夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『生ける屍の死』あらすじ・ネタバレ感想 特殊設定ものの名作~

こんばんは、紫栞です。
今回は山口雅也さんの『生ける屍の死』をご紹介。

 

生ける屍の死(上) (光文社文庫)

 

あらすじ 
1990年代末、アメリカ各地では不可解な死者の蘇り事件が頻発していた。
ニューイングランドの片田舎・トゥームズヴィルでバーリイコーン一族が経営している大規模な霊園「スマイル霊園」。三ヶ月ほど前、ボストンでカレッジに入学する準備を進めていたグリン(フランシス)は、長患いが悪化した祖父スマイリーに財産分与の為にこの「スマイル霊園」に呼び寄せられる。


祖父スマイリーが死にかけているなか、「スマイル霊園」でパンク青年のグリンは一族に馴染めず、スマイリーの息子ジョンの愛人イザベラの連れ子であるチェシャ(サーガ)とパンク同士ということもあって意気投合し、二人で遊び歩く毎日を過していた。
ある日、一族のお茶会で毒を口にしてしまったらしきグリンは自室でひっそりと死んでしまうが、甦り現象によって“生ける屍”となって目覚める。
グリンは自分が毒を飲むことになってしまったのはスマイリーの遺産相続を巡っての殺人計画の煽りを食ったのではと考え、周囲に死者であることを隠して自分の死の真相を突き止めることを決意。身体にエンバーミングを施し、独自に調査を開始する。


しかし、その後も「スマイル霊園」では事件が発生して人が死に、そして甦った。死者が次々に蘇る状況下で、なぜ犯人は殺人を犯すのか?
肉体が崩壊するまでに謎を解くべく、グリンは“生ける屍”として「生ける屍の死」の謎を追う――。

 

 

 

 

 

 

 

 

ランキング常連の名作
『生ける屍の死』は1989年に東京創元社の日本人作家書き下ろし長編探偵小説シリーズ鮎川哲也と十三の謎》の十一巻目として刊行されたもので、山口雅也さんのデビュー作。いまだに数々の推理小説ランキングで上位に食い込み続ける日本推理小説界の超有名作です。
単行本の後に1996年に創元社から文庫版が刊行。 

 

 

 2018年には全面改稿されて光文社文庫から上下巻で刊行されています。

 

 

 

 

 

創元推理文庫も単行本から全面改稿されているのですけども。

私は創元推理文庫で読んだのですが、二度も改稿されているとなると新たな改稿版も改稿前の単行本版もどう違うのか気になってきますね。


ことある毎にミステリのオススメページで紹介されているので読んでおこうと買ったものの、創元推理文庫版で650ページほどと結構な厚さがあったことと(創元だと字も小さいしね・・・)アメリカが舞台なので登場人物はほぼ西洋人ということで、登場人物のカタカナで覚えにくい名前が一覧に30以上並んでいる、家系図・見取り図がある等々・・・色々と威圧感があり読み始めることが出来ず、ずっと放置していました(^_^;)。

 

この度やっと読み終わる事が出来たので、こうやって紹介している訳ですが、ビビっていた割にはというか、思っていたよりも読みやすかったです。登場人物はやはり途中名前と人物が分からなくなって一覧を何度も見返したりしましたが、揶揄や皮肉が効いたいかにもアメリカ的な会話(アメリカ人がどんな会話しているのかリアルに接したことはないですが・・・)は軽快だし、死や葬儀に関しての逸話やウンチクが随所に散りばめられていて興味深く読みすすめることが出来ました。

 

 

 

 

特殊設定もの・ゾンビ探偵
上記のあらすじからも判る通り、今作は“死者の甦り現象”が前提となった世界で推理が展開される「特殊状況設定もの」。

既存の枠組みから逸脱しているこの手のミステリは、界隈が飽和状態になっている昨今ではさほど珍しいものではなくなっていますが、

 

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今作が刊行された30年前はかなり斬新に受け取られて「ナンセンスだ」と感じる人もまだまだいたのではないかと。

 


しかし、ただ奇をてらっているだけではないことは今作を読めばすぐに分かります。謎を解き明かしていくプロセスは間違いなく王道のそれで、きっちりと伝統的な推理小説を踏襲しつつ、この特殊設定だからこその仕掛けは大きな驚きと納得を読者にもたらしてくれます。

 

「特殊状況設定もの」は特殊設定の厳密なルールがしっかりと読者に提示されることが大前提で重要なところ。今作の特殊設定は“死人が甦る”という現象。
死人が甦るとはいえ、ゾンビ映画などから連想されるような意思を持たずに人に襲いかかるようなゾンビではなく、意思や思考能力は生前と変わらないまま屍の肉体が動いている状態。所謂、「魂」というものが遺体から出ずに留まり続けている状態ですかね。
腐敗も止まる訳ではなく肉体は通常通りに崩壊していくので、結局甦った「死者」にも“身体が保てるまで”という期限があります。

 

主人公のグリンは物語の途中で「死者」となり、ゾンビとなって事件の謎を追うというゾンビ探偵。
途中で死んでしまうのも驚きですが、ゾンビが探偵するのも驚きですね。被害者の幽霊がイタコ体質刑事と共に事件を追うようなものはありますが、

 

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BORDER Blu-ray BOX

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  • 発売日: 2014/09/26
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被害者自身がゾンビとなって探偵役をするのは前代未聞かと。
グリンは腐敗を遅らせるため身体にエンバーミングを施し、血の通っていない青ざめた顔をパンクメイクで、混濁した目をサングラスで隠しつつ、冷たい身体を悟られぬように人との直接接触を避け、体内で腐敗する恐れがあるので食事もとらない・・・等々、生者として振る舞うために偽装し、行動に気を付けながらという大変さ。加えて、「もう死んでいるのだ」という絶望は常にあり、意識がしっかりしたまま身体が朽ちるのを体感させられる。私が知る限り、今まで読んできたなかで一番過酷な身の上の探偵役ですね。 


特に、想いを寄せているチェシャがグリンとの先の未来を無邪気に言ってくるのがなんとも辛い。グリンとチェシャがお互いに好意をもちつつもまだ恋人未満な関係だったのがかえって切なさに拍車をかける感じ。  
スマイル霊園顧問で死学者のハース博士だけがグリンが死者であることを知っている存在で相談にのってくれたり一緒に推理したりしてくれます。ハース博士がいないとこのお話は酷しいところがあると思いますね。こんな辛い状況におかれているグリンですが、相談相手になってくれるハース博士がいてくれて本当に良かった(^_^;)。

 

 

 

 

 

以下、ガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリック
今作のミステリとしての仕掛けの要は「死者」が死んだタイミングと誰が「死者」か。
そして、死者が甦る状況の中で殺人が行われる理由、ホワイダニット(なぜ犯行に至ったのか)ですね。

 

グリンが毒で死んだ後に、スマイリーが死亡。スマイリーの息子であるジョンが殺され、甦って逃走するというのが物語の一連の流れ。※実際はもっと複雑に生者と死者が入り乱れてカオスな状態になっていますが。

 

真相を簡単に説明すると、実はジョンはスマイリーよりも先に犯人に殺されており、スマイリーからの遺産を自分の子を宿しているイザベラに残そうと考えた。遺産相続権を得るには自分がスマイリーよりも後に死んだと皆に思わせねばならないので、死亡推定時刻を誤認させるために自分の他殺事件を自作自演した後に姿を消した。

 

ジョンを殺したのはスマイリーの後妻であるモニカ。モニカは誰よりも先に突然死しており、「死者」となった後で甦ってジョンを殺害。甦ったジョンはモニカがしでかしたことを盾にスマイリーに自分に遺産を相続させるように詰め寄り、遺言状の書き換えを辞めさせ、モニカのことを説得させて「生者」を装わせた。その後死期が近づいているはずだが中々死ねないスマイリーは自分の死は自分で決定しようと決意して自殺(が、人知れず甦って隠れていましたが)。ジョンは自分の他殺事件を偽装する。

 

グリンが毒死してしまったのは単なる事故で、砂糖壺に誤って砒素が混入してしまったため。

お茶会で砂糖を使ったのはグリンとジョンとモニカの三人なのに、自分は死んで他の二人は何ともない事実からグリンはジョンとモニカはお茶会よりも前に死んでいて、自分と同じように生者のふりをしていたのではないかと推理を巡らし解明に至る。
生ける屍になったからこそ辿り着けた真相という訳ですね。


で、ホワイダニット“何故モニカは犯行に至ったのか”ですが、モニカはスマイリーを元妻から略奪した罪悪感と、息子を亡くし、その遺体が火葬されてしまったことによって気が触れてしまい、高齢で認知症の病状もあってと正常な行動や思想が出来る状態ではありませんでした。
熱心なカトリック信者であったモニカはキリスト教「終末に神は再臨したキリストと共に最後の審判を行なう。その時、生者のみならず死者たちも甦り、裁きを受ける。甦った死者たちのうち、罪なき者は永遠の生命を得、最後まで神に反逆する者は再びの死、第二の死・魂の死をむかえる」という復活信仰にしがみつくように。


そんな中、アメリカ各地で死者の甦り現象が発生。自身も“生ける屍”として甦ったモニカは、今こそ審判の時なのだと霊園で火葬を推進しようとするジョンを殺害。

 

「(略)彼女はいったんジョンを死者の状態に置いて、彼の罪の深さがどれくらいのものか、神の裁きに委ねようとしたんだ。つまり、火葬を唱えたジョンの罪が赦されるなら、彼は復活して永遠の生命を得、生者と変わらぬ振る舞いをするだろう。逆に、彼の罪が赦されなければ、彼は再び聖書でいう第二の死――魂の死の屈辱にまみれることになる・・・・・・」

 

と、モニカなりのこのような理論で犯行に至ったと。これが、死者が次々に蘇るおかしな状況の中でわざわざ殺人を犯す理由なのです。

 

「火葬を唱えることがそんなに罪深いのか?」と、日本人の感覚では思ってしまいますが、復活信仰を妄信しているモニカにとっては遺体を火葬することは復活を妨げる許しがたい行為だということらしい。アメリカの片田舎が舞台というのもこういった宗教観がお話の重要な要素になっているからなのですね。だから、登場人物名でつまずいてもめげずに読みましょう。

 

 

 

 

メメント・モリ(死を想え)
「死者の甦り」に意味を見出し、このようなことをしでかしたモニカ。「この気まぐれな甦り物語に意味はあったのか?」と、謎解きを終えて、やりきれぬ想いでスマイル霊園を飛び出したグリンは考えます。そしてグリンは、「死者の甦り」はただの現象だと結論づける。通常の生や死にだって完璧な意味やら誰かの意思やらを見出すことはできないからと。
結局、世の中で起こることは現象でしかなく、個々が捉えたいように捉えているに過ぎない。「死」がまとわりついた生い立ちから常に「死」を想ってきたグリンは、“生ける屍”となって事件を追った数日間を経て自身のメメント・モリに結論をつけ、一緒に車で飛び出したチェシャにそれを告げる。

 

読者としてもわかっていたことではあるけれど、物語の最後は切なくて哀しいものとなっています。しかしそれだけではなく、感慨深いハッピーなエンドでもある。

南を目指していたはずのピンクの霊柩車が、最後の一行で”北を目指して”となっているところは物語の冒頭に戻る“繰り返し”を暗示しているようでもあり、作り込まれたストーリーに感服します。
名作だと言われ続けているのも納得の作品でした。気になった方は是非。

 


ではではまた~

 

 

 

 

 

 

秘密-トップ・シークレット6巻「コンビニ店員惨殺事件」ネタバレ・あらすじ

こんばんは、紫栞です。
今回は清水玲子さんの『秘密-トップ・シークレット』

 

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6巻収録の「コンビニ店員惨殺事件」をご紹介。あと「特別編」も。

 

新装版 秘密 THE TOP SECRET 6 (花とゆめCOMICS)

 

あらすじ
2059年8月。コンビニエンスストア店員の小島郁子が同僚である山崎正、神内忍に突如包丁で襲いかかり殺害。さらに逃げ出した同じくコンビニエンスストア店員の佐藤佳代子を路上まで追いかけて公衆の面前で刺殺し、その際に巻き添えとなって重傷を負った通行人一人も病院で二日後に死亡するという事件が発生。
小島郁子は犯行後に自宅で自殺。郁子の同居人である父親は認知症のため証言をすることは困難を極めた。通行人を含む4人を惨殺するという女性犯罪では稀な事件であり、動機と原因を究明するべく小島郁子と被害者たちの脳は科学捜査研究所「第九」研究室で『MRI』にかけられることとなり、室長の薪と新たに「第九」に配属された岡部・曽我・小池らは捜査に当たる。
被害者の山崎正は大学で介護や医療に関心があり、何度か好意で小島郁子の父親の介護を手伝っていた。山崎と交際していた佐藤佳代子はそのことが面白くなく、幾度も小島郁子を詰問していた様子が確認されたこと、郁子には虚言癖があったなどの事実から、当初事件は郁子の山崎への横恋慕が叶わぬゆえの犯行だと推測された。だが、『MRI捜査』を進めるうちに犯人・小島郁子の意外な事実が明らかとなり――。

 

 

 

 

 

 

 


薄いけど重い
この「コンビニ店員殺害事件」は青木が「第九」に配属される少し前の事件。時系列としては「貝沼事件」捜査中に薪さんが正当防衛で鈴木を撃ち殺してしまってから数日後、壊滅状態になった「第九」に岡部さん、曽我、小池の3人が配属されたばかりの頃の事件。

青木は登場せず、視点は主に岡部さんで描かれているのでスプンオフというか、ちょっとした過去編てな感じのお話ですね。そのためページ数は他の巻に比べると少なく、本の厚さもシリーズのなかでもっとも薄いです。が、厚さは薄くとも中身は激重いので侮っちゃダメ。私は貸した友達皆に「重すぎて辛い」と言われた苦笑ものの思い出があります(^_^;)。

 

お話は岡部さんが「第九」に配属されて、薪さんと初対面するところから始まるのですが、この時の岡部さんは『MRI捜査』なんて「のぞき見と同じじゃないか」と否定的な意見を持っていて、初対面の薪さんにも嫌悪感剥き出し。青木が知る“薪さんの一番の側近”的姿からは想像も出来ないものでした。

この2人にもそれなりのドラマがあったということで、薪さんと岡部さんの馴れ初め話が描かれているのはファン必見ですね。岡部さん回に外れなしです。

 

 

 

 

動機の解明
今作の事件は小島郁子という女性が包丁で4人を惨殺したのは疑いようのない事実であり、犯人も被害者もみんな死んでしまっているので一見するとわざわざMRIで脳見る必要があるのか?と、いう気がするのですけども。
しかし、みんな死んでしまっているからこそ「虚言癖のある中年女が若い男に入れあげて恋人もろとも惨殺した」という“検察側”にあたる一方的な見解だけでなく、“弁護側”にあたる犯人側“郁子の脳”を見ないと事件の「客観性」が得られないってな訳で。つまり、動機を解明することに絞られたお話になっています。

 

 

 

 

 

 


以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 


幻覚
犯人の小島郁子は40歳で化粧っ気のない顔にシミ・シワが目立ち、体型は小太り。それでいて恰好は年齢に似合わぬ少女趣味。作中の文面では“少女趣味な服”となっていますが絵をみるとこれは明らかにピンク〇ウスですね。どんな恰好をしようと個人の自由だし、現に高齢でも肥満体型でもピン〇ハウスが好きで着ている人は訳で他人がとやかく言う筋合いはないのですが、妄想のようなことも口にする郁子は端から見ると“イタイタしい人”と捉えられていた。


MRIで郁子の脳を見てわかったのは、郁子が「自分が美女に見える幻覚」をみていたこと。

郁子は数年前に母が他界、その後父親が認知症となり介護のため地元に戻ることになった郁子は東京での服飾メーカーでの勤めを辞め、結婚間近だったものの破談に。頑張ってきた仕事と家庭を持つことが一度に奪われ、認知症の父親に文句を言われながらの汚物まみれの毎日でこの先明るい展望もない。

ストレスをため込み、精神的に追い詰められ自殺未遂を繰り返すものの、父親を残して死ぬことも出来ない郁子は「美しい幻想の世界」を造り出し逃避することでこの生活に耐えていたのですね。

 

「現実」や「真実」はもう彼女にとって意味がない


そしてこの頃は多分 彼女にとって一番幸せな日々だった

 

「幻覚」は郁子が“死なずにいるため”に必要不可欠なものだったのです。

 

 

 

 

 

余計なお世話
そんな郁子に職場の同僚たちはにバカにしたり陰口を言ったりしていましたが、ただ1人、山崎正だけは郁子に常に親切で医療や看護等に興味があったこともあり、気にかけて介護の手伝いをしたりと他の誰よりも郁子の事を、将来を心配していました。


そして山崎は「幻想の世界」に住んでいる郁子を「治してやろう」と思い、心療内科医から手に入れた幻覚・妄想の症状を抑える安定剤を飲ませ「現実をちゃんと見て!!」「空想の世界に逃げてばかりじゃダメだ!!」「この先もあなたが何年も働いてお父さんを助けていくんでしょ?」「あなたがしっかりしてお父さんを支えてあげないで」「この先一体どうするんですか」と郁子にとっては耳を塞ぎたい、耐えがたいことを言いつのる訳です。

 

郁子じゃなくとも、40歳でお先真っ暗なときに20歳の大学生にこんなこと言われたら死にたくもなるって感じですが。

 

「幻覚」を薬で抑えられたあげく、こんな絶望的な現実ばかり言われ続けて、「この先はいらない」「こんな現実ならもういらない」と郁子は凶行に走ってしまったというのが事の真相。山崎が郁子に渡した安定剤は試薬段階の強い成分も入っていたらしく攻撃性が増してしまったというのもあるのだとか。

 

 

山崎正は真実”いい人”なのだろうし、郁子にしたことも100%の善意なのでしょうが・・・個人的には読んでいると郁子にばかり同情してしまいますね。


お話の導入部分で郁子が「誰にも迷惑はかけてなかったのに・・・ちゃんとしてきたのに・・・」と言っているように、郁子は「幻覚」をみつつもコンビニの仕事も父親の介護もしっかりこなして社会に適応していました。“空想の世界に逃げちゃだめだ”というが、そもそも目を覚まさなくてはいけないのか。郁子と“趣味が日々の息抜きになっている人”との間にどれほどの差があるというのか。
すべきことはしてキチンとして生活出来ているのだし、山崎がやったことは要らぬお節介、余計なお世話と捉えてしまいますよね。
山崎が何もしなかったにしても郁子の「幻覚」はどこかで限界がくるのかもなぁという気もしますが。いずれにせよ、治してやろうとするならするで、もっとちゃんとした治療の段階を踏んでいかないとダメですよね。素人が薬渡して説教して~・・・なんて、やっぱり浅はかですよ。

 

 

と、郁子への同情ばっかりになりそうなところを「気の毒なのは何の関係もないのに殺された3人だ」と薪さんがしっかり言及しているところがこの漫画だなぁと思う。確かにそりゃそうだ。


MRI捜査』されなければ「虚言癖のある中年女が若い男に入れあげて恋人もろとも惨殺した事件」として片付けられていたということで、状況証拠や物証では絶対にわからない真実をMRIだと明らかに出来ると改めて示される事件ですね。

 

 

 

 


特別編
巻末に「2008 特別編」という短編が収録されています。
こちらは青木が主役で、2年前に鈴木の脳を見たことで※1巻参照↓

 

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青木が自身の気持ちが鈴木の脳映像に感化されてしまっているのではないかと思い悩むお話。捜査員の精神を破壊しまくった貝沼の脳を、鈴木の脳を通して見た割にはかなり平気そうで「たくましいな青木」って感じだったのですが(ラリってたけどね※1巻参照)、やっぱり思わぬ形で弊害が生じている。発端は鈴木の元婚約者である三好先生と付き合い始めたからですね。

それだけでなく、この特別編は実は思わぬ形でシリーズの伏線になっているので読み飛ばし注意です。

 

 


そんな訳で、薄いけれどもいつものように重厚な物語りが描かれているので是非。

 

ではではまた~

 

 

 

 

 

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『濱地健三郎の幽たる事件簿』7編の感想・あらすじ シリーズ第2弾!

こんばんは、紫栞です。
今回は有栖川有栖さんの『濱地健三郎の幽たる事件簿』(はまじけんざぶろうのかくれたるじけんぼ)をご紹介。

濱地健三郎の幽【かくれ】たる事件簿


幽霊を視る能力があり、心霊現象を専門に扱う探偵・濱地健三郎とその助手・志摩ユリエが様々な怪異に相対していく連作短編集で、2017年に刊行された『濱地健三郎の霊(くしび)なる事件簿』

 

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 に続くシリーズ第二作。今作は“幽たる”“かくれたる”と読ませるタイトルになっています。


単行本の装丁は前作とはチト違う感じに。文庫版の方のデザインの系統であるような気がするので、

 

 

今後はこんな感じで統一されるのかもしれませんね。前作の単行本の装丁も個人的には好きですけど。文庫や今作の装丁の方が作品雰囲気にはあっている気はします。

 

濱地健三郎は三十歳にも五十歳にもみえる年齢不詳のミステリアスダンディで、幽霊を視る能力や祓う能力の他に鋭い推理力のある探偵さん。霊媒師ではなく“探偵”なのがこのシリーズの特徴ですね。
志摩ユリエは絵が得意ということでボスや依頼人が霊視したモノをスケッチするという助手としての働きをしているのですが、シリーズ一作目からボスの仕事に同行するうちに能力が開花。今作ではもう、ボスほどではないにしても完全に“視える人”になっています。

 

 

 

 

 

 

前作同様、今作も七編収録


目次
●ホームに佇む
●姉は何処
●饒舌な依頼人
●浴槽の花婿
●お家がだんだん遠くなる
●ミステリー研究会の幽霊
●それは叫ぶ

 


一作目の「ホームに佇む」以外は怪談専門誌『幽』(2019年からは妖怪マガジン『怪』と合併して『怪と幽』という雑誌名になっています)に掲載されたもの。
「ホームに佇む」は『小説BOC』に寄稿されたもので、「山手線の駅を舞台にした特集を組むから、好きな駅を選んで書いてくれ」という依頼を受けて書かれたもので、他の作品より短めの20ページ少々。有栖川さんは鉄道ファンということもあり、電車関係の小説執筆をよく依頼される作家さんですね。


出張の度に東海道新幹線を利用するサラリーマンが、新幹線が有楽町駅を通過する際に、有楽町駅ホームに赤い野球帽の少年の幽霊を新幹線の窓から毎回必ず目撃。そのうち、少年の幽霊はサラリーマンに何か訴えかけるような眼差しを向けてくるようになり、悩んだ末にサラリーマンは濱地健三郎の新宿の事務所を訪れる--。


少年がホームに佇んでいる理由におかしみがあるお話で、短編としては「なるほど」というネタなのですが、最後の“幽霊に物品を渡せる”というのが個人的に少し納得出来ない。ま、心霊現象には現実の常識は通用しないのだと言われればそれまでなのですが・・・(^_^;)。

 


「姉は何処(いずこ)」は郊外の実家に住んでいた姉がある日突然行方知れずになり、只一人の肉親である弟が実家に戻って姉を毎夜捜索するなかで、同じ場所、同じ時間に毎日姉の幽霊が現われている事に気が付く。話しかけても応えてくれず、いつも同じところで姿を消してしまう姉の幽霊。弟は一刻も早く姉を見つけてやりたいと濱地健三郎に依頼する――。
てなお話。


この本に収録されている7編のなかでは一番探偵小説的要素があるお話で、心霊現象を扱っているものの、推理して、犯人に罠を仕掛けて・・・と、いつもの有栖川有栖的本格推理小説短編らしさに溢れている作品。慣れているぶん、ファン的には有栖川さんの短編だとこういう展開を期待してしまうところですね。しかし、あくまで怪談話として怪談専門誌『幽』に掲載された作品ですので、油断していると最後でゾッとさせられます。ユリエちゃんに一抹の不安を感じる・・・。

 

 


「饒舌な依頼人は濱地健三郎の事務所にやってきた依頼人がやたらと饒舌に一人でお喋りするという、言ってしまえばそれだけのお話。


怪談話に違いはないのですが、コミカルさがあってクスッと笑えるような“オチ”がついています。そのオチや話に作中でユリエちゃんが駄目だしするのがさらに可笑しい。霊視能力があるとこんな事にも遭遇するよ~っていう濱地探偵日常の一コマってな感じのお話で、濱地先生は流石になれた対応をしています。本の中盤でこのようなお話が入っているのはバランスが良くて短編集の愉しさの一つだと思います。

 

 


「浴槽の花婿」は資産家の男性が浴室で死亡。事件か?事故か?被害者の弟は結婚したばかりだった兄の妻が犯人だと捜査一課刑事である赤波江に訴えるが、その弟には兄の幽霊が恨めしそうな顔で“憑いて”いた。犯人は若い妻か?金に困っていた弟か?
な、お話。


ミステリーとしては「どっちが犯人か」という、フーダニットの二択版。容疑者の一人に被害者の幽霊が憑いているという状況をとっかかりに話しが展開されるのが心霊探偵ならでは。
被害者の幽霊が恨めしそうな顔で憑いているのなら、憑かれているヤツが犯人だろうと単純に思うところですが、もちろんそこには捻りがある。結末は恐くも哀しく憐れで、その後がどうなったか気になります。
シリーズ一冊目でも登場した濱地先生と交流のある刑事・赤波江さんと(赤波江さんはこの本では登場するのは今作のみ)、ユリエちゃんが交際している大学時代の漫画研究会後輩・進藤叡二君が登場。

タイトルの「浴槽の花婿」は100年以上前にあった保険金目当ての連続殺人事件に牧逸馬がつけた名「浴槽の花嫁」からとられています。 

浴槽の花嫁 (現代教養文庫)

浴槽の花嫁 (現代教養文庫)

 

 三人の新妻を浴槽での戯れに足を引っぱって溺死させ、入浴中の事故死を装って保険金をせしめていたという事件。そんなに認知度は高くない名称だとは思いますが、私は偶々別の小説作品で紹介されていたのを読んだことがあったので元ネタにすぐ気づくことが出来、なんだか嬉しかった。

 

 


「お家がだんだん遠くなる」は、毎夜寝る度に幽体離脱して(魂が?)どこかに連れて行かれそうになる女性が助けを求めて濱地健三郎の元に訪れるお話。
幽体離脱がテーマで、このシリーズでは珍しくタイムリミットがある切迫したお話。濱地先生とユリエちゃん、おまけで進藤君も駆けずり回って捜査しています。このお話は本当に怪談でミステリー要素は薄いですかね。終わり方が苦々しい。
こちらのタイトルは童謡の『あの町この町』の歌詞の一節から。


童謡 あの町この町 平井英子 野口雨情作詞・中山晋平作曲

この童謡、私は知らなかったですね。世代によるのかな?それとも地域?作中では濱地先生もユリエちゃんも、皆が知っている童謡として紹介されていましたが。

 

 


「ミステリー研究会の幽霊」は、高校のミステリー研究会の部室で前々から起こっていた超常現象が新しい部員を一人迎え入れてからエスカレートして・・・と、いうお話。


このミステリー研究会は推理小説ではなく超常現象を研究する会とのことで、紛らわしい(^_^;)。
学園ものでお話の大半は高校生の視点で語られるので、終盤でやっと濱地健三郎シリーズなんだと分かる仕組み。物理学の先生が顧問で、噂を聞きつけ心霊探偵の濱地健三郎に依頼するのですが、作中でも言及されていますが物理学教師なのにかなり柔軟な考えで驚き。普通は生徒の話を疑うだろうし、“心霊探偵”なんて胡乱なものに頼ろうなんて考えもしないと思う。ネタとしては学園ものホラーでよく出てくるものですね。恩田陸さんの『六番目の小夜子』とか、

 

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綾辻行人さんの『Another』とか。

 

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この手のお話はオカルト好きだとやはりワクワクする。学園ホラーは独特の雰囲気が良いですよね。

 

 


「それは叫ぶ」は夜道で得体の知れないモノに触れられてから発作的な自殺衝動に襲われるようになってしまった男性のお話。


このお話は完全に怪談で、犯人だの隠された真相といったミステリー要素は皆無ですね。今作ではなんと、濱地先生は拝み屋からの紹介で事に介入することになった設定。商売敵かと思いきや、濱地先生は拝み屋界隈でも一目置かれる存在なんだそうな。この拝み屋は凄腕なんだそうですが、拝み屋にも視えなかった“アレ”をユリエちゃんは視ることが出来ていて、あらためて能力の開花が凄まじいのだということが分かる。
意味も理由もない悪意に突如襲われる理不尽さというのは、通り魔事件も模してのもの。許しがたく、ただただ恐ろしい怪異が描かれています。

 

 

 

 

 

 

 

 

幽と解
怪談専門誌に掲載されている作品ですので「怪談」を前提に書かれているのですが、このシリーズのコンセプトは怪談とミステリー「両者の境界線において新鮮な面白さを探すこと」。なので、心霊現象を前提としたなかで謎解きが展開されるのが主で、シリーズ第一冊目『濱地健三郎の霊(くしび)なる事件簿』の方では犯罪を扱っているものが多く、捜査一課の刑事さんも度々登場していた訳ですが、模索中だということもあって全体的にぎこちなさが少しありました。
今作の『濱地健三郎の幽(かくれ)たる事件簿』では心霊現象と謎解きを融合させるという形式に囚われずに自由度が増し、バラエティに富んでいて、短編集として読んでいて面白かったです。

ミステリー要素よりも怪談に重きが置かれている話が多かったですが、無理に謎解きを絡ませようとするよりこの方が良いのではないかと個人的には思いました。推理小説作家で有名な有栖川さんですが、怪談話も十分に上手い作家さんですからね。

 

 

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心配 

やはり、気になるのは助手の志摩ユリエ。

上記したように濱地先生の仕事に同行するうちに霊視能力が向上していっているのですが、ユリエちゃんはその事を嬉しく思っている気持ちの方が強いみたいなんですよね。もっともっと先生のお仕事の役に立ちたいというのと、“未知の世界があるのを知って、自分が広がったみたいに思ってる”と。それを聞いて交際相手の進藤君は「広がらなくてもいいでしょう」と、ごもっともなことを言っている訳ですが(^^;)。


確かに心霊世界なんて広がる必要はないし、助手をするなかで何度も恐い目に遭っているのに、好奇心ばかりが勝って喜んでいるユリエちゃんは実はかなり危うい状態なのではないかと感じる。せっかくの進藤君の注意も「やきもちかな?」と心中で軽く済ましてしまっていますし、読者としてもこのまま濱地さんの助手やってて大丈夫なのかと心配になってしまうところです。


しかし、能力はユリエちゃん自身が潜在的に持っていたものだし、視えるようになってしまった以上、対処を心得ているプロフェッショナルの濱地さんの元にいるのが一番安全だという結論がこの本に最後に収録されている「それは叫ぶ」で示されていて「なるほどな」という感じ。

 

 

いずれにせよ、シリーズはまだまだ続きそうなので今後も楽しみです。前のブログでも書きましたが、このシリーズで長編も読んでみたいなぁ~ともやっぱり思いますね。勝手に期待しときます(^^)。

 

※第3弾出ました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

 

 

 

 

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『太陽は動かない』映画 原作小説2作 まとめて紹介!

こんばんは、紫栞です。
今回は吉田修一さんの『太陽は動かない』『森は知っている』の二作品の紹介と感想を少し。

太陽は動かない (幻冬舎文庫)

 

鷹野一彦シリーズ
『太陽は動かない』『森は知っている』は産業スパイの鷹野一彦を主役とした【鷹野一彦シリーズ】のうちの二作。シリーズは2020年5月現在3冊刊行されていて、一作目が『太陽は動かない』、二作目が『森は知っている』、三作目が『ウォーターゲーム』

 

今年『太陽は動かない』のタイトルで映画公開予定(※延期されていましたが、2021年3月5日に公開決定しました)なのですが、原作として使われているのが『太陽は動かない』と『森は知っている』の二作らしいので、まずこの二作を読んでみました。

『怒り』『悪人』など重厚な人間ドラマを描くことで有名な吉田修一さんですが、

 

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このシリーズは産業スパイが主役ということで、超直球でド派手な“スパイ大作戦”が展開されるというTHE・エンタメな作品になっています。吉田さんのファンの人ほど新鮮なシリーズになっているようですね。

 


心臓に爆弾!
かつてNHKで計画されていたアジアの情報を日本で集めてネットワークを作り、各世界のニュース局も合わせて24時間のワールドニュースを放送しようという、『GNN構造』
スキャンダルにより頓挫してしまったが、この計画のために使われるべき金がプールされて作られたのが、主役の鷹野や部下で相棒の田岡が所属している「AN 通信」で、表向きネットでアジアの情報を発信する小さな通信会社ですが、実体は機密情報を高値で売ることを目的とする諜報活動をしている組織。
アジア各国から集めた情報を大衆のために使うことから、一部の者たちのために使うことにシフトチェンジされたという設定なのですね。(※NHKはもう関係していない組織とされている)

 

で、この「AN 通信」なんですが、諜報員をどうやって調達しているのかというと、主に親から虐待などを受けている子供を秘密裏に引き取り、徹底的に訓練して諜報員に育て上げるというもの。
そうして「AN 通信」の諜報員になった者には情報の持ち出しを防ぐために心臓に爆弾が埋め込まれる。毎日決まった時間に上司に報告を入れないと遠隔操作でボンっ!とされてしまう訳。


スパイ活動をしているなかで毎日定時連絡入れなくちゃいけないのですよ。仕事内容的に規則正しい生活が出来るハズもないですし、取り込み中で連絡が出来ないような状況下はもちろんですが、単に寝過ごしちゃっただけでも駄目なんでしょうからかなりキツい。
危険なミッションをこなすことの他に、定時連絡をしないと死んでしまうという危機と、自身の命を常に他者の思うままにされている諜報員たちの心情が物語りに緊迫感とドラマを与えています。

 

 

 

 

 


では順番にご紹介。

 

 

 

 

 

 

●『太陽は動かない』

 

太陽は動かない

太陽は動かない

 

次世代エネルギー開発の利権争いを巡ってのゴタゴタが描かれる作品。


鷹野と部下の田岡コンビが中心として展開されますが、他にも鷹野の商売敵で昔からライバル関係にあるハンサムスパイのデイビット・キム、謎のゴージャス美女のAYAKO、色々と複雑な事情がありそうな鷹野の上司・風間など、スパイものではお馴染みで“いかにも”なキャラクターたちが登場しています。

 

スタジアムが爆破され、ヘリが落され、船が沈められて、田岡は捕まって拷問されるし、鷹野も捕まって拷問されるし・・・もう、スパイもので起こりそうな事柄すべてが詰め込みました!な、ストーリー。

読みながら「損害額が・・・」とか要らん心配をしてしまう(^_^;)。映画化されるのですが、原作通りにするなら相当制作費かかるだろうなぁと思う。今まで「映像化不可能!」とか言われていたらしいですが(この謳い文句は結構何にでも付けられていたりしますが・・・)、予算のせいでそう言われていたのですかね。

 

情報戦のやり取りが割とややこしく、完全には理解出来なくって部分的にフワッと読んでしまったのですが(^^;)。派手な展開をしてくれるのと、各登場人物たちにその都度感情移入出来るので面白く読めます。
こういった産業スパイものだと裏切りや人材の切り捨てが当たり前の殺伐とした世界が描かれがちですが、今作は出て来る人物たちがスパイだったり政治家だったりするものの、弱さがあったり、最終的に良心を棄てきれないような人間味溢れる人物が多く、巻き込まれて拉致された発明家や船員さんたちまで良心的。本来ならもっと悪意にまみれそうな場面なのですけどね。読むと「人間、棄てたもんじゃないな」と。

 

メインの鷹野と田岡もお互いが危機に瀕していると全力で助けようとしていて、これもスパイらしからぬ良さが。上司の風間さんもね。
デイビット・キムやAYAKOは時と場合によって敵にも味方にもなるという、スパイものの醍醐味的なキャラクターで楽しませてくれます。終盤のところとか「デイビット~!」って叫びたくなる箇所が。この二人はシリーズで今後も出続けてくれるのを希望。

 

エピローグの「大草原」で乗馬している様子が平和的でほっこりする。死にいつも晒されている鷹野や田岡にも気を抜くことが出来る時間があることにホッとしますね。

 

 

 

 

●『森は知っている』 

森は知っている (幻冬舎文庫)

森は知っている (幻冬舎文庫)

 

こちらは鷹野が17歳の時のお話。鷹野は虐待していた親の元から離れた後、風間さんの家で家政婦さんに面倒を見てもらいながら過していたのですが、数年前から南蘭島という南の島で普通の高校生活をおくる一方で、諜報機関の訓練を受けているという設定。


ある日、同じく「AN 通信」諜報員として訓練を受けていた親友・柳が鷹野に手紙を残して失踪。逃亡なのか、裏切りなのか、柳の行方を案じながらも鷹野は訓練の最終テストとなる初仕事に挑むが――。
な、お話。

 

収容所みたいな施設での訓練かと思いきや、自然豊かな南の島で普通の高校生をしつつという、「最後に人並みの青春もさせてやる」みたいな訓練生活。
友達とワチャワチャ騒いだり、転校生の女の子・詩織との淡い恋が繰り広げられる裏で、スパイ教育を受けているというギャップが読んでいてやるせない。どんなに楽しい青春を過していても、18歳になって待ち受けているのは心臓に爆弾を埋め込まれてのスパイ活動ですからね。他同級生と同じように卒業後の進路を夢見たり出来ないし、恋をしても組織とは無関係の一般人との将来なんて考えられないし、若き鷹野の心境を思うと悲しくて切ないです(-_-)。


個人的に、この詩織ちゃんと鷹野の何気ないやり取りや恋模様の淡さ具合が好ましかったですね。生々しいところまでいかない匙加減が良い。お互いに“なんてことはないけど大切な思い出”になるのだろうな~と。

 

デイビット・キムとの初対面や、風間さんが足を失った理由なども知る事が出来て、前作を読んでいる読者には嬉しいです。こちらを先に読んでから『太陽は動かない』を読んでも良いと思います。「鷹野・・・立派になって・・・!」って感じになるかな。
風間さんも、家政婦の富美子さんも、鷹野のことを非常に思いやっていて感動します。過酷な環境下に置かれている鷹野ですが、身近にこういう人がいてくれているということに救われますね。
デイビットは昔っから鷹野とこんな感じだったのかと、読んでいるとなにやら愉快な気分になる。
柳やその弟の寛太は今後シリーズで触れられることはあるのですかね?気になるところです。

 

一作目の『太陽は動かない』や三作目の『ウォーターゲーム』から考えると番外編的位置付けのお話なんでしょうが、本編とはまた違った面白さがあってグイグイ読ませてくれます。田岡が登場しないのは少し寂しいですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

映画・ドラマ
映画は2020年5月公開予定でしたが、感染症の騒動により公開延期となっています。

キャスト
鷹野一彦藤原竜也
田岡亮一竹内涼真
風間武佐藤浩市
デイビット・キムピョン・ヨハン
AYAKOハン・ヒョジュ
柳勇次加藤清史郎
菊池詩織南沙良

 

タイトルは『太陽は動かない』ですが、柳や詩織ちゃんがキャストに組み込まれているので、回想という形で『森は知っている』の内容も映画で描かれるのかなぁと思います。

鷹野の同僚で田岡の指導をした「AN 通信」エージェントとして原作には登場しない山下竜二(市川隼人)たる人物がいることと、原作では重要人物の一人だった青木優の名前が映画紹介に書かれていないので結構オリジナル要素が入るストーリーなのかも知れないですね。


映画と連動しての企画だったWOWOWドラマ『太陽は動かない-THE ECLPSE-』は予定通りに放送開始されています。全6話。

 

ドラマ版は原作者・吉田修一さん原案によるオリジナルストーリーになっているようです。無料配信されている一話目を観たのですが、鷹野と田岡が組まされることになっての初事件になっていました。原作ではこの二人の初対面は描かれていないので、原作ファンにとっても興味深いお話ですね。

 

 

 

 

 

 

 

一日を生きる
設定からして、鷹野たちが所属する「AN 通信」は非人道的組織に違いはないのですが、作中では「AN 通信」の本部に対しての批判だとか怒りだとかは描かれていません。“本部”自体が存在感を持っていない作品なのですよね。いまのところ・・・と、いうだけかも知れませんが。


心臓に爆弾が埋め込まれているという特殊設定を使ってこのシリーズが描きたいのは「一日を生きる」ということだと思います。

 

「生きるのが苦しいんなら、いつ死んだっていい!でも考えてくれ!今日死のうが、明日死のうがそう変りはないだろ!だったら、一日だけでいい・・・・・・、ただ一日だけ生きてみろ!そしてその日を生きられたなら、また一日だけ試してみるんだ。お前が恐くて仕方ないものからは、お前は一生逃げられない。でも一日だけなら、たったの一日だけなら、お前にだって耐えられる。お前はこれまでだって、それに耐えてきたんだ。一日だ。たった一日でいいから生きてみろ!(略)」

 

作中で風間さんが幼い頃の鷹野に言う台詞なのですが、まるで今生きるのが辛いと苦しんでいる人すべてへのメッセージのように思えますね。

 

「AN 通信」では35歳まで任務を無事遂行できれば爆弾を外されて自由の身となり、望みを何でも一つかなえてもらえるという約束があります。信憑性は定かでなく、そんな約束が果たされるのを夢見るのは馬鹿馬鹿しいとされていますが、シリーズの最後に鷹野がどうなるのか見届けたいものです。


とりあえず、私は三作目の『ウォーターゲーム』を読まないとですが(^_^;)。

 ※読みました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

太陽は動かない

太陽は動かない

 

 

 

森は知っている (幻冬舎文庫)

森は知っている (幻冬舎文庫)

 

 

 

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七瀬ふたたび シリーズ三作品 小説・ドラマ・映画・・・諸々まとめ

こんばんは、紫栞です。
今回は筒井康隆さんの七瀬シリーズを紹介したいと思います。

七瀬ふたたび (新潮文庫)


七瀬シリーズ】(「七瀬三部作」「七瀬もの」)は1972年から1977年の間に刊行された筒井康隆さんの初期の代表的シリーズ。
生まれながらに人の心を読むことが出来る精神感応能力者(テレパス)である火田七瀬(ひた ななせ)という、うら若き美女が主役として活躍するシリーズで、家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』の三作品が合わせてそう呼ばれます。


しかし、主役が同じ七瀬で時系列も順番であるものの、三作品とも趣はまったく異なりますので、通常思い浮かべるような“シリーズもの”とは違うアクロバティックな発展をしているのが特徴ですね。

 

 

 

三作品・概要

 

家族八景は18歳~20歳手前までの、住み込みのお手伝いさん時代が描かれています。第67回直木賞候補作。

家族八景 (新潮文庫)

家族八景 (新潮文庫)

 

 目次
●無風地帯
●澱の呪縛
●青春賛歌
水蜜桃
●紅蓮菩薩
●芝生は緑
●日曜画家
●亡母渇仰

連作短編で、タイトルの通り8編収録されています。


“お手伝いさん”として転々と移り住む七瀬が、八軒の家人たちの虚偽を抉り出すというもの。
簡単にいうと、ドラマ『家政婦は見た』のテレパス版で、「家庭」という小さなハコの異様さや危うい均衡が「家政婦」という家人以外の外側からの視点が入ることで崩壊する様などが描かれています。
テレパス云々の前に、年頃の美人がお手伝いさんとして家に住み込めばトラブルが起きるのは必至だろうとは思いますけどね(^_^;)。七瀬が読み取る男たちの心の声がえげつない。一体男性というのは、そんなに美女を前にすると即スケベなことを考えるものなのか・・・。作品と作者自身を同一視するなといいますが、少なくとも作者はそうなのかなぁ~とかどうしても思っちゃいますね・・・。朴念仁というか、色欲が薄い男性もいそうなものですが。
成長と共にグラマーになり、性的な関心ばかり向けられるようになった七瀬は限界を感じ、最終話の「亡母渇仰」でお手伝いさんを辞めることを決意します。

 


二作目の『七瀬ふたたび』は 

七瀬ふたたび (新潮文庫)

七瀬ふたたび (新潮文庫)

 

 

20歳になり、お手伝いさんを辞めた七瀬は、母の実家に向かうために乗った夜行列車内で七瀬と同じくテレパスである幼い少年・ノリオと、予知能力を持つ青年・恒夫と出会う。恒夫は列車が事故に遭うことを予知し、七瀬ら三人は途中の駅で降りて難を逃れる。
その後、七瀬はさらに念動力(テレキネシス)を持つ黒人・ヘンリー、透視能力を持つ西尾、時間遡行が出来るタイム・トラベラー・藤子と、次々と超能力者と出会い、協力し合ったり時には対決したりする。
能力者であることを隠すためにノリオ、ヘンリーとの静かな生活を求め、北海道にホステスで貯めた金で家を買った七瀬は、カジノでテレパス能力を使って生活費を稼いだことから謎の超能力者抹殺集団に存在を知られてしまい・・・。

 

という、『家族八景』とはうって変わっての超能力バトルサスペンスもの。
シリーズのなかでは一番エンタメに特化していて、映像化を何度もされていて知名度が高いのが『七瀬ふたたび』だと思います。
“七瀬ふたたび”という、タイトルが印象的で良いですよね。一作目を知らない人にとっては何で“ふたたび”なのか分からないとは思いますが。
次々に新たな能力者と知り合っていく過程や対決などが面白いです。スピード感のあるストーリーで、特にラストの超能力者抹殺集団(おそらく国が直接関わる集団)との戦は展開があまりにも早くてビックリする。「あと何ページもないけど収拾つくのこれ?」と、ハラハラして・・・ハラハラしたまま終わる

 

 


三作目の『エディプスの恋人』 

エディプスの恋人

エディプスの恋人

 

 はシリーズ最終作。前作のラストからは想像も出来ない続編となっていて、なんと言ったら良いのか分からない代物になっています。SFではあるとは思いますが。とりあえず、とんでもなくぶっ飛んでいる作品
詳細は後述しますが、ストーリーの都合上か、シリーズのなかで今作だけは一度も映像化されていません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラマ・映画・漫画

 

家族八景は今までに単発ドラマが2本、連続ドラマが1作制作されています。

 

1978年版はTBS系列の『東芝日曜劇場』にて「芝生は緑」というタイトルで単発ドラマとして放送。多岐川裕美さんが火田七瀬を演じました。

 

1986年版はフジテレビ系列の木曜ドラマストリート枠で家族八景 18歳の家政婦は見た!!すべての秘密は今暴かれる?』と、なんとも時代を感じさせる長いタイトルで単発ドラマとして放送。火田七瀬役は堀ちえみさん。

 

2012年版はTBS系列の深夜ドラマ枠で家族八景 Nanase,Telepathy Girl’s Ballad』のタイトルで連続ドラマ化。火田七瀬役は木南晴夏さん。

 

 原作のお話はすべてやっていて、七話目の「知と欲」はドラマオリジナルエピソードらしい。
地方では放送されなかったらしく、私はこの連ドラをまったく知りませんでした。『家族八景』を堤幸彦監督が映像化しているなんて、観られていたら絶対に観たのですが・・・残念(^_^;)。

 


漫画
家族八景』は漫画化もされています。

  

 

 

 

 

 

『七瀬ふたたび』テレビドラマ・映画と全部で5回映像化されています。

 

●1979年「NHK少年ドラマシリーズ」版 

NHK少年ドラマシリーズ七瀬ふたたび  (新価格) [DVD]
 

キャスト
火田七瀬多岐川裕美
ノリオ新垣嘉啓
岩淵恒夫堀内正美
漁藤子村地弘美
ヘンリーアレクサンダー・イーズリー 

 

全13話。上記した「芝生は緑」で七瀬役を演じた多岐川裕美さんがこちらでも兼任。放送は「芝生は緑」より後になったものの、制作はこの「NHK少年ドラマシリーズ」の方が先に終わっていたようで、この作品での多岐川裕美さんの七瀬が気に入って、原作者である筒井康隆さんが「芝生は緑」の方でも多岐川裕美さんを七瀬役に推薦したのだとか。

 

 


●1995年「木曜の怪談」版
キャスト
七瀬水野真紀
恒夫袴田吉彦
藤子秋本祐希
西尾筒井康隆

全6回。「木曜の怪談」は1995年~1997年にフジテレビで放送されたテレビドラマ。オカルトチックなドラマを続けて放送するドラマ枠といったもので、その中の1作として放送されました。西尾役を原作者の筒井康隆さんが演じていますね。

 


●1998年「テレビ東京ドラマシリーズ」版

七瀬ふたたび 涅槃原則 [DVD]

七瀬ふたたび 涅槃原則 [DVD]

  • 発売日: 2010/01/29
  • メディア: DVD
 

キャスト
火田七瀬渡辺由紀
ノリオ安達哲
岩淵恒夫谷原章介
漁藤子篠原直美
ヘンリーSLY・ATAGA

全13話。『七瀬ふたたび 超能力者・完全抹殺』のタイトルで放送。こちらにも藤子の父・漁連平役で筒井康隆さんが登場しています。

 

 


●2008年「NHKドラマ8」版

キャスト
七瀬蓮佛美沙子
岩淵恒介塩谷瞬
漁藤子水野美紀
真弓瑠璃柳原可奈子
ヘンリー郭智博

全10回。登場人物の名前が一部変更されていたり、七瀬が介護ヘルパーでテレパス能力に目覚めたのが途中からだったり、岩淵がマジシャンだったり、物語りに七瀬の父親(小日向文世)が深く関わっていたり・・・と、原作とはかなり異なるものになっています。
また、このドラマでは七瀬が“アクティブ・テレパスたる、原作にはない、他者の潜在意識に働きかけることが出来る能力も開花させていたらしいです。おそらく“アクティブ・テレパス”という言葉はこのドラマでのみの造語だと思うのですが・・・どうなのでしょう?


劇場版(2010年)

七瀬ふたたび [DVD]

七瀬ふたたび [DVD]

  • 発売日: 2011/04/07
  • メディア: DVD
 

キャスト
火田七瀬芦名星
漁藤子佐藤江梨子
岩淵了田中圭
真弓瑠璃前田愛
ヘンリー・フリーマンダンテ・カーヴァー
山沢ノリオ今井悠貴

 

筒井康隆作家生活50周年記念映画」として上映された初の劇場版。

原作に忠実に~ということで作られたらしいですが、登場人物の名前から割と変更されていますね・・・。原作との時代背景の違いからラストも違うものになっています。原作のラストはどの時代でも救いがなさ過ぎるものだと思いますけども。この映画だとまだ希望が持てる結末になっている。
制作が難航したらしく、七瀬役もなかなか決まらなかったようですが、クールな美貌が原作に近いと芦名星さんが抜擢されたのだとか。原作者の筒井さんは「もっとも七瀬らしい七瀬」と評されています。

また、この映画の本編前に『七瀬ふたたび プロローグ』という10分間の短編映画が上映されたのですが、七瀬の母親役で初代七瀬役を演じられた多岐川裕美さんが出演しています。監督は中川翔子さんで、これが初の監督作品。中川さんは筒井康隆さんの大ファンでそういうことになったらしい。色々と凄いですね。

 

 


漫画
『七瀬ふたたび』も『NANASE』というタイトルで漫画化されています↓

NANASE(1) (ヤンマガKCスペシャル)

NANASE(1) (ヤンマガKCスペシャル)

 

 

 

 

 

 

 

 


以下、原作小説のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 


宇宙へ
シリーズ二作目の『七瀬ふたたび』は、七瀬とその仲間たちが超能力者抹殺集団に全員殺害されてしまうところで終わっています。

超能力者抹殺集団は国の組織であるらしいというだけで詳細は明かされぬままに、七瀬たちは訳のわからぬ集団に殺されて終わるとあって、読後はポカーンとしてしまいます。


で、「じゃあ三作目の『エディプスの恋人』はどうなっているのだ!」と、慌てて読んでみたらば、前作で死んだはずの七瀬が何故か私立高校の事務職員として登場して益々ポカーンとすることに。

 

ノリオ達のことも抹殺集団のことも触れられぬままに物語りは進み、七瀬は特別な力で守られているらしき男子高校生・智広の謎を追ううちに、その少年と恋に落ちていく。初恋に夢中になる七瀬だが、智広を守っている「意思」の正体に気づく。
少年を守っていたのは亡くなった彼の母親・珠子の「意思」。珠子は死んだあと生前の奉仕精神が見込まれ、「宇宙意思」として選ばれた超絶対者、我々がいうところの「神」となっていた。
「彼女」は息子を溺愛しており、死んで神となった後も息子をその超絶対者的力で守り続け、息子の恋人にもっともふさわしい者として七瀬を選び蘇らせる。

二人が恋人になるようにとりはからった「彼女」の目的は、息子の将来をおもんばかってという他に自身の近親相姦的願望を成就させようというものがあり、息子の“初めて”を七瀬の身体を通して“いただく”ことだった。

かくして、七瀬は破瓜の瞬間に「彼女」に身体を盗られ、「彼」と睦み合っている自分の姿を宇宙視点で傍観させられることとなる・・・・・・。

 

 

 

わけがわからないよ!

と、叫びたい衝動に駆られますね(^^;)。


一応、前作の『七瀬ふたたび』の終盤で多元宇宙の話をしていたりするのが前振りになっているのかとは思われますが、まさか息子を溺愛する全知全能の神を出してくるとは恐れ入りましたといった感じ。こんな神様いやだ・・・。

 

家族八景』で「家庭」という普遍的なハコを描き、『七瀬ふたたび』で秩序を守ろうとする国との戦を描き、『エディプスの恋人』で「神」との接触を描く。
シリーズは段々スケールアップしているという訳ですね。

 

意思の操作も、存在させることも非存在にさせることも思いのままに出来る「神」が相手では、テレパスの七瀬も太刀打ちしようがありません。
すべてが「彼女」の思うままになる世界で、七瀬は自己の非現実感を強めつつも「彼女」の望む“エディプスの恋人”(※エディプスはギリシャ悲劇の最高傑作といわれる『オイディプス王』から。父と知らずに父を殺し、母と知らずに母と交わってしまったオイディプスの悲劇が描かれている戯曲)の役割を果たすしかないという事実を確信したところで物語りは終わっています。

 

 

能力を持ったが故に世間に溶け込めず、国には脅威として抹殺され、遂には「神」に理不尽に存在を弄ばれる。
三作とも趣が異なる作品ですが、七瀬という女性の悲劇の顛末を描いているのがこのシリーズなのだといえるのかもしれません。


火田七瀬の悲劇三部作。気になった方は是非。

 

 

家族八景 (新潮文庫)

家族八景 (新潮文庫)

 

 

 

七瀬ふたたび (新潮文庫)

七瀬ふたたび (新潮文庫)

 

 

 

エディプスの恋人

エディプスの恋人

 

 


ではではまた~

 

 

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金田一少年の事件簿 ドラマ 四代目まで一挙まとめて紹介!

こんばんは、紫栞です。
今回は金田一少年の事件簿の歴代ドラマを一挙に紹介したいと思います。


私は【金田一少年の事件簿】の原作漫画は全巻所持して読破している長年のファンですが、実写ドラマの方もリアルタイムですべて観ていました。そもそも金田一少年の事件簿ファンになった切っ掛けがドラマだったので、原作漫画同様の思い入れで放送されれば見続けていたのです。

 

金田一少年の事件簿】は、1995年に実写ドラマ化されて以来、数年おきにキャストやスタッフを変えながら放送されてきました。すべて日本テレビで制作・放送で、連続ドラマの枠もすべて同じ、土曜日の21時枠。ジャニーズ事務所所属タレントさんが多く主演をしている番組枠。いわゆる、“ジャニーズ枠”と呼ばれる番組枠ですね。
なので、【金田一少年の事件簿】のドラマもジャニーズ事務所所属タレントさんが代替わりでそれぞれ演じられてきました。
今回は、主演俳優さん別に紹介していきたいと思います。

 

 

 

 

初代・堂本剛
メインキャスト
金田一一堂本剛
七瀬美雪ともさかりえ
剣持勇古尾谷雅人

 

初代の堂本剛さん版はスペシャルドラマが2本、連続ドラマが2シーズン、映画が1本制作されました。映画版まで制作されていると、作品としていくところまでいったという印象を受けますね。この初代がヒットしたからこそ代替わりしながら制作され続けているのでしょうが。
ケイゾク』『トリック』などで有名な演出家・堤幸彦さんの出世作で、“男女コンビの掛け合いが楽しい完結型ミステリ”という、堤幸彦監督の定番型は今作から始まったといっていいでしょう。録画して繰り返し観るほど大好きで、ドラマやミステリ、原作漫画など、私にとっては色々と今の趣味に繋がる切っ掛けの作品です。


多くの人に受け入れられた作品ですが、原作を忠実に再現しているといったものではなく、ドラマオリジナル要素が多いものでした。実写化ものだと原作の再現度が作品評価の目安の一つとなっていたりしますが、今作は原作の再現というより、“コミカルさを盛込みつつのホラーテイストミステリ”という堤幸彦監督の演出と、【金田一少年の事件簿】が上手い具合に噛み合ってヒットした作品なのだろうなと思います。

 


スペシャルドラマ(1995年4月)
●学園七不思議殺人事件 

金田一少年の事件簿 学園七不思議殺人事件 [DVD]
 

 記念すべき一作目。当時は高校生が謎解きをするドラマというのは新鮮だったのです。しかも金田一耕助の孫だというし。
放課後の魔術師」の扮装が恐すぎてトラウマ回として有名。私も観てしばらくは頭から離れなくって夜が恐かった(^_^;)。子供だったし。

犯人が原作とは変えられていて、ラストも異なります。
このドラマの最後に続編を希望するかどうかの視聴者投票が行われ、結果として連ドラ化されました。

 

 

●連続ドラマ 第1シーズン 全8話(1995年7月~9月) 

第一話 異人館村殺人事件
第二話 悲恋湖伝説殺人事件
第三話 オペラ座館殺人事件
第四話 秘宝島殺人事件
第五話 首吊り学園殺人事件
第六話 首無し村殺人事件(※原作では飛騨からくり屋敷殺人事件)
第七話 蝋人形城殺人事件(前編)
第八話 蝋人形城殺人事件(後編)

 

一話目の「異人館村殺人事件」は大人の事情で欠番扱いになっているため、VHSは生産途中から、DVDでは最初から「異人館村殺人事件」が抜けていますので、今となっては一話目を視聴するのは困難です。※“大人の事情”について、詳しくはこちら↓

 

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最終の「蝋人形城殺人事件」以外はすべて1時間で完結させていたのは今考えると驚きですね。原作漫画を知った後だとクローズド・サークルの連続殺人ものをよく1時間にまとめていたもんだなと。視聴者としては一週で一つの事件が終わってくれるのは有り難かったですけど。次週に続く!だと、やっぱりテンションが下がりますから。
「首吊り学園殺人事件」の深町君役で窪塚洋介さんが出演しています。

 


スペシャルドラマ(1995年12月)
●雪夜叉伝説殺人事件 

金田一少年の事件簿 雪夜叉伝説殺人事件 [DVD]

金田一少年の事件簿 雪夜叉伝説殺人事件 [DVD]

  • 発売日: 2002/01/23
  • メディア: DVD
 

 速水玲香(中山エミリ)と明智健吾(池内万作)という原作シリーズでの主要人物が、このスペシャルドラマで初お目見え。連続ドラマの「蝋人形城殺人事件」では明智さんの役割を剣持警部に丸々変更されていたので(※以後もそんな感じで明智さんの出番は大幅に削られています)。

しかし、ドラマ版の明智警視は噛ませ犬というか、おまぬけさん役として出てくる脇役で、原作ほどの存在感はまるでないです。原作でも「雪夜叉伝説殺人事件」の時はそんな感じでしたけどね。明智さん人気が出るのは原作でも結構時間がかかった。


終盤に次クール放送だった連続ドラマ銀狼怪奇ファイルの主役・不破耕助(堂本光一)が登場して金田一(堂本剛)と友達として会話するという、なんともサービスなシーンが存在します。

 


●連続ドラマ 第2シーズン 全9話(1996年7月~9月) 

金田一少年の事件簿 悪魔組曲殺人事件 [DVD]

金田一少年の事件簿 悪魔組曲殺人事件 [DVD]

  • 発売日: 2002/02/21
  • メディア: DVD
 

第一話 悪魔組曲殺人事件
第二話 タロット山荘殺人事件(前編)
第三話 タロット山荘殺人事件(後編)
第四話 金田一少年の殺人
第五話 怪盗紳士の殺人(前編)
第六話 怪盗紳士の殺人(後編)
第七話 異人館ホテル殺人事件
第八話 墓場島殺人事件(前編)
第九話 墓場島殺人事件(後編)

 

一話目の「悪魔組曲殺人事件」は原作漫画になくって「ドラマオリジナルか?」と勘違いする人もいるかもしれないですが、CDブックのお話が原作として使われています。 

 CDブックの事件をドラマ化するのは意外だと思った記憶が(この時はもうすっかり原作漫画のファンにもなっていた)
原作のストックの関係か、第1シーズンとは違って一つの事件に二週使う率が上がっていますね。その分、第1シーズンより丁寧に事件が描かれていました。

しかし、原作での人気作「金田一少年の殺人」を一週で終わらしたのには驚き。「異人館ホテル殺人事件」は主演の堂本剛さんのスケジュールの関係だとかで、はじめちゃんが入院。代わりに美雪が探偵役をするというレアな展開でした。ドラマは原作よりもコンビものの印象が強かったので、二人揃っていないのは個人的には不満でしたね(^_^;)。

金田一少年の殺人」に都築瑞穂役で鈴木杏さんが出演しています。

 

 

 


劇場版(1997年12月)
●上海魚人伝説殺人事件

 ドラマシリーズ完結編として制作された劇場版。思いの外爽やかな終わり方をする。
「上海魚人伝説殺人事件」は原作者の天樹征丸さんがこの劇場版用にノベルスで書き下ろしたもので、漫画化はされていません。詳しくはこちら↓

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 劇場版らしく(?)上海での海外ロケをしていて、街中を走り回るシーンがあったりなど、いつもよりアクティブなはじめちゃんが観られる。
ヤン・レイリー役で水川あさみさんが出演しています。実は今作が女優デビュー作。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


二代目・松本潤
メインキャスト
金田一一松本潤
七瀬美雪鈴木杏
剣持勇内藤剛志

 

キャスト・スタッフが一新されての二代目・松本潤さん版。スペシャルドラマ1本、連続ドラマシリーズが1本制作されました。
高校生が主役のシリーズだからキャストが一新されるのはしょうがないにしても、演出も堤幸彦監督から離れてしまったのは観る前からショックでした。この時は堤幸彦監督作品にもどっぷりハマっていたので・・・。


初代とは違う、“新しい金田一少年の事件簿”を作ろうという意気込みが感じられる作品で、近代的というか・・・スタイリッシュ?な、ドラマシリーズでした。初代にあったようなコミカルさやホラーテイストはほぼ無し。はじめちゃんがクールな人物像に変更されているのがやっぱり一番違和感がありますかね。クールなのに「じっちゃんの名にかけて!」って決めゼリフを言うのがどうしてもチグハグ。美雪は初代や原作での、“しっかり者の優等生お姉さん”な人物から、少し幼い感じになっています。ま、金田一がクールになっているからね・・・。
剣持警部は歴代ドラマシリーズの中で一番原作に忠実に再現されていますね。私は初代の古尾谷雅人さんの剣持警部が大好きですけど。亡くなられたと知ったときはショックでしたね・・・。


金田一少年の事件簿】はブレザーの制服イメージが強いのですが、今作では学ランにセーラー服の写真がポスターなどに使われていて、ここら辺も“変えてやろう”感がありありと。と、いっても、遠出する際も制服を着ていることが多かった初代とは違い、松本潤さん版は制服のシーンがほとんどなかったので制服イメージ自体が薄かったのですけどね。


スペシャルドラマ(2001年3月)
●魔術列車殺人事件 

金田一少年の事件簿 魔術列車殺人事件 [DVD]

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  • 発売日: 2001/09/21
  • メディア: DVD
 

 原作漫画の中で個人的に一番大好きな「魔術列車殺人事件」。初っ端にこの事件をやるということは高遠遙一(藤井尚之)さんを連ドラでも絡ませるのね!って、ことなんですが、残念ながら原作ファンとしては受け入れがたい実写化でした。私の思い入れが強すぎるせいなのでしょうが(^_^;)。
最後にドラマオリジナルで高遠さんと金田一が面会するシーンがあるのですが、これが本当に蛇足。観終わった後に一人で怒っていました・・・。

 


●連続ドラマ 第3シーズン 全九話(2001年7月~9月)

金田一少年の事件簿 VOL.1 [DVD]

金田一少年の事件簿 VOL.1 [DVD]

  • 発売日: 2001/12/21
  • メディア: DVD
 

第一話 幽霊客船殺人事件(前編)
第二話 幽霊客船殺人事件(後編)
第三話 仏蘭西銀貨殺人事件
第四話 黒死蝶殺人事件(前編)
第五話 黒死蝶殺人事件(後編)
第六話 速水玲香誘拐殺人事件
第七話 魔犬の森の殺人
第八話 露西亜人形殺人事件(前編)
第九話 露西亜人形殺人事件(後編)

 

一話・二話の「幽霊客船殺人事件」は漫画ではなくノベルス二作目が原作に使われています。

事件のラインナップを見ると、旅行先での事件ばっかりで学校関連のものが一つもない。どうりで制服着ているイメージが皆無なはずですね。
今作では玲香ちゃんの役を酒井若菜さんが演じています。金田一と美雪の小学校時代の同級生という、「仏蘭西銀貨殺人事件」のますみちゃんと同じような設定に変更されていて、原作のように美雪とバチバチしたりはしない。


露西亜人形殺人事件」で高遠さんが再登場しているのですが、ワイルドで妙にイケイケな容貌という謎のイメチェンをしているのが意味不明だった。ほんとうに謎。
「黒死蝶殺人事件」の斑目揚羽役(※原作では女性)で成宮寛貴さんが、「魔犬の森の殺人」の二ノ宮朋子役で綾瀬はるかさんが出演しています。

 

 

 

 

 

 

三代目・亀梨和也
メインキャスト
金田一一亀梨和也
七瀬美雪上野樹里
剣持勇加藤雅也

 

スペシャルドラマ(2005年9月)
●吸血鬼伝説殺人事件

 

亀梨和也さん版はスペシャルドラマ1本のみ。DVD化などもされていなくって、もはや幻の作品ですね。なかったことにされている・・・のか?

 

※2022年6月追記。新しいドラマが放送された影響か、ディスク化されました!↓

 

 


またキャスト・スタッフを一新。お話はボンベイタイプいすぎだろ」と散々言われる「吸血鬼伝説殺人事件」です。

 前シリーズよりもさらに初代や原作とは別物の【金田一少年の事件簿】を作ろうというのはわかりますが、金田一はじっちゃんの事を嫌っているし、美雪はスポーティなサバサバ系女子になっているし、剣持警部はイケオジになっているし・・・もはや高校生が謎解きをするというだけの別作品になっている。

違いすぎているため逆に怒りは湧いてきませんが、視聴者としては「迷走してるな~」という感想を抱いてしまいますね。
続編を希望するメッセージが書かれた扇子を剣持警部が仰いでいるところで終わっていますが、制作陣の問題か、原作との兼ね合いの問題か、単純に視聴者に受け入れられなかったためか、続編が制作されることはありませんでした。

 

 

 


四代目・山田涼介版
メインキャスト
金田一一山田涼介
七瀬美雪川口春奈
剣持勇山口智充

 

山田涼介さん版はスペシャルドラマが2本。連続ドラマが1本制作されました。
前作品たちから、悪戯に変更して奇をてらっても駄目だというのを学んだのか、キャスト・スタッフは一新されているものの、初代の制服やBGMを使っていたりと、原点回帰しています。山田涼介さん版の演出を担当している木村ひさし監督は、初代の演出をしていた堤幸彦監督の作品に助監督として多く参加していて、演出の雰囲気も似通っているところがあるのですよね。
金田一や美雪の設定も原作とほぼ同じ。序盤の方では原作の金田一の髪型を微妙に再現していたのが微笑ましい。


今作は他のシリーズより剣持警部の出番が少なめで、登場するのは連ドラ版から。佐木竜二(有岡大貴)始め、ミス研メンバーの出番が多めで青春モノ感が強いですかね。高遠さん(成宮寛貴)は最初のスペシャルドラマからシリーズ全体に関わっています。

 


スペシャルドラマ(2013年1月)
●香港九龍財宝殺人事件

金田一少年の事件簿 香港九龍財宝殺人事件 [DVD]
 

 日本テレビ開局60周年記念作品として制作され、海外ロケや海外俳優さんが出演したりと豪華なスペシャルドラマ。が、外国人俳優さんの台詞はまさかの声優さんによる日本語吹き替えになっていて笑ってしまう(^^;)。最初に観たときは衝撃でしたね。


初っ端に高遠さんが少し登場しているのですが、「どうした!?」って感じの奇怪な登場と扮装だった。メイントリックもちょっと笑ってしまうようなものでしたね。

 


スペシャルドラマ(2014年1月)
●獄門塾殺人事件

金田一少年の事件簿 獄門塾殺人事件 [DVD]

金田一少年の事件簿 獄門塾殺人事件 [DVD]

  • 発売日: 2014/03/26
  • メディア: DVD
 

 一発目のスペシャルドラマの後に連ドラをやるのかと思いきや、何の音沙汰もなく丸一年経ってまたスペシャルドラマ。原作では日本が舞台のお話なのですが、このドラマでは何故か舞台がマレーシアの密林の中になっていて、登場人物も一部外国人に変更されています。本当に謎の変更。
「香港九龍財宝殺人事件」に登場した李(リー)刑事(ウー・ズン)が再登場。また日本語吹き替えである。吹き替えをしていた声優さんが浪川大輔さんから東地宏樹さんに代わっています。

 


●連続ドラマ 第4シーズン 全九話(2014年7月~9月) 

第一話 銀幕の殺人鬼
第二話 ゲームの館殺人事件
第三話 鬼火島殺人事件(前編)
第四話 鬼火島殺人事件(後編)
第五話 金田一少年の決死行(前編)
第六話 金田一少年の決死行(後編)
第七話 雪影村殺人事件
第八話 薔薇十字館殺人事件(前編)
第九話 薔薇十字館殺人事件(後編)

 

この連続ドラマは金田一少年の事件簿N (neo )』のタイトルでの放送でした。
原点回帰な作品ですが、初代の時にはいなかった高遠さんが関わってくるので、そこら辺は大きく違う。

原作や二代目・松本潤さん版では「魔術列車殺人事件」で高遠さんが犯人として出て来て、金田一に真相究明されて一旦逮捕されたものの脱獄、その後犯罪コーディネーターとなる・・・ってな流れですが、今作では高遠さんが最初から犯罪コーディネーターで、金田一の事が気になってちょっかい出してくるという設定なので、原作ほど因縁のライバル感はないです。最後の「薔薇十字館殺人事件」では共闘していますしね。

個人的には松本潤さん版の高遠さんより今作の成宮寛貴さん演じる高遠さんの方が好きです。
原作の後半での事件が多いなか、かなり前の作品であるノベルス版の「鬼火島殺人事件」が入っているのが驚き。体力重視なトリックを実写で観ることができたのには感謝をするべきなのかもしれない。

 

 

 


以上、2020年現在四代目まで。

 

 

 

 

 

 

 

 


五代目は・・・?
四代目まで紹介してきた訳ですが、今後五代目のドラマが作られることは果たしてあるのでしょうか。


漫画【金田一少年の事件簿】は【金田一37歳の事件簿】に引き継がれる形で完結しているので、「少年」の方はもうドラマ化はないかなぁ~という気はします。

 

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「少年」の方も実写化していない事件はまだ数がありますので、やろうと思えば出来るんですけども。
でもやっぱり、今現在連載・話題になっているのは「37歳」の方なので、今実写化するとなったらこっちなのでは。
初代から20年以上経っていますし、最初の頃の事件をリメイクするとかもアリなんじゃないかとは思いますけどね。現に金田一耕助ものとかは同じ事件を役者やスタッフを変えて何度も放映していますし。

 

※2022年4月から五代目新作ドラマ放送が決定しました!詳しくはこちら↓

 

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もし【金田一37歳の事件簿】を実写化するなら、やっぱり初代の堂本剛さんに演じて欲しいなぁと思ってしまうところ。年齢もピッタリだし。しかし、「37歳」はまだ美雪が登場していないし、もうちょっと話が進んでからでないと駄目ですかね。やっぱり初代キャストでやるなら堂本剛ともさかりえコンビで事件追っているのが観たいし・・・。剣持警部や明智さんの問題もある。正直、明智さんは代えてくれたほうが・・・と、思う(^_^;)。

 

原作では人気があって主要人物のうちの一人である明智さんですが、ドラマでは初代のスペシャルドラマなどにちょろっと出た程度で、その後のドラマシリーズでは存在ごと省かれています。人気があるぶんキャスティングしづらいのか、出したら主役を食ってしまうからなのか・・・もし今後ドラマ化があるなら実写版の明智さんにも期待したいところですね。

 


ファンとして、どんな五代目ドラマになろうとも見届けたい所存です。夢を見ながら待つ!

 

 

 

 

ではではまた~

犬養隼人シリーズ 4作まとめて紹介!あらすじ・概要・映画など~

 

こんばんは、紫栞です。
今回は中山七里さんの【刑事犬養隼人シリーズ】をまとめたいと思います。

切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人 (角川文庫)

犬養隼人シリーズとは
犬養隼人は警視庁捜査一課の刑事として、中山七里さんの作品に度々登場する人物。各シリーズで世界観を同じくしている中山七里作品ではお馴染みの脇役刑事さんでして、【刑事 犬養隼人シリーズ】はその犬養隼人が主役として活躍しているシリーズです。
昨年から中山七里作品をちょこちょこ読んできたのですが、

 

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今度は【刑事犬養隼人シリーズ】の四作目「ドクター・デスの遺産」が映画化されると知ったので、このシリーズをまとめて読んでみた次第です。

 

犬養隼人がどんな人物かというと、野郎の嘘を見抜くのが得意な警視庁内では検挙率一・二を争う刑事。
端正なルックスの持ち主で、刑事になる前は俳優養成所に通っており、その頃に表情筋の動きや無意識下の仕草などで嘘を見抜く技術を習得。しかし、なまじルックスが良いおかげで若いころから女性に困ったことがなく、向こうから次々に寄ってくるので今まで相手女性の気持ちを汲むこともなくここまできてしまったためか、現在30代半ばでバツ2の独身。男ぶりはいいものの、女心にはとんと不得手な〈無駄に男前な犬養〉という称号を警察内で与えられている。


と、なんだか同性にとっても異性にとっても腹立たしいような人物設定ではありますが(^_^;)。クールで優秀な刑事ですので、上司や同僚には信頼されています。

 

最初の奥さんとの間に病気療養中の一人娘がおり、月に一度は必ず娘のいる病院に見舞いにいくことを己に課しています。なので、長編では毎回お見舞いに行くシーンが挿入されています。娘は犬養に対していつも冷ややかな態度ですが、このシーンでいつも事件への士気を高めたり発想のヒントを得たりするといった流れ。

長編ではダークヒーローというか、有名な悪役の名称を綽名とする犯人と対峙するのを決まりとしているようで、社会問題をテーマとして扱う推理小説。中山七里作品なので、もちろん終盤にはどんでん返しあり。社会問題を扱いつつ、ラストはどんでん返しで読者をアッと言わせるのは中山七里作品でよく見られる特徴ですね。

 


では、シリーズを刊行順にご紹介。

 

 

 

 

 

 


●「切り裂きジャックの告白」 

  長編。
臓器をすべてくり抜かれた死体が発見される事件が続けざまに発生。犯人は「ジャック」と名乗ってテレビ局に犯行声明文を送りつけてくる。“切り裂きジャック”の模倣、愉快犯の無差別殺人かとみられたが、捜査していく中で被害者達はいずれも近年に臓器移植をうけた患者達であることが判明。犯人「ジャック」も世間に向けて驚きの告白をして――

と、いったお話。

連続殺人犯として世界一有名な通称「切り裂きジャック」。今作は1888年切り裂きジャックが死体に施した損壊、“臓器を切り取る”という箇所を使い、現在の臓器移植問題が絡んだ事件を描いているのが秀逸な点。最初、猟奇性に気を取られるが実は・・・といったものですね。

読者が特に猟奇的な犯行に関心が囚われてしまう理由の一つとしては、同作者による『連続殺人事件カエル男事件』が念頭にあるからというのもあると思います。

 

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 事件の概要が似ていますし、『連続殺人事件カエル男事件』の主役・古手川が警視庁に出向中で犬養とコンビを組んで相棒として登場しているのもまたダメ押し。時系列としては、今作は『連続殺人事件カエル男』事件の後となります。なので、古手川の成長も少し拝める後日談として読むことも出来ますね。古手川の無数にある傷跡を見て、「歴戦の勇者」なんじゃないかと犬養が勘ぐるのが可笑しい。そう、古手川は不死身だから・・・。

 

臓器移植云々なお話であり、事件が起こったことによって世間で臓器移植に対しての議論が巻き起こる・・・と、いう中山七里作品お馴染みの展開をする訳ですが、これも毎度のことながら、世論がこんな極端な移植反対意見に傾くのかという疑問が。
しかし、臓器移植を受けた後も免疫抑制剤の投与を続けなければいけないとか、品行方正な生活をしていないと批判の対象になるなど、改めて気付かされる部分も多かったです。移植手術すればすぐ元気になって治療も終了するのだと思いがちですが、それは間違いなのだなぁと。
ミステリとしては予想通りの犯人と見せかけてどんでん返しがあり、最後の最後まで楽しませてくれます。「どんでん返しの帝王」とあって、中山七里作品だといつも「このままでは終わらないんでしょ?」と期待してしまうのですが、その読者の期待に今作も応えてくれています。
しかし、「息子はまだ生きている」と提供した臓器に固執する母親がでてくるのですが、この母親の心情と最終的に判明する真相とが合致しなくて不自然さが残りました。この母親なら“ジャック”のやった事が許せなくって怒り狂うと思うのですけどねぇ・・・。

 

 

 

●「七色の毒」 

 短編集。
一 赤い水
二 黒いハト
三 白い原稿
四 青い魚
五 緑園の主
六 黄色いリボン
七 紫の供花
と、タイトルの通り、それぞれ色の違う毒が描かれる七編収録。


私は中山七里さんの短編集を読むのはこの本が初だったのですが、40ページほどの短編でもキチンとすべてに驚きの真相・どんでん返しがあるのにはしました。毒っ気の強い悪意が見え隠れする、個人的に非常に好みの短編集です。
ミステリの仕掛けは勿論ですが、収録されている七編はどれも実際に世間を一時騒がした事柄が盛込まれていて、読んでいると当時のニュース・マスコミ報道などの記憶が蘇ってきますね。「白い原稿」に至ってはあまりにも“まんま”で何だか笑ってしまいます。かなり攻めてるなぁと。心配になるほどです。やっぱり作家としては“あの人”の小説家デビューの仕方は思うところがおありなのでしょうね(^_^;)。

私が特に好きなのは「黄色いリボン」。子供の視点での語りでSFチックで幻想的な話が展開されるも、最後に明かされる真相は超現実的な毒。他の短編も長編もそうですが、中山七里作品は色々な要素を欲張りに盛込みつつも、最終的にはしっかりどんでん返しミステリとして話しをまとめているのには感服しますね。短編だと特にこの部分の作者の技量を感じることが出来ます。

 

 

 


●「ハーメルンの誘拐魔」

 長編。
記憶障害を患っている15歳の女の子が、母親と一緒に外出中に忽然と姿を消した。現場には生徒手帳と「ハーメルンの笛吹き男」の絵葉書が。その後も少女が誘拐される事件が連続して発生。誘拐された少女たちは皆、子宮頸がんワクチンに関わる子たちだった。そんな中、「ハーメルンの笛吹き男」から、製薬会社と産婦人科協会に70億円の身代金を要求する手紙が届き・・・な、お話。

子宮頸がんワクチン被害問題がテーマ。一時報道番組などで取り沙汰されていたことは覚えがあるのですが、記憶障害の病状まで起こるとは知らなかったな~と、思いながら読んでいたのです。
が、読後に少し調べたところ、子宮頸がんワクチン被害に関してはまだ全容が明らかにされているとは言い難く、まったく別の意見や派生問題などもあって、作品で「これが真相だ」というように扱うのは危険というか、アンタッチャブルなテーマのようです。なので、『ハーメルンの誘拐魔』は今後も映像化は避けられるのではないかとか言われていますね。
今作を読むと「製薬会社や産婦人科協会許すまじ!」という気になってしまいますが、書いてあることを丸呑みに信じるべきではないのかもしれません。医療問題はやっぱり難しいですね。

 

個人的にはワクチン被害問題への意見よりも、推理小説としてアンフェアな部分が気になってしまってモヤモヤしました。冒頭に被害者の母親視点で誘拐されたときの心境が描かれているのですが、この時の母親の心境が、最後に明かされる事件の真相と辻褄が合わないのですよね。事柄だけではなく、心境面での辻褄も合わせてくれないと駄目だろうと。うーん、ミステリならこういった部分はキッチリさせるのが前提だと思うので、これはいただけないですね。
身代金受け渡しの際の犯人との攻防など、今までにない犬養が見られるのは面白いのですが、最後のどんでん返しを読んでもスッキリしなかったのが残念です。やはり答え合わせは徹底的に。

 


●「ドクター・デスの遺産」

 長編。

警視庁の通信指令センターに少年から通報が。自宅で病気療養中だった父親が、“悪い医者”に殺されたというのだ。最初は子供の悪戯による通報かと思われたが、犬養たちが調べてみると、かかりつけ医ではない医者が確かに訪れていたこと、遺体に治療とは別の薬物が注射されていたこと、さらに、少年の母親が「ドクター・デス」と名乗る“安楽死を20万で請け負う”黒い医者と接触していたことが判明。「ドクター・デス」は自身のサイトで「今までに何例も安楽死を手掛けている」と書いていた。犬養たちはサイトを足掛かりに「ドクター・デス」を追うが・・・な、お話。

今度は安楽死がテーマ。また難しい問題を・・・てな感じですね(^_^;)。「ドクター・デス」って名称、私は知らなかったのですが、積極的安楽死を推奨したジャック・ケヴォーキンという病理学者がその異名で呼ばれていたらしいです。
安楽死を推奨する医者というは、日本だと手塚治虫の漫画作品『ブラック・ジャック』に登場するキャラクター「ドクター・キリコ」が有名ですね。ドクター・キリコ事件」とかありましたし。作中でキリコの話もしてくれるかと期待したのですが、残念ながらしてくれませんでした。しかし、作中のサイト〈ドクター・デスの往診室〉というのは「ドクター・キリコ事件」をモデルにしたのかもしれません。

今作はミステリ的仕掛けというよりも、事が判明してからの終盤の展開が見物ですかね。安楽死は様々な意見があり、明確な正解など見いだせるはずもないものですので、当然色々と考えさせられます。300ページちょっとの話で安楽死の様々な側面がすべて描けるはずもないので、そこら辺はやっぱり物足りなさというか、別意見が言いたい気分になってくる。文庫版では宮下洋一さんの解説が別の側面での問題を指摘していて、補われたようでスッキリしました。

 

 

 

以上、2020年4月現在で4作刊行。

※2020年5月29日にシリーズ5作目となる「カインの傲慢」が刊行されました!

 

カインの傲慢 (角川書店単行本)

カインの傲慢 (角川書店単行本)

 

 

 

 

 

 


医療×ミステリ
シリーズの主要人物は犬養の他に、上司の麻生と三作目『ハーメルンの誘拐魔』からコンビを組んでいる(第一作にも脇で出ている)女刑事・高千穂明日香、そして犬養の娘・沙耶香
沙耶香が肝機能障害で透析治療を受けているという設定のためか、【刑事犬養隼人シリーズ】の長編はすべて医療絡みのものが続いています。主人公の犬養自身は警視庁捜査一課刑事という設定なので、医療物で無理に統一することはないのではないかと思うのですが、今後も医療問題提起が続くのでしょうか。

規格外の弁護士【御子柴礼司シリーズ】

 

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 などと違って、犬養は法律厳守側の刑事なので、その視点での問題提起はどうしても体制批判的になりがちですね。一方的な批判というのは、どんなに正しく思える主張でも読んでいると疲れるもの。真逆の意見というのも一応作中で触れられてはいるのですが、病気の娘がいる犬養視点ですと、どうしても病人側の意見が強めになってしまいますね。
医療とミステリの掛け合わせ作品は海堂さんなどが有名。

 

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医療問題を扱っているとあってネタが被っている部分もあるのですが、医療の部分に関してはやはり医者である海堂尊さんの描き方の方がリアリティを感じます。

 

短編集の『七色の毒』が凄く面白いし、医療問題以外の【刑事犬養隼人シリーズ】長編も読んでみたいなぁ~と思うのですが・・・どうなのでしょう。

 

犬養の娘・沙耶香ですが、シリーズ第一作『切り裂きジャックの告白』では取り付く島もないほど犬養に冷ややかな態度をとっていたものの、シリーズを追うごとに態度が軟化してきています。

『ドクター・デスの遺産』では犬養の前でBL本の説明をしていてビックリした(^^;)。

犬養は妻子ある身でありながら女作って家を出て行った男ですからね(しかも、その女ともすぐ別れた)、娘としては嫌って当然で、病室に通われても気分が悪くなるってなもんですよ。それを普通に会話してくれるようになっているのだから、沙耶香ちゃんは相当いい子ですよね。個人的にはもっと痛い目に遭わせろと思うのですけど。浮気男許すまじ。

 

相棒の高千穂明日香は何故か犬養を嫌っていて、嫌っている理由はまだ明かされずじまいです。ま、妻子ある身でありながら女作って家を出て行った男という事情を知れば、女は皆嫌うかもですが。

しかし、嫌っている割にはことある毎に犬養を巻き込もうとしたりするなど単純に嫌っているということでもなさそうな気配も。今のところ、訳もなく犬養を嫌って捜査で足を引っぱる相棒状態で、やたらとムカムカする存在なのですが・・・今後に期待ですね。

 

 

 

映画・ドラマ
シリーズの最新作である『ドクター・デスの遺産』は2020年映画公開予定です。キャストは犬養隼人綾野剛さん、高千穂明日香北川景子さん。

 

犬養隼人シリーズは2015年と2016年にテレビ朝日スペシャルドラマで2作放送されています。このドラマでは犬養隼人を沢村一樹さんが演じていました。映像化されたのは切り裂きジャックの告白』と短編集『七色の毒』に収録されている「白い原稿」

私はこのドラマを観られていないのですが、沢村一樹さんの方が原作の犬養のイメージには近いですね。原作では犬養は30代半ばの設定なので、年齢はちょっと合わないですが。
原作ですと犬養と明日香はもっと年齢差があるイメージ。なので、映画では色々設定を変更されてになるかもしれませんね。

 

 

 

映画化で気になった方などは是非。

 

 


ではではまた~

 

 

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