夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『朱色の研究』あらすじ・ネタバレ感想 作家アリスシリーズ初期の代表作!

こんばんは、紫栞です。

今回は有栖川有栖さんの『朱色の研究』をご紹介。

 

朱色の研究 「火村英生」シリーズ (角川文庫)

あらすじ

「二年前の夏のことです。・・・・・・私の知っている人が殺されたんです。犯人は、まだ捕まっていません」

夕焼けで一面朱色に染まった大学の研究室で、火村英生はゼミの生徒・貴島朱美から、ある未解決殺人事件の調査を依頼される。

その未解決事件の関係者の一人は『オランジェ夕陽丘』というマンションに住んでおり、このマンションは友人・有栖川有栖の自宅マンションのすぐ近所だった。調査で近くまできがてら友人宅を訪れそのまま泊まった火村だったが、翌日の早朝に有栖川宅に「今すぐにオランジェ夕陽丘の806号室に二人で行け」と電話がかかってくる。

怪しみながらも言われた通りにオランジェ夕陽丘の806号室に向かった二人がそこで見たものは、ある男性の他殺死体だった。

これは犯人から火村への挑戦なのか――?

臨床犯罪学者・火村英生と推理作家・有栖川有栖が過去と現在、二つの殺人事件の謎に挑む。 

 

 

 

 

 

 

 

 

賛否が分かれる作品

『朱色の研究』は【作家アリスシリーズ(火村英生シリーズ)】の初期の長編小説。  

 

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タイトルの『朱色の研究』はシャーロック・ホームズシリーズの長編小説『緋色の研究』のモジリになっています。

 

 (翻訳によっては『緋色の習作』となっている本もありますが…)

 

シリーズの代表作的な扱いをわりと(?)されていて、漫画版では唯一長編でやりましたし、ドラマ版でも初回から伏線が張られて重要な事件としてつかわれていました。(ドラマの事件自体の出来は最悪でしたけどね…)

 

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ですがこの作品、推理小説としては結構特殊なものとなっていて、賛否が分かれる代物になっています。

よく、有栖川ミステリは犯行動機が難解だと言われたりするのですが、『朱色の研究』はその筆頭として名前があがる作品。作中の犯人がしている行動も、その一筋縄ではいかない動機を踏まえないと理解出来ないものになっているので、人によっては解決編を読んでも納得することが難しかったりするかと。

しかしながら、それらも全部ひっくるめて有栖川ミステリらしさが炸裂している長編小説で、主要人物の過去・情景・謎解明に至るロジックまでも“朱色”でまとめあげられた、非常に完成された作品だと感じることが出来ます。だからこそシリーズの代表作として出されるのだろうと思いますし、個人的に私もシリーズの中で特に好きな作品です。

 

火村先生の悩める悪夢の具体的な内容も明かされるとあって、【作家アリスシリーズ】をしっかりと楽しみたいなら絶対に読まなければならない必読の長編ですね。

 

 

 

 

 

二つの事件 

長編ですが、この作品は前半と後半でお話が綺麗に区切れるようになっています。漫画版は上・下巻で二冊、ドラマも二週に分けての放送で、どちらも同じところで分けられていました。

 

 

前半は夕陽丘にある幽霊マンションでの殺人事件に使われた、如何にも推理小説的なエレベーターを使ったトリックの解明を、後半は二年前に起きた宗像家の別荘で起きた殺人事件を調べるべく和歌山に向かい、犯人を特定して解決。

幽霊マンションである種都会的なミステリを、和歌山で旅情ミステリをと、前・後で趣がガラッと異なるのが特徴的で面白いところ。

 

アリスのマンションに犯人から電話がかかってくる。

二人で言われた通りのマンションの部屋へ行ってみるとそこには死体が。

警察の捜査が始まってすぐ、謎の人物に脅迫されて死亡推定時刻にずっと現場にいたという不可解な証言をする男・六人部があらわれる。

現場にいたと主張する一方で、死体など見ていないし事件のことも知らないと言い張る六人部。あまりにも不可解な状況。

彼は嵌められたのか?そして、これは犯人から火村への挑戦なのか――?

な、始まりたかたはワクワクするし、大阪県警のお馴染みの面々を交えての謎解きは、いつものこのシリーズの短編の醍醐味を味わえる通常運転の愉しさ。 

 

六人部を嵌めたトリックを解き明かした後、日を改めて和歌山に向かってからは二時間ドラマ的な旅情ミステリちっくで、和歌山の名所を(何故か)二人でワチャワチャしながら巡っています。これはシリーズの長編での通常運転ですね。

 

「警察署とか目撃者に話し訊きにいくぞ~」と宗像家に車を提供してもらって二人で巡る訳ですが、時間が空いたといって和歌山の観光地にも立ち寄る。調査しますと言って人様の車借りてるのだぞ?と、言いたくなりますが・・・。和歌山で有名な観光地!なので恋人岬にも行っちゃう。

来ちゃったぞ、この人達は。と、読者的には思ってしまうのですが、男二人で場違いなのも気にせず、火村とアリスの二人は「観光地における撮影スポットについて」の議論を交わしていたりする。アリスが原稿用紙一枚分講釈をたれて火村を呆れさせているのが可笑しい(状況も色々可笑しいですが)。

 

このように、事件には関係ないのに観光地を巡るのは【作家アリスシリーズ】の長編では多々あることです。二人のやり取りが面白いので別に良いしドンドンやってくれなのですが、「お話には余計なのに何故?」というのは読んでいると少なからずある。「取材したから書きたいのね」と、いつも勝手にホンノリ可笑しく思って読んでいる・・・(^_^;)。

 

【作家アリスシリーズ】の短編と長編の通常運転の面白さを一緒に味わえる作品。・・・ですが、このような通常運転とは外れた、思わぬ展開と真相が最後に待ち受けて読者の意表を突くのが今作『朱色の研究』です。 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンパシー 

調査の依頼人である貴島朱美は両親や叔父が亡くなったときの過去の経験からオレンジ色恐怖症になってしまった人物。 

トラウマで苦しみつつもそれに立ち向かうために事件調査を依頼してきた朱美に、自身も同じようにトラウマを抱えている火村は少しでも力になれるならと無償での事件調査を引き受ける。

この時点で朱美にシンパシーを抱いている火村ですが、宗像家の別荘で夜中にアリスと宅飲みをしていた最中(自分たちで買い込んできたお酒とお菓子でやってるんですよね、これ。人の別荘でなにしてんだ…)、朱美ちゃんが悪夢をみて悲鳴をあげて飛び起きた場面に直面。これまた自分と同じ癖を持っているとますますシンパシーを抱いたのか、朱美ちゃんを元気付ける為に今までアリスにも明かさなかった自分が度々みる悪夢の具体的内容を語ります。「人を殺す夢」だと。 

 

朱美ちゃんを元気付けるための火村の何気ない告白でしたが、火村を苦しめている悪夢の内容は、アリスにとっては今まで訊くに訊けなかったタブーな話題だったので、思わぬ形で知ることとなり正に棚からぼたもちな出来事でした。

 

「あなたのおかげで私の積年の疑問も解決しました」と、朱美ちゃんにアリスは感謝の意を示していますが、その後の作品(菩提樹荘の殺人』『狩人の悪夢』など)

 

菩提樹荘の殺人 (文春文庫)

菩提樹荘の殺人 (文春文庫)

 

 

 

 

をみるに、火村が悪夢の内容を自分にではなく朱美ちゃんに対して告白したことをアリスは割りと根に持っていたようです。

「長い付き合いの自分にはずっと打ち明けてくれなかったのに…」という悔しいような複雑な心情があるのかもしれません。

朱美ちゃんが部屋に引っ込んだ後、アリスが改めて「お前は、夢の中で誰を殺すんだ?」と訊いたら、「そりゃ、殺したい奴さ。誰だっていいだろうが」と朱美ちゃんに対してとはうって変わってのけんもほろろな返答だったしね・・・(^_^;)。

とはいえ、これは本人が隠したがっている領域にむやみに立ち入るべきじゃないと変に気にして訊くのを憚っていたアリスにも落ち度はあるのですが。(火村は火村でアリスのそういうところに甘えているのかもしれないですがね・・・) 

 

気にかけつつも相手の領域にはズカズカ踏み込まず、静観して見守るというのはアリスの人間性の一つ。 

火村が朱美ちゃんにシンパシーを抱いている一方で、アリスは事件の容疑者の一人である六人部にシンパシーを抱きます。 

色々な目にあった朱美を心配し、恋心を抱きながらもその想いを告げることはせずに長年密かに見守り続けているという六人部にアリスは「彼と私は似ているのかもしれない」と思い、容疑者の一人であることは承知しながらも最初から好印象を持ち、同情的な態度をとる。

 

朱色に囚われている者(火村・朱美)と、朱色に囚われている者を“見ている”者(アリス・六人部)。両者が対比して描かれている訳ですね。

 

 

 

動機

『朱色の研究』は動機が最大の特徴となっている推理小説

「なぜ、犯人は大野夕雨子を殺したのか」

「なぜ、犯人は態々火村に遺体を発見させ、挑戦するような真似をしたのか」

これらの動機の解明がこの物語りの要で、ある意味トリックや犯人を推理することよりもよっぽど難解なものになっています。

 

幽霊マンションの事件で自らの信じがたい証言により筆頭容疑者となった六人部。疑ってくれと言わんばかりの行動と状況に、「犯人心理的に、態々真実味のない嘘をついて容疑者にならうとするのは考えにくい」と、火村は六人部の証言を信じ、エレベーターのトリックを解いて六人部が何者かな罠に嵌められたことを証明。

あらためて二年前の事件を調べるべく和歌山まで赴くのですが、殺害現場を検分し、当時証言者の話や事件当日の映像を観、最終的には日照時間を決め手としてロジックを展開、アリスと二人で話している最中に真犯人を導きだす。

 

なんと、火村が指摘した犯人は火村自身が最初に否定し疑いを晴らす手助けをした六人部だった。

 

読者の意見を代弁する語り手であり、六人部にスッカリとシンパシーを抱いて感情移入していたアリスは当然この見解に納得がいかず、六人部自身になったかのように火村に反論するのですが、言い合いをしている途中で六人部本人がその場に現われ、話が動機についてのことになると今度はアリスが六人部の犯行動機を解き明かして問い質すことに。

 

六人部が大野夕雨子を殺害したのは、大野夕雨子が彼に求愛してきたから。

 

上記したように、六人部は貴島朱美に憧れに似た恋心を抱いていました。想いを告げるかどうか長く逡巡した末、告げずにただ密かに想いを抱き続けることに「こんな純粋な恋はないだろう」と思うようになり、この片想いを自身の拠り所にしていました。

そんな六人部の前に現われ、求愛してきたのが大野夕雨子。口説いてくるからといっても袖にし続ければいいだけの話だろうところですが、困ったことに、大野夕雨子は大変魅力的な女性でした。

 

「彼女の誘惑に迷いそうになる自分がいて、それがあなたの内面で、貴島さんを想う気持ちと戦争を始めたということは?」

 

「――あなたが大野さんに感じた憎しみ。そんなものはない、と怒るかもしれませんが、でもそんな憎しみが、私には実感を持って理解できるんです。私は誘惑者の大野さんを憎むかもしれない、あなたも憎んだかもしれない」

 

まるで信仰を守るために煩悩を誘発するものを排除するといったような、どこか宗教的な思考ですね。

片想いこじらせすぎだろって感じだし、被害者からすれば口説いただけで殺されたんじゃたまったもんじゃないですけど。 

 

 

 

 

 

 

拳銃

大野夕雨子の殺害から二年経ち、今度は共犯者だった山内に半ば脅されるような形になってしまった六人部は、幽霊マンションの空室を利用して山内を殺害する計画をたてる。この計画、何故か六人部自身が進んで容疑者として疑われるように仕向けたもので、ご丁寧に火村とアリスを呼び出し、遺体を発見させ、ダメ押しに向かう途中の二人にわざと自分の姿を目撃させるという意味不明なものでした。

 

「いったん容疑をかぶっておいて、それを晴らして圏外に出てしまうという捨て身の作戦でしょう」

と、火村は言いますが、捨て身すぎる作戦であまりにリスキーであり、それだけの理由でこんな面倒なことはしない。

やはり、こんな変な計画を実行したのは火村への挑戦の意識があったからなのですが、それもまた単純な挑戦意識とは少し違う。  

 

いずれにせよその火村センセイとやらを試してやろうと考えはしたのだろう。自分の計画が火村の探偵としての能力を凌駕していたら大いに満足だし、彼に勝てなくければそれもいい。何故なら、火村がトリックを暴いて彼を救ってくれれば、事件の真相を見誤ったことであり、密かに勝利を確信できる。また、現実にそうなったごとく、火村が真の真相まで探り当てたとしたら、それもよしなのではないか?それは、火村は朱美が用意した探偵という名の装置だからだ。朱美が持ち込んだ装置が作動して、自分を撃つ。彼にすれば、それもまたよしだったのかもしれない。ウェルテルが、恋人の磨いてくれた拳銃で自殺できることに喜びを覚えたのと同じように。

私は火村の横顔を見る。彼にも判っていないかもしれない。

お前は、まるで六人部の拳銃だ。

 

「ウェルテル」というのは、『若きウェルテルの悩み』という“ウェルテル効果”という言葉の語源となっているので有名な文学作品の主人公の名前。

若きウェルテルの悩み (新潮文庫)

若きウェルテルの悩み (新潮文庫)

 

 

六人部は作中でこの本が愛読書だとアリスに語っていました。どうせ破滅するのなら、朱美の手によるもので…という、ほの暗い願望があったと。 

 

客観的にみるとリスキーすぎる犯行計画ですが、六人部にとってはどう転んでも喜びを得られる“旨み”だらけの計画だったということなのですね。

 

 

 

 

アリスの素質

「罠に嵌められたられた人間と、罠に嵌められたふりをしている人間とは、区別ができないんだ。まさか、あれだけ手の込んだ罠に嵌められたふりをするとはね」

 と火村はいうものの、前半の謎解きが丸々茶番で、犯人の思うままに行動してしまったというのは推理小説の探偵役としてどうなんだ?と本格推理小説ファンには疑問を感じずにはいられないかもしれないところではある。最終的には本当の真相に到達できたので良かったとはいえ・・・ね。

 

それに加え、今作では動機面や犯人の説得などはアリスが殆どやってのけているので尚更に火村の活躍を薄く感じる。

六人部の犯行動機や思考は火村には到達できないもの。アリスが到達できたのは、アリスが“朱色に囚われている人物”を見ている側の人間だからで、六人部の朱美への想いと同じく、アリスが火村に恋・・・を、している訳ではないが、ま、同じように「トラウマに苦しんでいる者の力になりたい。しかし、直接的な行動をするのは今の関係に変化を与えてしまいそうで恐く、結局ただ見守ることで満足している」という状況が正に自分が置いている状況と酷似していることと、物事を綺麗に二極化して考えがちで自分の中でのルールは絶対的に頑なな火村とは対照的に、アリスは複雑で微妙な心理の面をこそみようとするところがあるから。

 

作家だからというのもあるかも知れませんが、動機やトリック以外の心理を紐解くのはアリスのほうが火村より秀でていて、犯人の説得などはアリスが担うというのは近年の【作家アリスシリーズ】でよくみられるようになった傾向です。

 

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ただ探偵の活躍を語るワトソン役というだけではない、アリスのこの活躍の仕方は『朱色の研究』が大きな切っ掛けであり、「火村とアリスがどのようなコンビか」ということが改めて示されているシリーズで特に重要な長編です。

シリーズを経て“見守るだけ”だったアリスの心境も徐々に変化していくので、そこら辺も注目してシリーズを読んでいって欲しいと思います。

 

【作家アリスシリーズ】を楽しむには絶対に外せない長編ですので是非。

 

 

 

 

 

ではではまた~

『Another2001』ネタバレ解説!  ”あれ”から3年。最凶の〈災厄〉が訪れる!

こんばんは、紫栞です。

今回は綾辻行人さんの『Another2001』をご紹介。

 

Another 2001 Another (角川書店単行本)

 

あらすじ

1972年の“ある生徒の死”がきっかけとなり、関係者に死人が続出する〈災厄〉に見舞われるようになってしまった夜見山北中学三年三組。 

なかでも多くの犠牲者が出た1998年の〈災厄〉から3年経った2001年。3年前の夏に見崎鳴と出会った比良塚想は、親類の家に引き取られて夜見山市に転居し、夜見山北中学三年三組の一員となった。 

より強固に〈災厄〉を防ぐため、例年よりも特別な〈対策〉を講じる2001年のクラスメイトと教師たちだったが、ある出来事が引きがねとなり、夜見山北中学三年三組はまたしても〈災厄〉に見舞われる。

次々と理不尽な“死”によって犠牲となっていく関係者たち。万全を期した〈対策〉だったのに、いったい何故…。謎は深まり、クラスを更なる異常現象が襲う。

 

〈夜見山現象〉史上、最凶の年。 

 

後にそう語られることになる2001年の〈災厄〉に、想と鳴が立ち向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

大ボリュームのAnother続編!

『Another2001』はアニメや映画にもなった大人気ホラー・ミステリである【Anotherシリーズ】の三作目の長編。  

 

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シリーズ前二作同様、装画は遠田志帆さん。原稿用紙1200枚の大ボリュームと相まって、今回も大変インパクトのある美しい本になっています。

本の帯には“著者7年ぶりの長編新作”と、ある。思わず、「7年なにしてたん」と言いたくなってしまう感じですが(^_^;)、実は今作の執筆に5年の期間を要しているとのことで、それだけ著者の綾辻さん渾身の長編小説なんですね。 

  

私は京極夏彦ファンなので、これぐらいのレンガはどうということもないですが(かといって読むのが早いわけではない)、一般的には目の当たりにするとちょっとビックリする分厚さですかね。辞書レベル。そのぶんお値段もしますし。

 

 

 

 電子書籍もありますが、是非本屋さんで単行本の実物を見て欲しいです。

 

※文庫版も出ました

 

 

 

綾辻さんの文章は読みやすく、話も読者をグイグイと引っ張ってくれる展開をするのでさほど苦もなく読めてしまいます。私は4日ほどかけて完読しましたが、出来れば時間が許す限りずっとぶっ通しで読んでいたいと思う作品でした。

  

相変わらず人がバカバカ死ぬ物騒なお話であり、現実にも手首を痛める、重さで強打する、などの物理的危険も伴う、色々とスリリングな(?)単行本です。ちゃんとした姿勢で読めば別に危険はないのですけどもね…(^_^;)。

 

シリーズ第一作の『Another』で1998年に起こった〈災厄〉が見崎鳴と榊原恒一の二人を中心に描かれ、※【Anotherシリーズ】における特殊設定、〈災厄〉の詳細はこちらでご確認下さい↓

 

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二作目の『AnotherエピソードS』は1998年の夏、合宿での惨劇の前に比良塚家の別荘を訪れた鳴が遭遇した体験が回想の形で描かれる。スピンオフ的エピソード。

 

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三作目である今作『Another2001』は1998年の〈災厄〉から3年経った2001年の夜見山中学三年三組が舞台の物語り。

主役の語り手は『AnotherエピソードS』に登場した比良塚想で、高校三年生となった見崎鳴も主に想の相談役・〈災厄〉に立ち向かう相棒役として登場しています。一作目の語り手である榊原恒一も只今一時的に海外にいるという設定ですが、要所要所で電話という形で重要な示唆を想にしてくれます。ちなみに、鳴とは今でも定期的に連絡を取り合っているらしい。

長年〈夜見山現象〉を観察し続けてきた千曳さんも勿論登場しています。今作では前例のない〈現象〉が降りかかるので、法則性を頑なに信じていた千曳さんは「おかしい」「そんなはずはない」と狼狽するばかりでしたが。

 

他にも一作目『Another』に負けず劣らずの魅力的で特徴的な三年三組関係者たちが登場しています。その魅力的な人たちがいるのが逆に恐ろしいのですけどね・・・普通にしていてもAnotherだと死んじゃうからさ・・・

今回のお話でも様々なバリエーションの死に方が出て来ます。「そんなばかな!」なものばかりですが、Anotherだからしょうがない

 

 

一応前二作を読まなくても楽しめるようになっていますが、想の心情や1998年の〈夜見山現象〉の詳細、鳴と恒一との関係など、やはり一作目から順に読んでいった方がずっと面白く読めるようになっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

以下がっつりとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤沢泉美

クラスの中に過去に〈夜見山現象〉によって亡くなった〈死者〉が紛れ込むことによって〈災厄〉が始まってしまう夜見山北中学三年三組。

〈災厄〉はある年とない年があり、“ある年”だった場合は(始業式の日に、机と椅子のセットが一組たりないかどうかで分かる)〈死者〉が一人紛れているという“数の違い”を正すため、クラスメイトの中から〈いないもの〉を一人選出。教師と生徒一丸となって、一人の生徒を存在しない者として扱うことが〈対策〉であり、唯一の〈災厄〉開始を防ぐ方法だが、いったん〈災厄〉が始まってしまうとこの〈対策〉は用をなさないものとなり、もはや誰にも止められない――。

 

と、いうのが夜見山北中学で皆が承知していることなのですが、実は〈災厄〉が始まってしまった後も止める方法が一つ存在する。それが、〈死者〉を死に還すこと

 

1998年の〈災厄〉では榊原恒一と見﨑鳴が〈死者〉を突き止め、死に還したことで〈災厄〉を途中で終わらせることが出来た。

 

しかし、この〈死者〉を死に還すという〈対策〉は、〈夜見山現象〉による記憶・記録の改竄によって忘れさせられてしまう。今作でもこの〈対策〉を覚えているのは〈死者〉を死に還した当事者で、卒業後に夜見山を離れた榊原恒一のみです。

 

シリーズ一作目の『Another』は〈死者〉の正体がミステリとしての最大の仕掛けになっていました。

しかし、今作はというと、物語りの序盤から一作目の登場人物で〈災厄〉によって死んだ、アニメではやたらと存在感を放っていた(原作ではさほどの印象はない)赤沢泉美が想の従妹としてドーンと出て来てしまう。

 

これ、もう赤沢泉美が〈死者〉って読者にモロバレじゃん。って、いう。

 

〈死者〉を推理するのがこの物語りの一番の見せ場なんじゃないのか?どういうつもりだ?と、読者は困惑したまま〈死者〉が解っている状態で三分の二読まされ続けることとなり、残り三分の一を残したところで赤沢泉美を死に還すことに成功することで、「残りはどう展開させるのだ?」とますます困惑することに。

実際、毎月必ず死人がでることになるのが〈夜見山現象〉の決まりなのですが、赤沢泉美を死に還した後の月である八月には死者が一人も出ませんでした。この事実をもって今年の〈災厄〉は終わった!と、安心する三年三組関係者一同。

 

が、このまま終わらせてくれるはずもなく。

Another2001の最凶の〈災厄〉はここから始まるのであった・・・。

 

 

 

 

 

 

特別な〈対策〉

2001年の特別な〈対策〉。それは、〈災厄〉が“ある年”だった場合、〈いないもの〉を二人設けようというものでした。

これは始業式前の〈対策会議〉でクラスメイトの江藤留衣子が提案したもので、〈いないもの〉を二人設けておけば、何か不測の事態が発生して〈いないもの〉の一人が機能しなくなったとしても、もう一人いれば対応出来るだろうという。いわば補欠要員的な、もっと簡単にいえば「一人より二人の方がより〈災厄〉を防ぐことが出来るんじゃね?」というノリ(?)で決まったものでした。

効果があるかどうかは分からないが、例年よりもプラスアルファの〈対策〉をすることで少しでも安心感を高めようみたいな試みですね。

 

〈いないもの〉をすることになったのは比良塚想葉住結香

想は立候補して、葉住はくじ引きの結果〈いないもの〉に決まったのですが、実は葉住は前から想のことが気になっていて、「自分も〈いないもの〉になれば想くんとお近づきになれるかも!」という思いつきから態とくじ引きで当りを引いた浅はかな女子でした。ま、思春期だし〈災厄〉とか言われても普通は現実味ないだろうしね・・・。

 

想に〈いないもの〉どうしでも極力会話するのは避けたほうがいいと言われて目論見が外れ、皆に無視されるという〈いないもの〉が負う精神的苦痛にお花畑思考だった葉住は耐えられず、皆の前で〈いないもの〉を放棄してしまう。

 

葉住が放棄しても想が〈いないもの〉を続けている限りは大丈夫なはず。そのための〈いないもの〉二人対策だし!

・・・だったのだが、何故だか〈災厄〉は始まってしまう。

 

その後、鳴の“死の色がみえる眼”で〈死者〉が赤沢泉美であることが判明。赤沢泉美を死に還して「今度こそ大丈夫!八月は誰も死ななかったし!」

・・・なのだが、これまた何故か九月から爆発的に死人が相次ぐこととなり、最終的に病院を巻き込んでの大惨事に。2001年は〈夜見山現象〉史上、最凶の年となる。

 

 

何故こんなことになってしまったのか。

原因は、〈いないもの〉を二人設けるという今年の特別な対策のせいでした。

 

もともとクラスに紛れていた〈死者〉は一人だったところに、〈いないもの〉を二人設けたことで生じた不均衡を正そうと、“現象側”が新たな〈死者〉をもう一人発生させたのです。赤沢泉美を死に還した後も〈死者〉がまだ一人クラスに残っていたため、〈災厄〉は終わることなく暴走し続けた。良かれと思ってやったことが完全に裏目に出た結果でありました。

 

〈夜見山現象〉の対応力の高さには恐れ入りますが、そもそも、クラスに〈死者〉が紛れることで生じる“人数の違い”を正すための、「バランスを保つ」対策なのに、〈いないもの〉を二人にするのは普通に考えて駄目だろとは思いますよね。

〈いないもの〉対策の本来の意図が失われているじゃないかと。鳴や千曳さんも“二人対策”には否定的だったし。読者としては「そ~ら、いわんこっちゃない」って感じではある。

 

 

 

 

未咲

さて、ではその“もう一人”は誰なのかというと、1998年の〈災厄〉で最初に亡くなった犠牲者で見崎鳴の双子の妹である藤岡未咲。母親の再婚によって「牧瀬」と名字が変わり、鳴の三つ年下の妹としてクラスに紛れていました。

 

双子であるものの、鳴は赤ん坊の時に見崎家の養女になっていて何やかんやと人間関係が複雑なことになっている。その複雑な双子設定のおかげで1998年の〈災厄〉ではこの未咲の存在が混乱の原因になっていた訳ですが、今作でもこの未咲が1998年の時とは別の形で混乱を招いてくれちゃっているのでした。

 

病院に入院しているクラスメイト「牧瀬」が〈死者〉であり、鳴の双子の妹である「未咲」だということ。

「牧瀬」の正体が今作の最大の仕掛けであり、綾辻行人作品ではお馴染みの叙述トリックによって巧妙にぼかされています。

 

 

しかして、匂わせてくれているところが結構あるのと、鳴の実母が再婚によって“藤岡”ではなくなっているという事実が示されていること、病気で長期入院といいつつ具体的な病名などについては何も語られない怪しさなど、“この手の小説”を読み慣れている人は割と簡単に気付くのではないかと思います。

 

が、この謎がなんとなく解ってしまっていても、Anotherならではのスリリングな展開と伏線が綺麗に回収される解決編は安定の面白さで大満足することができます。解っていても面白いのですよね。「待った甲斐があったな」と思わせてくれる続編小説です。

 

 

 

 

 

次は完結編

この『Another』シリーズは次回作となる『Another2009』で完結させるつもりだと作者の綾辻さんは明言しています。

今作のタイトルにある“2001”というのが西暦を表していたことから、次作の完結編は2009年の〈夜見山現象〉が描かれることになりそうですね。今作から八年後・・・鳴も恒一も想も二十代になっていることでしょうが(ちゃんと生きていればね・・・)、どんなお話になるのか見当も付きませんね。Anotherなので死人が出ることは間違いなんだろうけど・・・。

 

今作での憎まれ役であるものの〈災厄〉で死ぬことはなかった葉住や、家族を救おうと思いつめて自殺未遂をしたがなんとか一命を取り留めることができた矢木沢(助かって本当に良かった)、想のカウンセリングを担当している精神科医の娘で予知能力を持っているらしき碓氷希羽は次作にも登場するかもしれません。

特に希羽ちゃんは絶対に登場するのではないかと。

千曳さんが今作で少し具合が悪そうな描写があったので不安・・・。

今作では八月に〈災厄〉が一時止まった理由が解らずじまいでモヤモヤポイントだったのですが、その謎は解明されるのか?完結編と謳うなら〈夜見山現象〉自体を完全になくすことに成功してほしいものですが・・・どうでしょう?

 

こんな風に期待に胸膨らむ完結編ですが、綾辻さんは心身ともに少しくたびれている状態であり、いまのところいつ次作にとりくむかはまったくの未定とのことです。

今作だって7年ぶりの長編ですし、館シリーズも次作が最終作になるはずですが何年も出ていませんしね・・・。

 

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気長に待つしかなさそうです。しかし、作者にあとがきで「体力が・・・」とか言われるとお元気なうちに書いてもらえるのかどうか不安になってくるなぁ・・・(^_^;)。

 

 

綾辻行人さんの御健康を祈りつつ、私自身も身体には気をつけて待ち続けたいと思います。

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

 

 

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『危険なビーナス』原作小説 ネタバレ・感想

こんばんは、紫栞です。

今回は東野圭吾さんの『危険なビーナス』を読みましたので感想を少し。

 

危険なビーナス (講談社文庫)

あらすじ

「始めまして、お義兄様っ」

四十代、独身、獣医である伯郎。ある日、彼のもとに弟・明人の妻だという女性・楓から電話がかかってきた。

楓の話によると、明人とはつい最近結婚したばかりなのだが、意味深な書き置きを残して失踪してしまったという。

伯郎の異父弟である明人は資産家・矢神家の跡取りであり、父親の康治が危篤状態に陥っていることで矢神家は今、遺産相続問題で揺れていた。楓は明人の失踪には矢神家の人間が関わっているのではないか考えているらしく、伯郎に調査の手助けを求めてきた。

失踪の原因は明人が相続するはずの莫大な遺産なのか?明人の安否は?

調査に協力するうち、伯郎は次第に楓に惹かれていくが――。

「最初にいったはずです。彼女には気をつけたほうがいいですよ、と」

 

 

 

 

 

 

“遺産”を巡るライトミステリ

『危険なビーナス』は2016年に刊行された東野圭吾さんの長編小説。

美人に弱い主人公・伯郎と、失踪した弟の妻である楓。この二人で明人の失踪原因を探っていくなかで矢神家の内情、人間関係、十六年前の伯郎の母の死、思わぬ遺産・・・と、様々な謎に直面していくといったミステリであり、ダメだと思いつつも弟の妻に惚れてしまう男の恋心が描かれるラブストーリー(?)でもあります。

 

事柄だけをみると重々しいストーリーなのかという気がするかもですが、東野圭吾作品としてはかなりライトな部類に入る内容になっていて、気楽に読める作品だという印象。文庫で500ページほどあり、人によっては手に取るのに躊躇するボリュームだと感じるでしょうが、読書経験がさほどなくとも難無く読めるお話になっています。

 

一方で、いつもの東野圭吾ミステリを望む人には物足りなさはあるだろうなとも思いますね。なんというか、出始めの作家さんが書いたかのようなストーリーと描写なので、読んでみると東野圭吾作品らしくない“意外さ”があります。

主役の伯郎や楓の人物設定から考えるに、そういった“お気楽さ”を目指して書いた作品なのではないかとは思いますが。

 

 

ドラマ

『危険なビーナス』は連続ドラマ化が決定しています。TBS日曜劇場で2020年10月11日放送開始。

 

キャスト

手島伯郎妻夫木聡

矢神楓吉高由里子

矢神明人染谷将太

矢神禎子斉藤由貴

蔭山元美中村アン

 

矢神康之介栗田芳宏

矢神康治栗原英雄

矢神波恵戸田恵子

矢神牧雄池内万作

矢神佐代麻生祐未

矢神勇磨ディーン・フジオカ

 

君津光結木滉星

永峰杏梨福田麻貴

 

支倉祥子安蘭けい

支倉隆司田口浩正

支倉百合華堀田真由

 

兼岩順子坂井真紀

兼岩憲三小日向文世

 

 

康治の専属看護師・永峰杏梨(福田麻貴)と矢神家使用人・君津光(結木滉星)はドラマオリジナルキャラクターですね。原作ですと矢神家は深刻な経営難に陥っているのですが、専属看護師と使用人を雇っているくらいですからドラマの矢神家は羽振りが良さそうです。遺産も三十億あるらしいし。

 

キャスト一覧でお分かりの通り、登場人物が多い。遺産相続問題でのアレコレが描かれる物語りなので一族の人間が殆どなのですが、名家らしく人間関係が複雑・・・。原作を読んでいるときも人物相関図を表記して欲しいなぁと思ったくらいでした。

伯郎と楓の他に原作で出番が多いのは、伯郎の勤める動物病院の看護師である蔭山元美(中村アン)と康之介の養子である矢神勇磨(ディーン・フジオカ)ですかね。原作を読んでいるぶんには、伯郎や楓よりこの二人の方が何だか好きだったのですが、ドラマだとどうなるのか・・・。

 

どのキャストも原作の内面イメージは比較的そのままだと感じますが、楓は原作ですとチリチリのカーリーヘアが特徴的な肉感的なスタイルの女性なので、容姿の印象は異なる。

あと、伯郎の実の父親で三十年以上前に亡くなった手島一清のキャストが書かれていませんね。原作では重要な人物なのですが・・・顔出し無しでいくのでしょうか。

 

 

このドラマが全何回なのかは分かりませんが、原作のお話はドラマ向きではあるものの、そのままやれば二時間で事足りるだろうという内容で、劇的な盛り上がりなども終盤の真相解明までは殆どない淡々としたものなので、原作に忠実に映像化しても連続ドラマとしてはハッキリ言って到底面白くなるとは思えない。つまらないだろう・・・と、いうのが、原作小説を読んでの私の率直な感想(^_^;)。

 

ドラマならではの工夫やオリジナル要素で、どのようにお話を連続ものとして毎週視聴者を惹きつけるものにするのか、原作を読んだ者としてはそこに期待したいですね。

 

 

 

 

 

 

 

以下、ガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遺産

明人の失踪には矢神家の遺産相続問題が絡んでいるのでは?と、矢神家に探りを入れる伯郎と楓ですが、調査をするなかで単にお金というだけではない“思わぬ遺産”の存在が浮上する。

それは、かつて伯郎の実父・一清が康治の治療を受けたことで偶発的に発症した後天性サヴァン症候群により描いたある図形が描かれた絵です。後天性サヴァン症候群だけでも天才脳を人的に作り出せるという大変な研究なのですが、一清が描いたその絵には『ウラムの螺旋』という素数螺旋の上をいく、完璧な素数の法則性をもった図形が描かれていました。これは人類にとって大変なことであり、「禁断の絵、人間なんぞが描いてはならん絵」・・・らしい。数学の知識が無いと説明されてもあまりピンとこず、「へ~」と言うしかない感じですが、とにかく大変な代物らしいです。

 

矢神家の遺産ではなく、明人の失踪も十六年前の母・禎子の亡くなった事件も、この一清が描いた絵を犯人が手に入れようとしたために起きたというのが真相だったんですね。

 

で、犯人は禎子の妹・順子の夫で元数学教授の兼岩憲三。これまた矢神家とは直接関係がない人物だったと。

 

なんか、こういったポジションの人物が犯人ですって真相、東野圭吾作品だと多いような気がしますね。

 

一清の絵に本当に憲三が思っていたような価値があったのかどうかは絵が燃えてしまったことで分からずじまいになっています。事が終わった後で、

 

「才能に恵まれず、大きな功績も残せなかった数学者が、一時の気の迷いで幻想を抱いた――そう考えるほうが現実的だと思わないか。どんなに精緻だといっても、絵なんて所詮二次元の情報に過ぎない。素数の謎が、そんなに簡単なものだとは到底思えない。人間が簡単に太刀打ちできるような代物ではないはずだ」

 

と、作中で言われていますが。

 

東野さんはよく作品に学者を出したり理数系の知識をテーマに使ったりしていますが、東野さん自身が素数に対して一種のロマンを抱いているのかなぁ~とか想像しちゃいますね。

 

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楓の正体

明人の妻だと言いつつ謎めいた点が多かった楓。実は、彼女の正体は警察官。

犯人の憲三は、矢神家の遺産相続で明人が一清の絵を相続してしまうのを阻止するべく、ネットで人を雇って明人を康治が死ぬまでの間拉致しておこうと計画しましたが、ネットの書き込みから拉致計画を知った警察は犯人を特定するため明人に協力を要請。警察のもとで失踪を装ってもらいつつ、矢神家を探るべく女性警察官に明人の妻として(実際に明人は独身)潜入捜査させた・・・と、『マスカレード・ホテル』ばりにおよそ現実にはありそうもない捜査方法なのですが、

 

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まぁそういうことらしいです。

 

「危険なビーナス」というタイトルで主人公の伯郎も楓に恋をするのですから、楓がこの物語りの肝になっているのは間違いなく、楓=潜入捜査官というのが犯人特定以上のメインの真相なのでしょうが、腕っ節が強い描写などから途中で何となく分かってしまうのと、捜査方法に現実味がないので真相を明かされても純粋な驚きというのはちょっと湧いてこない。

異例の潜入捜査というのは前提としてはいいですが、真相としてもってこられると安直に感じてしまいがちだなぁと。

 

そもそも、伯郎が真剣に恋しているようには見えないのですよね。

楓に惚れているというより、ただ胸のデカイ美人に弱いだけって感じ。伯郎は女性を見ると顔とスタイルから脳内で浅はかな品定めをするばかり。そのくせ、そんな自分のことは棚に上げて女たらしな勇磨に敵意剥き出しで批判しまくる。愚かで独りよがりな人物だという印象が強くって、とても伯郎の恋を応援しようという気にはなれません。

明人とは血が繋がっていて仲が悪い訳でもないのに、楓への恋心から死んでいるのを望んでしまうのとか、やっぱり酷いし。生きていた明人に対して申し訳ないと思ったり謝ったりしろよとイライラしてしまう。

 

個人的に、最後まで楓に魅力を感じられなかったのが一番残念です。「危険なビーナス」というタイトルで、主人公が罪悪感を抱きながらも惹かれてしまう相手というなら、もっと魅力的に描いて欲しかったですね。

主役二人に好感が持てないぶん、最後のオチも特別嬉しく思えないのが正直なところでした。

 

 

そんな訳で、総括すると「微妙だった」という感想に私はなってしまったのですが、ドラマでどのように化けるかを楽しみにしたいと思います。

 

 

危険なビーナス (講談社文庫)

危険なビーナス (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2019/08/09
  • メディア: ペーパーバック
 

 

 

ではではまた~

 

 

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『望み』映画の原作小説をネタバレ紹介! 息子は被害者か、加害者か?

こんばんは、紫栞です。

今回は雫井脩介さんの『望みをご紹介。 

 

望み (角川文庫)

あらすじ

石川家は建築デザイナーの一登と、在宅で校閲の仕事をしている貴代美夫妻に、高校一年生の息子・規士、中学三年生の娘・雅の四人家族。

とくに大きな問題もなく、平穏に暮らしていた一家だったが、9月のある週末、息子の規士が夜に家を出て行ったきり連絡がとれなくなってしまう。 

最初、友達と夜遊びをして長引いているだけだろうと思っていた一登場と貴代美だったが、丸一日過ぎても帰宅せず連絡もとれない状態に胸騒ぎを覚えていた矢先、道路に乗り上げた車から少年二人が逃げ出し、残された車の中から他殺体が発見される事件が近所で発生。 

発見された遺体は規士の友人だった。  

行方不明の少年は規士を含め三人。逃走した少年は二人。そして、首謀者とみられる少年は知人への電話に「二人殺した」と言ったらしい…。

果たして規士はもう一人の犯人か、被害者か。

父として息子の無実を望む一登と、母として生存を望む貴代美。夫婦は揺れ動き、反発する。それぞれの“望み”の行く先は――。    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

加害者か、被害者か

『望み』は2016年に刊行された雫井脩介さんの長編小説。

上記のあらすじの通り、自分たちの息子が「加害者か、被害者」という状況に立たされた夫妻の苦悩と葛藤の物語りで、一登の視点と貴代美の視点が交互に描かれる構成となっています。 

「家族が何らかの事件の加害者に、被害者になる」というのは、現実にどんな家庭でも起こり得ることであり、家族の一員ならば誰もが少しは想像したことがある地獄なのではないでしょうか。自らが預かり知らぬことで今までの生活が一変してしまう恐怖と、家族への愛情と社会的立場との板挟みの末に生じる残酷な「望み」。夫妻の目を通して容赦なく、執拗に描かれて、誰もが「考えさせられる」、痛烈な作品となっています。 

 

本の紹介文に“サスペンスミステリー”とあるのですが、この物語りは「息子が犯人として生きているか、被害者として死んでいるか」の最悪な二択で揺れ動く家族の様子をひたすら追うもので、ミステリーのような仕掛けやどんでん返しを期待して読むと肩透かしを受けると思いますね。

 

しかしながら、「どっちなの?」という事柄だけで読者にぐいぐい先まで読ませる筆力は流石。他の雫井脩介作品同様に、一気読み間違い無し!な物語りです。

 

 

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映画

『望み』は2020年10月9日に映画公開予定。監督は堤幸彦さん。堤幸彦監督はコンビもののドラマシリーズや小ネタをふんだんに取り入れたコミカルでマニアックな作品が有名ですが、近年では人魚の眠る家『十二人の死にたい子供たち』

 

人魚の眠る家

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十二人の死にたい子どもたち

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  • 発売日: 2019/07/24
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などドシリアスな作品が多いですね。この『望み』も非常に重々しい原作ですので、映画もそうなることと思います。

 

キャスト

石川一登堤真一

石川貴代美石田ゆり子

石川規士岡田健史

石川雅清原果耶

寺沼俊嗣(刑事)-加藤雅也

織田扶美子(貴代美の母)-市毛良枝

内藤重彦(記者)-松田翔太

高山毅(建設会社社長)-竜雷太

 


『望み』特報予告

 

原作では息子の規士は16歳設定なのですが、映画ではもうちょっと上の設定になっていそうですね。・・・と、思ったのですが、公式サイトのストーリー紹介ですとやっぱり高校一年生となっていますね。この間のドラマで刑事さん役やっていたから驚くなぁ・・・(^_^;)。

 あと、この写真、映画『パラサイト』のポスターとちょっと似ていますね。

 

パラサイト 半地下の家族(字幕版)

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  • 発売日: 2020/05/29
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 しかしまぁ、偶然でしょう。多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父親、母親

今作は息子の無実であることを望む父親の一登と、息子の生存を望む母親の貴代美との想いのすれ違いがお話の主になっています。

 

規士の友人は激しい暴行を受けて死亡していました。「少年同士でのリンチ殺人」という非道極まりない殺人事件と世間では見做され、一登はそんな凶悪事件に息子が加害者として関わっているとは考えられず、“被害者として巻き込まれた”という方が、自分が今まで見てきた規士の人となり的に納得が出来ると、「息子は無実で、被害者だ」という考えに至る。

 

「息子を信じている」と言えば聞こえは良いですが、一登がそう望むのは息子を信じるという純粋な想いからだけではありません。今後の自分の仕事・社会的立場などを考えると、規士が被害者では“困る”という想いがそこにはあります。

仕事仲間やお客、マスコミなどから批判的な態度を取られることで一登は「息子は被害者に違いないのに・・・」とますます望みを強硬なものにさせていき、ついには根拠もないのに皆の前で「息子は被害者だ!」と声高に主張するように。

このような描写があると、一登の「信じる」という言葉はひどく薄っぺらいものに感じられます。

 

こんな夫の態度と意見に反発するのが妻の貴代美。

夫の「規士は被害者だ」という主張は、貴代美にとっては「規士が死んでいた方が良い」と言っているのと同じであり、規士の生存をただただ望む貴代美としては受け入れられるものではなく、「親なのにそんな事を望むなんて・・・」と夫を非難する訳です。

で、貴代美はというと、生きていて欲しいという想いが強いあまり「息子は加害者」という望みを妄信するようになり、息子の無実を訴えてくる規士の友達まで感情的に非難したり、息子が逮捕された後の生活のことを考えて仕事にのめり込んだり、引っ越しのことを早々に考えたり、娘の雅の受験を諦めさせようとしたりと、だいぶ暴走して先走った行動をとるようになる。

 

「生きていて欲しい」というのは分かりますが、だからといって「息子は人殺し!絶対にそうなの!」というのは、それはそれで何か可笑しい。

 

男はこうだ、女はこうだという決めつけは個人的には好きではないですが、この二人の書き分けは社会的立場を重んじる男親と、無償の愛情を注ぐ女親を典型的に表しているように感じられます。

 

 

 

 

良い子、悪い子

作中、一登が

 「もし規士がやってるんだとしたら、あいつはもう、俺らの知っているあいつじゃないってことだぞ。俺はあいつがそんなことをする子だとは思っていないし、思おうとしても、とても思えない。それでもやってるとするなら、それは俺の知らない規士だとしか言いようがない。それをしでかしたのを境にして、ここを出ていったときのあいつとは別人になっているってことだ。それくらいのことなんだ。そんなもう、俺たちの知らない人間を、簡単にやり直せるとか更生させるとか言えるもんじゃないぞ」

 と、いう台詞を貴代美との言い争いのなかで吐く。

 

殺人はもっとも犯してはいけない大罪ですが、殺人事件の大半は衝動的な、もののはずみによるものです。人は案外簡単に死んでしまうし、簡単に人殺しになってしまう。

リンチ殺人は殺人行為のなかでも特に非道で残虐なものと世間でも受け取られるし、被害者家族はとても許せないでしょうが、集団の仲間内での暴力は軽はずみなことがきっかけで発生しやすいことではあるでしょう。思春期の少年たちというならなおさらです。 

貴代美も規士が加害者だと願うばかりに「あの子は実は悪い子なんだ」と無理に思い込もうとしたり、「もともと良い子じゃなかったらこんなに苦しまなかったのに」などと矛盾したことを考えたりするのですが、そもそも良い子だとか悪い子だとか、そういうことじゃない。

 

「規士は規士よ」の言葉通り、罪を犯した瞬間に人の中身が丸々変わる訳ではないし、急に恐ろしい、まったく知らない人になる訳じゃないはずです。 

良い子だとか悪い子だとか、結局その判断は何に基づくものなのか。親の期待にどれだけ応えているかということなら、それは単に自分にとって都合の良い子ということなのではないのか。 

 

私は独身で子持ちではありませんが、子供の立場としては「そんなことするような子じゃない。信じている」という言葉より、間違いを犯した自分でも、期待に応えられる良い子になれなくっても、見捨てずに寄り添ってくれる親を求めるだろうと思う。

 

 

この物語りの最後で判明するのは、規士は被害者で、一登や貴代美があれこれ言い合っていた時にはすでに死んでいたという事実でした。 

 

お金のことで揉めている最中、もう一人の被害者の子が護身用でナイフを取り出したため、相手の二人が恐慌状態に陥って暴行の末に殺してしまったという顛末で、規士には殆んど非がなく、友人を思いやって巻き込まれただけ。

規士の死体を前に、石川家の面々は自身の身勝手な望みを恥じて罪悪感にさいなまれ、「規士に救われた」といって物語りは終わるのですが、規士は聖人のようにひたすら良い子でしたという結末は読んでいて「なんだかなぁ」と思いました。

 

酷なことですが、被害者は被害者でバッシングを受けるもので、加害者じゃなかったからといって全部が全部すんなり解決!救われた!なんて簡単なことじゃないですよね。

規士ももう一人の被害者の子も、大金を巡るトラブルが起きた時点で然るべき大人に相談するべきだったろうし、親たちは子供に相談されなかった事実を悔やむべきなのではと思う。

 

このお話は、事件が発生してから四日間ほどの、事件の詳細が何も分かってない状態での親の右往左往が描かれているものなのですが、個人的には事件発生二三日で何も分かっていない状態なら、諸々の面倒事については思考停止して、ただ安否を心配して探し回ったりしてれば良いのではと。16歳の子がいけるところなんてたかが知れてるだろうし、被害者だとしても瀕死の状態で生きているかもしれないし。

 

少なくとも息子の無実を確信して被害者の子の葬儀に乱入して「あいつもこの子と同じ被害者なんだ!」と喚いたり、「息子は加害者だ。これから世を忍んで懺悔の日々をおくるための準備をしなくては」と意気込んで仕事に没頭するのは的外れに感じる。

 

もっと言うなら、「加害者だの被害者だの、そんな話は後にしろ!息子が見つかってからにしてよ!」ですかね。

読んでいて何度もそう言いたくなった。 

個人的に妹の雅には一番感情移入出来ましたかね。あれぐらいの戸惑いやヤケクソ感が一番自然だと思う。  

 

 

 

そんな色々と思うところも含めて、とにかく家族というものを考えさせられる作品です。気になった方は是非。

 

 

 

望み (角川文庫)

望み (角川文庫)

 

 

 

 

 

ではではまた~

『秘密season0』9巻〈悪戯〉感想 須田光の過去とは?

こんばんは、紫栞です。

今回は清水玲子さんの『秘密season0』9巻〈悪戯〉をご紹介。

 

秘密 season 0 9 (花とゆめコミックススペシャル)

 

前作から一年二ヶ月ぶりの新刊。8巻からスタートした「悪戯(ゲーム)」

 

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の続きと読み切り作品の〈目撃〉が収録されています。表紙絵はこれまた美しいですが、また誤解されそうな・・・サブタイトル“悪戯”だし・・・(^_^;)。耽美な見た目ですが、今作も中身は近未来警察ミステリですので悪しからず。

 

『秘密』のシリーズは年一刊行が通常なので待たされた期間の長さはいつもとさほど変わらないのですが、いつもはお話が一冊完結型なのに対して〈悪戯〉は続きもので細部を忘れてしまっていたので、前巻の読み返しをしてから挑みました。読んでいたらさらに5・6巻の〈増殖〉も気になり読み返した・・・。

 

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前巻ではカルト教団の本拠地であった保育園跡地から四人の子供の遺体が新たに発見され、事件への関係が疑われる須田光を監視対象として青木家で里子として迎え入れるところで終わっていました。

今巻では光君を迎え入れた青木家の様子と、薪さん・岡部さんらの「第九」での捜査が並行して描かれています。

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、がっつりとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光の過去

「悪戯(ゲーム)」編の2集である今巻は、前巻の段階では唯々得体の知れない「怪物」だった須田光少年の凄絶な過去が明らかになり、本人の内面なども描写されています。

 

大量殺戮を起したカルト教団の教祖の息子である須田光。やはりまともな環境で育っているはずもなく、今巻で明らかになるのは教団内での儀式の際、彼は無理やり薬物を摂取させられ、指示されるままに幼児を異様な遣り方で殺害し、その儀式の後には集団での淫行(このハーレムシーンですが、教団にこんな綺麗な女の人たちいたっけ?と疑問だった)に参加して実の父親である教祖の児玉に凌辱されていました。

 

世にもおぞましい儀式ですが、恐ろしいことにカルト教団では教祖を中心としてこのような行為がなされるのは珍しいことではなく、一種の定番なので光君がこのような目に遭っていただろうことは割と想像出来たなぁというのが正直なところ。

個人的にそれよりも驚いたのは、前巻で光君に殺されていた神父さんが性的暴行をしていたことですね。善良ぶってあの神父・・・!!

しかし、神父が子供相手にそのようなことをするというのも創作物では“オキマリ”ではある・・・。ホント、海外ドラマやミステリだとほぼほぼそうで、「神父出て来たらまず疑え」みたくなってる・・・。けども、この神父さんは違うだろうと思っていたのに・・・(-_-)

 

前巻で薪さんは「彼が一体なにをした・・・神父は君に親切にしただけだろう?なのに何故」と光君に訊いて「動機がないといけませんか?」と子供離れした論説でかわしていましたが、結局「動機」たりえることがあったということなのですね。

ま、青木のところに里子にいくためという方が理由としてはデカイのではないかという気はしますが。

光君が青木のことをゲイだと勘違いしていたのには笑ってしまった(^_^;)。確かに、薪さんとのあの距離感じゃあ誤解してもしょうがないとは思う…。

 

青木や舞ちゃんに対しての態度も、執着の仕方は空恐ろしいものの“愛に飢えている子供”という部分も垣間見ることが出来ますし、これらの事実が分かってみると前巻でのただ悪戯に害悪をもたらす「怪物」という印象からだいぶ変わってくる訳です。

やっぱりというかなんというか、やはり環境と周りの大人たちが彼に害ばかり与えたための結果なのだなぁと。

 

 

 

 

 

 

思い上がり 

心配する薪さんと里親として光君を迎え入れたい青木とで一悶着あったものの、光君に対して客観性を失っていたと気づかされた薪さんは、“監視対象という事でなら”と、青木家にカメラなどを設置することなどを条件に里子として迎え入れることを上司として容認したのが前巻でのラストでした。

里子として青木家にやってきた光は、青木の母や姪っ子の舞、クラスメイトにも優しく素直に、社交的に振る舞い、容姿のこともあってすぐに周りに受け入れられます。「赤ん坊からババアまでイチコロだな!」「あれくらいのあざとさ行ちゃんも見習うべきなんだよ」という舞ちゃんの台詞には青木同様に「舞ちゃん!?」と驚いてしまった・・・。

 

疑惑の渦中にある少年だと聞かされていたものの、このような様子と過酷な過去を知ってますます光君に「自分がこの子を信じて手を差し伸べなければ」という想いを強くする青木。

 

前巻で青木の意思を尊重した薪さんですが、MRI画像で幼児の目に棒を突っ込んでいる光の姿を目の当たりにして平静でいられる訳もなく、青木は青木で監視カメラオフにしやがるし、心配のあまり情緒不安定気味に(いつものことかもしれませんが)、そんな薪さんの横で心労が絶えない岡部さん(これもいつものことかもしれませんが)。

状況的に、やはり光を里子として一般家庭にいさせるのは危険すぎると判断し、薪さんと岡部さん二人で青木に須田光を引き渡すように言うのですが・・・善良さマックスな青木を前にまた一悶着(^_^;)。

 

「光のような特殊な環境下にいた子供は専門の知識をもつ医師のもとで治療し 洗脳・影響がとけるまで隔離して育てるべきだ」と、岡部さんがド正論をいって青木を説得するのですが、青木は「舞を傷つけない限り家族として家に迎え入れると約束した」「彼は約束を守ってくれている」「俺まで彼を裏切る――傷つける大人になりたくないんです」と、毎度お馴染みの涙を流しながら訴える。

 

で、薪さんはというと「お前の善良さには時々反吐が出る」「なんで「愚者」でさえ「子供」でさえ経験に学ぶというのにこの男は学ばないんだろう」と先ずは静かに罵倒。 

「舞の死体まで転がさないとその目はさめないのか」と激昂して、「不満なら今ここで「第九」を辞めろ」「辞めて僕の目の前から消えろ」とまで言ってしまう。後になって「あいつ馬鹿だから本当に辞めるかもしれない」と後悔していましたが・・・(^_^;)。

 

 

大人たちがこのようなやり取りをしている最中、舞ちゃんが元教団にいた男児淳一に襲われる事件が発生。友人を殺されたことで光を恨んでおり、一緒に行動している舞に危害を加えようとしたのですね。

あの教団に居て、洗脳下にあって、友人の死を悼むような子供がいたのには驚きですが。駆け付けた光は頭に血が上って淳一に過剰な暴行をしてしまう。舞ちゃんが止めたので死にはしなかったですが、「殺し損ねてごめんなさい。次こそは仕留める」と当然のように口にする光を目の当たりにした青木は「思い上がっていた。自分ではとても力不足だ」と痛感して里親は諦めることに。

 

 

 個人的に、今回の里子云々話は青木のエゴがすぎると思う。 

あそこまでの異常な環境で育った光には専門医の治療を受けさせるべきで、素人が軽はずみにでしゃばるのはナンセンス。光に様々な犯罪的疑惑があるのは事実で、何かあった際には自分だけでなく周りも危険にさらされることになるのだから、青木一人の想いだけで光を家に迎え入れるのはあまりに勝手なことでしょう。

 

青木は「舞を傷つけないこと。それだけです」と条件をだして約束させる訳ですが、“それだけ”ではたりない。約束させるなら「誰にも危害をくわえないこと」とするべきだったろうし、いずれにせよ青木一人の自己犠牲でどうなることではないはずです。 

「ほんの少しの事で彼は変わるかもしれない」「どんな人間にも可能性はある筈です」とはご立派で善良な意見なのでしょうが、“救ってあげよう”なんて独りよがりの思い上がり。傲慢で浅はかな考え。私が青木の母親の立場で光の詳細を知らされたなら「あんたのエゴに孫を巻き込むな」と言うでしょう。

 

挙げ句、悪戯に光に希望をもたせて家から放り出す結果になる訳で。これはもう最悪ですよ。半端なことをするのがね、一番罪深いですから。

   

しかし、あのカウンセラーの先生はどういうつもりなのでしょう?淳一が光に暴行されているのを見て、スマホのカメラをまわしつつも止めようとしませんでした。口をおさえて怖がっているだけ。大人でしょ?止めなさいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次のゲームは?  

そんなこんなで須田光は青木家を去ることとなるのですが、今度は暴行を受けた淳一が病院から連れ去られ、どこかの汚ないトイレに閉じ込められている描写が。

前巻で舞ちゃんらしき少女が同じような目に遭わされている場面が“先に起こること”というようにちらほら作中に挿入されていましたが、どういうことなのでしょう。

また、この〈悪戯〉編は薪さんが青木・舞・ミドリが写っている写真を握りしめて泣き崩れているところから始まっているし…。

 

今巻は事件の物語りとしては大きな展開はあまりなく、起承転結の“承”のところとでもいう様相でした。しかし、事は確実に何らかの悲劇に向かって進んでいる不穏感がひしひしと。 

続きが気になるところですが、コミックで読めるのはまた一年後か…。と、いうか、この〈悪戯〉編、あと何冊続けるつもりなんだろう…。

 

 

 

 

 

〈目撃〉

本編の続きが大変気になるところで、読者の期待を裏切るように待ち受けているのが読み切り編の〈目撃〉です。 

思わず「ちょっとぉ!読み切りより本編の続き読ませてよ!」となってしまいましたが、この読み切りは読み切りで確り面白いです。

強盗をした男が、記憶喪失になった目撃者の女を見張るために近付くが――てなストーリー。

世にも奇妙な物語ちっくな話ですね。女をあまく見ると痛い目にあう。

 

「第九」とはまったく関係ない話なのかと思いきや、後半で登場します。独立した話ぽいですが、前シリーズの時は関係なさそうな読み切りにも実は伏線がはられていたので、

 

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ひょっとしたら後々関係してくる…かも……?

 

 

 

色々気になりますが、一年後のお楽しみとして気長に待とうと思います。  

 

 ※10巻出ました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

 

 

【御手洗潔シリーズ】スピンオフ三作品、まとめて紹介!

こんばんは、紫栞です。

今回は島田荘司さんの御手洗潔シリーズ】のスピンオフをまとめてご紹介。

 

御手洗潔シリーズ】御手洗潔を探偵役に、主に石岡和己がワトソン役として語り手を務めるシリーズ。

 

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スピンオフとはいうものの、【御手洗潔シリーズ】の場合は探偵役である御手洗がシリーズ途中で北欧に渡ってしまうため、物語りによっては御手洗の出番が電話のみだったりと極端に少ないものだらけだったりしますし、視点がほとんど事件関係者のもので構成されているものも多いので、御手洗が主役だとハッキリ言えるもの自体が実は少ないのですが、ここでは御手洗潔が事件解決に直接関与していない長編をスピンオフとして三つまとめたいと思います。

 

 

 ●「龍臥亭事件」

 

 あらすじ

作家の石岡和己は、突如訪ねてきた二宮佳世という女性の心霊じみた相談事にのって共に岡山まで悪霊払いに行くこととなる。二人は霊に導かれるように山中に深く分け入り、「龍臥亭」という旅館に辿り着くが、そこで次々と恐ろしい殺人事件が発生。村人は、これは「村の業」「因縁」「30人殺しの男の亡霊」の仕業だと言うのだが――。

 

こちらは平成7年(1995年)の出来事という設定で、御手洗が日本を去ってから1年半が経過した頃のお話。主役は御手洗の助手的存在で友人である石岡和己

この時の石岡君は御手洗との共同生活ですっかり劣等感の塊になっていたところに、とうの依存していた御手洗に去られたとあって、すっかり意気消沈して卑屈となり、鬱々とした毎日を過しておりました。つまり、石岡君の“一番ダメだった時期”ですね。

 

自分がそばにいると石岡君を駄目にしてしまうと悟って馬車道のアパートから去った御手洗。事件に遭遇し、「自分なんかの力ではどうしようもない」と御手洗に頼る石岡君に、御手洗は手紙で「君なら出来るはずだ。自身を持って頑張れ」と突き放しつつもエールを送る。戸惑いつつも石岡君は事件を止めるべく向き合い始め、事件の真相に迫る・・・と、いう訳で、「龍臥亭事件」は“石岡君のリハビリ話”と捉えられるものになっています。

 

文庫だと上下巻で、二冊合わせると1000ページ以上。お話は史実の「津山30人殺し」を大胆に取り入れたものになっていて、

 

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この史実を語るのにかなりのページ数を使い、詳細に描かれています。大量殺人の詳細とあって、読んでいると気分が悪くなるほどですね。

推理小説をというよりは、「津山30人殺し」を描きたいのだなという感じですね。作者としては犯人の都井睦雄に対し、世間で思われているようなただの好色殺人鬼ではないという風に示したいのでしょうが、島田さんの文章を読んでも結局都井の好色なところが目立ってしまって、個人的には同情するような気にはとてもなれない。大量殺人はどう考えてもやっぱり身勝手ですしね。

 

謎解き部分はいつもの島田節が炸裂していますので、御手洗が不在とはいえ島田作品ファンとしては満足できるお話だと思います。

 

御手洗が日本から去った後の石岡君にとっての心の清涼剤・犬坊里美はこの事件が初登場。

続編として、「龍臥亭事件」から8年後に起こった事件を描いた「龍臥亭幻想」があり、

 

 

こちらは島田さんの別シリーズ【吉敷竹史シリーズ】とのクロスオーバーになっていて、御手洗と吉敷さんで事件を解決させるというスペシャルな代物になっています。(御手洗は電話での登場ですけどね・・・)

私は【吉敷竹史シリーズ】は未読なのでよく分からなかったのですが、吉敷さんの奥さんについても重要なことが書かれていたようなのでファン必見な作品ですね。

 

 

 

 

 

 

 

 ●「ハリウッド・サーティフィケイト」

 

 あらすじ

ハリウッドの有名女優であるパトリシア・クローガーが惨殺され、その様子が映されたフィルムがロス市警に送られてくるという事件が発生。発見された彼女の死体からは子宮と背骨が奪われていた。

次の犯人の標的はパトリシアの親友で女優の松崎レオナではないかと噂されるなか、レオナは亡き親友の無念を晴らすため独自に犯人捜索を開始するが、そんなレオナのもとに女優志望のジョアンが訪れる。ジョアンの身体には手術痕があり、子宮を何者かによって摘出されたらしいのだが、記憶喪失のため自分が一体何をされたのかまったく分からないという。

パトリシア・クローガー事件との奇妙な符合を覚えたレオナは、女優志望のジョアンの面倒をみることを決めるが――。

 

 

こちらの主役は暗闇坂の人喰いの木」「水晶のピラミッド」「アトポス」(※この三作品はレオナ三部作などとも呼ばれる)などの作品に登場する女優の松崎レオナ

レオナは頭脳明晰・容姿端麗で身体能力も高い、と、設定が盛りに盛られた人物。レオナを前にすれば誰もがひれ伏すのが当たり前。しかし、レオナが想いを寄せる御手洗にはてんで相手にされない・・・てな、ヒロイン。

 

この事件は平成8年(1996年)に起こったという設定で、レオナはこの時およそ33歳。渡米して成功を収め、ハリウッドで五本の指に入る有名女優になってから少しの年月が経ったころですね。

盛りに盛られた設定と能力が高いが故の傲慢さが目立つせいか、作者も認める“嫌われヒロイン”のレオナ。(私は個人的に【御手洗潔シリーズ】に登場する女性のなかではまだ好きな方なのですが・・・)

今作では主役となって大活躍する訳ですが、「アクション映画でもそんな無謀な行動しないだろ」という無茶苦茶な捜索方法ばかりをとります。その結果、男に襲われて殺されそうになることの繰り返し。「いい加減にしろよ」って感じで、私生活も色々とこじらせまくってアブノーマルなことになっているので、やっぱり共感出来ないヒロインではある。

 

事件内容はエログロで差別的・冒瀆的な事柄や描写が多く出てくるので人によっては気分が悪くなるかもしれず注意が必要。

文庫で800ページ越えのなかなかのボリュームではありますが読ませる面白さがあり、明かされる真相も「な、なんだって!?」という島田ミステリならではの驚きがあるものです。ちょっと疑問な点や半端なところがあるのではってな気がしないでもないですが。

 

御手洗は電話で登場。レオナに請われて専門知識を教えてくれています。御手洗はこのとき学者としてスウェーデンの大学にいる時ですね。歳を経て、御手洗のレオナへの対応もマイルドになっているように感じる。ま、日本にいた時とは違い、北欧に渡って石岡くんと離れてからの御手洗はだいぶ真人間ぽいんですけど。

 

本の最後に「これは二年後の大事件への序章だった」と、続編を匂わせる文章があるのですが、2020年今日に至るまで続編は刊行されてはいません。この本が刊行されたのは2001年なのですけども・・・。読み終わった時、続編あるのかと思って探してしまった(^_^;)。島田先生はお忘れでいらっしゃるのであろうか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●「犬坊里美の冒険」

 あらすじ

祭りのさなか、総社神道宮の境内に突如現われ消失した腐乱死体。警察は現場に残された毛髪から、存在したと思われる死体の身元を特定。現場に居合わせたホームレスが逮捕・起訴される。

司法修習生として弁護士事務所で研修を始めた犬坊里美は、志願してこの死体消失事件を担当することとなるが――。

 

 

今作の主役はタイトルの通り犬坊里美。平成15年(2003年)頃の事件で里美ちゃんはこの時27歳。

上記した「龍臥亭事件」で初登場後、上京してきてからは石岡くんと度々会ったり助手的役割などをしたりと、御手洗が日本を去って以降のシリーズ主要人物でヒロイン。石岡君に好意を寄せていますが、その好意が“どの種のものか”は判然としない。石岡君も然り。ま、歳がだいぶ離れていますからね。

石岡君は電話で登場。落ち込んでいる里美ちゃんを励ましてくれます。このお話には御手洗はまったく出てきませんね。

 

御手洗が日本を去った後の、石岡君の唯一といっていいほどの貴重な交流者なので、シリーズに登場する女性のなかでは割と好感を持っていたのですが(基本的に、私は島田さんの描く女性が好きじゃない)、この本を読んだら里美ちゃんが大っ嫌いになってしまった。  

 

とにかく話し方が受け付けない。語尾に小文字を付けて伸ばす口調が徹底されていて、まるで酔った女性が適当に受け答えしている調子。

志願して事件を担当したくせに、被疑者への質問や弁護方針は他の人に任せっきり。法律の基本・常識的なことも分からず周りに質問。無知を恥じて猛省して勉強し直すこともせず、怒鳴られれば泣くばかり・・・。

 

とにかくイライラして読み進めるのが非常に苦痛でした。

 

ダメダメな女の子の成長を描きたくって極端に表現しているのでしょうが、いくらなんでもダメに設定しすぎで、これでは司法試験をパス出来るとは到底思えない。

 

司法試験もそうですが、日本の司法の世界もバカにしすぎだと感じました。色々突っ込みたいやり取りばかりなのですが、そもそも死体を見つけられてない状態で事件化させるのか?と、前提から疑問です。通常は「見間違えだろう」って言って終わりだと思う。

何か大きな出来事を隠蔽するために冤罪を無理やり作り出そうとしているとかならまだ分かりますがそんな事もなく、態々ホームレスを逮捕・起訴という面倒なことをする理由が解らない。しかも、検察側、無理やりストーリーを作って起訴状を作成するものの、結局死体消失については「見間違い」で押し通そうとするし・・・。もう訳がわからない。

これも司法の問題点や「冤罪」が生み出されるメカニズムなどを描きたいってことなのでしょうけど、大前提の部分で違和感があるからモヤモヤするばかりです。

 

 

メインの死体消失のトリックについては、ヒントとなるエピソードの挿入が雑すぎて「ああ、“それ”を使ったトリックなのね」とすぐに見当が付いてしまう。謎の解明も里美ちゃんのあの口調でまどろっこしくされるものだから爽快感がない。極めつけは「ようやった」「ようやった」と皆に拍手されるあの終わり方・・・。

「なにこれ?」と読後にポカンとしてしまいました。

 

本には“犬坊里美が活躍する新シリーズ第一弾”と銘打たれていて、続編として「痴漢をゆるさない!犬坊里美の冒険 検察修習編」という中編が雑誌に掲載されたようです。正直、個人的には書籍化されても読む気にはなれないですね。

 

 

 

 

 

 

 

以上、三冊紹介した訳ですが、スピンオフでもやっぱり執筆時期が前のものの方が良い感じが否めないですね。ライトで読みやすいのは近年のものの方ではあるのですが。

「犬坊里美の冒険」については感想をグチグチ書いてしまいましたが、美里ちゃんのような女性をかわいく思う人もいるのだろうと思いますので、そういう人にとっては存分に楽しめるスピンオフになっていると思います。

 

 

「御手洗がいないから」と、読むのをためらったりすることもあるでしょうが、シリーズファンはやっぱり読んでおくべき物語りですので是非。

 

 

 

 

 

 

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

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『ウォーターゲーム』感想 ”太陽は動かない”の【鷹野一彦シリーズ】完結!?

こんばんは、紫栞です。

今回は吉田修一さんの『ウォーターゲーム』をご紹介。

 

ウォーターゲーム (幻冬舎文庫)

 

あらすじ

福岡の相楽ダムが突如決壊。濁流が町を呑み込み、数百人の死者をだす大惨事となった。

このダム決壊は水道事業自由化の利権を勝ち取るために計画された爆破テロなのか?

産業スパイ組織「AN 通信」の鷹野一彦と田岡亮一は次のダム爆破を阻止するために奔走するが、事態は思わぬ事に・・・。

水道民営化の利権に群がる政治家や企業。金の匂いに敏感な人間たち。敵が味方に、味方が敵に。裏切りと騙しあいの果てに、この情報戦を制するのは誰か。

 

 

 

 

 

 

 

三部作完結

『ウォーターゲーム』は【鷹野一彦シリーズ】の三作目。

 

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2020年8月に文庫版と電子書籍が発売されました。

  

ウォーターゲーム (幻冬舎文庫)

ウォーターゲーム (幻冬舎文庫)

 

 

私は6月ぐらいに待ちきれなくって単行本を買ったのですが、

 

ウォーターゲーム

ウォーターゲーム

  • 作者:吉田 修一
  • 発売日: 2018/05/24
  • メディア: 単行本
 

 

二ヶ月後に文庫が発売されるとは。ま、よくあることですけども(^_^;)。

 

 

まったく知らないまま読んだのですが、スパイ大作戦なストーリーでエンタメ全開な【鷹野一彦シリーズ】、三部作だったようです

著者の吉田さんもインタビューで「一作目を書いている途中から三部作構想があった」と言っていますし、文庫版の説明書きにも「シリーズ三部作完結!」と、書いてある。

単行本の方では帯にも出版社の本紹介にもそんな文言はなかったんですけどねぇ・・・。読み終わってから知り、個人的には衝撃の事実でした。いやだ!終わらないで!

 

 

 

 

大集合 

シリーズ一作目『太陽は動かない』太陽光エネルギーの利権争いで鷹野31歳の死闘が、

 

太陽は動かない

太陽は動かない

 

 

二作目『森は知っている』では時間を遡り鷹野17歳のスパイ訓練と青春が描かれた訳ですが、

 

森は知っている (幻冬舎文庫)

森は知っている (幻冬舎文庫)

 

 

三作目の『ウォーターゲーム』では水事業自由化の利権争いで鷹野35歳の奮闘が描かれています。

35歳は鷹野が所属する組織「AN 通信」の定年の歳。定年間際でのこの事件、鷹野は一体どうなるのか!?な、お話。

三部作最後とあって、一作目に登場した田岡、デイビット・キム、アヤコ、風間、中尊寺とオールスター勢揃いで、鷹野の青春時代を描いた二作目とも密接な繋がりがあり、“あの人物”も登場していますので、前二作を読んでからこの『ウォーターゲーム』を読むことがオススメです。

 

あと、映画との連動企画で放送されたWOWOWオリジナルドラマ『太陽は動かない-THE ECLIPSEですが、『ウォーターゲーム』の一部ストーリーというか設定が使われていますね。小説とは違い、こちらのドラマは映画の前日譚として描かれているのでまったく別物ではありますが。

 

 

 

新聞連載との違い

そんなシリーズ完結作・『ウォーターゲーム』は北海道新聞東京新聞中日新聞西日本新聞で2015年12月~2016年11月まで連載されたもので、本にする際に加筆・修正されています。

それ自体は別に珍しいことでもないのですが、今作では修正で連載時に掲載された文章を大幅に削除しているようです。私の住んでいる地域の新聞では連載されていなかったので確り確認することは困難なのですが、どうやら『AN 通信』の諜報員が心臓に埋め込まれている爆弾のことやら登場人物の内面がじっくり書かれていた部分、それにまつわるエピソードなどが削除され大幅改稿されているのだとか。

この大幅改稿について、吉田さんは「(略)いつものスタイルのように、登場人物の内面をじっくりと書き込んでいった。けれど連載が終了したあと、すべてを読み返し、確信したのは、その書き方はこのシリーズにそぐわないものであるということでした」と、仰っています。

 

確かに、謎の組織の謎の諜報員というのはスパイもののエンターテイメント作品では“過去を持たない人物”として謎のベールに包まれていた方が楽しめるのかな?とは思いますし(このシリーズならアヤコとかデイビット・キムとか特にね)、改稿後のこの本は大変に面白く「これぞスパイもの!」といった感じですが、やっぱり残念というかもったいないというか、「改稿前のものも読みたいな~」と思ってしまいますね。吉田修一さんは人物の内面描写が抜群に上手い作家さんで有名ですし、鷹野の内面などがじっくり書かれているのならやっぱり知りたい・・・。

 

 

 

 

 

 

以下、若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

完結しないで!

大幅改稿したせいかもしれませんが、今作は読後「あ~面白かった!」と、なるものの、思い返してみると「あれ?そういえばアレやコレやは結局どうなった?」と、いう部分が多々あることに気づく。

 

鷹野はちゃんと「AN 通信」を定年したのか、爆弾は取ってもらえたのか、定年時の“お願い”は何を望んだのか、そもそも“お願い”って本当にかなえてもらえるのか。具合が悪そうだった風間さんの容態は今後も安心していいものなのか。新聞によって明るみにされた「AN 通信」の組織形態はどうなったのか・・・などなど。

 

新聞記事の北条は途中からまったく出て来ないし、虐待されていた女の子と真司のやり取りも、女の子を施設に預けて突如終わる。「なんの為にこのエピソードはあったのか?」、前半と後半で結構な違いがあり、前半で期待したような流れがブツ切りになっているのも気になるところ。(ま、これは本当に大幅改稿のせいかな・・・)

デイビット・キムは半ば隠居生活していますしね。最後は期待通りのところで来てくれてニヤリとしましたけど。期待を裏切らない男。

 

 

シリーズとして続きがあるからあまり結論づけていないのかと思ったのですが、「完結編だ」と知って、これじゃあちょっと完結編としては消化不良だなぁと。

 

『ウォーターゲーム』は主役の「これ、鷹野よりもアヤコの方が活躍しているのでは?」な印象(作者が峰不二子なアヤコが気にいちゃったからか?)。個人的にアヤコ好きなので嬉しかったですが、完結作ならもうちょっと鷹野メインなお話が良いのでは・・・とも思ってしまう。

 

“あの人物”再登場は胸熱な展開でしたが、ダム爆破で何百人も亡くなる大惨事を起こしているんだよなぁと思うと素直に「良かった」とならないし・・・。

 

う~ん。

 

ま、言い出すとグチグチした感じになってしまうのですが、一番強い気持ちとしては「鷹野や田岡の活躍をもっと読みたい!」と、いうことです。

3冊とも面白いし、登場人物に強い愛着が湧いてきたこの段階で完結してしまうのはどうしても惜しい。

続きじゃなくっても、スピンオフや何らかの形でもいいからまた鷹野たちに会いたいです!お願いします!終わらないで!

 

 

またこのシリーズの新作を読める日が来ることを祈っております。

 

 

 

ウォーターゲーム (幻冬舎文庫)

ウォーターゲーム (幻冬舎文庫)

 

 

 

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ではではまた~