夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

祝!「金田一少年の事件簿」5代目新作ドラマ!!

こんばんは、紫栞です。

金田一少年の事件簿』の新ドラマが2020年4月から放送されることが発表されましたね!

5代目の金田一一役は道枝駿佑さんで、日本テレビ系の日曜夜10時30分枠での放送となるようです。昔はジャニーズドラマといったら日テレ土曜枠のイメージが強かったんですが(同世代の人は分ってくれるはず)、今回は日曜枠なんですね。『金田一少年の事件簿』は夏ドラマのイメージも強いのですが(ちょっとホラーちっくだからか?)、今回は4月。ひょっとして新学期から始まる設定なのか?

 

前に歴代ドラマをまとめた記事で「5代目は果たしてあるのか?」って事を書いていたのですが↓

 

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まさか本当に実現するとは。

原作は37歳になっちゃっているので、少年時代の方はもう連ドラはないかな~とか、勝手に望み薄な気になっていた。原作も今度30周年を記念して、短期連載で高校生時代を復活させるみたいですけどね。

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ドラマ化は4代目の山田涼介さん主演作から約8年ぶり。今回主演を務める道枝駿佑さんは、元々この山田涼介さん主演の『金田一少年の事件簿N(neo) 』の作品ファンらしく、ジャニーズ事務所入りのきっかけにもなっているのだとか。作品に思い入れがある役者さんにやってもらえるのは嬉しいですね。

 

私自身が原作からではなく、初代の堂本剛さん主演ドラマからファンになったクチなので、『金田一少年の事件簿』に関しては役者さんの容姿などは原作によせてなくても良い派。普段はおバカキャラで、じっちゃんを誇りに思っている設定は変えて欲しくないですが。

そういや、現在高校生の祖父が金田一耕助って、もはや世代的に無理があるのか?曾祖父設定が自然?発表されたニュース記事によると、やっぱり今回も祖父で通すようですが。「ひいじちゃんの名にかけて!」じゃ、ちょっときまりませんもんね(^_^;)。そこら辺はぼかしていくのか。

 

4代目の演出を手掛けた木村ひさし監督が今回も演出で参加するらしいので、2代目3代目の時のような大胆な改変はせず、初代の雰囲気を受け継ぐものになっているのではないかと思います。衣装の制服が同じなのが初代ファンからするとテンションが上がる。

 

初代の演出を担当した堤幸彦監督の元助監督である木村ひさしさんが担当したとあって、4代目は初代に原点回帰したものになっていて良かったのですが、扱う事件が原作の後期のものだったため、初期より内容がライトになっているのが残念だったのですが、今回のシリーズでは

 

「数多のエピソードの中からえりすぐりのエピソードを現代の視点で再構成し、日本ならではの呪いや怪談を題材にしたミステリーが、シリーズ史上最大のスケールで描かれる」

 

らしいので、初期の事件もやってくれるのかと期待。“日本ならではの呪いや怪談”というと、「雪夜叉伝説殺人事件」「首吊り学園殺人事件」「飛騨からくり屋敷殺人事件」「天草財宝伝説殺人事件」とかですかねぇ・・・?異人館村殺人事件」も日本的ですけど・・・これはまぁ無理ですね。やったらそれだけで賞賛する。

 

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他キャストがまだ発表されていないので何とも言えないのですが、高遠さんを出すかどうかでシリーズ構成が左右されるかなと。個人的に「魔術列車殺人事件」をやり直して欲しいけど・・・どうなのでしょう(^^;)。原作では人気があるのに、ドラマでは無視されがちな明智警視が出るのかも気になるところ。

 

“シリーズ史上最大のスケール”という文句も気になりますね。最大の予算で制作してくれるのだろうか。欲をいえば、37歳に繋がってくれると嬉しいんですけどね・・・。

 

なにはともあれ、楽しみに待ちたいと思います。

 

 

ではではまた~

 

『ライ麦畑でつかまえて』は何が「人気」「怖い」のか?ネタバレ考察

こんばんは、紫栞です。

今回は、『The catcher in the rye』について少し。

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

 

永遠の青春小説

『The catcher in the rye』は1951年に出版されたジェローム・デイヴィッド・サリンジャーの長編小説。日本だと野崎孝さん訳によるライ麦畑でつかまえてというタイトルで有名ですね。内容は分らなくとも、この日本語タイトルだけは知っているという人も多いかと思います。長らくこの野崎孝さん訳によるものが君臨していましたが、2003年に村上春樹さん訳のものが同じ白水社から刊行されまして、今手に入れやすいのは村上春樹翻訳のもののほうになっているかなと思います。

 

 

私は「ライ麦畑でつかまえて」って書かれたあの有名な青い本の方でどうしても読みたかったので、野崎孝翻訳のものを読みました。

 

 

若者に絶大な支持を得るなか、アメリカでは学校の図書室から追放、禁書扱いされ、80年代にはジョン・レノンを殺害したマーク・チャップマンが警察に捕まるまで殺害現場で読んでいて、法廷で作中の一節を読み上げたこと、レーガン大統領殺害未遂事件を起したジョン・ヒンクリー、女優のレベッカ・シェイファーを殺害したロバート・バルドもこの本を愛読書にしていたなど、よろしくない話題も手伝って売れ続ける作品であり、近年の日本では、攻殻機動隊S.A.C』『サイコパス』『バナナフィッシュ』『天気の子』など、数々のアニメ作品で題材として使われてまた興味を持たれるようになりました。

 

私も、既に若者ではないのにこの青春小説を読もうと思ったのは『攻殻機動隊』や『バナナフィッシュ』を好きで観ていて気になったからなんですが(^_^;)。読んだ後だと、『攻殻機動隊S.A.C』には特に多数の引用があるのに気がつく。赤い帽子とか、秘密の金魚とか、左利き用のキャッチャーミットとか・・・。全体を通して描かれる笑い男事件」の“笑い男”もサリンジャーの短編小説からとられていますしね。

『バナナフィッシュ』は最終回のサブタイトルが「ライ麦畑でつかまえて」になっていて、全体的にサリンジャーの小説を意識したものになっています。そもそも、『バナナフィッシュ』というタイトルも、サリンジャーの短編小説『バナナフィッシュにうってつけの日からとられていますし。

 

 

 

個人的に、一話のサブタイトルが「バナナフィッシュにうってつけの日」で、最終話のサブタイトルが「ライ麦畑でつかまえて」なのが凄く洒落ていて良いと思う。

『天気の子』では、主人公がこの本を持ち歩いている描写があります。『サイコパス』は私、観られていないのですが、一期の最終回の決着場面がライ麦畑で、この小説から着想を得たものとなっているようです。

 

どのアニメ作品も、「社会全体と個人との対立」の象徴としてこの本が使われている感じですね。制作者側が影響を受けているってことなのでしょうが、その制作者が制作したものを観て、また影響を受ける人がいると。

そんな具合に、出版から70年以上経ってもなお、時代を越えて影響を与え続ける世界的ベストセラー、永遠の青春小説が、この『ライ麦畑でつかまえて』ですね。

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何が「怖い」「人気」?

タイトルだけだとどんな話か見当も付かないだろうと思うのですが、実はあらすじらしいあらすじは無いというか、「どんなストーリー?」と聞かれても、説明するのに困ってしまう内容になっています。

 

主人公は16歳の少年であるホールデン・コールフィールド。コールフィールドは西部の町にある病院で療養中、誰かに(もう読者にって解釈でいいのかもですが)去年のクリスマス前に体験した事を語っていく――訳なのですが、これが本当に脈絡もとりとめもなくって、成績不良で高校を退学処分になることとなり、スペンサー先生の家に行ってお叱りをうけるところから始まり、高校の寮の同室者・ストラドレーターや隣室者・アクリーと一悶着起したりした後、夜中に高校を飛び出し、ニューヨークに向かう道中でご婦人と話たり、着いたらナイトクラブで酒を飲んだり、おのぼりの女性グループにちょっかいを出したり、ベルボーイに娼婦を買わないかと誘われて応じたものの、気が滅入ってお喋りだけして帰したら、後で料金をぼられて殴られたり、女友達のサリーを電話で呼び出してデートするものの、突如の思いつきで「これから二人で田舎に行って自給自足の生活をしよう」と言ったら「非現実的なことを言わないで」と怒らせてしまい、ますます気が滅入ったので妹のフィービーに会おうと、両親に気がつかれないように家にこっそり帰ったりなんなりする。

 

と、ホールデンが思いつきでブラブラと気を滅入らせながら行動するのがダラダラと描かれる。普通、このようなまとまりのない文章を口語的文体で300ページ以上読者に読ませるのは難しいものですが、文章の上手さとホールデンの語り口調が妙に癖になってきてすんなり読めてしまいます。

 

しかし、この物語の何がそんなにウケているのか、なぜ人気があるのかというのは、読み終わってみてもよくわからない。ハッキリ言って、16歳のガキが社会や大人への不満をグチグチと語るのを延々読まされるだけですからね。

 

この本は今までに名だたる著名人や学者先生によって無数に考察されてきているので、今更どうこう言うのもアレなのですが、

 

 

 

誰でも大なり小なり共感できる主人公の心情と、“わからないけれども、わかる”ところが普遍の青春小説として読み継がれている所以なのかなぁと思います。

 

ホールデンは学校を退学処分になるのはこれが4回目。どの学校に行っても授業内容や教員、学校の方針などに批判的な態度を示し、反発心からボイコットしたりしてその度に放校になり、いつも親や教員を困らせる。社会に適合できない少年なんですね。

ホールデンからすると、大人や社会は“インチキ”だらけ。建前や礼儀的なものも欺瞞だと拒否するので、周りに溶け込めずに孤立していくと。

 

作中のホールデンほどではないにしても、「世の中が欺瞞だらけなんじゃないか」というのは、幼少期を過ぎて十代後半に入ってくると誰でも引っかかってくることなんじゃないかと思います。そういった事を受け入れて適応していくのが大人になる過程なんですけども、ホールデンはそんなふうに自分は染まっていきたくないと、16歳ながらに抵抗している訳ですね。このホールデンの心情がいつの時代の若者にも共感されるのだろうなと。

この本を読んで「つまらない」「中二病」といった感想を抱く人も多いですが、否定的な感想になるのは、いざ大人になってみて振り返ると恥ずかしくなってくるような”青春時代の痛々しい葛藤”を突き付けられるからじゃないかと思う。

 

殺人犯が愛読書にしていたことでも有名になった今作ですが、社会への反発心が強い人ほど共感してしまい、内容によくわからない部分が多いぶん、どうとでも都合良く解釈出来てしまうのが要因なんですかね。不満だらけのホールデンですが、社会に対して何かとんでもないことをしでかしてやろうなんてこともなく、むしろ切り離して自己に閉じこもろうとする内容なので、表面的には犯罪の誘発になるとは思えないのですが。共感のあまり「これは自分のことだ」となり、元々あった考えが全面的に肯定されているような気がして人によっては暴走してしまうのが、この本のとても怖いところなのか・・・も?

 

 

 

 

 

つかまえて

野崎孝さん訳による「ライ麦畑でつかまえて」というタイトルが日本ではもっとも親しまれている訳ですが、原題の『The catcher in the rye』は直訳すると「ライ麦畑で捕まえる者」となるはずなので、原題とは意味が変わってしまっている。訳者がこんな単純な間違いを大事なタイトルでするはずもないので、これはわざとそうしているというか、意訳ということになるのでしょう。

 

タイトルのライ麦畑が云々というのは、作中でのホールデンと妹のフィービーがする会話から採られています。

 

兄のことが大好きな幼いフィービーではありますが、ホールデンがまた学校を退学処分になったことを知り、呆れて「兄さんは世の中に起こることが何もかもいやなんでしょ」「兄さんはどんな学校だっていやなんだ。いやなものだらけなんだ。そうなのよ」と言い放つ。「そんなことない」と否定するホールデンに対し、フィービーは「じゃあ一つでも好きなものやなりたいものを言ってみなさい」と迫る。そこでホールデンが口にするのが以下の台詞。

 

 

「とにかくね、僕にはね、広いライ麦の畑やなんかがあってさ、そこで小さな子供たちが、みんなでなんかのゲームをしているとこが目に見えるんだよ。何千っていう子供たちがいるんだ。そしてあたりには誰もいない――誰もって大人はだよ――僕のほかにはね。で、僕はあぶない崖のふちに立ってるんだ。僕のやる仕事はね、誰でも崖から転がり落ちそうになったら、その子をつかまえることなんだ――つまり、子供たちは走っているときにどこを通っているかなんて見やしないだろう。そんなときに僕は、どっからか、さっととび出して行って、その子をつかまえてやらなきゃならないんだ。一日じゅう、それだけをやればいいんだな。ライ麦畑のつかまえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ。馬鹿げていることは知ってるよ。でも、ほんとになりたいものといったら、それしかないね。馬鹿げてることは知ってるけどさ」

 

社会や大人には反発心むきだしで否定し続けるホールデンですが、純粋で無垢な存在である子供に対しては全面的に肯定的。ライ麦畑が社会だとすると、ホールデンは社会から落ちそうになる子供をつかまえる役をやりたいと、そう言っている訳ですね。

しかし、読者からみても社会から落ちそうになっているのはホールデン自身に思える。作中でホールデンは「ライ麦畑で会うならば」という詩を「ライ麦畑でつかまえて」だと思いこんでいるし、ライ麦畑でつかまえると言いながら、その実誰かにつかまえてほしいと望んでいるのはホールデンの方なんじゃないか。と、いうのが訳者の野崎さんが「ライ麦畑でつかまえて」と意訳した理由で、読んでみて私もそう思ったのですが、この意訳は誤訳なんじゃないかという意見も多いんだそうです。なので、村上春樹翻訳版だと、タイトルはカタカナでキャッチャー・イン・ザ・ライになっている。

 

しかし、間違っていてもなんでも、ライ麦畑でつかまえて』というタイトルは素敵すぎる。日本人の心を絶妙にとらえて離さないタイトルで、このタイトルじゃなければ日本ではこんなに多くの人を惹き付けられなかっただろうと思います。

 

   

 

 

 

しまいこむ

何をしても空回り、信頼していたかつての高校の恩師・アントリーニ先生の欺瞞をも見てしまったホールデンはますます気が滅入り、誰も自分を知らないところに行って、耳が聞こえず、話すことが出来ない人間のふりをして、閉じこもって暮らそうと決意する。(『攻殻機動隊』で有名な「耳と目を閉じ、口をつぐんで~」という一節はこの部分から。野崎孝翻訳より村上春樹翻訳の方が近い訳となります)で、妹のフィービーにお別れを言いに再度会いに行くのですが、フィービーはホールデンと一緒に行くと言い出す。拒否するホールデンとフィービーは一時険悪な空気になり、ホールデン「どこにも行きやしない」とフィービーに約束し、一緒に動物園に。雨の中、回転木馬に乗ってぐるぐる回り続けているフィービーを眺めていると、ホールデンは突然、とても幸福な気持ちになる。

 

ここまででホールデンの“去年あった出来事”の語りは終わりとなっています。この後、フィービーと約束した通り家に戻ったものの、病気になって病院で療養することになったのだけど、その過程を語る気はないというのですね。で、今まで語ってきたことをどう思っているのかは自分でもよくわからない。「僕にわかっていることといえば、話に出てきた連中がいまここにいないのが寂しいということだけさ」だから、「誰にもなんにも話さないほうがいい」と語ってこの物語は終わります。

 

主人公で語り手のホールデンが「わからない」と言っているように、読者もこの物語を読んでどう思ったらいいのかはよくわからない。わからないけれども、その“わからない”のがわかるって感覚が深く心に残る小説。

 

最後のホールデンの言葉もそうですが、作中では何度も「しまう」的な表現が出て来る。想っていることでもなんでも、言葉にしたり他人に見せたりして外側に出してしまうと嘘や“インチキ”になるといった具合です。

 

病院で療養中であるとされるホールデンですが、作中でハッキリと明言されてはいないものの、ホールデンは何らかの精神病を患って入院しているらしいと見受けられる。語り口も行動も情緒不安定な人物のソレだって感じで、最初サリンジャーが原稿を持ち込んだ出版社には「主人公が狂人の本は出版できない」と突き返されたらしいです。この小説を書いていた頃、サリンジャーは戦争帰りで、今でいう戦争後遺症に苦しめられていたようで、この小説にもその影響が強く出ているのかと。この本がベストセラーになった後、サリンジャーは本を数冊出したものの、人気絶頂の中で表舞台から姿を消してひっそりと暮らしたのだそうです。※伝記映画も出ています↓

 

 

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このような作者の在り方からも、「社会を拒絶し、自己に閉じこもって生きる」という姿勢が貫かれている気になってくる。本物で純粋なものを“そのまま”にしておきたいなら、そうするしかない。大事にしまっておくしかね。

 

 

エンターテインメント的な面白さとはかけ離れた小説ですが、読んでみて良かったと思っています。本当の青春時代に読むと、人によっては引きづられすぎてしまう危険性がある気もするので、大人になってから読むのこそオススメかもしれません。

読めば上記したアニメ作品への解釈も深みが増すと思いますので気になった方は是非。

 

 

ではではまた~

 

ドクター・ホワイト 原作小説 3冊まとめてネタバレ紹介!

こんばんは、紫栞です。

今回は、樹林伸さんの『ドクター・ホワイト』のシリーズ三作品をまとめてご紹介。

ドクター・ホワイト 千里眼のカルテ (角川文庫)

 

ヒットメーカーが描く医療小説

【ドクター・ホワイト】は圧倒的な医療知識を持つ身元不明の謎の美少女・「白夜」が、その脅威の診断能力で次々と病を見抜き、命を救っていく医療小説のシリーズ。2022年1月にカンテレ・フジテレビ系でこの作品を原作とする連続TVドラマ放送が決定しています。

作者は漫画原作者として有名な樹林伸さん。複数の名義で活動しているのでピンとこない人もいるかもしれないですが、金田一少年の事件簿』『探偵学園Q(天樹征丸名義)、『サイコメトラーEIJI』『クニミツの政』『シバトラ(安童夕馬名義)、GetBackers- 奪還屋-』(青樹佑夜名義)、BLOODY MONDAY(龍門諒名義)、神の雫(亜樹直名義)、などなど、“樹林伸”で調べると羅列されているヒット作の数に驚愕すること必至の、とにかく凄い人です。

元々は講談社の社員として漫画編集者をしていたので、“講談社のヒットメーカー”として有名でした。原作を手がけた漫画作品はすべて映像化されるみたいな勢いでしたね。1999年に講談社を退社し、作家として独立しているのですが、今でも講談社との関わりは強いです。

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漫画原作だけでなく、小説家としても作品も数冊刊行されていまして(漫画原作だけでも忙しいでしょうに、いつ書いてるんですかね・・・^^;)、今は【ドクター・ホワイト】も安東鵙さんによって漫画化されていますが、

 

 

これは漫画の原作としてではなく小説作品として書かれているシリーズ。漫画原作を手がけたものは今まで散々ドラマ化されてきた樹林さんですが、小説作品がドラマ化されるのは今回が初なのだとか。

 

私は『金田一少年の事件簿』のファンで、樹林さん(天樹征丸)のノベライズも読んでいて若干親しみがあったので、今回ドラマ化されると聞いて読んでみました。

 

 

 

 

 

 

各本、あらすじ・解説

 

【ドクター・ホワイト】のシリーズは2021年12月現在で3冊刊行されています。

 

本に番号が書かれていないので間違いやすいかもしれないですが、やはり順番通りに読むのが大事なので要注意。

では、一冊ずつ刊行順にご紹介。※以下、ネタばれを含みます~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドクター・ホワイト 千里眼のカルテ』

 

 

霧に覆われた早朝の井の頭公園で、出版部の編集者・狩岡将貴は全裸に白衣のみを纏っている18~19歳ほどの少女と遭遇する。倒れた少女を、幼馴染みの高森麻里亜のいる高森総合病院へと運んだ将貴だったが、少女は目覚めても「白夜」と名前を名乗るのみで素性を一切明かさない。しかし突如、医者も驚くほどの医療知識と嗅覚で将貴の胃痛の原因を言い当ててみせた。その後も高森総合病院で白夜は次々と驚きの診断能力を発揮して誤診を指摘し、麻里亜の父である高森病院長の抜擢で診断協議チーム「CDT」のメンバーとなる。

経営危機のため、ベンチャー・キャピタル『JMA』が派遣してきた医師たちと衝突しながらも、「CDT」に持ち込まれる謎の病を白夜は解き明かしていく。彼女は一体何者なのか――?

 

全4章。連作短編風味。各章でそれぞれ謎の病が出てきて、白夜が診断していくというストーリー。後の2冊は最初から文庫での刊行なのですが、この本には単行本もあります。

 

 

真っ白な肌をした美少女で名前以外はすべてが謎に包まれた白夜。彼女は豊富な医療知識と、常人よりも鋭い五感で驚異的な診断能力を発揮するが、他はてんで物知らず。一般常識どころか“外の世界”自体が初めてといった、まるで赤ん坊のような状態。将貴はそれが今まで外界とは遮断された環境で医療知識だけ教え込まれて育てられたからではないかと考える。警察に届けたら白夜が晒し者にされてしまうのではないかと危惧し、親戚の子ということにして妹と一緒に住んでいる実家でいったん引き取ることに。ちょっとお節介すぎるだろうって感じですが、ジャーナリストとして興味が湧いたのが半分ってことらしい。

 

あらすじを読んで皆が気になるのは、医師免許を持っていない十代の小娘である白夜が診断チームに入っていいのかってことだと思うのですが、医療行為をする訳ではなく助言するだけだから、大丈夫だということです。・・・ちょーと、どうなのソレってなりますが・・・ま、ここは流しておきましょう(^_^;)。

 

白夜もさることながら、治療困難な動脈瘤持ちの将貴の妹・晴汝、派遣医師たちとの対立、天才医師でありながら数年前に行方知れずとなった麻里亜の兄・高森勇気…などなど、色々と壮大というか、長くなりそうな要素が詰め込まれている。この巻はとりあえず白夜の特異性を示すための連作短編となっている印象で、これらの要素に関してはほぼ解らずじまいで終わっています。

 

 

 

 

 

『ドクター・ホワイト 神の診断』

 

 

白夜が「CDT」のメンバーとなって1年が経過。神がかった診断で次々に患者を救うなかで、白夜は医大受験を目指して日々勉強をしていた。そんな最中、以前白夜の診断と提案された治療法によって命を救われた患者・日比野カンナが妊娠。カンナは高森総合病院の産婦人科で妊娠検査を受けて通院していたが、3度目の来院の際に経腹エコーで確認したところ異常が発覚。卵巣妊娠していることと、癌に冒されていることが判明する。子供をどうしても産みたいというカンナの為、白夜は癌の三大治療法――手術、抗癌剤放射線、以外の治療法で癌に挑む。

一方で、将貴は1年前に麻里亜の兄・勇気から託された『Rh null』のメッセージから、白夜についての謎を追っていた。すると、意外な事実が次々と浮かび上がり――。

 

今巻は連作短編形式ではなく、カンナの癌治療と白夜の謎を追う長編となっています。

ちゃんと医者になることを決意し、受験のため勉強に励んでいる白夜。身元不明なのに戸籍はどうするんだろうというのが疑問だったのですが、記憶喪失者として就籍許可の申し立てをして戸籍を作成したらしい。

癌治療についてかなり詳しく、教科書そのまま読まされているような感じで書かれているのですが、民間治療を推して抗癌剤についてはかなり否定的な描かれ方をしているので、何だか意見が一方に偏ってしまっている気も。鵜呑みにしちゃうと危険なんじゃないかとか、別の問題が発生するのではとか思っちゃいますね。

 

白夜をどっかしらの施設から逃がしたのが行方不明だった麻里亜の兄・勇気だったことが分かり、将貴が勇気から『Rh null』と書かれたメモを受け取ったところで前巻は終わっていました。この『Rh null』は非常に珍しい血液型のことであるらしく、将貴は友人の刑事・奥村淳平や麻里亜とともにこの血液型の人間を調べ始める。樹林さんは珍しい血液型ネタが好きなのか、他作品にもよく出してきますね。

 

前巻で長くなりそうだった諸々の謎ですが、この巻で急ピッチにすべて明かされる。

ちょっとビックリするぐらいの勢いですが、本の説明に「完結」と書いてあるので、完結作として書いたということなのか。3冊目が発売されているので、実質完結作とはなっていないのですが。

当初の予定では白夜の謎はもっと引き延ばす予定だったのではと思われるんですけどね。何か都合があってこんなことになっているのでしょうか。1冊で纏め上げているのは流石ですけどね。その分、カンナの癌治療の方が終盤では添え物程度になってしまっているのが残念。

 

 

 

 

 

『ドクター・ホワイト 心の診療』

 

 

白夜の出生の秘密がすべて明らかになってから5年が経過。実習生として高森総合病院に戻ってきた白夜は、さっそく研修医に急性アルコール中毒と診断された老バーテンダーの誤診を指摘。誰かに故意に危険な薬を摂取させられた可能性に気がついき、白夜は患者に心当たりがないか問い質すが、彼は殺されかけたにもかかわらず、その人物をかばって頑なに口を閉ざす。本当のことを聞き出すため、白夜は彼の病室に何度も足を運び、患者の心に寄り添おうとする。やがて、薬剤を使ったどんでもない犯罪が明らかになっていくが――。

 

こちら、2021年12月に発売された新刊です。前2作よりページ数は少なめで270ページほど。長編ですが、すぐに読めてしまうボリュームですね。

白夜の空中で本をめくる動作や「それ、誤診です」という台詞などが“オキマリシーン”っぽく、ドラマ化を受けて書かれたのかなという印象。

5年経過したということで、白夜もだいぶ人間らしい感情を露わにしてきていまして、患者と心を通わせていくのがメインテーマとなっています。今巻では明確な犯罪行為が描かれるとあって、一番ミステリ色が強い作品となっていますね。前巻で白夜の謎はすべて明かされてしまっていますので、本編が終わってからの後日談感が強いかもしれないですが、ミステリ好きな私はこの巻が一番読んでいて馴染みやすかったですね。

 

 

 

 

以上、2021年12月現在で3冊刊行。

 

 

 

 

以下、さらにガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医療エンタメ

欧米ドラマの『Dr.HOUSE』を発端として、近年では診断にスポットを当てた医療ドラマも日本で多く放送されるようになってきました。

【ドクター・ホワイト】も謎の病気を解明する一話完結ものかと思っていましたが、今作はカスパー・ハウザーの逸話から着想を得られたSF的要素と診断医療が掛け合わされた、今までにない医療エンタメ小説となっています。

シリーズですが、本によって趣が異なるのも読んでいて面白いです。ドラマではどこまでやるのか気になるところですね。

 

2冊目の『神の診断』で、白夜は有名な資産家である海江田誠の娘・朝絵の体細胞から造られたクローンであることが判明。

難病のALSを患っている娘の朝絵をなんとかして治してやりたいと願っていた海江田に、正体不明の医療犯罪組織が接近。脳移植によって健康な身体を与えようという計画を組織にもちかけられ、海江田は誘惑に乗ってしまう。そうして大金を費やして造られた朝絵の身体のスペアが、胚ナンバー108号の白夜だったんですね。

麻里亜の兄で天才医師の高森勇気は、スカウトされてこの組織に関わってしまった人物。勇気は脳移植がおこなわれる前に白夜を逃がし、妹のいる高森総合病院に運ばれるよう仕向けた。「白夜に何かしたら、組織の秘密を公表する」と告げ、勇気は組織から逃亡を続けているという訳です。

 

この設定はカズオ・イシグロさんの小説『私を離さないで』を彷彿とさせますかね。

 

 

私が読んだのだと、島田荘司さんの作品でもこの手のテーマ扱っていたなぁ~と。島田さんのは臓器のみのクローンを造って売買しているって話でしたけど。

 

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近年はこんな感じの空恐ろしくグロテクスなテーマも多いですね。ま、医療が進歩しているからなのでしょうけど。

 

このような大掛かりな(?)要素を入れているため、小説ですと診断チームのメンバーの描写が浅めになってしまっているので、ドラマでは登場人物の掘り下げに期待したいですね。

 

後気になることとしては、将貴の白夜への恋心。インモラルだと感じつつも、惹かれてしまっていると。妹と白夜と三人で暮らしながら、密かに思いを募らせています。いまだに成就はしてないんですが。

個人的に、三十代男性が十代女子に恋するというのは「ちょっと・・・」と、なってしまう。特に白夜は特殊な環境で育ったせいで中身は赤ん坊同然だしねぇ(^_^;)。

 

犯罪医療組織に関しては世間への告発も逮捕も出来ていないし、勇気もいまだに逃げ続けている状態ですので、シリーズはまだ続くかもしれないですね。ドラマとともに、小説の今後にも期待したいと思います。

 

 

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ではではまた~

 

 

 

 

 

 

『一ノ瀬ユウナが浮いている』感想 乙一による純愛小説!

こんばんは、紫栞です。

今回は、乙一さんの『一ノ瀬ユウナが浮いている』を読んだので感想を少し。

一ノ瀬ユウナが浮いている (ジャンプジェイブックスDIGITAL)

 

あらすじ

線香花火だ。

闇の中に散る、光の残像。

俺の横に、彼女はいて、線香花火を見つめていた。

その記憶が蘇る。

火球が落ちると、暗闇になった。

 

一ノ瀬ユウナが浮いていた。

 

一七歳の夏、一ノ瀬ユウナは水難事故でこの世を去った。彼女と幼馴染みで想いを寄せていた遠藤大地は、大きな喪失感と気持ちを打ち明けられなかった後悔で、廃人同然の精神状態で日々を過していたが、年末に一念発起して部屋の掃除をしていた際に、手持ち花火を発見する。それは、ユウナと「今年も花火をしよう」と約束して夏に買い込んでおいた花火だった。

晦日の夜、大地は一人弔いをしようとユウナのお気に入りだった線香花火を灯す。すると、死んだはずのユウナが水難事故にあった当時の様子のまま、水中に浮いているような常態で大地の前に現われた。

どうやら、ユウナの姿が見えるのは大地だけで、彼女を呼ぶ出すことが出来るのは同じ線香花火を灯したときだけらしい。大地はユウナに会うため、何度も線香花火に火をつける。しかし、ユウナを呼び出せる線香花火はもう製造中止になったもの。彼女に会える回数は限られていた――。

 

 

 

 

 

 

『サマーゴースト』の姉妹作

『一ノ瀬ユウナが浮いている』は2021年11月に発売された乙一さん書き下ろしの長編小説。10月に発売された映画のノベライズ『サマーゴースト』に続いての、乙一小説二ヶ月連続刊行です。

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“『サマーゴースト』の姉妹作”と謳われている今作。単行本の装画も『サマーゴースト』の監督でイラストレーターのloundrawさんによるもので関連性を感じさせますが、物語として共通しているのは「花火と幽霊」がモチーフで、線香花火を灯すと簡単に降霊術(?)が出来るというところのみ。ストーリー上の繋がりはまったくない、独立したものとなっています。

 

『サマーゴースト』は「死」を巡る青春小説となっていましたが、こちらの作品は幽霊がらみの恋愛青春小説。ページ数は200ページほどで『サマーゴースト』より若干ボリュームがありで、『サマーゴースト』は原案がloundrawさんでしたが、こちらは乙一による完全書き下ろし小説ということもあり、『サマーゴースト』よりもより“乙一感”は強くなっている印象。乙一というより、中田永一名義の時の作品感に近いかもですが。

 

 

始めから終わりまで、すべてがせつなく哀しい純度100%の初恋物語となっています。

 

 

 

 

 

 

以下、少しネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

「死」によって分かたれた二人 

まだ恋人関係ではなかったものの、お互いに好意を寄せていて、一緒に東京の大学に行こうと約束もしていた友也とユウナ。

告白するぞ!と、思っていた矢先にユウナが突然死んでしまったとあって、友也は悲しみに暮れて茫然自失の状態となる訳ですが、線香花火を灯すと自分にだけ見えるユウナと会えると分かり、生前に読んでいた漫画の続きが出たとか、何かと口実を見つけては線香花火を灯してユウナを呼び出すことを繰り返していく。これによって表面上の情緒が安定し、親や友人からは「ユウナの死を乗り越えられたんだ」と安心されるのですが、幽霊と会い続けるのがまともな状態であるはずもない。

 

(略)俺は前になど進んでいない。彼女の死を乗り越えてもいないし、日常にも戻っていない。定期的に死者を呼び出して語らうことが心の拠り所となっている。そうやって精神を安定させている。しかしその状態が健全であるはずがない。俺はそのことを理解している。

 

しかし、この非日常で非生産的かと思われた友也の行為ですが、高校時代には特にやりたいこともなかった友也は、この経験をしたことでやりがいのある仕事に就きます。そして、様々なところで周りにプラスの作用をもたらしていたりもする。

どんな状態であれ、生きている限りは少なからず周りに影響を与えていくことになるというのが、不毛なだけの恋ではないのだと思えて嬉しいような、生者と死者の違いが明確化されていて一層せつなくなるような・・・。

 

最後はやはり、ユウナとの確りとした別れが描かれてこの物語は終わっています。

乙一作品ですと何かしら仕掛けを期待してしまう読者が多いと思いますが、この物語はそのような細工もなく、直球で悲恋を描いていますね。幽霊との逢瀬ということで性的な部分はなく、本当に「想い」だけが描かれた純愛小説といった仕上がり。

 

とはいえ、不思議な現象でもルールがきちんと決められていたり、会話に少し独特の可笑しさがあるのは乙一ならでは。ユウナは漫画家志望だったということで、集英社、特にジャンプネタが多いのが楽しかったですね。死んだら漫画や小説の続きが読めなくなってしまうって、人によってはくだらなく思えるかもしれないけど当人にとっては切実なのよね・・・(-_-)。

 

『サマーゴースト』もそうですが、冬に発売されたのはちょっと季節はずれな感じで、夏にまた読みたい作品ですね。

気になった方は『サマーゴースト』と合わせて是非。

 

 

 

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ではではまた~

『サマーゴースト』小説 ネタバレ・感想 乙一によるノベライズ本!

こんばんは、紫栞です。

今回は乙一さんの小説『サマーゴースト』をご紹介。

サマーゴースト (ジャンプジェイブックスDIGITAL)

 

あらすじ

郊外の県境にある、閉鎖されたかつての飛行場跡地。その敷地に忍び込んで遊ぶ若者たちの間で、数年前から【サマーゴースト】と呼ばれる都市伝説が囁かれはじめた。夏にこの場所で花火をすると、自殺した若い女性の幽霊が現われるというのだ。

ネットを通じて知り合った、友也・あおい・涼、三人の高校生は、【サマーゴースト】に会うべく花火を持って飛行場跡地を訪れる。彼らには“経験者”の幽霊に会って聞いてみたいことがあった。

死ぬってどんな気持ちですか――?

 

 

 

 

 

 

 

映画のノベライズ作品

こちらの小説、2021年11月に公開されたloundrawさん原案・監督のアニメーション映画『サマーゴースト』のノベライズ作品となっております。

 

映画の脚本は乙一が本名の安達寛高名義で書いているので、そのまま小説版を執筆ってことですね。複数の名義を使っていることで有名な乙一ですが、

 

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映画製作の時は本名の安達寛高名義でと決めているみたいです。近年の乙一は映画関連の活動が多い印象ですね。

 

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私はこうした製作過程を知らず、「乙一の新刊だー!」ってことで飛びついて購入したくちなので、元々の映画を観られていないのですが、映画は40分くらいの短編アニメーションなんだそうです。なので、この小説も150ページほどですぐに読み切れるボリュームとなっています。

近年は単行本の過程を踏まずに最初から文庫の形態で刊行されることも多いですが、この小説は単行本での刊行(文庫もそのうち発売されるとは思いますが)。単行本だと本の薄さが際立ちますね。

 

小説だけでなく、井ノ巳吉さんの手でコミカライズもされています。となりのヤングジャンプにて現在連載中で、既に1巻が発売中。

 

 

試し読みを読んだのですが、小説とはまた少し違った形で描かれていますね。小説は終始友也視点で「友也が主役」感が強く、あおいと涼の印象は薄めなのですが、漫画の方は三人の視点がそれぞれ描かれ、内面描写も深堀されて「三人が主役」の物語になっているなと。

三人が知り合ったきっかけが微妙に違っており、物語の導入部分なども大きく変更されているので、ひょっとしたら漫画版ではラストが映画や小説とは違うってこともあるのか、も・・・?

 

『サマーゴースト』の姉妹作として、乙一オリジナルの恋愛小説『一ノ瀬ユウナが浮いている』も続けて刊行されています。

 

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「姉妹作って何?」って感じでしょうが、「花火と幽霊」というモチーフが共通している作品ですね。

 

 

 

 

 

 

以下ガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死」と青春

あらすじに“ネットを通して知り合った”とありますが、実は、友也・あおい・涼の三人が知り合ったのは、自殺系サイトの掲示

 

あおいは高校でいじめられていて、家族もあおいに対して無関心で生きていくのがつらい。

 

涼は治療困難な病気で一年後までは生きられないと宣告され、痛みと苦しみで尊厳を失う前に、いっそのこと死んでしまおうと考えている。

 

友也は教育熱心な母親に好きだった絵を辞めさせられ、作品も道具も全部捨てられても文句も言えずに母親の機嫌を伺って従い続ける自分に嫌気がさし、疲れ切っている。

 

三人とも一年以内には自殺を決行しようとしている自殺志願者なのですが、なんせ死ぬのは初めてだし、死んだ後どうなるのかも知らないので、幽霊に会えるってんなら「死」の経験者として実際のところどうなのかを聞いてみようと、半信半疑ながらも【サマーゴースト】に会いに来た訳です。

 

三人が飛行場跡地で線香花火をしてみると、果たしてお目当ての【サマーゴースト】が噂通りの姿で出現。

【サマーゴースト】の生前の名は佐藤絢音といい、おどろおどろしいところもなく、普通に会話にも応じてくれて、問題なく意思疎通ができる。通常の人ならボンヤリとした姿を認識する程度にとどまるが、三人は自殺願望があって「死」に魅入られているので、絢音さんの姿がハッキリと見えて会話も出来るということらしい。

 

予定通りの質問をぶつけてみる三人ですが、絢音さんは「自分はさまよっているだけで他の幽霊に会ったこともないし、あの世があるかどうかも知らない」と言う。しかし、友也は【サマーゴースト】ともっと話をしたいという誘惑に駆られ、一人で花火を持って飛行場跡地に向かう。

呆れながらも、絢音さんは友也に幽体離脱して空を飛び回ったりするなどといった体験を楽しませてくれるのですが、別れしな、絢音さんは「私は自殺したんじゃない。殺されたの。遺体はまだ見つかっていないんだ」と告白する。

 

三年前、母親と喧嘩して家を飛び出した絢音さんは、夜道で車に跳ねられた。死なせてしまったと早合点したドライバーは、まだ生きていた絢音さんをスーツケースに押し込め、何処かに埋めてしまった。地中のスーツケースの中で絢音さんは力尽き死亡。遺体は見つからずに行方不明者扱いとなり、今も絢音さんの母親は娘が帰ってくるのを一人家で待ち続けている。

 

殺された人に、「自殺したいんで、どんな感じか教えて下さい」なんて聞いたとは、かなり失礼で腹立たしいことを友也たちはしたもんだって感じですが、絢音さんは怒りもせずに穏やかに諭してくれる。

 

最初は自分の遺体を見つけたくってさまよっていた絢音さんですが、実体のない自分にはもし見つけだせてもどうすることもできないと今では諦めていました。そこで、友也たちは絢音さんの遺体を見つけようと団結して奔走。結果、見事に発見することに成功する。

絢音さんの遺体は母親のもとへようやく帰ることができ、事件が明るみとなって犯人も逮捕。心残りがなくなったためか、絢音さんはもう【サマーゴースト】として飛行場跡地に出現することはなくなり、“次の場所”へと進んだ。

 

絢音さんだけでなく、ただ死ぬことばかりを考えていた三人にとっても、この幽霊との一夏の希有な体験は大いに影響を与えることとなりました。

 

あおいと涼は交際に発展し、涼は死ぬまで病と闘い続けた。最後に涼に「生きていてくれ」と頼まれたあおいは、辛い思いをしながらも学校に通っている。友也は母親に反抗し、受験を放棄。親元を離れ、美大を目指して浪人することに。

 

この物語は最初に友也・あおい・涼の三人で「あれから一年ぶりだね」と花火をやっているシーンからスタートしているのですが、ラストで、実はこのシーンの涼は生者ではなく「幽霊」なんだということが解る仕掛けになっています。

しかし、これはもう作中でそうそうに涼の余命について語られていてすぐに気づけますから、仕掛けというほどのものではないのかもしれないですが。

 

あおいにちゃんと最後の言葉が伝わっていたのかが気になって現われた涼ですが、話を聞いて安心。“死ぬまでは生きる”ことにした友也とあおいの魂は「死」から遠ざかり、それぞれの生きる場所へと戻ってこの物語は終わります。

 

 

簡単に言うと、幽霊と自殺志願者との交流物語である今作。重苦しそうな設定で、実際、友也と母親とのやり取りなどは息苦しく辛いのですが、爽やかで優しい、非常に後味の良いラストの青春物語となっています。

“白乙一全開の物語ですので、映画や漫画で気になった方は是非。

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

【最遊記シリーズ】 TVアニメ・劇場版・OVA 一挙まとめて紹介!

こんばんは、紫栞です。

峰倉かずやさんによる漫画作品である【最遊記シリーズ】が、『最遊記RELOAD-ZEROIN-』という名で2022年1月からTVアニメスタートされます。

私は原作ファン歴かれこれ17年ほどなんですが、この間「またアニメ化されるね~」と友達と話している最中、必然的に歴代のアニメシリーズの話題になったんですけど、数が多くてこんがらがってきまして。私達と同じような事態になってしまう方が他にもいるかなというのと、新規ファンの方にも簡単に最遊記シリーズのアニメ遍歴を把握出来ますようにとの願いをこめ、今回はこれまでの最遊記シリーズ】のアニメについてまとめたいと思います。

TVアニメ(幻想魔伝最遊記)コンプリートDVD-BOX

 

原作は来年で25周年。原作は現在も継続中なのですが、作者の闘病の関係などにより、25周年といっても原作の冊数はさほど多くありません。なので、TVアニメシリーズでやっても毎度原作のストックはすぐになくなるような状態なのですが、『最遊記』という作品自体に根強い人気があるので、数年おきに思い出したようにアニメ化されています。

 

最遊記シリーズ】はこれまでTVアニメシリーズが4つ、OVAが4つ、劇場版が1つ、制作されていまして、今回は一つずつ紹介していこうという訳ですが、アニメの説明を読む前に念頭に置いて欲しいのが

 

原作は『最遊記』(全9巻)→『最遊記RELOAD』(全10巻)→『最遊記RELOAD BLAST』(連載中で現在3巻)の順番でタイトルを変えて進んでいるということと、本編『最遊記』より500年前の出来事である前日譚最遊記外伝』(全4巻)があるということ。

 

アニメはアニメで別タイトルが付いているものもあるので、これを踏まえておかないとごっちゃになってしまいますから・・・(^_^;)。くれぐれもよろしく。

 

 

では、一つずつ年代順にご紹介。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OVA最遊記                                            

1999年発売。全2巻。

ドラマCDとの連動企画もので、初アニメ化作品。オリジナルストーリーで、なんか、イッチャってる科学者がジープ(白龍)に爆弾仕掛けたとか言って、どうする?ってな話。原案とキャラクターデザインは峰倉さんによるものです。

キャストは、玄奘三蔵高木渉/孫悟空岡野浩介/沙悟浄山寺宏一/猪八戒石田彰

と、今見ると色々と驚きのキャスト。

悟浄の山寺さんのキャスティングは、作者の峰倉さんが「悟浄の声は山寺宏一さんのイメージ」と言っていたら、そのまま出演してもらえたとのことで、『最遊記』4巻のあとがきで「言ってみるもんだ」と喜んでいました。その所為で、後に平田さんからチクチク言われてしまっていたようですが・・・。

 

まとめ紹介をしようというのにアレなのですが、実は私、このOVAだけは最後までちゃんと観てないんですよね。もう15年前ぐらいに、レンタルDVD借りてきて友達三人で上映会したんですけど、皆TVアニメシリーズのキャストで慣れてしまっていたので、あるキャラクターの第一声を耳にした瞬間、拒絶反応が出てしまって思わずリモコンの停止ボタンを・・・。それきり再生されることはありませんでした(^_^;)。ま、今となっては良い思い出ですね。

ストーリーは単発ものなので観ておかないと支障が出るなんてことはないのですが、原案が作者本人によるものでコレでしかお目にかかれないものですので、気になった方は観てみると良いと思います。TVアニメを観る前に・・・。

 

 

 

 

TVアニメ『幻想魔伝 最遊記

2000年4月~2001年3月まで、テレビ東京系列で放送。全50話。

前作のOVAからキャストを大幅変更。玄奘三蔵関俊彦/孫悟空保志総一朗/沙悟浄平田広明/猪八戒石田彰

以後、ずっとこの四人でキャストは固定されています。石田さんだけ前作から続投ですね。

放送当時、原作コミックスは6~7巻ぐらいまで刊行されていた状態での4クール全50話ですので、アニメオリジナルのストーリーが多く、後半はアニメオリジナルキャラクターで、天界にて哪吨の後任で闘神をしていたという「焔(ほむら)」が、三蔵一行に(主に悟空に)絡んでくるというのを主軸に物語が展開されていました。その関係で『最遊記外伝』の原作ストーリーも少しやりましたね。このアニメ放送時、原作漫画の外伝連載はまだほんの序盤部分でしたので、やったのは本当に最初の方だけですが。

元々2クールの予定だったものが途中で4クールに延ばされることになったらしいので、後半で大胆にオリジナルを持ってきたってことだと思われ。今のアニメ業界では1クールが主流になりつつありますけど、この当時のアニメは半年や1年やるのが通常でしたね。

アニメ完全オリジナルキャラクターであるものの、キャラクターデザインは峰倉さんによるものということもあって、焔は人気がありました。“逆輸入”で漫画本編に登場しないのかと期待の声もありましたが、今のところ原作漫画には登場していません。(外伝で焔らしき後ろ姿が1コマ描かれている箇所はありますが)

 

他、幻想魔伝で有名と言えば、作画崩壊ですね。ものの見事に崩壊していまして、見るに堪えない・・・と、いうか、失笑を禁じ得ない回が多数あります。実際は友達と一緒に爆笑していたんですけど。これも今となっては良い思い出ですね。

 

 

 

 

劇場版『幻想魔伝 最遊記 Requiem 選ばれざる者の鎮魂歌』

2001年8月公開。

2クールの予定を4クールに延ばしたのみならず、幻想魔伝は放送後に劇場版まで制作されました。当時の人気の高さをうかがえますね。

アニメシリーズの劇場版ではありがちな総集編だの再編集ものではなく、完全新作のオリジナルストーリーとなっていて、このお話を小説化したノベルス版も刊行されています。

 

怪しげなところに行って、怪しげな目に遭うというストーリー・・・って、いうと雑すぎる説明なんですけど、一言で言うと「三蔵のヤバイストーカー話」ですね。だから他三人はとばっちりというか。とばっちりはいつものことというか、常態が(?)そうなのかもしれないですけど。三蔵様モテモテなんですよ。困っちまいますね。

全体的に何故かミステリアスでホラーテイストな演出となっています。ま、内容もある意味ホラーではあるのですが。最遊記特有のコミカルな四人の掛け合いが少なく、ギャグシーンもほぼ無いのが個人的には残念な点。

劇場版とあって、流石に作画は安定しています。ホラーテイストですけどね。

 

 

 

 

TVアニメ『最遊記RELOAD

2003年10月~2004年3月まで、テレビ東京系列で放送。全25話。

今は一気見ブルーレイが出てる。ブルーレイだと全話1枚に収録できるんですね。凄い。

2年半ぶりの再アニメ化。勝手にもっと空いていた気になっていたのですが、2年半しか空いてないのですね。なので、原作も話数がさほど溜まっていない常態でして、アニメ開始時に刊行されていた漫画の『最遊記RELOAD』は2巻まで。タイトルこそ『最遊記RELOAD』となっていますが、原作のRELOADでのエピソードはこのアニメではほとんどやっていません。

ではどうしているのかというと、前半はほぼアニメオリジナルの一話完結型エピソードを続け、後半に幻想魔伝でやらなかった『最遊記』(以下、「無印」と表記)の終盤エピソード「カミサマ編」をヤマ場としてアニメのラストに持ってくるという構成になっています。

 

最遊記RELOAD』というタイトルなのに、RELOADの話はほぼやらずに無印時代の内容をヤマ場に使っている。ここら辺が原作とアニメで内容がこんがらがってくる原因ですね。

他、RELOADのアニメの特徴は次回予告後にミニアニメの「うら最」があるところですね。峰倉さんの書き下ろし脚本のものもあるので必見です。

懸念される作画ですが、「改善された~!」と、見せかけて「おや?おやおや~?」となる感じ。幻想魔伝よりはマシになってはいるんですけどね。お話によって差が激しいといいますか、ムラッ気がある。悟空以外の他三人が原作よりガタイがよくなっていたりする時があって、個人的にそれが凄く嫌でしたね(-_-)。

 

 

 

TVアニメ『最遊記RELOAD GUNLOCK』

2004年4月~9月まで、テレビ東京系列で放送。全26話。

こちらも一気見ブルーレイがある。

タイトルにGUNLOCKが付け足されていますが、放送枠が深夜に異動になったというだけで実質RELOADからの続きです。放送期間も空いていませんし、スタッフも一緒。アニメでRELOADをやっている段階では、2クール以上やるかどうかは視聴者さんの反応を見てだとDVDで関さんが言っていた記憶が。反応が上々だったのか、深夜枠で続けてやることになった模様。「GUNLOCK」がつくタイトルはこのアニメだけのもので原作にはないので、ここら辺もまたこんがらがる原因ですね。

内容は原作のRELOADをやる・・・と、いっても、やはり原作は巻数が1冊増えた程度なので、紅孩児たち関連のエピソード以外はほぼアニメオリジナル。後半で原作にも登場するヘイゼルが出て来て大きな流れとなっていく訳ですが、このアニメ放送時、原作ではヘイゼルはまだ登場したばっかり。なので、原作とは違ったアニメオリジナルの「ヘイゼル編」が繰り広げられています。

 

 

 

OVA最遊記RELOAD-burial-』

2007年~2008年の間に発売。全3巻(全5章)。

原作『最遊記RELOAD』の3~4巻に収録されているエピソードで、「埋葬編」と呼ばれる部分のアニメ化。烏哭、三蔵、悟空、悟浄と八戒、各章で、それぞれの思い出話が描かれる。

原作エピソードですが、TVアニメシリーズでは丸々やっていなかったためOVAでってことなのか。確かに連続アニメの途中でいきなり思い出話をやられたら流れが変になりますからね。1,2話で終わるお話じゃないし。

 

原作通りに、忠実に再現された作品となっていて画も今までになく綺麗ですが、各巻収録時間が短くってビックリする。値は張るのに…OVA ってそういうものなんですかね。今は5章まとめてブルーレイ1枚に収録されているものも発売されています。

 

 

 

 

OVA最遊記外伝

2011年~2012年の間に発売。全3巻。

原作の外伝やっと完結したよ!ってことで、満を持しての(?)アニメ化。と、いっても原作の18話からなので、最初の1冊分ぐらいは端折られてるんですけど。

「埋葬編」と同じく画は綺麗で原作に忠実ではあるのですが、どうも全体的にセカセカしていて「まきが入ってるのか?」と思ってしまい、原作よりも何やら感動が薄れる気がしなくもない。各巻ごとの尺の問題でもあるのですかね。

外伝はテンポの良さよりも演出でじっくり魅せるタイプの作品なので、間を持たせる演出などにはもうちょっとこだわって欲しかったなぁと。私がもったいぶって原作をゆっくり読んでいるだけなのかもしれないですけどね最遊記関連のコミックスは刊行が数年おきなので、新刊が発売されるとなると私の中ではもう一大イベントと化してしまっていまして・・・読むときはいつも気合いが入ってしまう(^_^;)。

 

 

 

 

OVA最遊記外伝 特別編 香花の章』

2013年発売。全1巻。

外伝2巻の作中エピソードで、天蓬視点による回想となっていて、捲簾との出会いや軍での出来事が描かれる。プロット構成は原作者の峰倉さん自らの手によるもの。原作の2巻に収録されていた「さいゆうきがいでん」もこのOVAで映像化されています。外伝に関しては、コミカルなシーンを見れば見るほど悲しくなってしまうのですけどね・・・。

こちらと合わせて外伝でまとめられたものも出ています。

 

 

 

 

 

TVアニメ『最遊記RELOAD BLAST

2017年7月~9月まで、AT-X 他で放送。全12話。

GUNLOCKから大きく間が空いてのTVアニメ化。20周年企画ですね。発表されたときは「え?BLASTまだ2冊しか出てないのに!?」と、驚いた。※アニメ終了と同じぐらいに3巻が発売されました。

どうするのかと思いきや、間に外伝の内容を挿入するという荒技が披露される。「外伝は幻想魔伝とOVAでやったじゃん」って感じなんですけど、OVAで端折った序盤部分をちゃんとアニメでやろうということらしい(じゃあOVAで全話やれば良かったじゃんってなりますけど)。しかし、ドラマCDとかでもやっていますしね、何回外伝やってるんだよ感は否めない。

原作の2巻分は忠実に再現されていて、画もTVアニメシリーズのなかでは一番綺麗で安定しています。最終回付近でアニメが本誌の内容に追いついてしまったので、詰めの部分がオリジナルとなっていますね。

GUNLOCKのアニメオリジナル展開で死んでいたキャラクターが(※原作では死なない)、普通に生存し登場しているので、今までのTVアニメシリーズとは切り離されたものとなっています。

RELOADでやっていた「うら最」が復活したのにも驚きましたが、個人的に一番衝撃があったのは放送中に流れるゼロサムのCM。関さんが内容を紹介してくれるここだけのオリジナルCMだったんですけど、めちゃくちゃ人当たりの良さそうな、快活な先生ボイスで紹介していたので、アニメの三蔵とのギャップが凄かったですね。毎週「振り幅ぁー!」って感じだった。

 

 

 

2021年現在は以上。

 

 

 

 

 

 

 

あらためてまとめてみると、やはり原作の冊数が少ないので全体的にアニメオリジナル部分が多いシリーズとなっていますね。最遊記はキャラクターの個性が強くてハッキリしているので、オリジナルもつくりやすいのかなと思います。

原作エピソードのアレンジなどは文句を言いたいところも多々ありますが、幻想魔伝のオリジナル展開や一話完結物はコミカルな“お遊び”的な話も多くって観ていて楽しい。ストーリーがおかしかったり、キャラクターの解釈で「ん?」となったりしますが、それも含めてツッコんで愉しむのがこのアニメシリーズの醍醐味ですかね。これから4クール全50話なんて長くやることはないだろうから、オリジナルだらけになることはもう無いのかなとは思いますが、遊び心を忘れずにやっていって欲しいですね。

 

 

 

次はZEROINなんだってよ

さて、では2022年1月に放送開始のTVアニメ『最遊記RELOAD-ZEROIN-』なんですけど、GUNLOCKの時のように拳銃関連のオリジナルのタイトルとなっています。今に始まったことじゃありませんが、横文字ばっかで分りにくいしムカついてきますね。日本語にして欲しい。

 

2017年に『最遊記RELOAD BLAST』の3巻が発売されて以降、現段階で原作のコミックス刊行はなし。「今度こそやるの無いぞ!どうすんだ?」だったんですけど、前情報によりますと原作『最遊記RELOAD』の「Even a worm編」をよるんだそうです。また横文字でアレなんですけど、「Even a worm編」って「ヘイゼル編」のことですよ。GUNLOCKでやったじゃん!なんですけど、今度は原作通りにやるよってことなんですかね。確かに、GUNLOCKのラストは何じゃコレなことになっていましたけど。

 

TVアニメをやるのは新規ファン獲得に有効なので意義はあるのでしょうが(現に私もTVアニメからファンになったくち)。しかし、「ヘイゼル編」の後のエピソードのBLASTを既にアニメでやったのに、戻るのはアニメだけ観てきた人には違和感があるではないかと思いますね。「ヘイゼル編」でキャラクターの心情も変化したからこそBLASTの流れがある訳ですし・・・。

正直、私としては原作の「ヘイゼル編」って、一部辛い展開しててラストも駆け足でちょっと釈然としない感あったので、そんなに忠実なアニメ化って期待してなかったんですが・・・いや、でも、やるからには観ますけど。須く、見る。

 

ではではまた~

有栖川有栖【ソラシリーズ】3冊 あらすじ・順番 解説まとめ

こんばんは、紫栞です。

今回は有栖川有栖さんの【ソラシリーズ】(空閑純シリーズ)についてまとめてご紹介。

闇の喇叭 (講談社文庫)

 

【ソラシリーズ】とは

召和20年、大東亜戦争終結。京都に3つ目の原子爆弾を落された日本は無条件降伏を受け入れ、沖縄はアメリカの、北海道はソ連の統治下に入った。その翌々年の召和22年、原子爆弾の開発に成功したソ連の意向に添い、北海道は日本から独立。北海道は〈日ノ本共和国〉となり、国家として承認される。召和24年、米国とソ連の代理戦争として日本と〈日ノ本共和国〉とが武力衝突。のちに停戦合意するも終戦には至らず、南北に別けられた二つの日本は静かに戦争を続けていた。

戦争状態のままに時は流れて平世元年、日本国内では、事件捜査をするのは警察だけに許された権利であると規定。警察類似行為・私的探偵行為は法律により禁止され、平世21年となった今も警察による「探偵狩り」が行なわれていた――。

 

と、いきなり何の話だよって感じでしょうが、これはこのシリーズの大前提となる設定でして。【ソラシリーズ】はあり得たかもしれない日本、パラレルワールドの日本が舞台のシリーズとなっています。「召和」「平世」なども誤字ではなく、パラレルワールドなのでこんな表記になっているのですね。

 

探偵が歓迎されない世界、逮捕の対象となる世界で、十代後半の少女・空閑純(そらしずじょん)が探偵を目指し成長していくというストーリーとなっています。

 

作者の有栖川有栖さんは本格推理小説で有名な作家で、普段の作風はTHE・王道ミステリ。

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現実世界を舞台にしたものがほとんどで、こんな風にSF要素などを取り入れているものは稀。なので、ミステリファンほど“有栖川有栖らしからぬ作品”と、設定を知った段階で結構驚くかと思います。

有栖川さんの他シリーズのファンである私ですが、この【ソラシリーズ】は気になりつつもずっと読めていませんでした。この度やっと既存のものは読み切ったのですが、やはり設定を知ったときは「こういう作品をシリーズで書くんだ」と、意外に思いましたね。設定だけでなく、内容も普段の有栖川作品とは一味違うものとなっていますので尚更驚く。

 

長崎に原爆が投下され、天皇が敗戦を認めようとしたところで軍部によるクーデターが国内で起きたことで混乱が生じ、更なる決定打を与えようとアメリカが第3の原爆を投下。国内での混乱で対処が遅れた日本は北海道にソ連の侵入を許すことになってしまったなど、史実と照らし合わせると面白く、作り込まれた設定となっています。

 

英語も方言も原則禁止、男性には徴兵があり、民間人による真相究明は国家権力を脅かすとして禁止、言論弾圧され、推理小説を読むことも禁止されているという、「戦争中」だからこその閉塞感や不自由さも多く描かれていて、戦争がテーマともなっている希有なミステリシリーズですね。

 

 

 

 

 

 

各、あらすじ・解説

 

【ソラシリーズ】は2021年現在で長編が3冊刊行されています。単独でも愉しめるようにはなっていますが、やはり順番通り読むのがオススメ。

 

 

 

 

 

では、1冊ずつご紹介。以下、若干のネタバレを含みます~

 

 

 

 

 

 

 

 

『闇の喇叭』

 

平世21年。日本から独立した北海道が〈日ノ本共和国〉となり、日本と冷戦状態となって数年。日本政府は北のスパイへの警戒を強め、私的探偵行為を法律で禁じた。今では警察による探偵狩りが日々行なわれている。

17歳の少女・空閑純の両親は、かつて名の知れた名探偵だった。私的探偵行為を禁止する法案が成立した後も両親は秘密裏に仕事を請け負っていたが、母親が単独で追っていた事件調査の最中に失踪。

「何かあった場合は私の実家の方に」という母の言葉に従い、純は父親と共に大阪から母親の出身地である奥多岐野へと移住し、父と二人で母の帰りを待ち続けているが、依然として母からの連絡はなく、行方も手掛かりもつかめない。不安に苛まれながらも、純は父と二人で慎ましく暮らし、友人と高校生活を送っていた。

しかしある日、奥多岐野で身元不明の他殺死体が発見されたことがきっかけとなり、純の日常は破壊される――。

 

【ソラシリーズ】始まりの物語。シリーズ一作目というより、シリーズの前日譚的な物語で、純が探偵を目指すに至る過程・事件が描かれる。なので、設定や世界観の説明が多めですかね。メイントリックは“いかにも推理小説”といった物理トリックものですが、全体のストーリーからするとミステリ部分の印象は薄め。のどかな田舎でも「戦争」の影響が確実にあるという、不穏さがメインというか、前面に出された作品。

この時、純は父親・と奥多岐野で二人暮らし。かつては〈調律師〉と呼ばれる探偵だった誠ですが、警察による探偵狩りが激化し、やむなく探偵は廃業状態に。翻訳の仕事で生計を立て、過去を隠してひっそりと暮らしています。

純の合唱部の友達で小嶋由之有吉景似子が出て来まして、青春小説的要素もあり。戦争、ミステリ、青春と、色々と盛込まれた作品ですね。

 

 

 

 

『真夜中の探偵』

 

私的探偵行為の罪で父親が逮捕されてしまい、純は奥多岐野の友人に別れも告げぬままに大阪で一人暮らしをはじめる。探偵になる決意を固めたものの、父親への面会も許されず、失踪した母親・の行方もつかめないままにアルバイトに忙殺される日々に、純は八方塞がりとなり途方に暮れていた。

そんなおり、かつて両親に探偵仕事を仲介していたという人物が純に面会を求めてくる。面会に応じ、訪れた屋敷で純は失踪前に母親が追っていた事件について初めて具体的な情報を得るが、仲介者の別荘で木箱に入った元探偵〈金魚〉の溺死体が発見され、警察の捜査が入ったことで仲介者とその協力者たちは窮地に立たされる。純は自分の探偵としての力を仲介者たちに示そうと事件の謎に挑むが――。

 

前作『闇の喇叭』の最後でかつて〈調律師〉と呼ばれた探偵だったことがバレてしまい、純の目の前で警察に逮捕されて勾留中の誠。今の日本では犯罪者となる探偵を目指すにあたり、迷惑をかけることになってはいけないと奥多岐野の友人たちとの交流を断ち、高校にも行かずに孤独な日々を送っている純に、探偵の仲介者・押井や、怪しげな隣人・三瀬やらが接触を図ってくる。

純が探偵への道を歩み出して最初に直面する殺人事件の顛末が描かれるのですが、事件自体が起こるのが遅く、トリックも短編的なものなので、やはり推理部分は添え物って感じ。

前作ではほぼ何も語られていなかった母親・朱鷺子の失踪について作中で触れてきて、「ああ、母親失踪の手がかりを純が追っていくっていうのがシリーズの要になるのだな~」と、今作でこのシリーズの辿る道筋が見えてくる。今後シリーズ全体に関わってきそうな人物も今作で多数登場しています。〈分断促進連盟〉たる、「日本をいくつにも分断して中央に権力が集中するのを阻止しよう」という思想を持った団体が新たなトピックスも登場して、シリーズの広がりを感じさせています。ここではまだ“感じさせる”だけなんですけどね・・・。

 

 

 

 

論理爆弾

 

純は探偵仲介の協力者の一人から、失踪した母親が消息を絶ったのが九州の深影村というところだったということを聞き出す。母が捜すよう依頼されて行方を追っていた探偵も深影村に行ったきり消息を絶ってしまったらしく、「あの村には得体の知れない何かがある。危険だ」と止められるが、いてもたってもいられなくなった純は一人で深影村を訪れる。

同じ頃、深影村の近隣では北の精鋭部隊がある任務を遂行するために入り込んでいるという情報が舞い込み、警察による山狩りが行なわれていた。山狩りの最中、探索の為に飛んでいた警察のヘリが北の精鋭部隊によって打ち落とされ、その影響でトンネルが崩壊。深影村は孤立してしまう。

閉ざされた村の中では奇怪な連続殺人事件が発生。母親の失踪に関して調べる傍ら、探偵として放っておけないと連続殺人事件の謎を密かに追っていた純に思いがけない危機が迫り――。

 

またまた舞台を移しまして、今度は宮崎県にある村に閉じ込められることとなる純。平家の落ち武者伝説のある村、よそ者に「今すぐ出て行け」と叫ぶ祈祷師のお婆さん、村の有力者の屋敷など、横溝正史『八墓村』へのオマージュが所々に。

 

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ミステリ世界ではド定番のコテコテ設定によるクローズド・サークル状況になる訳ですが、内容はアンチミステリともいえるもので、推理小説としてはあらゆる意味で最低で最悪の犯人が、“ミステリ”を爆弾で破壊するように台無しにする。

『八墓村』という日本ミステリの代表作をオマージュしているのも、“台無し感”を強めるためなのだろうと思われ。前作『真夜中の探偵』で推理を披露し、少しばかり探偵として自信を得ていた純が打ちのめされる事件となっています。

 

探偵だけでなく、推理小説の不文律をも否定される世界を描こうという作者の意図と、主人公を成長させるために必要な話として書いたのだろうことは分るのですが、前二作の長編よりもだいぶページ数があってこの結末ですから、不満に思う読者は結構いるのではないかと思いますね。有栖川作品なら本格推理小説だと思って読む人が大半だろうし、前二作も一応は本格推理小説の形態で書かれていますからねぇ・・・(^_^;)。

 

単行本には未収録の特別書き下ろし『事件前夜 黒田邸にて』が、文庫版ですと作中に挿入されていますので、読むなら文庫版がオススメです。公式ホームページでも読めますけどね↓

『論理爆弾』有栖川有栖|講談社ノベルス|講談社文芸第三出版部|講談社BOOK倶楽部

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

探偵とは

現実世界の探偵は殺人事件の謎に挑んだり、推理を披露したりするものではありません。ですので、この【ソラシリーズ】でいうところの「探偵」は、あくまで推理小説での役回りとしての「探偵」を指しています。

推理小説というのは謎を提示され、推理して解明するもの。謎を追究する探偵役に都合が良いようにお膳立てされている世界というのをふまえて愉しむものですが、その“推理小説的探偵”が否定される世界に「探偵」を置くことで、「探偵」とはいかなるものかを描き出すのがこのシリーズの試みなのかと。

 

“自分の頭脳に酔い、つまらぬ感傷に流され、ときには平気で犯罪者の逃走に手を貸す。社会の敵だ。悪の匂いに発情し、よだれまみれで徘徊する知恵のある猛獣”

 

と、『闇の喇叭』の作中で中央警察の明神が言う場面がありますが、言葉は激しいけれども、この手の指摘は推理小説で活躍する名探偵には度々言われていることです。

好奇心ばかり旺盛で、謎を前にすると我慢が出来ずに非常識な行動をし、知識のひけらかしをする――端から見れば、それは殺人狂と変わらないような異常者なんじゃないのか?と。

 

このシリーズでは、そんな読者の指摘が国家によって絶対的な定説として浸透させられてしまっている訳です。そんな中で、「探偵」をする意味、真相を追究する意義を見つめ直すのがテーマとなっている「探偵小説」であり、読者は見習い探偵の主人公・純とともに「探偵」の存在自体を追求していく。昔も今も本格推理小説を書き続けている有栖川さんが書くからこそ、深みのあるテーマとなっているかと。野心的なシリーズですね。

 

重きが置かれているのが其処の部分なので、ミステリ部分が薄味仕様なのでしょうかね。殺人事件を一々起す必要もないのではと思いますが・・・この作風は何やら近年の森博嗣作品みがあるような気も。

 

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続きは?

2010年から始まったこのシリーズですが、2012年に『論理爆弾』が刊行されて以降、新作が発表されていません。まだまだ先は長そうなシリーズであるだけに、このストップぶりは気になるところ。まさかこのまま書かれないなんてことはないと信じたいですが・・・どうなのでしょう?確かに、今の段階ではストーリーも主人公も魅力が十分に発揮されているとは言い難いので、ファンが付きにくいシリーズなのかなぁとは思いますけど。でも、始めたからには進めて欲しい・・・。

 

 

続きがあることを信じ、新作を待ちたいと思います。

 

 

ではではまた~