夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『今昔百鬼拾遺-月』雑記

こんばんは、紫栞です。

今回は京極夏彦さんの『今昔百鬼拾遺-月』(こんじゃくひゃっきしゅういーつき)について少し。

 

今昔百鬼拾遺 月 (講談社ノベルス)

『今昔百鬼拾遺-月』は2019年4月から6月にかけて「講談社」「角川」「新潮社」の3社横断3ヶ月連続刊行された『今昔百鬼拾遺 鬼』『今昔百鬼拾遺 河童』『今昔百鬼拾遺 天狗』の三冊が一冊に纏められて改めて講談社からノベルスと文庫で刊行されたもの。

 

※ 文庫はこちら↓

 

 

百鬼夜行シリーズ】(京極堂シリーズ)

 

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のスピンオフ連作中編もので、京極堂こと中禅寺秋彦の妹で雑誌編集者の中禅寺敦子と、【百鬼夜行シリーズ】の五作目『絡新婦の理』

 

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に登場した女学生・呉美由紀の二人を主役にそれぞれ「鬼」「河童」「天狗」に因んだ殺人事件が描かれています。

※それぞれの物語りの内容・詳細についてはこちらの記事を御参照下さい↓

 

 

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百鬼夜行シリーズ】は講談社から刊行されているシリーズで、講談社ノベルスでのぶ厚い本が「レンガ本」「鈍器」などと言われて印象強く、特徴的なものになっていたのですが、シリーズ九作目の邪魅の雫以降になんだか大人の事情で出版社とゴタゴタがあったらしく、シリーズのアナザーストーリーズである百鬼夜行-陽』が最初別の出版社から刊行されたりなどしました。

 

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しかし、この『百鬼夜行-陽』は結局その後に講談社ノベルス版、講談社文庫版も刊行されたりして、ファンとしては“大人の事情”がどんなことになっているのかいまいち判らない状態でした。去年のこの『今昔百鬼拾遺』の3社横断刊行企画でまたもや判らないことになっていたのですが・・・これまた講談社からまとめて本が刊行されると相成ったわけですね。

 

ホントどうなっている事やら・・・。今後も【百鬼夜行シリーズ】関連は講談社ノベルス講談社文庫で統一して出しますよ~で、良いということなのでしょうかね?ファンとしては【百鬼夜行シリーズ】は講談社からというイメージが強いし、愛着もあるのでそれならそれで良いのですが。う~ん、わからん・・・・(^_^;)。なんにせよ、作者の京極さんの好きなように書いて欲しいとは思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は『今昔百鬼拾遺』は既に3社横断刊行のときに文庫で購入・完読済みなのですが、本屋で講談社ノベルスのぶ厚い本を見たらばやはり嬉しくなってしまい、さらに本の最後にある注釈「※本書収録にあたり、大幅な加筆修正がなされております」という一文がダメ押しとなって購入してしまいました。

 

気になる加筆修正部分ですが、お話の内容が大きく変わるようなことや情報や展開の付け足しがある訳ではなく、京極ファンの間ではお馴染みの、文がページを跨がないように細かい書き直しや改行などがされているって感じなので、3社横断刊行の文庫を購入した人は態々買い直す必要は特にないかなと思います。

 

ですが、個人的にはやっぱり講談社ノベルスで京極さんの新刊が読めるのはテンションが上がりましたね。講談社ノベルスの段組とぶ厚さが「これぞ京極作品!」感があって良い。持ち運びが不便だろうが、重くて読んでいて手首を痛めようが、段組で文字数に圧倒されようが、そこが良いのさ!

 

 

 

帯に!

三冊がまとまった『今昔百鬼拾遺-月』はノベルス版の刊行の一月後に文庫版が刊行されました。私はノベルス版を購入したのですが、その本の帯には百鬼夜行シリーズの長編一覧の最後に未だ刊行されない長編『鵼の碑』の題名が並び、小さくカッコで“近日刊行予定”の文字が!

やっと刊行なのか!?近日?近日ってどれくらいのこと!?え?

って感じですが・・・どうなのでしょう?

 

あまりにも待たされ続けているせいで過度な期待は禁物だという考えが先に来てしまうのが正直なところですが、帯に態々こんな風に書くということは『鵼の碑』も講談社から出すよ!という宣言のようにも受け取れますね。講談社の「他の出版社には渡さないぜ!」という気合いが滲み出ているような気がしないでもない。

 

『今昔百鬼拾遺』の作中にて、どうやら栃木の方で起こる事件である『鵼の碑』の次に、“東北の方の事件”というさらなる長編を匂わしている描写がありますので、案外『鵼の碑』自体はすでに書き終わっているのではないかという気もしますね。ひょっとしたら数年前とかに。だったら、いつまでも発表されないのは“大人の事情”、及び出版社のゴタゴタのせいだったりして・・・(^^;)。

 

 

何はともあれ、近日刊行されることを夢見てまた日々を過していきたいと思います。

 

 

 

ではではまた~

『金田一37歳の事件簿』8巻 ネタバレ・感想 ポルターガイストで人が死ぬ!?恐怖の館事件

こんばんは、紫栞です。

今回は金田一37歳の事件簿』8巻をご紹介。

 

金田一37歳の事件簿(8) (イブニングコミックス)

今回もオマケ付きの特別版などはなく、通常版のみの刊行。なんか、丸顔に見える絵ですね…。 

 

8巻は前巻から引き続き「騒霊館殺人事件」が収録されています。犯人を指摘する一歩手前までですね。やっぱりというかなんというか、やはりこの巻だけでは終わらずにまた跨ぐことに。

 

 

「騒霊館殺人事件」あらすじ

「壮麗館」というバブル期にスコットランドから移築されたものの廃墟となっていた洋館を再利用するリゾート計画。大手・電報堂の下請けとしてモニター企画の手伝いをすることになった音羽ブラックPR社の金田一一とその部下・葉山まりん。 

壮麗館はポルターガイスト現象が発生するという噂があり、“騒霊館”とも呼ばれていた。その噂の通り、一行が館に着くなり物が勝手に動くなどの怪奇現象が起こり、ついには

抽選で選ばれた9名の参加者の一人がひとりでに飛んできた毒薬に刺されて死亡してしまう。

警察を呼ぼうと橋を渡ろうとした金田一たちだが、渡っている途中にひとりでに火がついて橋は燃え落ちてしまった。

その後も不可解な状態で死人が次々と。はたして、これは“騒霊”の仕業なのか、それとも――。

 

 

 

前巻は玲香ちゃんが登場したり“空白の20年”について少し触れられたりで色々大注目でしたが、

 

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今回はシンプルに通常(?)事件のことについてのみです。少年時代からのゲストもいませんしね。

 

やはりお約束で吊り橋が落ちてクローズド・サークルな「騒霊館殺人事件」。この漫画シリーズは「怪人名」が出てくるのがオキマリですが、今回は“騒霊(ポルターガイスト)”という超常現象の仕業だと見せかけての連続殺人事件で割と珍しいことかもしれない。

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は金田一たちが下請けとして請け負っているということで大手・電報堂から色々と理不尽な目にあうという描写が。こういう社会人ネタは37歳の事件簿ならではですね。後輩が泣き出すのも。

白鳥さんが凄いヤな感じの人に描かれている。事件が加速してからは嫌みを言う余裕もなくしてますけど。しかし、女性もいるのだし泊まりの仕事ならシャワーぐらいは貸して欲しいもんだ。ポルターガイスト現象だとか騒がれないために佐熊さんに色仕掛けして一時黙らせたものの、さほど効果を発揮していないのには少し笑ってしまった。

社会人金田一お客様の安心と安全のため謎を解かせて頂きます!と、宣言。数々の事件を経て事件への取り組み方が強気になってきている気がしますね。

 

 

 

立て続けにバタバタと三人が死亡。ポルターガイスト現象の仕業と見せかけるため、皆何らかの“物”が刺さるなどして亡くなっている。

謎の提示は大きく三つ。

●複数人が見ている眼前で、キャビネットに飾ってあった矢の一本がひとりでに飛んで被害者に刺さった謎。

●扉を開ける直前まで物音がしていた部屋の中で被害者が死んでいた謎。

●内側から板を釘で打ちつけられた密室の中で被害者が死んでいた謎。

 

今巻では矢がひとりでに飛んできた第1の謎が解き明かされて容疑者が四人に絞られたところまで収録されています。

 

大きな謎の他に、蝋燭にひとりでに火が付いたり、グラスがひとりでに割れたり、吊り橋がひとりでに燃え落ちたりといったポルターガイスト現象に見せかけるための細々した仕掛けがありますが、いずれも手品的仕掛けでマジック好きの金田一は難無く解いています。

リチウムだと水で火が付くというのは近年のミステリドラマなどでもよく見るトリックですね。

橋の真ん中よりやや向こう側の所に水の入った倒れやすい器を置き、そのまわりにリチウムのカケラをバラまいて人が渡ったときの揺れで発火させた。と、金田一は説明していますが、揺れやすい橋なのだし、犯人が器を設置するときが割と命がけなのではという気がする・・・(^_^;)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1の謎の“ひとりでに飛んできた矢”ですが、本格推理界の万能道具・テグスを使ったという「なんだ、やっぱりそういうヤツですか・・・」という解答でした。

 

この“ひとりでに飛んできた矢”ですが、キャビネットや扉との位置関係が掴みにくく描かれているので見取り図を表示してくれって感じでしたね。このトリックから犯人は部屋の外にいた四人に絞られる!ってなる訳なのですが、部屋や廊下の位置関係も画からは認識しづらいので読者にはこの時点での犯人指摘がしにくい。この時点では解らせないためにぼかして描いているのでしょうが、ちょっとアンフェアな気はしますね。

 

絞られた四人の容疑者は、事件直後に廊下から現われた白鳥麗桜、隣のリビングにいた鹿野美雨、先に自室に戻っていた花塚衣舞、厨房の方から現われた黒原太

 

鹿野は一人ではなく、二番目の被害者となった久門朝香と一緒に現われたので犯人とは考えにくい。ターゲット全員をモニター企画に参加させる必要がある点などから考えると電報堂の白鳥と黒原が怪しいかな~と(スコットランド出身のハーフで部長の栗原チャールズ達郎たる人物も何やら怪しいですがね)。第二の事件では被害者の部屋に鍵が掛かっていたけど、この二人ならマスターキーも普通に使えるし。

 

 

第二の「扉を開ける直前まで物音がしていた部屋の中で被害者が死んでいた謎」は金田一困難の分割と言っているので、割れた食器などは事前にセットして音を直前に鳴らしたということなのだと思う。

 

第三の「内側から板を釘で打ちつけられた密室の中で被害者が死んでいた謎」は金田一が遺体を見て「そういうことか・・・!」と言っていますが、どういうことか解らない・・・。その後の金田一が“何か”に気付いた様子もどういうことか・・・。携帯がつながらないはずなのに美雪から携帯にメッセージが届いたこと・・・かな?う~ん。

 

事の発端は数年前の大学での肝試しで起こった事件のようですが、犯人とは別に霊の声らしきものが作中に挿入されているのと、次巻予告から推察するに、どうも館のどこかに死体(おそらく女性)があるのではないかと。(学園七不思議思い出しますね・・・)

白鳥さんがエドガー・アラン・ポーの『黒猫』の本を持っているのが暗示的。

 

黒猫

黒猫

 

 

 

 

次巻!ついに彼女が…!?

巻末の予告によると、次の9巻は2021年3月刊行とのこと。

そして、この予告ページには「はじめちゃん」と発言する女性の後ろ姿と「そして!!とうとう“彼女”が金田一のもとへ――!」という煽り文句が。

 

美雪、やっとこさ登場でしょうか!?

 

連絡ツールで金田一とやり取りをしている描写のみで姿も声も登場せずだったので色々な穏やかでない憶測がファンの間では飛び交っていましたが、この予告ページの雰囲気だと読者の憶測を一笑するようなサクッとした登場の仕方しそうですけど…どうなのでしょう?玲香ちゃん登場の予告のときとだいぶ差がある…。 

 

「騒霊館殺人事件」の真相解明と美雪登場か否か。楽しみに待ちたいと思います!

 

※9巻出ました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

 

 

 

『朱色の研究』あらすじ・ネタバレ感想 作家アリスシリーズ初期の代表作!

こんばんは、紫栞です。

今回は有栖川有栖さんの『朱色の研究』をご紹介。

 

朱色の研究 「火村英生」シリーズ (角川文庫)

あらすじ

「二年前の夏のことです。・・・・・・私の知っている人が殺されたんです。犯人は、まだ捕まっていません」

夕焼けで一面朱色に染まった大学の研究室で、火村英生はゼミの生徒・貴島朱美から、ある未解決殺人事件の調査を依頼される。

その未解決事件の関係者の一人は『オランジェ夕陽丘』というマンションに住んでおり、このマンションは友人・有栖川有栖の自宅マンションのすぐ近所だった。調査で近くまできがてら友人宅を訪れそのまま泊まった火村だったが、翌日の早朝に有栖川宅に「今すぐにオランジェ夕陽丘の806号室に二人で行け」と電話がかかってくる。

怪しみながらも言われた通りにオランジェ夕陽丘の806号室に向かった二人がそこで見たものは、ある男性の他殺死体だった。

これは犯人から火村への挑戦なのか――?

臨床犯罪学者・火村英生と推理作家・有栖川有栖が過去と現在、二つの殺人事件の謎に挑む。 

 

 

 

 

 

 

 

 

賛否が分かれる作品

『朱色の研究』は【作家アリスシリーズ(火村英生シリーズ)】の初期の長編小説。  

 

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タイトルの『朱色の研究』はシャーロック・ホームズシリーズの長編小説『緋色の研究』のモジリになっています。

 

 (翻訳によっては『緋色の習作』となっている本もありますが…)

 

シリーズの代表作的な扱いをわりと(?)されていて、漫画版では唯一長編でやりましたし、ドラマ版でも初回から伏線が張られて重要な事件としてつかわれていました。(ドラマの事件自体の出来は最悪でしたけどね…)

 

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ですがこの作品、推理小説としては結構特殊なものとなっていて、賛否が分かれる代物になっています。

よく、有栖川ミステリは犯行動機が難解だと言われたりするのですが、『朱色の研究』はその筆頭として名前があがる作品。作中の犯人がしている行動も、その一筋縄ではいかない動機を踏まえないと理解出来ないものになっているので、人によっては解決編を読んでも納得することが難しかったりするかと。

しかしながら、それらも全部ひっくるめて有栖川ミステリらしさが炸裂している長編小説で、主要人物の過去・情景・謎解明に至るロジックまでも“朱色”でまとめあげられた、非常に完成された作品だと感じることが出来ます。だからこそシリーズの代表作として出されるのだろうと思いますし、個人的に私もシリーズの中で特に好きな作品です。

 

火村先生の悩める悪夢の具体的な内容も明かされるとあって、【作家アリスシリーズ】をしっかりと楽しみたいなら絶対に読まなければならない必読の長編ですね。

 

 

 

 

 

二つの事件 

長編ですが、この作品は前半と後半でお話が綺麗に区切れるようになっています。漫画版は上・下巻で二冊、ドラマも二週に分けての放送で、どちらも同じところで分けられていました。

 

 

前半は夕陽丘にある幽霊マンションでの殺人事件に使われた、如何にも推理小説的なエレベーターを使ったトリックの解明を、後半は二年前に起きた宗像家の別荘で起きた殺人事件を調べるべく和歌山に向かい、犯人を特定して解決。

幽霊マンションである種都会的なミステリを、和歌山で旅情ミステリをと、前・後で趣がガラッと異なるのが特徴的で面白いところ。

 

アリスのマンションに犯人から電話がかかってくる。

二人で言われた通りのマンションの部屋へ行ってみるとそこには死体が。

警察の捜査が始まってすぐ、謎の人物に脅迫されて死亡推定時刻にずっと現場にいたという不可解な証言をする男・六人部があらわれる。

現場にいたと主張する一方で、死体など見ていないし事件のことも知らないと言い張る六人部。あまりにも不可解な状況。

彼は嵌められたのか?そして、これは犯人から火村への挑戦なのか――?

な、始まりたかたはワクワクするし、大阪県警のお馴染みの面々を交えての謎解きは、いつものこのシリーズの短編の醍醐味を味わえる通常運転の愉しさ。 

 

六人部を嵌めたトリックを解き明かした後、日を改めて和歌山に向かってからは二時間ドラマ的な旅情ミステリちっくで、和歌山の名所を(何故か)二人でワチャワチャしながら巡っています。これはシリーズの長編での通常運転ですね。

 

「警察署とか目撃者に話し訊きにいくぞ~」と宗像家に車を提供してもらって二人で巡る訳ですが、時間が空いたといって和歌山の観光地にも立ち寄る。調査しますと言って人様の車借りてるのだぞ?と、言いたくなりますが・・・。和歌山で有名な観光地!なので恋人岬にも行っちゃう。

来ちゃったぞ、この人達は。と、読者的には思ってしまうのですが、男二人で場違いなのも気にせず、火村とアリスの二人は「観光地における撮影スポットについて」の議論を交わしていたりする。アリスが原稿用紙一枚分講釈をたれて火村を呆れさせているのが可笑しい(状況も色々可笑しいですが)。

 

このように、事件には関係ないのに観光地を巡るのは【作家アリスシリーズ】の長編では多々あることです。二人のやり取りが面白いので別に良いしドンドンやってくれなのですが、「お話には余計なのに何故?」というのは読んでいると少なからずある。「取材したから書きたいのね」と、いつも勝手にホンノリ可笑しく思って読んでいる・・・(^_^;)。

 

【作家アリスシリーズ】の短編と長編の通常運転の面白さを一緒に味わえる作品。・・・ですが、このような通常運転とは外れた、思わぬ展開と真相が最後に待ち受けて読者の意表を突くのが今作『朱色の研究』です。 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンパシー 

調査の依頼人である貴島朱美は両親や叔父が亡くなったときの過去の経験からオレンジ色恐怖症になってしまった人物。 

トラウマで苦しみつつもそれに立ち向かうために事件調査を依頼してきた朱美に、自身も同じようにトラウマを抱えている火村は少しでも力になれるならと無償での事件調査を引き受ける。

この時点で朱美にシンパシーを抱いている火村ですが、宗像家の別荘で夜中にアリスと宅飲みをしていた最中(自分たちで買い込んできたお酒とお菓子でやってるんですよね、これ。人の別荘でなにしてんだ…)、朱美ちゃんが悪夢をみて悲鳴をあげて飛び起きた場面に直面。これまた自分と同じ癖を持っているとますますシンパシーを抱いたのか、朱美ちゃんを元気付ける為に今までアリスにも明かさなかった自分が度々みる悪夢の具体的内容を語ります。「人を殺す夢」だと。 

 

朱美ちゃんを元気付けるための火村の何気ない告白でしたが、火村を苦しめている悪夢の内容は、アリスにとっては今まで訊くに訊けなかったタブーな話題だったので、思わぬ形で知ることとなり正に棚からぼたもちな出来事でした。

 

「あなたのおかげで私の積年の疑問も解決しました」と、朱美ちゃんにアリスは感謝の意を示していますが、その後の作品(菩提樹荘の殺人』『狩人の悪夢』など)

 

菩提樹荘の殺人 (文春文庫)

菩提樹荘の殺人 (文春文庫)

 

 

 

 

をみるに、火村が悪夢の内容を自分にではなく朱美ちゃんに対して告白したことをアリスは割りと根に持っていたようです。

「長い付き合いの自分にはずっと打ち明けてくれなかったのに…」という悔しいような複雑な心情があるのかもしれません。

朱美ちゃんが部屋に引っ込んだ後、アリスが改めて「お前は、夢の中で誰を殺すんだ?」と訊いたら、「そりゃ、殺したい奴さ。誰だっていいだろうが」と朱美ちゃんに対してとはうって変わってのけんもほろろな返答だったしね・・・(^_^;)。

とはいえ、これは本人が隠したがっている領域にむやみに立ち入るべきじゃないと変に気にして訊くのを憚っていたアリスにも落ち度はあるのですが。(火村は火村でアリスのそういうところに甘えているのかもしれないですがね・・・) 

 

気にかけつつも相手の領域にはズカズカ踏み込まず、静観して見守るというのはアリスの人間性の一つ。 

火村が朱美ちゃんにシンパシーを抱いている一方で、アリスは事件の容疑者の一人である六人部にシンパシーを抱きます。 

色々な目にあった朱美を心配し、恋心を抱きながらもその想いを告げることはせずに長年密かに見守り続けているという六人部にアリスは「彼と私は似ているのかもしれない」と思い、容疑者の一人であることは承知しながらも最初から好印象を持ち、同情的な態度をとる。

 

朱色に囚われている者(火村・朱美)と、朱色に囚われている者を“見ている”者(アリス・六人部)。両者が対比して描かれている訳ですね。

 

 

 

動機

『朱色の研究』は動機が最大の特徴となっている推理小説

「なぜ、犯人は大野夕雨子を殺したのか」

「なぜ、犯人は態々火村に遺体を発見させ、挑戦するような真似をしたのか」

これらの動機の解明がこの物語りの要で、ある意味トリックや犯人を推理することよりもよっぽど難解なものになっています。

 

幽霊マンションの事件で自らの信じがたい証言により筆頭容疑者となった六人部。疑ってくれと言わんばかりの行動と状況に、「犯人心理的に、態々真実味のない嘘をついて容疑者にならうとするのは考えにくい」と、火村は六人部の証言を信じ、エレベーターのトリックを解いて六人部が何者かな罠に嵌められたことを証明。

あらためて二年前の事件を調べるべく和歌山まで赴くのですが、殺害現場を検分し、当時証言者の話や事件当日の映像を観、最終的には日照時間を決め手としてロジックを展開、アリスと二人で話している最中に真犯人を導きだす。

 

なんと、火村が指摘した犯人は火村自身が最初に否定し疑いを晴らす手助けをした六人部だった。

 

読者の意見を代弁する語り手であり、六人部にスッカリとシンパシーを抱いて感情移入していたアリスは当然この見解に納得がいかず、六人部自身になったかのように火村に反論するのですが、言い合いをしている途中で六人部本人がその場に現われ、話が動機についてのことになると今度はアリスが六人部の犯行動機を解き明かして問い質すことに。

 

六人部が大野夕雨子を殺害したのは、大野夕雨子が彼に求愛してきたから。

 

上記したように、六人部は貴島朱美に憧れに似た恋心を抱いていました。想いを告げるかどうか長く逡巡した末、告げずにただ密かに想いを抱き続けることに「こんな純粋な恋はないだろう」と思うようになり、この片想いを自身の拠り所にしていました。

そんな六人部の前に現われ、求愛してきたのが大野夕雨子。口説いてくるからといっても袖にし続ければいいだけの話だろうところですが、困ったことに、大野夕雨子は大変魅力的な女性でした。

 

「彼女の誘惑に迷いそうになる自分がいて、それがあなたの内面で、貴島さんを想う気持ちと戦争を始めたということは?」

 

「――あなたが大野さんに感じた憎しみ。そんなものはない、と怒るかもしれませんが、でもそんな憎しみが、私には実感を持って理解できるんです。私は誘惑者の大野さんを憎むかもしれない、あなたも憎んだかもしれない」

 

まるで信仰を守るために煩悩を誘発するものを排除するといったような、どこか宗教的な思考ですね。

片想いこじらせすぎだろって感じだし、被害者からすれば口説いただけで殺されたんじゃたまったもんじゃないですけど。 

 

 

 

 

 

 

拳銃

大野夕雨子の殺害から二年経ち、今度は共犯者だった山内に半ば脅されるような形になってしまった六人部は、幽霊マンションの空室を利用して山内を殺害する計画をたてる。この計画、何故か六人部自身が進んで容疑者として疑われるように仕向けたもので、ご丁寧に火村とアリスを呼び出し、遺体を発見させ、ダメ押しに向かう途中の二人にわざと自分の姿を目撃させるという意味不明なものでした。

 

「いったん容疑をかぶっておいて、それを晴らして圏外に出てしまうという捨て身の作戦でしょう」

と、火村は言いますが、捨て身すぎる作戦であまりにリスキーであり、それだけの理由でこんな面倒なことはしない。

やはり、こんな変な計画を実行したのは火村への挑戦の意識があったからなのですが、それもまた単純な挑戦意識とは少し違う。  

 

いずれにせよその火村センセイとやらを試してやろうと考えはしたのだろう。自分の計画が火村の探偵としての能力を凌駕していたら大いに満足だし、彼に勝てなくければそれもいい。何故なら、火村がトリックを暴いて彼を救ってくれれば、事件の真相を見誤ったことであり、密かに勝利を確信できる。また、現実にそうなったごとく、火村が真の真相まで探り当てたとしたら、それもよしなのではないか?それは、火村は朱美が用意した探偵という名の装置だからだ。朱美が持ち込んだ装置が作動して、自分を撃つ。彼にすれば、それもまたよしだったのかもしれない。ウェルテルが、恋人の磨いてくれた拳銃で自殺できることに喜びを覚えたのと同じように。

私は火村の横顔を見る。彼にも判っていないかもしれない。

お前は、まるで六人部の拳銃だ。

 

「ウェルテル」というのは、『若きウェルテルの悩み』という“ウェルテル効果”という言葉の語源となっているので有名な文学作品の主人公の名前。

若きウェルテルの悩み (新潮文庫)

若きウェルテルの悩み (新潮文庫)

 

 

六人部は作中でこの本が愛読書だとアリスに語っていました。どうせ破滅するのなら、朱美の手によるもので…という、ほの暗い願望があったと。 

 

客観的にみるとリスキーすぎる犯行計画ですが、六人部にとってはどう転んでも喜びを得られる“旨み”だらけの計画だったということなのですね。

 

 

 

 

アリスの素質

「罠に嵌められたられた人間と、罠に嵌められたふりをしている人間とは、区別ができないんだ。まさか、あれだけ手の込んだ罠に嵌められたふりをするとはね」

 と火村はいうものの、前半の謎解きが丸々茶番で、犯人の思うままに行動してしまったというのは推理小説の探偵役としてどうなんだ?と本格推理小説ファンには疑問を感じずにはいられないかもしれないところではある。最終的には本当の真相に到達できたので良かったとはいえ・・・ね。

 

それに加え、今作では動機面や犯人の説得などはアリスが殆どやってのけているので尚更に火村の活躍を薄く感じる。

六人部の犯行動機や思考は火村には到達できないもの。アリスが到達できたのは、アリスが“朱色に囚われている人物”を見ている側の人間だからで、六人部の朱美への想いと同じく、アリスが火村に恋・・・を、している訳ではないが、ま、同じように「トラウマに苦しんでいる者の力になりたい。しかし、直接的な行動をするのは今の関係に変化を与えてしまいそうで恐く、結局ただ見守ることで満足している」という状況が正に自分が置いている状況と酷似していることと、物事を綺麗に二極化して考えがちで自分の中でのルールは絶対的に頑なな火村とは対照的に、アリスは複雑で微妙な心理の面をこそみようとするところがあるから。

 

作家だからというのもあるかも知れませんが、動機やトリック以外の心理を紐解くのはアリスのほうが火村より秀でていて、犯人の説得などはアリスが担うというのは近年の【作家アリスシリーズ】でよくみられるようになった傾向です。

 

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ただ探偵の活躍を語るワトソン役というだけではない、アリスのこの活躍の仕方は『朱色の研究』が大きな切っ掛けであり、「火村とアリスがどのようなコンビか」ということが改めて示されているシリーズで特に重要な長編です。

シリーズを経て“見守るだけ”だったアリスの心境も徐々に変化していくので、そこら辺も注目してシリーズを読んでいって欲しいと思います。

 

【作家アリスシリーズ】を楽しむには絶対に外せない長編ですので是非。

 

 

 

 

 

ではではまた~

『Another2001』ネタバレ解説!  ”あれ”から3年。最凶の〈災厄〉が訪れる!

こんばんは、紫栞です。

今回は綾辻行人さんの『Another2001』をご紹介。

 

Another 2001 Another (角川書店単行本)

 

あらすじ

1972年の“ある生徒の死”がきっかけとなり、関係者に死人が続出する〈災厄〉に見舞われるようになってしまった夜見山北中学三年三組。 

なかでも多くの犠牲者が出た1998年の〈災厄〉から3年経った2001年。3年前の夏に見崎鳴と出会った比良塚想は、親類の家に引き取られて夜見山市に転居し、夜見山北中学三年三組の一員となった。 

より強固に〈災厄〉を防ぐため、例年よりも特別な〈対策〉を講じる2001年のクラスメイトと教師たちだったが、ある出来事が引きがねとなり、夜見山北中学三年三組はまたしても〈災厄〉に見舞われる。

次々と理不尽な“死”によって犠牲となっていく関係者たち。万全を期した〈対策〉だったのに、いったい何故…。謎は深まり、クラスを更なる異常現象が襲う。

 

〈夜見山現象〉史上、最凶の年。 

 

後にそう語られることになる2001年の〈災厄〉に、想と鳴が立ち向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

大ボリュームのAnother続編!

『Another2001』はアニメや映画にもなった大人気ホラー・ミステリである【Anotherシリーズ】の三作目の長編。  

 

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シリーズ前二作同様、装画は遠田志帆さん。原稿用紙1200枚の大ボリュームと相まって、今回も大変インパクトのある美しい本になっています。

本の帯には“著者7年ぶりの長編新作”と、ある。思わず、「7年なにしてたん」と言いたくなってしまう感じですが(^_^;)、実は今作の執筆に5年の期間を要しているとのことで、それだけ著者の綾辻さん渾身の長編小説なんですね。 

  

私は京極夏彦ファンなので、これぐらいのレンガはどうということもないですが(かといって読むのが早いわけではない)、一般的には目の当たりにするとちょっとビックリする分厚さですかね。辞書レベル。そのぶんお値段もしますし。

 

 

 

 電子書籍もありますが、是非本屋さんで単行本の実物を見て欲しいです。

 

※文庫版も出ました

 

 

 

綾辻さんの文章は読みやすく、話も読者をグイグイと引っ張ってくれる展開をするのでさほど苦もなく読めてしまいます。私は4日ほどかけて完読しましたが、出来れば時間が許す限りずっとぶっ通しで読んでいたいと思う作品でした。

  

相変わらず人がバカバカ死ぬ物騒なお話であり、現実にも手首を痛める、重さで強打する、などの物理的危険も伴う、色々とスリリングな(?)単行本です。ちゃんとした姿勢で読めば別に危険はないのですけどもね…(^_^;)。

 

シリーズ第一作の『Another』で1998年に起こった〈災厄〉が見崎鳴と榊原恒一の二人を中心に描かれ、※【Anotherシリーズ】における特殊設定、〈災厄〉の詳細はこちらでご確認下さい↓

 

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二作目の『AnotherエピソードS』は1998年の夏、合宿での惨劇の前に比良塚家の別荘を訪れた鳴が遭遇した体験が回想の形で描かれる。スピンオフ的エピソード。

 

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三作目である今作『Another2001』は1998年の〈災厄〉から3年経った2001年の夜見山中学三年三組が舞台の物語り。

主役の語り手は『AnotherエピソードS』に登場した比良塚想で、高校三年生となった見崎鳴も主に想の相談役・〈災厄〉に立ち向かう相棒役として登場しています。一作目の語り手である榊原恒一も只今一時的に海外にいるという設定ですが、要所要所で電話という形で重要な示唆を想にしてくれます。ちなみに、鳴とは今でも定期的に連絡を取り合っているらしい。

長年〈夜見山現象〉を観察し続けてきた千曳さんも勿論登場しています。今作では前例のない〈現象〉が降りかかるので、法則性を頑なに信じていた千曳さんは「おかしい」「そんなはずはない」と狼狽するばかりでしたが。

 

他にも一作目『Another』に負けず劣らずの魅力的で特徴的な三年三組関係者たちが登場しています。その魅力的な人たちがいるのが逆に恐ろしいのですけどね・・・普通にしていてもAnotherだと死んじゃうからさ・・・

今回のお話でも様々なバリエーションの死に方が出て来ます。「そんなばかな!」なものばかりですが、Anotherだからしょうがない

 

 

一応前二作を読まなくても楽しめるようになっていますが、想の心情や1998年の〈夜見山現象〉の詳細、鳴と恒一との関係など、やはり一作目から順に読んでいった方がずっと面白く読めるようになっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

以下がっつりとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤沢泉美

クラスの中に過去に〈夜見山現象〉によって亡くなった〈死者〉が紛れ込むことによって〈災厄〉が始まってしまう夜見山北中学三年三組。

〈災厄〉はある年とない年があり、“ある年”だった場合は(始業式の日に、机と椅子のセットが一組たりないかどうかで分かる)〈死者〉が一人紛れているという“数の違い”を正すため、クラスメイトの中から〈いないもの〉を一人選出。教師と生徒一丸となって、一人の生徒を存在しない者として扱うことが〈対策〉であり、唯一の〈災厄〉開始を防ぐ方法だが、いったん〈災厄〉が始まってしまうとこの〈対策〉は用をなさないものとなり、もはや誰にも止められない――。

 

と、いうのが夜見山北中学で皆が承知していることなのですが、実は〈災厄〉が始まってしまった後も止める方法が一つ存在する。それが、〈死者〉を死に還すこと

 

1998年の〈災厄〉では榊原恒一と見﨑鳴が〈死者〉を突き止め、死に還したことで〈災厄〉を途中で終わらせることが出来た。

 

しかし、この〈死者〉を死に還すという〈対策〉は、〈夜見山現象〉による記憶・記録の改竄によって忘れさせられてしまう。今作でもこの〈対策〉を覚えているのは〈死者〉を死に還した当事者で、卒業後に夜見山を離れた榊原恒一のみです。

 

シリーズ一作目の『Another』は〈死者〉の正体がミステリとしての最大の仕掛けになっていました。

しかし、今作はというと、物語りの序盤から一作目の登場人物で〈災厄〉によって死んだ、アニメではやたらと存在感を放っていた(原作ではさほどの印象はない)赤沢泉美が想の従妹としてドーンと出て来てしまう。

 

これ、もう赤沢泉美が〈死者〉って読者にモロバレじゃん。って、いう。

 

〈死者〉を推理するのがこの物語りの一番の見せ場なんじゃないのか?どういうつもりだ?と、読者は困惑したまま〈死者〉が解っている状態で三分の二読まされ続けることとなり、残り三分の一を残したところで赤沢泉美を死に還すことに成功することで、「残りはどう展開させるのだ?」とますます困惑することに。

実際、毎月必ず死人がでることになるのが〈夜見山現象〉の決まりなのですが、赤沢泉美を死に還した後の月である八月には死者が一人も出ませんでした。この事実をもって今年の〈災厄〉は終わった!と、安心する三年三組関係者一同。

 

が、このまま終わらせてくれるはずもなく。

Another2001の最凶の〈災厄〉はここから始まるのであった・・・。

 

 

 

 

 

 

特別な〈対策〉

2001年の特別な〈対策〉。それは、〈災厄〉が“ある年”だった場合、〈いないもの〉を二人設けようというものでした。

これは始業式前の〈対策会議〉でクラスメイトの江藤留衣子が提案したもので、〈いないもの〉を二人設けておけば、何か不測の事態が発生して〈いないもの〉の一人が機能しなくなったとしても、もう一人いれば対応出来るだろうという。いわば補欠要員的な、もっと簡単にいえば「一人より二人の方がより〈災厄〉を防ぐことが出来るんじゃね?」というノリ(?)で決まったものでした。

効果があるかどうかは分からないが、例年よりもプラスアルファの〈対策〉をすることで少しでも安心感を高めようみたいな試みですね。

 

〈いないもの〉をすることになったのは比良塚想葉住結香

想は立候補して、葉住はくじ引きの結果〈いないもの〉に決まったのですが、実は葉住は前から想のことが気になっていて、「自分も〈いないもの〉になれば想くんとお近づきになれるかも!」という思いつきから態とくじ引きで当りを引いた浅はかな女子でした。ま、思春期だし〈災厄〉とか言われても普通は現実味ないだろうしね・・・。

 

想に〈いないもの〉どうしでも極力会話するのは避けたほうがいいと言われて目論見が外れ、皆に無視されるという〈いないもの〉が負う精神的苦痛にお花畑思考だった葉住は耐えられず、皆の前で〈いないもの〉を放棄してしまう。

 

葉住が放棄しても想が〈いないもの〉を続けている限りは大丈夫なはず。そのための〈いないもの〉二人対策だし!

・・・だったのだが、何故だか〈災厄〉は始まってしまう。

 

その後、鳴の“死の色がみえる眼”で〈死者〉が赤沢泉美であることが判明。赤沢泉美を死に還して「今度こそ大丈夫!八月は誰も死ななかったし!」

・・・なのだが、これまた何故か九月から爆発的に死人が相次ぐこととなり、最終的に病院を巻き込んでの大惨事に。2001年は〈夜見山現象〉史上、最凶の年となる。

 

 

何故こんなことになってしまったのか。

原因は、〈いないもの〉を二人設けるという今年の特別な対策のせいでした。

 

もともとクラスに紛れていた〈死者〉は一人だったところに、〈いないもの〉を二人設けたことで生じた不均衡を正そうと、“現象側”が新たな〈死者〉をもう一人発生させたのです。赤沢泉美を死に還した後も〈死者〉がまだ一人クラスに残っていたため、〈災厄〉は終わることなく暴走し続けた。良かれと思ってやったことが完全に裏目に出た結果でありました。

 

〈夜見山現象〉の対応力の高さには恐れ入りますが、そもそも、クラスに〈死者〉が紛れることで生じる“人数の違い”を正すための、「バランスを保つ」対策なのに、〈いないもの〉を二人にするのは普通に考えて駄目だろとは思いますよね。

〈いないもの〉対策の本来の意図が失われているじゃないかと。鳴や千曳さんも“二人対策”には否定的だったし。読者としては「そ~ら、いわんこっちゃない」って感じではある。

 

 

 

 

未咲

さて、ではその“もう一人”は誰なのかというと、1998年の〈災厄〉で最初に亡くなった犠牲者で見崎鳴の双子の妹である藤岡未咲。母親の再婚によって「牧瀬」と名字が変わり、鳴の三つ年下の妹としてクラスに紛れていました。

 

双子であるものの、鳴は赤ん坊の時に見崎家の養女になっていて何やかんやと人間関係が複雑なことになっている。その複雑な双子設定のおかげで1998年の〈災厄〉ではこの未咲の存在が混乱の原因になっていた訳ですが、今作でもこの未咲が1998年の時とは別の形で混乱を招いてくれちゃっているのでした。

 

病院に入院しているクラスメイト「牧瀬」が〈死者〉であり、鳴の双子の妹である「未咲」だということ。

「牧瀬」の正体が今作の最大の仕掛けであり、綾辻行人作品ではお馴染みの叙述トリックによって巧妙にぼかされています。

 

 

しかして、匂わせてくれているところが結構あるのと、鳴の実母が再婚によって“藤岡”ではなくなっているという事実が示されていること、病気で長期入院といいつつ具体的な病名などについては何も語られない怪しさなど、“この手の小説”を読み慣れている人は割と簡単に気付くのではないかと思います。

 

が、この謎がなんとなく解ってしまっていても、Anotherならではのスリリングな展開と伏線が綺麗に回収される解決編は安定の面白さで大満足することができます。解っていても面白いのですよね。「待った甲斐があったな」と思わせてくれる続編小説です。

 

 

 

 

 

次は完結編

この『Another』シリーズは次回作となる『Another2009』で完結させるつもりだと作者の綾辻さんは明言しています。

今作のタイトルにある“2001”というのが西暦を表していたことから、次作の完結編は2009年の〈夜見山現象〉が描かれることになりそうですね。今作から八年後・・・鳴も恒一も想も二十代になっていることでしょうが(ちゃんと生きていればね・・・)、どんなお話になるのか見当も付きませんね。Anotherなので死人が出ることは間違いなんだろうけど・・・。

 

今作での憎まれ役であるものの〈災厄〉で死ぬことはなかった葉住や、家族を救おうと思いつめて自殺未遂をしたがなんとか一命を取り留めることができた矢木沢(助かって本当に良かった)、想のカウンセリングを担当している精神科医の娘で予知能力を持っているらしき碓氷希羽は次作にも登場するかもしれません。

特に希羽ちゃんは絶対に登場するのではないかと。

千曳さんが今作で少し具合が悪そうな描写があったので不安・・・。

今作では八月に〈災厄〉が一時止まった理由が解らずじまいでモヤモヤポイントだったのですが、その謎は解明されるのか?完結編と謳うなら〈夜見山現象〉自体を完全になくすことに成功してほしいものですが・・・どうでしょう?

 

こんな風に期待に胸膨らむ完結編ですが、綾辻さんは心身ともに少しくたびれている状態であり、いまのところいつ次作にとりくむかはまったくの未定とのことです。

今作だって7年ぶりの長編ですし、館シリーズも次作が最終作になるはずですが何年も出ていませんしね・・・。

 

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気長に待つしかなさそうです。しかし、作者にあとがきで「体力が・・・」とか言われるとお元気なうちに書いてもらえるのかどうか不安になってくるなぁ・・・(^_^;)。

 

 

綾辻行人さんの御健康を祈りつつ、私自身も身体には気をつけて待ち続けたいと思います。

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

 

 

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『危険なビーナス』原作小説 ネタバレ・感想

こんばんは、紫栞です。

今回は東野圭吾さんの『危険なビーナス』を読みましたので感想を少し。

 

危険なビーナス (講談社文庫)

あらすじ

「始めまして、お義兄様っ」

四十代、独身、獣医である伯郎。ある日、彼のもとに弟・明人の妻だという女性・楓から電話がかかってきた。

楓の話によると、明人とはつい最近結婚したばかりなのだが、意味深な書き置きを残して失踪してしまったという。

伯郎の異父弟である明人は資産家・矢神家の跡取りであり、父親の康治が危篤状態に陥っていることで矢神家は今、遺産相続問題で揺れていた。楓は明人の失踪には矢神家の人間が関わっているのではないか考えているらしく、伯郎に調査の手助けを求めてきた。

失踪の原因は明人が相続するはずの莫大な遺産なのか?明人の安否は?

調査に協力するうち、伯郎は次第に楓に惹かれていくが――。

「最初にいったはずです。彼女には気をつけたほうがいいですよ、と」

 

 

 

 

 

 

“遺産”を巡るライトミステリ

『危険なビーナス』は2016年に刊行された東野圭吾さんの長編小説。

美人に弱い主人公・伯郎と、失踪した弟の妻である楓。この二人で明人の失踪原因を探っていくなかで矢神家の内情、人間関係、十六年前の伯郎の母の死、思わぬ遺産・・・と、様々な謎に直面していくといったミステリであり、ダメだと思いつつも弟の妻に惚れてしまう男の恋心が描かれるラブストーリー(?)でもあります。

 

事柄だけをみると重々しいストーリーなのかという気がするかもですが、東野圭吾作品としてはかなりライトな部類に入る内容になっていて、気楽に読める作品だという印象。文庫で500ページほどあり、人によっては手に取るのに躊躇するボリュームだと感じるでしょうが、読書経験がさほどなくとも難無く読めるお話になっています。

 

一方で、いつもの東野圭吾ミステリを望む人には物足りなさはあるだろうなとも思いますね。なんというか、出始めの作家さんが書いたかのようなストーリーと描写なので、読んでみると東野圭吾作品らしくない“意外さ”があります。

主役の伯郎や楓の人物設定から考えるに、そういった“お気楽さ”を目指して書いた作品なのではないかとは思いますが。

 

 

ドラマ

『危険なビーナス』は連続ドラマ化が決定しています。TBS日曜劇場で2020年10月11日放送開始。

 

キャスト

手島伯郎妻夫木聡

矢神楓吉高由里子

矢神明人染谷将太

矢神禎子斉藤由貴

蔭山元美中村アン

 

矢神康之介栗田芳宏

矢神康治栗原英雄

矢神波恵戸田恵子

矢神牧雄池内万作

矢神佐代麻生祐未

矢神勇磨ディーン・フジオカ

 

君津光結木滉星

永峰杏梨福田麻貴

 

支倉祥子安蘭けい

支倉隆司田口浩正

支倉百合華堀田真由

 

兼岩順子坂井真紀

兼岩憲三小日向文世

 

 

康治の専属看護師・永峰杏梨(福田麻貴)と矢神家使用人・君津光(結木滉星)はドラマオリジナルキャラクターですね。原作ですと矢神家は深刻な経営難に陥っているのですが、専属看護師と使用人を雇っているくらいですからドラマの矢神家は羽振りが良さそうです。遺産も三十億あるらしいし。

 

キャスト一覧でお分かりの通り、登場人物が多い。遺産相続問題でのアレコレが描かれる物語りなので一族の人間が殆どなのですが、名家らしく人間関係が複雑・・・。原作を読んでいるときも人物相関図を表記して欲しいなぁと思ったくらいでした。

伯郎と楓の他に原作で出番が多いのは、伯郎の勤める動物病院の看護師である蔭山元美(中村アン)と康之介の養子である矢神勇磨(ディーン・フジオカ)ですかね。原作を読んでいるぶんには、伯郎や楓よりこの二人の方が何だか好きだったのですが、ドラマだとどうなるのか・・・。

 

どのキャストも原作の内面イメージは比較的そのままだと感じますが、楓は原作ですとチリチリのカーリーヘアが特徴的な肉感的なスタイルの女性なので、容姿の印象は異なる。

あと、伯郎の実の父親で三十年以上前に亡くなった手島一清のキャストが書かれていませんね。原作では重要な人物なのですが・・・顔出し無しでいくのでしょうか。

 

 

このドラマが全何回なのかは分かりませんが、原作のお話はドラマ向きではあるものの、そのままやれば二時間で事足りるだろうという内容で、劇的な盛り上がりなども終盤の真相解明までは殆どない淡々としたものなので、原作に忠実に映像化しても連続ドラマとしてはハッキリ言って到底面白くなるとは思えない。つまらないだろう・・・と、いうのが、原作小説を読んでの私の率直な感想(^_^;)。

 

ドラマならではの工夫やオリジナル要素で、どのようにお話を連続ものとして毎週視聴者を惹きつけるものにするのか、原作を読んだ者としてはそこに期待したいですね。

 

 

 

 

 

 

 

以下、ガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遺産

明人の失踪には矢神家の遺産相続問題が絡んでいるのでは?と、矢神家に探りを入れる伯郎と楓ですが、調査をするなかで単にお金というだけではない“思わぬ遺産”の存在が浮上する。

それは、かつて伯郎の実父・一清が康治の治療を受けたことで偶発的に発症した後天性サヴァン症候群により描いたある図形が描かれた絵です。後天性サヴァン症候群だけでも天才脳を人的に作り出せるという大変な研究なのですが、一清が描いたその絵には『ウラムの螺旋』という素数螺旋の上をいく、完璧な素数の法則性をもった図形が描かれていました。これは人類にとって大変なことであり、「禁断の絵、人間なんぞが描いてはならん絵」・・・らしい。数学の知識が無いと説明されてもあまりピンとこず、「へ~」と言うしかない感じですが、とにかく大変な代物らしいです。

 

矢神家の遺産ではなく、明人の失踪も十六年前の母・禎子の亡くなった事件も、この一清が描いた絵を犯人が手に入れようとしたために起きたというのが真相だったんですね。

 

で、犯人は禎子の妹・順子の夫で元数学教授の兼岩憲三。これまた矢神家とは直接関係がない人物だったと。

 

なんか、こういったポジションの人物が犯人ですって真相、東野圭吾作品だと多いような気がしますね。

 

一清の絵に本当に憲三が思っていたような価値があったのかどうかは絵が燃えてしまったことで分からずじまいになっています。事が終わった後で、

 

「才能に恵まれず、大きな功績も残せなかった数学者が、一時の気の迷いで幻想を抱いた――そう考えるほうが現実的だと思わないか。どんなに精緻だといっても、絵なんて所詮二次元の情報に過ぎない。素数の謎が、そんなに簡単なものだとは到底思えない。人間が簡単に太刀打ちできるような代物ではないはずだ」

 

と、作中で言われていますが。

 

東野さんはよく作品に学者を出したり理数系の知識をテーマに使ったりしていますが、東野さん自身が素数に対して一種のロマンを抱いているのかなぁ~とか想像しちゃいますね。

 

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楓の正体

明人の妻だと言いつつ謎めいた点が多かった楓。実は、彼女の正体は警察官。

犯人の憲三は、矢神家の遺産相続で明人が一清の絵を相続してしまうのを阻止するべく、ネットで人を雇って明人を康治が死ぬまでの間拉致しておこうと計画しましたが、ネットの書き込みから拉致計画を知った警察は犯人を特定するため明人に協力を要請。警察のもとで失踪を装ってもらいつつ、矢神家を探るべく女性警察官に明人の妻として(実際に明人は独身)潜入捜査させた・・・と、『マスカレード・ホテル』ばりにおよそ現実にはありそうもない捜査方法なのですが、

 

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まぁそういうことらしいです。

 

「危険なビーナス」というタイトルで主人公の伯郎も楓に恋をするのですから、楓がこの物語りの肝になっているのは間違いなく、楓=潜入捜査官というのが犯人特定以上のメインの真相なのでしょうが、腕っ節が強い描写などから途中で何となく分かってしまうのと、捜査方法に現実味がないので真相を明かされても純粋な驚きというのはちょっと湧いてこない。

異例の潜入捜査というのは前提としてはいいですが、真相としてもってこられると安直に感じてしまいがちだなぁと。

 

そもそも、伯郎が真剣に恋しているようには見えないのですよね。

楓に惚れているというより、ただ胸のデカイ美人に弱いだけって感じ。伯郎は女性を見ると顔とスタイルから脳内で浅はかな品定めをするばかり。そのくせ、そんな自分のことは棚に上げて女たらしな勇磨に敵意剥き出しで批判しまくる。愚かで独りよがりな人物だという印象が強くって、とても伯郎の恋を応援しようという気にはなれません。

明人とは血が繋がっていて仲が悪い訳でもないのに、楓への恋心から死んでいるのを望んでしまうのとか、やっぱり酷いし。生きていた明人に対して申し訳ないと思ったり謝ったりしろよとイライラしてしまう。

 

個人的に、最後まで楓に魅力を感じられなかったのが一番残念です。「危険なビーナス」というタイトルで、主人公が罪悪感を抱きながらも惹かれてしまう相手というなら、もっと魅力的に描いて欲しかったですね。

主役二人に好感が持てないぶん、最後のオチも特別嬉しく思えないのが正直なところでした。

 

 

そんな訳で、総括すると「微妙だった」という感想に私はなってしまったのですが、ドラマでどのように化けるかを楽しみにしたいと思います。

 

 

危険なビーナス (講談社文庫)

危険なビーナス (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2019/08/09
  • メディア: ペーパーバック
 

 

 

ではではまた~

 

 

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『望み』映画の原作小説をネタバレ紹介! 息子は被害者か、加害者か?

こんばんは、紫栞です。

今回は雫井脩介さんの『望みをご紹介。 

 

望み (角川文庫)

あらすじ

石川家は建築デザイナーの一登と、在宅で校閲の仕事をしている貴代美夫妻に、高校一年生の息子・規士、中学三年生の娘・雅の四人家族。

とくに大きな問題もなく、平穏に暮らしていた一家だったが、9月のある週末、息子の規士が夜に家を出て行ったきり連絡がとれなくなってしまう。 

最初、友達と夜遊びをして長引いているだけだろうと思っていた一登場と貴代美だったが、丸一日過ぎても帰宅せず連絡もとれない状態に胸騒ぎを覚えていた矢先、道路に乗り上げた車から少年二人が逃げ出し、残された車の中から他殺体が発見される事件が近所で発生。 

発見された遺体は規士の友人だった。  

行方不明の少年は規士を含め三人。逃走した少年は二人。そして、首謀者とみられる少年は知人への電話に「二人殺した」と言ったらしい…。

果たして規士はもう一人の犯人か、被害者か。

父として息子の無実を望む一登と、母として生存を望む貴代美。夫婦は揺れ動き、反発する。それぞれの“望み”の行く先は――。    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

加害者か、被害者か

『望み』は2016年に刊行された雫井脩介さんの長編小説。

上記のあらすじの通り、自分たちの息子が「加害者か、被害者」という状況に立たされた夫妻の苦悩と葛藤の物語りで、一登の視点と貴代美の視点が交互に描かれる構成となっています。 

「家族が何らかの事件の加害者に、被害者になる」というのは、現実にどんな家庭でも起こり得ることであり、家族の一員ならば誰もが少しは想像したことがある地獄なのではないでしょうか。自らが預かり知らぬことで今までの生活が一変してしまう恐怖と、家族への愛情と社会的立場との板挟みの末に生じる残酷な「望み」。夫妻の目を通して容赦なく、執拗に描かれて、誰もが「考えさせられる」、痛烈な作品となっています。 

 

本の紹介文に“サスペンスミステリー”とあるのですが、この物語りは「息子が犯人として生きているか、被害者として死んでいるか」の最悪な二択で揺れ動く家族の様子をひたすら追うもので、ミステリーのような仕掛けやどんでん返しを期待して読むと肩透かしを受けると思いますね。

 

しかしながら、「どっちなの?」という事柄だけで読者にぐいぐい先まで読ませる筆力は流石。他の雫井脩介作品同様に、一気読み間違い無し!な物語りです。

 

 

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映画

『望み』は2020年10月9日に映画公開予定。監督は堤幸彦さん。堤幸彦監督はコンビもののドラマシリーズや小ネタをふんだんに取り入れたコミカルでマニアックな作品が有名ですが、近年では人魚の眠る家『十二人の死にたい子供たち』

 

人魚の眠る家

人魚の眠る家

  • メディア: Prime Video
 

 

 

十二人の死にたい子どもたち

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  • 発売日: 2019/07/24
  • メディア: Prime Video
 

 

などドシリアスな作品が多いですね。この『望み』も非常に重々しい原作ですので、映画もそうなることと思います。

 

キャスト

石川一登堤真一

石川貴代美石田ゆり子

石川規士岡田健史

石川雅清原果耶

寺沼俊嗣(刑事)-加藤雅也

織田扶美子(貴代美の母)-市毛良枝

内藤重彦(記者)-松田翔太

高山毅(建設会社社長)-竜雷太

 


『望み』特報予告

 

原作では息子の規士は16歳設定なのですが、映画ではもうちょっと上の設定になっていそうですね。・・・と、思ったのですが、公式サイトのストーリー紹介ですとやっぱり高校一年生となっていますね。この間のドラマで刑事さん役やっていたから驚くなぁ・・・(^_^;)。

 あと、この写真、映画『パラサイト』のポスターとちょっと似ていますね。

 

パラサイト 半地下の家族(字幕版)

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  • 発売日: 2020/05/29
  • メディア: Prime Video
 

 しかしまぁ、偶然でしょう。多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父親、母親

今作は息子の無実であることを望む父親の一登と、息子の生存を望む母親の貴代美との想いのすれ違いがお話の主になっています。

 

規士の友人は激しい暴行を受けて死亡していました。「少年同士でのリンチ殺人」という非道極まりない殺人事件と世間では見做され、一登はそんな凶悪事件に息子が加害者として関わっているとは考えられず、“被害者として巻き込まれた”という方が、自分が今まで見てきた規士の人となり的に納得が出来ると、「息子は無実で、被害者だ」という考えに至る。

 

「息子を信じている」と言えば聞こえは良いですが、一登がそう望むのは息子を信じるという純粋な想いからだけではありません。今後の自分の仕事・社会的立場などを考えると、規士が被害者では“困る”という想いがそこにはあります。

仕事仲間やお客、マスコミなどから批判的な態度を取られることで一登は「息子は被害者に違いないのに・・・」とますます望みを強硬なものにさせていき、ついには根拠もないのに皆の前で「息子は被害者だ!」と声高に主張するように。

このような描写があると、一登の「信じる」という言葉はひどく薄っぺらいものに感じられます。

 

こんな夫の態度と意見に反発するのが妻の貴代美。

夫の「規士は被害者だ」という主張は、貴代美にとっては「規士が死んでいた方が良い」と言っているのと同じであり、規士の生存をただただ望む貴代美としては受け入れられるものではなく、「親なのにそんな事を望むなんて・・・」と夫を非難する訳です。

で、貴代美はというと、生きていて欲しいという想いが強いあまり「息子は加害者」という望みを妄信するようになり、息子の無実を訴えてくる規士の友達まで感情的に非難したり、息子が逮捕された後の生活のことを考えて仕事にのめり込んだり、引っ越しのことを早々に考えたり、娘の雅の受験を諦めさせようとしたりと、だいぶ暴走して先走った行動をとるようになる。

 

「生きていて欲しい」というのは分かりますが、だからといって「息子は人殺し!絶対にそうなの!」というのは、それはそれで何か可笑しい。

 

男はこうだ、女はこうだという決めつけは個人的には好きではないですが、この二人の書き分けは社会的立場を重んじる男親と、無償の愛情を注ぐ女親を典型的に表しているように感じられます。

 

 

 

 

良い子、悪い子

作中、一登が

 「もし規士がやってるんだとしたら、あいつはもう、俺らの知っているあいつじゃないってことだぞ。俺はあいつがそんなことをする子だとは思っていないし、思おうとしても、とても思えない。それでもやってるとするなら、それは俺の知らない規士だとしか言いようがない。それをしでかしたのを境にして、ここを出ていったときのあいつとは別人になっているってことだ。それくらいのことなんだ。そんなもう、俺たちの知らない人間を、簡単にやり直せるとか更生させるとか言えるもんじゃないぞ」

 と、いう台詞を貴代美との言い争いのなかで吐く。

 

殺人はもっとも犯してはいけない大罪ですが、殺人事件の大半は衝動的な、もののはずみによるものです。人は案外簡単に死んでしまうし、簡単に人殺しになってしまう。

リンチ殺人は殺人行為のなかでも特に非道で残虐なものと世間でも受け取られるし、被害者家族はとても許せないでしょうが、集団の仲間内での暴力は軽はずみなことがきっかけで発生しやすいことではあるでしょう。思春期の少年たちというならなおさらです。 

貴代美も規士が加害者だと願うばかりに「あの子は実は悪い子なんだ」と無理に思い込もうとしたり、「もともと良い子じゃなかったらこんなに苦しまなかったのに」などと矛盾したことを考えたりするのですが、そもそも良い子だとか悪い子だとか、そういうことじゃない。

 

「規士は規士よ」の言葉通り、罪を犯した瞬間に人の中身が丸々変わる訳ではないし、急に恐ろしい、まったく知らない人になる訳じゃないはずです。 

良い子だとか悪い子だとか、結局その判断は何に基づくものなのか。親の期待にどれだけ応えているかということなら、それは単に自分にとって都合の良い子ということなのではないのか。 

 

私は独身で子持ちではありませんが、子供の立場としては「そんなことするような子じゃない。信じている」という言葉より、間違いを犯した自分でも、期待に応えられる良い子になれなくっても、見捨てずに寄り添ってくれる親を求めるだろうと思う。

 

 

この物語りの最後で判明するのは、規士は被害者で、一登や貴代美があれこれ言い合っていた時にはすでに死んでいたという事実でした。 

 

お金のことで揉めている最中、もう一人の被害者の子が護身用でナイフを取り出したため、相手の二人が恐慌状態に陥って暴行の末に殺してしまったという顛末で、規士には殆んど非がなく、友人を思いやって巻き込まれただけ。

規士の死体を前に、石川家の面々は自身の身勝手な望みを恥じて罪悪感にさいなまれ、「規士に救われた」といって物語りは終わるのですが、規士は聖人のようにひたすら良い子でしたという結末は読んでいて「なんだかなぁ」と思いました。

 

酷なことですが、被害者は被害者でバッシングを受けるもので、加害者じゃなかったからといって全部が全部すんなり解決!救われた!なんて簡単なことじゃないですよね。

規士ももう一人の被害者の子も、大金を巡るトラブルが起きた時点で然るべき大人に相談するべきだったろうし、親たちは子供に相談されなかった事実を悔やむべきなのではと思う。

 

このお話は、事件が発生してから四日間ほどの、事件の詳細が何も分かってない状態での親の右往左往が描かれているものなのですが、個人的には事件発生二三日で何も分かっていない状態なら、諸々の面倒事については思考停止して、ただ安否を心配して探し回ったりしてれば良いのではと。16歳の子がいけるところなんてたかが知れてるだろうし、被害者だとしても瀕死の状態で生きているかもしれないし。

 

少なくとも息子の無実を確信して被害者の子の葬儀に乱入して「あいつもこの子と同じ被害者なんだ!」と喚いたり、「息子は加害者だ。これから世を忍んで懺悔の日々をおくるための準備をしなくては」と意気込んで仕事に没頭するのは的外れに感じる。

 

もっと言うなら、「加害者だの被害者だの、そんな話は後にしろ!息子が見つかってからにしてよ!」ですかね。

読んでいて何度もそう言いたくなった。 

個人的に妹の雅には一番感情移入出来ましたかね。あれぐらいの戸惑いやヤケクソ感が一番自然だと思う。  

 

 

 

そんな色々と思うところも含めて、とにかく家族というものを考えさせられる作品です。気になった方は是非。

 

 

 

望み (角川文庫)

望み (角川文庫)

 

 

 

 

 

ではではまた~

『秘密season0』9巻〈悪戯〉感想 須田光の過去とは?

こんばんは、紫栞です。

今回は清水玲子さんの『秘密season0』9巻〈悪戯〉をご紹介。

 

秘密 season 0 9 (花とゆめコミックススペシャル)

 

前作から一年二ヶ月ぶりの新刊。8巻からスタートした「悪戯(ゲーム)」

 

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の続きと読み切り作品の〈目撃〉が収録されています。表紙絵はこれまた美しいですが、また誤解されそうな・・・サブタイトル“悪戯”だし・・・(^_^;)。耽美な見た目ですが、今作も中身は近未来警察ミステリですので悪しからず。

 

『秘密』のシリーズは年一刊行が通常なので待たされた期間の長さはいつもとさほど変わらないのですが、いつもはお話が一冊完結型なのに対して〈悪戯〉は続きもので細部を忘れてしまっていたので、前巻の読み返しをしてから挑みました。読んでいたらさらに5・6巻の〈増殖〉も気になり読み返した・・・。

 

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前巻ではカルト教団の本拠地であった保育園跡地から四人の子供の遺体が新たに発見され、事件への関係が疑われる須田光を監視対象として青木家で里子として迎え入れるところで終わっていました。

今巻では光君を迎え入れた青木家の様子と、薪さん・岡部さんらの「第九」での捜査が並行して描かれています。

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、がっつりとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光の過去

「悪戯(ゲーム)」編の2集である今巻は、前巻の段階では唯々得体の知れない「怪物」だった須田光少年の凄絶な過去が明らかになり、本人の内面なども描写されています。

 

大量殺戮を起したカルト教団の教祖の息子である須田光。やはりまともな環境で育っているはずもなく、今巻で明らかになるのは教団内での儀式の際、彼は無理やり薬物を摂取させられ、指示されるままに幼児を異様な遣り方で殺害し、その儀式の後には集団での淫行(このハーレムシーンですが、教団にこんな綺麗な女の人たちいたっけ?と疑問だった)に参加して実の父親である教祖の児玉に凌辱されていました。

 

世にもおぞましい儀式ですが、恐ろしいことにカルト教団では教祖を中心としてこのような行為がなされるのは珍しいことではなく、一種の定番なので光君がこのような目に遭っていただろうことは割と想像出来たなぁというのが正直なところ。

個人的にそれよりも驚いたのは、前巻で光君に殺されていた神父さんが性的暴行をしていたことですね。善良ぶってあの神父・・・!!

しかし、神父が子供相手にそのようなことをするというのも創作物では“オキマリ”ではある・・・。ホント、海外ドラマやミステリだとほぼほぼそうで、「神父出て来たらまず疑え」みたくなってる・・・。けども、この神父さんは違うだろうと思っていたのに・・・(-_-)

 

前巻で薪さんは「彼が一体なにをした・・・神父は君に親切にしただけだろう?なのに何故」と光君に訊いて「動機がないといけませんか?」と子供離れした論説でかわしていましたが、結局「動機」たりえることがあったということなのですね。

ま、青木のところに里子にいくためという方が理由としてはデカイのではないかという気はしますが。

光君が青木のことをゲイだと勘違いしていたのには笑ってしまった(^_^;)。確かに、薪さんとのあの距離感じゃあ誤解してもしょうがないとは思う…。

 

青木や舞ちゃんに対しての態度も、執着の仕方は空恐ろしいものの“愛に飢えている子供”という部分も垣間見ることが出来ますし、これらの事実が分かってみると前巻でのただ悪戯に害悪をもたらす「怪物」という印象からだいぶ変わってくる訳です。

やっぱりというかなんというか、やはり環境と周りの大人たちが彼に害ばかり与えたための結果なのだなぁと。

 

 

 

 

 

 

思い上がり 

心配する薪さんと里親として光君を迎え入れたい青木とで一悶着あったものの、光君に対して客観性を失っていたと気づかされた薪さんは、“監視対象という事でなら”と、青木家にカメラなどを設置することなどを条件に里子として迎え入れることを上司として容認したのが前巻でのラストでした。

里子として青木家にやってきた光は、青木の母や姪っ子の舞、クラスメイトにも優しく素直に、社交的に振る舞い、容姿のこともあってすぐに周りに受け入れられます。「赤ん坊からババアまでイチコロだな!」「あれくらいのあざとさ行ちゃんも見習うべきなんだよ」という舞ちゃんの台詞には青木同様に「舞ちゃん!?」と驚いてしまった・・・。

 

疑惑の渦中にある少年だと聞かされていたものの、このような様子と過酷な過去を知ってますます光君に「自分がこの子を信じて手を差し伸べなければ」という想いを強くする青木。

 

前巻で青木の意思を尊重した薪さんですが、MRI画像で幼児の目に棒を突っ込んでいる光の姿を目の当たりにして平静でいられる訳もなく、青木は青木で監視カメラオフにしやがるし、心配のあまり情緒不安定気味に(いつものことかもしれませんが)、そんな薪さんの横で心労が絶えない岡部さん(これもいつものことかもしれませんが)。

状況的に、やはり光を里子として一般家庭にいさせるのは危険すぎると判断し、薪さんと岡部さん二人で青木に須田光を引き渡すように言うのですが・・・善良さマックスな青木を前にまた一悶着(^_^;)。

 

「光のような特殊な環境下にいた子供は専門の知識をもつ医師のもとで治療し 洗脳・影響がとけるまで隔離して育てるべきだ」と、岡部さんがド正論をいって青木を説得するのですが、青木は「舞を傷つけない限り家族として家に迎え入れると約束した」「彼は約束を守ってくれている」「俺まで彼を裏切る――傷つける大人になりたくないんです」と、毎度お馴染みの涙を流しながら訴える。

 

で、薪さんはというと「お前の善良さには時々反吐が出る」「なんで「愚者」でさえ「子供」でさえ経験に学ぶというのにこの男は学ばないんだろう」と先ずは静かに罵倒。 

「舞の死体まで転がさないとその目はさめないのか」と激昂して、「不満なら今ここで「第九」を辞めろ」「辞めて僕の目の前から消えろ」とまで言ってしまう。後になって「あいつ馬鹿だから本当に辞めるかもしれない」と後悔していましたが・・・(^_^;)。

 

 

大人たちがこのようなやり取りをしている最中、舞ちゃんが元教団にいた男児淳一に襲われる事件が発生。友人を殺されたことで光を恨んでおり、一緒に行動している舞に危害を加えようとしたのですね。

あの教団に居て、洗脳下にあって、友人の死を悼むような子供がいたのには驚きですが。駆け付けた光は頭に血が上って淳一に過剰な暴行をしてしまう。舞ちゃんが止めたので死にはしなかったですが、「殺し損ねてごめんなさい。次こそは仕留める」と当然のように口にする光を目の当たりにした青木は「思い上がっていた。自分ではとても力不足だ」と痛感して里親は諦めることに。

 

 

 個人的に、今回の里子云々話は青木のエゴがすぎると思う。 

あそこまでの異常な環境で育った光には専門医の治療を受けさせるべきで、素人が軽はずみにでしゃばるのはナンセンス。光に様々な犯罪的疑惑があるのは事実で、何かあった際には自分だけでなく周りも危険にさらされることになるのだから、青木一人の想いだけで光を家に迎え入れるのはあまりに勝手なことでしょう。

 

青木は「舞を傷つけないこと。それだけです」と条件をだして約束させる訳ですが、“それだけ”ではたりない。約束させるなら「誰にも危害をくわえないこと」とするべきだったろうし、いずれにせよ青木一人の自己犠牲でどうなることではないはずです。 

「ほんの少しの事で彼は変わるかもしれない」「どんな人間にも可能性はある筈です」とはご立派で善良な意見なのでしょうが、“救ってあげよう”なんて独りよがりの思い上がり。傲慢で浅はかな考え。私が青木の母親の立場で光の詳細を知らされたなら「あんたのエゴに孫を巻き込むな」と言うでしょう。

 

挙げ句、悪戯に光に希望をもたせて家から放り出す結果になる訳で。これはもう最悪ですよ。半端なことをするのがね、一番罪深いですから。

   

しかし、あのカウンセラーの先生はどういうつもりなのでしょう?淳一が光に暴行されているのを見て、スマホのカメラをまわしつつも止めようとしませんでした。口をおさえて怖がっているだけ。大人でしょ?止めなさいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次のゲームは?  

そんなこんなで須田光は青木家を去ることとなるのですが、今度は暴行を受けた淳一が病院から連れ去られ、どこかの汚ないトイレに閉じ込められている描写が。

前巻で舞ちゃんらしき少女が同じような目に遭わされている場面が“先に起こること”というようにちらほら作中に挿入されていましたが、どういうことなのでしょう。

また、この〈悪戯〉編は薪さんが青木・舞・ミドリが写っている写真を握りしめて泣き崩れているところから始まっているし…。

 

今巻は事件の物語りとしては大きな展開はあまりなく、起承転結の“承”のところとでもいう様相でした。しかし、事は確実に何らかの悲劇に向かって進んでいる不穏感がひしひしと。 

続きが気になるところですが、コミックで読めるのはまた一年後か…。と、いうか、この〈悪戯〉編、あと何冊続けるつもりなんだろう…。

 

 

 

 

 

〈目撃〉

本編の続きが大変気になるところで、読者の期待を裏切るように待ち受けているのが読み切り編の〈目撃〉です。 

思わず「ちょっとぉ!読み切りより本編の続き読ませてよ!」となってしまいましたが、この読み切りは読み切りで確り面白いです。

強盗をした男が、記憶喪失になった目撃者の女を見張るために近付くが――てなストーリー。

世にも奇妙な物語ちっくな話ですね。女をあまく見ると痛い目にあう。

 

「第九」とはまったく関係ない話なのかと思いきや、後半で登場します。独立した話ぽいですが、前シリーズの時は関係なさそうな読み切りにも実は伏線がはられていたので、

 

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ひょっとしたら後々関係してくる…かも……?

 

 

 

色々気になりますが、一年後のお楽しみとして気長に待とうと思います。  

 

 ※10巻出ました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~