある・・・と、障害や囚われた思いがあり、それを疑問にも感じずに家族で居る。
家族を家族たらしめているのは、もちろん愛情もあるだろうけれども、こういった異常な部分やしがらみによるところが大きかったりする訳で。
三者に「あなたの家族は異常だ」と云われれば平凡な家族の日常は崩れ去り、親が体面を保つことを放棄し、子供が経済的な力を手に入れて、親も子供も一切の障害がなくなり個人の自由に生きるなら“家族”など要らなくなる。もっと云うなら、家族に世間一般の“正常だとされる概念”を完全に当てはめようとするなら、家族など最初っからないほうが良いのだということになりかねない。

 

「(略)家族を護って何の意味がある。国を護ることに意味がないのと同じだけそれは無意味ではないか。法を守ることに何の根拠がある。迷信を信じるのとどう違うと云うのだ。個性を主張し、性差を主張し、立場を主張し、そんな醜い世の中に何の救いがあるのだ。格差をなくせ段差をなくせと叫んで、概念の化け物のようになって生きることにどんな得があると云うのだ」

 

上記は堂島のセリフ。この作品は昭和二十年代後半が舞台ですが、“概念の化け物”というのは現代の社会を象徴しているように思えますね。近年はSNS が盛んになって晒される枠組みが大きくなったことで「正しさ」にかこつけ、度を超えるほどの主義・主張がうるさく叫ばれる世の中になっている気がします。まさに“概念の化け物”ですね。


と、読んでいて思わず堂島の意見に同調したくなったところで中禅寺の以下の切り返し↓

「それでは伺いましょう。意味があることにどんな意味があるのです?得があることや、救いがあることや、根拠のあることは、損をすることや救われないことや無根拠なことより勝っていると云うのですか?そんなことはないでしょう。だから、あなたに兎や角云われる筋合いはない」

 

こんなこと云われちゃ、ぐうの音も出ない(゚Д゚)
あ、意味・・・なかった。っていう衝撃というか目が覚める思いというか。とにかく感銘を受けました。こういう驚きがあるから京極ファンは辞められない。さらに、この後の中禅寺の決めゼリフと榎木津の「そのとウりだ!」が爽快でシビれます。ジャジャーン!って感じ。

 

意味だのなんだの、別に必要ないんですよ。特に家族なんかにはね。

家族とは、きっと解決するものではなく継続するものなのだろう。

 

先輩刑事の有馬が貫一に「親子に本当も嘘もあるか!」と怒鳴るシーンも好き。この有馬刑事の名前、「有馬汎(わたる)」ですが、水木しげるさんの作品にも同じ漢字表記で「有馬汎(ぼん)」という学者が登場しているらしいです。

 

 


主要人物達の見どころ
今作は中禅寺が事件の当事者の一人ということで、中禅寺の人間くささが垣間見られるし、今までになくマジギレしていて怖い。怖いけどもカッコいい。こわカッコいいですね。「軽はずみに催眠術なんか使う奴は――二流だよ」や、「ただで済ませるさ。僕を誰だと思っている」や、「あのな坊や。勘違いするなよ」などのセリフがシビれます。※私は中禅寺ファンです。


そして今作はですね、榎木津の有り難みを強く感じるお話となっております。京極堂の座敷に榎木津が登場してからの空気の変り方が凄いです。絶望感漂う雰囲気を一発で粉砕してくれます。中禅寺を唆すシーンは必見です。友人思いな榎木津。
石橋を叩いて渡らない本屋、石橋を叩いて落ちる関、石橋を叩き壊す馬鹿修、石橋なんぞ叩きもしないで飛び越える探偵
と、いう例えが凄くよく言い得ていて可笑しいです。

韮山山中での榎木津と木場との闘いも必見ですね。


木場といえばお潤さん。やっぱり木場のことが・・・木場、モテモテですね。シリーズの登場人物達のなかで一番モテていると思う。本人は気がついてないけど。お潤さんと中禅寺の会話が大人な雰囲気(?)で少しドキドキします。鳥口は中禅寺が女を口説いてる姿は想像出来ないと云ってましたが、中禅寺が本気で口説いたら何かヤバそうだな、と、お潤さんとの会話で思いました。
都合により関口が不在ですが、普段はあまり描かれない雪絵さんの心境や、敦子を巡るアレコレとか、朱美の相変わらずの啖呵の切り方とか、今作から新加入の河原崎松蔵とか※河原崎さんは『百器徒然袋』にも登場します↓

 

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見どころ一杯でもう云いきれない・・・(^^;)とにかく全てが必見です!

 

 

第一期完
気になる堂島静軒ですが、最後、中禅寺に「今後は一切の手出し無用だ。解ったな――」と云い残して、藍童子を連れて姿を消します。今後も何かしらの形で黒幕的立場を発揮しそうな予感を漂わせつつの退場ですね。藍童子もまた登場するのかな?

シリーズ最大の敵っぽい人物の登場をもって【百鬼夜行シリーズ】の第一期は終了。否が応でも今後に期待してしまうところですが、果たしてどうでしょう。※シリーズ九作目の邪魅の雫で少し関係してくるんですけどね。

 

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いやいや、まだまだこんなもんじゃなでしょうと。直接対決に期待。

 

シリーズ第一期のクライマックス、ファンなら読み飛ばすことの出来ない必読の書ですので是非是非。

 

 

 

 

文庫版 塗仏の宴 宴の始末 (講談社文庫)

文庫版 塗仏の宴 宴の始末 (講談社文庫)

 

 

 

ではではまた~

 

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